説明

浴槽排水装置

【課題】閉栓用シール部を浴槽に密接させて排水口の締付フランジを隠蔽し、尚かつ開閉ユニット保持部の現場での取付作業を不要としたうえで、締付フランジの締め付け過ぎに起因する止水不良を抑止する。
【解決手段】締付フランジ4の最大締め付け量を規制するための締付量規制手段7を備え、締付量規制手段7によって最大締め付け量が規制されつつ締付フランジ4が最大に締め付けられた状態において、閉栓用シール部62が周状に浴槽2に密接するように構成されている。締付フランジ4の締め付けに対抗する力は、第1の圧縮シール材5による圧縮の反発力が最大となるように構成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽排水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユニットバス等における浴槽の排水装置として、排水口に対して上下動可能な栓蓋部を例えばワイヤで繋がれたいわゆるワンプッシュ式のボタンで遠隔操作できるようにしたものがある。当該遠隔操作用のボタンは浴槽の縁(フランジ部)などに配置されている。このように排水口に対して栓蓋部を上下動させる構成の排水装置には、従来、排水口のフランジが露出するタイプ(フランジ露出型)や、フランジが隠れるタイプ(フランジ隠蔽型)がある。
【0003】
フランジ露出型は、排水口に設けられた締付フランジに栓蓋部の閉栓用シール部が密接するタイプの排水装置である(例えば特許文献1参照)。締付フランジには、栓蓋部を上下させる開閉ユニットを排水管部材に保持させる保持部が取り付けられている(図9参照)。
【0004】
フランジ隠蔽型は、排水口に設けられた締付フランジよりも外側にて、栓蓋部の閉栓用シール部が浴槽面に密接するタイプの排水装置である(例えば特許文献2参照)。この場合も、締付フランジには、栓蓋部を上下させる開閉ユニットを保持させるための保持部が取り付けられている(図10参照)。
【0005】
ところで、上述のフランジ露出型は、栓蓋部によって完全に覆い隠されるわけでなく、浴槽内にて締付フランジの外周部が露出してユーザーに見える状態となるため、その点でデザイン性に劣る場合がある。
【0006】
また、従来のフランジ露出型やフランジ隠蔽型のように開閉ユニットを保持させるための保持部が締付フランジに取り付けられていると、遠隔操作ボタンに繋がるワイヤの接続作業を浴槽設置前に完了させることができない。すなわち、従来型の一般的な締付フランジは、浴槽の排水口の上から排水エルボや排水管部材にねじ込まれる構成であり、浴槽設置後でなければ取り付けることができない。このため、当該締付フランジに取り付けられる保持部も浴槽設置後に設置されることになる。こうした事情から、設置作業者は、浴槽設置後、狭い排水口に指を差し入れてワイヤ先端の開閉ユニットをつまむようにして引き上げ、いったん排水口を挿通させ、保持部により当該開閉ユニットを排水管排水口に設置するといったような煩わしく効率に乏しい作業をしなければならなかった。
【0007】
このような従来構造の実情を鑑み、さらにデザイン面をも考慮すれば、締付フランジを隠蔽するべく閉栓用シール部を浴槽に密接させる構成であって、さらに現場での保持部の取付作業を不要にするべく締付フランジにではなく例えば排水管部材に保持部を取り付ける構成とすることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−36079号公報
【特許文献2】特開2010−53539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、締付フランジを隠蔽するために閉栓用シール部を浴槽に密接させる構成とし、さらに現場での保持部の取付作業を不要にするべく排水管部材に保持部を取り付ける構成とした場合、閉栓時に水が漏れ出るおそれが生じうる。すなわち、このような構成にすると、締付フランジの締め付け量が大きくなりすぎる場合があり、そうすると圧縮シール部を過度に圧縮させ、排水管部材の相対的高さが高くなる(締付フランジの締め付けによって排水管部材が引き上げられる)結果、閉栓時(栓蓋部が下動位置にある時)に閉栓用シール部と浴槽との間に隙間が発生し、浴槽内に水溜めしている最中にその隙間から水が漏れ出てしまう状態(止水不良状態)となる可能性がある。
【0010】
