説明

消臭性車両内装材用布帛

【課題】布帛本来の風合いや触感、外観を損なうことなく、生活臭、たばこ臭、ペット臭などの様々な悪臭成分に対して消臭性能を有する、消臭性車両内装材用布帛を提供する。
【解決手段】(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物と、(B)ポリヒドラジド化合物とが、(C)0.3〜7g/mのバインダー樹脂とともに、ポリエステル繊維布帛の裏面に付与されてなることを特徴とする消臭性車両内装材用布帛である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭性能を有する車両内装材用布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や電車などの車室内空間は、閉鎖された空間であるため臭いがこもりやすい。そのため、座席シート材や天井材などの車両内装材として用いられる布帛には、生活臭やたばこ臭など、様々な臭いに対する消臭性能が求められている。ここで、生活臭の悪臭成分としては、アンモニア、トリメチルアミン、酢酸、硫化水素などがあり、たばこ臭の悪臭成分としては、ホルムアルデヒド、プロパナール(即ち、プロピオンアルデヒド)、ブタナール(即ち、ブチルアルデヒド)、酢酸、硫化水素などがある。また、昨今では、ペット愛好家の増加に伴い、ペット臭に対する消臭性能が強く求められるようになってきている。ここで、ペット臭の悪臭成分としては、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド、酢酸、イソ吉草酸などがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルデヒド類を含む悪臭成分に対して有効で、洗濯などに対して耐久性のある消臭繊維を製造するために、ヒドラジン誘導体群より選ばれた化合物をポリエステル系繊維類に付与する方法が開示されている。特許文献1には、さらに、バインダー樹脂を併用することにより耐久性を向上させることができること、及び、吸着性のある無機物質を併用することにより消臭可能な悪臭成分の範囲を広げ、消臭効果を強化することができることが記載されている。しかしながら、アルデヒド類以外の悪臭成分に対する消臭効果は不十分であった。
【0004】
広範囲の悪臭成分に対し消臭効果を発揮させるために、複数の消臭剤を併用することが考えられる。しかしながら、不用意に消臭剤を配合すると、消臭剤同士の反応により本来の消臭効果が発揮されないことがあり、総合的な効果は期待できない。
【0005】
ところで、消臭剤を含む処理液を布帛に付与する方法としては、浸漬法、パディング法、コーティング法、スプレー法などが挙げられる。このうち、得られる布帛の均一性の点から、パディング法が好ましく採用されるが、パディング法により布帛の全体に消臭剤を付与したものは、布帛の風合いが粗硬になったり、触感がざらついたりするという問題があった。また、白化(消臭剤により全体が白く見える現象)や、チョークマーク(摩擦により摩擦部分が白く見える現象)が発生するなど、車両内装材用布帛としては、外観上、好ましくないものであった。
【0006】
これに対し、特許文献2には、水に難溶解性で粒子状の非ハロゲン系難燃剤と、消臭成分を不活性無機多孔質粒子に担持させた消臭剤とを、バインダー樹脂とともに、布帛の少なくとも片面、例えば裏面に、乾燥塗布量が20〜200g/mとなるようにコーティングした、車両内装材として好適な消臭性難燃性布帛が開示されている。また、該消臭成分として、アミン系化合物(ヒドラジン系化合物が好適)、金属化合物(ケイ酸亜鉛、酸化亜鉛が好適)などが開示されている。しかしながら、この場合、塗布量、特にバインダー樹脂の量が多いため、消臭剤がバインダー樹脂に埋没し、十分な消臭効果が発揮されなかったり、布帛の風合いが粗硬になったりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−273077号公報
【特許文献2】特開2008−56901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、布帛本来の風合いや触感、外観を損なうことなく、生活臭、たばこ臭、ペット臭などの様々な悪臭成分に対して消臭性能を有する、消臭性車両内装材用布帛を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る消臭性車両内装材用布帛は、(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物と、(B)ポリヒドラジド化合物とが、(C)0.3〜7g/mのバインダー樹脂とともに、ポリエステル繊維布帛の裏面に付与されてなるものである。
前記消臭性車両内装材用布帛において、ポリエステル繊維布帛に対する(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量は、0.1〜30g/mであることが好ましく、(B)ポリヒドラジド化合物の付与量は1〜30g/mであることが好ましい。
