説明

消毒剤組成物、方法およびシステム

N−アセチルシステイン(NAC)およびビタミンCを含む消毒剤組成物が開示される。消毒剤組成物は、ビオフィルム生成の原因である微生物を阻止するだけでなく死滅させる活性も示した。それらはヒトおよび医療使用用に安全であり、既存または確立された感染の増殖を減少させる、および/またはそれらの感染を除去するための予防調製物として用いることができる。本開示のNACおよびビタミンC製剤はヒトへの投与に安全であり、生体適合性および非腐食性である。本開示の消毒剤溶液は、各種のカテーテルのためのロックおよびロックフラッシュ溶液としての用途、様々な医療、歯科および獣医療デバイス、機器および他の物体、表面などの消毒用の消毒剤もしくは消毒剤溶液としての使用を含め、多数の用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
感染は、ヘルスケアなどの衛生条件が重要である多くの分野において重要な問題である。問題がある感染は、細菌、真菌、アメーバ、原生動物および/またはウイルスの生物体から起こりうる。感染を予防すること、およびそれが確立された場合に感染を低減または除去することは難題である。感染環境には、物体の表面、流体および流体導管、ならびに/またはヒトまたは動物を含めることができる。
【0002】
表面を消毒するためにアルコール溶液およびイソプロピルアルコールワイプが通常用いられ、それらは抗細菌活性を有することがわかっている。最も有効な抗菌阻害効果は、70%イソプロパノール溶液で見られる。この濃度のアルコール溶液は非常に高価であり、速やかに蒸発し、そのことはそれらの有効性を実質的に低下させ、それらの費用を増大させる。さらに、イソプロパノール溶液はヒト皮膚を含めた表面用および様々な医療用途に用いることができるが、この濃度のアルコール溶液は、局所投与以外の医療目的のためにヒトに投与することができない。
【0003】
ヘルスケア分野では、様々な種類および原因の感染が普通に発生し、しばしばより長い入院につながり、より高い病院費用をもたらす。さらに悪いことに、毎年90,000人以上の患者死亡が、院内感染、すなわち病院または別のヘルスケア環境で得る感染に起因している。院内感染の監視は、病院慣行の不可欠な部分になっている。Centers for Disease Control and Prevention(CDC)によって20年よりも前に行われた研究が、院内感染の発生を減少させることにおけるこれらの監視活動の有効性を記録した。しかし、院内感染の問題に払われた注意にもかかわらず、感染率は激減せず、院内感染はかなりの危険およびかなりの健康懸念のままである。
【0004】
医学および獣医学の分野で問題がある1つの感染源は、カテーテルに、特に留置カテーテルに見出される。カテーテルは救命救急診療患者の管理で必須になっているが、カテーテルの内部はしばしば主要な感染源である。カテーテルは流体、血液製品、薬剤、栄養素の送達、血液透析、血液濾過、腹膜透析、血液試料の回収、患者状態の監視などのために用いられる。経皮カテーテルは、カテーテルの皮膚貫通を通してしばしば感染する。すべての院内血流感染の70パーセント(70%)が、中心静脈カテーテルを有する患者で発生することがわかっている。非特許文献1。
【0005】
詳細には、一部の手順の間、比較的長い期間、例えば30日にわたって、カテーテルは患者の中に植え込まれ、また植え込まれたままでなければならない。静脈内(IV)療法カテーテルおよび尿カテーテルは、一般的にかなりの期間植え込まれたままである。挿入領域への外傷および患者への疼痛の結果、そのようなカテーテルを頻繁に取り出して植え込むことはできない。カテーテル媒介性の細菌は、尿路感染の主要な源であると示唆されている。妊娠中に末梢穿刺中心カテーテルを投与される患者も、感染性合併症のかなりの危険があることが見出された。非特許文献2。さらに、中心静脈カテーテル感染はカテーテル関連の敗血症を起こすので、家庭での非経口栄養の間に最も頻繁に起こる合併症として挙げられている。非特許文献3。感染の危険のため、カテーテル法は、その処置が不可欠な場合に限定されるかもしれない。このことは、患者の健康を深刻に損なう。
【0006】
カテーテルを用いた導入医療処置を行った後ほとんどの場合、カテーテルを生理食塩水で洗い流し、次に、生理食塩水またはヘパリン溶液などの液体で満たし、カテーテル内での血液の凝固を防止し、カテーテル内に患者の血液が逆流するのを阻止し、気体がカテーテルに入るのを防止する。カテーテルを洗い流すために用いられる液体は「ロックフラッシュ」と呼ばれ、洗い流しの後または不使用期間中にカテーテルを満たすために用いられる液体は、「ロック」溶液と呼ばれる。
【0007】
伝統的に、カテーテルは通常の生理食塩水またはヘパリン溶液でロックされている。ヘパリンおよび生理食塩水は、組合せで用いられることがある。通常の生理食塩水は短期末梢静脈内カテーテルをロックするために一般に用いられるが、生理食塩水は抗凝血活性も抗菌活性も有しない。ヘパリン溶液は、血管カテーテルをロックするために一般に用いられる。ヘパリンは抗凝血活性を有するが、それは抗菌物質として機能をせず、感染を予防も改善もしない。ロック溶液中のヘパリンが、ヘパリン注入を投与される患者のサブセットで起こる重大な出血合併症であるヘパリン誘発血小板減少に寄与する可能性が強く示唆されてもいる。
【0008】
タウロリジン、クエン酸およびクエン酸ナトリウムを含むカテーテルロッキング溶液が、提案されている。最近の刊行物(Kidney International、2002年9月)は、皮下カテーテルポートのためのロック溶液として、70%アルコール溶液の使用を記載する。ロック溶液としてのアルコールの使用は、それが抗凝血物質でないので、また、この溶液が血流に入ることに関連する危険があると思われるので疑問がもたれる。70%アルコール溶液が何らかのビオフィルム根絶活性を有することを示す、発明者が承知している証拠もない。
【0009】
Center for Infectious Disease(CID)発の最新の傾向および推奨は、既存のカテーテル感染を、特異的または広範囲抗生物質で全身的に治療することである。感染を予防するための、ロック溶液中での抗生物質の使用は推奨されない。既存のカテーテル感染を治療するための抗生物質の使用には、(1)抗生物質耐性株が発生する危険;(2)有毒濃度での抗生物質の使用を必要とするであろう固着微生物または深層ビオフィルム細菌を抗生物質が死殺できないこと;および(3)長期抗生物質療法の高い費用を含めた特定の危険がある。消毒剤または抗生物質でコーティングされたカテーテルは利用可能である。これらのコーティングされたカテーテルは、比較的短い期間の限られた保護を提供できるだけである。
【0010】
一般に、浮動性の生物体は、抗生物質に対して脆弱である可能性がある。しかし、細菌および真菌類は表面に付着し、細胞外重合物質(EPS)、多糖被覆またはグリコカリックスとしばしば呼ばれる粘性防御物質を生成することによって、抗生物質に抵抗性になることがある。微生物が増殖するに従い、50個を超える遺伝子上方もしくは下方制御が起こり、より抗生物質耐性である微生物ビオフィルムの形成をもたらすことがある。1つの記事は、医師が遭遇する細菌感染の2/3をビオフィルムに帰している。非特許文献4。
【0011】
ビオフィルム形成は、浮遊(浮動)条件下での増殖と比較して(最高100〜1000倍の)抗生物質耐性の増加をしばしば含む、生物体の細胞生理の多数の変化を生成する、細菌生活環内の遺伝的に制御された過程である。生物体が増殖するに従い、過密状態および栄養の減少の問題は、新しい場所および資源を求めるための生物体の脱皮を誘発する。新しく脱皮した生物体は、それらの元の浮動相に速やかに戻り、再び抗生物質に脆弱である。しかし、浮動性の生物体は患者の血流に入り、血流感染を引き起こすことができ、それらは、発熱などの臨床徴候、およびより重大な感染関連症状を起こす。ビオフィルムの固着ラフトは脱落し、心臓弁などの組織表面に付着することがあり、ビオフィルムの増殖および心内膜炎などの重大な問題を引き起こす。
【0012】
産業の場面では、ビオフィルムの形成は極めて普通に起こることであり、生物付着と一般に呼ばれる。例えば、濾過デバイスなどの機械構造物上のビオフィルムの増殖は、飲料水配水系の生物汚染の主要因である。産業場面でのビオフィルム形成は、処理システムにおける材料劣化、製品汚染、機械封鎖および熱伝導のインピーダンスをもたらしうる。ビオフィルム形成およびその結果としての汚染は、食品調製施設および加工施設でも一般的な問題である。
【0013】
さらに問題を複雑にすることに、従来の感受性検査は、ビオフィルム状態の生物体ではなく浮動生物体の抗生物質感受性だけを測定する。その結果、抗生物質の投与量は、カテーテルに存在しているであろうビオフィルム相生物体に所望の効果を有するのが稀である量で、カテーテルなどを通して患者に投与される。ビオフィルム生物体は、より浮遊性の生物体を脱皮させ続けることができ、または休眠し、その後明らかな再発感染として増殖することができる。
【0014】
