説明

海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成を抑制する方法およびシステム

【課題】海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成を抑制する方法、および、そのシステムを提供すること。
【解決手段】水流路に、海洋生物が付着またはバイオフィルムが形成するのを抑制する方法として、水流路を流れる水に、COマイクロバブルと塩素とを注入する工程を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成を抑制する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷却水として海水を利用する火力発電所や原子力発電所などの発電プラントにおいては、海から海水を取り入れて復水器に供給する取水路や、復水器を通った海水を海へ放出するための放水路の内部に、フジツボ類をはじめとする貝等の海洋生物が付着し易い。海洋生物の付着量が多くなると、冷却水の流路が塞がれて冷却性能が低下するなどの不具合を招くおそれがある。
そこで、従来から、例えば、特許文献1〜5に開示されるように、次亜塩素酸ナトリウム溶液や二酸化塩素などの塩素系薬剤を冷却水に注入することにより、冷却水流路への海洋生物の付着を抑制することが行われている。また、特許文献6に開示されるように、二酸化炭素のマイクロバブル(以下、COマイクロバブルという)を冷却水に溶解させることにより、冷却水流路への海洋生物の付着を抑制する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平 7−265867号公報
【特許文献2】特開平11− 37666号公報
【特許文献3】特開2005−144212号公報
【特許文献4】特開2005−144213号公報
【特許文献5】特開2005−244214号公報
【特許文献6】特開2010− 43060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、効果的に、海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成を抑制する方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る、海洋生物が付着するまたはバイオフィルムが形成するのを抑制する方法は、水流路を流れる水に、COマイクロバブルと塩素とを注入する工程を含む。
水流路を流れる水が、熱交換のために使われても良い。
水流路を流れる水は、どのような水であっても良いが、例えば、水の少なくとも一部が、海水であることが好ましい。
注入するCOマイクロバブルの水に対する濃度は、特に限定されないが、大気圧下での体積比で、1/100以上であることが好ましく、1/50以上であることがより好ましい。
海洋生物の種類は、特に限定されないが、例えば、バイオフィルムを形成する微生物、フジツボ類または多毛類であっても良い。
【0006】
本発明に係る、水流路を備え、水流路への、海洋生物の付着またはバイオフィルムの形成を抑制する機能を備えた熱交換システムは、海水を取水するための取水装置と、取水した水を、熱交換対象設備に供給するための供給装置と、供給された水を用いて、熱交換対象設備と熱交換するための熱交換器と、熱交換対象設備と熱交換後の水を、熱交換対象設備から放出するための放出装置と、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、COマイクロバブルを注入するためのCOマイクロバブル注入装置と、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素を注入するための塩素注入装置とを備える。
注入するCOマイクロバブルの水に対する濃度は、特に限定されないが、大気圧下での体積比で、1/100以上であることが好ましく、1/50以上であることがより好ましい。
また、海洋生物の種類は、特に限定されないが、例えば、バイオフィルムを形成する微生物、フジツボ類または多毛類であっても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、効果的に、海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成を抑制する方法およびシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態における、海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成抑制効果を試験するための設備系統図である。
【図2】本発明の一実施形態における、海洋生物の付着およびバイオフィルムの形成抑制効果を試験するための、観察管の構成を示す図である。
【図3(a)】本発明の一実施形態における、ケース1および2の、水温、DO、DO飽和度およびpHの測定結果を示す図である。
