説明

海底に噴出した原油の回収方法

【課題】海底から噴出する原油を拡散させることなしに海面に導いて効率良く回収できる方法を提供する。
【解決手段】閉ループ状の枠体8とその枠体の内側に張設した幕体9およびその幕体に接続された輸送パイプ5の三者からなるドーム組立体4をその枠体8が原油噴出口3を取り囲むように海底2に沈設する。着底したドーム組立体4の枠体8にモルタル等を注入して高比重化処理を施すことで、その枠体8をアンカーとしてドーム組立体4を海底2に定着さる。噴出する原油Gの浮力により幕体9をドーム状に膨出させるとともに、そのドーム状の幕体9内に原油Gを捕集する。捕集した原油Gを輸送パイプ5を通して海面側に浮上させた上で海上の原油回収船6にて回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底から噴出する原油を拡散させることなしに海面に導いた上で効率良く回収できるように考慮された原油の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底油田での原油の漏れ出しを防止する技術としてBOPと称される噴出防止装置が採用されている。この装置は、海底の原油噴出口に設置されるバルブ機能付きのもので、自重が数百トン以上もあることから、おおよそ一千気圧もの高圧の噴出圧まで封じ込めることができるとされている。
【0003】
また、海底で噴出した原油の回収技術ではないものの、類似の技術として海底のメタンハイドレートガス採取方法が本出願人により特許文献1として提案されている。この特許文献1に記載の技術では、海底を所定範囲覆うシートを沈設して展開し、そのシートの展開領域でガス化したメタンの浮力による上昇・移動によってシート内にメタンハイドレートガスを捕捉するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3305280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先に述べた前者の技術では、例えば水深が1500mにも及ぶ深海にて上記BOPが有効に機能しなかった場合、そのトラブル対策はすべて遠隔操作に頼らざるを得ない。そのため、復旧までに長時間を要し、結果として原油流出による甚大な海洋汚染等が危惧される。現に、2010年4月20日にメキシコ湾にて大規模な原油流出事故が発生している。
【0006】
他方、先に述べた後者の技術では、シートに連結した複数のウエイトの自重のみで当該シートを沈降・沈設する方式であることから、それぞれのウエイトはロープにて海上から吊り下げられてはいても、海中での沈降過程において隣り合うウエイト相互間の距離が何ら規制されていないことになる。そのため、沈降過程あるいは着底時点で複数のウエイトの相互位置関係が変化してしまう可能性があり、このことは、ほかでもなく着底時点でシートを十二分に展開させることができないことを意味している。特に、上記後者の技術を海底から噴出する原油の捕集に適用しようとすると、海底油田の場合にはその原油噴出口の水深はおよそ1500mにも及ぶことから、目標とする位置にてシートを展開できずに所期の目的を達成できないことになる。
【0007】
このようなことから、上記前者の技術であるところのBOPが有効に機能せずに、万が一原油が噴出した場合に備えて、有効な原油回収技術の実現が強く要望されている。
【0008】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、海底の原油噴出口から噴出する原油を拡散させることなしに海面に導いた上で、効率良く回収できるようにした原油の回収方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、海底の原油噴出口から噴出する原油の拡散を抑制しながらその原油を海面に導いて回収する方法であって、閉ループ状の枠体とその枠体の内側に張設した幕体およびその幕体に接続された輸送パイプの三者からなるドーム組立体をその枠体が原油噴出口を取り囲むように海底に沈設し、着底したドーム組立体の枠体に高比重化処理を施すことでその枠体をアンカーとして該ドーム組立体を海底に定着させ、噴出する原油の浮力により幕体をドーム状に膨出させるとともにそのドーム状の幕体内に原油を捕集し、捕集した原油を輸送パイプを通して海面側に浮上させた上で海上の原油回収手段にて回収することを特徴とする。
【0010】
ドーム組立体の枠体に対する高比重化処理としては、後述するように枠体自体の内部に高比重化処理のための物質を注入することを想定している。また、上記海上の原油回収手段としては、例えば原油回収船を想定している。
