説明

浮消波装置

【解決手段】水面上に浮揚する単一平板状の浮体1の下方に、上下に貫通する孔3a,3aが開孔率35%で多数形成された制御板3を、入射波の方向に水平に対して6°〜15°傾斜させて配置する。このように構成された単体の浮消波装置Aを、所定数量つなぎ合せて係留する。
【効果】構造が極めて簡易で安価でありながら、極めて良好な消波性能を発揮する。単体の浮消波装置Aを出来る限り小さくできるので、輸送・設置その他の作業上極めて有利である。この単体の浮消波装置A,Aを所定数量つなぎ合せて係留することにより、極めて広い水域での消波効果を充分期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面上に浮揚する浮体の下方に制御板を備え、この制御板により良好な消波性能を発揮する浮消波装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な水域において波を減衰させる手段として、様々な構造の浮消波装置が提案され、あるいは、実施されている。
これらの多くは、例えば特許文献1に示すように、多段式の消波板を設け、各消波板を垂直方向の水柱で連結して消波性能を発揮するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−107334号公報(特許請求の範囲、0013段落、図1,図2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記先行技術などに見られる一般的なものは、構造が極めて複雑であり、コストも高いという欠点を有している。
【0005】
本発明は、この欠点を解消するために、浮消波装置の構造を簡易かつ安価なものにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、水面上に浮揚する単一平板状の浮体の下方に、上下に貫通する孔が多数形成された制御板を入射波の方向に傾斜させて配置する。
このような構成とすることにより、構造が極めて簡易で安価でありながら、極めて良好な消波性能を発揮する。
【0007】
単一平板状の浮体の下方に、上下に貫通する孔が多数形成された制御板を入射波の方向に傾斜させて配置し、このように構成された単体の浮消波装置を、所定数量つなぎ合せて係留することができる。
このようにすると、単体の浮消波装置を出来る限り小さくできるので、輸送・設置その他の作業上極めて有利である。そして、この単体の浮消波装置を所定数量つなぎ合せて係留することにより、極めて広い水域での消波効果を充分期待できる。
【0008】
制御板の開孔率を35%とするのが望ましい。制御板の開孔率をこの数値とすれば、開孔率0の場合に比べてより効果的な消波性能を発揮する。
【0009】
入射波の方向に傾斜させた制御板の傾斜角度を、水平に対して6°〜15°とするのが望ましい。制御板をこの範囲内の角度で傾斜させると、さらに効果的な消波性能を発揮する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、構造が極めて簡易で安価でありながら、極めて良好な消波性能を発揮する。
【0011】
請求項2記載の発明によれば、単体の浮消波装置を出来る限り小さくできるので、輸送・設置その他の作業上極めて有利である。そして、この単体の浮消波装置を所定数量つなぎ合せて係留することにより、極めて広い水域での消波効果を充分期待できる。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、開孔率ゼロの場合に比べてより効果的な消波性能を発揮する。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、さらに効果的な消波性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】単体の浮消波装置の一例を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図2】制御板の一例を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図3】図1に示す単体の浮消波装置同士をつなぎ合せた場合の一例を示す平面図で、(a)は2つの浮消波装置をつなぎ合わせた一例を、(b)はそれらを多数つなぎ合せた一例を示す。
【図4】図1に示す単体の浮消波装置同士をつなぎ合せた場合の別の例を示すもので、(a)は2つの浮消波装置をつなぎ合わせた一例を示す平面図、(b)はその一部を表わす正面図、(c)は側面図である。
【図5】図1に示す単体の浮消波装置を多数つなぎ合せて係留した一例を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図で、一部拡大した部分では係留索を省略して示す。
