説明

海水淡水化プラントシステム

【課題】一定期間に求められる淡水生産水量を満足する制約のもと、造水コスト(電力原単位)が最小となる一定期間の淡水生産水量計画をスケジューリングする機能を備えた海水淡水化プラントシステムを提供する。
【解決手段】海水を淡水として生産する淡水化プラント部10を有し、生産された淡水を、配水池20を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムであって、ある一定期間における海水の、所定時間毎の水質を過去の実測値に基づき海水水質予測手段32でそれぞれ予測する。最適計画演算手段では、一定期間に必要とされる淡水生産水量を、所定時間毎に割り振った一定期間の淡水生産水量計画案を複数作成し、これらについて、所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位を算出し、これに基づき、最適淡水生産水量計画を求め、この求められた最適淡水化計画の内容を表示手段36で表示。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、海水を淡水として生産し、この生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時、渇水対策の一環として、海水から真水を生成する所謂海水淡水化プラントが用いられている。このような海水淡水化プラントとして、海水を逆浸透膜(以下、RO膜とも呼ぶ)に高圧状態で供給し、この逆浸透膜によるろ過水を淡水として生産し、この生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給するプラントがある。このような海水淡水化プラントに関する先行する特許提案としては、ポンプ、弁による圧力、流量、回収率(透過率)を制御する特許が出願されている(例えば、特許文献1参照)。この特許提案は、バルブにより膜へかかる圧力を制御して、ろ過水質の安定を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4341865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的な海水淡水化プラントは、プラント設計段階に決められた一定量の海水取水量に基づき、一定量の淡水生産水量を得るように運転を行っていた。しかし、原水である海水の水質は、時々刻々と変化するため、淡水を得るために必要な電力原単位は一定では無い。例えば、海水の水質に応じてRO膜によるろ過特性が変化するので、これを一定に保つように制御すると、このろ過に要する電力の電力原単位も変化する。
【0005】
例えば、RO膜を用いて脱塩を行う海水淡水化プラントでは、海水水温が高い場合には、水の粘性係数が低いため、RO膜の透過特性はよくなる。この場合、海水は比較的低い圧力でRO膜を透過するので、海水を加圧供給するためなどに要する電力は比較的少なくてよく、必要な電力原単位は減る。これに対し、海水水温が低い場合には、上記と反対の理由で必要な電力原単位は高くなる。また、海水の塩分濃度が高い場合には、RO膜面で生じる海水と淡水の浸透圧差が大きくなり、必要な電力原単位は増える。
【0006】
このような状況下で、一定量の淡水生産水量を保つべく運転を行うと、目標とする生産量の淡水を得るために必要な、1日あたりの電力量(電力原単位)に無駄が生じる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、一定期間に求められる淡水生産水量を満足する制約の元、造水コスト(電力原単位)が最小となる一定期間の淡水生産水量計画をスケジューリングする機能を備えた海水淡水化プラントシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムによれば、海水を淡水として生産する淡水化プラント部を有し、生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムであって、ある一定期間における前記海水の、所定時間毎の水質を過去の実測値に基づきそれぞれ予測する海水水質予測手段と、前記一定期間に必要とされる淡水生産水量を、前記所定時間毎に割り振った前記一定期間の淡水生産水量計画案を複数作成し、これら各淡水生産水量計画案について、前記所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位を算出し、この算出された電力原単位に基づき、前記複数の淡水生産水量計画案から最適淡水生産水量計画を求める最適計画演算手段と、この最適計画演算手段により求められた最適淡水化計画の内容を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムの全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムの制御装置部の詳細構成を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムと従来システムとの制御の違いを説明するための図である。