抗生物質の使用によってビオフィルム生物体を根絶するために、検査室は、生物体の特異遺伝子ビオフィルム相を死滅させるために必要とされる抗生物質の濃度を決定しなければならない。最小ビオフィルム根絶濃度を提供するために、高度に特殊化された機器を必要とする。さらに、現在の診断プロトコルは時間がかかり、結果は多くの日数、例えば5日を経なければ得られない。この期間は、明らかに感染の機敏な治療を可能にしない。この遅れおよび感染の極めて当然な恐れは、広域抗生物質の濫用ならびに連続した不必要なカテーテル除去および交換処置をもたらす可能性がある。広域抗生物質の濫用は、効果的に治療することができない抗生物質耐性菌株の発生をもたらす可能性がある。不必要なカテーテル除去および交換は痛みを伴い、高コストであり、外傷およびカテーテル挿入部位の組織への損傷をもたらすこともある。
【0015】
ビオフィルムの抗生物質耐性は、抗生物質耐性株が発生する危険などの抗生物質の使用に伴う合併症と合わさって、抗生物質療法を非魅力的な選択肢にした。その結果、抗生物質の使用は症状のある感染に限られ、汚染を予防するために予防用抗生物質を適用することは一般的にない。ビオフィルムはほとんどの抗生物質に対する選択的表現型耐性バリアとして作用することができるので、カテーテル関連の感染を根絶するために、しばしばカテーテルを取り外さなければならない。カテーテルの除去および交換は時間がかかり、患者にストレスを及ぼし、医療処置を複雑にする。したがって、体からカテーテルを取り外す必要のない、生物体、特にカテーテル内に生息するものを死滅させるための便利で有効な方法を提供する試みがある。
【0016】
細菌および真菌の感染に加えて、アメーバ感染は非常に重大となり、痛みを伴うだけでなく、潜在的に生命に脅威となることもある。例えばアカントアメーバのいくつかの種は、ヒトに感染することがわかっている。アカントアメーバは、世界中の土壌および埃ならびに淡水源だけでなく、汽水および海水にも見出される。それらは、暖房装置、換気装置および空気調節装置ユニット、加湿機、透析ユニットおよびコンタクトレンズ用具でしばしば見出される。アカントアメーバ感染は、微生物および真菌の感染に加えて、歯ブラシ、義歯および他の歯科用器具を含む他の医療および歯科用具などに関連して普通に見られる。しばしば、アカントアメーバ感染は、ヒトの体と接触するコンタクトレンズおよび他の医療用具の不適切な保存、取扱いおよび消毒の結果生じ、そこでは、それらは切傷、創傷、鼻孔、目などから皮膚に入りうる。
【0017】
感染が問題となる他の領域には、コンタクトレンズ、強膜バックル、縫合材料、眼内レンズなどの、目に関連して用いられる医療デバイスおよび材料が含まれる。詳細には、眼の補綴、例えばコンタクトレンズの消毒方法の発見が重要視されている。細菌性ビオフィルムは、眼感染、および目に接触するか目に移植される非生物表面における細菌残留に関与しうる。ビオフィルムは、目の生体表面に形成することもできる。非特許文献5。角膜炎の重度の形態が、レンズ消毒液を汚染することができる原生動物アメーバによって開始されることもある。
【0018】
歯科分野では、歯科用道具など、口内に入れられるアイテム、ならびに保持具、ブリッジ、義歯など、歯科および歯科矯正デバイスなどは、特に保存中および口内に入れる前に無菌条件に維持する必要がある。さもなければ、感染が血流に媒介され、重大事になる可能性がある。
【0019】
水供給源も、微生物および他の型の感染を受けやすい。貯水デバイス、ならびに給水および排水導管は、しばしば感染する。医科および歯科の診察室での含液チューブの内部表面は、微生物の感染および増殖に適した環境を提供し、実際、微生物の粘着および非常に防御的なビオフィルム層の形成が、貯液および給液デバイスでしばしば問題となる。
【0020】
様々な環境における感染を予防および破壊するための、改善された方法および物質の必要性がある。そのような消毒剤溶液は、広範囲の抗菌特性を有するべきである。詳細には、ビオフィルムを構成する生物体を根絶するために、溶液はビオフィルムを透過できるものであるべきである。これらの方法および溶液は、予防措置としてだけでなく、既存の感染の治療において用いるのに十分安全であるべきである。
【0021】
N−アセチルシステイン(NAC)は様々な細菌のビオフィルム形成を減少させることができ、成熟ビオフィルムの破壊を促進しながら細胞外多糖マトリックスの生成を減少させる。NACは吸入、経口および静脈内の経路を通して医療で広く使われ、優れた安全性プロファイルを有する。NACは、粘液中のジスルフィド結合を破壊することができるチオール含有抗酸化剤であり、アミノ酸(システイン)の利用を競合的に阻害することができる。NACは、商品名ACC(Hexal AG)、Mucomyst(Bristol−Myers Squibb)、Acetadote(Cumberland Pharmaceuticals)、FluimucilおよびParvolex(GSK)の下で入手可能である。
【0022】
ビタミンC、すなわちL−アスコルビン酸は、ニトリドからの一酸化窒素(NO)の形成を増加させることが示されている。NOの生成の増加は、酸性化された硝酸塩の抗菌活性を増強すると予想される。さらに、特定のヒドロキシ酸、例えばクエン酸および乳酸は、防腐剤としてしばしば食品に加えられ、抗菌活性を有することが公知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Daouicherら340巻、1〜8頁、NEW ENGLAND JOURNAL OF MEDICINE(1999年)
【非特許文献2】「Complications Associated With Peripherally Inserted Central Catheter Use During Pregnancy」AM. J. OBSTET. GYCOL.188巻(5号):1223〜5頁、2003年5月
【非特許文献3】CLINICAL NUTRITION、21巻(1号):33〜38頁、2002年
【非特許文献4】SCIENCE NEWS、1〜5巻、2001年7月14日
【非特許文献5】「The Role of Bacterial Biofilms in Ocular Infections」、DNA CELL BIOL.、21巻(5〜6号):415〜20頁、2002年5月〜6月
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
以下の論述において、用語「微生物」または「微生物の」は、ヒトに感染することができる、真菌および細菌生物体を含み、かつウイルス生物体も含む可能性がある、顕微鏡的生物体または物体に言及するために用いられる。したがって本明細書で、用語「抗菌性」は、真菌および/または細菌生物体、ならびに潜在的にウイルス生物体も死滅させるか、他の様式でそれらの増殖を阻害する物質または剤に言及するために用いられる。
【0025】
用語「消毒剤」は、限定された系からの感染性微生物の低減、抑制または除去に言及するために用いられる。本明細書で用語「消毒剤」は、単独で、または担体、溶媒などの他の材料と組み合わせて用いられる、1または複数の抗菌性物質に言及するために用いられる。
【0026】
用語「殺菌活性」は、それらの増殖を単に低減または阻害する代わりに、細菌の全集団を少なくとも実質的に死滅させる活性に言及するために用いられる。用語「殺真菌活性」は、それらの増殖を単に低減または阻害する代わりに、酵母の全集団を少なくとも本質的に死滅させる活性に言及するために用いられる。導管、例えばカテーテルの汚染は、重大および相当な健康リスクをもたらし、殺菌消毒はかなりの優先事項である。
【0027】
本明細書で用語「感染系」は、1または複数の感染性微生物が存在するか、おそらく存在する、限定されたまたは孤立した系または環境に言及するために用いられる。感染系の例には、バスルーム設備もしくは手術室などの物理的空間、食品もしくは手術道具などの物理的物体、ヒトの体などの生物系、または少なくとも一部がヒト体内に配置されているカテーテルなどの物理的物体および生物系の組合せが含まれる。産業およびヘルスケア場面における、流体の送達のためのチューブおよび他の導管も、感染系を定義することができる。
【0028】
水または生理食塩水などの溶媒中のNACおよびビタミンCから実質的になる溶液は、物質的な抗菌活性および/または抗真菌活性を有する他の活性物質を実質的に含有しない。
【0029】
本開示は、処方された濃度および/またはpHのNACおよびビタミンCを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる消毒剤溶液を含む。予想外にも、本発明者らは、特定のNACおよびビタミンC製剤が、強化された消毒剤活性を提供することを発見した。本開示のNACおよびビタミンC製剤は、病原性ビオフィルム生物体を死滅させることにおいて非常に有効でもあり、既存のビオフィルムを減少させ、既存のビオフィルムを除去するだけでなく、ビオフィルム形成を予防すると予想される。NACおよびビタミンC製剤は、広域抗菌剤、ならびに多くの株の病原性酵母に対する殺真菌剤として機能する。NACおよびビタミンC製剤は、抗原生動物活性を示し、抗アメーバ活性も示すと予想される。
