説明

海底環境改善用海底敷設物および海底環境改善方法

【課題】運搬するのに嵩張らずしかも海中での作業も容易なものとする。
【解決手段】海底環境改善用海底敷設物(A)は、汚泥を通過させる網目の網状生分解繊維織物製帯状基体(1)と、帯状基体(1)の上にこれの縦方向に1列相互に重ならないように若干の間隔を複数配置せられかつ全体が生分解繊維織布製でしかも展開状態で台形の水流抵抗体(2)とよりなり、水流抵抗体(2)は、対向する前長辺と後短辺のうち後短辺が帯状基体(1)の横幅とほぼ同じ長さを有しており、左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部(3)および左右縁部(4)(5)を帯状基体(1)に縫着することにより、各水流抵抗体(2)の前縁部(6)と帯状基体(1)との間にすべて同方向の前向き開放部(7)が形成されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底環境改善用海底敷設物および海底環境改善方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、あらゆる種類の波とあらゆる種類の流れを水流というものとする。
【背景技術】
【0003】
入江、湾等の閉鎖性海水域では、同水域に流入した有機物およびここで再生産された有機物が海底に沈降して海底に堆積し、有機物に富んだ汚泥となり、これが底層水中の溶存酸素を消費し、貧酸素水塊を形成する。この貧酸素水塊は湧昇して青潮が発生する。青潮が発生すると、魚等の生物の生息が難しくなる。
【0004】
そこで、この青潮が発生するのを防止するために、下記特許文献1に開示されているように、水中に立設・固定された1または2以上の上昇管と、上昇管の内部を上下に仕切る仕切りと、仕切りに設けられた流通穴と、流通穴を塞ぐ状態で設けられた上昇弁とを備え、上昇弁を上方にのみ開くように構成した、潮汐・波浪のエネルギーを利用して海の深層の低酸素の水を表層の水と循環・混合させることができる開放型潮汐・波浪式水循環装置が提案されている。
【特許文献1】特開2004−218273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この開放型潮汐・波浪式水循環装置は、上昇管がその上端を水面上に、同下端を海の深層に位置せしめ得る長尺のものでかつ管の内径が2m程度の大きさであり、しかも所期の目的を達するにはこれを多数必要とする。したがって、この装置を目的地まで運搬するのには、嵩張るし、海中に設置するのには多大の手数を必要とする。
【0006】
本発明の目的は、運搬するのに嵩張らずしかも海中での作業も容易な海底環境改善用海底敷設物を提供するとともに、簡単にかつ確実に海底環境を改善することができる海底環境改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明による海底環境改善用海底敷設物は、柔軟性材料よりなる帯状基体と、帯状基体の上にこれの縦方向に1列または複数列相互に重ならないように複数配置せられかつ全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部が柔軟性材料製でしかも展開状態で台形の水流抵抗体よりなり、台形の水流抵抗体の左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部および左右縁部を帯状基体に固着することにより、各水流抵抗体の前縁部と帯状基体との間にすべて同方向の前向き開放部が形成されているものである。
【0008】
上記展開状態で台形の水流抵抗体は、全体が柔軟性材料製でもよいが、海底の凹凸に順応し得るように柔軟性材料製となされた帯状基体の柔軟性をその上にある水流抵抗体によって損なわれることがないように、全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部が柔軟性材料製であることが必要である。
【0009】
また、帯状基体の大きさは、横幅が運搬上0.1m〜10mが好ましく、縦長さが加工作業および持運び時の手元作業上1m〜100mが好ましい。また、水流抵抗体の大きさは、左右方向の長さが帯状基体の横幅に合わせられ、前後方向の長さが水流に対する抵抗となるのに適した2cm〜100cmが好ましい。
【0010】
さらに、前向き開放部が形成せられた水流抵抗体が水流抵抗を受けたさいにおける中央線上の傾斜面の傾斜角度は、海水攪拌のために水流方向を変えるには5゜〜175゜が適当である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の海底環境改善用海底敷設物において、帯状基体の柔軟性材料が、網状織物、織布、不織布、編み物、ゴムまたは軟質合成樹脂であり、水流抵抗体の全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部に用いられる柔軟性材料が、織布、不織布、編み物、ゴムまたは軟質合成樹脂であるものである。
【0012】
上記において、網状織物、織布、不織布および編み物の素材としては、合成繊維、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクタンおよび脂肪酸ポリエステル等の生分解繊維またはやし、麻および綿等の天然繊維が挙げられる。
【0013】
請求項3の発明による海底環境改善方法は、請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物のうち、帯状基体の柔軟性材料が汚泥を通過させる網目の網状織物である海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように有機物に富んだ汚泥の存在する海底に敷設し、汚泥を帯状基体で覆うことにより、水流が帯状基体上の各水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するとともに、網状織物製帯状基体の網目を通して海底の貧酸素水塊を形成の原因となる汚泥を攪拌してこれを除去するものである。