【図6】本発明による浮消波装置の消波効果を表わすグラフであって、(a)は制御板の傾斜角度が6°の場合を、(b)は制御板の傾斜角度が15°の場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
図1(b)、(c)においてSで示す水面上に浮揚する単一平板状の浮体1の下方であって、この浮体1の四隅のうち前側と後側とで長さが異なるように下方に延び出させてある左右一対の取付腕2a,2a及び2b,2b間に、上下に貫通する孔3aが多数形成された1枚の制御板3を入射波の方向に傾斜させて、すなわち、前側の長い取付腕2a,2a側において前下がりとなるように配置する。そして、ボルトとナットその他の固定具(図示しない)により、前側左右の取付腕2a,2aと後側左右の取付腕2b,2bに1枚の制御板3を取り付ける。
ここに、入射波の方向とは、図1(c)、図3(a)、図4(c)、図5(a)、(c)において矢印で示す方向をいう。
【0016】
ここでは、図1(a)に示すように、浮体1が正方形である場合を例示し、正方形のこの浮体1の下方において左右の幅W、長さLの1枚の制御板3が入射波の方向に傾斜させて配置されている。
そして、この制御板3の平坦面には、図2(a)に示すように、1列10個の18列で合計180個の同じ大きさの丸い孔3a,3aが多数形成されている。なお、浮体1はポリエチレン製、取付腕2a,2a、2b,2bおよび制御板3はステンレス鋼製とすることができる。
【0017】
前記制御板3の四周縁は、図2(b)に示すように、下側に向けて折曲されており、前側左右の長い取付腕2a,2aに取り付けられる部分には、左右一対の横長状の取付孔3b,3bが、また、後側左右の短い取付腕2b,2bに取り付けられる部分には、左右一対の丸い取付孔3c,3cが形成してあって、前側左右の取付腕2a,2aと後側左右の取付腕2b,2bへの前記固定具による制御板3の斜めの取り付けと、制御板3の傾斜角度の変更が容易になるように工夫してある(これについては、後述する)。
【0018】
一方、前記前側左右の取付腕2a,2aと後側左右の取付腕2b,2bには、浮体1の下面近くにおいて、左右両側に突出する係留環4,4が取り付けてある。また、前記前側左右の取付腕2a,2a間及び前記後側左右の取付腕2b,2b間に跨るように、取付杆5,5が配置されている。さらに、前記浮体1の上面の前側と後側とにおいて、左右方向に別の取付杆6,6が配置されている。
【0019】
そして、浮体1の左右両側において、前側の取付杆5から浮体1の上面に位置する前側の取付杆6にわたって、また、後側の取付杆5と浮体1の上面に位置する後側の取付杆6にわたって、アイナット7aを介してチェン7を渡し掛け、さらに、浮体1の中央においては、前側の取付杆5から浮体1の上面に位置する前側の取付杆6を経て、浮体1の上面に位置する後側の取付杆6から後側の取付杆5にわたってチェン7を渡し掛け、各チェン7によって浮体1を締め付けることができるようにしてある。
これにより、1枚の制御板3を取り付けた前側左右の取付腕2a,2a及び後側左右の取付腕2b,2bから浮体1が離脱しないようにするとともに、単体の浮消波装置Aをチェンまたはロープなどの係留索に繋ぐことができる。
【0020】
このように構成された単体の浮消波装置Aは、制御板3が所定の大きさを有する大型の場合には、これ一基を係留することである程度の広さの水域での消波効果を期待できる。
一方、浮体1や制御板3が余り大きいものでない場合には、例えば、輸送その他の面を考慮して浮体1を縦・横とも2m程度、制御板3の幅Wを1.88m、長さLを2.1m程度に構成した場合には、図5(a)に示すように、前記単体の浮消波装置Aを所定数量つなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’とし、長く連結されたこの浮消波装置A’を係留することで極めて広い水域での消波効果を充分期待できる。
【0021】
例えば、図1(a)に示す単体の浮消波装置Aの場合のように、左右両側から係留環4,4を突出させてある場合には、図3に示すように、隣り合う浮消波装置A,Aの係留環4,4を利用して連結具8で隣り合う浮消波装置A,Aを順次連結することにより、図3(b)、図5(a)に示すように、両図の左右方向に所定数量の浮消波装置A,Aを互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’とすることができる。なお、図3(a)、(b)では、連結具8として、スリーブ8a付きのチェン8bを用いた場合を例示する。
そして、この場合には、隣り合う浮消波装置A,Aの前記係留環4,4に、2本に分岐された係留具8’の基部をそれぞれ継合し、前後に突出する両係留具8’,8’を用いることにより、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を後述するようにアンカー10に係留することができる。
【0022】
