説明

海水交換型防波堤

【課題】浮体式海水交換型防波堤の構造諸元および導水性能を明らかにして内海への導水量を多くすることができるようにする。
【解決手段】内海21と外海22とを区画する区画壁11と、区画壁11の外海22側に設けられる潜堤部13と、潜堤部13の上部に設けられ、外海22の潮位の変動に応じて上下する浮体構造物14と、区画壁11から潜堤部13および浮体構造物14の間に遊水部23を形成するように設けられる第1および第2側壁部と、区画壁11に設けられ、遊水部23と内海21とを連通する導水孔11aと、を具備する海水交換型防波堤10において、遊水部23の水位を防波堤設計における朔望平均満潮面と等しい高さとしたときの遊水部23の水深hと、遊水部23を形成する区画壁幅Bと、導水孔11aの面積Aとで表される開口率K=A/(Bh)×100(%)とすると、Kが5〜12%とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水交換型防波堤に関し、特に、内海への導水量を多くすることができる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、閉鎖海域における海水交換の方法として、潮汐や波などを利用したものがある。さらに、砕波を利用する方法として潜堤付き防波堤がある。
しかし、潜堤付き防波堤は、潮位変動の大きい海域では潜堤の上部の被り水深が大きくなると、砕波が起こりにくくなり、導水効率が落ちるという側面を持っている。さらに、この問題を解決するために提案された浮体式海水交換型防波堤がある(例えば特許文献1参照)。この浮体式海水交換型防波堤は潜堤上部の浮体構造物が水位の変動に応じて追従し、砕波の侵入による遊水部の水位上昇が見込めることから、浮体構造を有しないものより、内海への導水量を増加させることができる。
しかし、波の特性や構造諸元による導水性能については明らかにされておらず、効果的な設計による導水量の増加が望まれている。
【特許文献1】特開2002−327418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の目的は、浮体式海水交換型防波堤の構造諸元および導水性能を明らかにして、内海への導水量を多くすることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、内海と外海とを区画する区画壁と、前記区画壁の前記外海側に設けられる潜堤部と、前記潜堤部の上部に設けられ、前記外海の潮位の変動に応じて上下する浮体構造物と、前記区画壁から前記潜堤部および前記浮体構造物の間に遊水部を形成するように設けられる側壁部と、前記区画壁に設けられ、前記遊水部と前記内海とを連通する導水孔と、を具備する海水交換型防波堤において、前記遊水部の水位を防波堤設計における朔望平均満潮面(H.W.L.)と等しい高さとしたときの前記遊水部の水深hと、前記遊水部を形成する区画壁幅Bと、前記導水孔の面積Aとで表される開口率Kが
K=A/(Bh)×100(%)
とすると、Kが5〜12%となることを特徴とする海水交換型防波堤である。
【0005】
請求項1記載の発明により、前記遊水部の水位を防波堤設計における朔望平均満潮面と等しい高さとすると、開口率が5〜12%において、前記区画壁の導水孔から内海への導水量が十分になる。
【0006】
さらに、請求項2記載の発明は、請求項1記載の海水交換型防波堤であって、前記潜堤部の上部に設けられた前記浮体構造物は、前記外海側を支持部とし、前記内海側が上下方向に傾動可能で、かつ、潮位による前記外海の水位変動に応じて傾動角度が変化する板状の浮体であり、前記浮体と前記潜堤部との間に緩衝室を形成する膜体を有し、前記緩衝室は、前記遊水部と連通されていることを特徴とする海水交換型防波堤である。
請求項2記載の発明により、浮体構造物の傾動角度が変化することにより、膜体が展開方向または折り畳み方向に変形するとともに、遊水部と連通する緩衝室に対し遊水部の海水が出入りする。これにより、緩衝室内の海水が、浮体構造物の傾動時にクッション的な役割を果たす。このため、波力による浮体構造物の振動を軽減することができる。
【0007】
さらに、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の海水交換型防波堤であって、可動部である前記浮体構造物と、前記側壁部とのクリアランスを1〜20cmとすることを特徴とする海水交換型防波堤である。
請求項3記載の発明により、可動部である浮体構造物と、前記側壁部とのクリアランスを1〜20cmとすると、クリアランスが狭すぎて浮体構造物が側壁部と接触することがなく、かつ、クリアランスが広すぎて緩衝室内と外海との間にて海水が流れ過ぎることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、海水交換型防波堤により内海の海水交換を十分行うことができる。
さらに、請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果とともに、波力による浮体構造物の動作不良や損傷を防止することができる。
