説明

浸漬ミーリング加工装置

【課題】被削材料を切削液に浸漬させた状態で加工する浸漬ミーリング加工において、工具チャックと切削液面との接触を防ぎ、切削液を加工点に的確に浸入させて潤滑と冷却効果を高める加工装置を提供する。
【解決手段】数値制御工作機械が有する数値情報と制御機能を用い、工具チャック12の上下移動に合わせて切削液面3の高さを自動調節する。切削液2に高周波の運動エネルギーを与え、加工点23に的確に浸入させて刃先の潤滑および冷却を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被削材料を切削液中に浸漬させ空気を遮断した状態で切削する浸漬ミーリング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムやチタニウムなど酸化力の強い金属のミーリング加工においては、微細切り屑が切削熱によって発火して火災が発生する危険性がある。発火の危険性を回避するための技術のひとつとして、被削材料を切削液中に浸漬した状態で切削する浸漬ミーリング加工がある。
【0003】
従来の技術として、密閉容器内に切削液を充填した状態で旋削加工を行うものがある。(特許文献1、特許文献2参照)しかしミーリング加工に関しては、工具チャックが切削液に接触しないようにするための切削液面の高さ制御が行われていない。また切削液を微視的な加工点に的確に侵入せるための手段がない。(特許文献3参照)
【0004】
【特許文献1】特許第3328302号
【特許文献2】特開平05−131336号公報
【特許文献3】特開2005−022013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミーリング加工においては、機械テーブルおよび主軸の動作方式が様々であり、密閉容器内での加工が難しい。そのため、切削液面が露出した状態にある。浸漬ミーリング加工では、加工点が常に切削液中に浸漬されなければならないが、加工形状によっては加工点の上下方向の位置が加工の進行とともに変化する。また、複数の工具を交換しながら加工するのが一般的で、工具長(工具チャック端面から工具刃先までの距離)は使用する工具によって異なる。
【0006】
切削液面から加工点までの距離(深さ)が深く、工具長が短い場合は工作機械主軸の工具チャック部まで切削液中に埋没してしまい、切削液を攪拌してしまう。工具チャックの直径は工具に比べてはるかに大きいので、過剰攪拌によって加工槽内に切削液の大きな渦が発生し、切削液が加工槽の外に飛散してしまう。また、切削液に混入した微細な切り屑が工具チャックや機械の主軸テーパーポット部に侵入し,機械精度及び機械寿命の低下の原因となる。これを防ぐには、加工点の上下移動と工具長を考慮して切削液面の高さを調節し,工具チャック部と切削液面の接触を防がなければならない。
【0007】
切削液の最も重要な役割は、潤滑と冷却により加工精度を高め、かつ工具寿命を延長させることである。切削中の切れ刃と被削材料の接触状態には、被削材料の降伏点以上の高い圧力で完全に金属接触している部分と、比較的低い圧力で不完全接触している部分がある。両者の境界は明確ではなく、刃先に近づくほど接触圧力が高く、刃先から離れるほど接触圧力が低い。切削液が浸入するのはこの微視的な不完全接触域である。不完全接触域に浸入させるには、切れ刃と被削材料の隙間に浸入させることが必要である。切削液が隙間に侵入すると不完全接触域に到達し、潤滑と冷却が行われる。工具すくい面における不完全接触域の摩擦係数が減少すると、せん断角が増加して完全接触域が狭くなる。潤滑作用は刃先に生じる溶着物(構成刃先)をなくし仕上げ面あらさを向上させると同時に工具の磨耗を防ぎ、工具寿命が延びる。また、摩擦力とせん断力が減少して発熱量が減少するので、加工歪の発生を抑えることができる。よって、切削液をできるだけ多く不完全接触域に浸入させることが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は数値制御工作機械が有する工具軌跡情報と工具長情報から工具チャックの上下位置を計算し、加工槽内の切削液面の高さを制御して工具チャックと切削液面との接触を防ぐとともに、高周波の運動エネルギーを切削液に与えることにより、加工点の潤滑および冷却を的確に達成することを特徴とした浸漬ミーリング加工装置である。
【0009】