【0011】
ここで、深海の海底は低温であることから、原油が固まったり、原油に含まれるガスが凍って、輸送パイプを閉塞してしまうことがあり得る。その対策として、請求項2に記載のように、ドーム状に膨出した幕体の頂部近傍または輸送パイプのうち幕体側の直近位置にエア、特に温度調整により昇温化したエアを注入することが望ましい。より望ましくは、請求項3に記載のように、エアとともに輸送パイプの閉塞防止剤、例えば乳化剤や温水を注入するものとする。また、上記エアの注入を間欠的に行うことも有効である。
【0012】
上記ドーム組立体の枠体に対する高比重化処理は、二段階に分けて行うものとし、例えば請求項4に記載のように、着底したドーム組立体の枠体に対する高比重化処理は二次的な高比重化処理として行う一方、ドーム組立体の沈設に先立って、そのドーム組立体の枠体に一次的な高比重化処理を施すものとする。
【0013】
ここに言うドーム組立体における閉ループ状の枠体は、例えば請求項5に記載のように、パイプ状で且つ可撓性を有するものであって、一次的および二次的な高比重化処理は、枠体自体の内部に高比重化のための物質を注入することにより行うものとする。
【0014】
より具体的には、請求項6に記載のように、二次的な高比重化処理のための物質は一次的な高比重化処理のための物質よりも比重が大きいものであって、二次的な高比重化処理は、その二次的な高比重化処理のための物質の注入と並行して、一次的な高比重化処理のための物質を排出しながら行うものとする。
【0015】
なお、一次的な高比重化処理のための物質として例えば水を想定していて、また二次的な高比重化処理のための物質としてはモルタルやセメントミルク等を想定している。
【0016】
請求項7に記載の発明は、海底の原油噴出口から噴出する原油の拡散を抑制しながらその原油を海面に導いて回収する方法であって、閉ループ状の枠体の内側に幕体を張設してなるドーム組立体を水深方向で所定距離隔てて複数個連結したものを海底に沈設するとともに、それぞれの幕体の中央部に予め穴を形成しておき、原油噴出口を取り囲むように着底した最下段のドーム組立体の枠体に高比重化処理を施すことでその枠体をアンカーとして当該最下段のドーム組立体を海底に定着させ、それぞれのドーム組立体では、下方から浮上する原油の浮力により幕体をドーム状に膨出させるとともに、そのドーム状の幕体内に原油を一旦捕集した上でその幕体の穴から原油を上方に浮上させて、最上段のドーム組立体の幕体で捕集した原油を海上の原油回収手段にて回収することを特徴とする。
【0017】
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、例えば輸送パイプが接続された幕体と閉ループ状の枠体とを用意した上で、その輸送パイプが接続された幕体を閉ループ状の枠体の内側に張設して、海上にてドーム組立体を組み立てる。次いで、ドーム組立体を例えば作業船によりその姿勢および位置を制御しながら吊り降ろして、閉ループ状の枠体が原油噴出口を取り囲むように海底に沈設する。ドーム組立体が海底に着底したならば、ドーム組立体の枠体に対して高比重化処理を施し、その枠体をアンカーとしてドーム組立体を海底に定着または係留させるものとする。
【0018】
枠体が海底の原油噴出口を取り囲んでいるならば、海水よりも比重が小さい原油は枠体をアンカーとする幕体の内側に取り込まれた上でその中央部へと導かれ、やがては原油の浮力により幕体を海面側に向かって凸形状となるように膨出させ、その幕体にて捕集された原油は輸送パイプを通して浮上して、海面側へと上昇移動することになる。これによって、海中での原油の拡散を最小限に抑制しつつ、その原油を海面上のある一定の領域に収束させることができるから、その原油の回収は既存技術である原油回収手段、例えば原油回収船にて回収することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1,7に記載の発明によれば、海底の原油噴出口から噴出した原油を拡散させることなしに、海上にて効率良く回収することが可能となる。
【0020】
