説明

浮体の揺動制御装置

【課題】 スパー型の浮体のヨー方向の揺動を抑制する。
【解決手段】 スパー型の浮体1の浮力体2の外周部に、水平方向に貫通するトンネル状流路11を設けて、その一端側開口部を浮力体2に対し平面視時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第1の水噴射口6とし、他端側開口部を浮力体2に対し平面視反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第2の水噴射口7とする。トンネル状流路11にスラスタ8を設ける。浮力体2のヨー動作を検出するためのヨー動作検出用センサ9と、その信号を基にスラスタ8へ指令を与える制御器10を備える。スパー型の浮体1のヨー動作がヨー動作検出用センサ9で検出されると、制御器10によりスラスタ8を起動させて、水噴射口6又は7よりヨー動作を解消する方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射させることで、スパー型の浮体1に生じたヨー動作を抑制させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパー型の浮体に生じるヨー(yaw)方向の揺動を抑えるために用いる浮体の揺動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海上構造物を海面に浮遊させた状態で設置するために用いられる浮体の1つの形式に、スパー型(円柱浮標型)の浮体がある。
【0003】
上記スパー型の浮体は、円柱形状の浮力体を備え、且つ該浮力体の軸心方向の一端部にバラスト、たとえば、バラストタンクにバラスト水を注入した形式のバラストを備えることにより、上記浮力体の浮力の中心と、重心の位置を軸心方向にずらして、この重心の位置が浮力の中心よりも下がることで、上記浮力体を、軸心方向を直立させた状態、すなわち、上下方向に延びる姿勢で海面に浮遊させることができるようにしてある。なお、上記スパー型の浮体における上記浮力体は、その外形が概ね円柱形状となるものであればよく、上記円柱形状の浮力体には、軸心方向に部分的に径寸法が異なる部分を備えた形式のものや、軸心方向に複数分割された状態で製造された浮力体の分割体を連結手段を介して連結してなる構造を備えた形式のものや、浮力体の下端側となる軸心方向の一端側に別体として製造したバラストやバラストタンクを取付手段を介して取り付けてなる構造を備えた形式のものや、浮力体の円柱形状の外周面に外向きに突出する張り出し部を備えた形式のものを含むものとする。
【0004】
更に、上記スパー型の浮体は、潮流時に係留力と流体力のアンバランスによって浮力体に傾斜モーメントが働かないようにするために、上記浮力体における流体力の着力点となる高さ位置における周方向にほぼ等間隔の3個所又は4個所、更には、5個所以上の複数個所に、平面視で該スパー型の浮体の放射方向に沿って延びる個別の係留索(アンカーロープ)の一端部をそれぞれ接続すると共に、該各係留索の他端部を、海底に設置された錨(アンカー)に接続して、該各係留索と錨により、上記スパー型の浮体をカテナリー係留するようにしてあることが多い(たとえば、特許文献1参照)。このように、スパー型の浮体をカテナリー係留した状態では、該スパー型の浮体の位置は、浮力体の周方向の複数個所に接続されている各係留索に自重によって生じるカテナリーの釣り合いによって保持されており、上記スパー型の浮体に対して潮流や波や風による外力が作用するときには、該外力の大小やその作用する向きに応じて上記各係留索のカテナリーが変化することで、上記スパー型の浮体に作用する外力を受けることができるようにしてある。
【0005】
なお、複数のスラスタを備えた洋上プラットホームにて、環境外乱の変動に応じて上記各スラスタを制御することにより該洋上プラットホームの向きを或る目標方位に保持させるようにする考えは従来提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−248792号公報
【特許文献2】特開2002−173086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、前述したスパー型の浮体は、浮力体が円柱形状としてあるために、浮力体自体に対する波や風の影響では、該浮力体に対し軸心位置よりずれた位置に力が作用することはあまりないが、該スパー型の浮体の上側に設けてある海上構造物の形状や構造によっては、該海上構造物に波や風が当たることで、上記スパー型の浮体における浮力体に対し、その軸心位置よりもずれた位置に力が作用することがあり、このような軸心位置よりずれた力が作用すると、上記浮力体にヨー方向の動作が生じてしまうことがある。
【0008】
