説明

浮上防止マンホール

【課題】 本発明は、本来のマンホールを構成する調整リングを浮上防止用部材とすることで部品点数を増やすことなく、組み立て施工作業も容易な浮上防止マンホールを提供することを可能にすることを目的としている。
【解決手段】 直壁管4,5の上部に斜壁管6、調整リング7、蓋受枠10及び開閉蓋11を順に積層して構成した浮上防止マンホール1において、調整リング7は、直壁管4,5の外径よりも大きな外径を有して形成され、斜壁管6上に載置される平板部7aと、該平板部7aの外周縁に設けられ、該平板部7aの厚さよりも大きな厚さを有する錘部7bとを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直壁管の上部に斜壁管、調整リング、蓋受枠及び開閉蓋を順に積層して構成したマンホールにおいて、地震時等に発生する液状化現象によりマンホールの浮き上がりを防止する浮上防止マンホールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災や2011年3月11日に発生した東日本大震災等では、液状化により管路が蛇行するなどの被害を受け、特にマンホールが多数浮上したことが報告された。マンホールの浮上は、下水道管路としての機能を損なうばかりでなく、路面に突出したマンホールは道路交通に支障をきたし、特に緊急車両の通行の妨げになる。そのため、地震時の液状化現象によりマンホールが浮き上がらない地震対策が急務となっている。
【0003】
例えば、特開2011−1742号公報(特許文献1)には直壁管の外周部に円形状の浮上防止環状体を取り付けたものが提案されている。また、特許第4585366号公報(特許文献2)には斜壁管と調整リングとの間に円形状の鉄板からなるリング状浮上防止板を設けたもの及び浮上防止調整リングが提案されている。また、特開2010−24751号公報(特許文献3)には斜壁管に取り付けられた緊結具を介して直壁管の外周部に全体が略方形状となるマンホール浮上防止プレートを取り付けたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−1742号公報
【特許文献2】特許第4585366号公報
【特許文献3】特開2010−24751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の特許文献1、3の技術では、本来のマンホールを構成する部品とは別に浮上防止用の部材を用意しなければならず、マンホールの直壁管や斜壁管に浮上防止用の部材を固定するためのインサートアンカーを埋設したり、専用の緊結具を用意する必要があったため部品点数が増大してコストアップとなり、組み立て施工作業に時間がかかるという問題があった。また、特許文献2の技術では、浮上防止調整リングの広い面積が必要になり、実用性について課題があった。
【0006】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、本来のマンホールを構成する調整リングを浮上防止用部材とすることで部品点数を増やすことなく、組み立て施工作業も容易な浮上防止マンホールを提供せんとするものである。また、広い面積が必要であった浮上防止調整リングの面積を狭くし、実用性のあるものを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するための本発明に係る浮上防止マンホールの第1の構成は、直壁管の上部に斜壁管、調整リング、蓋受枠及び開閉蓋を順に積層して構成した浮上防止マンホールにおいて、前記調整リングは、前記直壁管の外径よりも大きな外径を有して形成され、前記斜壁管上に載置される平板部と、前記平板部の外周縁に設けられ、該平板部の厚さよりも大きな厚さを有する錘部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る浮上防止マンホールの第2の構成は、前記第1の構成において、前記錘部が前記平板部から下方に垂下されて前記調整リングが断面門型形状で構成され、前記錘部の内周面と、前記平板部の下面と、前記斜壁管の外周面との間に前記調整リングの下方から上昇する過剰間隙水圧を逸散する逸散室を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る浮上防止マンホールの第1の構成によれば、本来のマンホールを構成する調整リングを浮上防止用部材とすることで部品点数を増やすことなく、組み立て施工作業も本来のマンホールの組み立てと同様な作業で容易に出来る。また、平板部の外周縁に該平板部の厚さよりも大きな厚さを有する錘部を設けたことで、平板部により調整リング本来の機能を果たしつつ、錘部により浮き上がり防止のための重量を確保することが出来る。また、調整リングの外形を方形状で構成した場合には、マンホールが幅の狭い道路に設置されたり、路肩に近接した位置に設置される場合であっても道路の方向に沿って延長した長方形とすることが出来、設置位置の許容度が高まる。
