説明

浴槽用手摺機構

【課題】浴室のように狭い空間において、入浴者や介助者などの邪魔にならないようにした。
【解決手段】浴槽用手摺機構1は、浴槽11の下部に一端を固定して床面Fに接地されるベースプレート30と、ベースプレート30の他端30bに立設された支柱31と、支柱31の上端部で浴槽11に向かう方向を軸として回転可能に設けられた回転軸と、回転軸の浴槽11側に固定され、回転軸に直交する方向に延在する連結フレーム41と、連結フレーム41の先端から浴槽11側に向かって水平方向に延在する手摺42とを備えている。そして、手摺42を第一固定位置R1又は第二固定位置R2で保持状態となるように固定するロック機構50を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、身体障害者や老人などの入浴者が浴槽に出入りする際などに使用する入浴用手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、身体障害者あるいは老人等の要介助者は、足腰が弱っているので、入浴時に浴槽内に入ることが容易ではなく、その場合、例えば介助者によって身体を支えられながら浴槽内に移動されているいという現状があった。このように車椅子を必要とするような人の場合、例えばベッドと車椅子との間を移動する場合や乗り移る場合には、体重を支えるための介助者や移動補助器が必要であり、介助者の負担も大きかった。
そこで、車椅子などからベッドに乗り移る際の補助となるものが、例えば特許文献1に提案されている。
特許文献1は、床面やベッドに固定される固定部と、この固定部より水平方向に伸びる水平部と、この水平部より鉛直上方に向かって起立する起立部と、起立部上部から固定部側に向かって水平方向に延在する第一手摺部を備えたものであって、さらに起立部を軸として回動してベッドに対して平行となる位置に配置される第二手摺部が設けられたものである。ベッドを使用する要介助者は、第一手摺部や第二手摺部を手で掴んで体重を支えることで、例えば車椅子とベッド間の移動を行うことができ、これにより介助者による負担を減らすことができる。
【特許文献1】特許第3049240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の手摺では以下のような問題があった。
特許文献1は、ベッドと固定部との間に延在する第一手摺部はその位置が固定されており、しかも第二手摺部は、起立部を軸として回転するため、起立部の周囲に第二手摺部が回動可能な十分なスペースが必要となっていた。そのため、第一、第二手摺部は、病室などのように上述した第一、第二手摺部を配置させても要介助者や介助者の邪魔にならない場合はよいが、浴室のように狭く限られた空間である場合には、要介助者や介助者は勿論、車椅子などの通行の障害となることから使用が困難であるといった問題があった。
また、ベッドの場合、使用する要介助者が特定されるため、これらの第一、第二手摺部の位置はその人の使いやすい位置にこていさせた状態であってもかまわないとされる。ところが、浴槽などのように不特定多数の要介助者が使用する場合においては、例えば車椅子から浴槽内に出入りし易い向きや位置が人によって異なることになる。すなわち、使用する人に応じて浴槽に出入りする側のスペースを確保する必要があり、その場合に手摺などを適宜移動させることになる。そのため、特許文献1のように第一手摺部や固定部がベッドに対して固定位置とされる構造では、第一手摺や固定部をベッドから取り外し、使用する人が使いやすい位置に合わせて再度組み立てなければならないとい欠点があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、浴室のように狭い空間において、入浴者や介助者などの邪魔にならないようにした浴槽用手摺機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る浴槽用手摺機構では、浴槽に取り付けられ、入浴者の動作を補助するための浴槽用手摺機構であって、浴槽の一端を固定して床面に接地されるベースプレートと、ベースプレートの他端に立設された支柱と、支柱に設けられた支持部と、支持部に設けられていて浴槽の側壁に向かって延びる手摺とを備え、支持部によって手摺を、浴槽の側壁の延在方向の第一位置と第二位置とに移動可能としたことを特徴としている。