【図4】一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムにおける淡水生産水量案一例を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムにおける最適化手法の一例である遺伝的アルゴリズムのはたらきを説明するフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムを示す図である。
【図7】本発明のさらに他の実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムを示す図である。
【図8】本発明のさらに別の実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
この実施の形態に係る海水淡水化プラントシステムは、海水を取水して逆浸透膜に供給し、この逆浸透膜によるろ過水を淡水として生産し、この生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給する海水淡水化プラント部を有し、単位淡水生産水量あたりの電力量である電力原単位が安価になるよう、一定期間(24時間など)の造水計画を導出し、導出された造水計画に基づいてプラントを制御する。図1は、この海水淡水化プラントシステムを構成する、海水淡水化のプラント部10、その制御装置部11、及び配水地20との関係を示す概略図である。
【0012】
図1において、本実施の形態における海水淡水化のプラント部10は、前処理装置13、送水ポンプ14、淡水生産設備を構成する高圧ポンプ15、ブースターポンプ16、逆浸透膜17、動力回収装置18、ブライン流量調節弁19を有し、配水池20を経て需要家に淡水を供給する。また、このプラント部10は、さらに、淡水流量計22、濃縮海水流量計23、高圧ポンプ15用の制御器24、ブースターポンプ16用の制御器25を備えている。
【0013】
前処理装置13は、取水された海水に対し、砂ろ過などによる前処理を施す。送水ポンプ14は、前処理装置13から海水を吸引し、高圧ポンプ15と動力回収装置18とに送水する。
【0014】
高圧ポンプ15は、送水ポンプ14から送られてくる海水を高圧状態(例えば6MPa程度)まで昇圧する。高圧ポンプ15で昇圧された海水は、逆浸透膜17に供給される。逆浸透膜17は、海水をろ過して海水に含まれる塩分を除去し、淡水を生産する。生産された淡水はバッフアとして機能する配水池20に送られ、さらに需要化に供給される。
【0015】
一方、逆浸透膜17によって淡水と分離された塩分は、濃縮海水として排水される。逆浸透膜10から排水された濃縮海水は、動力回収装置18に供給される。
【0016】
このように、取水された海水は、前処理装置13で適当な前処理が行われ、送水ポンプ14によって高圧ポンプ15および動力回収装置18へ送水される。高圧ポンプ15は前処理の施された海水を高圧な状態まで昇圧してRO膜17へ送水する。RO膜17は、海水に含まれる塩分を除去し、透過水として淡水を生成する。除去された塩分は淡水化されなかった水とともに濃縮海水として動力回収装置18へ送水される。
【0017】
このとき、濃縮海水は高圧な状態(6MPa程度)であるため、エネルギー回収の観点から動力回収装置18を設置している。動力回収装置18は、濃縮海水の持つ圧力(動力)を回収し、海水へ伝達する。回収した動力により昇圧された海水は、ブースターポンプにより0.2MPa程度昇圧し、高圧ポンプ15により送水された海水とともに、RO膜へ送水される。
【0018】
本実施形態では、動力回収装置18として、例えば、容積型の動力回収装置を用いている。この動力回収装置18は、高圧側入口18a、高圧側出□18b、低圧側入口18c、低圧側出口18dを備えている。高圧側入口18aには、逆浸透膜17から排水された濃縮海水が供給される。濃縮海水は、その圧力エネルギーが回収された後、低圧側出口18dから排水される。低圧側入口18cには、送水ポンプ14から海水が供給される。この海水は、濃縮海水が持つ圧力(動力)を利用することにより昇圧され、高圧側出□18bから排水される。高圧側出□18bから排水された海水は、ブースターポンプ16に供給される。
【0019】
ブライン流量調節弁19は、濃縮海水の流量を調節する目的で、アクチュエータとして設置される。また、ブースターポンプ16は、動力回収装置18からの海水を、高圧ポンプ16からの海水と同程度の圧力まで昇圧し、高圧ポンプ15からの海水に合流させて、逆浸透膜17へ送水する。