【0030】
本開示のNACおよびビタミンC製剤はヒトへの投与に安全であり、生体適合性および非腐食性である。本開示の消毒剤溶液は、各種のカテーテルのためのロックおよびロックフラッシュ溶液としての用途、様々な医療、歯科および獣医療デバイス、機器および他の物体、表面などの消毒用の消毒剤もしくは消毒剤溶液としての使用を含め、多数の用途を有する。それらは、産業場面、ならびに食品の調製および取扱いの場面で消毒用途をさらに有する。
【0031】
本開示のNACおよびビタミンC製剤は、改善された抗凝血特性を有し、したがって特にカテーテルロック−フラッシュ溶液および他の関連用途として有益である。
【0032】
本開示のNACおよびビタミンC製剤の効力は、これらの用途に従来用いられる多くの消毒剤組成物より優れている。特許請求の組成物は、多くの抗生物質および殺生物剤が有効でないビオフィルム生物体に対して特に有効である。開示されるNACおよびビタミンC製剤は抗生物質耐性に寄与せず、そのことはさらに別の重要な利点を提供する。
【0033】
一実施形態では、本開示の消毒剤組成物は、以下の特性のいくつかを有する:抗凝血特性;浮遊形の広範囲の細菌に対する阻害および/または殺菌活性;ある範囲の真菌病原体に対する阻害および/または殺真菌活性;固着形の広範囲の細菌に対する阻害および/または殺菌活性;原生動物感染に対する阻害活性;アカントアメーバ感染に対する阻害活性;少なくとも適度の量では、患者と接触して安全で、生体適合性である;少なくとも適度の量では、患者の血流中で安全で、生体適合性である;工業的な物体および表面に安全で、適合性である。
【0034】
感染しているか感染が疑われる物体または表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む、微生物集団および/または真菌病原体の成長および増殖を阻害する方法が提供される。感染しているか感染が疑われる物体または表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む、原生動物集団の成長および増殖を阻害する方法も提供される。
【0035】
物体または表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む、アメーバ集団の成長および増殖を阻害する方法、ならびにアメーバ感染、特にアカントアメーバ感染を予防する方法が提供される。微生物集団を実質的に根絶する方法も提供され、それらの方法は、感染しているか感染が疑われる物体または表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む。アカントアメーバ集団を実質的に根絶する方法が提供され、それらの方法は、感染しているか感染が疑われる物体または表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む。様々な方法で用いられる消毒剤組成物によって、様々な集団の形成および増殖を阻害し、および/または様々な集団を実質的に根絶するために、様々な組成物および接触時間が必要とされうる。様々な組成物に適する接触時間は、実施例で提供し、通常の実験で決定することができる。
【0036】
重要なことに、ほとんどの実施形態では、本開示の消毒剤組成物および方法は、従来の抗生物質を使用せず、したがって抗生物質耐性生物体の発生に寄与しない。
【0037】
一実施形態では、酸性pHのNACおよびビタミンCからなるか、本質的にそれらからなるか、またはそれらを含む消毒剤組成物が、本開示の消毒剤組成物として提供される。そのような消毒剤組成物は、流体、血液製品、薬剤、栄養の送達、流体または血液の取出し、透析、患者状態のモニタリングなどのために用いられる血管カテーテルを含む、様々な型の留置アクセスカテーテルのためのロック溶液およびロックフラッシュ溶液としての用途がある。本開示の消毒剤溶液は、尿カテーテル、経鼻チューブ、咽喉チューブなどのためのロック溶液およびロックフラッシュ溶液として用いることもできる。下記の一般的な溶液パラメータが、これらの目的のために適する。一実施形態では、酸性pHのNACおよびビタミンCからなるか、本質的にそれらからなるか、またはそれらを含む消毒剤組成物が、留置血管内アクセス装置の開存性を維持するために提供される。消毒カテーテルおよび経鼻チューブ、咽喉チューブなどの他の医療チューブのための方法も提供され、それらの方法は、カテーテルまたは他の医療チューブを本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む。
【0038】
別の実施形態では、酸性pHのNACおよびビタミンCからなる、本質的になる、またはそれらを含む本開示の消毒剤組成物は、義歯および他の歯科および/または歯科矯正および/または歯周デバイスなどの医療デバイス、コンタクトレンズおよび他の光学デバイス、医療および獣医療機器およびデバイスなどのための消毒剤溶液として、ならびに表面および物体の消毒のための消毒剤溶液として提供される。そのようなデバイスを消毒する方法であって、デバイスを本開示の消毒剤組成物と接触させることを含む方法も提供される。一般に、本開示の消毒剤組成物は、歯ブラシを含めた歯科、歯科矯正および歯周デバイスのための浸漬溶液として用いることも、コンタクトレンズおよび他の光学デバイス、ならびに医療および獣医機器およびデバイスなどのための浸漬溶液としても用いることもできる。これらの用途のために、本開示の消毒剤組成物は、一般に溶液として製剤化される。本開示の消毒剤組成物は、適する溶媒の導入後に溶液を形成する乾燥形態で提供できると予想される。
【0039】
さらに別の実施形態では、本開示の消毒剤組成物は、消毒用の剤、ワイプ、抗細菌性治療などとしての局所使用のために設計された、溶液、ゲル、クリームおよび他の製剤で用いるために製剤化されてもよい。本開示の消毒剤組成物は、包帯、ドレッシング、創傷治癒剤およびデバイスなどに関連した抗細菌剤として用いることもできる。
【0040】
さらに別の実施形態では、本開示の消毒剤組成物は、産業場面で、例えば水貯留および配水系、浄水、加湿および除湿デバイスで、ならびに食品の調製、取扱いおよび包装場面で、浮遊型および固着型の微生物集団、ならびに多くの真菌、アメーバおよび浮遊性集団を抑制、低減または実質的に除去するために用いられることが予想される。産業設備および表面を、本開示の消毒剤組成物と接触させること、それで洗うこと、またはそれに浸漬することができる。とりわけ、頻繁にアクセスするのが困難である場所に経時的処置を行うために、時間放出消毒剤組成物製剤を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、P.aeruginosaによるNAC MIC試験の実験結果を示す図である。データは、NACのMIC値が<0.25重量%であることを示唆する。
【図2】図2は、S.aureusによるNAC MIC試験の実験結果を示す図である。データは、NACのMIC値が<0.25重量%であることを示唆する。
【図3】図3は、C.albicansによるNAC MIC試験の実験結果を示す図である。データは、NACのMIC値が<1.0重量%であることを示唆する。
【図4】図4は、P.aeruginosaによるビタミンC MIC試験の実験結果を示す図である。データは、ビタミンCのMIC値が<0.25重量%であることを示唆する。
【図5】図5は、S.aureusによるビタミンC MIC試験の実験結果を示す図である。データは、ビタミンCのMIC値が<0.25重量%であることを示唆する。
【図6】図6は、C.albicansによるビタミンCのMIC試験の実験結果を示す。データは、8重量%のVCを出発濃度として用いた場合、VCのMIC値を決定できなかったことを示唆する。
【図7】図7は、P.aeruginosaによる交差力価測定法の実験結果を示す図である。データは、NAC−ビタミンC組合せについてFIC指数=0.7であることを示唆する。
【図8】図8は、レートキル(Rate Kill)アッセイの実験結果を示す図である。データは、NAC+ビタミンC組合せによる、P.aeruginosaに対する相乗作用を明らかに示唆する。
【図9】図9は、S.aureusによる交差力価測定法の実験結果を示す図である。データはNAC−ビタミンC組合せについてFIC指数=0.8であることを示唆する。
【図10】図10レートキルアッセイの実験結果を示す図である。データはその組合せがS.aureusに対して非常に有効であり、NACが優位な成分であることを示唆する。
【図11】図11は、C.albicansに対するNAC+ビタミンCの組合せの、レートキル実験結果を示す。
【図12】図12は、pH4におけるS.aureusによるNACのMIC試験の実験結果を示す図である。データは、pH4におけるNACのMIC値が2.0重量%であることを示唆する。
【図13】図13は、pH4におけるS.aureusによるNACのMBC試験の実験結果を示す図である。データは、pH4におけるMBC値が2.0重量%であることを示唆する。