【図3(b)】本発明の一実施形態における、ケース3および4の、水温、DO、DO飽和度およびpHの測定結果を示す図である。
【図3(c)】本発明の一実施形態における、ケース5および6の、水温、DO、DO飽和度およびpHの測定結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における、水温の経日変化を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態における、DOの経日変化を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態における、DO飽和度の経日変化を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態における、pHの経日変化を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態における、海洋生物の付着やバイオフィルムの形成状況の観察、および、主要な付着生物の計測の結果を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態における、付着している海洋生物の計測の結果を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態における、観察部分Bの内部を写す図である。
【図11】本発明の一実施形態における、海洋生物の種類および個体数の観察結果と、海洋生物およびバイオフィルムの湿重量の計測結果とを示す図である。
【図12(a)】本発明の一実施形態における、ケース1および2の、付着海洋生物の同定結果を示す図である。
【図12(b)】本発明の一実施形態における、ケース3および4の、付着海洋生物の同定結果を示す図である。
【図12(c)】本発明の一実施形態における、ケース5および6の、付着海洋生物の同定結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態における、付着した海洋生物および形成したバイオフィルムの湿重量を示す図である。
【図14】本発明の一実施形態における、付着した海洋生物の個体数を示す図である。
【図15】本発明の一実施形態における、遊離残留塩素濃度の計算値および実測値と、その差から求めた残留塩素減衰率とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0010】
==本発明に係る海洋生物の付着またはバイオフィルム形成抑制方法==
本発明に係る、海洋生物の付着またはバイオフィルムの形成を抑制する方法は、水流路を流れる水に、COマイクロバブルと塩素とを注入する工程を含む。
【0011】
海洋生物の種類は特に限定されないが、例えば、バイオフィルムを形成し得る微生物である、細菌類、真菌類、付着珪藻および原生動物や、フジツボ類、多毛類、ホヤ類、二枚貝類、コケムシ類、ヒドロ虫類、または、海綿類であっても良く、特に、バイオフィルムを形成し得る微生物である、細菌類、真菌類、付着珪藻および原生動物や、フジツボ類または多毛類であることが好ましい。
また、本明細書でいうバイオフィルムとは、細菌類、糸状菌類、付着珪藻、原生動物およびそれらの分泌物や粘土鉱物等で構成されるフィルム状の構造物をいう。バイオフィルムは、一般的に、熱伝導率が低いため、例えば、バイオフィルムが熱交換器に大量に形成されると熱交換器の性能が低下する原因となる。
【0012】
水流路は、水が流れるように設計された箇所であればどのようなものでも良く、例えば、発電所や工場において、冷却水として海から取水した海水を、熱交換対象設備にまで運ぶための管や、熱交換器そのものの内部などが挙げられる。水流路は、管のように閉鎖系であっても良く、雨どいのように開放系であっても良い。
【0013】
本明細書でいうCOマイクロバブルとは、粒径が999μm以下の二酸化炭素の気泡をいい、粒径が1μm未満のnm単位の二酸化炭素の気泡も含む。
COマイクロバブルを発生させる方法は限定されないが、例えば、水などの液体が供給された時に気体を自動的に吸引する、自給式マイクロバブル発生装置を用いて、COマイクロバブルを発生させることができる。このような自給式マイクロバブル発生装置として、例えば、エジェクタ型、ベンチュリー型、ラインミキサー型、および、二相流旋回型などの旋回流方式があげられる。
塩素は、塩素を発生させることができる物質であれば特に限定されず、例えば、次亜塩素酸ナトリウムや二酸化塩素、海水電解液、または、塩素そのものであっても良い。
COマイクロバブルと塩素とを水に注入する順番は、両方同時であっても良く、どちらかを先に注入した後に、残りを注入しても良い。
【0014】
水流路を流れる水の用途は、特に限定されないが、海洋生物の付着および/またはバイオフィルムの形成が抑制されることによって、水流路の熱伝導率が向上することから、熱交換のために使われることが好ましい。
