説明

消火・防火装置及び消火・防火方法

【課題】区画火災の燃焼急拡大の発生を防ぐと共に、短時間で効率的に火災抑制できる消火・防火装置及び消火・防火方法を提供する。
【解決手段】空気圧縮機1では大気中の空気を取り込み、圧縮する。空気圧縮機1内の圧縮空気は、開閉バルブ2を開くことで窒素分離膜ユニット3に送り込まれる。窒素分離膜ユニット3では、送り込まれた圧縮空気を酸素富化空気とNEAとに分離し、NEAをNEA窒素濃度制御装置4に流す。NEA窒素濃度制御装置4内の電磁式流量調節弁4aはNEAの流量を調整する。同時に、外部酸素センサ6及び、区画酸素濃度測定装置7を用いて区画から押し出された空気中の酸素濃度を測定し、流量制御ボックス4bに入力する。入力された値に基づき、流量制御ボックス4bが電磁式流量調整弁4aを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、区画火災における燃焼急拡大の発生を防止する消火・防火装置及び消火・防火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
完全密閉の区画に火災が発生すると、区画が破壊されない限り、内部の酸素濃度は燃焼により低下し続け、自然消火に至る。一方、通常の建築物については多少の開口部が設けてあるのが一般的である。このような比較的小さい開口部を設けていて、火災時に少量の空気が流入し続けるような区画の火災において、火災の過程で区画内における燃焼が急拡大する現象がある。その際、急上昇する圧力により、区画が破壊され、周りに活動中の人が被害を受ける危険がある。上述の区画火災に関しては、特許文献1に示すような水噴霧固定消火設備が提示されたが、この方法は設備の事前設置が必要であり、また散水障害の多い空間では効果が期待できない。
【0003】
特に、可燃物を多く貯蔵している閉囲区間の火災において、消火のための注水によって、外部の空気が流入したり、可燃性ガスが発生したりする事がある。それが原因と見られる爆発事故がしばしば発生する。2003年8月19日、三重県のRDF貯蔵庫に発生した火災で、爆発により消防職員2人が殉職した(非特許文献1参照)。同年11月5日神奈川県大和市のスーパーで発生した生ゴミ処理機の火災において、爆発により消防士ら11人が重軽傷となった(非特許文献2参照)。このような事例が多くあるため、この種類の火災の消火に水も泡も使ってはならないと米国連邦危機管理庁(FEMA)は警鐘を鳴らした(非特許文献3参照)。
このように、現在の水系消火設備は、区画火災時の燃焼急拡大現象の発生を防がないだけでなく、それを誘発する恐れもある。
【0004】
図2に本願の出願人が実施した8m区画内での木材クリブの燃焼実験において測定された燃焼急拡大の発生時の温度と酸素濃度等との変化とを示す。この実験結果から燃焼急拡大の発生条件が以下のようなものである事が分かる。
(1)区画内の有炎燃焼が酸素濃度の低下などの原因で止まる。
(2)可燃物に高温領域があり熱分解が続く。
(3)区画内の酸素濃度が外部の空気の流入により一定レベルに維持される。
以上の3つの条件がそろえば燃焼急拡大が発生する可能性があるので、この条件の中の何れかを取り除くのが発生抑止のために有効である。
【0005】
上記の3つの条件を消火活動の観点から見た場合、条件(1)は消火活動にとって有利なことであり、条件(2)は区画の外で制御するのは難しいことであることより、条件(3)を満たさないようにすることで燃焼急拡大の発生を抑えることが望まれる。これに関する技術として、区画内に窒素濃度の高い空気を注入することで、区画内の酸素濃度を下げて消火するといった従来技術が知られている。
【特許文献1】特開2002−017883号公報
【非特許文献1】火災誌編集小委員会、「2003年8月・9月に起きた大規模火災」、火災、Vol.53,No.5,p.5-7,(2003.10)
【非特許文献2】火災誌編集小委員会、「火災ニュース」、火災、Vol.53,No.6,p.67,(2003.12)
【非特許文献3】鈴木、「サイロ火災について」、火災、Vol.55,No.2,p.35-41,(2005.4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の燃焼急拡大現象が発生した時に、その急上昇する圧力によって区画が破壊され、区画の周りにいる人が被害を受けるといった危険があるので、区画内の燃焼急拡大の発生を防ぐと共に、短時間で効率的に消火するということは、消防活動にとって重要な課題であった。
【0007】