更に、上記のようにスパー型の浮体にヨー方向の動作が生じた場合は、該スパー型の浮体のカテナリー係留に用いられている各係留索より該各係留索同士のカテナリーの釣り合いを元に戻そうとする力が作用するようになるため、上記スパー型の浮体に生じたヨー方向の動作を元に戻そうとする復元力が作用するようになるが、この復元力の作用の仕方によっては、上記スパー型の浮体にヨー方向の揺動が発生することがあり、更には、該ヨー方向の揺動が増幅されることもある。
【0009】
ところで、スパー型の浮体の上側に設ける海上構造物が、その機能や構造上、該海上構造物の向きを或る方位に向けた状態で一定に保持することが求められるような形式の海上構造物である場合は、上述したようなスパー型の浮体のヨー方向の揺動は抑制することが求められる。しかし、上記スパー型の浮体のヨー方向の揺動を防止できるようにするための手段は、特に提案されていないというのが実状である。
【0010】
なお、特許文献1には、スパー型の浮体に関する記載はあるが、該スパー型の浮体について、ヨー方向の揺動を抑制できるようにするための手段に関する記載はなく、その示唆もされていない。
【0011】
一方、特許文献2には、洋上プラットホームの向きをある目標方位に保持する考えは示されているが、これは、非係留状態の洋上プラットホームに作用する風、波、潮流等の外乱を計測し、その影響を評価した上で、上記洋上プラットホームに設けてある複数のスラスタの推力を求めるようにしてあるものであって、上記カテナリー係留されているスパー型の浮体のヨー方向の揺動の抑制にそのまま適用できるものではない。
【0012】
そこで、本発明は、スパー型の浮体に生じるヨー方向の揺動を抑制することができて、該スパー型の浮体の上側に設ける海上構造物の向きを一定に保持するのに有利なものとすることができる浮体の揺動制御装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、上下方向に延びる浮力体を備えたスパー型の浮体における上記浮力体の没水部分の外周部に、該浮力体に対して平面視で時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第1の水噴射口と、該浮力体に対して平面視で反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第2の水噴射口を設けると共に、上記第1の水噴射口と第2の水噴射口のいずれか一方に選択的に水流を供給できるようにした水流供給手段を備え、更に、上記スパー型の浮体に生じるヨー方向の動作を検出するためのヨー動作検出用センサと、該ヨー動作検出用センサより入力される信号を基に、上記水流供給手段へ指令を与える制御器を備えた構成を有する構成とする。
【0014】
又、上記構成において、水流供給手段を、浮力体の外周部に第1の水噴射口と第2の水噴射口とをつなぐように設けたトンネル状流路内にスラスタを装備してなる構成とする。
【0015】
同様に、上記構成において、水流供給手段を、浮力体における没水部分に設けた水取入口に接続した水配管に設けたポンプと、上記水配管の下流側を第1の水噴射口に接続した分岐管と第2の水噴射口に接続した分岐管に分岐させるための分岐部分に設けた流路切換弁とからなる構成とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の浮体の揺動制御装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
【0017】
上下方向に延びる浮力体を備えたスパー型の浮体における上記浮力体の没水部分の外周部に、該浮力体に対して平面視で時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第1の水噴射口と、該浮力体に対して平面視で反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第2の水噴射口を設けると共に、上記第1の水噴射口と第2の水噴射口のいずれか一方に選択的に水流を供給できるようにした水流供給手段を備え、更に、上記スパー型の浮体に生じるヨー方向の動作を検出するためのヨー動作検出用センサと、該ヨー動作検出用センサより入力される信号を基に、上記水流供給手段へ指令を与える制御器を備えた構成としてあるので、スパー型の浮体に生じるヨー方向の揺動を抑制することができる。よって、上記スパー型の浮体の上側に設ける海上構造物の向きを一定に保持するのに有利なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の浮体の揺動制御装置の実施の一形態を示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)は(イ)のA−A方向矢視図である。
【図2】図1の装置におけるスラスタを備えたトンネル状流路の配置の別の例を示すもので、(イ)は概略側面図、(ロ)は(イ)のB−B方向矢視図である。
