説明

浸漬管のスラグ除去装置および浸漬管のスラグ除去方法

【課題】大型の浸漬管に付着したスラグを除去するにあたり、複数の昇降装置を走行台車等に搭載することなく、強力な押し上げ動作によって除去作業を安定して実現する。
【解決手段】上端にカッター刃15を有する円筒状のカッター支持体14が走行台車12に設置されている。取鍋昇降装置の上昇部8とカッター支持体14とが接続自在である。走行台車12の底部には開口部13が形成され、取鍋昇降装置の上昇部8は、開口部13を通過して、カッター支持体14の底部14aを押し上げることができる。取鍋昇降装置の上昇部8の強力な押上げを利用して、浸漬管4外周に付着したスラグSをカッター刃15で削り取ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を精錬する真空脱ガス装置の浸漬管に付着したスラグを除去するスラグ除去装置および当該スラグ除去装置を用いたスラグ除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の製鋼工程においては、RH、DH方式等の真空・減圧精錬が行われている。これら真空・減圧精錬は、真空脱ガス装置等の真空・減圧精錬装置の耐火物で覆われた浸漬管を取鍋内の溶鋼中に浸漬させて行われる。
【0003】
精錬処理中には、浸漬管の下端部および外周面に溶鋼面上のスラグが付着するが、これを放置しておくと成長して測温サンプリングの障害になったり、取鍋の縁と干渉して精錬操作の障害になったりする。また付着、成長したスラグが突然落下する危険性もある。そのため精錬後は、できるだけ早い時期に浸漬管に付着したスラグを除去する必要がある。
【0004】
このような浸漬管のスラグを除去する技術として、走行台車に搭載された昇降装置と、当該昇降装置によって上昇する主カッター刃とを備えたスラグ除去装置が開示されている(特許文献1)。この先行技術によれば、走行台車に搭載されている昇降装置によって上昇する主カッター装置の上端に、浸漬管外周に付着したスラグを除去するカッター刃が円環状に配置、固定されており、昇降装置によって主カッター装置を上下動させることで、浸漬管外周に付着したスラグを前記カッター刃で除去するようになっていた。
【0005】
【特許文献1】特開2000−87130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら前記従来技術では、走行台車に油圧ジャッキ等の昇降装置が設けられている関係上、例えばより大型の浸漬管に付着したスラグを除去する場合に、主カッター装置も大型化する必要がある。またカッター刃が浸漬管に付着したスラグに食い込むことがあるので、上昇する主カッター装置、及び走行台車には相応の質量がないと、除去装置自体が持ち上がるおそれがある。そうすると1つの昇降装置では主カッター装置の上昇が難しくなるので、複数の昇降装置を設けることになる。しかしながら複数の昇降装置を設置した場合、主カッター装置を正しく水平に維持した状態で上昇させる必要があり、その結果各昇降装置を同調させなければならず、別途同調を制御する装置が必要となる。
【0007】
また走行台車に昇降装置を設置する関係上、搭載する昇降装置のサイズ、質量にも制限があり、より強力な切削除去効果を得るには限界があった。また走行台車に昇降装置を搭載すると、台車全体の質量が増大し、台車を走行させる駆動装置も大型化したり、構成が複雑化し、除去したスラグや浸漬管から落下する溶鋼の回収にも、格別な工夫を要していた。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、走行台車に昇降装置を搭載する方式を採用せず、溶鋼を貯留している取鍋を浸漬管に向けて上昇させる取鍋用の強力な昇降装置を利用して、浸漬管のスラグを除去するようにして、前記問題の解決を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、浸漬管の下方でかつ取鍋昇降装置の上昇部の上方の空間に移動可能な移動体と、前記移動体に設置されたカッター支持体とを有し、前記カッター支持体は、カッター支持体の上昇によって、浸漬管外周に付着したスラグを除去するカッター刃を備え、前記移動体は、前記取鍋昇降装置の上昇部が通過可能な開口部を有し、前記カッター支持体は、前記取鍋昇降装置の上昇部と接続自在であることを特徴としている。
【0010】