そこで、本発明は、閉栓用シール部を浴槽に密接させて排水口の締付フランジを隠蔽し、尚かつ開閉ユニット保持部の現場での取付作業を不要としたうえで、締付フランジの締め付け過ぎに起因する止水不良を抑止するようにした浴槽排水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するべく、本発明者は浴槽排水装置の構造に着目して種々の検討を行った。例えば上述したような従来構造の浴槽排水装置であれば、仮に締付フランジの締め付け量が大きくなっても保持部と浴槽の相対的高さに変化が生じないため、閉栓用シール部はフランジ締め付け量にかかわらず密接することから、止水不良の問題が生じることはなかった。これに対し、現場での保持部の取付作業を不要にするという観点から当該保持部を排水管部材に取り付ける構成とすると、従来構造にはなかった新たな課題が生じうる。従来の課題と新たに生じうる課題との両方について検討した本発明者は、これら課題の同時解決に結び付く知見を得るに至った。
【0012】
本発明はかかる知見に基づくものであり、底部に排水口が形成された浴槽と、排水口の下部に設けられた排水管部材と、排水口に対して排水管部材を締め付け固定する締付フランジと、排水口と排水管部材との間の上下方向隙間に介装され、締付フランジを締め付けることにより圧縮される第1の圧縮シール材と、締付フランジを覆うように設けられ、排水口に対して上下動する栓蓋部と、栓蓋部に設けられ、栓蓋部が下動位置にある時に栓蓋部と浴槽との隙間を塞ぐ閉栓用シール部と、栓蓋部の上下動を遠隔操作する操作部と、操作部の動作を栓蓋部に伝達する伝達部と、伝達部の栓蓋部側端部を排水管部材に保持させる保持部と、を有する排水栓装置と、を備えた浴槽排水装置であって、締付フランジの最大締め付け量を規制するための締付量規制手段を備え、締付量規制手段によって最大締め付け量が規制されつつ締付フランジが最大に締め付けられた状態において、閉栓用シール部が周状に浴槽に密接するように構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明にかかる浴槽排水装置においては、締付フランジが栓蓋部によって覆われ、ユーザーから見えなくなっているため、排水口周囲のデザイン性を向上させることができる。
【0014】
また、この浴槽排水装置においては、排水栓装置を構成する保持部が、締付フランジにではなく排水管部材に取り付けられているため、浴槽を設置する前に、保持部を取り付ける作業や、伝達部の栓蓋部側端部を接続する作業を完了することができる。このように浴槽設置前に保持部の取付作業や伝達部の接続作業を完了できれば、予め工場内で接続作業を行うことも可能となるため、現場での保持部の取付作業を不要とすることができるようになる。
【0015】
しかも、この浴槽排水装置は締付量規制手段を備えており、該締付量規制手段によって最大締め付け量が規制された当該締付フランジが最大に締め付けられた状態において閉栓シール部が浴槽に密接するように構成されているため、閉栓時に当該閉栓用シール部と浴槽とを確実に密接させることができる。したがって、締付フランジの締付量が大きくなりすぎて閉栓時に水が漏れ出てしまう状態(止水不良状態)となるのを回避することができる。
【0016】
本発明にかかる浴槽排水装置において、締付フランジの締め付けに対抗する力は、第1の圧縮シール材による圧縮の反発力が最大となるように構成されていることが好ましい。締付フランジによる締め付け量が不足している場合(第1の圧縮シール材の潰れが不十分である場合)、排水口における止水性能が不十分であったり、栓蓋と浴槽との隙間がやや小さくなることに起因して排水栓蓋が上動位置にある時の排水性能の悪化などが発生したりすることから、これらを防ぐには締め付け量が不足しないようにする必要がある。この点、本発明によれば、締付フランジを締め付ける際の締め付け力を緩和できるため、容易に最大締め付け量まで到達させることができ、締め付け量不足が生じるのを抑止することができる。
【0017】
排水口の内径は、締付フランジの外径よりも大きく形成されていることが好ましい。この場合、締付フランジの外周面と排水口の内周面との間の摩擦力を低減できるため、容易に締付フランジを最大締め付け量まで到達させることができ、締め付け量不足が生じるのを抑止することができる。
【0018】
また、本発明にかかる浴槽排水装置は、浴槽の底部と排水管部材との間の上下方向隙間に介装され、締付フランジを締め付けることにより圧縮される第2の圧縮シール材を備えており、第2の圧縮シール材は第1の圧縮シール材に比べて圧縮抵抗が小さいものであることが好ましい。こうした場合、第2の圧縮シール材の反発力を低減させることができるため、容易に締付フランジを最大締め付け量まで到達させることができ、締め付け量不足が生じるのを抑止することができる。
