説明

消火システム

【課題】消火剤をほぼ無駄なく放射することができるとともに、省スペース化が実現される消火システムを提供する。
【解決手段】
本発明の1つの消火システムは、消火剤貯蔵容器10と少なくとも一部が可撓性を有することによって先端部5が消火剤貯蔵容器10の内壁面に近接又は接するサイフォン管3とを備える消火器90が限られた空間内に水平になるように配置されている。従って、消火剤7の使い残しを低減することができるため、消火剤貯蔵容器10の小型化、ひいては消火システムの省スペース化が実現できる。加えて、限られた空間内に水平になるように消火器90が配置されるため、消火システム内の消火器90又は消火剤貯蔵容器10の配置場所の自由度が格段に高まる。その結果、例えば、各種工作機械や各種製造装置における、いわゆるデッドスペースを有効活用することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火器を備えた消火システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
可燃物を取り扱う、あるいは処理する各種工作機械には、従来から人間の手を介することなく迅速な消火を可能にする自動消火システムが設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
他の代表的な従来の消火システムの一例を、図7を参照して説明する。この従来の自動消火システム600には消火器690が縦向きに備え付けられている。また、この自動消火システムは、筐体660とは別に消火器690を収めるための消火器収納空間657を備えている。この例では、センサー651がシステム内の出火を検知すると、消火剤が消火器690から自動的に配管655を通してノズル653に送られる。その後、消火剤がノズル653から加工/処理スペース659内で放射されることにより、火災が消火される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−336726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の自動消火システムが付設された各種工作機械等は、上述の代表的な例にもあるように、消火システムを含めることによって大型化せざるを得なかった。また、従来の消火システムでは、そのシステム内において消火器を取り付ける場所が一般的に決められていたため、上述の特許文献1のように消火器の取り付け方向が縦向きにほぼ限定されていた。しかし、近年、設置スペースの小さい工作機械や小型の半導体製造装置等の各種製造装置が開発され、その数も増えている。そのため、付設される自動消火システム及び消火器の設置場所の一段の工夫を図るとともに省スペース化を実現することが産業界で強く要望されている。
【0006】
ところで、消火器の消火剤の一例である二酸化炭素が使用される場合、消火剤貯蔵容器内に充填された状態では二酸化炭素が液化している。従って、バルブに接続するサイフォン管を通じて、二酸化炭素の液体が消火剤貯蔵容器の底面から吸い上げられることにより、二酸化炭素が外部に放出される。
【0007】
しかしながら、一般的に消火器を横倒しに配置すると、従来のサイフォン管では正常な放射が期待できない。すなわち、消火剤を外部へ放出するにしたがって容器内の消火剤の残量が徐々に減少すると、消火剤の約半分の量が消費されたた時点でサイフォン管の先端部の一部が消火剤に接しなくなる(図6参照)。そうすると、消火剤7(図を見易くするために、消火剤が斜線部で描かれている。)ではなく消火器690内の充填気体がサイフォン管2の先端部から流入するため、消火剤7をバルブ1から正常に放射することができなくなる。これは、多量の消火剤7の使い残しにつながる。特に、上述のように消火剤7が二酸化炭素の場合、消火器690内の充填気体がサイフォン管2の先端部5から流入し始めると、その液面から気化が始まるために、消火剤7から気化熱が奪われることになる。その結果、残留する消火剤7が冷却されることによってドライアイス化してしまうため、多量の消火剤が固体となって容器内に残り、無駄になる。そうすると、特に、付設される消火器が小型化されることによって消火剤の量が大幅に低減された場合に、消火に十分な量の消火剤が放出されなくなる可能性が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の技術課題を解決することにより、消火剤の使い残しを低減するとともに、消火器が配置される限られた空間の有効活用が図られ得る消火システムの実現に大きく貢献するものである。
【0009】
発明者は、大型のみならず小型の自動消火システムであっても、消火器を配置する方法が縦向きのみに限定されていることが、システム全体の省スペース化に対する大きな障害の1つであると判断した。他方、上述のとおり、横向きに消火器を配置すると消火剤の多量の使い残しが生じるため、消火器の小型化、換言すれば消火剤の少量化への妨げとなる。そこで、発明者は、特殊なサイフォン管の採用に加えて消火器の配置にも工夫を加えることにより、消火器が配置される限られた空間の有効活用が図られつつ、消火剤の使い残しを大幅に低減できる消火システムを創出した。