【0020】
ここで、本発明の実施の形態で着目している淡水生産水量とは、RO膜17を透過した淡水流量のことを指す。淡水生産水量を制御するには、例えば、高圧ポンプ15の回転速度(周波数)を可変にしてRO膜17への供給流量を可変にする。また、供給水(海水)から淡水を得る比率である回収率を、目標値に制御するためには、ブースターポンプ16の回転速度(周波数)を可変にして、濃縮海水としての流量目標値を演算して流量制御を行う。
【0021】
これらの制御を行うために、詳細を後述する制御装置部11から、高圧ポンプ15の制御器24に淡水生産水量目標値が与えられ、また、ブースターポンプ16の制御器25には回収率目標値が与えられる。そして制御器24は、淡水流量計22で計測される淡水生産水量を入力し、これが淡水生産水量目標値となるように高圧ポンプ15を制御する。また、制御器25は、濃縮海水流量計23で計測される濃縮海水量を入力し、回収率が目標回収率となるようにブースターポンプ16を制御する。なお、回収率は以下の(1)式で定義される。
【0022】
回収率=淡水量/(濃縮海水量+淡水量) ・・・(1)
次に、制御装置部11の詳細構成を、図2を用いて説明する。この制御装置部11は、コンピュータにより構成されており、データ入力手段31、海水水質予測手段32、需要予測手段33、最適計画演算手段34、最適回収率演算手段35、表示手段36、データ出力手段37を有する。このほか、外部にプラントデータを含む各種データを記憶しているデータ記憶手段39、及び前記最適計画演算手段34に対する制約条件を保持している制約条件保持部40を有する。
【0023】
データ入力手段31は、キーボードやマウス、タッチパネルといった操作デバイスを有し、これら介して各種のデータ入力に用いられる。入力されるデータとしては、海水水質(海水温度、塩分濃度など)や、生産された淡水の需要量を予測するために必要な当日の天気予報や曜日などであり、これらの情報は海水水質予測手段32と需要予測手段33に出力される。
【0024】
海水水質予測手段32と需要予測手段33には、上述した当日の情報のほかに、データ記憶手段39に記憶された過去の実側データが入力される。すなわち、データ記憶手段39には、当日以前の過去日におけるプラント側で実測された海水水温、海水塩分濃度、配水池20から需要家に供給される需要量、電力量などの値が、日付、時間(例えば、1時間毎)と共に記憶されている。このように、データ記憶手段39には、プロセスデータである日時、海水水温、海水塩分濃度、需要量、電力量などの時系列データが記憶されている。
【0025】
海水水質予測手段32及び需要予測手段33は、データ入力手段31から入力される当日の各種情報と、データ記憶手段39に記憶されている過去の実測値情報とを用いて、一定期間(例えば、当日1日分)における所定時間毎(例えば、1時間毎)の海水水質、及び需要量をそれぞれ予測する。
【0026】
ここで、需要予測手段33による予測手法の一例を説明する。需要予測手段33では、当日の天気予報などの気象情報を基に、上述のように、一定期間(例えば、1日とする、以下同じ)の所定時間(例えば、1時間とする、以下同じ)ごとの需要量を予測する。データ記憶手段33には、1時間ごと1日分の過去の需要実績データが曜日別、例えば、休日、平日、休日明け別にファイルされている。いま、需要予測手段33にデータ入力手段31から、予測当日の曜日が入力されると、その曜日Wの平均値パターン

が、データ記憶手段33に記憶されている過去の需要実績から得られる。また、前日までの需要実績が得られているので、k日の需要を予測するためには、例えば、以下の(2)式のような自己回帰モデルが用いられる。
【数1】

なお、α1、α2・・・は自己回帰のパラメータであり、あらかじめ与えることも可能であり、逐次最小2乗推定(カルマンフィルタ)を適用することも可能である。

各時間帯の比で積分すると当日の1時間ごと24時間分の予測値が以下の(4)式で得られる。
【数2】

なお、需要予測の手法は、上述した自己回帰モデルを用いた手法に限らず、例えば、ニューラルネットワークでもGMDH(Group Method of Data Handling)などでもよい。
【0027】
海水水質予測手段32では、当日の天気予報などの気象情報を基に、過去の海水水温と塩分濃度の値を用いて、一定期間(例えば、1日)における所定時間(例えば、1時間)毎の水質の変化を予測する。海水水質を予測する方法は、上述した需要予測方法と同様に、気象情報や曜日別などの過去実績をもとに自己回帰モデルによる方法や、ニューラルネットワーク、GMDHなどがある。なお、システム導入時など、過去の実績が無い場合には、予測ではなく一定値でも良い。
