説明

海底湧出流体の検出装置

【課題】海底からの湧水・噴出水・漏れ流体などの湧出流体を効率よく検出する。
【解決手段】音源21からの音を送受信する送受信機2及び音源21からの音の送信時刻を同期させる同期手段23を耐圧容器に収納した海中音響装置1を複数備え、複数の送受信機2での音の伝播速度の情報に基づいて海水密度の変化を導出する導出手段を備え、海水密度の変化により海底から湧出する流体を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底からの湧水・噴出水、漏れ流体湧などの湧出流体を効率よく検出するための海底湧出流体の検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海底などから湧き出る湧水中におけるラドンなどの放射線(γ線)の検出を行なうことが地下水系などによる環境に対する影響把握や、地震や火山噴火の前兆現象の観測につながり有用である。また、例えば、二酸化炭素海底下地層貯留により隔離された二酸化炭素の漏洩の場所を特定することは、環境変化の把握につながり有用である。
【0003】
更に、活動的な海底地殻で起こっている海底熱水活動では、地球内部の物質が熱水として海洋底から放出され、熱水プルームとなって海洋深層に拡散する。この拡散の挙動を観測することは、その中で発生している物理的・化学的な諸反応や微生物活動、それらが海洋に及ぼす影響について解明されることになり、熱水の噴出場所を特定することは有用である。
【0004】
このように、海底からの湧水や噴出水などの状況、即ち、湧水・噴出場所の特定、湧水や噴出水に含まれる物質の特定などを検出することは、地球環境などの影響や地殻変動などの予測などにつながるものであり、効率よく状況を検出する技術の実現が望まれているのが実情である。
【0005】
海底の湧水・噴出水の把握を行なう場合、潜水艇や調査ロボットなど、海中での作業を行う作業機(例えば、特許文献1参照)を用い、海底の湧水や噴出水の状況を調査することが考えられる。しかし、湧水や噴出水の場所の特定に関しては経験則などにより行なわれているのが現状である。
【0006】
また、二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS:Carbon Capture and Storage)では二酸化炭素海底下地層貯留などのように種々提案されているが(例えば、特許文献2参照)、湧水や噴出水の場合と同様に、海底地下層からの二酸化炭素の漏れ場所の特定に関しては確立された技術が存在していないのが現状である。また、ラドンなどの放射線(γ線)の検出に関しても、海底の湧水・噴出水または漏水の場所を特定して検出を行なう技術は確立されていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平8−180393号公報
【特許文献2】特開2000−70702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、海底からの湧水・噴出水、漏れ流体などの湧出流体を効率よく検出することができる海底湧出流体の検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の海底湧出流体の検出装置は、音源からの音を送受信する音響送受信手段を耐圧容器に収納した検出体を複数備えると共に、音源からの音の送信時刻を同期させる同期手段を備え、複数の音響送受信手段での音の伝播速度の情報に基づいて海水密度の変化を導出する導出手段を備え、海水密度の変化により海底から流出する流体を検出することを特徴とする。
【0010】
請求項1に係る本発明では、複数の音響送受信手段での音の送受信を同期手段で同期させて同時刻に行い、音の伝播速度の違いを確認することで海水の密度変化を導出し、海水密度の変化により海底から湧出する流体を検出する。
【0011】
そして、請求項2に係る本発明の海底湧出流体の検出装置は、請求項1に記載の海底湧出流体の検出装置において、同期手段は、検出体毎に備えられて耐圧容器に収納されていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る本発明では、検出体毎に備えられて耐圧容器に収納された同期手段により音の送受信を同期させる。
【0013】
また、請求項3に係る本発明の海底流出流体の検出装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の海底湧出流体の検出装置において、海底から流出する流体は、陸上地下水の湧出水もしくは海底熱水活動により放出される熱水であることを特徴とする。
【0014】
請求項3に係る本発明では、海底から流出する湧出水(湧水)もしくは熱水を海水密度の変化により検出する。
【0015】
また、請求項4に係る本発明の海底流出流体の検出装置は、
請求項3に記載の海底湧出流体の検出装置において、
湧水もしくは熱水を検出することにより海底からの二酸化炭素やラドンなどの物質を含む流体の湧出の状況を把握することを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る本発明では、湧水もしくは熱水に基づいて海底からの二酸化炭素の状況を把握する。
【0017】
また、請求項5に係る本発明の海底湧出流体の検出装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の海底湧出流体の検出装置において、海底から湧出する流体は漏洩流体であることを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る本発明では、海底からの漏れ流体を海水密度の変化により検出する。