本発明はかかる課題を解決するためになされたもので、区画火災の燃焼急拡大の発生を防ぐと共に、短時間で効率的に燃焼抑制できる消火・防火装置及び消火・防火方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、大気中の空気より窒素濃度の高い窒素富化空気を生成する窒素富化空気生成手段と、前記窒素富化空気の窒素濃度を調整する調整手段と、調整された前記窒素富化空気を区画内に流入する流入手段と、前記区画から排出される空気の酸素濃度を測定する外部酸素濃度測定手段と、前記酸素濃度に基づき前記調整手段を制御する流量制御手段と、を具備する事を特徴とする消火装置である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記第1の流量制御手段は、前記窒素富化空気の窒素濃度を段階的に上げるように前記調整手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の消火・防火装置である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、大気中の空気より窒素濃度の高い窒素富化空気を生成する第1ステップと、区画から排出される空気の酸素濃度を測定する第2ステップと、前記第2ステップで測定された酸素濃度に基づき、前記窒素富化空気の窒素濃度を調整して前記区画内に流入させる第3ステップと、を備える事を特徴とする消火・防火方法である。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、前記第3ステップは、前記窒素富化空気の窒素濃度を段階的に上げるように調整することを特徴とする請求項3に記載の消火・防火方法である。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、前記流量制御手段は、前記区画から排出される空気の酸素濃度を測定する外部酸素濃度測定手段と、前記酸素濃度に基づき前記調整手段を制御する制御手段と、を具備する事を特徴とする請求項1又は2に記載の消火・防火装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、区画火災における燃焼急拡大の発生を防ぐと共に、短時間で効率的に火災抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本実施形態における消火・防火装置の全体構成を示すブロック図である。図1の消火・防火装置は、空気を圧縮する空気圧縮機1と、空気圧縮機1で圧縮された空気の供給量を調節するための開閉バルブ2と、圧縮された空気内の窒素と酸素とを分離してNEA(Nitrogen Enriched Air:窒素富化空気)を生成する窒素分離膜ユニット(窒素富化空気生成手段に相当)3と、NEAの窒素濃度を調節するためのNEA窒素濃度制御装置4と、NEA窒素濃度制御装置4から出力されるNEAの酸素濃度を測定する酸素濃度計5と、区画内または区画から押し出された空気中の酸素の検知を行う外部酸素センサ6と、区画から押し出された空気中の酸素濃度を測定する区画酸素濃度測定装置7とから構成されている。
【0015】
NEA窒素濃度制御装置4は、NEAの酸素濃度が所定の濃度になるように流量を調整する電磁式流量調節弁(調整手段、流入手段に相当)4aと、区画酸素濃度測定装置7の出力に基づいてNEAの酸素濃度を所定の値に変更するように電磁式流量調節弁4aにコマンドを送る流量制御ボックス(流量制御手段に相当)4bとから構成されている。電磁式流量調節弁4aは、窒素分離膜ユニット3から流入するNEAの流量を絞ることで、NEAの窒素濃度が上がる(酸素濃度が下がる)ように制御する。
【0016】
次に、本実施形態の消火・防火装置の動作について以下に説明する。空気圧縮機1では大気中の空気を取り込み、圧縮する。空気圧縮機1内の圧縮空気は、開閉バルブ2を開くことで窒素分離膜ユニット3に送り込まれる。窒素分離膜ユニット3では、送り込まれた圧縮空気を酸素富化空気とNEAとに分離し、NEAをNEA窒素濃度制御装置4に流す。NEA窒素濃度制御装置4内の流量制御ボックス4bはNEAが第1ステップの設定酸素濃度12%になるように電磁式流量調節弁4aによってNEAの流量を調整する。
【0017】
同時に、外部酸素センサ6及び、区画酸素濃度測定装置7を用いて区画から押し出された空気中の酸素濃度を測定し、流量制御ボックス4bに入力する。流量制御ボックス4bに入力された酸素濃度が所定の値になると、以後、流量制御ボックス4bが電磁式流量調整弁4aにコマンドを出し、区画内に注入されるNEAが第2ステップの設定酸素濃度10%になるように段階的にNEAの流量を絞る。電磁式流量調整弁4aで調整されたNEAは酸素濃度計5を介し、区画内部に送り込まれる。酸素濃度計5は、調整後のNEAの酸素濃度が調整通りなっているか確認するため、NEAの酸素濃度を測定し流量制御ボックス4bにフィードバックする。
【0018】
以上のことにより、区画に注入されるNEAの流量と酸素濃度とを最適に調整する事ができる。よって、区画に注入されるNEAの酸素濃度を段階的に下げていくことで、同様な能力を持つ分離膜装置でより多い流量のNEAを発生し、外部からの新鮮空気の流入を効果的に防ぐことができる。それによって、区画内の酸素濃度を効率的に下げることができるので、区画火災の燃焼急拡大の発生を防ぐと共に、短時間で効率的に燃焼を抑制することができる。
【0019】