【0014】
上記において、汚泥の存在する海底の汚泥とは、海底に堆積している汚泥と海底の上方に浮いている汚泥の両者を含む。
【0015】
請求項4の発明による海底改善方法は、請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように貧酸素水塊の生じ易い閉鎖性海水域の海底に敷設し、これにより帯状基体上の各水流が水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するものである。
【0016】
請求項5の発明による海底改善方法は、請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物のうち、帯状基体の柔軟性材料が汚泥を通過させないものである海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように貧酸素水塊の存在する海底に敷設し、敷設のさい海底の有機物に富んだ汚泥が湧昇しょうとするのを防止するとともに、水流が帯状基体上の各水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するものである。
【0017】
上記請求項3ないし5の発明において、海底環境改善用海底敷設物の海底に対する敷設数は、海底の状態により任意である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明による海底環境改善用海底敷設物は、柔軟性材料よりなる帯状基体と、帯状基体の上にこれの縦方向に1列または複数列相互に重ならないように複数配置せられかつ全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部が柔軟性材料製でしかも展開状態で台形の水流抵抗体よりなり、台形の水流抵抗体の左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部および左右縁部を帯状基体に固着することにより、各水流抵抗体の前縁部と帯状基体との間にすべて同方向の前向き開放部が形成れているものであるから、隣接する水流抵抗体どうしの間で自由に折り曲げることができる。したがって、海底環境改善用海底敷設物を運搬・格納するさいは、これを巻いて嵩張らないようにすることができる。
【0019】
また、これを海底に敷設するさいは、巻いた状態の敷設物を所定の海域に運び、これを水中で巻き戻しつつ海底に敷設することができるので、敷設作業が容易である。
【0020】
請求項3ないし5の発明による海底改善方法は、いずれも上記海底敷設物の帯状基体周囲の所要箇所にアンカーを取付けて目的とする海底敷設物海底に海底敷設物を所要数敷設するだけで海底環境を改善することができるから、その作業が簡便で作業費も安価ですむという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を、以下図面を参照して説明する。
【0022】
この明細書において、前とは開放部が水流に対向する側、後とはその反対側、左右とは水流に対向する側からみて左右をいうものとする。すなわち、図2において、左側を水流に対向する前、右側を後、紙面後側を左、そして、紙面前側を右とする。
【0023】
図1および図2は、請求項1の発明の実施形態を示すものである。この発明による海底環境改善用海底敷設物(A)は、汚泥を通過させる網目の網状生分解繊維織物製帯状基体(1)と、帯状基体(1)の上にこれの縦方向に1列に相互に重ならないように若干の間隔を複数配置せられかつ全体が生分解繊維織布製でしかも展開状態で台形の水流抵抗体(2)とよりなり、水流抵抗体(2)は、対向する前長辺と後短辺のうち後短辺が帯状基体(1)の横幅とほぼ同じ長さを有しており、左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部(3)および左右縁部(4)(5)を帯状基体(1)に縫着することにより、各水流抵抗体(2)の前縁部(6)と帯状基体(1)との間にすべて同方向の前向き開放部(7)が形成されているものである。
【0024】
図3は、帯状基体(1)の上に水流抵抗体(2)を形成する過程を示す説明図である。すなわち、水流抵抗体(2)は、最初図3(a)に示すような展開状態で台形片(8)よりなる。この台形片(8)の左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部(3)および左右縁部(4)(5)を帯状基体(1)に縫着することにより、図3(b)に示すような前向き開放部(7)を有する水流抵抗体(2)となされるものである。
【0025】
図4は、請求項3の発明の実施形態を示すものである。この発明による海底改善方法は、上記海底敷設物(A)を帯状基体(1)の周囲の所要箇所にアンカー(図示略)を取付けて全水流抵抗体(2)の開放部(7)を水流に対向するように有機物に富んだ汚泥(9)の存在する海底(10)に敷設し、汚泥(9)を帯状基体(1)で覆うことにより、水流(11)が帯状基体(1)上の各水流抵抗体(7)の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部(7)より上昇し、海底敷設物(A)の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底(10)に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するとともに、水流(16)が網状織物製帯状基体(1)の網目を通して海底(10)の貧酸素水塊形成の原因となる汚泥(9)を攪拌してこれを除去するものである。
【0026】