【0010】
また、本発明に係る浮上防止マンホールの第2の構成によれば、調整リングが断面門型形状で構成され、錘部の内周面と、平板部の下面と、斜壁管の外周面との間に調整リングの下方から上昇する過剰間隙水圧を逸散する逸散室を設けたことで、調整リングの下方から上昇する過剰間隙水圧を逸散室を介して逸散することが出来、これにより水圧の上昇圧を低下させてマンホールに作用する浮揚力を低減し、マンホールの浮上抑制効果を高めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(a)は本発明に係る浮上防止マンホールの構成を示す断面説明図、(b)は(a)のB−B矢視断面図である。
【図2】調整リングの固定構造を説明する部分断面説明図である。
【図3】(a)は調整リングの構成を示す平面図、(b)は(a)のC−C矢視断面図、(c)は調整リングの構成を示す裏面図である。
【図4】(a)は調整リングの錘部の内周面と、平板部の下面と、斜壁管の外周面との間に形成される逸散室により調整リングの下方から上昇する過剰間隙水圧を逸散する様子を説明する模式図、(b)は調整リングの錘部の内周面と、平板部の下面と、斜壁管の外周面との間に形成される逸散室内の水圧が土中の間隙水圧よりも小さくなる原理を説明するイメージ図、(c)は地盤内の土のモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図により本発明に係る浮上防止マンホールの一実施形態を具体的に説明する。
【0013】
図1及び図2において、1は地盤2内に埋設されるコンクリート製筒状管からなるマンホール1であり、底版3の上部に順次、直壁管4,5が積層され、更に直壁管5の上部に斜壁管6、調整リング7が順次積層される。調整リング7の補強用鋼板15の上部には、図2に示すように、高さや傾斜角度に応じて適宜枚数が選択される調整ワッシャ8が蓋ボルト18aに挿通して積層され、該調整ワッシャ8の外周部にはモルタルやグラウト層9が設けられる。調整ワッシャ8の上部には蓋受枠10が積層され、該蓋受枠10の上部には開閉蓋11が積層される。直壁管4には排水管12が接続されている。
【0014】
本実施形態の調整リング7は、直壁管4,5の外径よりも大きな外径を有し、図1(b)及び図3(a),(c)に示すように、外形が方形状に形成される。尚、調整リング7の外形は方形状以外にも外形が円形状や他の種々の形状であっても良い。調整リング7は斜壁管6上に載置される平面円形状の平板部7aと、該平板部7aの外周縁に設けられ、該平板部7aの厚さよりも大きな厚さを有する外形が平面方形状の錘部7bとを有する。調整リング7は平板部7aの厚さによりマンホール1の高さ及び角度を調整すると共に、該平板部7aの外周縁に設けられ、直壁管4,5の外径よりも大きな外径を有する錘部7bによりマンホール1の浮上防止機能を兼ね備える。
【0015】
調整リング7の平板部7aの上面には方形状の補強用鋼板15が接合されている。補強用鋼板15は調整リング7のコンクリート本体が完成した後にエポキシ樹脂等の接着剤により接着するか、或いは図示しないボルト接合等によりコンクリート本体と一体化される。尚、調整リング7のコンクリート本体に補強用鋼板15を接合しないで該調整リング7をコンクリート成型品のみで構成することでも良い。
【0016】
調整リング7の平板部7a及び補強用鋼板15、蓋受枠10にはそれぞれ貫通孔16が設けられており、図2に示すように、斜壁管6の上縁に埋設されたインサートアンカー17、リングボルト18、ナット19によって斜壁管6、調整リング7、調整ワッシャ8及び蓋受枠10を一体的に相互に連結する。リングボルト18はインサートアンカー17側の雄ネジ部が該インサートアンカー17の雌ネジ部に螺合締結され、該リングボルト18の蓋受枠10側に連結された蓋ボルト18aの雄ネジ部にナット19が螺合締結される。