【0019】
また、請求項6に係る本発明の海底湧出流体の検出装置は、請求項5に記載の海底湧出流体の検出装置において、漏洩流体は、二酸化炭素海底下地層貯留により海底下地層に貯留された二酸化炭素の漏洩二酸化炭素であることを特徴とする。
【0020】
請求項6に係る本発明では、海底下地層に貯留された二酸化炭素の漏洩二酸化炭素を海水密度の変化により検出する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の海底湧出流体の検出装置は、海底からの湧水・噴出水、漏れ流体などの湧出流体を効率よく検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1には本発明の一実施形態例に係る海底湧出流体の検出装置を設置した海底の概略状況、図2には枠体に保持された音響送受信手段(海中音響装置)の全体を表す外観、図3には音響送受信手段の概略断面を示してある。本実施形態例では、例えば、任意の海域における湧水(海洋の湧出流体)を検出し、湧出流体に含まれる二酸化炭素やラドンなどの物質を検出する場合を想定して説明してある。
【0023】
図1に示すように、流体の湧出が予想される海域の海底には複数(図示例では5個)の検出体としての海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eが設置され、それぞれの海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eは絶対位置及び互いの相対位置がGPSなどで把握された状態で設置されている。流体の湧出が予想される海域としては、例えば、海底の割れ目15や断層に沿った部位が挙げられ、割れ目15を跨ぐように海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eが設置される。
【0024】
一方、図1に示すように、海底には中継制御手段5が設置され、中継制御手段5には海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eの制御機器が接続されている。中継制御手段5は海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eの制御機器との間でデータや動作指令の送受信が行なわれる。中継制御手段5は図示しない母船や基地などの中央制御装置につながり、海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eの動作指令や海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eからのデータ情報が授受される。
【0025】
尚、中継制御手段5は、母船や基地などの中央制御装置につながれて情報の授受を行なうが、中継制御手段5や海中音響装置1に大容量の電源を搭載し、ケーブルなどによる接続を行なわずに無線通信により地上や母船側と情報の授受を行なうことも可能である。
【0026】
また、陸上局につながれる既設の海底ケーブルから分岐装置などによりケーブルを分岐させ、中継制御手段5や海中音響装置1と接続することも可能である。これにより、分岐したケーブル及び既設の海底ケーブルを用いて、陸上から電源の供給を行ったり、陸上の基地局との間でデータ情報の授受を行なうことができる。
【0027】
図2に示すように、海中音響装置1は、送受信機2を備えた音源が耐圧容器3の内部に設けられ、耐圧容器3には制御機器、各装置の送信時刻を同期させる同期手段、電源装置などが設けられている。そして、耐圧容器3は枠体4に固定され、耐圧容器3に収納された海中音響装置1は送受信機2を上にした状態で(360度の範囲での送受信が可能な状態で)枠体4を介して海底に設置されるようになっている。
【0028】
図3に示すように、海中音響装置1は、送受信機2を備えた音源21、制御基盤22、同期手段23、バッテリ24が筒状の容器3(耐圧容器)の内部に収容されている。同期手段23は、複数の海中音響装置1の送受信機2からの音の送信時刻を合わせるための手段であり、高精度の時計などが用いられる。例えば、原子時計(ルビジウム原子時計など)や、原子時計と水晶時計を併用した手段が適用される。
【0029】
尚、複数の海中音響装置1の送受信機2を制御ケーブルなど、有線で接続できる場合には、同期手段23を用いずに複数の送受信機2に対して制御ケーブルを用いて一箇所から同時に送信指令を出力することも可能である。
【0030】
耐圧容器3は両端が開口されたチタン製の筒状容器25の一端側の開口にフランジ26がOリング28を介して装着され、フランジ26に送受信機2が取り付けられ、送受信機2が外部に臨んだ状態で(360度の範囲での送受信が可能な状態で)耐圧容器3に収容される。筒状容器25の他端側の開口には蓋部材27がOリング29を介して装着され、筒状容器25の内部が密閉されるようになっている。
【0031】
5個の海中音響装置1a、1b、1c、1d、1eは、同期手段23で同期がとられて同時刻に送受信機2から他の4個の装置に音が発せられ、他の4個の装置からの音を送受信機2で受信する。この時、送受信の時間の差を各装置に対してそれぞれ検証し、温度変化や異なる物性の存在により海水の密度に変化が生じている場所の領域を特定する(導出手段)。
【0032】