【図3】図1の装置におけるスラスタを備えたトンネル状流路の配置の更に別の例を示す図1(ロ)に対応する図である。
【図4】図1の装置における制御器の制御手順のフローを示す図である。
【図5】本発明の実施の他の形態を示すもので、(イ)は一部切断概略側面図、(ロ)(ハ)は(イ)のC−C矢視図で、(ロ)は第1の水噴射口より水流を噴射する状態を示す図、(ハ)は第2の水噴射口より水流を噴射する状態を示す図である。
【図6】図5の装置における制御系の概要を示す図である。
【図7】図5の装置における制御器の制御手順のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1(イ)(ロ)乃至図4は本発明の浮体の揺動制御装置の実施の一形態として、図1(イ)(ロ)に示す如きスパー型の浮体に適用する場合を示すもので、以下のような構成としてある。
【0021】
ここで、先ず、図1(イ)(ロ)に示したスパー型の浮体1の構成の概要について説明する。上記スパー型の浮体1は、上下方向に延びる円柱形状の浮力体2の下端部に、バラスト3として、たとえば、図示しないバラストタンクにバラスト水を注入する形式のバラスト3を備えて、上記浮力体2を、その軸心方向を直立させた状態で洋上(海面)に浮遊させることができるようにしてある。
【0022】
更に、上記浮力体2における流体力の着力点に対応する該浮力体2の所定の高さ位置の外周部に、周方向90度間隔で、平面視で上記浮力体2を中心として放射方向に延びるように配置した4本の係留索4の一端部(内側端部)をそれぞれ取り付けると共に、該各係留索4の他端部(外側端部)を、海底に設置した個別の錨(アンカー)5にそれぞれ接続して、該スパー型の浮体1を、上記4本の係留索4を介してカテナリー係留するようにしてある。
【0023】
かかる構成としてあるスパー型の浮体1に適用する本発明の浮体の揺動制御装置は、上記浮力体2における没水部分の外周部に、該浮力体2に対して平面視で時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための水噴射口(以下、第1の水噴射口と云う)6と、該浮力体2に対して平面視で反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための噴射口(以下、第2の水噴射口と云う)7を設ける。
【0024】
上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7には、いずれか一方に選択的に水流を供給できるようにした水流供給手段8を接続する。
【0025】
更に、上記スパー型の浮体1におけるいずれかの個所、たとえば、上記浮力体2に、該スパー型の浮体1のヨー方向の動作を検出するためのヨー動作検出用センサ9を設けると共に、該ヨー動作検出用センサ9より入力される上記スパー型の浮体1のヨー動作の検出信号を基に、上記水流供給手段8へ指令を与える制御器10を備えた構成とする。
【0026】
詳述すると、上記浮力体2の没水部分における外周部に、該浮力体2の径方向と直交する水平方向に貫通するトンネル状流路11を設けて、図1(ロ)に示すように、該トンネル状流路11の一端側の開口部を上記第1の水噴射口6とすると共に、該トンネル状流路11の他端側の開口部を上記第2の水噴射口7としてある。
【0027】
更に、上記トンネル状流路11の長手方向中間部に、上記水流供給手段として、該トンネル状流路11内で発生させる水流の方向を双方向に切り替えることが可能なスラスタ8が設けてある(なお、説明の便宜上、該スラスタには、上記した水流供給手段と同じ符号が付してある)。
【0028】
なお、上記スラスタ8を装備したトンネル状流路11は、上記スラスタ8を運転して該トンネル状流路11の第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より水流を噴射させるときに、スパー型の浮体1自体にピッチングやローリングといった浮力体2の軸心方向を傾けるような動作が生じないようにするという観点から考えると、上記各水噴射口6,7が、上記浮力体2における流体力の着力点に対応する所定の高さ位置付近に配置されていることが望ましい。
【0029】
更に、上記スラスタ8を運転して上記トンネル状流路11の第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より水流を噴射させるときに、スパー型の浮体1自体に横流れ(スウェイ)が生じないようにするという観点から考えると、上記スラスタ8を装備したトンネル状流路11は、上記浮力体2の外周部に、周方向等間隔で複数設けることが望ましい。
【0030】
具体的には、たとえば、図1(イ)(ロ)に示すように、上記浮力体2の外周部における周方向の180度対向する2個所に、上記スラスタ8を装備したトンネル状流路11をそれぞれ設けるようにすればよい。