【0017】
地盤2の地表面で調整リング7の上面には舗装層13が設けられており調整リング7の上面に対して舗装層13による反力が働くことによりマンホール1の浮上が防止される。
【0018】
調整リング7の錘部7bは平板部7aから下方に垂下されて調整リング7全体が図1(a)、図2、図3(b)及び図4(a)に示すように、断面門型形状で構成され、錘部7bの内周面7b1と、平板部7aの下面7a1と、斜壁管6の外周面6aとの間に調整リング7の下方から上昇する過剰間隙水圧Pを逸散する空洞の空間となる逸散室14が形成される。
【0019】
既設マンホールに設置した既設の調整リングを取り外して本実施形態の調整リング7に取り替える場合には、調整リング7の錘部7bの下面7b2の高さ位置まで地盤2を掘削した後、ナット19を外して蓋受枠10、モルタルやグラウト層9、調整ワッシャ8及び既設の調整リングを撤去し、斜壁管6上に本実施形態の調整リング7を載置する。このとき、錘部7bの内周面7b1と、平板部7aの下面7a1と、斜壁管6の外周面6aと、掘削した地盤2の表面との間に空洞の空間となる逸散室14が形成される。更に、調整リング7上に調整ワッシャ8、モルタルやグラウト層9を介して蓋受枠10を載置し、斜壁管6の上縁に埋設されたインサートアンカー17、リングボルト18、ナット19によって斜壁管6、調整リング7、調整ワッシャ8及び蓋受枠10を一体的に相互に連結した後、掘削した土砂を埋め戻し、調整リング7の上部に舗装層13を施して復旧する。
【0020】
ここで、間隙水とは、図4(b)に示すように、地盤2内の土粒子2a間の間隙2b内に存在する水をいう。また、過剰間隙水圧Pとは、地盤2内の間隙水が地震等による外力の増加に伴い、静水圧以上に圧力が高まった状態(液状化現象)をいう。外力を受けていない通常時は、間隙水圧=静水圧である。
【0021】
次に、図4を用いて逸散室14の作用により調整リング7の下方から上昇する過剰間隙水圧Pを逸散する原理について説明する。ここで、地盤2内の土中の間隙水の流速をV1、地盤2内の間隙水が通る土中の毛管断面積をA1、地盤2内の土中の間隙水圧をP1、逸散室14内の空間内の間隙水の流速をV2、逸散室14内の空間の平面積をA2、逸散室14内の空間内の水圧をP2とする。地盤2内の間隙水が通る土中の毛管断面積A1とは、図4(c)に示すように、地盤2内の土の所定の断面積をA、間隙率をnとすると、間隙断面積は(n/100)×Aとなり、これを地盤2内の間隙水が通る土中の毛管断面積A1と定義する。また、逸散室14内の空間の平面積A2とは、図1(b)の斜線部で示すように、調整リング7の錘部7bの下面7b2を含む平面上における逸散室14の空間の全体の面積をいう。
【0022】
地盤2内の間隙水の流量Qと、逸散室14内の空間内の間隙水の流量Qとは等しいことから、逸散室14内の空間内の間隙水の流速V2と、地盤2内の土中の間隙水の流速V1との関係は以下の数1式で示される。
【0023】
[数1]
間隙水の流量Q=V1×A1=V2×A2より、V2=(A1/A2)×V1
【0024】
ここで、逸散室14内の空間の平面積A2は、地盤2内の間隙水が通る土中の毛管断面積A1よりも極めて大きいことから、前記数1式の(A1/A2)≒0となり、逸散室14内の空間内の間隙水の流速V2≒0となる。一方、地盤2内の土中の間隙水の流速V1は、逸散室14内の空間内の間隙水の流速V2よりも極めて大きい。
【0025】
これらのことから、地盤2内の土中の間隙水の流速をV1、重力加速度をg、地盤2内の土中の間隙水圧をP1、間隙水の密度をρ、地盤2内の任意の高さをZとすると、ベルヌーイの定理により地盤2内の土中の間隙水の挙動は以下の数2式で示される。以下の数2式において(V1/2g)は速度水頭、Zは位置水頭、(P1/ρg)は圧力水頭をそれぞれ表わす。尚、ここで、「ベルヌーイの定理」とは、流体の流れに沿って成り立つエネルギー保存の法則であり、これを用いて地盤2内の土中の間隙水の挙動を平易に表わすことが出来る。
【0026】
[数2]
(V1/2g)+Z+(P1/ρg)=一定
【0027】
上記数2式の一定の値Eを数式変形の便宜上「0」に置き換えて、|P1|を求めると以下の数3式に示す通りである。
【0028】
[数3]