【0019】
また、締付量規制手段は、排水管部材に設けられており、締付フランジの下端が突き当たることによって当該締付フランジの最大締め付け量を規制するものであることが好ましい。このような締付量規制手段を用いることとすれば、作業者は締付フランジを介して当該締付フランジの下端が突き当たったことを感じることができるため、必要以上に締め付けることを抑止して作業性を向上させることが可能となる。
【0020】
また、保持部は、締付フランジに押し付けられることで排水管部材の所定位置に位置決めされることが好ましい。こうした場合には、締付フランジを締め付ける際、保持部が排水管部材の所定位置に位置決めされることになるため、仮に当該保持部が僅かに位置ずれしていた場合であっても所定位置に矯正することができる。
【0021】
また、浴槽排水装置は、排水口に対して排水管部材を水平方向の所定位置に位置決めする位置決め手段をさらに備えることが好ましい。このような位置決め手段を備えることにより、閉栓時に、浴槽と閉栓用シール部との間に水平方向の隙間が発生することを抑止することができる。
【0022】
さらに、本発明にかかる浴槽排水装置は、成形時に形成された第1の排水口部と、第1の排水口部の下部に形成され、後加工によって穿設された第2の排水口部とを排水口に有しており、閉栓用シール部は、第1の排水口部に密接するように構成されており、位置決め手段は、第2の排水口部を介さずに、第1の排水口部の開口中心と排水管部材の開口中心とを一致させるものであることが好ましい。後加工によって穿設される第2の排水口部は、加工誤差の影響により位置がずれていたり寸法が暴れていたりすることがあるため、このような第2の排水口部に対して排水管部材を位置決めするとすれば、閉栓時に浴槽と閉栓用シール部との間に水平方向の隙間が発生する可能性がある。この点、本発明によれば、第2の排水口部を介さずに位置決めできるようにしたため、加工誤差があったとしても、閉栓時に、浴槽と閉栓用シール部との間に水平方向の隙間が発生することを抑止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、閉栓用シール部を浴槽に密接させて排水口の締付フランジを隠蔽し、尚かつ開閉ユニット保持部の現場での取付作業を不要としたうえで、締付フランジの締め付け過ぎに起因する止水不良を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態を示す浴槽排水装置の断面図である。
【図2】浴槽排水装置の構造例を示す排水口周りの斜視図である。
【図3】締付フランジレスの排水管部材に排水栓装置を予め取り付けユニット化したものを示す斜視図である。
【図4】排水口周りの構造例を示す斜視図である。
【図5】浴槽の一例を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す浴槽排水装置の断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態における排水管部材の構造例を示す斜視図である。
【図8】本発明の他の実施形態における排水口周りの構造例を示す斜視図である。
【図9】従来のフランジ露出型の浴槽排水装置の一例を示す断面図である。
【図10】従来のフランジ隠蔽型の浴槽排水装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1〜図5に本発明にかかる浴槽排水装置の一例を示す。本実施形態の浴槽排水装置1は、浴槽2、排水管部材3、締付フランジ4、ゴム系シール材5、排水栓装置6等に加え、締付量規制手段7をさらに備える装置で、締付量規制手段7によって最大締め付け量が規制されつつ締付フランジ4が最大に締め付けられた状態において、栓蓋部61の閉栓用シール部62が周状に浴槽2に密接するように構成されている。
【0027】
浴槽2には、浴槽水を貯留可能な内槽部22が形成されており、該内槽部22の底部に排水口21が形成されている(図4、図5等参照)。本実施形態の排水口21は、その内径が、締付フランジ4の外径よりも大きくなるように形成されている(図1参照)。また、内槽部22の上端縁部の周囲に外方側に突出するように形成されたフランジ部23には、栓蓋部61を操作する操作部63として、例えば一度押すと開栓しもう一度押すと閉栓するワンプッシュ型のボタンが設けられている。
【0028】
