説明

浮体式起伏型ゲート設備

【課題】通常時は扉体の自動開閉作動に支障を及ぼすことなく、土砂堆積発生時や設備の点検・整備時等の必要時において任意操作によって扉体を強制的に起立作動させることのできる浮体式起伏型ゲート設備。
【解決手段】樋管1に水路河床部ヒンジ方式で設置され、河川水位の変動に対して自動的に扉体2が起立作動・倒伏作動して樋管通水断面を開放および閉鎖する浮体式起伏ゲート設備において、扉体2と同一水路内に扉体2の側部と側部戸当金物部4の間に独立してヒンジ方式で起立・倒伏作動可能な可動アーム10が設置され、可動アーム10は操作装置15による巻き取り及び巻き出しにより可動アーム10を起立作動・倒伏作動させるワイヤーロープ13に連結され、扉体2の側部には起立作動する可動アーム10に当接して扉体2を押し上げる押上部材が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧作用力と重力を原動力として自動開閉作動を行う浮体式起伏型ゲート設備において、任意操作によって扉体を強制的に起立作動可能な浮体式起伏型ゲート設備に関する。
【背景技術】
【0002】
河川堤防の樋管に、河川水の逆流防止を目的として、河川水位の変化に応じて浮体式の扉体を自動的に起立・倒伏させて水路を開閉作動させることができる浮体式起伏型ゲート設備が設置されている。
【0003】
図5は、河川堤防の樋門の出口を開放・閉塞するゲート設備として設置された従来の浮体式起伏型ゲート設備を示す図であり、同図の(a)は全閉状態を示し、(b)は開放状態を示す。
【0004】
図5において、河川堤防の樋管1の出口に浮体式の扉体2が設置されている。この扉体2は、樋管出口の水路部床に固定されたヒンジ6で回動可能に枢着されており、水路部の下流側水位21、上流側水位22の水位変化による水圧力を利用して樋管1の出口を自動開閉するようになっている。なお、3は下部戸当金物、4は側部戸当金物、5は上部戸当金物、7は扉体全開時の支持台である。
【0005】
図5(a)に示すように、下流側水位21が上流側水位22より高いときは、扉体2が起立して樋管出口を閉塞し、水の逆流を防止する。また、下流側水位21が上流側水位22に近づくと、扉体2が徐々に開放し、下流側水位21が上流側水位22より低くなると、図5(b)に示すように扉体2が開放されて上流側(樋管)の水が下流側に自然排水される。(特許文献1参照)
【0006】
このようなゲート設備は、水路部床に下部ヒンジ方式で設置された浮体式の扉体が上流と下流の水位変化に対し、その水圧作用力と重力を原動力とし的確に自動開閉作動することから、人為的な操作を必要とせずに樋管の止水・排水管理が可能となる。
【0007】
しかしながら、前述の従来の浮体式起伏型ゲート設備は、強制的に扉体を起立作動させる装置を有していない場合、ゲート開放時において倒伏した扉体の上部に土砂が過度に堆積すると、堆積した土砂の重量によって扉体の自動起立作動が困難となり、的確な自動閉作動が阻害され易いという問題点がある。また、設備の保守管理面において、扉体を任意に起立作動させることが困難であることから適切な点検・整備を行うことが難しいという問題点を有している。
【0008】
これらの問題を解決するため、扉体を強制的に起立させるゲート設備が提案されている。例えば、図6(a)に示すように、樋管1の出口に水路部床にヒンジ6で回動可能に枢着された扉体2の先端に設けられたワイヤーロープ連結部24にワイヤーロープ13の一端を取付けるとともに、ワイヤーロープ13の他端を転向滑車23を介してワイヤー巻取装置25のドラムに巻き取り・巻き出し可能に連結した浮体式起伏型ゲート設備が提案されている。なお、5は上部戸当金物である。このゲート設備では、ワイヤー巻取装置25のドラムの回転操作によってワイヤーロープ13を巻き取りあるいは巻出しにより扉体2を強制的に起立・倒伏作動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−240044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図6(a)に示すゲート設備では、扉体2の自由な自動起立・倒伏動作を可能とするためには、全倒伏状態の扉体2の位置に対応するワイヤーロープ13の巻出し長さが必要となる。このため、扉体2が倒伏状態から、図6(b)に示す自動起立作動を行っている状態ではワイヤーロープ13が扉体上面で弛んだ状態となり、この弛んだワイヤーロープ13がゲート自動全閉時において扉体2と上部戸当金物5との間に挟まり込み、ゲート不完全閉作動障害を発生させるという問題点を有している。