(V1/2g)+Z+(P1/ρg)=0
であるから、
(P1/ρg)=−(V1/2g)−Z
であるから、
P1=−ρV1/2−ρgZ
であるから、
|P1|=ρV1/2+ρgZ
【0029】
上記数3式より地盤2内の土中の間隙水圧P1は、地盤2内の土中の間隙水の流速V1の二乗に比例し、地盤2内の土中の間隙水の流速V1は、逸散室14内の空間内の間隙水の流速V2よりも極めて大きいことから、地盤2内の土中の間隙水圧P1は、逸散室14内の空間内の水圧P2よりも極めて大きい。従って、逸散室14内の空間内の水圧P2は、地盤2内の土中の間隙水圧P1よりも小さくなり、逸散室14の作用により調整リング7の下方から上昇する過剰間隙水圧Pを逸散することが出来る。
【0030】
上記構成によれば、本来のマンホール1を構成する調整リング7を浮上防止用部材とすることで部品点数を増やすことなく、組み立て施工作業も本来のマンホール1の組み立てと同様な作業で容易に出来る。また、平板部7aの外周縁に該平板部7aの厚さよりも大きな厚さを有する外形が方形状の錘部7bを設けたことで、平板部7aにより調整リング7本来の機能を果たしつつ、錘部7bにより浮き上がり防止のための重量を確保することが出来る。また、従来、広い面積が必要であった浮上防止調整リングの面積を狭くし、実用性のあるものを提供することが出来る。また、調整リング7の外形を方形状で構成した場合には、マンホール1の設置位置が幅の狭い道路であったり路肩に近接した場合でも道路の方向に沿って延長した長方形とすることが出来、設置位置の許容度が高まる。
【0031】
また、調整リング7が図1(a)、図2、図3(b)及び図4(a)に示すように、断面門型形状で構成され、錘部7bの内周面7b1と、平板部7aの下面7a1と、斜壁管6の外周面6aとの間に調整リング7の下方から上昇する過剰間隙水圧Pを逸散する空洞の空間からなる逸散室14を設けたことで、調整リング7の下方から上昇する過剰間隙水圧Pを逸散室14を介して逸散することが出来、これにより水圧の上昇圧を低下させて調整リング7に作用する浮揚力を低減し、マンホール1の浮上抑制効果を高めることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の活用例として、直壁管の上部に斜壁管、調整リング、蓋受枠及び開閉蓋を順に積層して構成したマンホールにおいて、地震時等に発生する液状化現象によりマンホールの浮き上がりを防止する浮上防止マンホールに適用出来る。
【符号の説明】
【0033】
1 …浮上防止マンホール
2 …地盤
2a …土粒子
2b …間隙
3 …底版
4,5 …直壁管
6 …斜壁管
6a …外周面
7 …調整リング
7a …平板部
7a1 …下面
7b …錘部
7b1 …内周面
7b2 …下面
8 …調整ワッシャ
9 …モルタルやグラウト層
10 …蓋受枠
11 …開閉蓋
12 …排水管
13 …舗装層
14 …逸散室
15 …補強用鋼板
16 …貫通孔
17 …インサートアンカー
18 …リングボルト
18a …蓋ボルト
19 …ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直壁管の上部に斜壁管、調整リング、蓋受枠及び開閉蓋を順に積層して構成した浮上防止マンホールにおいて、
前記調整リングは、前記直壁管の外径よりも大きな外径を有して形成され、
前記斜壁管上に載置される平板部と、
前記平板部の外周縁に設けられ、該平板部の厚さよりも大きな厚さを有する錘部と、
を有することを特徴とする浮上防止マンホール。
【請求項2】
前記錘部が前記平板部から下方に垂下されて前記調整リングが断面門型形状で構成され、
前記錘部の内周面と、前記平板部の下面と、前記斜壁管の外周面との間に前記調整リングの下方から上昇する過剰間隙水圧を逸散する逸散室を設けたことを特徴とする請求項1に記載の浮上防止マンホール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−241463(P2012−241463A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114497(P2011−114497)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000120146)株式会社ハネックス (56)
【Fターム(参考)】