本発明によれば、移動体、例えば走行台車や取鍋移送用ターンテーブルに搭載されているカッター支持体は、取鍋昇降装置の上昇部と接続自在であるから、カッター支持体と取鍋昇降装置の上昇部とを接続させ、その状態で移動体の開口部を通じて取鍋昇降装置の上昇部を上昇させることで、カッター支持体を上昇させることができる。したがって、取鍋昇降装置の上昇部の上下動によってカッター支持体に設けられているカッター刃で浸漬管外周に付着したスラグを除去することができる。この種の取鍋昇降装置は、極めて強力な油圧装置を採用しているので、従来よりも格段に強力な上昇力によるスラグの除去作業が行なえる。またこの種の取鍋昇降装置は、溶鋼を貯留した取鍋を水平状態で昇降させるものであるから、カッター支持体も同様に水平状態のまま上昇させることができ、従来必要であった前記した同調装置による同調制御は不要である。またカッター刃の刃体がスラグに食い込んでも、取鍋昇降装置自体が、取鍋昇降ピット内に強固に固定されているので、カッター支持体自体を支障なく下降させることができる。しかも移動体自体には昇降装置は搭載していないので、台車の構成を従来よりも簡素化することができる。
【0011】
前記移動体における、カッター支持体の外周にはガイド体を配置し、前記ガイド体とカッター支持体との間にはローラを配置するようにしてもよい。これによって、カッター支持体の上昇、下降を安定して行なう事ができ、またいわゆる芯ズレをより確実に防止することができる。なお当該ローラは、ガイド体側、またはカッター支持体側のいずれに設けてもよい。但し、当該ローラをガイド体側に設ける場合は、ガイド支持体の昇降範囲に対応して、複数のローラを設けることが重要である。
【0012】
カッター支持体におけるカッター刃の近傍には、除去したスラグを受容する受容部を設けてもよい。これによってカッター刃が除去した際に落下したスラグをそのまま受容して、回収することができる。
【0013】
カッター支持体における前記浸漬管と対向する位置には、前記浸漬管から落下する金属(あるいは溶融金属)を受容するバケットを備えていてもよい。これによって、浸漬管から落下する金属(あるいは溶融金属)をそのまま回収することができる。
【0014】
カッター刃上部に載置可能な保温蓋を有し、この保温蓋を平板状の本体と、当該本体上に設けられてカッター支持体の上昇によって浸漬管の下端部と密着する密着部とを有する構成としてもよい。これによって、カッター支持体と取鍋昇降装置を利用して、脱ガス槽内部の保温を図り、また浸漬管から垂れ落ちてくる溶けた地金を保温蓋で受容することができる。
【0015】
本発明の別な観点によれば、本発明のスラグ除去方法は、以上の各スラグ除去装置を用いて、移動体を浸漬管の下方でかつ取鍋昇降装置の上方の空間に移動させて、所定位置に停止させる工程と、前記取鍋昇降装置の上昇部を上昇させて、前記カッター支持体と当該上昇部とを接続する工程と、その後上昇部をさらに上昇させて、カッター刃によって、浸漬管に付着したスラグを除去する工程とを有している。かかる特徴を有する本発明によれば、取鍋昇降装置の上昇部の強力な押し上げ作用によって、浸漬管に付着したスラグを円滑に除去することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、取鍋昇降装置の上昇部の強力な押し上げ作用によって、浸漬管に付着したスラグを円滑に除去することが可能であり、しかも走行台車や取鍋移送用のターンテーブル廻りの構成を従来よりも簡素化することができ、また昇降装置を別途同調制御する装置も不要である。しかも移動体廻りを従来よりも簡素化できるので、除去したスラグや落下する溶鋼の回収も、簡単な構成の付加でこれを容易に実現できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、二次精錬を行なう真空脱ガス設備の概要を示しており、この真空脱ガス設備においては、真空脱ガス装置の脱ガス槽1は上方に固定され、取鍋用走行台車2に載置されている取鍋3側を上昇させて、取鍋3内に貯留されている溶鋼内に大型の浸漬管4を浸漬し、取鍋3の底部から例えばアルゴンガスを溶鋼内に供給してこれを攪拌しながら、減圧精錬を行うようになっている。これによって、脱ガスの生ずる溶鋼表面積が増大して、生産性が向上している。なお真空脱ガス装置の脱ガス槽1を上方に固定することに代えて、脱ガス槽1を脱ガス槽移動台車に搭載することで、昇降させないようにしてもよい。
【0018】