さらに、請求項3記載の発明により、請求項1または2記載の発明の効果とともに、浮体構造部の動作を円滑にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明における実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は海水交換型防波堤を示し、図2は図1の浮体構造物と側壁部とのクリアランスを示し、図3は図1の導水孔の正面を示す。さらに、図4は波の周期を一定にして波高をパラメーターとして導水孔の開口率と導水量との関係を示し、図5は波高を一定にし、波の周期をパラメーターにして開口率と導水量との関係を示し、図6は波の周期を一定にし波高をパラメーターにして開口率と遊水部の水位上昇量との関係を示し、図7は開口率をパラメーターにして波形勾配と内海波高/入射波高との関係を示し、図8は波の周期を一定にし波高をパラメーターにしてクリアランスと導水量との関係を示し、図9は波高を一定にし波の周期をパラメーターにしてクリアランスと導水量との関係を示す。
【0010】
図1に示すように、海水交換型防波堤10は、内海21と外海22とを区画する区画壁11と、区画壁11の外海22側に設けられる潜堤部13と、潜堤部13の上部に設けられ、外海22の潮位の変動に応じて上下する浮体構造物14と、区画壁11から潜堤部13および浮体構造物14の間に遊水部23を形成するように設けられる第1および第2側壁部12a、12b(図2参照)と、区画壁11に設けられ、遊水部23と内海21とを連通する導水孔11aとを具備している。なお、具体的には、海水交換型防波堤10は海底に設けた基礎マウンド18の上に設けられている。
【0011】
遊水部23の水位を、防波堤設計における朔望平均満潮面と等しい高さとしたときの、遊水部23の水深h(図1参照)と、遊水部23を形成する区画壁11の幅B(図3参照)と、導水孔11aの面積Aとで表される開口率Kが、
K=A/(Bh)×100(%)
とすると、Kが5〜12%となる。
【0012】
導水管11aの形状は任意であるが、実施例では図3に示すように、導水孔11aは、同じ断面積の導水管11bを上下2段に8本配置した。各導水管11bに蓋をして、2、4、6、8個の導水管11bの蓋を開けた場合について測定した。ここで、2、4個の場合は下段の導水管11bを使用し、6、8個の場合は上下段の導水管11bを用いた。1個の導水管11bの蓋が開いた場合の開口率Kは朔望平均満潮面の場合1.32%となる。
【0013】
図1に示すように、潜堤部13の上部に設けられた浮体構造物14は、外海22側を支持部とし、内海21側が上下方向に傾動可能で、かつ、潮位による水位変動に応じて傾動角度が変化する板状の浮体である。そして、浮体構造物14と潜堤部13との間に緩衝室15を形成する膜体16を有し、緩衝室15は、第1クリアランス17aおよび第2クリアランス17b(図2参照)を通じて遊水部23および外海22と連通されている。
【0014】
さらに、図2に示すように、可動部である浮体構造物14の一端と第1側壁部12aとの第1クリアランス17aおよび浮体構造物14の他端と第2側壁部12bとの第2クリアランス17bを1〜20cmとする。なお、第1クリアランス17aと第2クリアランス17bは同じ値に設定してある。
【0015】
実施例で用いた波浪条件は、比較的波の弱い湾内を想定し、波の周期4〜8秒、波高0.1〜0.4mに設定した。
【0016】
上記構成の海水交換型防波堤10は、以下の動作をする。
遊水部23の水位は、防波堤設計における朔望平均満潮面と等しい高さとすると、開口率Kが5〜12%において、区画壁11の導水孔11aから内海21への導水量が十分になる。
具体的には、図4および図5に示すとおりである。図4では、横軸に開口率Kをとり、周期6.8秒、波高0.1m、0.2m、0.3m、0.4mにおける導水量を示す。なお、ここでの導水量の単位は、導水量を浮体構造物14の幅(図2における第1側壁部12aと第2側壁部12bとの間隔から第1クリアランス17aの値および第2クリアランス17bの値を引いた値)で割った値を示すものである。
【0017】
波高が0.1mと0.2mと低い場合、導水量は開口率Kが2.6%から10.6%の範囲では開口率Kの影響を受けなかった。波高が0.3mと0.4mと高くなると、導水量は開口率Kの影響を受け、波高が0.4mの場合、開口率Kが2.6%〜5.3%で顕著な増加を示し、5.3%〜7.9%でやや増加傾向を示した。さらに、7.9%以上では一定の傾向を示した。従って、開口率5%以上とすることが望ましい。さらには、約8%以上とすればより効果的である。
【0018】
図5では、横軸に開口率Kをとり波高0.3m、波の周期別における導水量を示す。周期が4.1秒と5.0秒の場合、導水量は開口率Kによらず0.025m3/sec/mのほぼ一定値を示し、周期が6.0秒、6.8秒、8.0秒の場合、導水量は開口率Kが2.6%〜5.3%の間で増加傾向を示し、5.3%以上でほぼ一定値を示した。従って、開口率Kは5%以上とすることが望ましい。
【0019】
また、図6に示すように、横軸に開口率Kをとり周期6.8秒において、波高0.1m、0.2m、0.3m、0.4mにおける遊水部23の水位上昇量を示すと、開口率Kが小さいほど、また、波高が大きいほど前記水位上昇量は大きくなる。
【0020】
図7は、横軸に外海22の波形勾配(波高/波長)をとり、開口率K別における内海21への波高の伝達率を示す。波高の伝達率は(内海波高)/(入射波高)である。なお、入射波高は外海22の波高である。内海21への波高の伝達率は、開口率Kが大きいほど、また、波形勾配が小さいほど高くなる。内海21の船舶への影響を少なくするためには、波高伝達率をなるべく小さくした方が好ましく、例えば、波高伝達率を0.5以下として最大導水量を得るためには、開口率Kを8%程度とすることが最適である。