【0028】
最適計画演算手段34は、これらの予測結果である一定期間の淡水需要量と海水水温や海水塩分濃度の予測値や、淡水を貯水する配水池20の容量等の制約条件、回収率に基づいて、一定期間での最適淡水生産水量計画を導出する。すなわち、1日に必要とされる淡水生産水量を、1時間毎に割り振った1日分の淡水生産水量計画案を複数作成し、これら各淡水生産水量計画案について、1時間毎に予測された海水水質、1時間ごとに割り振られた淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位をそれぞれ算出し、この算出された電力原単位に基づいて複数の淡水生産水量計画案から最適淡水生産水量計画を求める。この手法の詳細は後述する。
【0029】
ここで、1日に必要とされる淡水生産水量とは、海水淡水化プラントの計画段階から決められた基準となる1日の淡水生産水量に基づき、過去の需要量データ等から当日に必要とされる1日分の淡水生産水量を決定する。そして、この1日分の淡水生産水量を、1時間毎に割り振り、その1時間毎の淡水生産水量を得るために要する1時間毎の電力原単位をそれぞれ求め、この1時間毎の電力原単位を1日(24時間)分、合計した値が最も少ない淡水生産水量計画案を最適淡水生産水量計画とする。
【0030】
また、回収率は、海水水温や海水塩分濃度および淡水生産水量に影響を受けるが、淡水生産水量に応じて電力原単位が最小となる最適な回収率を予め求めておく。最適回収率演算手段35には淡水生産水量に最適な回収率を対応させたテーブルなどを設けておき、最適計画演算手段34により求められた1時間毎の淡水生産水量に対応する1時間毎の最適な回収率を決定する。
【0031】
また、制約条件としては、前述した配水池20の容量や、この配水池20の運用上下限、RO膜17の種類、動力回収装置(以下、ERDとも呼ぶ)18の種類などである。これら制約条件は制約条件保持部40に保持されており、最適計画演算手段34に供給される。なお、配水池容量や運用上下限などのプロセスの機器構成データは不変の設定値である。
【0032】
表示手段36では、最適計画演算手段34によって得られる淡水生産水量計画に基づいて、淡水生産水量計画やその電力原単位削減効果などを画面表示する。
【0033】
また、データ出力手段37は、最適計画演算手段34により求められた最適淡水生産水量計画に基づく1時間毎の淡水生産水量目標値及び1時間毎の回収率目標値を、図1で示したプラント部10に対する制御目標値として直接プラントへ出力する。
【0034】
ここで、前述した電力原単位は以下の(5)式により求められる。
電力原単位=f(海水水温、海水塩分濃度、淡水生産水量、回収率) ・・・(5)
上式において、関数fは定式化が困難であるため、RO膜や動力回収装置、ポンプ、バルブモデルを組合せたシミュレーションを行い、プラント全体の圧力や流量の挙動を算出した上で電力量に換算する。
【0035】
最適計画演算手段34では、需要予測値と海水水質予測値と配水池容量、運用水位上下限値などの各種パラメータに基づいて、電力原単位が最小となる淡水生産水量計画を算出する。そのために、例えば以下のように定式化する。
(1) 目的関数:
・1日あたりの電力原単位=(各ポンプ1日電力量/1日淡水生産水量)→ 最小化
(2) 制約条件:
・配水池容量による水位上下限値を満たすこと。
・1日の淡水生産水量はある一定範囲内であること。すなわち、前述した基準となる1日の淡水生産水量に基づく一定範囲内であること。などである。
以下、最適計画演算手段34により、最適淡水生産水量計画を求める手法を詳細に説明する。
【0036】
ここで、最適淡水生産量計画について、図3により従来手法と比較して説明する。海水の水質(塩分濃度や海水温度など)は、図中Aで示すように時間帯毎に変化する。従来の淡水生産量計画は、予め求められた1日の淡水生産水量を満足するために、B1で示すように、1日の各時間帯において、一定量の淡水量を生産するように淡水化プラント部10を制御していた。このため、時間帯において異なる水質に対し、常に一定量の淡水を生産することとなり、この淡水生産に要する消費電力はC1で示すように時間帯毎に変化する。
【0037】
これに対し、この実施の形態では、1日における海水の水質変化に対応して、B2で示すように、時間帯ごとの淡水計画水量を変化させ、これらの合計値により1日の淡水生産水量を満足するように計画する。そして、各時間帯における淡水計画生産水量は(5)式で示した電力原単位が最小となる計画値であり、その結果、C2で示すように消費電力の日変動が従来(C1)に比べ少なく、かつ消費電力自体も低減することができる。
【0038】