また、浴槽2の排水口21周りの底面には下方に突出する環状リブ24が形成されている。このような環状リブ24は、排水口21に対して排水管部材3を水平方向の所定位置に位置決めする際の位置決め手段として機能しうる。環状リブ24と排水口21の間は環状凹部25となっている(図1参照)。
【0029】
排水管部材3は、排水口21の下部に設けられる。排水管部材3は排水エルボとは別体の部材であってもよいが、本実施形態の排水管部材3は排水エルボと一体化された構造であり、配管11を介して排水口21と洗い場床(図示省略)の排水トラップ12とを接続している(図1、図3等参照)。この排水管部材3の開口部31の内周には、締付フランジ4がねじ込まれる雌ねじ32が形成されている。開口部31の周囲には、ゴム系シール材(第1の圧縮シール材)5が配置される段部33が形成されている。段部33の周囲には、上方に向かって突出する環状のリブ34が形成されている。リブ34の周囲には、不乾性シール材(第3の圧縮シール材)10が配置される段部35が形成されている。さらに開口部31内の所定位置には環状の段部37が形成されている。また、排水管部材3の途中には、伝達部(後述するように、操作部63の動作を栓蓋部61に伝達する)64を通過させる通過孔36が当該排水管部材3から分岐するように形成されている。本実施形態の排水管部材3は、浴槽2を支持する浴槽側受板13に取り付けられるようになっている(図1参照)。
【0030】
締付フランジ4は、排水口21に対して排水管部材3を締め付け固定する部材である。締付フランジ4の上端には、浴槽2の排水口21よりも外径が大きいフランジ部41が形成されている(図1参照)。締付フランジ4の外周面には、排水管部材3の雌ねじ32と螺号する雄ねじ42が形成されている。また、本実施形態の締付フランジ4は、締付フランジ4の外周面と排水口21の内周面との間の摩擦力が低減するように、当該締付フランジ4の外径が排水口21の内径よりも小さくなるように形成されている(図1、図4等参照)。締付フランジ4の外周面と排水口21の内周面との間の摩擦力が低減すれば、より容易に締付フランジ4を最大締め付け量まで到達させることができるようになるので、締め付け量不足が生じるのを抑止することができる。
【0031】
ゴム系シール材(第1の圧縮シール材)5は、排水管部材3の段部33に配置され、排水口21と排水管部材3との間の上下方向隙間に介装される。このゴム系シール材5は、締付フランジ4を締め付けることにより圧縮される(図1、図4等参照)。なお、本実施形態では当該シール材としてゴム系のものを例示しているがこれは好適例にすぎず、その他の材質のシール材を採用することが可能である。
【0032】
排水栓装置6は、栓蓋部61、閉栓用シール部62、操作部63、伝達部64、保持部65等を有する装置である(図1、図2等参照)。
【0033】
栓蓋部61は、締付フランジ4よりも大径の栓蓋であり、当該締付フランジ4を覆って隠蔽する目隠しとなる。この栓蓋部61は操作部63により遠隔操作されて排水口21に対して上下動する。
【0034】
閉栓用シール部62は、栓蓋部61の底部に設けられ、当該栓蓋部61と浴槽2との間に介在する。栓蓋部61が下動位置にある時、この閉栓用シール部62は栓蓋部61と浴槽2との隙間を塞いで止水状態とする。
【0035】
操作部63は、栓蓋部61の上下動を遠隔操作する手段である。一例として、本実施形態では、一度押すと開栓し、もう一度押すと閉栓するいわばワンプッシュ型のボタンを浴槽2のフランジ部23に設け、操作部63として機能させている(図5参照)。
【0036】
伝達部64は、操作部63の動作を栓蓋部61に伝達する手段である。一例として、本実施形態では、レリーズワイヤーとアウターとからなる伝達部64の一端を操作部63に接続し、栓蓋部61側の端部を(より詳しくは、端部に接続されたアブソーバー641を介して)保持部65に接続している(図1等参照)。アブソーバー641は、操作部63の動作を受け、その一部(例えば中心のピストン部)を所定ストローク往復動させて昇降させる。伝達部64の周囲は例えば防水性のチューブ642で覆われている。
【0037】
保持部65は、伝達部64の栓蓋部側端部を排水管部材3に保持させるホルダーとして設けられている(図1等参照)。一例として、本実施形態の保持部65は、伝達部64のアブソーバー641を収容する筒部651と、該筒部651を開口部31内の所定位置に位置させる脚部652とからなる(図2等参照)。脚部652は、保持部65を締付フランジ4に押し付けた際に排水管部材3の所定位置に位置決めされるように形成されている。このような脚部652を備えた保持部65によれば、締付フランジ4を締め付ける際、当該保持部65が排水管部材3の所定位置に位置決めされることになるため、仮に保持部65が僅かに位置ずれしていた場合であっても所定位置に矯正することができる。もし、保持部65が所定位置に位置していないと閉栓用シール部62の位置もずれるとため止水不良が生じる可能性が生じうるが、本実施形態によればそのような事態を回避することができる。本実施形態の脚部652は例えば90度おきに配置された4枚の羽根からなり、排水管部材3の内側に取り付けられるようになっている。