加工点が切削液中にあり、かつ工具チャック部分が切削液に浸からないようにするためには、加工中の工具チャック部分の高さに合わせて切削液面の高さを制御すればよい。ここで、工具移動の左右方向をX軸、前後方向をY軸、上下方向をZ軸とすると、切削液面の高さは、加工点のZ軸方向の位置と工具長によって調節しなくてはならないが、数値制御工作機械を使用したミーリング加工においては、加工点のZ軸方向の位置と工具長は既知であるから、2つの情報から最適な切削液面高さを算出してプログラムしておけば、数値制御工作機械に備わっている軸制御のうち使用していない1軸を充てて切削液面の高さを制御できる。
【0010】
加工点近傍の微視的な不完全接触域に切削液を浸入させるには、切削液に高周波の振動を与えることが効果的である。切削液に超音波振動子で正と負の圧力を交互にかける。正のときに加圧された切削液は瞬間的に一気に膨張し、切削液中に無数のほぼ真空の泡が発生する。再び加圧された瞬間に泡は弾けるように消滅する(キャビテーション)。このエネルギーによって、切削液が狭い隙間に侵入することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
加工点が常に切削液中に位置するため、酸化力の強い金属でも発火の危険性がなく安全に切削できる。切削液面を工具の上下動に合わせて制御することにより、切削液の過剰攪拌による飛散や不要部位への混入を防ぎ、切削液の節約及び機械設備の寿命延長が可能になる。超音波振動を与えられた切削液が刃先近傍まで侵入することにより、潤滑と冷却効果が高まる。それにより、仕上げ精度が向上し工具寿命も延長される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下,本発明の実施の形態を図1〜図3に基いて説明する。
【0013】
図1は浸漬ミーリング装置の構造を示す正面図である。工作機械の送りテーブル14に固定された加工槽1の中に被削材料13を固定し、工具チャック12に把握された切削工具11により加工点23の切削加工を行う。
【0014】
切削液面3の調節はドレインパイプ9を上下することによって行う。ドレインパイプ9の上下方向の移動は、サーボモータ21で駆動されるピニオン20とドレインパイプ9に固定されたラック19によって行われる。なお、ドレインパイプ9は加工槽1に設けられたガイド22によって上下にのみ自在に動くようになっている。また、ドレインパイプ9とガイド22の間はOリング25によってシールされていて、切削液2の漏出を防ぐ。
【0015】
切削液2は切削液タンクを兼ねた濾過装置16より、ポンプ24によって加工槽1に送られ、溜まっていく。切削液面3がドレインパイプ9の溢れ口10の位置まで到達すると、切削液2は溢れ口10より濾過装置16に流出し、切削液面3は一定の高さに保たれる。ポンプ24は常時稼動していて、一定の流量を保った状態で切削液2が加工槽1内を回流するようになる。加工中は常にこの回流状態を保つ必要がある。
【0016】
ドレインパイプ9を上下させるサーボモータ21は、数値制御工作機械に備わっている軸制御機能のうち、使用していない一軸を充てる。例えば、X軸(左右)、Y軸(前後)、Z軸(上下)とC軸(主軸回転角)をもつ数値制御工作機械で、C軸制御機能が使用されていない場合はC軸制御機能をドレインパイプ9の上下方向の制御に使う。上下方向の位置は工具軌跡情報と工具長情報によって決まる。
【0017】
図2において、基準面26と切削液面3との距離をH、工具チャック12と切削液面3との距離をH1、加工プログラムによる加工点23の基準面26からの高さをH2、工具長をH3、とする。基準面26と切削液面3との距離Hは、H=H2+H3−H1で求められる。ここでH1は工具チャック12と切削液面3が接触しないためのクリアランス値であるが、切削液面3は切削液2の回流による波が生じているので、これを考慮した上で最適値を設定する。ここで求めたHの値が、すなわち基準面26とドレインパイプ9の溢れ口10との距離となる。尚、Hの値は加工槽1の最大容量時の深さをもって上限とする。この情報をもとに、ドレインパイプ9の上下方向を制御する。
【0018】
加工点の高さH2が下がると、これに応じたHの値によりただちにサーボモータ21が制御され、ドレインパイプ9が下方に移動する。切削液2は溢れ口10より流出して切削液面3の高さも下方に移動する。これにより、工具チャック12と切削液面3との接触が防止される。
【0019】