【0031】
又、図2(イ)(ロ)に示すように、上記浮力体2の外周部における周方向90度間隔の4個所に、上記スラスタ8を装備したトンネル状流路11をそれぞれ設けるようにしてもよい。この場合、上記浮力体2の周方向に90度間隔で設ける上記4つのトンネル状流路11の配置が、平面視で重なる場合には、該各トンネル状流路同士11の交差を防止すると共に、該各トンネル状流路11を設けることに伴う浮力体2の強度低下を防止するために、上記浮力体2の周方向に180度間隔で配置される2つ一組のトンネル状流路11の組を、該浮力体2の上下方向に高さ位置をずらして設けるようにすればよい。
【0032】
更には、図示してないが、上記浮力体2の外周部における周方向120度間隔の3個所に、上記スラスタ8を装備したトンネル状流路11をそれぞれ設けるようにしてもよい。 一方、前述したように、上記スパー型の浮体1は上記4本の係留索4によりカテナリー係留されているものであることから、該各係留索4により上記スパー型の浮体1の横流れを十分に抑制することが可能である場合、あるいは、上記スパー型の浮体1が、ヨー方向の揺動は抑制することが望まれるが、横流れについては許容できるような形式や機能を有する海上構造物用の浮体である場合は、図3に示すように、上記浮力体2の外周部の1個所に、上記と同様のスラスタ8を装備したトンネル状流路11を設けるようにした構成としてもよい。
【0033】
上記ヨー動作検出用センサ9は、たとえば、ジャイロセンサを用いるようにして、上記スパー型の浮体1の浮力体2のヨー方向に関する加速度を検出できるようにし、その検出信号を制御器10へ送ることで、浮力体2と一体のスパー型の浮体1に生じたヨー動作について、その速度や動作量(首振り角度)を検出することができるようにしてある。
【0034】
なお、上記ヨー動作検出用センサ9は、上記スパー型の浮体1に生じるヨー方向の動作に伴う変化量を検出し、その検出信号を制御器10へ送ることで、該スパー型の浮体1に生じたヨー方向の動作を検出できるようにしてあれば、ジャイロセンサ以外のいかなる形式のセンサを用いるようにしてもよい。
【0035】
上記制御器10は、図4にその処理手順のフロー図を示すように、上記ヨー動作検出用センサ9より信号が入力されると(ステップ1:S1)、該入力された信号を基に、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作の方向と動作量を検出する(ステップ2:S2)。
【0036】
次に、上記制御器10では、上記ステップ2(S2)で検出されたスパー型の浮体1のヨー動作の動作量が予め設定してあるしきい値を超えたか否かを判断する(ステップ3:S3)。なお、上記ステップ3(S3)で予め設定してあるしきい値を超えたか否かを判断するようにするのは、上記スパー型の浮体1のヨー動作の動作量が小さいうちは、その抑制が特に必要ないためであると共に、上記スパー型の浮体1のヨー動作の動作量が小さい場合にも後述するような制御器10による上記水流供給手段としてのスラスタ8の制御を行おうとすると、その制御の頻度が多大になるためである。上記しきい値は、上記スパー型の浮体1を適用する海上構造物に求められるヨー方向の揺動の制限量に鑑みて適宜設定するようにしてあるものとする。
【0037】
上記ステップ3(S3)にて上記スパー型の浮体1のヨー方向の動作量がしきい値を超えていないと判断された場合は、上記制御器10は上記ステップ1(S1)へ戻り、上記ステップ1(S1)からステップ3(S3)までの処理を繰り返すようにする。
【0038】
一方、上記ステップ3(S3)にて上記スパー型の浮体1のヨー方向の動作量がしきい値を超えたと判断された場合は、上記制御器10は、上記水流供給手段としてのスラスタ8へ指令を与えて、該スラスタ8を起動させて、該スラスタ8で発生させる水流を、上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7のうち、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作を解消させる方向に旋回力を付与できる側の水噴射口6又は7より噴射させるようにする(ステップ4:S4)。
【0039】
具体的には、上記スパー型の浮体1に、平面視で反時計回り方向へのヨー動作が、上記ステップ3(S3)で設置してあるしきい値を超えた動作量で生じたことが検出された場合は、上記制御器10は、上記スラスタ8へ指令を与えて、図1(ロ)、図2(ロ)、図3に一点鎖線で示すように、該スラスタ8の運転により発生させる水流を上記第1の水噴射口6より噴射させるようにする。これにより、上記スパー型の浮体1に対し、上記第1の水噴射口6より水流を噴射することの反力として平面視時計回り方向の旋回力が付与されるようになるため、この平面視時計回り方向の旋回力により、上記スパー型の浮体1に生じた上記平面視反時計回り方向のヨー動作は解消されるようになる。
