説明

海ぶどう加工品、海ぶどう製品およびそれらの製造方法

【課題】本発明は生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および食感が変化しないように保存する技術を提供する。
【解決手段】海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することにより得られることを特徴とする海ぶどう加工品および海ぶどう加工品をpH6.5以上の保存液と共に容器に封入して得られる海ぶどう製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感を維持し、しかも、冷蔵保存可能な海ぶどう加工品、海ぶどう製品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海ぶどうはイワズタ科の緑藻であって、外部形態としてブドウ状の小突起を有するものの通称である。一般に養殖等され、海ぶどうとして流通しているのは、クビレズタ(学名:Caulerpa lentillifera)である。
【0003】
海ぶどうは生きた状態では、低温や高浸透圧、酸などの刺激に晒されることにより、萎んで外部形態を維持できない。また、海ぶどうは低温に弱いため常温保管となり、海ぶどうの表面に付着した微生物の増殖が懸念され、食中毒等の問題が憂慮される。
【0004】
そのため、海ぶどうを流通させるには何らかの加工処理を行う必要があった。これまで海ぶどうの加工は塩蔵および高塩分水に浸漬し、一旦萎まして、冷凍等してパックされていた。萎んだ海ぶどうは塩分を除去するため真水に入れることにより、海ぶどう細胞中に浸透圧の関係で水分が吸収され、一応外部形態を取り戻す。
【0005】
しかしながら、これまでの塩蔵加工等の方法では、一旦膨潤して外部形態が戻っても、時間の経過とともに再度萎んでしまう。また、塩分除去および膨潤させるための水戻しを行なわなくてはならず簡便性に欠ける。
【0006】
また、海ぶどうの別の加工方法としては、オゾンや触媒等を利用して海水を殺菌し、その殺菌海水と海ぶどうをパックしたものも提案されている(特許文献1〜3)が、これでも海ぶどうの保存は常温で数週間が限度であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−80618号公報
【特許文献2】特開2009−153510号公報
【特許文献3】特許第3554846号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および食感が変化しないように保存する技術を提供し、海ぶどうの利用形態を大きく変え、消費を拡大させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意研究した結果、海ぶどうを特定の溶液中で処理することにより、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感が維持でき、しかも、冷蔵保存できることを見出した。また、上記処理を行った海ぶどうを特定の保存液と共に容器に封入することにより長期間冷蔵保存できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することにより得られることを特徴とする海ぶどう加工品である。
【0011】
また、本発明は上記海ぶどう加工品をpH6.5以上の保存液と共に容器に封入して得られる海ぶどう製品である。
【0012】
更に、本発明は海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することを特徴とする海ぶどう加工品の製造方法である。
【0013】
また更に、本発明は海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理して海ぶどう加工品を得、その海ぶどう加工品をpH6.5以上の保存液と共に容器に封入することを特徴とする海ぶどう製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の海ぶどうの加工品は、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感が維持でき、しかも、冷蔵保存できる。また、本発明の海ぶどう製品は、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感を維持したまま1年以上も長期間冷蔵保存できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の海ぶどうの加工品は海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することにより得られる。
【0016】
本発明の海ぶどうの加工品の原料となる海ぶどうは、海、水槽等から生きた状態で収穫されたもの、好ましくは収穫した際にできた切り口等の傷を水槽内等で塞いだ状態になるまで養生したものである。海ぶどうの養生の条件は、公知の条件でよく、例えば、文献(大城信弘、平成19年:海ぶどう養殖、水産普及だより第65号、沖縄県水産業改良普及センター、18−21)等を参考に適宜決定すればよい。
