説明

浮屋根の減揺装置

【課題】 浮屋根の揺動に対して大きな減揺効果を得られるようにする。
【解決手段】 浮屋根式タンク10は、液体14を貯留するタンク本体12の底部に揺動自在であって一方の面と他方の面を有する揺動抑制板が設けられている。索状体24は、一端を液体の表面に浮かべた浮屋根18の側縁部の揺動抑制板22の他方の面側に接続し、他端を揺動抑制板22の上部に接続している。ストッパー26は、一方の面側に傾斜する揺動抑制板22を係止させている。浮屋根18の揺動を索状体24に作用する張力として揺動抑制板22の一方の面に伝達し、揺動抑制板22他方の面側で揺動抑制板22を起伏させるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を屋外に保管する浮屋根式のタンクに対し、地震などにより発生する液体の揺動(スロッシング)を低減する浮屋根の減揺装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に原油やナフサなどの液体を屋外に保管する大型のタンクとして、浮屋根式タンクが知られている。浮屋根式タンクは、屋根がなく上部が開口した円筒形状等のタンク本体内に貯留した原油などの液体の液面に浮屋根と呼ばれる蓋を浮かべ、浮屋根とタンク本体との間にシール材を配置して原油などが蒸発するのを防止している。浮屋根は、タンク本体内の液体の増減に伴う液面の変動に伴って、タンク本体内を上下動するようになっている。この浮屋根式タンクは、中の液体が減少したとしても原油やナフサなどが空気に触れることがないため、火災の発生などの危険を避けることができる。
【0003】
ところが、地震が発生してタンクが揺れると、タンク内の液体の揺動(スロッシング)に伴って浮屋根も揺動する。特に、タンクに数秒から10数秒の揺れが作用すると、タンク内液体の揺動の固有周期と一致して共振状態となり、液面が大きく揺動する。このため、タンク内に多量の原油などが貯留されている場合に、液面の大きな揺動によって浮屋根が大きく傾斜し、原油などがタンクからこぼれたり、浮屋根がタンク本体に設けた付属物と衝突して破損したり、衝突した際に火花が発生して火災になったりする。
【0004】
このため、浮屋根の揺動を防止する装置が種々考えられており、例えばヒンジを介して上下方向に折りたためる制水板を複数配置してタンク内を仕切ってタンク内に生ずる液圧を小さくするようにしたもの(特許文献1)、浮屋根にワイヤを吊るし、ワイヤに水平方向に平らな板からなる抵抗体を取り付けて液体の揺動を抑制するもの(特許文献2)、タンク内部の浮屋根から多孔の幕を複数枚吊下げて、揺動する液体が孔を通過する際の粘性抵抗によって液体の揺動を吸収しているもの(特許文献3)などがある。
【特許文献1】特開昭57−142892号公報
【特許文献2】特開平9−142575号公報
【特許文献3】特開昭56−106785号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタンクの液面動揺防止装置は、タンク内を仕切って揺動しうる液体の量を少なくしているために、液面の揺動が従来より小さくなることが期待される。しかし、特許文献1に記載のものは、浮屋根の縁部(端部)が拘束されていないために、浮屋根の揺動を充分に抑制することができない。また、特許文献2に記載のタンクは、抵抗体が水平方向に平らな板状体からなっており、ワイヤの下端が固定されていないため、抵抗体により液体の揺動を阻止することができずに液面が大きく揺動し、浮屋根も大きく揺動するおそれがある。特許文献3に記載の揺動防止方法は、浮屋根から複数の幕を吊下げた構成としており、液体の揺動が大きくなるとタンク内部に複数設置した浮屋根の排水設備などの附帯設備と接触して破損するおそれがある。
本発明は、前記従来技術の欠点を解消するためになされたもので、浮屋根の揺動に対して大きな減揺効果を得られるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る浮屋根の起伏装置は、液体を貯留する浮屋根式タンクのタンク本体の底部に起伏自在に設けられ、一方の面と他方の面を有する揺動抑制板と、一端を前記液体の表面に浮かべた浮屋根の側縁部の前記揺動抑制板の前記他方の面側に接続し、他端を前記揺動抑制板の上部に接続した索状体と、前記一方の面側に傾斜する前記揺動抑制板を係止させるストッパーを備え、前記浮屋根の揺動を前記索状体に作用する張力として前記揺動抑制板の前記一方の面から伝達し、前記揺動抑制板の他方の面側で前記揺動抑制板を起伏させるようにしたことを特徴としている。