請求項2,3に記載の発明によれば、ドーム状に膨出した幕体の内部等にエアを単独でまたは閉塞防止剤とともに注入するようにしたので、輸送パイプの閉塞を未然に防止することができ、海面側への原油を輸送を一段と効率良く安定して行える。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、ドーム組立体を構成する枠体の高比重化処理を沈設前の一次的な高比重化処理と海底への着底後の二次的な高比重化処理とに分けて行うようにしたので、ドーム組立体の組み立ておよび沈設の容易性と、着底後の定着または係留のためのより強固なアンカー効果とを両立できる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、それぞれの高比重化処理はパイプ状の枠体それ自体の内部に高比重化のための物質を注入することで行うようにしたので、その高比重化処理を容易に行える。
【0023】
請求項6に記載に発明によれば、二次的な高比重化処理に際してパイプ状の枠体の内部に注入される物質の置換が行われるので、ドーム組立体の着底後の定着または係留のためのより強固なアンカー効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る原油の回収方法の第1の実施の形態を示す概略説明図。
【図2】(A)は図1に示したアンカーリング単独での説明図、(B)は同図(A)のアンカーリングに幕体を組み合わせた状態を示す説明図。
【図3】図1に示したドーム組立体を沈設する際の説明図。
【図4】図3に続いて、海底に沈設したドーム組立体を定着させる際の説明図。
【図5】図4に続いて、原油を回収する際の説明図。
【図6】本発明に係る原油の回収方法の第2の実施の形態を示す概略説明図。
【図7】本発明に係る原油の回収方法の第3の実施の形態を示す概略説明図。
【図8】本発明に係る原油の回収方法の第4の実施の形態を示す概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜5は本発明に係る原油の回収方法のより具体的な第1の実施の形態を示す図で、図1は原油の回収作業中の状態を示し、図2〜5はその回収のためのドーム組立体4の設置手順を示している。
【0026】
図1において、1は海面を、2は海底を、3は海底2に例えばボーリングによって掘削された原油噴出口をそれぞれに示す。なお、先に述べたように、原油噴出口3にはBOPと称される噴出防止装置が採用されるが、ここでは図示を省略している。海底2の原油噴出口3を取り囲むようにドーム組立体4をかぶせてあるとともに、このドーム組立体4から海面1までフレキシブルな輸送パイプ5が延びている。さらに海面1上には原油回収手段としての原油回収船6が待機していて、その原油回収船6から輸送パイプ5の上端開口部に向けて回収パイプ7が延びている。
【0027】
上記ドーム組立体4は、枠体としての円環状または閉ループ状のアンカーリング8と、このアンカーリング8の内側に張設されて半球状のドーム形状に展開または膨出している幕体9とから構成される。アンカーリング8は、後述するように多数の短尺状の鋼管8aをゴム等からなるフレキシブルなジョイントスリーブを介して閉ループ状に連結したパイプ状のものであり、全体としては海底の起伏に追従できるような可撓性を有している。そして、アンカーリング8は、その内部空間に高比重化のための物質、例えばモルタル等のように比重が大きくて流動性のある材料を注入してあることで、その名のとおりアンカーとしての機能を有し、その自重にて海底に着底・定着した上でドーム状に展開した幕体9を支えている。幕体9の頂部には先に述べたフレキシブルな輸送パイプ5が接続されていて、この輸送パイプ5が海面1にまで延びている。
【0028】
海底2の原油噴出口3から噴出する原油Gはドーム状の幕体9の内部に捕集される。原油Gは比重が海水よりも小さいために、浮力によりドーム状の幕体9の頂部に導かれ、さらには輸送パイプ5を通って海面1に向かって浮上する。そして、海面1上に開口している輸送パイプ5の上端開口部に対して原油回収船6側から回収パイプ7を臨ませて、図示外のポンプ等により原油Gを原油回収船6の船内に回収する。こうすることにより、深海部を含む海中での原油Gの拡散が抑制され、海上にて効率良く原油Gを回収することができる。
【0029】
ここで、水深が1000m以上に及ぶ深海では、低温であるために原油Gが固まったり、あるいはそれに含まれるガスが凍って輸送パイプ5での詰まりや閉塞を招くことがある。そこで、海面1上の原油回収船6からドーム状に展開している幕体9に向けて、乳化剤や温水、あるいは温度調整により昇温化したエア(圧縮空気)を注入するものとする。より具体的には、ドーム状に膨出した幕体9の頂部近傍または輸送パイプ5のうち幕体9側の直近位置に、エア注入パイプ10を通して原油回収船6側からエアを閉塞防止剤である乳化剤とともに注入する。こうすることにより、上記の詰まり防止効果のほか、原油Gとの撹拌混合効果も期待でき、さらにはエアの注入によって幕体9のドーム形状の維持にも貢献できることになる。