【0021】
さらに、浮体構造物14の傾動角度が変化することにより、膜体16が展開方向または折り畳み方向に変形するとともに、遊水部23と連通する緩衝室15に対し遊水部23の海水24が出入りする。これにより、緩衝室15内の海水24が、浮体構造物14の傾動時にクッション的な役割を果たす。このため、波力による浮体構造物14の振動を軽減することができる。
【0022】
さらに、可動部である浮体構造物14と、第1および第2側壁部12a、12bとの第1および第2クリアランス17a、17bを1〜20cmとすると、浮体構造物14が第1および第2側壁部12a、12bと接触することがなく、また、外海22から浮体構造物14を乗り越えて遊水部23に取り込んだ海水24が第1クリアランス17aおよび第2クリアランス17bを通じて外海22へ流れ過ぎることを防ぐことができる。
【0023】
図8は横軸に各クリアランス17a、17bをとり、波の周期6.8秒において、波高0.1m、0.2m、0.3m、0.4mにおける導水量を示す。
波高が0.1mの場合、導水量は各クリアランス17a、17bの影響を受けなかった。波高が0.2mから0.4mと高くなると、導水量は各クリアランス17a、17bの影響を受け、各クリアランス17a、17bが狭いほど導水量の増加が見られた。各クリアランス17a、17bの影響は、波高が高いほど顕著であった。
【0024】
また、図9は横軸に各クリアランス17a、17bをとり、波高0.3mにおいて、波の周期4.1秒、5.0秒、6.0秒、6.8秒、8.0秒における導水量を示す。
周期については、周期が長いほど導水量は多かったが、波高の影響に比べると周期の影響は小さい。また、各クリアランス17a、17bが狭いほど導水量の増加が見られた。
各クリアランス17a、17bは、以上の結果に加え、現場施工の精度、貝、フジツボ等の付着を考えると、100mm程度が最も良いと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】海水交換型防波堤を示す図である。
【図2】図1の浮体構造物と側壁部とのクリアランスを示す説明図である。
【図3】図1の導水孔の正面を示す部分図である。
【図4】波の周期を一定にして波高をパラメーターとして導水孔の開口率と導水量との関係を示すグラフである。
【図5】波高を一定にし、波の周期をパラメーターにして開口率と導水量との関係を示すグラフである。
【図6】波の周期を一定にし波高をパラメーターにして開口率と遊水部の水位上昇量との関係を示すグラフである。
【図7】開口率をパラメーターにして波形勾配と内海波高/入射波高との関係を示すグラフである。
【図8】波の周期を一定にし波高をパラメーターにしてクリアランスと導水量との関係を示すグラフである。
【図9】波高を一定にし波の周期をパラメーターにしてクリアランスと導水量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
10 海水交換型防波堤
11 区画壁
11a 導水孔
12a 第1側壁部
12b 第2側壁部
13 潜堤部
14 浮体構造物
15 緩衝室
16 膜体
17a 第1クリアランス
17b 第2クリアランス
18 基礎マウンド
21 内海
22 外海
23 遊水部
24 海水


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内海と外海とを区画する区画壁と、
前記区画壁の外海側に設けられる潜堤部と、
前記潜堤部の上部に設けられ、前記外海の潮位の変動に応じて上下する浮体構造物と、
前記区画壁から前記潜堤部および前記浮体構造物の間に遊水部を形成するように設けられる側壁部と、
前記区画壁に設けられ、前記遊水部と前記内海とを連通する導水孔と、
を具備する海水交換型防波堤において、
前記遊水部の水位を防波堤設計における朔望平均満潮面と等しい高さとしたときの前記遊水部の水深hと、前記遊水部を形成する区画壁幅Bと、前記導水孔の面積Aとで表される開口率Kが
K=A/(Bh)×100(%)
とすると、Kが5〜12%となることを特徴とする海水交換型防波堤。
【請求項2】
請求項1記載の海水交換型防波堤であって、
前記潜堤部の上部に設けられた前記浮体構造物は、前記外海側を支持部とし、前記内海側が上下方向に傾動可能で、かつ、潮位による前記外海の水位変動に応じて傾動角度が変化する板状の浮体であり、前記浮体と前記潜堤部との間に緩衝室を形成する膜体を有し、
前記緩衝室は、前記遊水部と連通されていることを特徴とする海水交換型防波堤。
【請求項3】
請求項1または2記載の海水交換型防波堤であって、
可動部である前記浮体構造物と、前記側壁部とのクリアランスを1〜20cmとすることを特徴とする海水交換型防波堤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−2002(P2009−2002A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162309(P2007−162309)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】