即ち、図1に示すように、海底の割れ目15から流体が湧出している湧出箇所16a、16bが存在する場合、流体による海水の温度変化、塩分変化、液体の物性変化などにより海水密度に変化が生じる。このため、海中音響装置1a、1cの間での音の送受信の伝播時間に差が生じ、更に、海中音響装置1b、1eの間での音の送受信の伝播時間に差が生じ、時間差の状況を解析することにより湧出箇所16aの位置を特定することができる。また、海中音響装置1b、1dの間での音の送受信の伝播時間に差が生じ、更に、海中音響装置1c、1eの間での音の送受信の伝播時間に差が生じ、時間差の状況を解析することにより湧出箇所16bの位置を特定することができる。
【0033】
湧出箇所16が特定されると、必要に応じて無人潜水機などが特定された場所に移動し、湧出流体の物質などの状況が測定・観察されて二酸化炭素やラドンなどの物質や湧出状況が検出される。
【0034】
従って、上述した海中音響装置1を用いることにより、海底からの湧水・噴出水、漏れ流体などの湧出流体を効率よく検出することができる。
【0035】
上述した実施形態例は、断層や割れ目などが存在する任意の海域における流体の湧出を検出する場合を例に挙げて説明したが、本発明の海底湧出流体の検出装置は、二酸化炭素海底下地層貯留により隔離された二酸化炭素の漏洩場所や量を検出する場合にも適用することができる。
【0036】
二酸化炭素海底下地層貯留では、二酸化炭素を隔離した領域がある程度限られているので、複数の海中音響装置1同士を通信ケーブルで接続すると共に、複数の海中音響装置1を通信ケーブルにより母船や基地などの中央制御装置に接続することができる。
【0037】
また、極めて広い範囲の海域における湧出流体の場所の特定を行う場合、複数の海中音響装置1にデータの記憶手段を備え、所定期間におけるデータを別途解析して場所を特定することも可能である。
【0038】
また、割れ目からの湧出流体が予測される海域、二酸化炭素海底下地層貯留の領域、極めて広い範囲の海域に限らず、日、週、月、年の単位で海底の状況(湧出流体の場所や流出量)を検出して不連続な経時変化を検出することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、海底からの湧水・噴出水、漏れ流体湧などの湧出流体を効率よく検出するための海底湧出流体の検出装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態例に係る海底湧出流体の検出装置を設置した海底の概略図である。
【図2】枠体に保持された音響送受信手段(海中音響装置)の全体を表す外観図である。
【図3】音響送受信手段の概略断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 海中音響装置
2 送受信機
3 耐圧容器
4 枠体
5 中継制御装置
21 音源
22 制御基盤
23 同期手段
24 バッテリ
25 筒状容器
26 フランジ
27 蓋部材
28、29 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源からの音を送受信する音響送受信手段を耐圧容器に収納した検出体を複数備えると共に、音源からの音の送信時刻を同期させる同期手段を備え、複数の音響送受信手段での音の伝播速度の情報に基づいて海水密度の変化を導出する導出手段を備え、海水密度の変化により海底から流出する流体を検出することを特徴とする海底湧出流体の検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の海底湧出流体の検出装置において、
同期手段は、検出体毎に備えられて耐圧容器に収納されていることを特徴とする海底湧出流体の検出装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の海底湧出流体の検出装置において、
海底から流出する流体は、陸上地下水の湧出水もしくは海底熱水活動により放出される熱水であることを特徴とする海底湧出流体の検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の海底湧出流体の検出装置において、
湧水もしくは熱水を検出することにより海底からの二酸化炭素やラドンなどの物質を含む流体の湧出の状況を把握することを特徴とする海底湧出流体の検出装置。
【請求項5】
請求項1もしくは請求項2に記載の海底湧出流体の検出装置において、
海底から湧出する流体は漏洩流体であることを特徴とする海底流出流体の検出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の海底湧出流体の検出装置において、
漏洩流体は、二酸化炭素海底下地層貯留により海底下地層に貯留された二酸化炭素の漏洩二酸化炭素であることを特徴とする海底湧出流体の検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−47656(P2009−47656A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216462(P2007−216462)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 経済産業省 地層処分技術調査等(地下水年代測定技術調査、海底地下水湧出探査技術高度化調査、岩盤中物質移行特性原位置評価技術高度化調査)委託事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】