【0007】
前記ストッパーは、前記揺動抑制板の一方の面に複数形成されているとよい。また、前記揺動抑制板は、前記ストッパーを配置した前記揺動抑制板の一方の面側の領域に複数配設されているとよい。
【発明の効果】
【0008】
上記のようになっている本発明は、揺動抑制板はストッパーを用いることにより浮屋根の下降とともに揺動抑制板の倒れる方向が限定されるため、ストッパーによって揺動抑制板が倒れない側の空いたスペースに他の揺動抑制板あるいはタンク内部の附帯設備を設置することができる。また複数の揺動抑制板を組み合わせることにより、タンク本体に作用する複数の方向の地震加速度を効果的に抑制することができる。また地震の加速度がタンク本体に作用すると、タンク本体内の液体が地震の加速度方向と逆側に移動したと同様の効果を生じ、タンク本体の一側の表面が盛り上がる。このため、浮屋根は、一側が上昇して他側が下降しようとする。このとき、浮屋根の一側に接続した索状体が、浮屋根の上昇に伴って他端に接続した揺動抑制板を一方に倒すように牽引して液体の揺動を阻止、または地震の振動方向と異なる方向に揺動させる。このため、タンク本体の一側に作用する液体の圧力が小さくなるとともに、浮屋根の一側の上昇が液体の移動を阻止する揺動抑制板によって引き戻される力を受ける。このため、浮屋根の揺動が抑制され、液体の揺動を低減することができ、大きな減揺効果を得ることができる。
【0009】
ストッパーは揺動抑制板の複数箇所を係止するように分散形成している。このため揺動抑制板の一箇所に局部的に応力が集中することを防止し、複数点で係止することにより応力が分散されるため、抑制板の破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る浮屋根の減揺装置の好ましい実施の形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る浮屋根の減揺装置の説明図である。図1において、浮屋根式タンク10は、タンク本体12の内部に原油などの液体14を貯留するようになっている。液体14の液面16には、浮屋根18を浮かべるようになっている。浮屋根式タンク10は、タンク本体12と浮屋根18との間に図示しないシール部材が配設してあって、タンク本体12に貯留した液体14が蒸発するのを防止するようになっている。また、タンク本体12の内部には、浮屋根18の揺動を低減させるための減揺装置20が設けてある。
【0011】
減揺装置20は、揺動抑制板22、索状体24、ストッパー26、プーリ30(30a、30b)を有している。揺動抑制板22は、ヒンジ32を介してタンク本体12の底板に取り付けてあって、矢印34a、34bに示したように、左右のどちら方向にも揺動自在となっている。なお説明の便宜上矢印34bに倒れる側を一方の面とし矢印34aに倒れる側を他方の面とする。揺動抑制板22は、下方を索状体24を通すことができるように、底板からやや浮かせた状態で取り付けてある。そして、揺動抑制板22は、上端がワイヤロープなどの引起し部材36を介して浮屋根18の下面に接続してある。引起し部材36は、タンク本体12内の液体14が引き抜かれ、浮屋根18が矢印34a方向に下降して揺動抑制板22が倒れた場合に、タンク本体12の内部に液体14を注入して浮屋根18を上昇させることにより、揺動抑制板22を引き起こすためのものである。
【0012】
索状体24は、屈曲可能なワイヤロープ、索などから形成してある。索状体24は、一端が浮屋根18の揺動抑制板22に対して他方の面側の縁部となる浮体部38の下部に接続具(図示せず)を介して接続してある。プーリ30a、30bは、ガイド部材を構成していて、索状体24を掛け渡すようになっている。プーリ30aは、タンク本体12の下部であって、索状体24を接続した接続具のほぼ真下に取り付けてある。そして、索状体24は、中間部をプーリ30aに掛けられ、揺動抑制板22の下を通されてプーリ30bに掛けられる。索状体24の他端は、揺動抑制板22の上部に接続してある。