【0030】
例えば水深が1500m程度の深海では、ボイルの法則により、エアの体積は海面上のそれよりも1/150程度まで圧縮される。したがって、エアを海底まで導く場合には少なくとも耐圧強度が15MPa以上のパイプ(ホース)を用いる必要がある。その一方、水深が1500m程度の海底で輸送パイプ5内に注入されたエアは、その輸送パイプ5を通って上昇する過程で同時に膨張し、海面1上では150倍の体積となる。そのため、輸送パイプ5内では圧力が増大して、結果的に原油Gの上昇浮上も助けることにもなる。
【0031】
さらに、輸送パイプ5のパイプ径に応じて調整したエア量を間欠的に注入することにより、輸送パイプ5内では所定ピッチでエアのみの空間が創出される。その結果、水圧差が生じてさらに原油Gの上昇浮上を助けることになる。
【0032】
このようなエア圧や原油G自体の浮力を利用した海面1側への原油Gの浮上のほか、海面1上側で輸送パイプ5にポンプを接続することにより、さらに原油Gの回収が容易となる。例えば、直径20cmの輸送パイプ5としてゴムホースを用いる場合、噴出原油量が1日6万バレルと仮定すると、連続的に原油Gを回収するには輸送パイプ5であるゴムホース内の流速は3.5m/sとなる。これは原油Gの粘性やポンプ能力により適宜設計できる。また、ポンプの吸入負圧が作用するすることにより、ドーム状の幕体9内を負圧にすることができ、接続部や海底2面との間隙からの原油Gの流出等も防止することができる。
【0033】
図2以下の図面は先に述べたドーム組立体4の設置手順を示していて、最初に図2の(A)に示すようなアンカーリング8を海面1上にて組み立てる。このアンカーリング8は、例えば予め用意した直径が800mm程度の短尺状の多数の鋼管8a,8a同士をゴム等のフレキシブルなジョイントスリーブ8bで接続することで、全体として例えば直径が50m程度の閉ループ状で且つフレキシブルなパイプ状構造に仕上げられる。このようなアンカーリング8は、海面1では波の影響による変形追従性があり、また海底2ではその海底2の起伏に対する追従性を有していることになる。なお、上記鋼管8aとしては既存の排砂管等を利用することも可能である。
【0034】
次いで、図2の(B)に示すような折り畳み状態で且つ円形の幕体9を用意し、上記アンカーリング8とともにを海面1に浮かせた上で、そのアンカーリング8の内側に幕体9の周縁部をフラットバーやロープあるいはワイヤ等を用いて堅固に固定する。さらに、幕体9の中央部における頂部相当位置の接続口9aにフレキシブルな輸送パイプ5を接続する(図1参照)。なお、輸送パイプ5は図3に示すようにパイプ展開船11に予め搭載されていて、このパイプ展開船11から順次繰り出されることになる。以上をもってドーム組立体4の組み立てが完了する。
【0035】
この後、図3に示すように、アンカーリング8を支持部として複数のクレーン船(作業船)12にてドーム組立体4を海中に吊り下げるとともに、一次的な高比重化処理として図示しない注水口からアンカーリング8の内部にフルに注水する。アンカーリング8の内部に水が封じ込められたならば、クレーン船12にてドーム組立体4の位置および姿勢を制御しながら徐々に下降させて沈設し、図4に示すように、アンカーリング8が原油噴出口3を取り囲むようにドーム組立体4を海底に着底させる(図1参照)。
【0036】
この場合において、図4に示すように、海面1上にモルタル船13を待機させておく一方、予めアンカーリング8の一部にモルタル注入パイプ14を接続しておき、ドーム組立体4の沈設に併せてモルタル船13からモルタル注入パイプ14を繰り出すものとする。また、図3のパイプ展開船11からの輸送パイプ5の繰り出しが終わったならば、輸送パイプ5の上部開口部のバルブ15を閉じ、ブイ16にて海面1上に留めておく。
【0037】
また、図4では図示をしていないが、図1に示すように、輸送パイプ5にはエア注入パイプ10を接続して付帯させておくものとする。
【0038】
ドーム組立体4が海底2に着底したならば、そのドーム組立体4のアンカーリング8を海底に着底させるために二次的な高比重化処理を行う。すなわち、海面1上のモルタル船13からモルタル注入パイプ14を介してアンカーリング8の内部にモルタルを注入し、それと並行して先にアンカーリング8内に注入されている水を排水することで、アンカーリング8の重量(比重)を増加させる。こうして、自重以外にモルタルの重量を付加されたアンカーリング8は海底2に定着し、潮流等の影響を受けにくくなる。なお、必要に応じてモルタルに代えてセメントミルク等を用いることもできる。