本発明では、手摺を第一位置と第二位置との間で移動することができる。第一位置に手摺を配置させたときには、その位置の手摺の第二位置側に広いスペースを確保でき、入浴者はこの第二位置側から手摺を掴んで浴槽へ出入りすることができる。また、第二位置に手摺を配置させたときには、その位置の手摺の第一位置側に広いスペースを確保できる。そのため、例えば入浴者にとって浴槽に出入りしやすい側のスペースを確保するように手摺のみを移動させて配置することができる。
【0006】
また、本発明に係る浴槽用手摺機構では、手摺は、第一位置と第二位置との間で回転可能としたことが好ましい。
本発明では、例えば支持部は支柱から浴槽に向かう方向を軸として回転可能に設けた回転軸であって、この回転軸に第一位置と第二位置を回転範囲内となるように手摺を固定させる。これにより、手摺は回転軸と一緒に回転させることで、第一位置と第二位置に移動させることができる。これにより、従来のような支柱を軸として回転する手摺と比べて、手摺の移動に必要なスペースが少なくてすむ。
【0007】
また、本発明に係る浴槽用手摺機構では、手摺は、第一位置と第二位置との間で横移動可能としたことが好ましい。
本発明では、例えば支持部は支柱に設けられるレールと、レールに摺動可能に係合する摺動部材であって、手摺は、レールに沿って第一位置と第二位置との間で横移動することができる。これにより、従来のような支柱を軸として回転する手摺と比べて、手摺の移動に必要なスペースが少なくてすむ。
【0008】
また、本発明に係る浴槽用手摺機構には、手摺を所定の位置で保持状態に固定させるためのロック機構が設けられていることが好ましい。
本発明では、手摺を所定位置で固定することができるため、予めその固定位置を設定しておくことで、入浴者の使用状態に応じた位置に手摺を固定することができる。そして、手摺が保持状態とされることから、手摺の使用中に手摺が回転して動くようなことを防ぐことができる。
【0009】
また、本発明に係る浴槽用手摺機構では、ベースプレートは、浴槽の下部に浴槽の長手方向を軸として回動可能に設けられていることが好ましい。
本発明では、ベースプレートと浴槽の下部との取付け部は、ヒンジの役割を果たし、浴室の床面の勾配にかかわらず水平に設置されている浴槽に対して、ベースプレートは浴室の床面に略平行な状態で接地させることができる
【0010】
また、本発明に係る浴槽用手摺機構では、支柱には、手摺を上下方向に移動させる高さ調整手段が設けられていることが好ましい。
本発明では、使用する入浴者の身長に応じて手摺の高さを調整できることから、入浴者は手摺に掴まり易くなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の浴槽用手摺機構によれば、ベースプレートや支柱の位置を移動させることなく、入浴者にとって浴槽に出入りしやすい側のスペースを確保するように手摺のみを移動させることができる。
また、浴槽用手摺機構は、手摺を連結する支柱やベースプレートが浴槽への出入り動作に障害物とならないように配置された構造であるうえ、手摺が浴槽の側壁の延在方向の第一位置と第二位置とを移動する構成であり、従来のような支柱を軸として回転する手摺と比べて、手摺を設置するために必要な床面積を小さくすることができる。そのため、入浴者や介助者、さらには車椅子などの邪魔になることがなく、狭く限られた空間をなす浴室内で浴槽に手摺を設置することができる。
さらに、車椅子を使用する入浴者は、手摺を掴んだ状態で立ち上がり、浴槽側に少しだけ身体をずらせて浴槽内へ移動することができるため、入浴者の出入り動作の動線を少なくすることができ、入浴者の負担を少なくすることができる。さらには、介助者の負担を軽くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態による浴槽用手摺機構について、図1乃至図6に基づいて説明する。
図1は実施の形態による浴槽用手摺機構の全体構成を示す平面図、図2は同じく浴槽用手摺機構の全体構成を示す側面図、図3は同じく浴槽用手摺機構の全体構成を示す正面図、図4は浴槽用手摺機構と入浴装置との取付け状態を示す図、図5は図1に示す浴槽用手摺機構の拡大図、図6は手摺本体とロック機構の取付け構造を示す平面断面図である。
【0013】