【図14】図14は、pH6におけるS.aureusによるNACのMIC試験の実験結果を示す図である。データは、pH6におけるNACのMIC値が2.0重量%の出発点で決定することができなかったことを示唆する。
【図15】図15は、pH4におけるS.aureusによるビタミンCのMIC試験の実験結果を示す図である。データは、pH4におけるビタミンCのMIC値が0.5重量%であることを示唆する。
【図16】図16は、pH4におけるS.aureusによるビタミンCのMBC試験の実験結果を示す図である。データは、pH4におけるビタミンCのMBC値が1.0重量%であることを示唆する。
【図17】図17は、pH6におけるS.aureusによるビタミンCのMIC試験の実験結果を示す図である。データは、pH6におけるビタミンCのMIC値が2.0重量%の出発点で決定することができなかったことを示唆する。
【図18】図18は、pH4におけるS.aureusによる交差力価測定法の実験結果を示す図である。データは、pH4におけるNAC−ビタミンC組合せについてFIC指数=0.6であることを示唆する。
【図19】図19は、プロトロンビン時間(PT)アッセイの実験結果(生データ)を示す図である。
【図20】図20は、プロトロンビン時間(PT)アッセイの実験結果(処理データ)を示す図である。
【図21】図21は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、NACの国際標準比(INR)のグラフである。
【図22】図22は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、ビタミンCの国際標準比(INR)のグラフである。
【図23】図23は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、NACおよびビタミンCの組合せ製剤の国際標準比(INR)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本開示の消毒剤組成物は、酸性pHのNACおよびビタミンCの濃度を含みうる。NACおよびビタミンCは、溶媒としての水との組成物で用いることができる。
【0043】
NACは、L−α−アセトアミド−β−メルカプトプロピオン酸、アセテイン、アセチルシステイン、N−アセチルシステイン、N−アセチル−N−システイン、ナセチル−3−メルカプトアラニン、エアブロン、ブロンコリジン、フルイムセチン、フルイムシル、フルミシル、インスピール、メルカプツール酸、ムコリチカム、ムコリチカムラッペ、ムコリチカムラッペ、ムコミスト、ムコソルビン、NAC、NAC−TB、NSC 111180、パルボレックス、レスペールとしても公知である。NACの一部の物理特性は、以下の通りである:
外観:白から淡黄色気味の白の粉末
融点:109〜110℃
分子式:C5H9NO3S
式量:163.2(無水)
pKa:30℃で9.5
旋光度:+5°(水中でc=3%)
純度:99%以上(TLC)
N−アセチル−L−システイン(NAC)は、8mLの水に1g溶解し、2mLのエタノールに1g溶解する。それは、クロロホルムおよびエーテルにほとんど溶けない。システインの水溶液は、したがってN−アセチル−L−システインに適用可能のようであり、中性またはアルカリ性pHで空気との接触によりシスチンに酸化される。酸化は、微量の重金属、特に銅および鉄によって促進される;酸では比較的安定である。
【0044】
ビタミンCの一部の特性は、以下の通りである:
分子式:C6H8O6
分子量:176.1
CAS番号:50−81−7
pKa:4.17および11.57
融点:190〜192℃
吸光係数:EmM=7.0(265nm、水)、7.5(245nm、酸)
旋光度:+20.5°〜+21.5°(100mg/ml H2O、25℃)
この生成物は水溶性(50mg/ml)であり、透明な溶液を与える。水溶液は、無酸素状態のときだけ安定である。水溶液はpH5〜6で最も安定で、アルカリ性pHで非常に不安定である。分解は、遷移金属イオン、特にCu2+およびFe3+の存在下で著しく増加する。デヒドロアスコルビン酸へのL−アスコルビン酸の酸化の最初の段階は可逆的であり、生物活性は保持される。2,3−ジケトグロン酸へのさらなる酸化は可逆的ではなく、活性は失われる。
【0045】
NAC自体は、多少の抗凝血効果を有することが示されている。例えば、Niemi, T.T.ら、The effect of N−acetylcysteine on blood coagulation and platelet function in patients undergoing open repair of abdominal aortic aneurysm、Blood Coagul Fibrinolysis、2006年、17巻(1号):29〜34頁およびPol, S.およびP. Lebray、N−acetylcysteine for paracetamol poisoning: effect on prothrombin。The Lancet、2002年、360巻(9340号):1115頁を参照。ヘパリンと比較して、ビタミンCは有効な抗凝血物質として特定されていない。例えば、Rabe, C.ら、Keeping central venous lines open: a prospective comparison of heparin, vitamin C and sodium chloride sealing solutions in medical patients、Intensive Care Med、2002年、28巻(8号):1172〜6頁を参照。NACおよびビタミンCの組合せは、抗凝血効果を有する。さらに、NACまたはビタミンC単独と比較してNACおよびビタミンCの組合せは抗凝血効果の予想外の改善をもたらすので、NACおよびビタミンCの組合せは予想外の相乗作用を示す(図23を参照)。
【0046】
開示の組成物の実施形態は、溶液容量あたりの重量(w/v)で少なくとも0.01%のNAC、および最高12%(w/v)のNACを含みうる。少なくとも0.1%(w/v)のNACおよび2.5%(w/v)未満のNACを含む実施形態が多くの適用に好ましく、少なくとも0.1%(w/v)のNACおよび1.0%(w/v)未満のNACを含む組成物も特定の適用に好ましく、約0.25%(w/v)のNACを含む組成物が特に好ましい。
【0047】
開示される組成物の実施形態は、溶液容量あたりの重量(w/v)で少なくとも0.01%のビタミンC、および最高12%(w/v)のビタミンCを含みうる。
少なくとも0.1%(w/v)のビタミンCおよび2.5%(w/v)未満のビタミンCを含む実施形態が多くの適用に好ましく、少なくとも0.1%(w/v)のビタミンCおよび1.0%(w/v)未満のビタミンCを含む組成物も特定の適用に好ましく、約0.25%(w/v)のビタミンCを含む組成物が特に好ましい。
【0048】
開示される組成物の実施形態は、0〜25%(v/v)のエタノールおよび水を含みうる。開示される組成物の他の実施形態は、0〜20%(v/v)のエタノールおよび水、0〜15%(v/v)のエタノールおよび水、または0〜10%(v/v)のエタノールおよび水を含みうる。
【0049】
様々な適用のための所望のNACおよびビタミンCの濃度は、治療されている感染のタイプおよび、ある程度は、消毒剤組成物のために用いる溶媒に依存しうる。例えば、エタノールを含む水性溶媒を用いる場合、所望の活性レベルを提供するために必要とされるNACおよびビタミンCの濃度は、溶媒として水を有する組成物で用いられるNACおよびビタミンCの濃度と比較して低くてもよい。阻害、殺菌、殺真菌、ビオフィルム根絶および他の目的のための本開示の消毒剤組成物中のNACおよびビタミンCの「有効」濃度は、通常の実験によって決定することができる。
【0050】
特定の実施形態では、本開示の消毒剤組成物は、酸性pH、好ましくは<もしくは≦6.0のpH、または<もしくは≦5.0のpH、または<もしくは≦4.5のpH、または<もしくは≦4.0のpHの溶液中のNACおよびビタミンCを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる。
【0051】
NACおよびビタミンCを含むか、本質的にそれからなるか、またはそれからなる消毒剤組成物は、異なる「有効」pH範囲を有する。阻害、殺菌、殺真菌、ビオフィルム根絶および他の目的のための本開示の消毒剤組成物中の所望のNACおよびビタミンCの「有効」pH範囲は、通常の実験によって決定することができる。
【0052】
一部の実施形態では、上に述べたように、本開示の消毒剤組成物はNACおよびビタミンCからなり、消毒剤溶液は溶媒、一般に水または生理食塩水などの水性溶媒に溶解させたNACおよびビタミンCからなる。他の実施形態では、上に述べたように、本開示の消毒剤組成物は、一般に水または生理食塩水などの水性溶媒中の、NACおよびビタミンCから本質的になる。
【0053】