【0017】
この海ぶどうは洗浄し、十分水切りを行った後、ミョウバンを含有する塩水で処理する。ここで塩水は、2.0〜10.0質量%(以下、単に「%」という)の塩化ナトリウム濃度、好ましくは海水(3.4%)と同程度の塩化ナトリウム濃度の塩水である。なお、塩水は殺菌等された清潔な海水で代用することもできる。
【0018】
また、上記塩水に含有させるミョウバンとしては、特に限定されないが、硫酸アルミニウムカリウム(焼カリミョウバン)、硫酸カリウムアルミニウム・12水和物(カリミョウバン)、硫酸アンモニウムアルミニウム(焼アンモニウムミョウバン)、硫酸アンモニウムアルミニウム・12水和物(アンモニウムミョウバン)等が挙げられる。これらのミョウバンの中でも焼カリミョウバン及びカリミョウバンが好ましい。これらミョウバンは塩水中に含有させればよく、その濃度は特に限定されないが、10mM以上が好ましく、20〜30mMがより好ましい。
【0019】
上記ミョウバンを含有する塩水による海ぶどうの処理は、ミョウバンを含有する塩水による海ぶどうを浸漬する以外は特に限定されないが、例えば0〜100℃にしたミョウバンを含有する塩水に、海ぶどうを2〜600秒間浸漬すればよい。特に80〜100℃に加熱したミョウバンを含有する塩水に、海ぶどうを2〜30秒間浸漬する加熱処理をすれば、海ぶどうに付着する微生物等を殺菌することができる。
【0020】
上記処理、特に加熱処理をした後は、海ぶどうを直ちに藻体の褐色化および変敗防止のため、常温、好ましくは0〜10℃の殺菌等された清潔な海水、塩水、水道水等の水により、雑物や加熱処理に用いた塩水および海ぶどうからの溶出物を除去、冷却することが好ましい。
【0021】
斯くして得られる海ぶどう加工品は、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感が維持できる。
【0022】
また、上記海ぶどう加工品はpH6.5以上、好ましくはpH7.5〜8.5の保存液と共に容器に封入することにより海ぶどう製品とすることができる。この保存液は上記塩水やその代用である殺菌等された清潔な海水のpHを調整したものである。なお、保存液のpHは海ぶどう加工品と共に容器に封入された後も、上記範囲にあることが好ましい。
【0023】
保存液のpHは、食品添加物で調整することが好ましく、特に炭酸水素ナトリウム等のpH調整剤で調整することが好ましい。また、海ぶどう加工品と保存液を封入する容器としては、特に限定されないが、海ぶどう加工品の変色を防ぐため酸素および光を遮断する素材、例えば、アルミ蒸着ポリエチレン等で形成されたものが好ましい。また、容器に封入する手段としては真空包装機等が挙げられる。
【0024】
更に、この海ぶどう製品は、真空包装後に加熱殺菌をすることもできる。この加熱殺菌は、長時間および高温処理すると色調および藻体の劣化が激しくなるので、殺菌可能な範囲で極力短時間の設定が好ましい。また、加熱殺菌後は、直ちに冷却することが好ましい。
【0025】
斯くして得られる海ぶどう製品は、生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および特有のプチプチとした食感が維持でき、しかも、1ヶ月以上、好ましくは1年以上冷蔵保存できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
実 施 例 1
海ぶどう加工品の製造(1):
生きた状態の海ぶどうを収穫して、収穫した際にできた切り口を海水を入れた水槽内で1週間養生することにより塞いだ状態にした。この海ぶどうを十分水切りした後、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)を30mM含有する3.4%の塩化ナトリウム濃度の塩水を80℃にしたものに30秒間浸漬し、加熱処理した。加熱処理した海ぶどうは直ちに常温の水道水により冷却した。冷却した海ぶどうは3.4%の塩化ナトリウム濃度の塩水を炭酸水素ナトリウムによりpH7.8に調整した保存用の浸漬液に浸漬し、海ぶどう加工品を製造した。更に、この海ぶどう加工品を浸漬液ごとアルミ蒸着したポリエチレン製のパックに入れ、真空包装機で真空包装した。
【0028】
真空包装した海ぶどう加工品は全体的に鮮やかな緑色をしており、外部形態も維持できていた。この海ぶどう加工品について、13人で食感の官能検査をしたところ、いずれからもプチプチとした食感であったとの回答があった。
【0029】
また、上記で得られた海ぶどう加工品の表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、表面は生の状態の海ぶどうと同様に滑らかであった。一方、従来の塩蔵加工した海ぶどうを水で戻したものの表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、所々小さな穴があいていた。海ぶどうをミョウバンを含有する塩水で処理することにより表面の構造が維持されたことが考えられる。
【0030】
