説明

浴槽

【課題】浴槽では、水垢付着が頻繁に生じることで長期間使用するうちに水垢が固着し、除去が困難になることで、美観が著しく低下させる不具合があった。
【解決手段】本発明では、上記課題を解決すべく、
浴槽基材と、前記浴槽基材上に形成された被覆部と、を備えた浴槽であって、
前記被覆部は樹脂から形成され、前記樹脂は架橋部を有し、前記架橋部は前記樹脂の主剤を形成するモノマー単位に対し架橋を形成する官能基を4以上含む架橋剤と、前記モノマー単位との架橋反応により形成されていることを特徴とする浴槽を提供する。
また、前記樹脂が撥水性樹脂であることを特徴とする浴槽を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
浴室のような水回り空間において使用される浴槽には、浴槽への出入り時や、体を洗う時に水が掛かり、頻繁に水道水が付着する。付着した水道水が乾燥すると溶存していたミネラル成分が析出して水垢となる。この水垢は通常の清掃では除去することが困難であることから、美感を損ねる。
【0003】
従来、表面に付着した水垢の除去を容易にする浴槽として、基材表面に撥水・撥油性の被膜を形成した浴槽が特許文献1、2および3に開示されている。特許文献1においては、浴室内の壁に設置して1ヶ月使用後の長期水垢除去性も開示がある。
【0004】
【特許文献1】特開2007−224189
【特許文献2】特開2003−082233
【特許文献3】特開2002−069378
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献1に記載されている浴槽では、水垢付着が頻繁に起こり美観を著しく低下させるような条件では、長期間使用するうちに水垢が固着し、除去が困難になることがあった。
【0006】
そこで、本発明では、水回り空間において付着した水垢の除去が容易であり、長期間水垢除去性を有する浴槽を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、上記課題を解決すべく、
浴槽基材と、前記浴槽基材上に形成された被覆部と、を備えた浴槽であって、
前記被覆部は樹脂から形成され、前記樹脂は架橋部を有し、前記架橋部は前記樹脂の主剤を形成するモノマー単位に対し架橋を形成する官能基を4以上含む架橋剤と、前記モノマー単位との架橋反応により形成されていることを特徴とする浴槽を提供する。
【0008】
前記樹脂が撥水性樹脂であることを特徴とする浴槽を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水回り空間において付着した水垢の除去が容易であり、長期間水垢除去性を有する浴槽を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を実施するための最良の形態を説明するのに先立って、本発明の作用効果について説明する。
【0011】
本発明の一形態は、浴槽基材と、前記浴槽基材上に形成された被覆部と、を備えた浴槽であって、
前記被覆部は樹脂から形成され、前記樹脂は架橋部を有し、前記架橋部は前記樹脂の主剤を形成するモノマー単位に対し架橋を形成する官能基を4以上含む架橋剤と、前記モノマー単位との架橋反応により形成されていることを特徴とする浴槽を提供する。
【0012】
浴槽基材表面に固着した水垢を除去するのは困難である。よって、この浴槽基材表面に樹脂を被覆することで、水垢成分との反応を抑制する。このとき、被覆部を形成する樹脂には架橋部を含むことで、浴槽としての耐洗剤性や硬度が保たれる。特に架橋部を形成する架橋剤の官能基数が4以上であることで十分に被覆部の樹脂の架橋密度が高くなる。架橋密度が高くなると、浴槽としての品質も満足しながら、水垢成分が被覆部中に浸入しにくくなることで、長期の水垢除去性が達成される。架橋剤としては、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート等が挙げられる。
【0013】
本発明の一形態は、浴槽本体に被覆される樹脂が撥水性樹脂であることを特徴とする浴槽を提供する。
【0014】
浴槽に被覆される樹脂が、撥水性樹脂であることにより、付着する水滴が少なくなり、水垢の付着量を抑制する。また、撥水性の樹脂は表面エネルギーが低く、水垢の樹脂表面への付着性を抑制するために着いた水垢を除去しやすくなる。撥水性樹脂としては、アクリル等の樹脂にポリジメチルシリコーン基等のシリコーン基やパーフルオロアルキル基等の含フッ素基を有するもの等が挙げられる。
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
図1は、本発明の一態様である浴槽を備えた浴室の概略図である。
浴室空間は、ドア4から入ると、洗い場である床3がある。体を支える手すり10、お湯や水を吐出および吐水量を調節する水栓金具5、シャンプー等を置くためのカウンター6、鏡7、お湯や水を吐出するシャワー本体9とそれを引っ掛けるシャワーフック8、さらに照明12等が壁11に設置されている。また、浴槽2および入浴時に体を支える手すり1、また浴槽内には排水栓13、押しボタン14とがあり、浴室空間はこのような部材により構成される。