図5は、請求項4の発明の実施形態を示すものである。この発明による海底改善方法は、前記海底敷設物(A)を帯状基体(1)の周囲の所要箇所にアンカー(図示略)を取付けて全水流抵抗体(2)の開放部(7)を水流に対向するように貧酸素水塊の生じ易い閉鎖性海水域の海底(12)に敷設し、水流が帯状基体(1)上の各水流抵抗体(2)の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部(7)より上昇し、海底敷設物(A)の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底(10)に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するものである。
【0027】
図6は、請求項5の発明の実施形態を示すものである。この発明による海底改善方法は、帯状基体(1)および水流抵抗体(2)の全体が生分解繊維製織布製である海底環境改善用海底敷設物(B)を帯状基体(1)の周囲の所要箇所にアンカー(図示略)を取付けて全水流抵抗体(2)の開放部(7)を水流に対向するように貧酸素水塊の存在する海底(14)に敷設し、敷設のさい海底(14)の有機物に富んだ汚泥(15)が湧昇しょうとするのを防止するとともに、水流(11)が帯状基体(1)上の各水流抵抗体(2)の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部(7)より上昇し、海底敷設物(B)の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底(14)に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】請求項1の発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線にそう拡大側面図である。
【図3】帯状基体の上に水流抵抗体を形成する過程を示す説明図であり、3(a)は対向する前長辺と後短辺のうち後短辺が帯状基体の横幅とほぼ同じ長さを有する台形片を帯状基体に配置した状態を示し、図3(b)は台形片の左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部および左右縁部を帯状基体に縫着することにより、前向き開放部を有する水流抵抗体となす状態を示す。
【図4】請求項3の発明の実施形態を示す縦断面図である。
【図5】請求項4の発明の実施形態を示す縦断面図である。
【図6】請求項5の発明の実施形態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0029】
(1)網状生分解繊維織物製帯状基体
(2)水流抵抗体
(3)水流抵抗体の後縁部
(4)水流抵抗体の左縁部
(5)水流抵抗体の右縁部
(6)水流抵抗体の前縁部
(7)水流抵抗体の開放部
(8)台形片
(9)汚泥
(10)(12)(14)海底
(11)(16)水流
(13)生分解繊維織布製帯状基体
(15)有機物に富んだ汚泥
(A)(B)海底環境改善用海底敷設物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性材料よりなる帯状基体と、帯状基体の上にこれの縦方向に1列または複数列相互に重ならないように複数配置せられかつ全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部が柔軟性材料製でしかも展開状態で台形の水流抵抗体よりなり、台形の水流抵抗体の左右両側斜辺どうしを平行になるように変形せしめて後縁部および左右縁部を帯状基体に固着することにより、各水流抵抗体の前縁部と帯状基体との間にすべて同方向の前向き開放部が形成されている海底環境改善用海底敷設物。
【請求項2】
帯状基体の柔軟性材料が、網状織物、織布、不織布、編み物、ゴムまたは軟質合成樹脂であり、水流抵抗体の全体のうち少なくとも後縁部および左右縁部に用いられる柔軟性材料が、織布、不織布、編み物、ゴムまたは軟質合成樹脂である請求項1記載の海底環境改善用海底敷設物。
【請求項3】
請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物のうち、帯状基体の柔軟性材料が汚泥を通過させる網目の網状織物である海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように有機物に富んだ汚泥の存在する海底に敷設し、汚泥を帯状基体で覆うことにより、水流が帯状基体上の各水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止するとともに、網状織物製帯状基体の網目を通して海底の貧酸素水塊を形成の原因となる汚泥を攪拌してこれを除去する海底改善方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように貧酸素水塊の生じ易い閉鎖性海水域の海底に敷設し、これにより水流が帯状基体上の各水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止する海底改善方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の海底環境改善用海底敷設物のうち、帯状基体の柔軟性材料が汚泥を通過させないものである海底敷設物を帯状基体の周囲の所要箇所にアンカーを取付けて全水流抵抗体の開放部を水流に対向するように貧酸素水塊の存在する海底に敷設し、敷設のさい海底の有機物に富んだ汚泥が湧昇しようとするのを防止するとともに、水流が帯状基体上の各水流抵抗体の内面で抵抗を受け、攪拌されつつ逆流して前記開放部より上昇し、海底敷設物の上方において沈降する有機物を攪拌し、有機物が海底に堆積して貧酸素水塊を形成しようとするのを防止する海底改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−27983(P2009−27983A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195951(P2007−195951)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(390039114)株式会社田中 (21)
【Fターム(参考)】