図1に示すように、浴槽用手摺機構1は、入浴装置10の外側に固定して配置され、例えば身体障害者や老人などの足腰が弱っているような入浴者が、浴槽11内の浴槽シート12上へ乗り移る際などに身体を支えるための補助となるものである。
なお、符号Mは入浴装置10を使用して入浴する入浴者とし、符号Kは入浴者Mが使用する車椅子とする。そして、入浴者M及び車椅子Kは図1にのみに示し、ほかの図では省略しているが、これらの図においても符号M、Kを用いて説明する。
【0014】
先ず、浴槽用手摺機構1を取り付ける入浴装置10の構成について図面に基づいて説明する。
図1及び図2に示すように、入浴装置10は、入浴者Mの出入り口となる入口開口11aを一方の側壁11bに備えた平面視略長方形状の浴槽11と、浴槽11内で昇降(矢印E1方向)及び浴槽11の長手方向に横移動(矢印E2方向)可能に設けられた浴槽シート12と、浴槽シート12上で回転可能且つ浴槽11の短手方向(矢印E3方向)に横移動可能に設けられた座席部13と、上下方向に移動して浴槽11に前記入口開口11aを形成する昇降扉14とから概略構成されている。
そして、浴槽シート12は、シート用駆動部15によって昇降或いは横移動するための駆動力が与えられている。また、浴槽11の側壁下部11c(図2、図3参照)には、昇降扉14の下方の位置に浴槽用手摺機構1を取り付けるための手摺固定部20が設けられている。
【0015】
図1に示すように、浴槽シート12を駆動するシート用駆動部15は、浴槽11の一方の上部側縁部11dにおいて浴槽11の長手方向に延設された第一ガイドレール15a(図2参照)と、その第一ガイドレール15aに沿ってスライドする駆動本体15bと、駆動本体15bから浴槽11の底部に向けて上下方向に延在する第二ガイドレール15cとから構成されている。
そして、浴槽シート12の一端12aが、第二ガイドレール15cに移動可能に取り付けられている。これにより、浴槽シート12は、シート用駆動部15によって、第一ガイドレール15a及び第二ガイドレール15cに案内されることで、浴槽11内で昇降できると共に浴槽11の長手方向に往復移動することができ、浴槽11内において任意の位置に配置することができる構成となっている。
【0016】
また、図1及び図2に示す座席部13は、平面視円形の薄板状の座席部をなし、上述したように浴槽シート12の上面に鉛直軸線回りで回動可能に設けられている。さらに、この座席部13は、浴槽シート12に対して浴槽11の短手方向(矢印E3方向)にスライドする機能を有する。
つまり、図2及び図3に示すように、後述する昇降扉14が下降して入口開口11aが開いた状態であるときに、座席部13の一部が浴槽11より外方に張り出すようになっている。そのため、例えば入浴者Mが浴槽11に入るときには、先ず張り出した位置にある座席部13に足を浴槽11外に出した状態(つまり、身体を正面方向に向けた状態)で腰掛け、次いで座席部13を回転させることで、足が浴槽11内に入るように身体の向きを浴槽11内の入浴位置に移動させることができる。
【0017】
図1、図2及び図3に示すように、昇降扉14は、浴槽11の側壁の一部をなす部材である。そして、浴槽11の一方の側壁11b両端部に略上下方向に延設されるガイド14a、14aが設けられ、そのガイド14a、14aに沿って昇降扉14が上下方向に手動或いは自動により移動できるようになっている。この上下方向の移動により浴槽11の側壁11bの上部に入口開口11aが形成される。
なお、とくに図示しないが、浴槽11と昇降扉14との間は、液密にシールされている。
【0018】
図4に示すように、手摺固定部20は、浴槽11の側壁下部11cに固定された断面視L字形状の浴槽下部フレーム21と、その浴槽下部フレーム21から連結材21Aを介して外側に張り出している突起部材22とからなる。突起部材22は、浴槽11の長手方向に長い角柱形状をなし、その両端22a、22b(図3参照)にはメネジが形成された孔(図示省略)が設けられ、詳しくは後述するが、ベースプレート30の浴槽側端部30aに設けられた連結部34が係止ネジ35によって固定されている。
なお、この突起部材22は昇降扉14の下方に位置するものであって、昇降扉14が上昇位置にあって入口開口11aが閉じた状態のときには突起部材22が露出した状態となるが、入浴者Mが浴槽11内に入るときには昇降扉14が下降にあり、突起部材22はほぼ昇降扉14の下面に隠れた状態となるため、入浴者Mの邪魔になるようなことはない。
【0019】