【0010】
本発明の1つの消火システムは、消火剤貯蔵容器と少なくとも一部が可撓性を有することによって先端部が前述の消火剤貯蔵容器の内壁面に近接又は接するサイフォン管とを備える消火器が、限られた空間内に水平になるように配置される。
【0011】
この消火システムによれば、限られた空間内に水平になるように配置された消火器の消火剤貯蔵容器の内壁面に先端部が近接又は接するサイフォン管を備えることから、消火剤をほぼ無駄なく放射することが可能となる。その結果、消火剤の使い残しを低減することができるため、消火剤貯蔵容器の小型化、ひいては消火システムの省スペース化が実現できる。加えて、限られた空間内に水平になるように消火器が配置されるため、消火システム内の消火器又は消火剤貯蔵容器の配置場所の自由度が格段に高まる。その結果、例えば、各種工作機械や各種製造装置における、いわゆるデッドスペースを有効活用することが可能となる。さらに、消火システム全体としてのデザイン性も格段に向上する。
【0012】
なお、前述の限られた空間内に前述の消火器を水平になるように配置することによって、その消火器を備えない場合の消火システムの設置面積と比較して、正射影したときの設置面積が変わらないように配置することは好ましい一態様である。各種工作機械等にとって、普段は使用しない自動消火システムをそれが無い場合の設置面積を変えることなく備えることは、省スペース化の実現と消火システム全体としてのデザイン性の向上に大きく貢献する。
【0013】
また、前述の限られた空間内に前述の消火器を水平になるように配置することによって、その消火器を備えない場合の消火システムの設置面積と比較して、正射影したときの設置面積がその消火器に接続する配管を除いて変わらないように配置することも、もう1つの好ましい一態様である。各種工作機械等にとって、普段は使用しない自動消火システムをそれが無い場合の設置面積を実質的に変えることなく備えることは、省スペース化の実現と消火システム全体としてのデザイン性の向上に大きく貢献する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1つの消火システムによれば、消火剤をほぼ無駄なく放射することが可能となる。その結果、消火剤の使い残しを低減することができるため、消火剤貯蔵容器の小型化、ひいては消火システムの省スペース化が実現できる。加えて、限られた空間内に水平になるように消火器が配置されるため、消火システム内の消火器又は消火剤貯蔵容器の配置場所の自由度が格段に高まる。その結果、例えば、各種工作機械や各種製造装置における、いわゆるデッドスペースを有効活用することが可能となる。さらに、消火システム全体としてのデザイン性も格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明の第1の実施形態の消火システムを示す斜視図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態の消火システムを示す側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の消火器の内部及び消火器の配置を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の消火器の内部(消火剤の残量が少ない)及び消火器の配置を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態の消火システムを示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施形態の消火器の内部を示す断面図である。
【図6】従来の消火器を示す斜視図である。
【図7】従来の消火システムを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。尚、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしもスケール通りに示されていない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略されうる。
【0017】
<第1の実施形態>
図1Aは、本実施形態の消火システム100を示す斜視図である。また、図1Bは、本実施形態の消火システム100を示す側面図である。また、図2は、本実施形態の消火器90の内部及び消火器90の配置を示す断面図である。また、図3は、消火剤の残量が少ない本実施形態の消火器90の内部及び消火器90の配置を示す断面図である。
【0018】