以下、具体的手法を説明する。淡水化プラント部10における淡水生産水量を、例えば図4で示すように、8段階の生産水量で流量制御可能であるとする。1日の必要とする淡水生産水量を1時間ごとに割り振った計画案を想定した場合、ある時刻kにおける淡水生産水量をQ(k)と定義すると、各時刻毎に8段階の生産水量のいずれかの段階に流量制御可能であるから、Q(k)は8通りである。24時間(1日分)の計画を行うとすると、淡水生産水量の組合せ(生産水量の計画案)は824通り(22桁)になる。
【0039】
例えば、図4の例での計画案では、零時から23時までの各時刻における1時間毎の生産水量の段階は[2,3,2,3,6,7,・・・7,8,6]となる。このような計画案が、824通り考えられる。
【0040】
しかし、このような膨大な組み合わせすべてについて評価を行う全探索手法では現在のコンピュータでも現実的に解くことができない。そこで、この最適化問題の解法の一例として、この実施の形態では遺伝的アルゴリズム(GA)を用いる。
【0041】
この場合、各個体の遺伝子x(i)は、上述のように[Q(0)、Q(1)、…Q(23)]と定義する。すなわち、一定期間に必要とされる淡水生産水量(1日(24時間)分の淡水生産水量)を、所定時間(1時間)毎に割り振った1日の淡水生産水量計画案を遺伝子としてランダムに割り当てて生成したものを各個体とする。そして、その個体を複数個発生させ、各個体の遺伝子について、前記(5)式による電力原単位に基づく評価を行い、評価値の悪い個体を予め定義した個体数淘汰する淘汰処理を行う。この後、残りの個体をランダムにペアリングして一点交叉させる交叉処理を行い、その後、全個体数に対する突然変異率分だけランダムに個体を選び、各個体の任意の遺伝子座の遺伝子を変更させる突然変異処理を行う。この評価から突然変異処理にいたる処理を繰り返し、最終的に最も優れた遺伝子を求め、これら最適淡水生産水量計画案とする。
この遺伝的アルゴリズムを図5により説明する。
【0042】
<STEP-1> 初期個体群の生成
ランダムに遺伝子を割り当てて生成した個体をそれぞれ予め定義した個体数n個発生させる。
【0043】
<STEP-2> 各個体の評価
与えられた遺伝子に基づき、それらの各淡水生産水量計画について、その運用計画の評価値を(5)式などにより算出する。この場合、前述した制約条件を満たさない場合には、その個体の評価値は0とする。
【0044】
<STEP-3> 淘汰処理
評価値の悪い(評価値の小さい)個体を予め定義した個体数淘汰(削除)する。
【0045】
<STEP-4> 交叉処理
ランダムにペアリングを行う。ペアリングは全個体数に対する割合(交叉率)分だけ行い、ペア毎に、ランダムに遺伝子座(遺伝子の場所)を選び、一点交叉(選んだ遺伝子の場所から交互に遺伝子のセットを交換)させる。なお、交叉処理は同じ施設番号同士で行う。
【0046】
<STEP-5> 突然変異処理
全個体数に対する割合(突然変異率)分だけランダムに個体を選び、各個体の任意(ランダムに決定する)の遺伝子座の遺伝子を変更させる。
【0047】
<STEP-6> 終了判定処理(図示せず)
<STEP-2>〜<STEP-5>を繰り返し、予め設定した条件、例えば、予定した回数繰り返したことにより、アルゴリズムを終了する。
【0048】
以上により、海水淡水化プラントの電力原単位を最小化する最適淡水生産水量計画を決定し、これに従ってスケジューリングする。
【0049】
このようにして、最適計画演算手段34によって得られた淡水生産水量計画の内容、例えば、各時刻における所定時間毎の淡水生産水量の推移や、電力原単位の削減効果などが表示手段36により画面表示される。このため、オペレータは、画面表示内容から最適生産水量計画の内容を的確に把握できると共に、電力削減効果を把握することができる。
【0050】
また、最適計画演算手段34により求められた最適淡水生産水量計画に基づく所定時間毎の淡水生産水量目標値及び回収率目標値は、データ出力装置37により、プラント部10に対する制御目標値として出力される。このため。淡水化プラント部は、海水淡水化のために要する1日の消費電力の最も少ない状態で運用され、かつ必要とする淡水生産水量を確実に得ることができる。
【0051】
図6で示す実施の形態では、図3で示した実施の形態の制御装置部11に、さらに配水池水位監視手段42及び計画補正手段43を機能として加えた構成としている。また、配水池水位監視手段42には、水位測定手段44で測定された配水池29の実測水位が入力されるように構成している
配水地水位監視手段42は、最適計画演算手段34で求められた最適淡水生産水量計画による所定時間毎の淡水生産水量と、需要予測手段33で予測された対応する所定時間ごとの需要量との差から求まる所定時間毎の配水地20の予測水位を求める。すなわち、淡水生産水量と需要量との差分を配水地20の面積で除算すれば配水地20の水位が予測される。また、最適淡水生産水量計画を実施したことによる配水地20の実測水位が水位測定手段44から入力されるので、実測水位と予測水位との対応する時間毎の偏差を求め、この偏差を予め設定した閾値と比較し、この閾値を超えたかを監視する。