また、ポリエステル繊維布帛に対する(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量と、(B)ポリヒドラジド化合物の付与量との合計量に対する、(C)バインダー樹脂の付与量の割合は、0.4〜35重量%であることが好ましい。
また、(B)ポリヒドラジド化合物は、無機多孔質体に担持されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、布帛本来の風合いや触感、外観を損なうことなく、生活臭、たばこ臭、ペット臭などの様々な悪臭成分に対して消臭性能を有する、消臭性車両内装材用布帛を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
本発明においてポリエステル繊維布帛とは、ポリエステル繊維を主体として構成される布帛を意味する。該ポリエステル繊維布帛としては、ポリエステル繊維単独で構成されるものはもちろん、その物性に影響を及ぼさない範囲で、ポリエステル繊維以外の繊維(例えば、ポリエステル繊維以外の合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維など)を混紡、混繊、交撚、交織、交編などの手法により組み合わせたものであっても構わない。
【0013】
ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどを挙げることができるが、これに限定されるものでなく、第3成分として、例えば、イソフタル酸スルホネート、アジピン酸、イソフタル酸、ポリエチレングリコールなどを共重合して得られる繊維、またはこれらの共重合体やポリエチレングリコールをブレンドして得られる繊維であってもよい。これらの繊維は、1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、物性に優れ、安価に入手可能という理由により、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0014】
布帛の形態としては、特に限定されるものでなく、例えば、織物、編物、不織布などを挙げることができる。なお、本発明において布帛の裏面とは、車両内装材として用いた場合に、車室内空間と接しない側の一面をさすものとする。
【0015】
本発明の消臭性車両内装材用布帛は、前記ポリエステル繊維布帛の裏面に、消臭剤成分として、(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物と、(B)ポリヒドラジド化合物とが、(C)バインダー樹脂とともに付与されてなるものである。これら(A)〜(C)成分を含む組成物が布帛の裏面にのみ付与されることにより、車両内装材として用いた場合、表(オモテ)面、すなわち、車室内空間と接する側(人体と接する側)の一面は布帛本来の触感や外観が維持されているため、使用感に優れたものとなる。また、仮に白化やチョークマークが発生したとしても、裏面での発生にとどまるため、実用上、大きな問題となることがない。
【0016】
本発明において用いられる(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物は、特に限定されるものでなく、例えば、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との無定形複合物を挙げることができる。かかる無定形複合物は、例えば、ケイ酸ナトリウムの水溶液と、塩化亜鉛や硫酸亜鉛などの水溶性亜鉛化合物の水溶液とを混合して反応させて、ゲル状の二酸化ケイ素と酸化亜鉛との無定形複合物スラリーを調製し、乾燥させることにより得られる。亜鉛化合物を用いることで、アンモニア、トリメチルアミン(以上、生活臭)、酢酸(生活臭、たばこ臭、ペット臭)、硫化水素(生活臭、たばこ臭)、イソ吉草酸(ペット臭)などの悪臭成分が、亜鉛との配位結合により化学吸着され、消臭効果が発揮される。また、消臭性能を有する亜鉛を酸化物とし、二酸化ケイ素との複合物にすることで、消臭剤成分を活性な状態で安定化させ、消臭効果の持続性を高めることができる。さらに、吸着した悪臭成分の再放出もほとんどない。
【0017】
ここで、二酸化ケイ素と酸化亜鉛との重量比は、二酸化ケイ素:酸化亜鉛=1:10〜10:1であることが好ましく、1:5〜5:1であることがより好ましい。重量比がこの範囲であると、消臭剤成分を安定化させる効果に優れている。また、吸着性の観点から、該複合物は多孔質体、特には比表面積が50m/g以上の多孔質体であることが好ましい。さらに、得られる布帛の風合いの観点から、該複合物の平均粒径は10μm以下であることが好ましい。
【0018】
ポリエステル繊維布帛に対する二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量(乾燥重量)は、0.1〜30g/mであることが好ましく、1〜20g/mであることがより好ましい。付与量が0.1g/m未満であると、十分な消臭効果が得られない虞がある。付与量が30g/mを超えると、布帛の風合いが粗硬になる虞がある。該付着量の更に好ましい上限は15g/mであり、更により好ましい上限は10g/mであり、特に好ましい上限は5g/mである。