図3は、ある窒素分離膜ユニット製品により発生させたNEAの窒素濃度とNEAの流量との関係を示す図である。図3は、温度25℃、圧力0.7MPaの条件での測定値である。このように、窒素分離膜は同じ能力の膜ユニットで製品ガスであるNEAの窒素濃度が低い(空気に近い)ほど、NEAの流量は多くなる。よって、上記の実施形態のように区画内の酸素濃度に応じて段階的に酸素濃度の低い(窒素濃度が高い)NEAを注入することで、注入初期段階から酸素濃度の低いNEAを注入する場合に比べ、短時間で区画内の酸素濃度を目標値まで下げる効果があることが確認できる。
【0020】
図4は、窒素分離膜により区画に注入するNEAの窒素濃度と目標濃度(以下、設定酸素濃度と記載する)達成までの注入時間及び窒素分離膜から供給できるNEAの流量との関係を示す。区画に注入するNEAの窒素濃度が高くなるにつれ、NEAの流量は少なくなる。また、各窒素濃度のNEAを注入したときの、各設定酸素濃度(12.5%、15%、17%)達成までの注入時間は、それぞれ別の窒素濃度の時に最小値をとる。よって、区画内の酸素濃度を早く下げるには太線Lで示すようにNEAの窒素濃度を段階的に上げていくのが効率的であることが確認できる。
【0021】
なお、本実施形態の消火・防火装置の活用例としては、本実施形態の消火・防火装置を消防車等の自走車両に搭載し、本実施形態の消火・防火装置に加えて、NEAを区画に注入するNEA注入ホースと、火災空間の温度と圧力および煙などの状況を監視するための監視装置とを併設して使用する形で活用できる。ここでは、消防車等の自走車両のエンジンを動力源とし、大気中の空気からNEAを生産して区画に注入する。
【0022】
上記活用例の構成にすることで、固体可燃物を貯蔵する倉庫等に火災が発生した時、本活用形態の消防車が迅速に現場に移動して、必要な酸素濃度(例えば12%)に調整したNEAを火災現場で生産し、必要な流量のNEAを倉庫などの区画の開口部から区画内部に送り込むことができる。また、区画内の酸素濃度が目標値まで低下し、燃焼急拡大が発生する危険がなくなった時点で、水などにより残火を消火する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態にかかる消火・防火装置の構成を示すブロック図である。
【図2】区画内燃焼実験における燃焼急拡大の発生時の温度と酸素濃度等との変化を示す図である。
【図3】窒素分離膜におけるNEA内の窒素濃度とNEAの流量との関係を示す図である。
【図4】窒素分離膜により区画に注入するNEA内の窒素濃度とNEAの注入時間及び流量との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0024】
1…空気圧縮機、 2…開閉バルブ、 3…窒素分離膜ユニット、 4…NEA窒素濃度制御装置、 5…酸素濃度計、 6…外部酸素センサ、 7…区画酸素濃度測定装置、 4a…電磁式流量調節弁、 4b…流量制御ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気中の空気より窒素濃度の高い窒素富化空気を生成する窒素富化空気生成手段と、
前記窒素富化空気の窒素濃度を調整する調整手段と、
調整された前記窒素富化空気を区画内に流入する流入手段と、
前記区画から排出される空気の酸素濃度に基づき前記調整手段を制御する流量制御手段と、
を具備する事を特徴とする消火・防火装置。
【請求項2】
前記第1の流量制御手段は、前記窒素富化空気の窒素濃度を段階的に上げるように前記調整手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の消火・防火装置。
【請求項3】
大気中の空気より窒素濃度の高い窒素富化空気を生成する第1ステップと、
区画から排出される空気の酸素濃度を測定する第2ステップと、
前記第2ステップで測定された酸素濃度に基づき、前記窒素富化空気の窒素濃度を調整して前記区画内に流入させる第3ステップと、
を備える事を特徴とする消火・防火方法。
【請求項4】
前記第3ステップは、前記窒素富化空気の窒素濃度を段階的に上げるように調整することを特徴とする請求項3に記載の消火・防火方法。
【請求項5】
前記流量制御手段は、前記区画から排出される空気の酸素濃度を測定する外部酸素濃度測定手段と、
前記酸素濃度に基づき前記調整手段を制御する制御手段と、
を具備する事を特徴とする請求項1又は2に記載の消火・防火装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−222534(P2007−222534A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49791(P2006−49791)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(591078712)消防庁長官 (5)
【出願人】(000192073)株式会社モリタ (80)