【0052】
計画補正手段43は、この配水池水位監視手段42で得られる偏差が閾値以上になった場合、最適淡水生産水量計画の誤差が大きいと判断し、この淡水生産水量計画を補正する。ここで、計画補正手段43には、図示していないが淡水化プラントで生産した淡水水量が入力されているので、最適淡水生産水量計画実施開始から偏差が閾値以上になった時点までに実際に生産された淡水生産水量を用いて、最適淡水生産水量計画の残りの期間に必要な淡水生産水量を演算する。そして、この残りの期間で必要な淡水生産水量を担保できる淡水生産水量計画を算出し、補正する。この補正用の淡水生産水量計画は、前述した最適計画演算手段34と同じ手法で算出してもよく、或いは、残りの期間が短ければ一定生産量として算出してもよい。
【0053】
すなわち、配水池水位監視手段42により、1日の淡水生産水量計画と需要量予測値に基づいて、プラント部10で生産された淡水をバッファする配水池20の水位計画を導出して、実水位との誤差をオンライン監視する。そして、この配水池水位監視手段42から得られる水位誤差に基づいて、水位誤差がある閾値以上になった場合には、計画補正手段43により補正する。すなわち、計画立案時から現在までに生産した淡水生産水量から残りの期間に必要な淡水生産水量を演算し、残り期間で必要な淡水生産水量を担保できる淡水生産水量を算出する。このため、当初の淡水生産水量計画の誤差が大きく破たんした場合にも、補正により適切なバックアップを行うことができる。
【0054】
図7で示す実施の形態は、上述の実施の形態における最適計画演算手段34を省いて、オペレータが淡水生産水量(回収率案を含む)を決定し、データ入力手段31から入力するように構成したものである。この実施の形態では、オペレータが過去の経験則から、1日に必要とされる淡水生産水量を、1時間毎に割り振った1日の淡水生産水量計画案を作成しておき、その日の曜日や天気予報などから最適と思われる淡水生産水量計画案をデータ入力手段31から入力する。このため、入力された淡水生産水量計画案の良否を把握するために、最適計画演算手段34に代わって配水池水位及び電力原単位の演算手段46を機能として持っている。
【0055】
この演算手段46は、作成された淡水生産水量計画案による所定時間毎の淡水生産水量と需要予測手段33で予測された対応する所定時間毎の需要量との差から求まる所定時間毎の前記配水地の水位を予測する。また、淡水生産水量計画案について、所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて、前述した(5)式により淡水化のための電力原単位を算出する。
【0056】
演算手段46により求められた配水池水位、及び電力原単位は、表示手段36により表示する。例えば、配水池水位については、制約条件保持部40から入力される配水池20の上下限水位と共に、予測される配水池20の水位の時間ごとの変化を図示のように画面表示し、入力された淡水生産水量計画案を実施した場合の配水池20の水位変化をオペレータが把握できるように構成する。また、電力原単位についても、入力された淡水生産水量計画案を実施した場合の電力原単位を図示のように画面表示し、オペレータが把握できるように構成する。オペレータは、この画面表示内容から入力された淡水生産水量計画案の良否を判断し、判断結果にしたがって採否を決定する。
【0057】
すなわち、この実施の形態では、一定期間での淡水生産水量計画案を実施した場合の配水池水位の水位変化や電力原単位の改善効果を表示手段36により画面表示することにより、入力した淡水生産水量計画案を採択するかの意思決定を行うことができる。
【0058】
図8で示す実施の形態は、これまで説明した実施の形態に対し、機能としての海水水質予測手段32を不要としたものである。この場合、最適計画演算手段34は、海水水質としての海水塩分濃度は一定であると想定してその固定値を入力し、かつ、海水水質としての海水水温の変化は気温の変化と同等であると想定して過去の類似天候日の一定期間での気温変化を入力する。すなわち、海水水質予測が困難な地域であっても、塩分濃度を一定値とし、また、気温の変化を海水水温の変化と見立てることによって、海水水質予測が困難な状況下において、最適淡水生産水量計画を作成して実行することができる。
【0059】
上述の各実施の形態は、海水を淡水として生産する単独の淡水生産設備を有するプラント部10に対して最適淡水海水生産水量計画を作成し、この単独の淡水生産設備に対する淡水生産量を制御していたが、海水淡水化のプラント部10として淡水生産設備を複数系列有するプラントシステム(図示せず)に対しても適用することができる。