一部の実施形態では、本開示の消毒剤組成物は、特定されたpH範囲の特定された濃度を有するNACおよびビタミンCを含み、上記のNACおよびビタミンCに加えて、活性成分を含む物質を含みうる。他の抗菌性または殺生物性の成分を、NACおよびビタミンCを含む本開示の消毒剤組成物に組み込むことができるが、従来の抗生物質および殺生物剤の使用は、抗生物質および殺生物剤耐性生物の発生という潜在的な、悲惨な帰結の結果、一般に推奨されない。一部の実施形態では、特定されたpH範囲の、特定された(1つまたは複数の)濃度を有するNACおよびビタミンCを含む本開示の消毒剤組成物は、実質的な抗菌および/または抗真菌活性を有する他の活性物質を実質的に含有しない。
【0054】
好ましくは、それらがNACおよびビタミンCの活性および/または安定性に有害な影響を及ぼさないという条件で、NACおよびビタミンCを含む本開示の消毒剤組成物に他の活性および不活性成分を組み込むこともできる。タンパク分解剤を、一部の適用のために消毒剤組成物に組み込むことができる。局所投与のために製剤化される消毒剤組成物は、例えば様々なクリーム、緩和剤、スキンケア組成物、例えばアロエベラなどを有する。液剤で提供される本開示の消毒剤組成物は、好ましくは、それらは、NACおよびビタミンCの活性および/または安定性を妨害しないという条件で、他の活性成分および不活性成分を含みうる。
【0055】
本開示の組成物は、溶液または乾燥形態で用いることができる。溶液では、NACおよびビタミンCは、水もしくは生理食塩水などの水溶液、またはNACおよびビタミンCが溶解性である別の生体適合性の溶液を含みうる溶媒に好ましくは溶解される。アルコール溶液を含め、他の溶媒を用いることもできる。一実施形態では、本開示のNACおよびビタミンCの組成物は、水およびエタノールの混合液で製剤化されてもよい。そのような溶液は非常に有効であり、それらは、濃縮されたNACおよびビタミンCの保存溶液を水で作製し、次にエタノールの所望の濃度を導入することによって調製することができる。約0.5%を超えるものから約10%(v/v)未満のエタノール濃度が、有効な消毒剤組成物を提供する。一部の実施形態では、NACおよびビタミンCは可溶化することができ、保存および使用の間、溶液状態に保たれるという条件で、生体適合性の非水性溶媒を使用することもできる。
【0056】
本開示のNACおよびビタミンC溶液は、好ましくは滅菌および非発熱性の形で提供され、任意の便利な様式で梱包することができる。一部の実施形態では、本開示の消毒用のNACおよびビタミンC組成物は、充填済み注射器などの医療器具または別の医療器具に関連付けて、またはその一部として提供することができる。組成物は、滅菌された無菌条件下で調製することができ、または、それらは調製および/または梱包後に、様々な適する滅菌技術のいずれかを用いて滅菌することができる。NACおよびビタミンC溶液の単回用バイアル、注射器または容器を提供してもよい。多回使用バイアル、注射器または容器を提供することもできる。本開示のシステムには、本開示のNACおよびビタミンC溶液を含有するそのようなバイアル、注射器または容器が含まれる。
【0057】
本開示の組成物は、実質的に「乾燥した」形態、例えばチューブ、または導管、または医療または産業器具、例えばカテーテルもしくは導管、または容器などの表面の実質的に乾燥したコーティングで提供することもできる。本開示の消毒剤組成物の乾燥形態は、吸水性で潤滑性を提供するPVPなどの親水性ポリマー、溶解性を高める界面活性剤、および/または熱だけでなくpH安定性を提供するバルキングおよび緩衝剤を含みうる。本開示のNACおよびビタミンC組成物のそのような実質的に乾燥した形態は、溶媒の添加によって再構成されて溶液を形成することができる粉末または凍結乾燥形態で提供することができる。代わりに、NACおよびビタミンC組成物の実質的に乾燥した形態は、コーティングとして提供することができるか、またはゲルまたは別のタイプの担体に組み込むことができるか、またはカプセル封入することができるか、さもなければ梱包してコーティングとして表面に、または容器で提供することができる。本開示のNACおよびビタミンC組成物のそのような実質的に乾燥した形態は、溶液の存在下で、実質的に乾燥した組成物が上記の組成および特性を有するNACおよびビタミンC溶液を形成するように製剤化される。特定の実施形態では、溶液への長時間曝露後にNACおよびビタミンCの有効時間放出が達成されるように、異なるカプセル化または保存技術を使用することができる。この実施形態では、実質的に乾燥したNACおよびビタミンC溶液は、長期間にわたって、および/または溶液への複数回の曝露後に、消毒剤活性を提供することができる。
【0058】
NACを含む組成物は、医療使用およびヒトへの投与に関連して詳細に確立された安全性プロフィールを有する。例えば、1200mg/日の用量は、ヒトへの投与にとって安全であることが示されている。例えば、High Dose N−Acetylcysteine in Patients With Exacerbations of Chronic Obstructive Pulmonary Disease、R. Zuin、A. Palamidese、R. Negrin、L. Catozzo、A. Scarda、M. Balbinot、Clin Drug Invest。2005年;25巻(6号):401〜408頁を参照。この用量は良好な耐容性を示す。NACは、医療およびヒト健康用途で用いられる多くの溶液中にも他の成分と組み合わされて存在し、ヒトでの使用に安全であることがインビトロおよびインビボの両方で確立されている。NACは手頃な費用で容易に入手でき、溶液中で経時的に安定である。
【0059】
ビタミンCを含む組成物は、医療使用およびヒトへの投与に関連して詳細に確立された安全性プロフィールを有する。例えば、成人ヒトでは、60mg〜18000mg/日の間の任意の用量が安全であることが示されている。例えば、US Recommended Dietary Allowance(RDA)を参照。2007年2月19日訂正。およびPauling, Linus(1986年)。How to Live Longer and Feel Better。W. H. Freeman and Company。ISBN 0−380−70289−4。この用量は良好な耐容性を示す。ビタミンCは、医療およびヒト健康用途で用いられる多くの溶液中にも他の成分と組み合わされて存在し、ヒトでの使用に安全であることがインビトロおよびインビボの両方で確立されている。ビタミンCは手頃な費用で容易に入手でき、溶液中で経時的に安定である。
【0060】
本開示の消毒剤組成物の製剤および生産は、一般に直接的である。一実施形態では、本開示の所望の消毒剤組成物は、精製水などの水性溶媒にNACおよびビタミンCを所望の濃度に溶解し、溶液のpHを所望のpHに調節することによって製剤化される。代替の実施形態では、本開示の所望の消毒剤組成物は、NACおよびビタミンCを、NACおよびビタミンCが溶解可能で、濃縮され、可溶化された溶液を提供する溶媒に溶解することによって製剤化され、次に追加の溶媒または成分を加えるか、または可溶化された組成物を局所製剤などの溶液以外の形に製剤化することができる。次に、濾過および/または限外濾過などの従来の手段、ならびに他の手段を用いて、消毒剤溶液を滅菌することができる。NACおよびビタミンC溶液のモル浸透圧濃度範囲は、116〜500mOsm/kg、240〜500mOsm/kg、または好ましくは300〜420mOsm/kgであってよい。4重量%(w/v)のNAC溶液は237mOsm/kgのモル浸透圧濃度を有し、4重量%(w/v)のビタミンC溶液は223mOsm/kgのモル浸透圧濃度を有し、4重量%(w/v)のNACおよび4重量%(w/v)のビタミンCの組合せによる溶液は435mOsm/kgのモル浸透圧濃度を有する。溶液は、好ましくはUSP物質を用いて製剤化される。
【0061】
上に述べたようなNACおよびビタミンCを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる本開示の消毒剤組成物は、他の多くの用途のためにも有用である。NACおよびビタミンC溶液は、医科、歯科、獣医科の表面および物体を浸漬するか、洗浄するか、または接触させるための消毒剤溶液として用いることができる。本開示のNACおよびビタミンC溶液は、例えば、コンタクトレンズおよび他の光学デバイスを保存および/または消毒するために、義歯、ブリッジ、保持具、歯ブラシなどの歯科デバイスを保存および/または消毒するために、ならびに医療、歯科および獣医療デバイスおよび機器を保存および/または消毒するために用いることができる。これらの適用では、デバイスまたは表面を、微生物および/または真菌の感染を実質的に除去するのに十分な時間、本開示のNACおよびビタミンC溶液と接触させてもよく、または、デバイスおよび表面をNACおよびビタミンC溶液に所望の時間浸漬してもよい。本開示のNACおよびビタミンC組成物は、さらに、水および他の液体の供給ラインを消毒するために用いることができる。給液ラインの消毒は、本開示のNACおよびビタミンC組成物でラインを断続的に洗うことによって達成することができる。同様に、本開示のNACおよびビタミンC組成物は、給水および貯水デバイスでビオフィルムならびに微生物(一部のウイルスおよび原生動物を含む)および真菌の集団を根絶するために用いることができる。