【0019】
次に、もう1つの消臭剤成分である(B)ポリヒドラジド化合物について説明する。
ポリヒドラジド化合物とは、1分子中に2個以上のヒドラジド基(−NH−NH)を有する化合物をいう。ポリヒドラジド化合物を用いることで、ホルムアルデヒド、プロパナール、ブタナール(以上、たばこ臭)、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒド(以上、ペット臭)などの悪臭成分が、ポリヒドラジド化合物との脱水縮合反応により化学吸着され、消臭効果が発揮される。具体的には、ポリヒドラジド化合物のヒドラジド基と、アルデヒド類のアルデヒド基との間で、脱水縮合反応が起こる。前記の通り、酸化亜鉛(二酸化ケイ素との複合物として用いられる)では、アルデヒド類を悪臭成分とする臭いに対する消臭効果が期待できないが、ポリヒドラジド化合物を併用することにより、前記弱点を補い、生活臭、たばこ臭、ペット臭などの様々な悪臭成分に対して、広く効果を発揮することができる。
【0020】
ポリヒドラジド化合物として具体的には、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、ドデカンジヒドラジド、ヘキサデカンジヒドラジド、ナフトエジヒドラジド、ベンゼンジヒドラジド、ピリジンジヒドラジド、シクロヘキサンジヒドラジド、ピロメリット酸ジヒドラジド(以上、1分子中に2個のヒドラジド基を有するジヒドラジド化合物)、クエン酸トリヒドラジド、トリニトロ酢酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、エチレンジアミン四酢酸テトラヒドラジド、ナフトエ酸テトラヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド(以上、1分子中に3個以上のヒドラジド基を有するポリヒドラジド化合物)などを挙げることができる。これらは、1種単独で、または2種以上組み合せて用いることができる。
【0021】
前記ポリヒドラジド化合物のなかでも、単位重量当たりの反応するヒドラジド基の量が多く、高い消臭効果が得られるという観点から、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタン酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、トリニトロ酢酸トリヒドラジド、およびナフトエ酸テトラヒドラジドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0022】
ポリヒドラジド化合物は、金属と配位結合して錯体を形成していてもよい。金属錯体とすることにより、広範囲の悪臭成分に対し消臭効果を発揮させることができる。金属錯体を形成する金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属などを挙げることができ、目的とする悪臭成分に応じて適宜選択すればよい。なかでも、消臭効果の観点から、銀、銅、亜鉛、鉛、鉄、アルミニウム、インジウム、スズ、チタン、マンガン、ニッケル、コバルト、白金、およびパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
ポリヒドラジド化合物の金属錯体は、公知の方法、例えば、溶液法などにより製造することができる。具体的には、例えば所望の金属の塩化物などとポリヒドラジド化合物を溶媒に溶解、撹拌することにより、所望の金属とポリヒドラジド化合物との錯体を得ることができる。
【0024】
さらに、ポリヒドラジド化合物(金属錯体を含む、以下同様)は、無機多孔質体に担持されていてもよい。悪臭成分が無機多孔質体に物理吸着されることにより、より高い消臭効果を得ることができる。
【0025】
無機多孔質体として具体的には、例えば、シリカゲル、シリカエアロゾル、コロイダルシリカ等のシリカ系無機多孔質体;活性アルミナ等のアルミナ系無機多孔質体;アルミノシリケートゼオライト、メタロシリケートゼオライト、アルミノリン酸塩ゼオライト等のゼオライト系無機多孔質体;カオリナイト、モンモリロナイト、雲母等のケイ酸塩鉱物系無機多孔質体;メソポーラスシリカ等のメソポーラス系無機多孔質体;ヒドロキシアパタイト、層状リン酸ジルコニウム、ヘテロポリ酸塩、多孔性酸化マンガンをはじめとする金属酸化物や水酸化物等の無機多孔質体などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、消臭効果、安全性の観点から、ケイ酸塩鉱物系無機多孔質体が好ましく、フィロケイ酸塩鉱物系無機多孔質体がより好ましい。
【0026】
