説明

消臭液、その調製方法およびその調製キット

【課題】 人体に対して安全であり、金属等を劣化させず、安価で持続性の高い消臭剤を提供すること。
【解決手段】 枯草菌を7.6×10個/ml以上、1.9×10個/ml以下の菌体濃度で含む消臭液を、提供する。この消臭液は、増殖させることが容易な枯草菌を使用するので、安価に大量生産することができる。また、枯草菌は、芽胞を形成する性質があり、耐熱性に優れているので、この消臭液とその希釈用の原液は、保管が容易である。さらに、この発明の消臭液は、7.6×10個/ml〜1.9×10個/mlの菌体濃度で枯草菌を含むことにより、枯草菌の速やかな増殖を可能にするため、消臭の原因となる菌類を駆逐することができ、効率よく悪臭を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、腐敗臭などの消臭に用いられる消臭液、その調製方法およびその調製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴミや屎尿などの臭いを消臭する方法として、オゾンによる酸化などの化学反応により臭い分子を無臭の成分に変える方法や、活性炭を用いて臭い分子を吸着させる方法が、周知である。さらにはまた、悪臭の元となる臭い分子をシクロデキストリン等の分子と複合化させることによって消臭する方法も、周知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
オゾンのような酸化剤などを使用する場合、金属製品に対して用いると、さびによる金属製品の劣化を招く恐れがある。また、腐敗臭などの有機性の悪臭を分解する成分は、人体に有害である場合が多い。活性炭は、高価であるにもかかわらず、交換を頻繁にしなければならないという問題がある。シクロデキストリンなどにより臭い分子を取り込む方法もまた、コストの高いものになりがちな上に、効果が持続しにくいという難点がある。
このような観点からすると、人体に対して安全であり、金属等を劣化させず、安価で持続性の高い消臭剤が、必要とされているということができよう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するためのこの発明は、枯草菌を7.6×10個/ml〜1.9×10個/mlの菌体濃度で含む消臭液に関する。
前記消臭液において、前記枯草菌は、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・フィルコロニカス(Bacillus filicolonicus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・スパリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)およびバチルス・サブティリス亜種サブティリス(Bacillus subtilis subsp subtilis)から成る群より選択される少なくとも1種の枯草菌である。
前記消臭液においてはまた、前記枯草菌は、活性状態にある。
【0005】
さらに、この発明は、前記消臭液の調製方法にも関する。
前記方法において、前記消臭液は、4.0×10個/ml以上であって1.0×10個/ml以下の菌体濃度である非活性状態の前記枯草菌を含む原液を希釈して7.6×10個/ml〜1.9×10個/mlの菌体濃度に希釈する希釈工程と、希釈した前記原液を40℃〜60℃で加熱することにより前記枯草菌を活性化させる活性化工程とを包含する。
【0006】
さらに、この発明は、前記調製方法を前記消臭液の使用者に知らせる手段を前記原液と共に含む消臭液調製キットに関する。
【発明の効果】
【0007】
この発明の消臭液は、増殖させることが容易な枯草菌を使用するので、安価に大量生産することができる。また、枯草菌は、芽胞を形成する性質があり、耐熱性に優れているので、この消臭液とその希釈用の原液は、保管が容易である。さらに、この発明の消臭液は、7.6×10個/ml〜1.9×10個/mlの菌体濃度で枯草菌を含むことにより、枯草菌の速やかな増殖を可能にするため、消臭の原因となる菌類の働きを抑制することができ、効率よく悪臭を除去することができる。
この発明の消臭液の一態様において、枯草菌は、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・フィルコロニカス(Bacillus filicolonicus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・スパリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)およびバチルス・サブティリス亜種サブティリス(Bacillus subtilis subsp subtilis)から成る群より選択される少なくとも1種の枯草菌であるため、人体に無害であり、環境に衛生上の悪影響を与えることがない。
また、この発明の消臭液に含まれる枯草菌は、活性状態であるため、散布されるとすぐに増殖して、消臭効果が速やかに現れる。