【0038】
また、本実施形態の浴槽排水装置1においては、発泡系シール材(第2の圧縮シール材)9と、不乾性シール材(第3のシール材)10が設けられている。発泡系シール材9は、排水管部材3のリブ34と浴槽底面の環状凹部25との間に挟み込まれるように設けられ、不乾性シール材10は、浴槽2の環状リブ24と排水管部材3の段部35との間に挟み込まれるように設けられる。締付フランジ4を締め付けると浴槽2の底面と排水管部材3との隙間が徐々に小さくなり、これに伴ってこれらシール材9,10は圧縮され潰れることによって浴槽2と排水管部材3との間の水密性を高める。なお、本実施形態ではこれらシール材として発泡系のものや不乾性のものを例示しているがこれは好適例にすぎず、その他の材質のシール材を採用することが可能である。
【0039】
ここで、第2の圧縮シール材として設けられる発泡系シール材9は、上述したゴム系シール材(第1の圧縮シール材)5に比べて圧縮抵抗が小さいものであることが好ましい。上述のように、締付フランジ4を締め付けるとこれらシール材9,10は圧縮されるが、その際、発泡系シール材9の反発力が低減していると、締付フランジ4を最大締め付け量まで到達させることが比較的容易となるため、締め付け量不足が生じるのを抑止しやすくなる。
【0040】
また、本実施形態では、ゴム系シール材(第1の圧縮シール材)5による圧縮時の反発力が、発泡系シール材(第2の圧縮シール材)9による圧縮時の反発力や不乾性シール材(第3の圧縮シール材)10による圧縮時の反発力よりも大きくなるようにしている。こうした場合、浴槽排水装置1において締付フランジ4の締め付け力に対抗する力としては、ゴム系シール材5による圧縮時の反発力が最大となることから、締付フランジ4を締め付ける際の締め付け力を緩和することが可能となる。これによれば、締付フランジ4をより容易に最大締め付け量まで到達させることができ、締め付け量不足が生じるのを抑止することができる。
【0041】
締付量規制手段7は、締付フランジ4の最大締め付け量を規制するための手段である。締付量規制手段7の具体例は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態では、所定高さを有する筒状台座を、その下端面が開口部31内の段部37に突き当たるように設けておき、締め付け途中の締付フランジ4の下端が突き当たることによって締め付け量を規制する締付量規制手段7として機能させている(図1等参照)。このように設けられた締付量規制手段7は、締め付け途中の締付フランジ4の下端が突き当たった後はそれ以上の締め付けができないようにするストッパとなる。
【0042】
本実施形態では、このような締付量規制手段7によって締付フランジ4の最大締め付け量が規制するとともに、締付フランジ4が最大に締め付けられた状態において閉栓用シール部62が浴槽2に密接するように構成している(図1参照)。締付フランジ4の締付量が大きくなりすぎると、保持部65やアブソーバー641に対する浴槽2の相対的高さが下がってしまい閉栓時に閉栓用シール部62と浴槽2との間に隙間が発生する可能性が生じるが、本実施形態ではこのようにして締付フランジ4の最大締め付け量を規制することにより、閉栓用シール部62が浴槽2に確実に密接するようにしている。これによれば、いずれの作業者が設置作業を行っても閉栓時に水が漏れ出てしまう状態(止水不良状態)となるのを回避することができる。
【0043】
上述したように、本実施形態の浴槽排水装置1においては、排水栓装置6を構成する保持部65が、締付フランジ4にではなく排水管部材(排水エルボ)3に取り付けられる構造としているため、締付フランジ4の締め付け作業にかかわりなく保持部65を予め排水管部材3に取り付けておくことが可能である。これによれば、保持部65を取り付ける作業や伝達部64の栓蓋部側の端部を接続する作業を浴槽設置前の段階で完了させることが可能となるため、予め工場内で接続作業を行っておき、栓蓋部61の開閉ユニット(アブソーバー641、筒部651、脚部652等)等の排水栓装置6を排水管部材3にセットしてユニット化した状態で出荷することも可能となる(図3参照)。