次に本発明の一態様である浴槽の断面図を拡大して図2に示す。浴槽基材31上に被覆部32が施されている。被覆部32は、基材31上に樹脂により形成されている。なお、被覆部32は、特に汚れが目立つリム部に被覆されているが、浴槽において表面が露出されているいずれの部分に被覆されていればよい。
なお、本実施例では基材31の組成として、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、アクリル樹脂等および、これに天然石やガラス繊維などの無機物等が配合されているもの等が挙げられる。また、単層、ゲルコートや塗膜層を有するもの等、多層の構造を有するものを浴室基材としてもよい。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0018】
(実施例1)
浴槽の基材として、不飽和ポリエステル樹脂を用いて評価を行った。
本実施例での被覆部としては、次に挙げる樹脂と架橋剤とを備えている。
樹脂として、水酸基およびシリコーン基を備える、アクリルシリコーン樹脂(固形分45重量%)を用いた。
架橋剤として、1分子中に官能基を6つ有する基本構造を持つ、官能基数6の完全アルキル型メチル化メラミン(固形分100%)を用いた。すなわち、架橋剤全体平均においても官能基数は6つである。
触媒として芳香族スルフォン酸を用いた。
酢酸ブチルにて希釈した樹脂に架橋剤を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.5、及び触媒を架橋剤の1重量%添加し、攪拌機を用いて攪拌混合した。得られた溶液を基材上にフローコート法にて塗布し、室温で乾燥させた後、140℃で30分熱処理を行い複合材を得た。
浴槽基材上への被覆部の形成方法としては、コーティング液を、例えばディッピング法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、フローコート法、ロールコート法ならびにこれらの併用等、既知の塗布手段を適宜採用することができる。
【0019】
(実施例2)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.33にした以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
【0020】
(実施例3)
架橋剤を変更し、触媒を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
架橋剤に、1分子中に官能基を6つ有する基本構造を持つ、官能基数6のメチロール基型メラミン(固形分88%)を用いた。すなわち、架橋剤全体平均においても官能基数は6つである。
上記架橋剤であるメチロール基化メラミンの添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.50用い、触媒を使用しないこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
【0021】
(実施例4)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.33にした以外は実施例3と同様にして複合材を得た。
【0022】
(実施例5)
架橋剤を変更し、触媒を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
架橋剤を1分子中に官能基を6つ有する基本構造を持つ、官能基数6のイミノ基型(ブチル化基とイミノ基を有する)メラミン(固形分80%)を用いた。すなわち、架橋剤全体平均においても官能基数は6つである。
上記架橋剤であるイミノ基化メラミンの添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.50用い、触媒を使用しないこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
【0023】
(実施例6)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.33にした以外は実施例5と同様にして複合材を得た。
【0024】
(実施例7)
架橋剤を変更したこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
架橋剤を1分子中に官能基を6つ有する基本構造を持つ、官能基数6の完全アルキル化型ブチル化メラミン(固形分100%)を用いた。すなわち、架橋剤全体平均においても官能基数は6つである。
上記架橋剤であるブチル化メラミンを用いたこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
【0025】