次に、浴槽11の側方に設けられる浴槽用手摺機構1について、図面に基づいて説明する。
図5に示すように、浴槽用手摺機構1は、薄板状のベースプレート30と、ベースプレート30上に立設された支柱31と、支柱31の上端部31aにおいて浴槽11の側壁11bに対して直交する方向に回転可能に支持された回転軸32(支持部)と、回転軸32の浴槽側端部32aに浴槽11側に向かって水平方向に延在する手摺本体40とから概略構成されている(図6参照)。このときの浴槽用手摺機構1は、浴槽11の長手方向において略中央の位置に配置されている。
そして、回転軸32の他端32bには、手摺本体40を所定位置(後述する第一固定位置R1及び第二固定位置R2)で固定状態に保持するロック機構50が設けられている。
【0020】
図4及び図5に示すように、ベースプレート30は、平面視で略長方形状をなし、その長手方向の浴槽11側の一端30aの両角部には、ベースプレート30から上方に向けて突出した連結部34が設けられている。そして、両連結部34、34は、雄ねじが形成された係止ネジ35、35を、手摺固定部20の突起部材22の両端22a、22b(図3参照)に形成されるメネジ孔(図示省略)内に挿入螺合させることで浴槽11に対して回動可能に係止されている。
これにより、この連結部34と突起部材22との取付け部は、ヒンジの役割を果たす。つまり、ベースプレート30は、係止ネジ部35、35を軸として回転する構成となることから、浴室の床面の勾配にかかわらず、浴室の床面Fに略平行な状態で接地させることができる(図2参照)。すなわち、床面に勾配のある浴室内で水平に設置されている浴槽に、ベースプレート30を取り付けることができる。
また、ベースプレート30の他端30bには、上述したように支柱31が立設されている。
【0021】
さらに、図1及び図2に示すように、ベースプレート30の上面には、滑り防止用のマット33が設けられている。詳しくは後述するが、入浴者Mが浴槽用手摺機構1を使用して浴槽11に入る時には、マット33上に足を乗せた状態で浴槽11内の浴槽シート12に乗り移ることになるため、マット33は、例えばゴムなどの滑らない材質とされる。
【0022】
図1及び図2に示すように、支柱31は、ベースプレート30にボルトや溶接などの固定手段(図示省略)によってベースプレート30の他端30b(浴槽11と反対側)、すなわち、入浴者Mや介助者の足が支柱31に当たって邪魔にならないように浴槽11の側壁11bから所定間隔をもって離れた位置に設けられている。
【0023】
図3及び図5に示すように、手摺本体40は、回転軸32の浴槽側端部32aに介装部材43を介して固定され、回転軸32の中心軸をなす軸線Iに直交する方向に延在する正面視で略U字形状(図3参照)の連結フレーム41と、連結フレーム41の先端41a、41aから浴槽11の側壁11bに向かう方向に延在するように固定された手摺42とからなる。そして、介装部材43は、板状の部材であり、回転軸32と手摺本体40との間に介在して両者間を固定している。
このような手摺42は、略L字形状となるように連結フレーム41に対して略直角に固定されている。
【0024】
図2に示すように、手摺42は、水平方向に平行に延在された横フレーム42a、42bと、横フレーム42a、42bの端部同士を連結する縦フレーム42c、42dとから構成され、前記軸線I方向に長い略長方形に枠組みされた形状をなしている。
なお、手摺42の長手方向の長さは、入浴者Mが浴槽11への出入り動作を行う際のスペースを取るのに十分な長さとされる。
【0025】
このような手摺本体40は、回転軸32と共にその軸線Iを中心として回動(図3に示す矢印E5方向)する構成となっている。そして、手摺42は、連結フレーム41を介して固定されているため、回転軸32に対して偏心した状態となっている。そのため、回転軸32の軸線Iを挟んで左右対称位置(第一固定位置R1、第二固定位置R2)に手摺42を移動させて配置させることができる。
ここで、第一固定位置R1(第一位置)は図3に示す正面視で回転軸32より右側において手摺42の横フレーム42a、42b(図2参照)が上下方向に配置される位置とされ、また、第二固定位置R2(第二位置)は、同じく回転軸32より左側において手摺42の横フレーム42a、42b(図2参照)が上下方向に配置される位置とされる。そして、手摺42の回転範囲は、第一固定位置R1と第二固定位置R2との間の180度の範囲とされる。