【0040】
又、上記スパー型の浮体1に、平面視で時計回り方向へのヨー動作が、上記ステップ3(S3)で設置してあるしきい値を超えた動作量で生じたことが検出された場合は、上記制御器10は、上記スラスタ8へ指令を与えて、図1(ロ)、図2(ロ)、図3に二点鎖線で示すように、該スラスタ8の運転により発生させる水流を上記第2の水噴射口7より噴射させるようにする。これにより、上記スパー型の浮体1に対し、上記第2の水噴射口7より水流を噴射することの反力として平面視反時計回り方向の旋回力が付与されるようになるため、この平面視反時計回り方向の旋回力により、上記スパー型の浮体1に生じた上記平面視時計回り方向のヨー動作は解消されるようになる。
【0041】
なお、上記のように制御器10にてスパー型の浮体1に生じる平面視反時計回り方向又は平面視時計回り方向のヨー動作の検出結果に応じて、上記スラスタ8を駆動して、該スラスタ8で発生させた水流を上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より噴射させるようにする場合の制御則としては、上記スパー型の浮体1について検出されたヨー動作の動作量の検出結果を基に、一般的に用いられているフィードバック制御を適用するようにすればよい。
【0042】
上記ステップ4(S4)におけるスパー型の浮体1に生じたヨー動作が、上記スラスタ8で発生させた水流を上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より噴射させるときの反力として上記スパー型の浮体1に作用させる旋回力で解消されるようになると、上記制御器10は、上記ステップ1(S1)に戻って上述の処理を順次繰り返し行うようにしてある。
【0043】
以上の構成としてある本発明の浮体の揺動制御装置を使用する場合は、上記制御器10及びヨー動作検出用センサ9を起動状態にしておく。
【0044】
この状態で、上記スパー型の浮体1に波や風の影響によってヨー方向の揺動が生じた場合は、このスパー型の浮体1におけるヨー動作が、浮力体2に設けてある上記ヨー動作検出用センサ9により検出される。更に、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作が予め設定してあるしきい値を超えるようになると、上記制御器10より浮力体2の外周部に設けたトンネル状流路11内のスラスタ8へ指令が与えられて、該スラスタ8が起動され、このスラスタ8で発生された水流が上記トンネル状流路11の第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より噴射されることによって、上記スパー型の浮体1に発生しているヨー動作が平面視反時計回り方向及び平面視時計回り方向のいずれの場合であっても、該スパー型の浮体1には、そのヨー動作を解消させる方向の旋回力が付与されるようになる。よって、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作が低減させられるようになる。
【0045】
このように、本発明の浮体の揺動制御装置によれば、スパー型の浮体1に生じるヨー方向の揺動を抑制することができる。
【0046】
よって、上記スパー型の浮体1の上側に設ける海上構造物の向きを一定に保持するのに有利なものとすることができる。
【0047】
更に、上記スパー型の浮体1に生じるヨー動作を解消させる方向の旋回力を付与するための上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7のいずれか一方より選択的に水流を噴射させるための水流供給手段を、上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7を繋ぐトンネル状流路11に、スラスタ8を備えてなる構成としてあることから、該水流供給手段の装置構成を容易に実現することができる。
【0048】
しかも、上記浮力体2の内部にトンネル状流路11を設けると共に、該トンネル状流路に上記スラスタ8を装備するようにしてあることから、浮力を得るために一般的に空隙が多い構造となる浮力体2の内部空間の有効利用を図ることができる。又、上記浮力体2の円柱形状の外形に、該浮力体2の波や潮流に対する抵抗が変化する要因となるような突出部を設ける必要をなくすことができる。更に、上記スラスタ8に海中を浮遊するものが直接当たる虞を回避することができる。
【0049】
なお、上記スラスタ8は、上記したような浮力体2の内部空間の有効利用を図るという効果や、浮力体2の円柱形状の外形に突出部を設ける必要をなくすことができるという効果や、該スラスタ8に海中を浮遊するものが直接当たる虞を回避することができると云う効果を得るためには、浮力体2の外周部に設けたトンネル状流路11に装備することが望ましいが、これらの効果を必要とせず、上記スパー型の浮体1におけるヨー方向の揺動を抑えることができるようにするという効果のみを得るためには、上記浮力体2の没水部分の外周面に、該浮力体2の外周面の接線方向に沿う水平方向の水流を発生可能な姿勢に配置したスラスタを取り付けてなる構成を採用すればよい。