(実施例8)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.33にした以外は実施例7と同様にして複合材を得た。
【0026】
(実施例9)
架橋剤を変更し、触媒を使用しなかったこと以外は実施例2と同様にして複合材を得た。
架橋剤を1分子中に官能基を6つ有する基本構造を持つ、官能基数6のイミノ基型(メチル化基とイミノ基を有する)メラミン(固形分80%)を用いた。すなわち、架橋剤全体平均においても官能基数は6つである。
上記架橋剤であるイミノ基型メラミンの添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.33用い、触媒を使用しないこと以外は実施例1と同様にして複合材を得た。
【0027】
(比較例1)
実施例1と同様に、浴槽基材として不飽和ポリエステル樹脂を用いて評価を行った。
樹脂として、実施例1と同様に、水酸基を有するアクリルシリコーン樹脂(固形分45重量%)を用いた。
架橋剤として、3官能ヘキサメチレンジイソシアネート系架橋剤(固形分100%)を用いた。すなわち、官能基数が分子構造中に3であることから官能基数は3つであり、架橋剤全体平均においても官能基数は3となる。
酢酸ブチルにて希釈した上記樹脂に、上記3官能ヘキサメチレンジイソシアネート系架橋剤を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.57添加し、攪拌機を用いて攪拌混合した。得られた溶液を上記基材上にフローコート法にて塗布し、室温で乾燥させた後、120℃で30分熱処理を行い複合材を得た。
【0028】
(比較例2)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で0.28にした以外は比較例1と同様にして複合材を得た。
【0029】
(比較例3)
架橋剤の添加量を樹脂固形分に対する架橋剤固形分の比で1.13にした以外は比較例1と同様にして複合材を得た。
【0030】
(評価方法)
得られた複合材について、長期の水垢除去性を、水垢付着を促進させた試験にて評価した。
まず、複合材へ水道水を1分間散布し水滴を表面にのせる。これを59分間常温乾燥させることで水滴が乾燥し水垢が生じる。この散布と乾燥を一週間繰り返すことにより、複合材に水垢汚れを蓄積、付着させた。すなわち、一週間で168サイクルの水垢を付着させたことになる。これは、1日に1回水垢が形成されるとすると168日分、すなわち半年程度の水垢付着促進条件となる。
水垢汚れの除去は、168サイクルの水垢を付着させた後に、ウォッシャビリティーテスター(テスター産業株式会社製)を用いて行った。試験片に水を染み込ませたナイロンスポンジを当接し、50g/cm2の荷重をかけ、往復10回の摺動を行った後の水垢の残量を目視にて評価した。
判定基準 ○:水垢汚れが完全に除去できている、×:水垢汚れが残っている
【0031】
(評価結果)
水垢試験の結果を表1に示す。いずれも、基材は不飽和ポリエステル樹脂を使用しており、用いた樹脂はアクリルシリコーンである。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、実施例1〜9では、約半年相当の水垢付着条件においても、ナイロンタワシで軽く擦る程度で、頑固な水垢汚れを完全に除去することができた。それに対して、比較例1〜3いずれにおいても水垢は除去できずに残った。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一態様である浴槽を備えた浴室概略図である。
【図2】本発明の一態様である浴槽の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0035】
手すり1、浴槽2、床3、ドア4、水栓金具5、カウンター6、鏡7、シャワーフック8、シャワー本体9、手すり10、壁11、照明12、排水栓13、押しボタン14、樹脂部31、被覆部32。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浴槽基材と、前記浴槽基材上に形成された被覆部と、を備えた浴槽であって、
前記被覆部は樹脂から形成され、前記樹脂は架橋部を有し、前記架橋部は前記樹脂の主剤を形成するモノマー単位に対し架橋を形成する官能基を4以上含む架橋剤と、前記モノマー単位との架橋反応により形成されていることを特徴とする浴槽。
【請求項2】
前記樹脂が撥水性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の浴槽。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−273685(P2009−273685A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128123(P2008−128123)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】