フィロケイ酸塩鉱物系無機多孔質体としてより具体的には、例えば、カオリナイト、スメクタイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト、タルク、ゼオライト等の粘土鉱物;白雲母、金雲母、黒雲母、フッ素金雲母、フッ素四ケイ素雲母、絹雲母、ソーダ雲母、バナジン雲母、鉄雲母、チンワルド雲母、クロム雲母、真珠雲母、リチア雲母、紅雲母等の雲母類などを挙げることができる。
【0027】
ポリヒドラジド化合物を無機多孔質体に担持させる方法としては、公知の方法、例えば、溶液含浸法などを挙げることができる。無機多孔質体に担持させるポリヒドラジド化合物の量は、無機多孔質体に対して0.1〜50重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましい。
【0028】
ポリエステル繊維布帛に対するポリヒドラジド化合物の付与量(乾燥重量)は、それ単独で、あるいは金属錯体である場合には金属との合計量として、さらに無機多孔質体に担持されている場合は無機多孔質体との合計量として、1〜30g/mであることが好ましく、3〜15g/mであることがより好ましい。付与量が1g/m未満であると、十分な消臭効果が得られない虞がある。付与量が30g/mを超えると、風合いが粗硬になる虞がある。
【0029】
本発明において、前記消臭剤成分(A)および(B)は、(C)バインダー樹脂とともに、ポリエステル繊維布帛の裏面に付与される。
バインダー樹脂としては、特に限定されるものでなく、通常の繊維加工用のバインダー樹脂を用いることができる。具体的には、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂などである。なかでも、布帛の風合いへの影響が少なく、かつ、耐久性に優れるという理由により、ウレタン樹脂が好ましい。
【0030】
ポリエステル繊維布帛に対するバインダー樹脂の付与量(乾燥重量)は、0.3〜7g/mであることが求められ、0.6〜2g/mであることが好ましい。バインダー樹脂の付与量を前記範囲に設定し、これを介して消臭剤成分(A)及び(B)を布帛の裏面に付与することにより、布帛本来の風合いや触感、外観を損なうことなく、消臭性能を具備させることができる。また、消臭剤成分(A)及び(B)をバインダー樹脂に埋没させないようにすることができ、十分な消臭効果、特には、即効性に優れた消臭効果を発揮させることができる。また、一般に、バインダー樹脂として用いられる合成樹脂は、熱を加えることにより有機物が分解して燃えやすくなるという性質がある。そのため、これを付与した布帛では、燃焼性が著しく上昇する傾向にある。ところが、バインダー樹脂の付与量を前記範囲に設定することにより、燃焼性の上昇を最小限にとどめることができる。すなわち、耐燃焼性に優れる。付与量が0.3g/m未満であると、消臭剤成分を十分に固着することができず、消臭剤成分が脱落する虞がある。付与量が7g/mを超えると、布帛の風合いが粗硬になったり、燃焼性が著しく上昇したりする虞がある。
【0031】
このとき、(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量(乾燥重量)と、(B)ポリヒドラジド化合物の付与量(乾燥重量)との合計量に対する、(C)バインダー樹脂の付与量(乾燥重量)の割合(即ち、(C)成分の乾燥重量/{(A)成分の乾燥重量+(B)成分の乾燥重量}×100(%))は、0.4〜80重量%とすることもできるが、好ましくは0.4〜35重量%である。より好ましい下限は0.75重量%以上、更に好ましい下限は1.5重量%以上、特に好ましい下限は3重量%以上である。より好ましい上限は20重量%以下である。このようにバインダー樹脂の付与量とともに、その割合も小さく設定することにより、消臭剤成分(A)及び(B)は、バインダー樹脂に埋没することなく、バインダー樹脂を介してポリエステル繊維布帛に保持されることになる。そのため、消臭効果の即効性をより高めることができる。この割合が0.4重量%未満であると、車両内装材、特には座席シート材のように、人が繰り返し乗り降りする部位に用いる場合には、消臭剤成分が脱落しやすく、消臭効果の耐久性が不十分となる虞がある。この割合が35重量%を超えると、消臭剤成分がバインダー樹脂に埋没し、十分な消臭効果が発揮されない虞がある。
【0032】
本発明の消臭性車両内装材用布帛は、以上に説明した(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物、(B)ポリヒドラジド化合物、および(C)バインダー樹脂を水に分散させてなる処理液を、ポリエステル繊維布帛の裏面に付与し、次いで、乾燥およびキュアすることにより製造することができる。
【0033】
処理液を布帛の裏面に付与する方法としては、特に限定されるものでなく、スプレー法、グラビア法、コーティング法などを挙げることができる。なかでも、得られる布帛の風合いの観点から、グラビア法が好ましい。なお、処理液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、難燃剤、柔軟剤など、他の機能性成分を添加してもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでない。