【0062】
導管は、NACおよびビタミンC溶液によって、予防的消毒剤または、潜在的な真菌もしくは細菌性感染の後の処理として処理されることが予想される。
【0063】
導管の処理には、NACおよびビタミンC溶液のロッキング、フラッシング、コーティングまたはエアゾール投与を含めることができる。NACおよびビタミンC溶液を用いて処理することができる導管の例には、歯科もしくは医科診療所での導水ライン、無菌液体を運ぶライン、血液および/または他の液体を体内にもしくは体外に運ぶカテーテルまたはポート、ラインに流れる液体を汚染するだけでなく液体の効率的な流れに影響する大きなビオフィルム集団が発達する工業用水ライン、ならびに気道支持装置が含まれる。他の例には、飲料ディスペンサーおよび食品包装などの消費が含まれる。NACおよびビタミンC溶液によって処理される導管は一般的にプラスチック製であるが、本開示の原理は、液体を送達するか運ぶ、金属などの任意の材料で作製される導管器具に適用することができる。
【0064】
NACおよびビタミンC溶液は、それらに限定されないが、皮膚、耳、肛門、口および外陰/膣部位を含む局所感染の治療で用いることができる。
【0065】
NACおよびビタミンC溶液は、産業、医療および家庭の用途において、表面および設備のための有効な消毒剤として用いることができる。一般的な感染系には、洗面所の壁、床および室内便器が含まれるであろう。送達系は、感染系を規定する表面のフラッシング、ロッキング、ワイピング、浸漬、フォギングまたはコーティングを可能にする、溶媒および道具を一般に含む。
【0066】
NACおよびビタミンC溶液は、医療機器およびデバイス、歯科(消費者および専門家)機器およびデバイス、および/または獣医療機器およびデバイスのための有効な汚染除去消毒剤として用いることができる。典型例は、歯ブラシを消毒するための浸漬液であろう。
【0067】
NACおよびビタミンC溶液は、光学的コンタクトレンズのための有効な消毒剤溶液として用いることができる。
【0068】
NACおよびビタミンC溶液は、感染系を限定するカテーテルの処理に用いることができる。NACおよびビタミンC溶液は、注入の前およびその間に液体ロックを用いて処方濃度の溶液でカテーテルを処理することによって、および/またはカテーテル器具の表面コーティングによって微生物定着を阻害することができる。さらなる適用は、好ましい濃度およびpHのNACおよびビタミンC溶液を含有する液体ロックの使用による、定着または感染したカテーテルの処理である。
【0069】
一般的に、カテーテルの処理のために用いる場合、NACおよびビタミンC溶液は担体としての水に溶解されるが、他の担体を用いてもよい。血栓溶解剤、ナトリウム、アルコールまたは試薬などの物質を、塩基性の水/NACおよびビタミンC溶液に加えることもできる。
【0070】
MIC実験
増殖を阻害するために必要とされる組成物の最小濃度は、最小阻止濃度(MIC)として知られる。MICを判定するために、National Committee on Clinical Laboratory Standards(NCCLS)の微量希釈方法に従った。この方法によると、各製剤は、6log濃度または達成できる最も高い濃度の生物体に曝露させなければならない。現在のプロトコルでは、100μLのMHBを、90μLの製剤および10μLのlog8の生物体または達成できる最も高い濃度と混合した。最終溶液で要求される濃度を得るために、製剤濃度を調節した。混合液を、37℃で16〜24時間インキュベートした。16〜24時間後に、吸光度の値を600nmで読み取った。適当なブランクを引くことによって、得られたデータを補正した。最後に、≧0.1の吸光度を有するウェルには+の印を付け、<0.1のものには−の印を付けた。+記号は増殖を示し、−記号は無増殖を示す。陽性増殖対照は>0.5の補正吸光度値を有しなければならず、陰性対照は<0.1の補正吸光度値を有しなければならない。陽性増殖対照の補正吸光度が0.5より低い場合、「陽性増殖対照の20%未満の吸光度は−増殖と印を付け、陽性増殖対照の20%以上の吸光度は+増殖と印を付ける」代わりの規則が利用される。
【0071】
Staphylococcus aureus(生物体#25923)、Pseudomonas aeruginosa(生物体#27853)およびCandida albicans(生物体#10231)は、ATCCから得た。L−アスコルビン酸(ビタミンC)を用いた(Fisher Scientific、カタログ#A61−25、ロット#066251)。N−アセチルシステイン(NAC)を用いた(Acros、カタログ#160280250、ロット#A0229576)。8重量%のNAC水溶液を調製した。16重量%のビタミンC水溶液を調製した。次に、要求された濃度を得るために、必要に応じてこれらの溶液を連続的に希釈した。Staphylococcus aureusおよびP.aeruginosaの増殖を阻害するNACおよびビタミンCの最小濃度を見出した。さらに、Candida albicansの増殖を阻害したNACの最小濃度が見出されたが、Candida albicansの増殖を阻害したビタミンCの最小濃度は決定不能であった(行った実験によると、それは>8重量%であった)。行った実験により、NACはS.aureusについて<0.25%(w/v)のMICを有し、ビタミンCはS.aureusについて<0.25%(w/v)のMICを有し、NACはP.aeruginosaについて<0.25%(w/v)のMICを有し、ビタミンCはP.aeruginosaについて<0.25%(w/v)のMICを有し、NACはC.albicansについて<1.0%(w/v)のMICを有する。MICの結果については、図1〜6を参照。
【0072】
相乗作用実験
NACおよびビタミンCの両方を含む組成物の消毒剤活性の予想外の相乗作用を示すために、実験を行った。
【0073】
行った最初の実験は、組合せが≦1のFIC指数値を有する範囲に入るかどうかを評価する、交差力価測定法を用いるスクリーニング実験であった。用いた方法は、NCCLS微量希釈方法であった。
【0074】
行った第二の実験は、「殺傷率」アッセイであった。殺傷率アッセイは、組合せが相乗的かどうかを評価することができる。このアッセイでは、製剤は先ず所望の時間生物体に曝露させられる(現行の製剤読取値は、0、1、2、3および24時間時に取られる)。次に、生物体および製剤混合物の試料を連続希釈して、対数回復を調査するためにプレーティングする。生物体を増殖させ、24時間後に増殖/対数回復を評価する。個々の成分について得られた対数回復値を、組合せと比較した。試験した任意の時点で、組合せで用いた最も活性な化合物と比較して2log以上の減少を有するあらゆる組合せを相乗的とした(抗生物質の相乗的相互作用を調査する方法の比較、International journal of antimicrobial agents、15巻(2000年)125〜129頁)。
【0075】
上記の第一および第二の実験により、実験は、NACの抗菌活性に対するビタミンCの効果を調査するために行われた。L−アスコルビン酸(ビタミンC)を用いた(Fisher Scientific、カタログ#A61−25、ロット#066251)。N−アセチルシステイン(NAC)を用いた(Acros、カタログ#160280250、ロット#A0229576)。
【0076】
交差力価測定法実験
交差力価測定方法は、NACおよびビタミンCとの間の相互作用を評価するために用いた。交差力価測定方法は頻用される技術であり、例えば、各剤(NACおよびビタミンC)をMICよりも低い複数の希釈率で試験した。この実験の間に、NACおよびビタミンCを組合せで試験し、それらの組合せが1以下のFIC指数を有するかどうか評価した。
以下の濃度を試験した(pHが4未満の組合せについて、S.aureusに対しては図9を参照、P.aeruginosaに対しては図7を参照):
【0077】
【表1】

pH4の組合せについて、以下の濃度をS.aureusに対して試験した(図18を参照):
【0078】
【表2】

分画阻止濃度(FIC)は、組み合わせた化合物のMICを化合物単独のMICで割ったものと定義される。FIC指数が0.5以下である場合、その組合せは相乗的と解釈され;1未満であるが0.5を超える場合は部分的に相乗的;1の場合は付加的;1を超えるが4未満の場合は中立;4以上はアンタゴニストと解釈される。FIC指数を計算するために、化合物AおよびBについて以下の計算を実施する:
FIC−A=(組合せのAのMIC)/(A単独のMIC)
FIC−B=(組合せのBのMIC)/(B単独のMIC)
FIC−組合せ=FIC−A+FIC−B