【0044】
また、細い排水口21に伝達部64を挿通させて栓蓋部61に接続する作業を従来のように現場にて行う場合、作業中に伝達部64の先端が引っ掛かって折れ曲がるなどして変形してしまい、場合によっては作動が不十分となる可能性があったが、現場での挿通、接続作業を不要とした本実施形態の浴槽排水装置1によればこういった事態を回避することができる。
【0045】
また、本実施形態の浴槽排水装置1においては、締付フランジ4が栓蓋部61によって覆われてユーザーから見えない状態となる(図1等参照)。これによれば、排水口21の周囲のデザイン性を向上させることができるし、締付フランジ4と浴槽2との間の汚れが付着しやすい部分をも隠蔽して目立たせなくすることもできる。
【0046】
しかも、本実施形態の浴槽排水装置1によれば、上述のように閉栓用シール部62を浴槽2に密接させて締付フランジ4を隠蔽し、尚かつ保持部65等の現場での取付作業(挿通作業や接続作業を含む)を不要としたうえで、締付フランジ4の締め付け過ぎに起因する止水不良を抑止することができる。すなわち、本実施形態では締付量規制手段7を用いて締付フランジ4の締め付け過ぎ(締め付け量が大きくなり過ぎること)を防ぐことによって浴槽2の相対的高さが下がってしまうことを抑止しているので、設置作業者の力量にかかわらず、閉栓時に閉栓用シール部62と浴槽2とを確実に密接させ、止水不良となるのを画一的に抑止することが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、締付量規制手段7として、締付フランジ4の下端が突き当たることによって当該締付フランジ4の最大締め付け量を規制する例えば台座状のものを用いている。このような締付量規制手段7を用いることとすれば、設置作業中、作業者は締付フランジ4を介して当該締付フランジ4の下端が突き当たったことを感じることができる。したがって作業者が締付フランジ4を必要以上に締め付けてしまうのを抑止して作業性を向上させることが可能である。
【0048】
加えて、本実施形態の浴槽排水装置1においては、浴槽2の排水口21周りの底面に形成された環状リブ24が、排水口21に対して排水管部材3を水平方向の所定位置に位置決めする際の位置決め手段として機能しうる。したがって、栓蓋部61の閉栓時、浴槽2と閉栓用シール部62との間に水平方向の隙間が発生することを抑止することができる。
【0049】
また、このような位置決め手段は、浴槽成形時に第1の排水口部211が形成され、その後の工程において該第1の排水口部211の下部に別の排水口部(第2の排水口部212)が穿設される構造の浴槽排水装置1においても有効である。後加工によって穿設される第2の排水口部212は、加工誤差の影響により本来の位置からずれていたり寸法が暴れていたりすることがあるため、このような第2の排水口部212に対して排水管部材3を位置決めするとすれば、閉栓時に浴槽2と閉栓用シール部62との間に水平方向の隙間が発生する可能性がある。この点、位置決め手段として機能する部材(例えば環状リブ24)を備えた本実施形態の浴槽排水装置1においては、第1の排水口部212を介さずに排水管部材3を位置決めすることができるため、加工誤差があったとしても、閉栓時に浴槽2と閉栓用シール部62との間に水平方向の隙間が発生することを抑止することができる。第1の排水口部211は、例えば、浴槽底部の最低部位に成形された凹部(窪み)であり、第2の排水口部212は、例えば該凹部(窪み)の底部中心に穿設される透孔である。
【0050】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では浴槽防水パン(保温パン)のない浴槽排水装置1に本発明を適用した例を示したが、浴槽防水パンがある浴槽排水装置1にも本発明を適用することができることはいうまでもない。図6に、浴槽防水パン14〜16を備えた場合の浴槽排水装置1の一例を示す。浴槽防水パン14〜16は、架台(図示省略)上には支持されているもので、例えば発泡系の断熱材からなり、当該浴槽防水パン14〜16の外部に湯水を漏出させない防水性、および浴槽2に貯留された湯の保温性を実現するための断熱性を有している。この浴槽防水パン14〜16の上方には浴槽2が設置される。
【0051】