なお、実施例中の評価は、以下の方法に従った。
【0035】
(1)消臭性能
アンモニア(生活臭)、トリメチルアミン(生活臭)、酢酸(生活臭、たばこ臭、ペット臭)、硫化水素(生活臭、たばこ臭)、イソ吉草酸(ペット臭)、ホルムアルデヒド(たばこ臭)、プロパナール(たばこ臭)、ブタナール(たばこ臭)、アセトアルデヒド(ペット臭)、イソバレルアルデヒド(ペット臭)などの悪臭成分に対する消臭性を評価した。
【0036】
アンモニアに対する消臭率
20cm×20cmにカットした試験片を、アクリル板でつくられた25cm×25cm×40cm(高さ)の箱の内壁に貼り付け、密封した。試験片は、その裏面を、テープを用いて、箱内壁に貼り付けた。
箱上部のアクリル板に設けられた小さな開口部より、臭源としてアンモニア水溶液(28重量%)を、箱内のアンモニア濃度が80ppmとなるように適量を滴下した後、20℃×65%Rhの雰囲気に放置した。
アンモニア水溶液を滴下してから15分間および120分間経過後、箱内の残留アンモニア濃度を検知管(光明理化学工業株式会社製、北川式Tube No.105SC)を用いて測定した。このとき得られる測定値をA(ppm)とした。
また、ブランクとして、試験片を入れないで同様に操作し、残留アンモニア濃度を測定した。このとき得られる測定値をB(ppm)とした。下記式により消臭率(%)を算出した。
消臭率(%)=(B−A)/B×100
【0037】
トリメチルアミン、酢酸、イソ吉草酸、ホルムアルデヒド、プロパナール、ブタナール、アセトアルデヒド、イソバレルアルデヒドに対する消臭率
アンモニアに対する消臭率の算出と同様にして、各種悪臭成分に対する消臭率を算出した。悪臭成分の初期濃度、および用いた検知管の種類は表1の通りである。
【0038】
【表1】

【0039】
硫化水素に対する消臭率
におい袋(株式会社近江オドエアーサービス製)の中に、200mlのガラス製ピストンを用いて空気3リットルを注入した後、さらに、濃塩酸350μlと硫化ナトリウム・9水和物水溶液(0.64mol/l)75μlを注入して硫化水素を発生させ、20℃×65%Rhの雰囲気に30分間放置した。
次いで、別のにおい袋の中に、袋内の硫化水素濃度が20ppmとなるように、前記で発生させた硫化水素と、空気を、あわせて3.5リットル注入した。
さらに別のにおい袋の中に、タテ10cm×ヨコ14.5cmにカットした試験片を入れ、前記の硫化水素を20ppmの濃度で含む空気3リットルを注入した後、20℃×65%Rhの雰囲気に放置した。
硫化水素を含む空気を注入してから15分間および120分間経過後、試験片を入れたにおい袋内の残留硫化水素濃度を、検知管(株式会社ガステック製、ガステック4LK)を用いて測定した。このとき得られる測定値を、A(ppm)とした。
また、ブランクとして、試験片を入れないで同様に操作し、残留硫化水素濃度を測定した。このとき得られる測定値をB(ppm)とした。前記式により消臭率(%)を算出した。
【0040】
(2)風合い
JIS L1079に定めるカンチレバー法に従い、タテ方向およびヨコ方向の剛軟度を測定し、以下の基準に従って判定した。この数値が大きいほど、風合いが硬いことを意味する。
○:タテ方向およびヨコ方向の剛軟度のいずれもが、未加工布の剛軟度に比べて130%未満のもの。
△:タテ方向およびヨコ方向の剛軟度のうち数値の大きい方が、未加工布の剛軟度に比べて130%以上160%未満のもの。
×:タテ方向およびヨコ方向の剛軟度のうち数値の大きい方が、未加工布の剛軟度に比べて160%以上のもの。
【0041】
(3)消臭剤の脱落
試験片を20回揉んだ後、試験片裏面の揉んだ部分を指で弾き、消臭剤の脱落を、以下の基準に従って判定した。
○:消臭剤の脱落が認められない。
△:消臭剤の脱落がわずかに認められる。
×:消臭剤の脱落が明らかに認められる。
【0042】
(4)耐燃焼性
米国自動車安全基準FMVSS302の試験方法に準拠して評価した。長さ350mm×幅100mmにカットした試験片の端部に、ガスバーナーで15秒間接炎させ、着火操作を行い、着火した炎が端部から38mmの位置に設けた標線を越えてから消火するまでの距離と時間を測定した。タテ方向、ヨコ方向でそれぞれ10点ずつ測定し、燃焼速度を算出し、以下の基準に従って判定した。
○:試験片に着火しなかったもの、または、着火した炎が標線前に消火したものであり、耐燃焼性に優れる。
△:燃焼速度の最大値が80mm/分以下のものであり、耐燃焼性にやや劣る。
×:燃焼速度の最大値が80mm/分を超えるものであり、耐燃焼性に劣る。
【0043】
[実施例1]
(A)成分の調製
下記組成の水溶液a〜dを調製した。
(水溶液a)
硫酸亜鉛・7水和物(純度:81重量%)19.8g(0.056mol)を水50mlに溶解させた。
(水溶液b)
3号ケイ酸ナトリウム(モル比:NaO/SiO=1/3.2、NaO含有量:7.0重量%、SiO含有量:22.0重量%)50g(NaO:0.056mol、SiO:0.18mol)を水170mlに溶解させた。