この発明の消臭液の調製方法では、非活性状態の枯草菌を4.0×10個/ml以上であって1.0×10個/ml以下の菌体濃度で含む原液から、消臭液が調製される。この原液は、菌体を高濃度で含有していることに加えて、菌体が非活性状態であることによって消臭液よりも保存安定性がさらに高いため、消臭液に代えて保存、輸送をする上において有利である。
この発明の消臭液調製用のキットでは、消臭液の調製方法を使用者に知らせる手段と消臭液の原液とを含むから、使用者が容易に消臭液を調製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各希釈濃度における枯草菌の増殖実験の結果を示す。
【図2】各希釈濃度における枯草菌の増殖実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明に係る消臭液は、7.6×10個/ml以上であって1.9×10個/ml以下の菌体濃度である枯草菌を含む。菌類が増殖する際、増殖前の菌体数が大きいほど増殖後の菌体数も大きくなるのが一般的であるが、枯草菌は、増殖が始まる際に密集状態にある場合には増殖しないという性質があるため、この発明において、枯草菌の増殖に最適な濃度を決定した。本明細書中で、枯草菌の菌体数を示す数字は全て、有効数字2桁で記されている。ここで、枯草菌は、好ましくは、バチルス・アシドカルダリウス(Bacillus acidocaldarius)、バチルス・アルベイ(Bacillus alvei)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)、バチルス・フィルコロニカス(Bacillus filicolonicus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・プミルス(Bacillus pumilus)、バチルス・スパリカス(Bacillus sphaericus)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)およびバチルス・サブティリス亜種サブティリス(Bacillus subtilis subsp subtilis)から成る群より選択される。枯草菌は、上記の群のうち1種を含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。好ましくは、枯草菌は、上記の群のうち1〜5種を含み、最も好ましくは、5種を含む。
【0010】
好ましい消臭液の使用形態において、枯草菌は、活性状態にある。本明細書中において、枯草菌の「活性状態」とは、芽胞から発芽した状態を意味し、「非活性状態」とは、芽胞を形成した休眠状態を意味する。
【0011】
この発明に係る消臭液の調製方法においては、非活性状態の枯草菌を4.0×10個/ml以上であって1.0×10個/ml以下の菌体濃度で含む原液を、7.6×10個/ml〜1.9×10個/mlの菌体濃度にまで希釈し、加熱して活性化させることによって消臭液を得る。この原液は、保管の際に安定的である。この原液は、酢酸緩衝液や水などによって希釈することができる。水道水での希釈が、一般的には簡便である。
非活性状態にある枯草菌の活性化条件は、40℃〜60℃で20分間〜60分間の加熱であり、好ましくは、45℃〜50℃での加熱である。
上記条件で非活性状態の枯草菌を加熱することにより、枯草菌が芽胞から発芽し、栄養条件下で増殖可能な活性状態となる。ここで、栄養条件下とは、ソイビーンカゼインダイジェスト培地等の培養培地、あるいは生ゴミまたは屎尿等の、枯草菌が栄養を吸収し得る物質の存在下にあることを意味する。
【0012】
この発明に係るキットにおいては、消臭液を調製するための原液が、調製方法を使用者に知らせる手段と共に提供される。
使用者に知らせる手段としては、例えば、文字または絵によって調製方法が分かりやすく書いてある取り扱い説明書、原液の収容容器、原液を希釈する際に用いるための容器、それら容器に貼付するためのラベルなどが挙げられる。上記手段は、使用方法を説明した音声もしくは画像またはその両方を記録した、記録媒体であってもよい。
【実施例1】
【0013】
(枯草菌液Aに含まれる枯草菌の菌体濃度測定)
枯草菌液Aにおける枯草菌の菌体濃度を測定した。この枯草菌液Aは、枯草菌以外の細菌および真菌を含んでいない。
(測定方法)
枯草菌液Aに含まれる枯草菌の菌体濃度を、以下のように測定した。
(1)無菌条件下において、枯草菌液Aを、滅菌水で4,000倍に希釈し、さらに、高圧蒸気滅菌した0.1%Tween80溶液による10倍希釈を3回繰り返し、枯草菌液Aの4×10倍、4×10倍および4×10倍の段階希釈系列を調製した。
(2)各段階希釈液0.5mlを滅菌済みシャーレ3枚に移し、高圧蒸気滅菌し50℃で保温してあったソイビーンカゼインダイジェスト寒天培地(和光純薬)20mlをシャーレの中に分注して軽く撹拌後、培地を固化させた。
(3)30〜35℃で24時間培養し、コロニー数を計数した。
(結果)