【0011】
そこで、本発明は、通常時は扉体の自動開閉作動に支障を及ぼすことなく、土砂堆積発生時や設備の点検・整備時等の必要時において任意操作によって扉体を強制的に起立作動させることのできる浮体式起伏型ゲート設備を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明は、樋管に水路河床部ヒンジ方式で設置され、河川水位の変動に対して自動的に扉体が起立作動・倒伏作動して樋管通水断面を開放および閉鎖する浮体式起伏ゲート設備において、前記扉体と同一水路内に前記扉体の側部と側部戸当金物部の間に独立してヒンジ方式で起立・倒伏作動可能な可動アームが設置され、前記可動アームは操作装置による巻き取り及び巻き出しにより前記可動アームを起立作動・倒伏作動させるワイヤーロープに連結され、前記扉体の側部には、起立作動する前記可動アームに当接し押し上げられて前記扉体を起立作動させる押上部材が設けられていることを特徴とする浮体式起伏型ゲート設備である。
【0013】
請求項2の発明は、前記可動アームのヒンジ部を前記側部戸当金物部に設置したことを特徴とする請求項1記載の浮体式起伏型ゲート設備である。
【0014】
請求項2の発明は、前記押上部材が前記可動アームに当接して押し上げられるローラであることを特徴とする請求項1記載の浮体式起伏型ゲート設備である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、通常時は可動アームを全倒伏させておくことで可動アームに干渉されることなく水位位変化に対応する扉体を自動起立・倒伏作動させて自動開閉作動を自在に行わせることが可能であり、扉体を強制的に起立させる場合には、可動アームを起立作動させることにより扉体を確実に強制起立作動させて樋門を全閉させることが可能である。
【0016】
したがって、本発明の浮体式起伏型ゲート設備は、扉体上に土砂堆積などが発生して扉体の自動閉作動に支障が生じた場合には、可動アームを強制起立作動させることで確実に扉体を強制起立作動させることができ、また、本発明は、可動アームの操作により、扉体を自在に起立作動可能とすることが可能であるため、設備の保守・点検時には扉体を起立させて設備の維持管理を容易に行うことができる。
【0017】
また、本発明は、ワイヤーロープが扉体から独立した可動アームに連結されて緊張した状態で可動アームを起伏倒立させる構造であることから、ワイヤーロープが可動アーム及び扉体の作動により弛むことがないので、ワイヤーロープが扉体と戸当金物との間に挟まり込んでゲート不完全作動障害を発生させることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の浮体式起伏型ゲート設備を示し、(a)は扉体全開状態を示す図、(b)は扉体起立状態を示す図である。
【図2】本発明の浮体式起伏型ゲート設備の可動アームの設置形態を示す鳥瞰図で、(a)は可動アーム全倒伏状態を示す図、(b)は可動アーム起立状態を示す図である。
【図3】本発明の可動アームと扉体の当接状態を示す断面図で、(a)は可動アーム全倒伏状態で扉体全倒伏状態を示す図、(b)は可動アーム強制起立状態に伴う扉体起立状態を示す図である。
【図4】本発明の浮体式起伏型ゲート設備において、(a)は自動止水作動状態を示す図、(b)は自動排水作動状態を示す図である。
【図5】従来の浮体式起伏型ゲート設備を示し、(a)は自動止水状態を示す図、(b)は自動排水作動状態を示す図である。
【図6】従来のワイヤーロープで起立可能な扉体を備えた浮体式起伏型ゲート設備を示し、(a)は扉体全倒伏状態を示す図、(b)は自動排水作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1及び図2において、河川堤防の樋管1の出口に浮体式起伏型の扉体2が設置されている。この扉体2は、樋管1出口の水路部床にヒンジ6で回動自在に枢着されており、水路部の上下流の水位変化による水圧力(浮力)を利用して起立・倒伏させることにより樋管1の出口を自動開閉するようになっている。
【0020】
扉体2の側部と側部戸当金物4との間には、可動アーム10が配置されている。可動アーム10は側部戸当り金物4の下部に設置されたヒンジ11によって起立、倒伏自在に枢着されている。可動アーム10のヒンジ11と対向する側の先端にはワイヤーロープ13の一端が連結され、ワイヤーロープ13の他端は転向滑車14を介して水路上部に設置された操作装置15に連結されている。なお、3は下部戸当金物、5は上部戸当金物、7は扉体全開時の支持台である。
【0021】
