説明

浮屋根ポンツーン構造

【課題】 浮屋根式貯槽の浮屋根のポンツーンの溶接及び検査を確実に施工できる構造にして、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に損傷などすることなく、またポンツーン内に貯蔵液体が浸入し、浮力の低減をきたして傾くことがなく、沈没などすることがないようにした安全性及び信頼性に優れた浮屋根ポンツーンの構造を提供する。
【解決手段】 浮屋根式貯槽の浮屋根において、浮屋根のポンツーンの外周側に直立する壁体の外リム板は、垂直上下方向に延出し、下端縁より上方位置にポンツーン底板の外周縁をT形に突合わせて溶着したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、浮屋根式貯槽の浮屋根が、貯蔵液の変動や強風・地震等によって揺動した際に、浮屋根を構成するポンツーンの外リム板とポンツーン底板の溶着部が過大な荷重を受けて損傷しないようにするために、この溶着部の施工及び検査をより確実かつ適正にするようにして、耐久性と安全性を配慮した浮屋根ポンツーン構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型の浮屋根式貯槽は、円形平板の底板と円筒体形状の側板と、この側板内部の貯蔵液の液面上に浮べた浮蓋状の浮屋根とから形成されている。
浮屋根の外周近傍を、図5に拡大して示す。この浮屋根は、貯蔵液体の蒸発を抑制するとともに貯蔵液体への雨水や異物の混入を防止するように、中央部のデッキ板6と、その外周の浮体、つまりポンツーン7とから形成されている。このポンツーン7の外周と側板3の内面との間隙、シール間隔部Xには、図示を省略するがシール装置とその上部に雨よけ板が設けられている。
【0003】
図5に示す従来例のポンツーン7は、垂直に立設した外リム板11と内リム板12、及びポンツーン底板13とポンツーン頂板14からなり、外リム板11はポンツーン底板13の上面に垂直逆T字状に内外周を溶接部25、26によって溶着されていた。
この際に、外リム板11の二点鎖線で示す外周側の溶接部26は、外側の側板3に近接していてシール間隔部Xが狭いため、手が届くのがやっとで溶接がやり難く作業能率が低下し、手と目が届かないため、確実な溶接施工と確実な検査ができなかった。
なお、図5はシングルデッキ構造の浮屋根の場合を示しているが、ダブルデッキ構造の浮屋根の場合も同様に、シール間隔部Xが狭いため、溶接がやり難く作業能率が低下し、確実な溶接施工と確実な検査ができなかった。
【0004】
上記図5に示す浮屋根式貯槽の従来技術の発明・考案には、例えば、実公昭51−43451号(特許文献1参照)の「浮屋根の沈没防止装置」の考案がある。
この特許文献1「浮屋根の沈没防止装置」の考案は、その第3図及び第4図に示されているように、浮屋根の屋根板1に周設したポンツーン側壁の内側下部コーナー部の挟角α内に、帯状金属板3を渡設し、溶接部にかかる応力に耐え、亀裂に起因する漏液をなくすとともに、浮屋根の沈没防止効果を発揮するようにしたものである。
【0005】
さらに、浮屋根式貯槽のポンツーンの構造に関する発明には、例えば、特願2004−224133号(特許文献2参照)「シングルデッキ構造浮屋根の補強構造」の発明がある。
この特許文献2の「シングルデッキ構造浮屋根の補強構造」の発明は、その第2図に示されているように、浮屋根のポンツーン7の内部に、浮屋根の撓み剛性を増加させる如く、梁材と柱材及び斜材を組合せた補強トラスを設けたものである。
【0006】
【特許文献1】実公昭51−43451号
【特許文献2】特願2004−224133号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来例の図5に示すポンツーン7の外リム板11とポンツーン底板13の逆T字形状継手部の溶接部のうち、内周側の溶接部25は内側から連続すみ肉溶接ができるが、外周側の溶接部26は外側の側板3に近接していてシール間隔部Xが狭いため、手が届くのがやっとで間欠的な断続溶接が行われ、手と目が届かず確実な検査ができないため、地震や強風などで浮屋根が揺動した場合に損傷する恐れがあった。
そして、この損傷部からポンツーン内に貯蔵液が浸入して、浮屋根5の傾きや浮力の低下による沈没などを来す心配があった。
【0008】
上記特許文献1の従来技術の実公昭51−43451号「浮屋根の沈没防止装置」の考案におけるポンツーンは、内部下コーナー部の挟角α内に帯状金属板3を渡設しているので、溶接部にかかる応力に耐え、亀裂に起因する漏液をなくすことができるが、内外コーナー溶接部のメンテナンスや漏洩の検査をすることができなかった。
そのため、地震などによって曲げなどの荷重を受けて接合部に損傷を受けた場合に、溶接部の補修をすることができなかった。
【0009】