一方、単体の浮消波装置Aが図1(a)に示す場合と異なる場合、すなわち、単体の浮消波装置Aの左右両側から係留環4,4を突出させてない場合には、図4に示すように、連結具8として連結ロープ8cを用いて隣り合う浮消波装置A,Aを順次連結することにより、図5(a)に示すように、両図の左右方向に所定数量の浮消波装置A,Aを互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’とすることができる。
そして、この場合には、単体の浮消波装置Aの前後2つの取付杆5,5から前後方向に係留環8”,8”を突出させ、前後に突出する両係留環8”,8”を用いることにより、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を後述するようにアンカー10に係留することができる。
【0023】
互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を、上述したようにアンカー10に係留するに当って、図3に示す係留具8’,8’が備えられている場合には、両係留具8’,8’に係留チェンその他の係留索9の一端をそれぞれ継合し、また、図4に示す係留環8”,8”が備えられている場合には、両係留環8”,8”に直接係留チェンその他の係留索9の一端をそれぞれ継合する。
そして、係留索9の他端を、互いにつなぎ合わせて長く連結された浮消波装置A’から前後に離して、図5(a)、(b)に示すように海底に沈設されている前後2つのアンカー10,10の係留環(図示しない)に継合することにより、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を前後方向に沈設した2つのアンカー10,10にそれぞれ係留することができる。
【0024】
なお、互いにつなぎ合わせて長く連結された浮消波装置A’に対して、前後に突出するように設けられる係留具8’,8’は、図3(b)に示すように、隣り合う浮消波装置A,Aごとに設けるのではなく、同図左側に示すように、係留するアンカー10の数と係留索9の本数とに応じて数基ごとに1つ設ければ良く、この場合には、互いにつなぎ合わせて長く連結された浮消波装置A’の幅方向において、係留するアンカー10の数と係留索9の本数ごとに前後方向に係留することができる〔図5(a)では、幅方向の3箇所において前後方向に係留した場合を図示する〕。
【0025】
一方、互いにつなぎ合わせて長く連結された前記浮消波装置A’の左右両端に位置する左右2基の浮消波装置A,Aの前後のコーナー部分にも、図5(a)、(b)に示すように、係留チェンその他の係留索9’,9’の一端をそれぞれ継合し、各係留索9’,9’の他端を、互いにつなぎ合わせて長く連結された前記浮消波装置A’から斜め方向〔例えば、図5(a)において、平面的に見て45°斜めの方向〕に離して海底に沈設されている2つのアンカー10’,10’ の係留環(図示しない)に継合し、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を左右両側において斜め方向に沈設した2つのアンカー10’,10’にそれぞれ斜め方向に係留することができる。
【0026】
なお、図5(a)、(b)において、図面符号11は、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’の幅方向(左右方向)に所定の間隔をおいて前後に取り付けられたダンパーフロートである。また、図面符号11’は、互いにつなぎ合わせて長く連結された前記浮消波装置A’の左右両端に位置する左右2基の浮消波装置A,Aの前後のコーナー付近に取り付けられたダンパーフロートである。
各ダンパーフロート11,11、11’,11’は、互いにつなぎ合せて長く連結された浮消波装置A’を係留している係留索9,9’に波力、風力、さらには流れによる力が作用し、これによる反力が係留点にかかって引き込み力(鉛直方向の分力)が作用するのを解消するためのものである。
【0027】
このように、単体の浮消波装置Aを所定数量つなぎ合わせ、互いにつなぎ合わせて長く連結された浮消波装置A’を前記係留索9,9’とアンカー10,10’とを用いて入射波に対して並行を保つように係留することにより、図5(a)に示すように、長く連結された浮消波装置A’が極めて広い水域の水面上に設置されることになる。したがって、その水面下に位置していて入射波の方向に傾斜する各制御板3,3により、極めて広い水域での消波効果を充分期待できる。
なお、アンカー10,10’は鋼製の錨あるいはコンクリート製とすることができる。
【0028】
上述したように、制御板3の平坦面には上下に貫通する孔3a,3aが多数形成されているが、当該孔の開孔率を35%とすると、開孔率ゼロの場合に比べて浮消波装置の消波効果が極めて良好であることを実験により見出した。
【0029】
入射波の方向に傾斜させた制御板3の傾斜角度を、水平に対して6°〜15°とした場合に、ここに例示する浮消波装置の消波効果が極めて良好であることを実験により見出した。