【0050】
次に、図5(イ)(ロ)(ハ)乃至図7は本発明の実施の他の形態を示すもので、図1(イ)(ロ)乃至図3に示したと同様に、スパー型の浮体1における浮力体2の没水部分の外周部に第1の水噴射口6と、第2の水噴射口7を設けた構成において、上記第1の水噴射口6と、第2の水噴射口7のいずれか一方に選択的に水流を供給できるようにするための水流供給手段を、上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7を繋ぐトンネル状流路11にスラスタ8を備えてなるものとした構成に代えて、水流供給手段12を、上記浮力体2の或る個所、たとえば、底部に設けた水取入口13に、ポンプ15を備えた水配管14の一端部を接続すると共に、該水配管14の他端側に上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7の双方の数に応じた複数の分岐管16,17を設けて、該各分岐管16と17を、上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7にそれぞれ接続し、且つ上記第1の水噴射口6に接続した分岐管16と上記第2の水噴射口7に接続した分岐管17との分岐部分に、流路切換弁18を備えて、該流路切換弁18の切換え操作により、上記ポンプ15の吐出側を、上記第1の水噴射口6、又は、上記第2の水噴射口7のいずれか一方に選択的に連通させることができるようにした構成とする。
【0051】
更に、図6に示すように、上記浮力体2に装備した図1に示したものと同様のヨー動作検出用センサ9より入力される上記スパー型の浮体1のヨー動作の検出信号を基に、上記水流供給手段12のポンプ15及び流路切換弁18へ指令を与える機能を有する制御器10Aを備えた構成とする。
【0052】
詳述すると、上記浮力体2は、その没水部分の或る高さ位置における外周部に、図1(ロ)に示した浮力体2と同様の配置で、上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7が2つずつ設けてある。
【0053】
上記水配管14は、たとえば、その下流側端部となる上端部を2本に分岐させ、この分岐により形成された2本の分岐配管19aと19bの下流側端部を更に2本ずつに分岐させることで、上記2つの第1の水噴射口6に接続するための2本の分岐管16と、上記2つの第2の水噴射口7に接続するための2本の分岐管17が形成してある。
【0054】
上記流路切換弁18は、上記2本の分岐配管19a,19bの下流側端部における上記分岐管16と分岐管17との分岐部分に設けてあり、図5(ロ)に示すように、上記分岐配管19a,19bに上記分岐管16のみを連通させた状態と、図5(ハ)に示すように、分岐管17のみを上記分岐配管19a,19bに連通させた状態に切り替えることができるようにしてある。
【0055】
なお、上記第1の水噴射口6からは、浮力体2に対して平面視で時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射させることができ、且つ上記第2の水噴射口7からは、浮力体2に対して平面視で反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射させることができるように上記分岐管16の下流側端部と分岐管17の下流側端部の向きが設定してあれば、上記分岐管16の上流側端部と分岐管17の上流側端部は、一直線上に並ぶ配置以外の任意の配置としてあってもよい。
【0056】
又、水配管14を上記第1の水噴射口6と、上記第2の水噴射口7のいずれか一方に選択的に連通させることができるようにしてあれば、水配管14の下流側端部を2本の分岐配管に分岐させる部分に1つの流路切換弁18を設け、一方の分岐配管の下流側に複数の上記第1の水噴射口6を接続し、他方の分岐配管の下流側に複数の上記第2の水噴射口7を接続してなる構成としてもよい。
【0057】
更に、本実施の形態における上記第1の水噴射口6と、第2の水噴射口7の配置として、図2(ロ)に示したと同様の配置、及び、図3に示したと同様の配置を採用してもよい。これらの構成を採用する場合は、上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7の数が変化するが、その数に応じて、上記水配管14の下流側に接続する上記第1の水噴射口6連通用の分岐管16と、上記第2の水噴射口7連通用の分岐管17の数を変化させればよく、更に、上記流路切換弁18を、水配管14を上記第1の水噴射口6と、上記第2の水噴射口7のいずれか一方に選択的に連通させることができるように備えた構成としてあればよい。