取鍋用走行台車2は、取鍋3を搭載してレール5上を走行自在であり、取鍋3が浸漬管4の直下の所定位置にて停止するようになっている。この状態で取鍋3を上昇させるため、前記所定位置の下方、すなわちレール5が敷設されている床面の凹部6内に、取鍋昇降装置7が設置されている。したがって、取鍋昇降装置7は、浸漬管3と対向して当該凹部6内に設置されている。そして取鍋3を上昇させる場合には、前記した所定位置に取鍋用走行台車2が停止している状態で、取鍋昇降装置7を作動させ、その上昇部8を上昇させることで、上昇部8が取鍋用走行台車2の下方から取鍋3のみを持ち上げて所定の高さまで取鍋3を上昇させて、取鍋3内の溶鋼に浸漬管4を浸漬させる。
【0019】
本実施の形態にかかるスラグ除去装置11は、例えばこのような真空脱ガス設備において用いられるように構成されている。
【0020】
実施の形態にかかるスラグ除去装置11は、側面の断面を模式的に示した図2にも示したように、前記レール5を走行自在な、移動体としての走行台車12を有している。走行台車12の底部のほぼ中央には取鍋昇降装置7の上昇部8が通過可能な開口部13が形成されている。開口部13の縁部上面には、カッター支持体14が載置されている。
【0021】
カッター支持体14の全体形状は、図2、ならびにスラグ除去装置11の平面を示した図3に示したように、全体として有底の筒状であり、その底部14aの周辺部が、走行台車12の開口部13の縁部上面に設置されることで、走行台車12に設置されている。このカッター支持体14の上端部には、複数のカッター刃15が環状に配置されている。このカッター刃15には、たとえばハンドル操作によりカッター刃15の径方向位置を変更するスラグ除去径調整装置(図示せず)が備えられている。
【0022】
カッター支持体14の上部外周で、かつカッター刃15の近傍下方には、支持フランジ16が設けられ、この支持フランジ16上には、カッター刃15が除去したスラグを受容する受容部17が設置されている。この受容部17は、1個の形状が1/4円環状であり、支持フランジ16上には合計4個の受容部17が設置され、カッター支持体14の上部外周の全周をカバーしている。なお各受容部17は、支持フランジ16上から取り外し自在である。
【0023】
走行台車12におけるカッター支持体14の外周には、図4に示したように、中心角90度おきに、合計4本のガイド体21が設けられている。そしてカッター支持体14の下方外周で、ガイド体21と対面する位置には、ローラ22が設けられている。なお図2は、スラグ除去装置11の側面の断面を模式的に示し、図3は平面の様子、図4はカッター支持体14の下方における水平断面の様子を示しているが、ガイド体21、ローラ22等の構成部材をわかりやすく説明するため、図2では図示に都合のよい形で断面を示しているため、図2と、図3、図4との間では、ガイド体21、ローラ22の平面における配置状況が一致していない。
【0024】
カッター支持体14の下端部近傍の外周には、図4に示すように、4基のクランプ装置23が、中心角90度おきに設けられている。このクランプ装置23は図5に示したように、カッター支持体14の下端部近傍の外周に形成された凹部24内に固定されたエアシリンダ25と、このエアシリンダ25の作動によって水平方向に出入りする支持ロッド26とを有している。そしてこの支持ロッド26には、係止部材27が設けられている。係止部材27は、上段係止部27aと、下段係止部27bとを備えている。上段係止部27aは、カッター支持体14の下端近傍に形成された挿入部28内に挿入自在な形態を有し、下段係止部27bは、取鍋昇降装置7の上昇部8の上端近傍外周に固定されているアングル材29の水平部29aに係止可能な形態を有している。
【0025】
前記した構成を有するクランプ装置23によれば、支持ロッド26が外側に伸長している状態では係止部材27が外側に退避し(図5中の破線で示す)、カッター支持体14の底部14aに、取鍋昇降装置7の上昇部8の上端部8aを当接させてカッター支持体14を上下動させる場合には、支持ロッド26を内側に引き戻す事で、係止部材27の上段係止部27aが、カッター支持体14の挿入部28内に挿入され、下段係止部27bが取鍋昇降装置7の上昇部8のアングル材29の水平部29aに係止される。これによって、カッター支持体14と取鍋昇降装置7の上昇部8が接続される。
【0026】
カッター支持体14の内部には、図2に示したように、例えば格子状のフレーム材などによって構成された水平支持部材31が設けられ、この水平支持部材31上には、バケット32が設置されている。