また、上記特許文献2のポンツーンの構造に関する、特願2004−224133号「シングルデッキ構造浮屋根の補強構造」の発明は、梁材と柱材及び斜材を組合せた補強トラスによってポンツーン7の撓み剛性を増加させることはできるが、外リム板の外周コーナー部の溶接施工と検査を十分に行うことができず、貯液の揺動やスロッシングに対して耐久性を得ることは難しかった。
【0010】
この発明の目的は、上述の従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、浮屋根式貯槽の浮屋根のポンツーンの溶接及び検査を確実に施工できる構造にして、強風や地震等で貯蔵液体が揺動した際に損傷などすることなく、ポンツーン内に貯蔵液体が浸入し、浮力の低減をきたして傾くことがなく、沈没などすることがないようにした安全性及び信頼性に優れた浮屋根ポンツーンの構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の浮屋根ポンツーン構造は、浮屋根式貯槽の浮屋根において、浮屋根のポンツーンの外周側に直立する壁体の外リム板は、垂直上下方向に延出し、下端縁より上方位置にポンツーン底板の外周縁をT形に突合わせて溶着したものである。
【0012】
請求項2の浮屋根ポンツーン構造は、ポンツーンの外リム板の下端縁より上方位置に補強リングを溶着し、該補強リングの水平延出部にポンツーン底板の外周部を溶着したものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の浮屋根ポンツーン構造は、浮屋根式貯槽の浮屋根において、浮屋根のポンツーンの外周側に直立する壁体の外リム板は、垂直上下方向に延出し、下端縁より上方位置にポンツーン底板の外周縁をT形に突合わせて溶着したので、上下から連続すみ肉溶接ができ検査も確実にできるので健全性が確保され、貯蔵液の揺動に対して、耐久性や安定性に優れた浮屋根ポンツーン構造となる。また、外リム板の下端縁を下方に延出しているので、液面が大きく揺動しても水封が切れないように働くため、ポンツーン底板の負圧と荷重を低減し、ポンツーンの損傷を防止することができる。
【0014】
請求項2の浮屋根ポンツーン構造は、ポンツーンの外リム板の下端縁より上方位置に補強リングを溶着し、該補強リングの水平延出部にポンツーン底板の外周部を溶着したので、外リム板とポンツーン底板の接合部は、補強リングを介して大きな荷重を受けることなく、液の大きな揺動に対しても損傷などすることなく、強風や地震等で大きく液面が揺動しても強い構造となる。また、外リム板への補強リングの溶着及び検査は、予め工場或いは現場の広い場所で、外リム板を両側から連続すみ肉溶接で溶着し、検査を行うと作業性良く施工することができるため、溶接健全性が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明に係る浮屋根構造の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。
図1はこの発明に係る浮屋根のポンツーン構造を示す浮屋根式貯槽全体の側断面図、図2乃至図4はポンツーン構造の部分拡大図である。
図2は、ポンツーン構造の第1の実施形態例で、シングルデッキ構造の外周ポンツーンの外リム板にポンツーン底板をT形に突合わせて溶着した場合を示す。
図3は、ポンツーン構造の第1の実施形態例で、ダブルデッキ構造の外側ポンツーンの外リム板にポンツーン底板をT形に突合わせて溶着した場合を示す。
図4は、ポンツーン構造の第2の実施形態例で、ポンツーンの外リム板に補強リングを溶着した場合を示す。
なお、主要な溶着箇所には、塗り潰しのマーキングを施している。
【0016】
図1に示すように、原油その他の揮発性・可燃性液体を貯蔵する大型の浮屋根式貯槽本
体1は、円形平板の底板2と円筒体形状の側板3と、この側板3内部の貯蔵液4の液面上
に浮べた浮蓋状の浮屋根5とから形成されている。
この浮屋根5は、薄板鋼板のデッキ板6と、このデッキ板6の外周部の環状のポンツーン7とから形成され、このポンツーン7と側板3内面との間隙を気密に保持するシール装置8と、その上部に雨よけ板9が設けられている。
なお、浮屋根5は、図のような一枚板のデッキ板6からなるシングルデッキ構造と、図示はしないが上下に隔離した二枚板からなるダブルデッキ構造とがあるが、ダブルデッキ構造の場合にも本願のポンツーン構造を適用することができる。
10は、浮屋根5上に降る雨水をデッキ板6の中心部に集め貯槽外部へ排水するルーフドレンである。
【0017】
図2はシングルデッキ構造の浮屋根の場合を示し、12は内リム板、13はポンツーン底板、14はポンツーン頂板、16は頂板の溶着部、17は底板の溶着部である。
図3はダブルデッキ構造の浮屋根の場合を示し、6Aは下部デッキ板、6Bは上部デッキ板、7Aは外側ポンツーン、7Bは中間ポンツーン、7Cは中央ポンツーンである。