【0058】
上記制御器10Aは、図7にその処理手順のフロー図を示すように、図4におけるステップ1(S1)〜ステップ3(S3)と同様に、上記ヨー動作検出用センサ9より信号が入力されると(ステップ1:S1)、該入力された信号を基に、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作の方向と動作量を検出し(ステップ2:S2)、該検出されたスパー型の浮体1のヨー動作の動作量が予め設定してあるしきい値を超えたか否かを判断して(ステップ3:S3)、上記スパー型の浮体1のヨー方向の動作量がしきい値を超えていないと判断された場合は、上記制御器10Aは上記ステップ1(S1)へ戻り、上記ステップ1(S1)からステップ3(S3)までの処理を繰り返すようにする。
【0059】
一方、上記ステップ3(S3)にて上記スパー型の浮体1のヨー方向の動作量がしきい値を超えたと判断された場合は、上記制御器10Aは、上記水流供給手段12のポンプ15に指令を与えて該ポンプ15を起動させると共に、上記流路切換弁18に指令を与えて、該流路切換弁18の切換え操作により、上記ポンプ15を、上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7のうち、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作を解消させる方向に旋回力を付与できる側の水噴射口6又は7に連通させるようにする(ステップ4A:S4A)。
【0060】
具体的には、上記スパー型の浮体1に、平面視で反時計回り方向へのヨー動作が、上記ステップ3(S3)で設置してあるしきい値を超えた動作量で生じたことが検出された場合は、上記制御器10Aは、上記ポンプ15へ指令を与えて起動させると共に、図5(ロ)に示すように、該ポンプ15の運転により発生させる水流が上記第1の水噴射口6へ導かれるように上記流路切換弁18を切り替える。これにより、上記第1の水噴射口6より水流が噴射されるようになるため、上記スパー型の浮体1に対し、上記第1の水噴射口6より水流を噴射することの反力として平面視時計回り方向の旋回力が付与され、この平面視時計回り方向の旋回力により、上記スパー型の浮体1に生じた上記平面視反時計回り方向のヨー動作が解消されるようになる。
【0061】
又、上記スパー型の浮体1に、平面視で時計回り方向へのヨー動作が、上記ステップ3(S3)で設置してあるしきい値を超えた動作量で生じたことが検出された場合は、上記制御器10Aは、上記ポンプ15へ指令を与えて起動させると共に、図5(ハ)に示すように、該ポンプ15の運転により発生させる水流が上記第2の水噴射口7へ導かれるように上記流路切換弁18を切り替える。これにより、上記第2の水噴射口7より水流が噴射されるようになるため、上記スパー型の浮体1に対し、上記第2の水噴射口7より水流を噴射することの反力として平面視反時計回り方向の旋回力が付与され、この平面視反時計回り方向の旋回力により、上記スパー型の浮体1に生じた上記平面視時計回り方向のヨー動作が解消されるようになる。
【0062】
なお、上記のように制御器10Aにてスパー型の浮体1に生じる平面視反時計回り方向又は平面視時計回り方向のヨー動作の検出結果に応じて、上記ポンプ15を駆動すると共に、流路切換弁18を切換え操作して、該ポンプ15で発生させた水流を上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より噴射させるようにする場合の制御則としては、上記スパー型の浮体1について検出されたヨー動作の動作量の検出結果を基に、一般的に用いられているフィードバック制御を適用するようにすればよい。
【0063】
上記ステップ4A(S4A)におけるスパー型の浮体1に生じたヨー動作が、上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より水流を噴射させるときの反力として上記スパー型の浮体1に作用させる旋回力により解消されるようになると、上記制御器10Aは、上記ステップ1(S1)に戻って上述の処理を順次繰り返し行うようにしてある。
【0064】
その他の構成は図1(イ)(ロ)に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0065】
以上の構成としてある本実施の形態の浮体の揺動制御装置を使用する場合は、上記制御器10A及びヨー動作検出用センサ9を起動状態にしておく。
【0066】