本実施形態の消火システム100は、例えば各種工作機械等を収める筐体160を有している。筐体160内には、図には示していないが、例えば各種工作機械や各種製造装置が設置される。さらに筐体160内には、センサー151が配置されている。火災発生時には、センサー151の感知信号が制御ユニットへ送信され、この制御ユニットからの指令によって消火器90のバルブ1が開放される。バルブ1が開放されると、消火剤貯蔵容器10内に貯留された消火剤7が、配管155を介してノズル153に送られる。その後、消火剤7がノズル153から加工/処理スペース159内で放射される。ここで、本実施形態では、筐体160内の延設部152の下方に設けられた消火器収納空間157内に、消火器90が設置されている。なお、図1B中の一点鎖線は、延設部152の範囲を説明するために便宜上描かれた線である。
【0019】
本実施形態の消火器90は、図2に示すように、開口部4、円筒部6、及び底部8を有する消火剤貯蔵容器10を備えている。また、図1A及び図1Bに示すように、消火器90は、配置ないし設置範囲が限られた消火器収納空間157内において水平面20に沿って配置される。さらに、この消火器90は、少なくとも一部が可撓性を有することにより、先端部5が重力を利用して消火剤貯蔵容器10の内壁面に近接又は接しうるサイフォン管3(以下、単にサイフォン管ともいう。)を備えている。なお、本実施形態では、消火剤貯蔵容器10が水平に配置されるために水平な底板が設けられているが、図示しない複数の公知のフックによって消火剤90が吊り下げられても良い。
【0020】
ここで、本実施形態の消火剤貯蔵容器10は、その円筒部6の肉厚が略等しい密閉された圧力容器である。本実施形態の消火剤貯蔵容器10の肉厚は、3.1mm+0.9mmである。なお、消火器の製造過程にもよるが、通常の寸法誤差は基準となる肉厚に対して+30%以内である。また、消火剤貯蔵容器10の内部には、消火剤7(例えば液化した二酸化炭素)が充填されている。加えて、消火剤貯蔵容器10内は、二酸化炭素又は窒素ガスなどの充填気体により加圧されている。
【0021】
他方、消火剤貯蔵容器10は、その上部に、消火剤貯蔵容器10内に配置されるサイフォン管3と連結するバルブ1を有している。消火の際、バルブ1が開くと、消火剤7が前述の充填気体の圧力によりサイフォン管3を通して押し出され、消火剤貯蔵容器10の外へ放射される。
【0022】
本実施形態のサイフォン管3は金属製のパイプである。この金属性のパイプは、例えばその構造の一部が蛇腹構造であるため可撓性を有する。可撓性を発揮するための他の構造例は、ゴム管とバネ構造からなる連結部材である。また、サイフォン管全体又はその一部が、可撓性を有する樹脂製パイプから形成されていてもよい。但し、良好な加工性、強度の確保、及び高い耐食性を得るためには、真鍮製のパイプが採用されることが好ましい。
【0023】
本実施形態のサイフォン管3は、上述のとおり、少なくとも一部が可撓性を有することにより、その先端部5が消火剤貯蔵容器10の内壁面に近接又は接する。従って、消火器90が前述のサイフォン管3を有することにより、消火剤7をほぼ無駄なく放射することが可能となる。
【0024】
また、本実施形態では、消火システムの筐体160、換言すれば各種工作機械等の筐体が小型化されている。本実施形態の消火システム100の筐体160は、幅約60cm、奥行き約70cm、高さ約150cmである。従って、省スペース化を実現するためには、消火器90が配置されるべき消火器収納空間が非常に限定されてしまう。具体的な例として、本実施形態の消火器収納空間157は筐体160内の延設部152の下方に設けられた空間である。このように、延設部152によって形成された所謂デッドスペースが消火器収納空間157として活用されるため、消火システム100の設置面積(フットプリント)を拡げることがない。
【0025】
すなわち、本実施形態の消火システム100を採用すれば、消火剤7の使い残しを大幅に低減することができるため、消火剤貯蔵容器10の小型化、ひいては消火システム100の省スペース化が実現できる。さらに、本実施形態の消火システム100では、筐体160内の延設部152の下方に設けられた消火器収納空間157内に消火器90が配置されるため、各種工作機械や各種製造装置における、いわゆるデッドスペースを有効活用することが可能となる。
【0026】
本実施形態では、消火剤7として二酸化炭素が採用されているが、充填気体がサイフォン管3の先端部5から流入し始める時期が、消火剤が殆ど消費された後となるため、多量の消火剤7がドライアイス化することはない。これは、消火システム100内に配置されるべき消火器90の更なる小型化を可能にすることになる。
【0027】
上述のとおり、本実施形態の消火システム100によれば、消火剤7を無駄にすることなく、従来の縦向きに代わって横向きに消火器90を設置することができるため、各種工作機械や各種製造装置の限られた空間を利用して消火器を配置することが可能となる。これは、各種工作機械や各種製造装置の省スペース化の実現に大きく貢献する。さらに、省スペース化に伴い、消火システム100全体としてのデザイン性も格段に向上するため、通常、消火器を設置しない加工装置及び/又は処理装置であっても、本実施形態の消火システム100を導入する可能性が大いに高まる。