MHBでS.aureusならびにP.aeruginosaの増殖を阻止したMIC−NAC(ビタミンCと組み合わせたNACのMIC)、ビタミンCと組み合わせたNACの最小濃度が見出された。MIC−VC(NACと組み合わせたビタミンCのMIC)を決定するために、MHBでS.aureusならびにP.aeruginosaの増殖を阻止した、NACと組み合わせたビタミンCの最小濃度を見出した。上で行った実験により、S.aureusのためのMIC−NACは0.25%(w/v)であり、Staphylococcus aureusのためのMIC−VCは0.25%(w/v)である。結果については図2、5および9を参照。上で行った実験により、P.aeruginosaのためのMIC−NACは0.25%(w/v)であり、P.aeruginosaのためのMIC−VCは0.25%(w/v)である。結果については図1、4および7を参照。
【0079】
したがってS.aureusに対して、FIC−NACは0.1/0.25であり、それは0.4に等しい。FIC−VCは0.1/0.25であり、それは0.4に等しい。したがって、FIC−組合せは0.4+0.4であり、それは0.80に等しい。他方、P.aeruginosaに対しては、FIC−NACは0.0875/0.25であり、それは0.35に等しい。FIC−VCは0.0875/0.25であり、それは0.35に等しい。したがって、FIC−組合せは0.35+0.35であり、それは0.70に等しい。したがって、NACおよびビタミンCの組合せは予想外にも部分相乗結果をもたらす。すなわち、NACおよびビタミンCの組合せの実施形態は、単独で作用する各剤の影響の合計より予想外に大きい結果を提供する。NACおよびビタミンCの組合せの実施形態のこの部分相乗効果は、ビオフィルムに対して増強された活性を提供することができる。理論に束縛されることなく、NACがビオフィルムを分解し、このように固着微生物を浮遊性にして、ビタミンCがより感受性の浮遊性微生物に対して作用することを可能にすると推測される。
【0080】
交差力価測定法によるC.albicansデータに対するNACとVC間の相互作用は、入手不可能である。これは、8重量%ビタミンCを出発濃度として用いたとき、C.albicansに対するビタミンCのためのMICを得ることができなかったという事実による。
【0081】
レートキルアッセイ
上記のように、NACはS.aureusおよびP.aeruginosaについて<0.25%(w/v)のMICを有し、ビタミンCはS.aureusおよびP.aeruginosaについて<0.25%(w/v)のMICを有する。したがって、以下の溶液を調製した:
【0082】
【表3】

次に、各溶液をP.aeruginosaと、また、S.aureusと別々に組み合わせた。P.aeruginosaならびにS.aureusの対数回復を、24時間後に測定した。P.aeruginosaについては、0.5MIC濃度の対数回復の差は2.15であり、0.125MIC濃度の対数回復の差は2.05であった。結果については図8を参照。S.aureusについては、0.5MIC濃度の対数回復の差は0.1であり、0.125MIC濃度の対数回復の差は0.1であった。結果については図10を参照。したがって、P.aeruginosaに対してNACおよびビタミンC溶液は相乗的であり、S.aureusに対してその組合せは非常に有効であることをデータは示す。すなわち、NACおよびビタミンCの組合せの実施形態は、単独で作用する各剤の影響の合計より予想外に大きい結果を提供する。NACおよびビタミンCの組合せの実施形態のこの効果は、ビオフィルムに対して増強された活性を提供することが予想される。理論に束縛されることなく、NACがビオフィルムを分解し、このように固着微生物を浮遊性にして、ビタミンCがより感受性の浮遊性微生物に対して作用することを可能にすると推測される。
【0083】
相乗効果(レートキルアッセイ)および部分相乗効果(交差力価測定法)は、NACおよびビタミンCの組合せの実施形態を使うことの、かなりの実際的な利点を提供する。前述のように、ビオフィルムは様々な分野でかなりの問題である。しばしば細胞外重合物質(EPS)、多糖カバリングまたはグリコカリックスと呼ばれるビオフィルム防御物質は、阻止および根絶が困難であるビオフィルムからの保護を提供する。ビオフィルムを阻止または根絶することができる溶液は、重要な代替形態である。ビオフィルムを根絶するための抗生物質の適切な使用は高コストで時間がかかり、効果的な治療ができない抗生物質耐性菌株の発達をもたらすことがある。したがって、本開示の実施形態は、広域抗生物質の濫用、ならびに連続した不要なカテーテル除去および交換処置を阻止するはずである。
【0084】
レートキル−真菌試験
NACの抗真菌活性に対するビタミンCの効果を調査するために、レートキル実験を行った。L−アスコルビン酸(ビタミンC)を用いた(Fisher Scientific、カタログ#A61−100、ロット#074355)。N−アセチルシステイン(NAC)を用いた(Acros、カタログ#16028−0500、ロット#B0122404)。C.albicans(ATCC−10231)生物体を用いた。
【0085】
以下の溶液を調製した:
【0086】
【表4】

注:C.albicansに対するビタミンCのMICは決定できなかった;実験による(図6を参照)。次に、上記の溶液をC.albicansと組み合わせ、C.albicansの対数回復を、0時間、1時間、2時間、3時間および24時間のときに測定した。結果については図11を参照。データは、NACおよびビタミンC溶液が、C.albicansに対して相乗的であることを示していない。
【0087】
pH実験
NACおよびビタミンC製剤に及ぼすpHの影響を測るために、さらなる実験を行った。MICおよびMBC(最小殺菌濃度)を決定するために、National Committee on Clinical Laboratory Standards(NCCLS)微量希釈方法に従った。この方法によると、各製剤は、生物体の6log濃度、または達成できる最も高い濃度に曝露させなければならない。現在のプロトコルでは、100μLのMHBを、90μLの製剤および10μLのlog8の生物体または達成できる最も高い濃度と混合した。最終溶液で要求される濃度を得るために、製剤濃度を調節した。混合液を、37℃で16〜24時間インキュベートした。16〜24時間後に、吸光度の値を600nmで読み取った。適当なブランクを引くことによって、得られたデータを補正した。最後に、≧0.1の吸光度を有するウェルには+の印を付け、<0.1のものには−の印を付けた。+記号は増殖を示し、−記号は無増殖を示す。陽性増殖対照は>0.5の補正吸光度値を有しなければならず、陰性対照は<0.1の補正吸光度値を有しなければならない。陽性増殖対照の補正吸光度が0.5より低い場合、「陽性増殖対照の20%未満の吸光度は−増殖と印を付け、陽性増殖対照の20%以上の吸光度は+増殖と印を付ける」代わりの規則が利用される。pHは、NaOHまたはHClを用いて明示された値に調節した。
【0088】
Staphylococcus aureus(生物体#25923)は、ATCCから入手した。L−アスコルビン酸(ビタミンC)を用いた(Fisher Scientific、カタログ#A61−25、ロット#066251)。N−アセチルシステイン(NAC)を用いた(Acros、カタログ#160280250、ロット#A0229576)。4重量%NAC水溶液を、pH4で調製した。4重量%NAC水溶液を、pH6で調製した。4重量%ビタミンC水溶液を、pH4で調製した。4重量%ビタミンC水溶液を、pH6で調製した。次に、要求された濃度を得るために、必要に応じてこれらの溶液を連続希釈した。Staphylococcus aureusの増殖を阻止したNACおよびビタミンCの最小濃度を、各pHで得た。行った実験により:
NAC(pH=4)は、S.aureusについて2.0%(w/v)のMICを有する;
NAC(pH=4)は、S.aureusについて2.0%(w/v)のMBCを有する;
NAC(pH=6)は、S.aureusについて2.0%(w/v)の出発点で測定できなかったMICを有する;
ビタミンC(pH=4)は、S.aureusについて0.5%(w/v)のMICを有する;
ビタミンC(pH=4)は、S.aureusについて1.0%(w/v)のMBCを有する;
ビタミンC(pH=6)は、S.aureusについて2.0%(w/v)の出発点で測定できなかったMICを有する。
結果については図12〜17を参照。
【0089】
上に基づき、さらに行った実験は、pH4の組合せが≦1のFIC指数値を有する範囲に入るかどうかを評価する、交差力価測定法を用いるスクリーニング実験であった。用いた方法は、NCCLS微量希釈方法であった。この実験の結果を、図18に示す。この結果に基づいて、pH4のNACおよびビタミンCのFIC指数は、0.6である。0.6のFIC指数は、pH4のNACとビタミンCとの間で少なくとも部分相乗効果を示す。
【0090】
したがって、S.aureusに対する製剤の効力に対するpHの効果は、以下の通りに要約することができる:
【0091】
【表5】

上記のチャートから、pHの上昇に従って、NACおよびビタミンCの両方の効力が低下することが明白である。さらに、2重量%(w/v)を出発濃度として用いた場合、NACとビタミンCの両方について確実なMICを判定することができなかったので、pH6でFIC値が提供されないことを指摘することができる。