【0060】
すなわち、この実施の形態では、図1で説明した淡水生産設備を複数系列有し、これら複数系列で生産された淡水を、配水池20を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムを対象とする。この実施の形態でも、図2で示した制御装置部11と同様の制御装置部を有するので、これを図2で示した制御装置部11で代用して以下説明する。
【0061】
この実施の形態の制御装置部11も、最適計画演算手段32を有する。この最適計画演算手段32も、一定期間に必要とされる淡水生産水量を、所定時間毎に割り振った一定期間の淡水生産水量計画案を複数作成し、これら各淡水生産水量計画案について、所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位を算出し、この算出された電力原単位に基づき、最適淡水生産水量計画を求める。但し、この場合の制御対象は、複数系列の淡水生産設備であり、これら複数系列に対する淡水生産水量計画であるから、前述のように、ある時刻kにおける淡水生産水量をQ(k)と定義すると、Q(k)の値は1系列あたりの淡水生産水量で離散化する。すなわち、複数系列のオン/オフの組み合わせにより淡水化プラントシステム全体の淡水生産水量が段階的に変化するので、所定時間(1時間毎)毎の淡水生産水量は、どの系列をオン/オフさせるかによって決定し、一定期間(1日分)の最適淡水生産水量計画を作成する。
【0062】
この最適計画演算手段34で求められた最適淡水生産水量計画による各所定時間毎の淡水生産水量は、複数系列の淡水生産設備に対するオン/オフ制御データとしてデータ出力装置37からプラント部10に出力される。
【0063】
このように海水を淡水化するための淡水生産設備を複数系列設けた大規模なプラント部10を有するプラントシステムについても、同様に最適淡水生産水量計画を作成して、運用することができる。
【0064】
また、淡水化設備電源の電力料金に、昼間電力料金と夜間電力料金との差異がある場合は、最適計画演算手段34は、算出された電力原単位の電力料金単価が最小となる淡水生産水量計画案を導出する。すなわち、昼間電力料金と夜間電力料金に差異がある地域において、電力料金単価に基づいて、単位淡水生産水量当りの電力料金を最小とする目的関数を用いる。
【0065】
さらに、一定期間(1日)に生産すべき淡水生産水量が、当該プラント上位の機関によって決定される場合、表示手段36では、当日の配水池水位の予測と実水位との誤差や電力原単位の推移を画面に表示し、決定された淡水生産水量の評価が行えるようにしてもよい。
【0066】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10・・・海水淡水化プラント部
11・・・制御装置部
15,16,17,18,19・・・淡水生産設備を構成する高圧ポンプ、ブースタポンプ、逆浸透膜、動力回収装置、ブライン流量調節弁
20・・・配水池
32・・・海水水質予測手段
33・・・需要予測手段
34・・・最適計画演算手段
36・・・表示手段
37・・・データ出力手段
42・・・配水池水位監視手段
43・・・計画補正手段
44・・・水位測定手段
46・・・演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を淡水として生産する淡水化プラント部を有し、生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムであって、
ある一定期間における前記海水の、所定時間毎の水質を過去の実測値に基づきそれぞれ予測する海水水質予測手段と、
前記一定期間に必要とされる淡水生産水量を、前記所定時間毎に割り振った前記一定期間の淡水生産水量計画案を複数作成し、これら各淡水生産水量計画案について、前記所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位を算出し、この算出された電力原単位に基づき、前記複数の淡水生産水量計画案から最適淡水生産水量計画を求める最適計画演算手段と、
この最適計画演算手段により求められた最適淡水化計画の内容を表示する表示手段と、
を備えたことを特徴とする海水淡水化プラントシステム。
【請求項2】
前記最適計画演算手段は、淡水生産水量計画案を遺伝子としてランダムに割り当てて生成した個体を複数個発生させ、各個体の遺伝子について前記電力原単位に基づく評価を行い、評価値の悪い個体を予め定義した個体数淘汰する淘汰処理を行い、残りの個体をランダムにペアリングして一点交叉させる交叉処理を行い、その後、全個体数に対する突然変異率分だけランダムに個体を選び各個体の任意の遺伝子座の遺伝子を変更させる突然変異処理を行い、前記評価から突然変異処理にいたる処理を繰り返し、最終的に最も優れた遺伝子を求める遺伝的アルゴリズムを用いたことを特徴とする請求項1に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項3】