【0026】
そして、図3に示すように、手摺42は、第一固定位置R1と第二固定位置R2の二箇所の内どちらか一方を選択することができる。例えば、手摺42を第一固定位置R1に配置させたとき、入浴者Mは図3において手摺42の左側、つまり第二固定位置R2側(図1では手摺42に対して紙面上方)が浴槽11への出入口となり、手摺42の右側より広いスペースを確保できる。一方、手摺42を第二固定位置R2に配置させたとき、図3において手摺42の右側、つまり第一固定位置R1側(図1では手摺42に対して紙面下方)が浴槽11への出入口となり、手摺42の左側より広いスペースを確保できる。そのため、入浴者Mにとって浴槽11に出入りしやすい側のスペースを確保するように手摺42のみを移動させることができる。
なお、手摺42の高さ及び位置は、入浴者Mが足をマット33に乗せた状態で立ち上がるとちょうど手摺42(横フレーム42a、42b)を掴めるような位置とされる。
【0027】
次に、手摺本体40を所定位置(第一固定位置R1と第二固定位置R2)に固定状態に保持するためのロック機構50について図6などを参照しながら説明する。
図6に示すように、ロック機構50は、手摺本体40の回転を所定位置(第一固定位置R1又は第二固定位置R2)で固定する機能を有するものである。
具体的には、ロック機構50は、回転軸32の他端32bに固定された取付板55と、取付板55に設けられていてスプリング52を内蔵させて浴槽11方向に付勢されてなるストッパピン51と、支柱31に固定されていてストッパピン51の先端係止部51aを係止させるための係止孔53a、53bを形成した係止部材53とからなる。
【0028】
ストッパピン51は、ボルト54、54によって回転軸32の他端32bに取り付けられた取付板55に、浴槽11側に付勢された状態で固定支持されている。そして、取付板55は、回転軸32を介して手摺本体40に連結されている。そのため、ストッパピン51は、手摺42(回転軸32)の軸回転と一緒に回転するように構成されている。
係止部材53に形成される係止孔53a、53bは、ストッパピン51が第一固定位置R1及び第二固定位置R2の夫々の位置で停止したときに同軸となる位置とされる。これにより、ストッパピン51は、第一固定位置R1及び第二固定位置R2のどちらの位置に手摺42が配置されていても、先端係止部51aが係止孔53a、53bのどちらか一方に係止され、手摺42をロック状態にすることができる。
【0029】
さらに、具体的には、手摺42の回転と共に回動するストッパピン51がロック用の係止孔53a(53b)に合致する位置までくると、ストッパピン51はスプリング52の付勢力によって浴槽11側へ押されて移動し、係止孔53a(53b)に挿入される。これにより、ストッパピン51は、スプリング52によって付勢されているため、係止孔53a(53b)から抜け出ることがなく、手摺42は自動的にロック状態になる。このように、手摺42が保持状態とされることから、手摺42の使用中に手摺42が回転して動くようなことを防ぐことができる。
また、ロック機構50によるロック状態を解除するには、ストッパピン51を浴槽11と反対側(図6に示す矢印E4方向)に移動させ、スプリング52の付勢力に抗して先端係止部51aを係止孔53a(53b)から引き抜くようにする。これによりロック状態を解除できる。
【0030】
次に、このように構成される入浴装置10及び浴槽用手摺機構1を使用した入浴方法について図面に基づいて説明する。
ここで、入浴者Mが浴槽11への出入りする位置は、入浴者Mにとって浴槽11に入りやすい位置が適宜選択されるが、以下の説明では、図1に示すように、浴槽用手摺機構1に対して紙面上方の位置(図3の側面視で手摺42に対して左側)から浴槽11に入るものとする。そのため、浴槽11内の浴槽シート12も出入りする側に配置しておく。さらに、浴槽11には湯を入れておき、昇降扉14を下降させて浴槽11の入口開口11aを開いた状態とし、座席部13の一部を入口開口11aから張出した位置にしておく。また、入浴者Mは、通常の移動に車椅子Kを使用するものとして説明する。
さらに、手摺42は、第一固定位置R1に配置固定させておく。このときロック機構50は、ストッパピン51の先端係止部51aが第一係止孔53a内に進入して係止されている状態とされる(図6参照)。なお、手摺42を使用する前には、例えば介助者はロック機構50がロック状態であることを確認しておくことが好ましい。