この状態で、上記スパー型の浮体1に波や風の影響によってヨー方向の揺動が生じた場合は、このスパー型の浮体1におけるヨー動作が、浮力体2に設けてある上記ヨー動作検出用センサ9により検出される。更に、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作が予め設定してあるしきい値を超えるようになると、上記制御器10Aよりポンプ15に指令が与えられて該ポンプが起動されると共に、流路切換弁18に指令が与えられて、該流路切換弁18が、上記ポンプ15を、スパー型の浮体1に生じたヨー動作を解消する方向の旋回力を付与するように水流を噴射できる側の水噴射口6又は7に連通させるように切り換えられるため、上記ポンプ15で発生させた水流が上記第1の水噴射口6又は第2の水噴射口7より噴射されることによって、上記スパー型の浮体1に発生しているヨー動作が平面視反時計回り方向及び平面視時計回り方向のいずれの場合であっても、該スパー型の浮体1には、そのヨー動作を解消させる方向の旋回力が付与されるようになり、よって、上記スパー型の浮体1に生じたヨー動作が低減させられるようになる。
【0067】
このように、本実施の形態の浮体の揺動制御装置によっても、スパー型の浮体1に生じるヨー方向の揺動を抑制することができて、上記スパー型の浮体1の上側に設ける海上構造物の向きを一定に保持するのに有利なものとすることができる。
【0068】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、第1の水噴射口6と第2の水噴射口7は、スパー型の浮体1における浮力体2に、上下方向に多段に設けるようにしてもよい。
【0069】
上記第1の水噴射口6と第2の水噴射口7は、丸い形状として示したが、それぞれスパー型の浮体に平面視時計回り方向と反時計回り方向の旋回力を付与するように水流を噴射することができるようにしてあれば、矩形やスリット状等、丸以外のいかなる形状としてもよい。
【0070】
図5(イ)(ロ)(ハ)乃至図7の実施の形態では、水流供給手段12におけるポンプ15を備えた水配管14を接続する水取入口13は、浮力体2の内部構造や該浮力体の内部に設ける機器の配置に応じて、浮力体2の没水部分の任意の個所に配置してよい。
【0071】
図5(イ)(ロ)(ハ)乃至図7の実施の形態では、スパー型の浮体1が、バラスト3としてバラストタンクにバラスト水を注入する形式のバラストを備えている場合は、水配管14に備えるポンプ15を、上記バラストタンクに対するバラスト水の注入量の調整用に通常装備されるポンプと兼用させるようにした構成としてもよい。この場合、上記ポンプ15と上記バラストタンクとを連通させる状態と、上記ポンプ15を上記第1の水噴射口6や第2の水噴射口7に連通させる状態とを切り替えるための流路切換機構を備えるようにすればよい。更には、上記バラストタンクに貯留されているバラスト水の一部を利用して、上記スパー型の浮体1に生じるヨー動作を解消させるために上記第1の水噴射口6や第2の水噴射口7より水流を噴射させるようにしてもよい。
【0072】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 スパー型の浮体
2 浮力体
6 第1の水噴射口
7 第2の水噴射口
8 スラスタ(水流供給手段)
9 ヨー動作検出用センサ
10,10A 制御器
11 トンネル状流路
12 水流供給手段
13 水取入口
14 水配管
15 ポンプ
16 分岐管
17 分岐管
18 流路切換弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる浮力体を備えたスパー型の浮体における上記浮力体の没水部分の外周部に、該浮力体に対して平面視で時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第1の水噴射口と、該浮力体に対して平面視で反時計回り方向の旋回力を付与する方向へ水流を噴射するための第2の水噴射口を設けると共に、上記第1の水噴射口と第2の水噴射口のいずれか一方に選択的に水流を供給できるようにした水流供給手段を備え、更に、上記スパー型の浮体に生じるヨー方向の動作を検出するためのヨー動作検出用センサと、該ヨー動作検出用センサより入力される信号を基に、上記水流供給手段へ指令を与える制御器を備えた構成を有することを特徴とする浮体の揺動制御装置。
【請求項2】
水流供給手段を、浮力体の外周部に第1の水噴射口と第2の水噴射口とをつなぐように設けたトンネル状流路内にスラスタを装備してなる構成とした請求項1記載の浮体の揺動制御装置。
【請求項3】
水流供給手段を、浮力体における没水部分に設けた水取入口に接続した水配管に設けたポンプと、上記水配管の下流側を第1の水噴射口に接続した分岐管と第2の水噴射口に接続した分岐管に分岐させるための分岐部分に設けた流路切換弁とからなる構成とした請求項1記載の浮体の揺動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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