【0013】
ストッパー26は、図2(1)に示すように斜面27を有した支持台である。ストッパー26は、索状体24の端部が接続し揺動抑制板22に張力が作用して矢印34b(一方の面側)の方向、すなわちプーリ30b側に引っ張られる側の揺動抑制板22の側部付近に立設してある。また図2(2)に示すように斜面27は傾斜する揺動抑制板22と面で接する角度に形成してある。
【0014】
このようになっている実施形態の減揺装置20の作用は、次のとおりである。いま、図3に示したように、地震加速度50が図の左方向に作用した場合、タンク本体12は、左方向に移動する力を受け、タンク本体12内の液体14が実質的に右へ移動したと同様の効果を生じ、タンク本体12の右側内面に押し付けられる。このため、タンク本体12内の右側部分の圧力が高くなって液面16が上昇し、左側部分の圧力が低くなって液面16が低下する。したがって、浮屋根18は、矢印に示したように回転モーメント54が作用し、液面16の変化に伴って右側が上昇し、左側が下降する。
【0015】
浮屋根18の右側が上昇すると、この部分に接続した索状体24を引き、索状体24に大きな張力52を与える。そして、索状体24に生じた大きな張力52は、索状体24の他端側に伝達され、揺動抑制板22の上端を図3の左方向に引き、揺動抑制板22を反時計方向に回動させ、揺動抑制板22の左側に存在する液体14が右方向に移動するのを阻止する。このため、浮屋根18を反時計方向に回転させようとする回転モーメント54が小さくなり、浮屋根18の揺動を抑制することができる。
【0016】
一方、図4に示したように、浮屋根18が矢印56のように回転し、揺動抑制板22が反時計方向に回動すると、揺動抑制板22の左側の液体14は、揺動抑制板22の左側の面に大きな圧力を与え、一部が揺動抑制板22を超えて揺動抑制板22の右側に移動する。このため、タンク本体12の内部は、揺動抑制板22の左側の圧力が高くなり、右側の圧力が低下する。したがって、揺動抑制板22は、矢印58に示したように、右方向に押される力を受け、索状体24に大きな張力を与える。このため、索状体24に作用する大きな張力は、索状体24を接続した浮屋根18の右側部分を下方に引き、浮屋根18に矢印に示した大きな反力モーメント60を与える。したがって、浮屋根18の揺動が抑制され、大きな減揺効果を得ることができる。地震加速度が逆方向に作用した場合も同様である。
【0017】
なお静止状態から地震加速度が図3の右方向に作用した場合、揺動抑制板22は反時計方向に傾きストッパー26によって係止させられる。しかしながら揺動抑制板22は浮屋根18と索状体を介して連動していないため地震加速度が右方向から作用した場合には浮屋根18の揺動を抑制することができない。このように揺動抑制板22は一方の面側に作用する索状体24の張力あるいは液体の流れに対し揺動を抑制する効果がある。またストッパー26の係止により揺動抑制板22が一方の面側に倒れることがないので空いたスペースを確保することができる。この空いたスペースにタンク本体12に設置する他の附帯設備を配置することによってタンク本体内部のスペースを有効することができる。
【0018】
このように実施形態に係る揺動抑制板22は、傾倒方向が決まっているとともに、揺動を抑制する方向も決まっている。このためタンク本体12に複数配置することが望ましい。そこで図5に示したように、タンク本体12を中心として第1象限から第4象限のそれぞれに1つずつ配設するとよい。各象限に配設した揺動抑制板22(22A〜22D)のそれぞれは、隣接する揺動抑制板22の長手方向が相互に直交するように配設してある。そして、各揺動抑制板22は、図6、図7に示したように、下端42がタンク本体12の底板44との間に間隙46を有するように取り付けてあり、この間隙46に索状体24を通すことができるようになっている。そして、各揺動抑制板22の上端には、索状体24を接続するための連結具48が設けてある。またストッパー26は各揺動抑制板22の一方の面に2個配置してある。このようにストッパー26は揺動抑制板22の形状、大きさに基づいて複数形成するとよい。これによりストッパー26の係止によって揺動抑制板22に作用する推進力に対する応力が一点に集中することを防止して、この応力を分散させることができる。