また、上述した実施形態では、排水エルボと一体化した構造の排水管部材3を用いた例を示したが(図1等参照)、排水エルボとは別体の排水管部材(排水弁プレート)3を用いることも当然に可能である(図6参照。なお、図6中では排水エルボを符号30で、フランジ部材を符号17で、U字パッキンを符号18で示す)。このような構造とした場合、当該排水管部材(排水弁プレート)3に保持部65を取り付ける作業や伝達部64の栓蓋部側の端部を接続する作業を予め工場内で行っておき、開閉ユニット(アブソーバー641、筒部651、脚部652等)等の排水栓装置6を排水管部材3にセットしてユニット化した状態で出荷することも可能となる(図7、図8参照)。
【0052】
なお、図6等に示す実施形態では、排水管部材3の内周に段部からなるストッパを形成しておき、当該ストッパを締付量規制手段7として機能させている。この場合の排水管部材3は、上述したような台座(締付量規制手段)を介することなく締付フランジ4の下端と直接接触することとなる。
【符号の説明】
【0053】
1:浴槽排水装置
2:浴槽
3:排水管部材
4:締付フランジ
5:ゴム系シール材(第1の圧縮シール材)
6:排水栓装置
7:締付量規制手段
8:位置決め手段
9:発泡系シール材(第2の圧縮シール材)
21:排水口
24:環状リブ(位置決め手段)
61:栓蓋部
62:閉栓用シール部
63:操作部
64:伝達部
65:保持部
211:第1の排水口部
212:第2の排水口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に排水口が形成された浴槽と、
前記排水口の下部に設けられた排水管部材と、
前記排水口に対して前記排水管部材を締め付け固定する締付フランジと、
前記排水口と前記排水管部材との間の上下方向隙間に介装され、前記締付フランジを締め付けることにより圧縮される第1の圧縮シール材と、
前記締付フランジを覆うように設けられ、前記排水口に対して上下動する栓蓋部と、前記栓蓋部に設けられ、前記栓蓋部が下動位置にある時に前記栓蓋部と前記浴槽との隙間を塞ぐ閉栓用シール部と、前記栓蓋部の上下動を遠隔操作する操作部と、前記操作部の動作を前記栓蓋部に伝達する伝達部と、前記伝達部の前記栓蓋部側端部を前記排水管部材に保持させる保持部と、を有する排水栓装置と、を備えた浴槽排水装置であって、
前記締付フランジの最大締め付け量を規制するための締付量規制手段を備え、
前記締付量規制手段によって最大締め付け量が規制されつつ前記締付フランジが最大に締め付けられた状態において、前記閉栓用シール部が周状に前記浴槽に密接するように構成されていることを特徴とする浴槽排水装置。
【請求項2】
前記締付フランジの締め付けに対抗する力は、前記第1の圧縮シール材による圧縮の反発力が最大となるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の浴槽排水装置。
【請求項3】
前記排水口の内径は、前記締付フランジの外径よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項2記載の浴槽排水装置。
【請求項4】
前記浴槽の底部と前記排水管部材との間の上下方向隙間に介装され、前記締付フランジを締め付けることにより圧縮される第2の圧縮シール材を備えており、
前記第2の圧縮シール材は前記第1の圧縮シール材に比べて圧縮抵抗が小さいものであることを特徴とする請求項1記載の浴槽排水装置。
【請求項5】
前記締付量規制手段は、前記排水管部材に設けられており、前記締付フランジの下端が突き当たることによって当該締付フランジの最大締め付け量を規制するものであることを特徴とする請求項1記載の浴槽排水装置。
【請求項6】
前記保持部は、前記締付フランジに押し付けられることで前記排水管部材の所定位置に位置決めされることを特徴とする請求項1記載の浴槽排水装置。
【請求項7】
前記排水口に対して前記排水管部材を水平方向の所定位置に位置決めする位置決め手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の浴槽排水装置。
【請求項8】
成形時に形成された第1の排水口部と、前記第1の排水口部の下部に形成され、後加工によって穿設された第2の排水口部とを前記排水口に有しており、
前記閉栓用シール部は、前記第1の排水口部に密接するように構成されており、
前記位置決め手段は、前記第2の排水口部を介さずに、前記第1の排水口部の開口中心と前記排水管部材の開口中心とを一致させるものであることを特徴とする請求項7記載の浴槽排水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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