【0027】
走行台車12における走行方向に沿った一端部には、図2に示したように、浸漬管4の下端面に付着したスラグを除去するためのカット装置41が設けられている。このカット装置41は、図3にも示したように、頂上部にカッター刃を備えた棒状のカットバー42と、このカットバー42を支持して、上下動させる昇降装置43とを有している。カットバー42の支持部44の外周には、スラグシュート45が配置され、スラグシュート45の下方には、スラグ回収容器46が設けられている。
【0028】
一方、走行台車12における走行方向に沿った他端部には、図2、図3に示したように、作業員用の作業台51、及び作業台51に続くタラップ52が設けられている。
【0029】
本実施の形態にかかるスラグ除去装置11は、以上の構成を有しており、次にこのスラグ除去装置11を用いたスラグ除去プロセスについて説明する。図1に示したように、取鍋3を載置した取鍋用走行台車2が、浸漬管4の下方の所定位置に停止している間は、スラグ除去装置11は待機場所にて待機している。そして脱ガス処理が終了して、取鍋3を載置した取鍋用走行台車2が、取鍋3を連続鋳造設備へと移送するため、他の場所、たとえばクレーンの吊り位置(図示せず)へと移動すると、スラグ除去装置11の走行台車12が、浸漬管4下方の所定位置まで移動して停止する(図2に示した状態)。当該所定位置は、浸漬管4と走行台車12に搭載したカッター支持体14が対向する位置である。
【0030】
次いで取鍋昇降装置7を作動させて、上昇部8を上昇させて、走行台車12に設置されているカッター支持体14の底部14aと上昇部8の上端部8aとを接触させ、一旦上昇部8を停止させる。そしてクランプ装置23を作動させて、図5に示したように、支持ロッド26を内側に引き戻して、係止部材27の上段係止部27aを、カッター支持体14の挿入部28内に挿入し、下段係止部27bを上昇部8のアングル材29の水平部29aに係止させ、カッター支持体14と取鍋昇降装置7の上昇部8とを接続する。
【0031】
この状態で取鍋昇降装置7を再び作動させて、上昇部8を上昇させ、カッター支持体14を上昇させていくと、図6に示したように、カッター支持体14の上端部に設けられているカッター刃15が、浸漬管4の外周に付着したスラグSを削って、これを除去する。
【0032】
かかる場合、カッター支持体14の外周とガイド体21との間には、ローラ22が配置されているので、カッター支持体14の上昇動作は、極めて安定しており、またカッター刃15によって浸漬管4の外周に付着したスラグSを削る作業も安定して行なえる。例えば浸漬管4に付着したスラグSが障害となって、カッター刃15及びカッター支持体14が位置ズレしようとしても、これを防止して、安定したスラグの切削作業が行なえる。
【0033】
またカッター支持体14の昇降は、取鍋昇降装置7による強力な押し上げによるものであるから、浸漬管4外周に強固に付着したスラグであっても、これを確実に除去することが可能である。またかかる場合も、前記したガイド体21、ローラ22と相俟って、極めて安定して行なうことができる。しかも単一の押し上げ装置(取鍋昇降装置7)による上昇であるから、複数の押し上げ装置採用に伴う同調作業も不要である。
【0034】
なおスラグの除去作業中、カッター刃15によって除去されたスラグSは、例えばカッター刃15を伝ってそのまま受容部17に向けて落下し、受容部17はこれを受容することができる。したがって、除去したスラグの回収は容易であり、また周囲に飛散することはない。
【0035】
さらにまたスラグの除去作業中、浸漬管4から鋼(あるいは溶鋼)が落下することがあっても、カッター支持体14内の中央に配置されているバケット32によって、これを受容することができる。
【0036】
そしてスラグの除去作業中、カッター支持体14を下降させる場合には、取鍋昇降装置7の上昇部8を下降させるが、このとき仮にカッター刃15が、浸漬管4外周のスラグに食い込んでいわば楔となったとしても、カッター支持体14は、クランプ装置23によって、取鍋昇降装置7の上昇部8と強固に結合されているので、カッター支持体14が前記食い込みによって、カッター支持体14自体が、浸漬管4に吊り下げられる事態は発生しない。
【0037】
以上のようにして、スラグの除去作業が終了すると、取鍋昇降装置7の上昇部8を下降させ、所定位置で一旦停止させてクランプ装置23によるカッター支持体14と取鍋昇降装置7の上昇部8との結合を解除し、その後再び取鍋昇降装置7の上昇部8を下降させると、カッター支持体14は、走行台車12の所定位置に載置される。