【0031】
先ず、図1に示すように、入浴者Mが乗っている車椅子Kを浴槽11に横付けする。そして、入浴者Mは、足をマット33に乗せ、手で手摺42の横フレーム42a(42b)を掴んで自身の体重を支えながら立ち上がる。さらに、身体を略45度回転させることで入口開口11aから浴槽11内に移動させて座席部13に座る。それから、入浴者Mは、座席部13を回転させると共に浴槽11の短手方向に横移動させながら足を浴槽11内に入れ、乗り移りが完了する。
【0032】
次に、昇降扉14を上昇させて浴槽11の入口開口11bを閉じ、その後浴槽シート12を下降させ、必要に応じて湯を追加するなどして入浴者Mが湯に入れるようにする。なお、浴槽11から出るときには、浴槽11に入ったときの逆の手順とされ、昇降扉14を下降させ、浴槽シート12及び座席部13を所定の位置に移動させる。そして、入浴者Mはマット33上に足を置くと共に、手摺42を掴んでマット33上に立ち上がり、横付けされている車椅子Kに座ることで入浴が完了する。
【0033】
このように、浴槽用手摺機構1を使用することによって、浴槽11内に出入する入浴者Mの動作における動線を極力少なくすることができる。なお、手摺42を使用する他の目的として、浴槽11内に出入りする場合だけでなく、例えば車椅子Kで移動した入浴者Mが手摺42を掴みながら立って身体を洗う場合などに使用できることは言うまでもない。
【0034】
上述した本実施の形態による浴槽用手摺機構では、ベースプレート30や支柱31の位置を移動させることなく、入浴者Mにとって浴槽11に出入りしやすい側のスペースを確保するように手摺42のみを移動させることができる。
また、浴槽用手摺機構1は、手摺42を連結する支柱31やベースプレート30が浴槽11への出入り動作に障害物とならないように配置された構造であるうえ、手摺42が浴槽11の側壁11bの延在方向の第一固定位置R1と第二固定位置R2とを移動する構成であり、従来のような支柱を軸として回転する手摺と比べて、手摺42を設置するために必要な床面積を小さくすることができる。そのため、入浴者Mや介助者、さらには車椅子Kなどの邪魔になることがなく、狭く限られた空間をなす浴室内で浴槽に手摺42を設置することができる。
さらに、車椅子Kを使用する入浴者Mは、手摺42を掴んだ状態で立ち上がり、浴槽11側に少しだけ身体をずらせて浴槽11内へ移動することができるため、入浴者Mの出入り動作の動線を少なくすることができ、入浴者Mの負担を少なくすることができる。さらには、介助者の負担を軽くすることができる。
【0035】
次に、本発明の実施の形態の第一及び第二変形例について、図7及び図8に基づいて説明するが、上述の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施の形態と異なる構成について説明する。
先ず、図7は浴槽用手摺機構の第一変形例を示す図である。
図7に示すように、第一変形例による浴槽用手摺機構1は、支柱31を二重構造にして手摺本体40の高さを調整可能としたものである。支柱31は、ベースプレート30の他端30bに固定された外側支柱31Aと、外側支柱31Aの内側に上下方向に移動可能に内挿された内側支柱31Bとからなる。そして、内側支柱31Bの上端31aに回転軸32を介して手摺本体40とロック機構50とが設けられる構造等は実施の形態と同様の構成である。
なお、外側支柱31Aの上部31bには、高さ調整ねじ37(高さ調整手段)が設けられており、これを弛めることで、内側支柱31Bが上下方向(矢印E6方向)に移動し、床面Fからの鉛直方向高さを調節できるとともに、高さ調節ねじ37を締め付けることで、内側支柱31Bを外側支柱31Aに相対移動不可に固定できるようになっている。これにより、使用する入浴者の身長に応じて手摺42の高さを調整できることから、入浴者Mは手摺42に掴まり易くなる。
【0036】
次に、図8は浴槽用手摺の第二変形例を示す図である。
図8に示すように、第二変形例による浴槽用手摺1は、実施の形態の回転軸32(図2参照)に代えて、手摺42を実施の形態と同様の第一固定位置R1と第2固定位置R2(図1参照)との間で横移動可能としたものである。具体的には、支柱31の上端31aの浴槽11側に、その長手方向を浴槽11の側壁1aの延在方向に略平行となるように板状の基盤62を設け、その基盤62の浴槽11側にレール60(支持部)が取り付けられている。