【0092】
抗凝血性実験
NAC、ビタミンCおよびNACおよびビタミンCとの組合せの抗凝血能力をプロトロンビン時間(PT)アッセイによって評価するために、実験を行った。PTを手動で記録する代わりに、PTを取得する凝血アナライザーを用いてPTアッセイ(TM−4339−063)を行った。
【0093】
L−アスコルビン酸(ビタミンC)を用いた(Fisher Scientific、カタログ#A61−25、ロット#066251)。N−アセチルシステイン(NAC)を用いた(Acros Organics、カタログ#160280250、ロット#A0229576)。TriniCHECK 1(正常対照)を用いた(Trinity Biotech)。TriniCHECK 2(異常対照)を用いた(Trinity Biotech)。KC4 Amelung Coagulizerを用いた(Trinity Biotech)。
【0094】
図19は、PTアッセイの結果(生データ)を示す。濃度の列で明示される濃度は、試薬の最終濃度である。TriniCHECK 1は、正常な血液試料が凝固するのに要する時間の範囲のPT時間を提供する、正常な対照である。TriniCHECK 2は、正常な血液試料が凝固するのに要する時間の範囲を超えるPT時間を提供する、異常な対照である。INR(国際標準比)は、血液凝固(血塊形成)検査の結果を報告するための、World Health Organization(WHO)およびInternational Committee on Thrombosis and Hemostasisによって確立されたシステムである。INRは、以下のように計算される:
INR=(PT試験試料/PT正常対照ISI
ISI(国際感受性指数)は、個々のトロンボプラスチンの感受性を表す。本明細書で利用されるISIの値は、1.89であった。
【0095】
図20は、PTアッセイの結果(処理データ)を示す。TriniCHECK 1(正常対照)の3倍よりも大きいすべてのPTは、31秒で置換した。これを行ったのは以下の理由のためである:用いた器具は、45秒より大きいPTで再現性のある読取値を提供しない;ISIが1.89である場合、正常対照の3倍を超えるPTは、6を超えるINRをもたらす。5.5を超えるいかなるINR値も非常に高い抗凝血能力を示し、より高いいかなる値も臨床上ほとんどまたは全く重要でない;データのより良好な評価のため。
【0096】
図21は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、NACの国際標準比(INR)のグラフを示す。図21から、(試験範囲内で)NACの濃度の増加が、INRの増加をもたらすことは明白である。
【0097】
図22は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、ビタミンCの国際標準比(INR)のグラフを示す。図22から、(試験範囲内で)ビタミンCの濃度の増加は、INRの有意な増加をもたらさないことが明白である。
【0098】
図23は、プロトロンビン時間(PT)アッセイからの、NACおよびビタミンCの組合せ製剤の国際標準比(INR)のグラフを示す。図23から、図21および22の結果と比較して、(試験範囲内で)ビタミンCの添加はNACの抗凝血活性を有意に、および驚くほど強化することは明白である。例えばi)8重量%NACを2、4および8重量%のビタミンCと混合する場合、およびii)4重量%NACを6および8重量%のビタミンCと混合する場合、INRの有意な増加が観察される。
【0099】
以上のことから、上記に論じたもの以外の形で本開示を実施できることが明白であるはずであり、本開示の範囲は、上記の詳細な論述ではなく、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中にN−アセチルシステイン(NAC)およびビタミンCを含む消毒剤組成物であって、
前記NACが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12.0%(w/v)未満の濃度であり、前記消毒剤組成物が6以下のpHを有する、消毒剤組成物。
【請求項2】
前記溶液が0〜10%(v/v)エタノールおよび水を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶液が生理食塩水を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記NACが、少なくとも0.1%(w/v)かつ2.5%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも0.1%(w/v)かつ2.5%(w/v)未満の濃度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記消毒剤組成物が、4以下のpHを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
溶液による再構成時に請求項1に記載の組成物を形成する、乾燥製剤または部分水和製剤中にN−アセチルシステイン(NAC)およびビタミンCを含む消毒剤組成物。
【請求項7】
前記消毒剤組成物が、無菌の、非発熱性形態で梱包され、前記溶液が水であり、前記消毒剤組成物が240〜500mOsM/kgのモル浸透圧濃度を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、無菌の、非発熱性形態で梱包されるロックフラッシュ組成物であり、前記ロックフラッシュ組成物が、留置アクセスカテーテル、尿カテーテル、経鼻チューブおよび咽喉チューブで使用するのに生体適合性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
溶液中にN−アセチルシステイン(NAC)およびビタミンCを含む消毒剤溶液と表面を接触させることによって前記表面を消毒する方法であって、
前記NACが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12%(w/v)未満の濃度であり、前記消毒剤組成物が6以下のpHを有する、方法。
【請求項10】
前記表面が、無菌液体、血液または血漿を運ぶ導管、カテーテル、気道支持デバイス、ポートおよび皮下ポートからなる群から選択される導管である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が水である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記NACが、少なくとも0.1%(w/v)かつ1%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも0.1%(w/v)かつ1%(w/v)未満の濃度であり、前記消毒剤組成物が4以下のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記導管を前記消毒剤溶液と接触させることが、前記導管を前記消毒剤溶液でロッキング、フラッシングまたはコーティングすることによって達成される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記消毒剤溶液を前記カテーテルの内腔に導入することと;
選択された時間にわたって前記消毒剤溶液を前記内腔内に保持することと;
前記内腔から前記消毒剤溶液を取り出すことと
をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
溶液中にN−アセチルシステイン(NAC)およびビタミンCを含む抗凝血組成物であって、前記NACが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも0.01%(w/v)かつ12%(w/v)未満の濃度であり、前記消毒剤組成物が6以下のpHを有する、抗凝血組成物。
【請求項16】
前記NACが、少なくとも2%(w/v)かつ6%(w/v)未満の濃度であり、前記ビタミンCが、少なくとも6%(w/v)かつ10%(w/v)未満の濃度である、請求項15に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公表番号】特表2011−507975(P2011−507975A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541439(P2010−541439)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【国際出願番号】PCT/US2008/014125
【国際公開番号】WO2009/085317
【国際公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(501289751)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (320)
【Fターム(参考)】