更に、上記で得られた海ぶどう加工品は冷蔵庫(3〜5℃)で1年保管後も色、外部形態およびプチプチとした食感を維持できることがわかった。
【0031】
実 施 例 2
海ぶどう加工品の製造(2):
実施例1において、ミョウバンの濃度を10、20、30、40、50、100、500または1000mMとする以外は同様にして海ぶどう加工品を製造した。これらの海ぶどう加工品について、処理直後および真空包装から1週間後に、色、外部形態については目視で調べた。また、食感については以下の評価基準で調べた。その結果を表1および2に示した。
【0032】
<食感評価基準>
(評価) (内容)
◎ : 生の海ぶどうと同じプチプチとした食感がある
○ : プチプチとした食感が強い
△ : プチプチとした食感が弱い
× : プチプチとした食感がない
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
以上の結果からミョウバンの濃度が10mM以上であれば、処理直後および真空包装から1週間後であっても食感および外部形態が維持できることがわかった。
【0036】
実 施 例 3
海ぶどう加工品の製造(3):
実施例1において、保存液のpHを7.8から5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5または9.0とする以外は同様にして海ぶどう加工品を製造した。これらの海ぶどう加工品について、真空包装から1週間後に、色、外部形態については目視で調べた。また、食感については実施例2と同様にして調べた。その結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
以上の結果から保存液のpHが6.5以上であれば色、食感および外部形態が維持できることがわかった。
【0039】
実 施 例 4
海ぶどう加工品の製造(4):
生きた状態の海ぶどうを収穫して、収穫した際にできた切り口を海水を入れた水槽内で1週間養生することにより塞いだ状態にした。この海ぶどうを十分水切りした後、ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)を30mM入れた3.4%の塩水を1℃にしたものに30秒間浸漬し、処理した。処理した海ぶどうは直ちに常温の水道水で洗浄した。洗浄した海ぶどうは3.4%の塩水を炭酸水素ナトリウムによりpH7.8に調整した保存用の浸漬液に浸漬し、海ぶどう加工品を製造した。この海ぶどう加工品を浸漬液ごとパックに入れ、真空包装した。
【0040】
真空包装した海ぶどう加工品は全体的に鮮やかな緑色をしており、外部形態も維持できることがわかった。この海ぶどう加工品について、13人で食感の官能検査をしたところ、いずれからもプチプチとした食感があったとの回答があった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は生きた状態の海ぶどうの色、外部形態および食感が変化しないように保存する技術を提供するので、海ぶどうの利用形態を大きく変え、消費を拡大させることができる。

以 上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することにより得られることを特徴とする海ぶどう加工品。
【請求項2】
海ぶどうが、収穫の際にできた傷を養生したものである請求項1記載の海ぶどう加工品。
【請求項3】
ミョウバンを含有する塩水におけるミョウバンの濃度が、10mM以上である請求項1または2記載の海ぶどう加工品。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の海ぶどう加工品をpH6.5以上の保存液と共に容器に封入して得られる海ぶどう製品。
【請求項5】
海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理することを特徴とする海ぶどう加工品の製造方法。
【請求項6】
海ぶどうが、収穫の際にできた傷を養生したものである請求項5記載の海ぶどう加工品の製造方法。
【請求項7】
ミョウバンを含有する塩水におけるミョウバンの濃度が、10mM以上である請求項5または6記載の海ぶどう加工品の製造方法。
【請求項8】
海ぶどうを、ミョウバンを含有する塩水で処理して海ぶどう加工品を得、その海ぶどう加工品をpH6.5以上の保存液と共に容器に封入することを特徴とする海ぶどう製品の製造方法。
【請求項9】
海ぶどうが、収穫の際にできた傷を養生したものである請求項8記載の海ぶどう製品の製造方法。
【請求項10】
ミョウバンを含有する塩水におけるミョウバンの濃度が、10mM以上である請求項8または9記載の海ぶどう製品の製造方法。






【公開番号】特開2012−200228(P2012−200228A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69181(P2011−69181)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(595102178)沖縄県 (36)
【Fターム(参考)】