【0039】
ここで、多数の鋼管8a,8a同士を接続してなるアンカーリング8に必要なの直径の大きさ、ひいては幕体9の直径について検証してみる。
【0040】
例えば6万バレル/日の原油Gが噴出していると仮定した場合、これを1秒当たりの噴出量に換算すると0.11m3/sとなることから、1時間分の原油Gをドーム状の幕体9の頂部に貯留できる規模のものを想定する。1時間当たりの原油Gの噴出量は396m3であるから、海水の比重を1.025、原油Gの比重を0.8とすると、原油Gの浮力はUは下記の式(1)のようになる。
【0041】
U=(1.025−0.8)×396=89.1tf‥‥(1)
直径800mmの鋼管8a,8a同士を接続してなるアンカーリング8の内部空間(容積は約0.5m3/m)にモルタルを充填したと仮定した場合の水中重量はWは下記の式(2)のようになる。
【0042】
W=(2.2−1.025)×0.5=0.59tf/m‥‥(2)
よって、アンカーリング8の必要長(円周方向長さ)Lは、L=89.1/0.59=151mとなり、これをアンカーリング8の直径に換算すると、約48mとなる。故に、先に例示したば直径が50m程度の閉ループ状で且つフレキシブルなパイプ状構造のアンカーリング8は、この条件をを満たしていることになる。
【0043】
こうして原油噴出口3にかぶせられたドーム組立体4が海底に定着すると、図5のほか図1に示すように、原油噴出口3から噴出する原油Gは幕体9内に捕集されて、幕体9自体がドーム状に展開または膨出し、しかも原油Gは比重が海水よりも小さいために、それ自体の浮力によりドーム状の幕体9の頂部に導かれ、さらには輸送パイプ5を通って海面に向かって浮上するようになる。
【0044】
そこで、同図のように、輸送パイプ5と重油回収船6から延びる回収パイプ7とをポンプ等を介して接続し、輸送パイプ5を通して海面1側に浮上する原油Gを原油回収船6の船内に回収する。
【0045】
この場合、先に述べたように、ドーム状に膨出した幕体9の頂部近傍または輸送パイプ5のうち幕体9側の直近位置にエアを単独でまたは乳化剤とともに注入する。これによって、輸送パイプ5を通しての原油Gの海面1側への浮上が一段と促進される。注入するエアは温度調整により昇温化したものが望ましく、必要に応じて温水を注入するようにしても良い。
【0046】
以上により、海底2の原油噴出口3から噴出する原油Gを海中あるいは海面1にて拡散させることなしに海面1上の原油回収船6にて連続的に回収することが可能となる。
【0047】
図6は本発明の第2の実施の形態を示し、この第2の実施の形態では、アンカーリング8とともにドーム組立体4を形成する幕体19の展開または膨出形状を円錐状もしくは漏斗形状としたものである。
【0048】
また、図7は本発明の第3の実施の形態を示し、この第3の実施の形態では、アンカーリング8とともにドーム組立体4を形成する幕体29の展開または膨出形状である円錐状もしくは漏斗形状の変化の距離を極端に長くして、実質的に幕体29と輸送パイプ5との一体化を図ったものである。
【0049】
なお、これらの第2,第3の実施の形態において、図1と共通する部分には同一符号を付し、重複する説明は省略するものとする。ただし、これらの第2,第3の実施の形態においても図1と同様のエア注入パイプ10が付帯しているが、図6,7では図示を省略している。
【0050】
これらの第2,第3の実施の形態においても、先の第1の実施の形態のものと同様の機能が発揮されることは言うもでもない。
【0051】
図8は本発明の第4の実施の形態を示す図で、先の第1の実施の形態である図1と共通する部分には同一符号を付してある。
【0052】
この第4の実施の形態では、アンカーリング8とドーム状に展開または膨出する幕体39とからなるドーム組立体4を複数個連結していわゆる多連状のものとする一方、図1の輸送パイプ5を廃止したものである。より詳しくは、それぞれのドーム組立体4は複数のワイヤロープ17にて相互に連結されていて、図8のそれぞれの姿勢および水深位置を維持できるようにアンカーリング8の比重調整がなされている。そして、それぞれのドーム組立体4の幕体39の頂部には穴18が形成されているとともに、最上段の幕体39の穴18には原油回収船6から延びる回収パイプ7が直接挿入または接続されることになる。
【0053】