上記外側ポンツーン7Aにおいて、13Aはポンツーン底板、14Aはポンツーン頂板、16Aは頂板の溶着部を示す。
図2及び図3に示すように、ポンツーンの外リム板11にポンツーン底板13、13Aの外周端縁をT形に突合わせて上下から溶着部15、15Aにて溶着する。
このように、ポンツーン底板13、13Aの外周端縁を外リム板11へT形に突合わせて溶着部15、15Aにて上下から連続すみ肉溶接ができるとともに、検査も確実にできるので継手部の健全性が確保される。
【0018】
また、図2及び図3のように、外リム板11の下方の先端縁を延出させて延長スカート部11Aに形成する。
このように、外リム板11の下方先端縁を延長スカート部11Aに形成することにより、強風や地震等によって液面が大きく揺動しても水封が切れないように働くため、ポンツーン底板13、13Aにかかる負圧と荷重を低減し、ポンツーン7、7Aの損傷を防止することができる。
【0019】
図4はポンツーン構造の第2の実施形態例で、ポンツーン7の外リム板11に補強リング20をT形に突合わせて、溶着部20Aにて上下からすみ肉溶接によって溶着する。
補強リング20は、ポンツーン底板13の板厚よりも厚い板材または成形材を用いる。この補強リング20に、ポンツーン底板13を溶着部21にて溶着する。
なお、図示例はシングルデッキ構造の場合を示したが、ダブルデッキ構造の場合にも同様に、外リム板に補強リングをT形に突合わせて溶着する。
【0020】
上記のように、板厚の厚い補強リング20を設けることにより、外リム板11とポンツーン底板13の接合部は、補強リング20を介して大きな荷重を受けることなく、液の大きな揺動に対しても損傷などすることなく、強風や地震等で大きく液面が揺動しても強い構造となる。
また、補強リング20は、予め工場或いは現場の広い場所で、外リム板11に両側から連続すみ肉溶接によって溶着部20Aを溶着した場合には、作業性良く溶接施工することができかつ検査も確実にできるため、溶接の健全性が向上し、ポンツーン及びその接続部の強度が高まり、強風や地震等による貯蔵液の揺動に対して損傷を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
この発明の浮屋根ポンツーン構造は、新規貯槽のみならず既設貯槽の浮屋根ポンツーンの改造にも適用することができ、既設貯槽の浮屋根のポンツーンの接合部を改造補修することによって、耐震強度を向上させて、耐久性、安全性に優れた浮屋根にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明に係る浮屋根のポンツーン構造を示す全体の側断面説明図である。
【図2】この発明に係るポンツーン構造の第1の実施形態例で、シングルデッキ構造の場合の外リム板にポンツーン底板をT形に突合わせて溶着した場合を示す側断面説明図である。
【図3】この発明に係るポンツーン構造の第1の実施形態例で、ダブルデッキ構造の場合の外リム板にポンツーン底板をT形に突合わせて溶着した場合を示す側断面説明図である。
【図4】ポンツーン構造の第2の実施形態例で、ポンツーンの外リム板に補強リングを溶着した場合を示す側断面説明図である。
【図5】従来例の浮屋根式貯槽の浮屋根のポンツーンを示す側断面説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 浮屋根式貯槽本体
2 底板
3 側板
4 貯蔵液
5 浮屋根
6 デッキ板
6A 下部デッキ板
6B 上部デッキ板
7 ポンツーン
7A 外側ポンツーン
7B 中間ポンツーン
7C 中央ポンツーン
8 シール装置
9 雨よけ板
10 ルーフドレン
11 外リム板
11A 延長スカート部
12 内リム板
13、13A ポンツーン底板
14、14A ポンツーン頂板
15、15A 溶着部
16、16A 溶着部
17 溶着部
20 補強リング
20A 溶着部
21 溶着部

25 内周側の溶着部
26 外周側の溶着部

X シール間隔部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮屋根式貯槽の浮屋根において、浮屋根のポンツーンの外周側に直立する壁体の外リム板は、垂直上下方向に延出し、下端縁より上方位置にポンツーン底板の外周縁をT形に突合わせて溶着したことを特徴とする浮屋根ポンツーン構造。
【請求項2】
ポンツーンの外リム板の下端縁より上方位置に補強リングを溶着し、該補強リングの水平延出部にポンツーン底板の外周部を溶着したことを特徴とする浮屋根ポンツーン構造。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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