【0038】
以上説明したように、実施の形態にかかるスラグ除去装置11によれば、取鍋昇降装置7の上昇部8の強力な押し上げ作用によって、カッター支持体14を上昇させ、浸漬管4の外周に付着したスラグを円滑にかつ確実に除去することが可能である。しかも走行台車12には、カッター支持体14を昇降させる昇降装置を搭載する必要がないので、走行台車12の構成を簡素化することができ、除去したスラグを受容する受容部17の配置や、落下する溶鋼を受容する機構、大きさについても、バケット32を採用することで足りるなど、従来よりもその自由度が大幅に向上している。
【0039】
なお本実施の形態においては、走行台車12に、浸漬管4の下端面に付着したスラグを除去するためのカット装置41が設けられているので、浸漬管4の下端面に付着したスラグを除去する場合には、カットバー42の高さを調節して、走行台車12をレール5上で走行させることで、カットバー42のカッター刃によって浸漬管4の下端面に付着したスラグを除去することができ、また除去したスラグはスラグ回収容器46によって回収することができる。
【0040】
ところで脱ガスによる精錬作業を行なっていない間、脱ガス槽内を保温するためにバーナーを用いることがあり、かかる場合、浸漬管から垂れ落ちてくる溶けた地金などに対して適切に処置する必要がある。たとえばこれをそのまま床面に垂れ流すと環境にも悪影響を与えてしまうからである。
【0041】
本発明によれば、このような脱ガス槽を保温する際においても容易に対処することができる。図7はかかる場合の例を示しており、本発明によれば、カッター支持体14の上端面に設けられているカッター刃15の上に、保温蓋51を載置すればよい。この保温蓋51は、平板状の本体52と、この本体の周辺部に設けられて、浸漬管4の下端部と密着する円環状の密着部53とを有している。
【0042】
図8に示したように、本体52は、鋼板製の底板52aと底板52aの周縁部に垂直に設けられた鋼板製の側壁52bと有しており、さらに底板52aの上面には、Vスタット52cが溶接などによって固定され、断熱キャスタブル52dが施工されている。この例で施工した断熱キャスタブル52dの主成分は、例えばAlが約55質量%、SiOが約35質量%である。
【0043】
密着部53は、下層部53aと上層部53bの2層構造を有している。下層部53aは、アルミナ・シリカを主成分とした人造非晶質繊維(セラミックファイバー)製のブランケットが積層された構造を有している。この例では、新日化サーマルセラミック株式会社製の「SCブランケット1260(商品名)」を使用した。これは高純度のアルミナとシリカを原料としてスピニング法で製造された繊維を積層し、ニードリングを行なってブランケット状にしたものである。また上層部53bには、セラミックファイバー製のバルクが使用されている。この例では、新日化サーマルセラミック株式会社製の「SCバルク1260(商品名)」を使用した。これは高純度のアルミナとシリカ原料を電気溶接し、スピニング法で繊維化された繊維が長くショット含有率が少ないセラミックファイバーである。いずれも極めて高い耐熱性を有している。
【0044】
以上の構成を有する保温蓋51をカッター刃15の上に載置した状態で、カッター支持体14を取鍋昇降装置7の上昇部8によって上昇させて、密着部53を浸漬管4の下端部に密着させることで、浸漬管4から落下してくる溶けた地金などは、そのまま断熱処理を施した底板52で受容することができる。しかも密着部53が浸漬管4の下端部に密着するので、脱ガス槽内の保温効果が高まり、バーナー操業をより効果的に行なうことができる。また密着部53はセラミックファイバーを主成分としているので、精錬によって浸漬管4の下端部に凹凸があっても、浸漬管4の下端部と確実に密着させることができ、浸漬管4の下端開口部を確実に閉塞することができる。
【0045】
バーナー操業が終了し、保温蓋51による浸漬管4の下端部の閉塞を解除するには、取鍋昇降装置7の上昇部8を下降させてカッター支持体14を下降させればよい。かかる場合、上層部53bにはセラミックファイバーを主成分とする材料を使用しているので、密着部53が浸漬管4の下端部にそのまま接着状態となって残置されることはないものである。
【0046】