可動アーム10は、操作装置15を操作してワイヤーロープ13を巻き取ることにより起立作動し、反対にワイヤーロープ13を巻き出すことにより自重によって倒伏作動し、全倒伏すると休止台12によって支持される。
【0022】
扉体2の側部には可動アーム10に当接し、扉体2を押し上げる押上部材8が設けられている。押上部材8は起立動作をする可動アーム10に当接し、押し上げられて扉体2を起立させる。押上部材8には、例えばローラが使用され、可動アーム10の起立によりローラ8が可動アーム10に当接し回転しながら押し上げられ、それに伴って扉体2が押し上げられて起立作動する。
【0023】
本発明のゲート設備の動作について説明する。
(1)扉体の自動起立・自動倒伏作動
通常、河川水位の変化に応じて扉体を自動起立・自動倒伏作動させる際は、図4に示すように、可動アーム10は全倒伏状態で運用される。このとき、可動アーム10と操作装置15を連結するワイヤーロープ13は転向滑車14によって扉体2の自動開閉作動に干渉しないよう配置されており、水位変動に対応した扉体2の自動起立、自動倒伏作動は全倒伏状態の可動アーム10に干渉されることはない。したがって、可動アーム10を強制作動させないで倒伏させた通常の状態では、下流側21の水位が上流側22の水位より高いときは、図4(a)に示すように、扉体2が起立して樋管1出口を閉塞し、水の逆流を防止する。また、下流側21の水位が上流側22の水位に近づくと、図4(b)に示すように、扉体1が徐々に開放して上流側22の水が下流側21に自然排水される。
【0024】
(2)扉体の強制起立作動
図1(a)、図2(a)、図3(a)に示すとおり、下流側水位の無い状態においては、可動アーム10は全倒伏状態にあり、扉体2も全倒伏状態となっており、通水部を全開放する。この状態では、扉体2は、前述のとおり水位変動に対応した自動起立、自動倒伏作動をする。
扉体2上に土砂堆積等が発生し、扉体2の適切な自動作動が困難となった場合あるいは設備の保守・点検時には、扉体2を強制的に起立作動させるため、図1(b)、図2(b)、図3(b)に示すとおり、ワイヤーロープ13を操作装置15で巻き取って可動アーム10を強制的に起立作動すると、可動アーム10が扉体2の側部に固定設置されたローラ8に当接し可動アーム10の起立に伴って扉体2が押し上げられて強制起立作動し、通水部を全閉鎖させて逆流発生を防止する。
また、設備の保守・点検時には、扉体2を強制的に起立作動させ、扉体、支承装置、戸当り金物や水路状態の確認、清掃を行うことができる。
以上のように、通常は水位変化に自在に自動起立・倒伏作動させ、任意操作によって確実に扉体を強制起立作動させることが可能である。
【符号の説明】
【0025】
1:樋管
2:扉体
3:下部戸当金物
4:側部戸当金物
5:上部戸当金物
6:ヒンジ
7:扉体支持台
8:ローラ
9:ワイヤーロープ
10:可動アーム
11:可動アームのヒンジ
12:休止台
13:ワイヤーロープ
14:転向滑車
15:操作装置
21:下流側水位
22:上流側水位
23:転向滑車
24:ワイヤーロープ連結部
25:ワイヤー巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樋管に水路河床部ヒンジ方式で設置され、河川水位の変動に対して自動的に扉体が起立作動・倒伏作動して樋管通水断面を開放および閉鎖する浮体式起伏ゲート設備において、
前記扉体と同一水路内に前記扉体の側部と側部戸当金物部の間に独立してヒンジ方式で起立・倒伏作動可能な可動アームが設置され、
前記可動アームは操作装置による巻き取り及び巻き出しにより前記可動アームを起立作動・倒伏作動させるワイヤーロープに連結され、
前記扉体の側部には、起立作動する前記可動アームに当接し押し上げられて前記扉体を起立作動させる押上部材が設けられていることを特徴とする浮体式起伏型ゲート設備。
【請求項2】
前記可動アームのヒンジ部を前記側部戸当金物部に設置したことを特徴とする請求項1記載の浮体式起伏型ゲート設備。
【請求項3】
前記押上部材が前記可動アームに当接して押し上げられるローラであることを特徴とする請求項1記載の浮体式起伏型ゲート設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76294(P2013−76294A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217670(P2011−217670)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(594148645)株式会社協和製作所 (10)
【Fターム(参考)】