(水溶液c)
硫酸亜鉛水溶液(0.67mmol/l)1リットルを準備した。
(水溶液d)
3号ケイ酸ナトリウム(モル比:NaO/SiO=1/3.2、NaO含有量:7.0重量%、SiO含有量:22.0重量%)0.18g(NaO:0.20mmol、SiO:0.66mmol)を水に溶解させて全量を1リットルとした。
【0044】
水溶液aと水溶液bとを室温で混合し、90分間撹拌して反応させた。反応により得られたゲルのスラリー200mlを3リットルの容器に採取し、液温40℃で撹拌しながら、水溶液cおよび水溶液dをそれぞれ5.5ml/分の速さで同時に滴下した後、40℃で60分間撹拌して反応させた。反応により得られたスラリーをフィルターで濾過し、フィルター上の残留物を回収した。回収した残留物を水で洗浄した後、110℃で乾燥させ、さらに粉砕して、(A)成分を得た。
【0045】
(B)成分の調製
コハク酸ジエチル35.0gをエタノール(純度:99.5重量%)200mlに溶解させ、さらにヒドラジン1水和物50mlを添加し、液温60℃で撹拌して反応させた。反応により得られた白色析出物を、濾過により回収し、洗浄した後、乾燥させ、コハク酸ジヒドラジドを得た。
得られたコハク酸ジヒドラジド35.0gを水2リットルに溶解させ、さらにフッ素金雲母100gを添加して、15時間撹拌して、コハク酸ジヒドラジドをフッ素金雲母に担持させた。得られた担持物を、濾過により回収し、水で洗浄した後、110℃で乾燥させ、(B)成分を得た。
【0046】
処理液の調製
前記で得られた(A)成分及び(B)成分とともに、(C)バインダー樹脂としてウレタン樹脂(第一工業製薬株式会社製、スーパーフレックスE2000、固形分:50重量%)、および水を以下の組成で混合して、分散液を調製した。このとき、(A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は、6.48重量%であった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 0.7重量%
水 93.9重量%
【0047】
消臭性布帛の調製
ポリエステル繊維からなるダブルラッセル立体編物(目付:303g/m)の裏面に、前記で得られた処理液を、付与量が湿潤状態で168g/mとなるようにグラビア法にて付与し、次いで、乾燥機にて100℃で3分間熱処理して乾燥した。さらに、ヒートセッターにて130℃で1分間熱処理してキュアならびに仕上げセットし、本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、0.59g/mであり、その合計量は9.7g/mであった。
【0048】
[実施例2]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は3.70重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、0.34g/mであり、その合計量は9.4g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 0.4重量%
水 94.2重量%
【0049】
[実施例3]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は76.85重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、6.97g/mであり、その合計量は16.0g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 8.3重量%
水 86.3重量%
【0050】
[実施例4]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は34.58重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、5.88g/m、14.28g/m、6.97g/mであり、その合計量は27.1g/mであった。
(A)成分 3.5重量%
(B)成分 8.5重量%
(C)バインダー樹脂 8.3重量%
水 79.7重量%
【0051】
[実施例5]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は1.75重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、5.54g/m、28.06g/m、0.59g/mであり、その合計量は34.2g/mであった。
(A)成分 3.3重量%
(B)成分 16.7重量%
(C)バインダー樹脂 0.7重量%
水 79.3重量%
【0052】
[実施例6]