そして、手摺本体40にはレール60に摺動可能に係合する摺動部材61(支持部)が固定されている。これにより、手摺42は、レール60に沿って横移動され、図1に示す第一固定位置R1と第二固定位置R2とを選択的に配置させることができる。
【0037】
以上、本発明による浴槽用手摺機構の実施の形態、第一及び第二変形例について説明したが、本発明は上記の実施の形態、第一及び第二変形例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施の形態、第一及び第二変形例では浴槽シート12や昇降扉14を備えた入浴装置10に浴槽用手摺機構1を設けているが、入浴装置10はこれに限定されることはなく、例えば浴槽シート12の移動機能が異なるような入浴装置や、浴槽のみの場合であっても適用することができる。要は、本発明の効果で説明したように入浴者Mが手摺42に掴まって身体を支えることで、入浴者Mにおける浴槽内への出入り動作の動線を少なくすることで、入浴者Mや介助者の負担を少なくすることができればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態による浴槽用手摺機構の全体構成を示す平面図である。
【図2】同じく浴槽用手摺機構の全体構成を示す側面図である。
【図3】同じく浴槽用手摺機構の全体構成を示す正面図である。
【図4】浴槽用手摺機構と入浴装置との取付け状態を示す図である。
【図5】図1に示す浴槽用手摺機構の拡大図である。
【図6】手摺本体とロック機構の取付け構造を示す平面断面図である。
【図7】浴槽用手摺機構の第一変形例を示す図である。
【図8】浴槽用手摺機構の第二変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 浴槽用手摺機構
10 入浴装置
11 浴槽
12 浴槽シート
14 昇降扉
20 手摺固定部
30 ベースプレート
31 支柱
32 回転軸(支持部)
37 高さ調整ねじ(高さ調整手段)
40 手摺本体
41 連結フレーム
42 手摺
50 ロック機構
60 レール(支持部)
61 摺動部材(支持部)
R1 第一固定位置(第一位置)
R2 第二固定位置(第二位置)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽に取り付けられ、入浴者の動作を補助するための浴槽用手摺機構であって、
前記浴槽の一端を固定して床面に接地されるベースプレートと、
前記ベースプレートの他端に立設された支柱と、
前記支柱に設けられた支持部と、
該支持部に設けられていて前記浴槽の側壁に向かって延びる手摺と、
を備え、
前記支持部によって前記手摺を、前記浴槽の側壁の延在方向の第一位置と第二位置とに移動可能としたことを特徴とする浴槽用手摺機構。
【請求項2】
前記手摺は、前記第一位置と前記第二位置との間で回転可能としたことを特徴とする請求項1に記載の浴槽用手摺機構。
【請求項3】
前記手摺は、前記第一位置と前記第二位置との間で横移動可能としたことを特徴とする請求項1に記載の浴槽用手摺機構。
【請求項4】
前記手摺を所定の位置で保持状態に固定させるためのロック機構が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の浴槽用手摺機構。
【請求項5】
前記ベースプレートは、前記浴槽の下部に前記浴槽の長手方向を軸として回動可能に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の浴槽用手摺機構。
【請求項6】
前記支柱には、前記手摺を上下方向に移動させる高さ調整手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の浴槽用手摺機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−6081(P2008−6081A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179739(P2006−179739)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000182373)酒井医療株式会社 (46)
【Fターム(参考)】