【0028】
なお、本実施形態の消火器90は、図2又は図3に示すように、消火剤貯蔵容器10の内部に向かって突出する曲面9aを備える底面9を有している。図3に示すように、消火器90の底面9が前述の構造を有していても、消火剤貯蔵容器10の底部8に消火剤7が効率よく溜まる。消火剤貯蔵容器10内のサイフォン管3は、上述のとおり、少なくとも一部が可撓性を有するため、その先端部5が消火剤貯蔵容器10の内壁面に近接又は接する。従って、消火剤7が少量であっても、サイフォン管3が消火剤7に浸るため、消火剤をほぼ無駄なく放射することができる。
【0029】
<その他の実施形態>
ところで、第1の実施形態では、消火器90からノズル153に至るまでの配管155が正射影されたときに、筐体160の設置面積の範囲内に収まるように配置されていたが、これに限定されない。例えば、図4に示す消火システム200のように、前述の配管155に相当する配管255の一部が正射影されたときに筐体160の設置面積の範囲外となるように配置される場合も、消火システム全体のデザイン性や省スペース化を損なわない範囲で本発明の少なくとも一部の効果が奏される。場合によっては、メンテナンス性向上の観点から、図4に示す消火システム200のように配管の一部が筐体160の外側に配置されることも好ましい一態様となり得る。但し、より確実な省スペース化を実現するためには、第1の実施形態の消火システムの配管の配置が好ましい。
【0030】
また、第1の実施形態では、消火器90が、消火剤貯蔵容器10の内部に向かって突出する曲面9aを備える底面9を有するが、この形状に限定されない。例えば、図5に示すように、消火剤貯蔵容器11の外側に向かって突出する曲面9bを備える底面9を有する消火器91も、1つの実施形態として採用され得る。このような消火器91であっても、消火剤貯蔵容器10内のサイフォン管3はその先端部5が消火剤貯蔵容器10の内壁面に近接又は接する。従って、消火剤7が少量であってもサイフォン管3が消火剤7に浸るため、消火剤7をほぼ無駄なく放射することができる。以上の理由から、上述の各実施形態の消火システム100,200の構成を採用することにより、消火剤貯蔵容器10の底面の形状に依らずに消火剤をほぼ無駄なく放射することができる。
【0031】
以上、述べたとおり、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、消火システムとして広く利用され得る。
【符号の説明】
【0033】
1 バルブ
2 従来のサイフォン管
3 可撓性を有するサイフォン管
4 開口部
5 先端部
6 円筒部
7 消火剤
8 底部
9 底面
9a 消火剤貯蔵容器の内部に向かって突出する曲面
9b 消火剤貯蔵容器の外側に向かって突出する曲面
10,11 消火剤貯蔵容器
20 水平面
151 センサー
152 延設部
153 ノズル
155,255 配管
157 消火器収納空間
159 加工/処理スペース
160 筐体
90,91 消火器
100,200 消火システム
651 センサー
653 ノズル
655 配管
657 消火器収納空間
659 加工/処理スペース
660 筐体
690 従来の消火器
600 従来の消火システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消火剤貯蔵容器と少なくとも一部が可撓性を有することによって先端部が前記消火剤貯蔵容器の内壁面に近接又は接するサイフォン管とを備える消火器が、限られた空間内に水平になるように配置される
消火システム。
【請求項2】
前記限られた空間内に前記消火器を水平になるように配置することにより、前記消火器を備えない場合と比較して正射影したときの設置面積が変わらない
請求項1に記載の消火システム。
【請求項3】
前記限られた空間内に前記消火器を水平になるように配置することにより、前記消火器を備えない場合と比較して正射影したときの設置面積が、前記消火器に接続する配管を除いて変わらない
請求項1に記載の消火システム。
【請求項4】
前記消火器が、正射影したときの設置面積の一部を構成するが現実に接地していない延設部の下方に設けられた前記限られた空間内に配置される
請求項1乃至請求項3に記載の消火システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−268832(P2010−268832A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120714(P2009−120714)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(391008320)株式会社初田製作所 (78)
【Fターム(参考)】