(C)バインダー樹脂としてアクリル樹脂(大和化学工業株式会社製、ファイコート30G、固形分:25重量%)を用い、下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は6.48重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして本発明の消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、0.59g/mであり、その合計量は9.7g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 1.4重量%
水 93.2重量%
【0053】
[比較例1]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は1.85重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、0.17g/mであり、その合計量は9.2g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 0.2重量%
水 94.4重量%
【0054】
[比較例2]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は83.33重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、7.56g/mであり、その合計量は16.6g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 9.0重量%
水 85.6重量%
【0055】
[比較例3]
下記組成の処理液((A)成分と(B)成分との合計量(乾燥重量)に対する(C)バインダー樹脂の量(乾燥重量)の割合は112.04重量%)を用いた以外は、実施例1と同様にして消臭性布帛を得た。このとき、(A)〜(C)成分の付与量(乾燥重量)は、それぞれ、2.02g/m、7.06g/m、10.16g/mであり、その合計量は19.2g/mであった。
(A)成分 1.2重量%
(B)成分 4.2重量%
(C)バインダー樹脂 12.1重量%
水 82.5重量%
【0056】
実施例および比較例の消臭性布帛について評価した結果を表2に示す。
実施例1〜6の消臭性布帛は、いずれも、各種の悪臭成分に対して、優れた消臭効果を発揮した。特に、アンモニアや硫化水素に対しては、即効的に効果を発揮した。また、消臭剤の脱落もなく、さらには、布帛本来の風合いや外観が維持されており、燃焼性も問題のないレベルであった。
一方、比較例1の消臭性布帛では、消臭剤の脱落が認められた。比較例2、3の消臭性布帛では、十分な消臭効果が得られず、さらには風合いの硬いものであった。また、比較例2の消臭性布帛では、燃焼性の上昇がやや認められ、比較例3の消臭性布帛では、燃焼性の上昇が著しく認められ、耐燃焼性に劣るものであった。
なお、消臭性布帛の表(オモテ)面の外観および触感は、実施例および比較例ともに問題ないレベルであった。
【0057】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物と、(B)ポリヒドラジド化合物とが、(C)0.3〜7g/mのバインダー樹脂とともに、ポリエステル繊維布帛の裏面に付与されてなることを特徴とする消臭性車両内装材用布帛。
【請求項2】
ポリエステル繊維布帛に対する(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量が0.1〜30g/mであり、(B)ポリヒドラジド化合物の付与量が1〜30g/mであることを特徴とする、請求項1に記載の消臭性車両内装材用布帛。
【請求項3】
ポリエステル繊維布帛に対する(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物の付与量と、(B)ポリヒドラジド化合物の付与量との合計量に対する、(C)バインダー樹脂の付与量の割合が、0.4〜35重量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の消臭性車両内装材用布帛。
【請求項4】
(B)ポリヒドラジド化合物が無機多孔質体に担持されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の消臭性車両内装材用布帛。
【請求項5】
前記無機多孔質体が、フィロケイ酸塩鉱物系無機多孔質体であることを特徴とする、請求項4記載の消臭性車両内装材用布帛。
【請求項6】
(A)二酸化ケイ素と酸化亜鉛との複合物及び(B)ポリヒドラジド化合物からなる消臭剤成分が、(C)バインダー樹脂に埋没することなく、(C)バインダー樹脂を介して前記ポリエステル繊維布帛に保持されたことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の消臭性車両内装材用布帛。

【公開番号】特開2011−1679(P2011−1679A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116324(P2010−116324)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】