なお前記実施の形態は、大型の浸漬管を対象とした装置として適用した例であったが、もちろんRHやDHなどにも適用することができ、例えばスラグの付着状況等によって、より強力な押し上げによる切削力が要求される場面で、本発明は極めて有効である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、浸漬管の下方に取鍋用の昇降装置が設置された脱ガス装置における、浸漬管の外周に付着したスラグを除去する作業に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施の形態にかかるスラグ除去装置が適用される脱ガス設備の概要を示す説明図である。
【図2】実施の形態にかかるスラグ除去装置の側面を一部断面にして模式的に示した説明図である。
【図3】実施の形態にかかるスラグ除去装置の平面図である。
【図4】実施の形態にかかるスラグ除去装置におけるカッター支持体の底部近傍の水平断面を模式的に示した説明図である。
【図5】実施の形態にかかるスラグ除去装置におけるクランプ装置の一部断面側面図である。
【図6】実施の形態にかかるスラグ除去装置によってスラグを除去しているときの側面を一部断面にして模式的に示した説明図である。
【図7】保温蓋を載置した際の実施の形態にかかるスラグ除去装置の上部の一部断面側面図である。
【図8】保温蓋の周辺部の側面断面図である。
【符号の説明】
【0049】
4 浸漬管
7 取鍋昇降装置
8 上昇部
11 スラグ除去装置
12 走行台車
13 開口部
14 カッター支持体
14a 底部
15 カッター刃
21 ガイド体
22 ローラ
23 クランプ装置
S スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空脱ガス装置の浸漬管に付着したスラグを除去する装置であって、
浸漬管の下方でかつ取鍋昇降装置の上昇部の上方の空間に移動可能な移動体と、
前記移動体に設置されたカッター支持体とを有し、
前記カッター支持体は、カッター支持体の上昇によって、浸漬管外周に付着したスラグを除去するカッター刃を備え、
前記移動体は、前記取鍋昇降装置の上昇部が通過可能な開口部を有し、
前記カッター支持体は、前記取鍋昇降装置の上昇部と接続自在であることを特徴とする、浸漬管のスラグ除去装置。
【請求項2】
前記移動体における、カッター支持体の外周にはガイド体が配置され、
前記ガイド体とカッター支持体との間にはローラが配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の浸漬管のスラグ除去装置。
【請求項3】
前記カッター支持体におけるカッター刃の近傍には、除去したスラグを受容する受容部が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の浸漬管のスラグ除去装置。
【請求項4】
前記カッター支持体における前記浸漬管と対向する位置には、前記浸漬管から落下する金属を受容するバケットを有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の浸漬管のスラグ除去装置。
【請求項5】
前記カッター刃の上部に載置可能な浸漬管用の保温蓋を有し、
前記保温蓋は、平板状の本体と、当該本体上に設けられてカッター支持体の上昇によって浸漬管の下端部と密着する密着部とを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の浸漬管のスラグ除去装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の浸漬管のスラグ除去装置を用いた浸漬管のスラグ除去方法であって、
移動体を浸漬管の下方でかつ取鍋昇降装置の上方の空間に移動させて、所定位置に停止させる工程と、
前記取鍋昇降装置の上昇部を上昇させて、前記カッター支持体と当該上昇部とを接続する工程と、
その後当該上昇部をさらに上昇させて、カッター刃によって、浸漬管に付着したスラグを除去する工程と、
を有することを特徴とする、浸漬管のスラグ除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−163436(P2008−163436A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356717(P2006−356717)
【出願日】平成18年12月29日(2006.12.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】