【0019】
なお、図6はタンク本体12の内部を図2の右側から見た揺動抑制板22の配置状態を模式的に示したものであり、図7はタンク本体12の内部を図2の下側から見た揺動抑制板22の配置状態を模式的に示したものである。
【0020】
前記実施形態においては、揺動抑制板22をタンク本体12の中心に対して各象限のそれぞれに1つずつ配設した場合について説明したが、数や大きさ、向き、索状体の連結方向などはこれに限定されない。
【0021】
図8は、実施形態の減揺装置20を設けた浮屋根式タンク10と、減揺装置を有していない従来の浮屋根式タンクとの浮屋根の揺動状態の実験の比較結果である。いずれもタンク本体12の直径が80m、高さが20mであり、内部に水を満たして加振実験を行ない、加振周期と浮屋根端部の上下変位との関係を求めた。タンク本体に作用させた加振変位は0.1mである。そして、図8は、横軸が加振周期を秒で示し、縦軸が浮屋根端部の上下変位をmで示したものである。
【0022】
図8に示した△は従来の浮屋根式タンクに対する実験結果であり、■は第1実施形態に係る減揺装置20を備えた浮屋根式タンクに対する実験結果である。図8に示されているように、従来の浮屋根式タンクの場合、加振周期が11秒のときに、浮屋根は端部の上下変位が4mを超える揺動を示したが、減揺装置20を備えた浮屋根はほとんど揺動することがなかった。
【0023】
このような減揺装置では、浮屋根の索状体の一端が接続され他側が上昇すると、揺動抑制板が索状体によって一方の面側に引かれて液体の揺動を阻止し、液体から受ける圧力によって浮屋根に上昇を阻止する力を作用させる。このため、浮屋根の大きな揺動抑制力を与えることができ、大きな減揺効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態にかかる浮屋根の減揺装置の説明図である。
【図2】実施の形態に係るストッパーの説明図である。
【図3】実施の形態に係る減揺装置を設けたことによる浮屋根に作用する回転モーメントの説明図である。
【図4】実施の形態に係る減揺装置を設けたことによる浮屋根に作用する反力モーメントの説明図である。
【図5】実施の形態に係る揺動抑制板の配置状態の説明図である。
【図6】実施の形態に係るタンク本体の内部を図5の右側から見た揺動抑制板の配置状態を模式的に示した図である。
【図7】実施の形態に係るタンク本体の内部を図5の下側から見た揺動抑制板の配置状態を模式的に示した図である。
【図8】実施形態と従来例との浮屋根の加振周期に対する浮屋根の端部の上下変動を比較した図である。
【符号の説明】
【0025】
10………浮屋根式タンク、12………タンク本体、16………液面、18………浮屋根、20………減揺装置、22………揺動抑制板、24………索状体、26………ストッパー、30a、30b………ガイド部材(プーリ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する浮屋根式タンクのタンク本体の底部に起伏自在に設けられ、一方の面と他方の面を有する揺動抑制板と、
一端を前記液体の表面に浮かべた浮屋根の側縁部の前記揺動抑制板の前記他方の面側に接続し、他端を前記揺動抑制板の上部に接続した索状体と、
前記一方の面側に傾斜する前記揺動抑制板を係止させるストッパーを備え、
前記浮屋根の揺動を前記索状体に作用する張力として前記揺動抑制板の前記一方の面から伝達し、前記揺動抑制板の他方の面側で前記揺動抑制板を起伏させるようにしたことを特徴とする浮屋根の減揺装置。
【請求項2】
請求項1に記載の浮屋根の減揺装置において、
前記ストッパーは、前記揺動抑制板の一方の面に複数形成されていることを特徴とする浮屋根の減揺装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の浮屋根の減揺装置において、
前記揺動抑制板は、前記ストッパーを配置した前記揺動抑制板の一方の面側の領域に複数配設されていることを特徴とする浮屋根の減揺装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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