また、水流路を流れる水は、海洋生物か、バイオフィルムを形成し得る生物・物質を含んでいれば、どのような水であっても良いが、例えば、水の一部または全部が、海水であることが好ましい。
【0015】
注入するCOマイクロバブルの水に対する濃度は、特に限定されないが、高い方が付着を抑制する効果が高く、例えば、大気圧下での体積比で、1/100以上であることが好ましく、1/50以上であることがより好ましい。
【0016】
COマイクロバブルと塩素とを注入した後の水のpHは、特に限定されないが、排水時に環境に与える負担を考慮すれば、pH6〜8であることが好ましく、pH7.5〜8.5であることがより好ましい。
【0017】
このように、水流路を流れる水に、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、COマイクロバブルまたは塩素を単独で注入した場合に比べて、効果的に、水流路に、海洋生物が付着および/またはバイオフィルムが形成するのを抑制することができる。また、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、COマイクロバブルまたは塩素を単独で注入した場合に比べて、効果的に、水流路に付着している海洋生物および/または形成しているバイオフィルムを、水流路から除去することができる。
さらに、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、塩素のみを注入した場合に比べて、水中に残存する残留塩素濃度を減少させることが可能となり、水流路を流れる水を排水する際に環境に与える負担を軽減することができる。
【0018】
==本発明に係る海洋生物付着またはバイオフィルム形成抑制機能を備える熱交換システム==
本発明に係る、水流路を備え、水流路への、海洋生物の付着またはバイオフィルムの形成を抑制する機能を備えた熱交換システムは、海水を取水するための取水装置と、取水した水を、熱交換対象設備に供給するための供給装置と、供給された水を用いて、熱交換対象設備と熱交換するための熱交換器と、熱交換対象設備と熱交換後の水を、熱交換対象設備から放出するための放出装置と、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、COマイクロバブルを注入するためのCOマイクロバブル注入装置と、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素を注入するための塩素注入装置とを備える。
【0019】
海洋生物の種類は特に限定されないが、例えば、バイオフィルムを形成し得る微生物である、細菌類、真菌類、付着珪藻および原生動物や、フジツボ類、多毛類、ホヤ類、二枚貝類、コケムシ類、ヒドロ虫類、または、海綿類であっても良く、特に、バイオフィルムを形成し得る微生物である、細菌類、真菌類、付着珪藻および原生動物や、フジツボ類または多毛類であることが好ましい。
COマイクロバブル注入装置からCOマイクロバブルを注入する水と、塩素注入装置から塩素を注入する水とは、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のうちの、同一の水であっても良く、異なる水であっても良い。COマイクロバブルと塩素とを水に注入する順番は、どちらが先であっても良い。また、水流路に多量の海洋生物やバイオフィルムが付着すると、熱伝導率が低下したり、流路が塞がれて十分な流量が得られなくなったりするために、熱交換機能が低下してしまう可能性があることから、COマイクロバブルを注入する水と、塩素を注入する水とは、熱交換器より前の、取水した水または供給された水であることが好ましい。
【0020】
注入するCOマイクロバブルの水に対する濃度は、特に限定されないが、高い方が付着を抑制する効果が高く、例えば、大気圧下での体積比で、1/100以上であることが好ましく、1/50以上であることがより好ましい。
COマイクロバブルと塩素とを注入した後の水のpHは、特に限定されないが、排水時に環境に与える負担を考慮すれば、pH6〜8であることが好ましく、pH7.5〜8.5であることがより好ましい。
【0021】
このように、取水した水、供給された水、及び、熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、COマイクロバブルまたは塩素を単独で注入した場合に比べて、効果的に、水流路に、海洋生物が付着および/またはバイオフィルムが形成するのを抑制できる機能を備えた熱交換システムを提供することができる。また、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、COマイクロバブルまたは塩素を単独で注入した場合に比べて、効果的に、水流路に付着している海洋生物および/または形成しているバイオフィルムを、水流路から除去できる機能を備えた熱交換システムを提供することができる。
さらに、COマイクロバブルと塩素との両方を注入することによって、塩素のみを注入した場合に比べて、水中に残存する残留塩素濃度を減少させることが可能となり、排水する際に環境に与える負担を軽減することができる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0023】
本実施例では、COマイクロバブルと塩素とを併せて海水に注入することによって、その海水が流れる流路管の内部への、バイオフィルムと海洋生物との付着を効果的に抑制できることを示す。
【0024】
海水が流れる流路管に、表1に示すケース1〜6のそれぞれの条件でCOマイクロバブルや塩素を50日間注入し続けた後に、流路管の内部に付着したバイオフィルムと海洋生物との量を観察・測定することによって、COマイクロバブルや塩素がどの程度バイオフィルムと海洋生物との付着を抑制できるのかを比較した。
【0025】
【表1】

【0026】
具体的な実験方法を、図1を参照しながら、以下の通り説明する。
まず、ポンプ2台を用いて、第1の分配水槽1に海から海水を取り入れた。この際、満潮時でも干潮時でも第1の分配水槽1の水位を一定にすべく、ポンプの流量を適宜調整し、最もポンプの流量が大きい干潮時で、1台あたりの流量を約100L/minとした。さらに、第1の分配水槽1の海水取入れ口には、設置高さの調整が可能な三角堰(図示せず)を設置し、これによっても、第1の分配水槽1に取り入れる海水の流量を調整した。
また、第1の分配水槽1からどこへも供給しない余剰水は、約74L/minの流量で第1の分配水槽1から別途排水した。
【0027】
第1の分配水槽1から、21L/minの流量で、COマイクロバブル発生水槽2に海水を供給した。COマイクロバブル発生水槽2において、自給式マイクロバブル発生装置の一つであるYJ型マイクロバブル発生装置21(有限会社バイ・クリーン製、自給流量:50L/min)を用いて、1.25L/minの流量でCOをマイクロバブル発生装置21に供給することによって、COマイクロバブルを発生させた。このCOマイクロバブルを注入した海水を、これ以降、「COマイクロバブル原水」という。
COマイクロバブル原水におけるCO供給量/水量の比は、1.25/50=1/16.8である。なお、YJ型マイクロバブル発生装置の海水流量は50L/minであるのに対し、COマイクロバブル発生水槽への海水供給流量は21L/minであるため、生じた差は、差分の海水を水槽内で循環させることによって対応した。循環させるにあたっては、循環させる間にCOマイクロバブルの状態が変化してしまう可能性を最小限にするために、COマイクロバブル発生水槽2内に仕切板22を儲け、仕切板22が供える底部の穴(φ30mm、5ヶ所)から、濃度の薄いと考えられる水槽2低部のCOマイクロバブル原水を循環させた。
【0028】
COマイクロバブル原水を、COマイクロバブル発生水槽2から、第2の分配水槽3に続く水流路へと供給した。詳細には、14L/minの流量で、第2の分配水槽A31に続く水流路へ、そして、7L/minの流量で、第2の分配水槽B32に続く水流路へと供給した。
第2の分配水槽A31に続く水流路内にて、14L/minのCOマイクロバブル原水と、第1の分配水槽1から供給された28L/minの海水とを混合した。同様に、第2の分配水槽B32に続く水流路内にて、7L/minのCOマイクロバブル原水と、第1の分配水槽1から供給された35L/minの海水とを混合した。これらの混合は、COマイクロバブルの状態が変化してしまう可能性を最小限にするために、水流路における水流の流速を約0.2m/sとして衝撃を低下させるとともに、混合は水流路の曲がり部分で行った。
【0029】
一方で、第2の分配水槽C33には、第1の分配水槽1から、42L/minの流量で海水を供給した。
即ち、第2の分配水槽A31、第2の分配水槽B32、および、第2の分配水槽C33のいずれにも、COマイクロバブル原水と海水との混合比は異なるものの、42L/minの流量の水を供給した。第2の分配水槽A31におけるCO供給量/水量の比は、(1/16.8)x(14/42)=1/50であり、第2の分配水槽B32におけるCO供給量/水量の比は、(1/16.8)x(7/42)=1/100であり、そして、第2の分配水槽B32におけるCO供給量/水量の比は0である。
なお、第2の分配水槽3のいずれにも、海水取入れ口には、設置高さの調整が可能な三角堰(図示せず)を設置し、これによって、第2の分配水槽3に取り入れる水の流量を調整した。
【0030】
第2の分配水槽3から、水槽1つにつき、2つの観察管4へと、21L/minの流量で水を供給した。詳細には、第2の分配水槽A31からは、観察管A41と観察管B42とに、CO供給量/水量の比が1/50であるCOマイクロバブルを含有する海水を供給し、第2の分配水槽B32からは、観察管C43と観察管D44とに、CO供給量/水量の比が1/100であるCOマイクロバブルを含有する海水を供給し、そして、第2の分配水槽C33からは、観察管E45と観察管F46とに、COマイクロバブルを含有しない海水を供給した。各観察管に供給した水の流速は、約0.1m/sである。
さらに、観察管B42、観察管D44、および、観察管E45へと続く水流路においては、3%次亜塩素酸ナトリウム(購入元をご教示下さい)から調製した1000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1mL/minの流量で注入した。即ち、これらの水流路における塩素注入濃度は、(1000x0.001)/21=0.05mg/Lである。なお、塩素の注入は、上述したCOマイクロバブル原水と海水との混合と同様に、水流路の曲がり部分で行った。
このようにして、表1のケース1〜6の条件を備える、6つの観察管、観察管A41〜観察管F46を設けた。
【0031】
各観察管4の構造を、図2を参照しながら説明する。
各観察管4の内径は、φ65mmである。一つの観察管4は、全長が約1mであり、最上流部に長さ30cmの灰色塩化ビニール製管を助走部分51として備え、接合部を挟んでその下流側に、長さ30cmの透明アクリル製管を観察部分A52として備え、さらに、接合部を挟んでその下流側に、長さ30cmの灰色塩化ビニール製管を観察部分B53として備える。
観察部分A52は、遮光のために、管の外部を覆う黒い袋(図示せず)を備える。また、観察部分A52と観察部分B53とは、海洋生物の付着を促進するために、それぞれ、その上流部内面に、長さ10cmに渡って目合い5mmのクレモナ網62および63を備える。
【0032】
このような装置を用いて、平成22年10月20日〜同年12月9日の50日間に渡って、COマイクロバブルおよび/または塩素による、流路管の内部への、バイオフィルムと海洋生物との付着抑制効果を比較検討する試験を行った。試験期間中および期間終了時に行った測定内容などは、次の通りである。
まず、試験期間中は、週に1回の頻度(計7回)で、各観察管4から排出された排水における、水温、DO(Dissolved Oxygen、溶存酸素)、pHおよび遊離残留塩素濃度の測定と、各観察管4に付着している海洋生物やバイオフィルムの付着状況の観察および主要な付着生物の計測とを行った。水温およびDOの測定は、溶存酸素計(株式会社東興化学研究所製、TOX−999i)を用いて行い、DOはポーラグラフ法にて測定した。遊離残留塩素は、残留塩素計(Hanna製、HI95711)を用いて、DPD試薬を用いた吸光光度法にて測定した。海洋生物やバイオフィルムの付着状況の観察および主要な付着生物の計測は、観察管4のうち、透明アクリル製管でできている観察部分A52に付着している海洋生物について、目視にて、種類および個体数を確認した。
試験期間終了時には、各観察管4を回収して解体し、観察部分A52および観察部分B53と、クレモナ網62および63とに付着している、付着海洋生物の種類および個体数を調べた。また、付着している海洋生物およびバイオフィルムの湿重量を計量した。海洋生物の種の同定については、必要に応じて、試料をエタノール固定し、室内に持ち帰ったうえで、実体顕微鏡を用いて分析を行った。
なお、本試験においては、天然海水中に含まれる測定妨害物質による影響を避けるために、全残留塩素ではなく、遊離残留塩素により、塩素濃度の測定を実施した。
試験期間中は、設定した、海水の流量や、COの流量、および、塩素濃度などが保たれているかを適宜確認し、必要に応じて、流量の調整や試薬の追加などを行った。
【0033】
測定した水温、DOおよびpHの結果と、塩分濃度を30‰として算出したDO飽和度の値とを記した表を、図3に示す。また、水温の経日変化のグラフを図4に、DOの経日変化のグラフを図5に、DO飽和度の経日変化のグラフを図6に、そして、pHの経日変化のグラフを図7に示す。
【0034】
水温の経日変化をみると、図3および4が示すように、COマイクロバブルおよび塩素の有無や濃度に関わらず、ケース1〜6のいずれにおいても同様の変化がみられた。試験開始時は約24℃であったが、日が経つにつれて水温は少しずつ低下し、試験終了時は約13℃となった。秋季から冬季への季節の移り変わりによる水温の低下であると考えられる。
DOの経日変化をみると、図3および5が示すように、いずれのケースにおいても、試験開始時は6.2〜6.3mg/Lであったが、日が経つにつれてDOは少しずつ上昇し、試験終了時は7mg/L以上となった。DOの上昇は、水温の低下に伴うDO飽和濃度の上昇によるものであると考えられる。また、塩分濃度を30‰とした場合のDO飽和度の経日変化をみると、図3および6が示すように、試験期間を通して80〜90%程度と安定しており、海洋生物やバイオフィルムへの影響はないと考えられる。
pHの経日変化をみると、図3および7が示すように、COマイクロバブルを注入していないケース5および6ではpHが約8であった対して、COマイクロバブルを注入したケース1〜4ではpHが約7であった。ケース1〜4においてpHがやや低下した理由は、COマイクロバブル発生時にCOが水中に溶け込むことによるものと考えられる。しかし、ケース1および3におけるpHの最小値は6.6、ケース2では6.9、そして、ケース4〜6では試験期間を通して7以上であり、概ね中性であったことから、海洋生物やバイオフィルムへの影響はほとんどないと考えられる。
【0035】
次に、試験期間中に随時行った、各観察管4に付着している、海洋生物やバイオフィルムの付着状況の観察および主要な付着生物の計測の結果を、図8および9に示す。
これらの図が示すように、試験関始2日後には、全てのケースでバイオフィルムの付着が確認された。付着したバイオフィルムは、日が経つにつれて増加し、特に、ケース6(コントロール)での付着量が多かった。逆に、ケース1(マイクロバブル高濃度、塩素注入なし)、3(マイクロバブル高濃度、塩素注入あり)および4(マイクロバブル低濃度、塩素注入あり)では、付着量は比較的少なかった。
試験開始16日後には、ケース5(マイクロバブルなし、塩素注入あり)でフジツボ類が1個体、そして、ケース6でコケムシ類が8個体確認された。ケース6では、日が経つにつれてコケムシ類の付着個体数は増加した。試験開始30日後には、ケース2(マイクロバブル低濃度、塩素注入なし)でコケムシ類が2個体、ケース6で多毛類棲管が14個体確認され、試験開始37日後には、ケース2および5で、多毛類棲管の付着が確認された。試験開始44日後には、ケース1および3でも、多毛類棲管の付着が確認された。
以上の結果から、ケース6で最も多くの付着した海洋生物やバイオフィルムが確認され、次いでケース2および5の付着量が多かったことが示された。一方で、ケース1および3の付着量は少なく、ケース4では付着物としてバイオフィルムは確認されたが、付着した大型の海洋生物は確認されなかった。
【0036】
また、試験終了時の観察部分B53の様子を写した写真を、図10に示す。試験期間終了時に行った、観察部分A52および観察部分B53と、クレモナ網62および63とに付着している、海洋生物の種類および個体数の観察結果と、海洋生物およびバイオフィルムの湿重量の計測結果との表を、図11に示す。付着していた海洋生物の詳細な同定結果の表を、図12に示す。
加えて、各ケースの比較を容易にするために、各ケースにおける、付着した海洋生物およびバイオフィルムの湿重量を比較したグラフを図13に、および、付着した海洋生物の個体数を比較したグラフを図14に示す。
【0037】
図10〜14が示すように、付着している海洋生物の種類数および個体数、付着している海洋生物およびバイオフィルムの湿重量ともに、ケース6で最も多く、次いで、ケース2が多かった。
そこで、ケース1とケース2とを湿重量で比較すると、ケース1では、コントロールであるケース6に対して約1/40の付着量であったが、ケース2では、ケース6に対して約1/2の付着量であった。この結果が示すように、COマイクロバブルの濃度は高いほど、海洋生物およびバイオフィルムの付着を抑制する効果が高い。
COマイクロバブルと塩素とを併用したケース3および4を、これらの片方しか用いなかったケース1、2および5と比較すると、付着している海洋生物およびバイオフィルムの湿重量が、著しく減少した。さらに、主要な海洋生物であるフジツボ類については、ケース3および4のいずれにも全く付着しておらず、多毛類棲管についても、ケース3ではほとんど付着していなかった。これらの結果が示すように、COマイクロバブルと塩素とを併用することによって、COマイクロバブルまたは塩素を単独で用いる場合よりも、海洋生物およびバイオフィルムの付着を、非常に効率的に抑制することが可能となる。
【0038】
なお、各観察管4から排出された排水における遊離残留塩素濃度を測定した結果、添加した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量と、各観察管4から排出された排水の流量から求めた計算値に比べて、実測値が低くなる傾向がみられた。観察管C43、観察管D44および観察管E45からの排水における、遊離残留塩素濃度の計算値および実測値と、その差から求めた残留塩素減衰率との表を、図15に示す。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量が1.8mL/min(排水中の遊離残留塩素濃度の計算値に換算して、約0.1mg/L)の場合、COマイクロバブルの注入の有無に関わらず、すべてのケースにおいて遊離残留塩素は検出されず、残留塩素減少率は100%であった。次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量が3.0mL/min(排水中の遊離残留塩素濃度の計算値に換算して、約0.17〜0.21mg/L)の場合、COマイクロバブルを注入していないケース5においては、残留塩素減少率が45〜71%であったのに対し、COマイクロバブルを注入したケース3および4においては、残留塩素減少率が100%であった。さらに、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の添加量が6.0mL/min(排水中の遊離残留塩素濃度の計算値に換算して、約0.35〜0.42mg/L)の場合、ケース5においては残留塩素減少率が79%であったのに対し、ケース3および4においては残留塩素減少率が90%以上であった。
以上の結果が示すように、COマイクロバブルと塩素とを併用して注入することによって、塩素のみを注入した場合に比べて、注入した水に含まれる残留塩素濃度の減少速度を加速すること、即ち、排水に含まれる塩素の量を効果的に減少させることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 第1の分配水槽
2 COマイクロバブル発生水槽
3 第2の分配水槽
4 観察管
21 YJ型マイクロバブル発生装置
22 仕切板
31 第2の分配水槽A
32 第2の分配水槽B
33 第2の分配水槽C
41 観察管A
42 観察管B
43 観察管C
44 観察管D
45 観察管E
46 観察管F
51 助走部分
52 観察部分A
53 観察部分B
62,63 クレモナ網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流路に、海洋生物が付着する、または、バイオフィルムが形成するのを抑制する方法であって、
前記水流路を流れる水に、COマイクロバブルと塩素とを注入する工程を含む抑制方法。
【請求項2】
前記水流路を流れる水が、熱交換のために使われることを特徴とする、請求項1に記載の抑制方法。
【請求項3】
前記水流路を流れる水の少なくとも一部が、海水であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抑制方法。
【請求項4】
前記COマイクロバブルの前記水に対する濃度が、大気圧下の体積比で、1/100以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項5】
前記COマイクロバブルの前記水に対する濃度が、大気圧下の体積比で、1/50以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項6】
前記海洋生物が、バイオフィルムを形成する微生物、フジツボ類または多毛類であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の抑制方法。
【請求項7】
水流路を備え、前記水流路への、海洋生物の付着またはバイオフィルムの形成を抑制する機能を備えた熱交換システムであって、
海水を取水するための取水装置と、
前記取水した水を、熱交換対象設備に供給するための供給装置と、
前記供給された水を用いて、前記熱交換対象設備と熱交換するための熱交換器と、
前記熱交換対象設備と熱交換後の水を、前記熱交換対象設備から放出するための放出装置と、
前記取水した水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、COマイクロバブルを注入するためのCOマイクロバブル注入装置と、
前記取水した水、前記供給された水、及び、前記熱交換対象設備と熱交換後の水のいずれか一つ以上に、塩素を注入するための塩素注入装置とを備えたシステム。
【請求項8】
前記COマイクロバブルが注入された水に対する、前記COマイクロバブルの濃度が、大気圧下の体積比で、1/100以上であることを特徴とする、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記COマイクロバブルが注入された水に対する、前記COマイクロバブルの濃度が、大気圧下の体積比で、1/50以上であることを特徴とする、請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記海洋生物が、バイオフィルムを形成する微生物、フジツボ類または多毛類であることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか1項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図9】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図12(c)】
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【図13】
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【図15】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−228627(P2012−228627A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96572(P2011−96572)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】