前記最適計画演算手段は、海水水質としての海水塩分濃度は一定であると想定してその固定値を入力し、かつ、海水水質としての海水水温の変化は気温の変化と同等であると想定して過去の類似天候日の一定期間での気温変化を入力することで、前記海水水質予測手段を不要としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項4】
前記最適計画演算手段で求められた最適淡水生産水量計画による各所定時間毎の淡水生産水量を、前記淡水化プラント部における海水供給量の制御データとして出力するデータ出力装置を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項5】
ある一定期間における前記配水池から配水される前記所定時間毎の需要量を過去の実測値に基づきそれぞれ予測する需要予測手段と、
前記配水地の水位を測定する水位測定手段と、
前記最適計画演算手段で求められた最適淡水生産水量計画による所定時間毎の淡水生産水量と前記需要予測手段で予測された対応する所定時間ごとの需要量との差から求まる前記所定時間毎の前記配水地の予測水位と、前記最適淡水生産水量計画を実施した場合に前記水位測定手段で測定された実測水位との対応する時間毎の偏差を求める配水地水位監視手段と、
この配水池水位監視手段で得られる偏差が予め設定された閾値以上になった場合には、前記最適淡水生産水量計画実施開始から前記偏差が閾値以上になった時点までの淡水生産水量から、前記最適淡水生産水量計画の残りの期間に必要な淡水生産水量を演算し、この残りの期間で必要な淡水生産水量を担保できる淡水生産水量計画を算出する計画補正手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項6】
前記淡水化プラント部は、海水を淡水する淡水化設備を複数系列有し、これら複数の系列で生産された淡水を前記配水池へ供給し、
前記データ出力手段は、前記最適計画演算手段で求められた最適淡水生産水量計画による各所定時間毎の淡水生産水量を、前記複数系列に対するオン/オフ制御データとして前記淡水化プラント部へ出力する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項7】
一定期間に生産すべき淡水生産水量案が当該プラント上位の機関によって決定される場合、表示手段では、当日の配水池水位の予測水位と実水位との誤差や電力原単位の推移を画面に表示することを特徴とする請求項5に記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項8】
最適計画演算手段は、淡水化設備電源の電力料金に、昼間電力料金と夜間電力料金との差異がある場合、算出された電力原単位の電力料金単価が最小となる淡水生産水量計画案を導出することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の海水淡水化プラントシステム。
【請求項9】
海水を淡水として生産する淡水化プラント部を有し、生産された淡水を、配水池を経て需要家に供給する海水淡水化プラントシステムであって、
ある一定期間における前記海水の、所定時間毎の水質を過去の実測値に基づきそれぞれ予測する海水水質予測手段と、
前記一定期間における前記配水池から配水される前記所定時間毎の需要量を過去の実測値に基づきそれぞれ予測する需要予測手段と、
前記一定期間に必要とされる淡水生産水量を、前記所定時間毎に割り振った前記一定期間の淡水生産水量計画案を作成しておき、この作成された淡水生産水量計画案による所定時間毎の淡水生産水量と前記需要予測手段で予測された対応する所定時間毎の需要量との差から求まる前記所定時間毎の前記配水地の予測水位を予測するとともに、前記淡水生産水量計画案について、前記所定時間毎に予測された海水水質、淡水生産水量、及び予め求められた回収率を用いて淡水化のための電力原単位を算出する配水池水位及び電力原単位の演算手段と、
この演算手段により求められた配水池水位、及び電力原単位を表示する表示手段と、
を備えたことを特徴とする海水淡水化プラントシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−59743(P2013−59743A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200922(P2011−200922)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】