この第4の実施の形態では、下段側から順にドーム組立体4を組み立てては海中に沈設し、ワイヤロープにて連結しながらその上段のドーム組立体4を組み立てる。全てのドーム組立体4が完成したならば、各ドーム組立体4を海底に沈設し、最下段のドーム組立体4におけるアンカーリング8の海底2への定着は先の第1の実施の形態と同様の手順で行うものとする。
【0054】
そして、ドーム状に展開または膨出した各幕体39の頂部付近に原油Gが一旦は捕集されるものの、その捕集された原油Gは自己浮上力により穴18から漏れ出して上昇することになる。ただし、その穴18から漏れ出した原油Gが拡散しないうちにその上段の幕体39によって再び捕集されることとなり、幕体39の数だけこのような挙動を繰り返すことになる。そして、最終的には最上段の幕体39によって捕集された原油Gが海上の原油回収船6にて回収されることになる。
【0055】
この第4の実施の形態によってもまた先の各実施の形態とほぼ同様の機能が発揮されることになる。
【符号の説明】
【0056】
2…海底
3…原油噴出口
4…ドーム組立体
5…輸送パイプ
6…原油回収船
8…アンカーリング
8a…鋼管
8b…ジョイントスリーブ
9…幕体
10…エア注入パイプ
14…モルタル注入パイプ
19…幕体
29…幕体
39…幕体
G…原油

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底の原油噴出口から噴出する原油の拡散を抑制しながらその原油を海面に導いて回収する方法であって、
閉ループ状の枠体とその枠体の内側に張設した幕体およびその幕体に接続された輸送パイプの三者からなるドーム組立体をその枠体が原油噴出口を取り囲むように海底に沈設し、
着底したドーム組立体の枠体に高比重化処理を施すことでその枠体をアンカーとしてドーム組立体を海底に定着させ、
噴出する原油の浮力により幕体をドーム状に膨出させるとともにそのドーム状の幕体内に原油を捕集し、
捕集した原油を輸送パイプを通して海面側に浮上させた上で海上の原油回収手段にて回収することを特徴とする海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項2】
ドーム状に膨出した幕体の頂部近傍または輸送パイプのうち幕体側の直近位置にエアを注入することを特徴とする請求項1に記載の海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項3】
エアとともに輸送パイプの閉塞防止剤を注入することを特徴とする請求項2に記載の海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項4】
着底したドーム組立体の枠体に対する高比重化処理は二次的な高比重化処理として行う一方、
ドーム組立体の沈設に先立ってそのドーム組立体の枠体に一次的な高比重化処理を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項5】
閉ループ状の枠体はパイプ状で且つ可撓性を有するものであって、一次的および二次的な高比重化処理は、枠体自体の内部に高比重化のための物質を注入することにより行うことを特徴とする請求項4に記載の海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項6】
二次的な高比重化処理のための物質は一次的な高比重化処理のための物質よりも比重が大きいものであって、
二次的な高比重化処理は、その二次的な高比重化処理のための物質の注入と並行して、一次的な高比重化処理のための物質を排出しながら行うものであることを特徴とする請求項5に記載の海底に噴出した原油の回収方法。
【請求項7】
海底の原油噴出口から噴出する原油の拡散を抑制しながらその原油を海面に導いて回収する方法であって、
閉ループ状の枠体の内側に幕体を張設してなるドーム組立体を水深方向で所定距離隔てて複数個連結したものを海底に沈設するとともに、それぞれの幕体の中央部に予め穴を形成しておき、
原油噴出口を取り囲むように着底した最下段のドーム組立体の枠体に高比重化処理を施すことでその枠体をアンカーとして当該最下段のドーム組立体を海底に定着させ、
それぞれのドーム組立体では、下方から浮上する原油の浮力により幕体をドーム状に膨出させるとともに、そのドーム状の幕体内に原油を一旦捕集した上でその幕体の穴から原油を上方に浮上させて、
最上段のドーム組立体の幕体で捕集した原油を海上の原油回収手段にて回収することを特徴とする海底に噴出した原油の回収方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate