説明

海苔養殖用肥料

【課題】海苔養殖場において、施肥容器をその長軸が水平方向となるように設置(横吊り)した場合において、施肥容器の設置後から肥料の溶出開始までのタイムラグを少なくすることを目的とする。
【解決手段】窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、硝酸カルシウム及び硝酸マグネシウムを除く)の有姿100質量部に対して、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム及び吸湿性尿素からなる群より選ばれた1種以上の吸湿性化合物を無水換算で0.5〜25質量部の割合で含有することを特徴とする海苔養殖用肥料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海苔養殖用肥料に関し、とりわけ吸湿性化合物を含有する海苔養殖用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖海苔の色落ち対策として、海苔養殖場へ窒素及び/又はリン酸を含有する肥料が施用されているが、肥料を長期に安定して効かせるために、肥料を容器に収容する海苔養殖用施肥容器に関する技術が種々開発されてきた。本願出願人は、施肥容器の溶出孔を制御することによって樹脂等で被覆されていない通常肥料が適用でき、しかも所望期間安定的に肥料成分を溶出させることができる海苔養殖用施肥容器に関する技術を開示した(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−273424号公報
【特許文献2】特開2009−273425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、海苔養殖現場において、特許文献1、2に記載の筒状又は管状の海苔養殖用施肥容器を該容器の長軸が水平方向となるように設置(横吊り)した場合、施肥容器内に海水が流入し難いために肥料成分の溶出開始が遅れるという問題があった。そこで、施肥容器の設置後から肥料成分の溶出開始までのタイムラグを少なくする方法が望まれていた。更に、溶出孔の孔径・孔数の制御以外の方法で溶出速度を制御する方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、海苔養殖用肥料に吸湿性及び/又は潮解性を有する化合物(以下、「吸湿性化合物」と云う)を含有させると、施肥容器内への海水の流入(導入)が顕著に促進されることを見出した。
【0006】
さらに、硫酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの微粒子(以下、「カルシウム塩微粒子」と云う)が施肥容器内に存在すると、肥料成分の急激な溶出が抑制され長期に安定して溶出する傾向があることを見出した。カルシウム塩微粒子を施肥容器内に存在させる方法は、(1)海水流入後の施肥容器内において、溶解した化合物同士による化学反応によってカルシウム塩微粒子を生成させる方法、(2) カルシウム塩微粒子を予め海苔養殖用肥料に含有させる方法、である。上記(1)の方法は、吸湿性化合物としてカルシウム化合物を選定し、前記カルシウム化合物との反応によってカルシウム塩微粒子を生成することができる硫酸根及び/又はリン酸根を含有する化合物を用いるものである。前記硫酸根及び/又はリン酸根を含有する化合物として、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料、例えば硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等、及び、前記肥料以外の化合物である硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムが挙げられる。
【0007】
本発明は、上記知見に基づき完成させたものであり、以下の通りである。
(1)窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、硝酸カルシウム及び硝酸マグネシウムを除く)の有姿100質量部に対して、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム及び吸湿性尿素からなる群より選ばれた1種以上の吸湿性化合物を無水換算で0.5〜25質量部の割合で含有することを特徴とする海苔養殖用肥料。
(2)吸湿性化合物が塩化カルシウム及び硝酸カルシウムのうちいずれか一方又は双方である上記(1)記載の海苔養殖用肥料であって、さらに、該吸湿性化合物1モルに対して、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸マグネシウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物を1〜3モルの割合で含有する海苔養殖用肥料。
(3)上記(1)又は(2)記載の海苔養殖用肥料であって、さらに、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、リン酸カルシウムを除く)の有姿100質量部に対して、硫酸カルシウム(粉末)及びリン酸カルシウム(粉末)のうちいずれか一方又は双方を無水換算で0.5〜25質量部の割合で含有する海苔養殖用肥料。
(4)窒素及び/又はリン酸を含有する肥料が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素マグネシウム、過リン酸石灰及び重過リン酸石灰からなる群より選ばれた1種以上である上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の海苔養殖用肥料。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項記載の海苔養殖用肥料を、孔径0.1〜1mmの多孔性容器に収容した海苔養殖用施肥容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特に筒状又は管状の施肥容器を横吊りした場合において、吸湿性化合物によって施肥容器内への海水導入が促進されるため、施肥容器の設置後から肥料成分の溶出までのタイムラグが少ないという利点を有する。さらに、カルシウム塩微粒子が施肥容器内に存在する場合は、肥料成分の急激な溶出が抑制され長期に安定した溶出が得られるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜9における海苔養殖用肥料の溶出経過を示した図である。
【図2】実施例1における試験開始6日目の海苔養殖用肥料の溶解状態(形状)を示した図である。
【図3】比較例1における試験開始6日目の海苔養殖用肥料の溶解状態(形状)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の海苔養殖用肥料ついて詳細に説明する。
本発明で用いる吸湿性化合物としては、吸湿性及び/又は潮解性を有するものであり、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム及び吸湿性尿素である。前記化合物は粒状であっても粉状であってもよい。塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウムとしては、例えば市販の試薬、工業用グレードのものあるいは副生物等を用いることができる。ここで、吸湿性尿素とは、吸湿防止等の目的で吸湿防止剤等の表面処理剤で尿素表面が全面的に被覆されている市販の尿素等とは異なり、尿素表面に表面処理剤で被覆されていない部分、即ち尿素自体が露出した部分を一部でも有するものを云う。吸湿性尿素の具体例として、表面処理剤で被覆されていない尿素、あるいは、表面処理剤で被覆された尿素を粉砕して非被覆部分を露出させた尿素が挙げられる。
【0011】
本発明の海苔養殖用肥料は、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、硝酸カルシウム及び硝酸マグネシウムを除く。以下に於いては但し書きを省略する。)の有姿100質量部に対して、前記吸湿性化合物からなる群より選ばれた1種以上の吸湿性化合物を、無水換算した吸湿性化合物として0.5〜25質量部の割合で含有させたものである。前記割合が0.5質量部を下廻ると、施肥容器内への海水の導入促進効果が充分に得られない。一方、前記割合が25質量部を上廻ると、施肥容器に収容できる肥料量が相対的に減少し、また吸湿力が大きくなるため海苔養殖用肥料の保管が困難となる。前記割合は、3〜15質量部がより好ましく、さらに好ましくは5〜10質量部である。尚、本発明における前記肥料としては、粒状肥料であることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の海苔養殖用肥料では、カルシウム塩微粒子を施肥容器内に存在させることも好ましい態様の一つである。カルシウム塩微粒子を施肥容器内に存在させる方法としては前記の通り、(1)海水流入後の施肥容器内において、溶解した化合物同士による化学反応によってカルシウム塩微粒子を生成させる方法、(2)カルシウム塩微粒子を予め海苔養殖用肥料に含有させる方法、の2通りが挙げられる。本発明では、上記(1)と(2)のいずれか一方または両方の方法を用いることができる。
【0013】
上記(1)または(2)の方法によってカルシウム塩微粒子が施肥容器内に存在すると、肥料成分の急激な溶出が抑制され、長期に渡り安定して溶出するという効果が得られる。このような溶出安定化効果は、施肥容器の溶出孔の孔径が0.1〜1mmにおいて特に顕著に現れる。この理由は定かではないが、溶出安定化効果のメカニズムとして、カルシウム塩微粒子による溶出孔の適度な閉塞に加えて、後述する図2の状態より、カルシウム塩微粒子と吸湿性化合物との物理化学的関与に起因した閉塞も一因となっていることが推察される。
【0014】
先ず、(1)の方法について説明する。前記吸湿性化合物として、少なくとも塩化カルシウム及び硝酸カルシウムのうちいずれか一方又は双方を選択する。前記カルシウム化合物(以下、「化合物A」と云う)は、水への溶解度が高いため好適である。一方、化合物Aと反応してカルシウム塩微粒子を生成することができる化合物(以下、「化合物B」と云う)としては、硫酸根及び/又はリン酸根(以下、「酸根」と云う)を含有するものが挙げられ、特に溶解後に酸根を解離し易いもの、即ち水溶性硫酸塩、水溶性リン酸塩が好ましい。
【0015】
化合物Aと化合物Bの量比について云えば、施肥容器内で化合物Aと化合物Bを反応させること、及び化合物Aが上記のように含有させられる量に制限があることより、化合物Aのカルシウムに対する化合物Bの酸根のモル比は1以上であることが好ましい。
【0016】
化合物Bとして、肥料的効果に乏しい化合物即ち窒素及び/又はリン酸を含有しないもの(以下、「化合物B1」と云う)、あるいは、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料であって且つ硫酸根及び/又はリン酸根を含有するもの、即ち、窒素及び/又はリン酸並びに硫酸根及び/又はリン酸根を含有する肥料(以下、「化合物B2」と云う)が挙げられる。前記の通り、化合物B2を使用するときは、化合物B1と化合物B2は両方が海苔養殖用肥料に含有されていても構わないが、一般的には化合物B2を使用するときは化合物B1を含有させる必要はない。
【0017】
化合物B1としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸マグネシウムが好例として挙げられ、これらのうち1種以上の化合物を用いることができる。化合物B1は海苔への肥料的効果に乏しいため、適用量は少ないほうが好ましい。具体的には、海苔養殖用肥料に化合物B1を、化合物Aの1モルに対して1〜3モルの割合で含有させることが好ましい。前記割合は、1〜2モルがより好ましい。化合物B1の適用が特に有効となるのは、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料として硫酸根及び/又はリン酸根を含有しないもの、例えば、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素(表面処理剤で被覆されたもの)を選択したときである。前記具体例のうち、硝酸アンモニウム又は尿素が窒素成分量が高いために好ましい。
【0018】
化合物B2としては、硫酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム及びリン酸二水素マグネシウムが好例として挙げられ、これらのうち1種以上の化合物を用いることができる。化合物B2は、海苔に対する肥効を有するので、その適用量は任意に設定できるが、海苔養殖用肥料に占める割合をできるだけ高くすることが好ましい。上記化合物のうち、硫酸アンモニウムが窒素成分を含有するために特に好ましい化合物として挙げられる。
【0019】
次に、(2)の方法、即ち、カルシウム塩微粒子を予め海苔養殖用肥料に含有させる方法について説明する。この方法では、硫酸カルシウム及び/又はリン酸カルシウムの粉末(以下、「化合物B3」と云う)を用いることが好ましい。硫酸カルシウムは半水のものであっても2水のものであっても構わないが、保管中の安定性の観点から2水のものが好ましい。リン酸カルシウムとしては、リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウムが挙げられるが、ハイドロキシアパタイトであっても構わない。化合物B3の添加量は、(1)の方法と併用する場合は少なくし、(1)の方法と併用しない場合は多くすればよく、本発明の効果を発現させるためには、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料の有姿100質量部に対して、化合物B3が無水換算で0.5〜25質量部の割合であることが好ましい。
【0020】
本発明で用いる窒素及び/又はリン酸を含有する肥料としては、窒素及び/又はリン酸を含有する化合物であって、一般に肥料として用いることができるものであれば特に制限はない。しかし、海水中で溶解する必要があるため、水溶性成分の割合が高いものが好ましい。尚、海水中にはカリウム及びマグネシウム成分は比較的多量に含まれるため、カリウム及びマグネシウム成分を含有しない肥料を用いる方が効率的である。窒素及び/又はリン酸を含有する肥料の具体例として、上記で列挙したものも含めて、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素(表面処理剤で被覆されたもの)、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素マグネシウム、過リン酸石灰及び重過リン酸石灰を挙げることができ、これらのうち1種以上を適宜選択することができる。前記列挙した肥料のうち、硫酸アンモニウムと尿素が好ましい。また、肥料の形状は、粒状であっても粉状であってもよいが粒状に於いて本発明の効果が最もよく発揮される。
【0021】
本発明において、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料と吸湿性化合物の特に好ましい組合せは、硫酸アンモニウムと塩化カルシウムである。前記組合せにおいて、海苔養殖用肥料中の肥効成分の含有量を高くしながら、海水の流入促進効果が良く発揮される。さらに、上記溶出安定化効果のメカニズムによるものと推察されるが、施肥容器からの肥料成分の溶出が安定化される。そして、硫酸アンモニウム有姿100質量部に対して塩化カルシウムが無水換算で5〜10質量部の割合で含有される海苔養殖用肥料が特に好適であり、さらに好適なのは前記海苔養殖用肥料が硫酸アンモニウムと塩化カルシウムとのみからなるものである。
【0022】
本発明の海苔養殖用肥料において上記の各種化合物の含有のさせ方としては、上記の各種化合物を原料とし、これを造粒してもよいが、製造コストの観点から上記の各種化合物を混合する、即ち、窒素及び/又はリン酸を含有する粒状肥料と他の各種化合物を混合することが好ましい。混合する場合は混合方法を適宜選択して、できるだけ均一になるように混合することが望ましい。
また、本発明の海苔養殖用肥料は、上記の各種化合物を適宜選択したものを含有したものであるが、施肥容器内における肥料成分の割合を高くするために、上記の各種化合物以外のものはできるだけ含有させないことが望ましい。海苔養殖用肥料中の窒素及び/又はリン酸を含有する肥料の含有量の目安を示すと、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料が海苔養殖用肥料中に70〜99.5質量%の割合で含有されることが好ましく、前記割合のさらに好ましい範囲は80〜99.5質量%である。
【0023】
上記によって得られた本発明の海苔養殖用肥料の最適使用方法は、細孔からなる溶出孔を有する施肥容器に海苔養殖用肥料を収容して使用する方法である。収容する容器としては、溶出孔の孔径が0.1〜1mmの多孔性容器が推奨される。前記孔径の範囲は、肥料の溶出速度を制御するための好適な範囲である。例えば、孔径が0.1mm未満となると、吸湿性化合物が施肥容器内に存在しても、初期の海水流入に時間を要するため肥料成分の溶出開始時期が遅れたり、その対策として溶出孔の数を多数作製しようとすると、作製の手間と労力がより多くなるため好ましくない。一方、孔径が1mmを超えると、溶出孔の孔数調整による溶出速度の調整が著しく困難となり、また、カルシウム塩微粒子が施肥容器内に存在しても溶出孔を適度に閉塞し難くなることが原因と推察されるが、溶出の安定化が困難となる。尚、多孔性容器の溶出孔の総面積は、肥料の種類、容器の形状等によって異なるが、容器の全表面積に対して0.000001〜0.001であることが好ましい。また、藻類や異物などによって一部の溶出孔で閉塞が起きても支障の無いように、溶出孔の孔数は少なくとも5個以上であることが好ましい。また、施肥容器の形状は、海苔養殖現場への設置効率の観点から筒状又は管状のものが好ましい。
【0024】
施肥容器の材質としてはポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂等の可撓性材料、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂等の剛直性樹脂等が使用できる。また、施肥容器の保護のため、あるいは肥料の溶出制御をさらに行うために、必要に応じて、上記施肥容器を外装容器内に収容しても良い。外装容器についてはその使用目的に応じて、孔を有するものやネット状のもの等を適宜選択すればよい。外装容器としては、特許文献2(特開2009−273425号公報)記載のものを例示することができる。
【0025】
本発明の海苔養殖用肥料は、浮き流し式海苔養殖場又は支柱式海苔養殖場において、本発明の海苔養殖用肥料を収容した上記筒状又は管状の施肥容器を、海苔養殖網の近傍に設置している水平方向のロープ又は棒に横吊りで係止した場合に、その効果が最もよく発揮される。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の詳細を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。
[1] 窒素及び/又はリン酸を含有する肥料を、以下、「肥料」と略す。
・肥料として、硫酸アンモニウム(住友化学株式会社製 肥料の名称「住友21.0硫酸アンモニア」、粒状)、硝酸アンモニウム(住友化学株式会社製 肥料の名称「住友34.4防結性粒状硝酸アンモニア」、粒状)を用いた。
[2] 肥料以外の化合物としては、
・吸湿性化合物として、塩化カルシウム・2水和物、塩化マグネシウム・6水和物(いずれも和光純薬工業(株)製試薬、粉状)を用いた。
・化合物B1として、硫酸ナトリウム(無水物)(和光純薬工業(株)製試薬、結晶状)を用いた。
・化合物B3として、硫酸カルシウム・2水和物(和光純薬工業(株)製試薬、粉状)、リン酸三カルシウム(和光純薬工業(株)製試薬、粉状)を用いた。
尚、以下では、上記化合物を結晶水無しの化合物名で呼ぶこととする。また、数量は無水換算の値で示す。
【0027】
〔実施例1〕
硫酸アンモニウム750gと塩化カルシウム75gとをよく混合して海苔養殖用肥料を作製した。
〔実施例2〜9〕
表1に示した原料をよく混合して海苔養殖用肥料を作製した。
〔比較例1〜3〕
表1に示した原料をよく混合して海苔養殖用肥料を作製した。



















【0028】
【表1】

【0029】
[施肥容器]
無孔のポリエチレン製のチューブタイプの袋(長さ500mm、折り幅90mm)に表1の海苔養殖用肥料を収容した後、ヒートシーラーで開口部を封止した。袋の封止部に挟まれた肥料収容部の長さは400mmとした。溶出孔として、約0.5mm径の細孔を設けた。溶出孔の位置は、肥料収納部の長さ方向において等間隔となるように5箇所設け、その反対面にも同様に細孔を設けた(細孔の数は計10箇所)。
【0030】
次に試験例を示す。
10℃に設定した振とう器(タイテック製 大型恒温振とう培養機バイオシェーカーBR-300LF)を用いた。振とう台の上に防振シートを置き、前記防振シート上に人工海水12Lを入れた市販の蓋付きポリエチレン製コンテナ(縦31cm×横43cm×高さ20cm)を設置した。人工海水が10℃になったのを確認した後、表1の海苔養殖用肥料を収容した上記施肥容器をコンテナ内に水平方向に設置した(施肥容器全体が浸かることを確認)。振とう器は40rpmで振とうさせた。また、3日毎に10℃の人工海水を交換した。設置時点からの海苔養殖用肥料の状態を18日目まで経時的に観察した。更に、溶出速度を調べるため、施肥容器内の残存物を経時的に回収して残存物の乾燥(40℃)後の質量を測定した。そして、施肥容器に当初収容した海苔養殖用肥料の質量(初期量)と残存物の質量との差を溶出量とし、溶出量/初期量の百分率を溶出率とした。
【0031】
表2に、経時的な観察結果を示したが、実施例1〜9は溶出速度が異なる以外は同様の経過を辿ったので、実施例1を代表例として示し、併せて比較例1〜3を示した。また、実施例1〜9における肥料の溶出経過を図1に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2と図1より、実施例1〜9では、施肥容器の設置1日後には人工海水が施肥容器内へ流入することが確認された。さらに、図1より、ほぼ一定の速度で溶出が進行しており、溶出速度が制御でき安定した溶出が得られたことが分かった。
【0034】
また、図1より、硫酸カルシウム又はリン酸カルシウムを含有させた場合(硫酸カルシウム:実施例5と2の比較、実施例8と6の比較。リン酸カルシウム:実施例9と6の比較)、あるいは、施肥容器内でカルシウム塩微粒子を生成させた場合(実施例7と6の比較)、肥料成分の溶出速度が遅くなり、長期にわたり安定して溶出することが分かった。
【0035】
これに対して、比較例1、3では、溶出開始までにはやや時間を要した(表2)。また、比較例2では、設置1日後には人工海水が施肥容器内へ流入することが確認され、その後はほぼ一定の速度で溶出が進行した(表2)が、保管中に吸湿が進むため実用的ではなかった。
【0036】
試験開始6日目に、海苔養殖用肥料を施肥容器からバットに移し替えて形状を観察した。実施例1〜9と比較例2では、海苔養殖用肥料全体が乳白色のペースト状(肥料が半溶解状態であり、また微粒子の混在も確認できる状態)であり、塊は見られなかった。図2に、実施例1〜9と比較例2の代表例として実施例1の場合を示した。一方、比較例1と3では、透明感のあるシャーベット状(肥料が固結することなく各粒が水と接触して溶解している状態)であった。図3に、比較例1と3の代表例として比較例1の場合を示した。
上記のような肥料の状態の相違が、溶出の仕方の相違の原因となっているものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、硝酸カルシウム及び硝酸マグネシウムを除く)の有姿100質量部に対して、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム及び吸湿性尿素からなる群より選ばれた1種以上の吸湿性化合物を無水換算で0.5〜25質量部の割合で含有することを特徴とする海苔養殖用肥料。
【請求項2】
吸湿性化合物が塩化カルシウム及び硝酸カルシウムのうちいずれか一方又は双方である請求項1記載の海苔養殖用肥料であって、さらに、該吸湿性化合物1モルに対して、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸マグネシウムからなる群より選ばれた1種以上の化合物を1〜3モルの割合で含有する海苔養殖用肥料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の海苔養殖用肥料であって、さらに、窒素及び/又はリン酸を含有する肥料(但し、リン酸カルシウムを除く)の有姿100質量部に対して、硫酸カルシウム(粉末)及びリン酸カルシウム(粉末)のうちいずれか一方又は双方を無水換算で0.5〜25質量部の割合で含有する海苔養殖用肥料。
【請求項4】
窒素及び/又はリン酸を含有する肥料が、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、尿素、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素マグネシウム、過リン酸石灰及び重過リン酸石灰からなる群より選ばれた1種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の海苔養殖用肥料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の海苔養殖用肥料を、孔径0.1〜1mmの多孔性容器に収容した海苔養殖用施肥容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−250893(P2012−250893A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126579(P2011−126579)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】