図6(a)は、制御板3の傾斜角度を水平に対して6°としたときの、また、図6(b)は、制御板3の傾斜角度を水平に対して15°としたときの、KR(反射率)、KT(透過率)およびEL(エネルギー損失率)と浮体幅波長比(B/L=浮体幅/波長)の関係を示す。
なお、入射波の方向とは、上述したように、図1(c)、図3(a)、図4(c)、図5(a)において矢印で示す方向である。
【0030】
このグラフによれば、エネルギー損失(EL)が浮体幅波長比(B/L)=0.9付近で0.8(80%)となっており、効率的に波のエネルギーがキャンセルされていることが分かる。
また、これに伴って、反射率(KR)、特に、透過率(KT)は0.25(25%)を示しており、入射波を1/4程度の波高に減衰することが示されている。
これらから、ここに例示する浮消波装置の消波効果が顕著に現れていることを理解することができる。
【0031】
制御板3の傾斜角度を水平に対して6°とした場合と、水平に対して15°とした場合には、水平に対してゼロにした場合に比べて、さらに効果的な消波性能を発揮する。この結果から、制御板3の傾斜角度を水平に対して6°〜15°とすれば、さらに効果的な消波性能を発揮することを実験により見出した。
【0032】
入射波の方向に傾斜させた制御板3の傾斜角度を、水平に対して6°〜15°とするために、ここには、図1(c)、図4(c)に示すように、後側左右の短い取付腕2b,2bにおいては、制御板3の両側に形成されている丸い取付孔3c,3cを利用して1箇所でねじ止めできるようにしてあるのに対して、前側左右の長い取付腕2a,2aにおいては、制御板3の両側に形成されている横長状の取付孔3b,3bを利用して少なくとも上下2個所でねじ止めできるようにした場合が例示されている。
例えば、図1(c)、図4(c)において、前側左右の長い取付腕2a,2aの上側の位置2aで制御板3をねじ止めすると、制御板3の傾斜角度αが6°となり、前側左右の長い取付腕2a,2aの下側の位置2aで制御板3をねじ止めすると、制御板3の傾斜角度βが15°となる場合である。
そして、ここでは、前側左右の長い取付腕2a,2aの上下2箇所の位置2a,2aの途中の位置2aにも、ねじ止めできるように孔が開けてあって、2つの傾斜角度α、β以外のもう1つの傾斜角度で制御板3をねじ止めすることができるようにしてある。
【0033】
このように、制御板3の両側において、前側左右の長い取付腕2a,2aに取り付けられる部分には、左右一対の横長状の取付孔3b,3bが、また、後側左右の短い取付腕2b,2bに取り付けられる部分には、左右一対の丸い取付孔3c,3cが形成されているから、上述したような簡単な操作だけで、前側左右の取付腕2a,2aと後側左右の取付腕2b,2bに制御板3を傾斜させて簡単に取り付けることができるのみならず、制御板3の傾斜角度の変更が極めて容易になる。
なお、左右一対の横長状の取付孔3b,3bの周囲をプレートで囲うことによって、その付近を補強してある。
【0034】
本発明による浮消波装置については、ここに例示し、かつ、図面に示した場合にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明による浮消波装置は、船舶の係留施設や水揚げ施設、養殖施設など、波浪の影響を緩和したい個所に設置することにより、様々な施設の破損を防止できるほか、作業上の安全確保にも効果が期待できる。また、ダム湖などでは、風波による湖岸侵食の対策としても有用である。
【符号の説明】
【0036】
1…浮体、3…制御板、3a…孔、8…係留具、8a…スリーブ、8b…チェン、8c…連結ロープ、8’…係留具、8”…係留環、9,9’…係留索、10,10’…アンカー、α,β…制御板の傾斜角度、A…単体の浮消波装置、A’…互いにつなぎ合わされて長く連結された浮消波装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上に浮揚する単一平板状の浮体の下方に、上下に貫通する孔が多数形成された制御板を入射波の方向に傾斜させて配置したことを特徴とする浮消波装置。
【請求項2】
単一平板状の浮体の下方に、上下に貫通する孔が多数形成された制御板を入射波の方向に傾斜させて配置し、このように構成された単体の浮消波装置を、所定数量つなぎ合せて係留したことを特徴とする浮消波装置。
【請求項3】
制御板の開孔率を35%としたことを特徴とする請求項1又は2記載の浮消波装置。
【請求項4】
入射波の方向に傾斜させた制御板の傾斜角度を、水平に対して6°〜15°としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の浮消波装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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