ポンプより送られてくる切削液2の流量をQ1、溢れ口10より流出する切削液2の流量をQ2とすると、切削液面3の高さに変動がなく回流状態のみにあるときはQ1=Q2である。しかし、ドレインパイプ9が下方に移動して切削液2が流出するときはこの他に切削液面3が下がる分の切削液2の流出量Q3が生じる。したがって、ドレインパイプ9はQ1+Q3以上の排出能力を持たなければならない。
【0020】
加工点の高さH2が上がると、これに応じたHの値によりただちにサーボモータ21が制御され、ドレインパイプ9が上方に移動する。溢れ口10が切削液面3より上方に突き出すこととなり切削液2の回流が一時中断され、ポンプ24より送られてくる切削液2は加工槽1に溜まっていく。切削液面3の高さが溢れ口10の位置まで到達すると、再び流出する。これにより、工具チャック12と切削液面3との接触が防止される。
ポンプ24は、工具の送り速度に対応できるだけの十分な吐出量が必要である。
【0021】
被削材料を着脱する際には、切削液2を加工槽1から排出しなければならない。その際はドレインパイプ9の溢れ口10を加工槽1の底部まで下げることで対処する。この方式は、切削液2の流出経路に開閉弁等の障害物がないので、切り屑がつまるという問題が生じない。
【0022】
図1において加工槽1の左右底部には、切削液2を上向きに流出させる上向きノズル5、6が設置されている。切り屑は、上向きノズル5、6から流出する切削液2の運動エネルギーを利用して、上方へと運ばれ、横向きノズル7が作り出す回流に乗って、ドレインパイプ9の溢れ口10から切削液2とともに搬出され、外部の濾過装置16に流入する。濾過装置16で切り屑が濾過された切削液2がポンプ24によって加工槽1に還流する。
【0023】
図3は加工槽1の構造を示す上面図である。加工槽1は、左右と後方の固定壁17と、前方の開閉壁18から構成されている。開閉壁18は被削材料13の着脱時に使用する。
開閉の際は切削液2を排出してから行う。加工槽1には、上向きノズル5、6のほかに、切削液を水平方向に流出させる横向きノズル7、8が加工槽1の前後の壁に沿うように設置されており、切削液2を加工槽1の壁に沿って回流させる役割を果たす。加工槽1は、切削液2が回流しやすいよう八角形になっている。切り屑は上向きノズル5、6から流出する切削液2とともに上方へと運ばれ、次いで横向きノズル7、8が作り出す回流に乗って加工槽1の壁沿いに移動し、ドレインパイプ9の溢れ口10から切削液2とともに加工槽1の外へ排出される。
【0024】
図3で、固定壁17に設置された超音波振動子4が、切削液2に超音波振動を与える。固定壁17は剛性を有し、超音波振動子4が発生させる超音波振動を切削液2に確実に与えることが可能である。与えられた超音波振動は、切削液中を伝播して随所にキャビテーションを発生させる。加工点23近傍において発生したキャビテーション現象によって切削液2は加工点23の微視的な不完全接触域に的確に侵入する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】 浸漬ミーリング加工装置の構造を示す正面図である。
【図2】 切削液面の高さの算出方法を示す図である。
【図3】 加工槽と切削液流出ノズルの位置関係を示す上面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 加工槽
2 切削液
3 切削液面
4 超音波振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御工作機械(マシニングセンタ)が有する工具軌跡情報と工具長情報から工具チャックの上下位置を計算し、加工槽内の切削液面の高さを制御して工具チャックと切削液面との接触を防ぎながら、高周波の運動エネルギーを切削液に与えることにより、的確に加工点の潤滑・冷却を達成する浸漬ミーリング加工装置。
【請求項2】
加工槽内に設けたドレインパイプを上下方向に移動することにより、切削液面の高さを制御する、請求項1に記載の浸漬ミーリング加工装置。
【請求項3】
超音波振動子を加工槽の壁面に固定し、この超音波振動子が発生する高周波の運動エネルギーを加工槽内の切削液に与える、請求項1〜2に記載の浸漬ミーリング加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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