菌数測定結果は、4×10倍の希釈液について、シャーレ1枚あたり94個、84個および104個であった。すなわち、平均するとシャーレ1枚あたり94個であった。
従って、4,000倍に希釈した枯草菌液Aに含まれていた枯草菌の菌体濃度は、1.9×10個/mlであり、原液の枯草菌液Aの菌体濃度は、7.6×10個/mlであった。
【実施例2】
【0014】
(枯草菌液Aの各希釈倍率における増殖実験)
(方法)
(1)実施例1で用いた枯草菌液Aに対し、無菌条件下において、高圧蒸気滅菌したソイビーンカゼインダイジェスト培地(和光純薬)による10倍希釈を繰り返し行い、10〜10倍の段階希釈系列を調製した(実験1)。同様にして、10倍、10倍、10倍、2×10倍、4×10倍、6×10倍、8×10倍及び10倍の段階希釈系列を調製した(実験2)。
(2)各希釈系列を40℃で1時間加熱した後、35℃で36時間培養した。培養後、菌の増殖による培地の濁りを目視により判定した。
(結果)
実験1の結果を図1に示す。図1において、菌の増殖の項目を「+」と記載したものは増殖による濁りが見られたもの、「−」と記載したものは増殖による濁りが見られなかったものを示す。図1から明らかなように、10倍以上希釈したサンプルには全て培地の濁りが見られた。
また、実験2の結果を図2に示す。図2において、菌の増殖の項目を「+」と記載したものは増殖による濁りが見られたもの、「−」と記載したものは増殖による濁りが見られなかったものを示す。図2から明らかなように、2×10倍の希釈では培地の濁りが見られなかったが、4×10倍以上の希釈では培地の濁りが見られた。
従って、枯草菌液Aを、4×10倍〜10倍に希釈することにより、枯草菌の増殖に適した濃度になることが分かった。すなわち、枯草菌の増殖に適した濃度とは、1.9×10個/ml以下、7.6×10個/ml以上の濃度である。
【実施例3】
【0015】
(消臭液の消臭効果の官能試験)
(方法)
(嫌気性細菌の培養)
(1)滅菌済みシャーレにて固化させた標準寒天培地(日水製薬)に、天然由来の凍結乾燥させた偏性嫌気性細菌クロストリジウム・スパロゼネス(Clostridium sporogenes)を塗沫し、30℃の恒温器中で48〜72時間培養後、コロニーの形成を確認した。
(2)250mlの滅菌済みバイアル瓶にソイビーンカゼインダイジェスト培地(和光純薬)を入れ、ここに手順(1)で形成を確認したコロニーの1つを接種し、ゴム栓にて密栓した。30℃の恒温器中で3日間培養した。
(3)培養後、培地のpHを確認したところ、pH5.95であった。これを、滅菌済みのソレンセン(Sorensen)リン酸塩緩衝液(pH7)を用いて、pH6.10に調整した。これを500mlの滅菌済み振盪培養用三角フラスコ2本(A,B)に100mlずつ分注し、シリコンセン(登録商標)をした。
(枯草菌液Aの添加)
(5)滅菌水で4.0×10倍希釈した枯草菌液Aを45℃で30分間加熱したもの10mlを消臭液のサンプルとし、三角フラスコAに添加した。対照サンプルとして、三角フラスコBに滅菌水10mlを添加した。
(6)三角フラスコA,Bを、振盪培養機(B.BRAUN製CERTOMAT(登録商標)U)にて30℃にて振盪培養した。
(7)三角フラスコA,Bの振盪培養開始24時間後、シリコンセン(登録商標)を外し、さらにサンプルおよび対照サンプルそれぞれ10mlを、それぞれ三角フラスコA,Bに添加した。再びシリコンセン(登録商標)にて密栓し、さらに振盪培養を行った。
(8)三角フラスコA,Bの振盪培養開始48時間後、シリコンセン(登録商標)を外し、さらにサンプルおよび対照サンプルそれぞれ10mlを、それぞれ三角フラスコA,Bに添加した。ここで、臭気判定士により、フラスコ中の臭気の判定を行った。再びシリコンセン(登録商標)にて密栓し、さらに振盪培養を行った。
(9)三角フラスコA,Bの振盪培養開始72時間後、シリコンセン(登録商標)を外し、さらにサンプルおよび対照サンプルそれぞれ10mlを、それぞれ三角フラスコA,Bに添加した。再びシリコンセン(登録商標)にて密栓し、さらに振盪培養を行った。
(10)三角フラスコA,Bの振盪培養開始96時間後、シリコンセン(登録商標)を外し、さらにサンプルおよび対照サンプルそれぞれ10mlを、それぞれ三角フラスコA,Bに添加した。ここで、1人の臭気判定士により、フラスコ中の臭気の判定を行った。
(結果)
臭気の判定を、10段階評価で示す。最も弱い臭気を1とし、最も強い臭気を10とした。
結果は、以下の表1の通りであった。
【0016】
【表1】

【0017】
48時間後に対照サンプルを加えたフラスコBから発せられた主な臭気は、スカトールであり、96時間後に対照サンプルを加えたフラスコBから発せられた主な臭気は、アンモニアであった。
以上より、枯草菌液Aの4.0×10倍希釈液(1.9×10個/mlの菌体濃度で枯草菌を含む)には、消臭効果があることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯草菌を7.6×10個/ml以上、1.9×10個/ml以下の菌体濃度で含む消臭液。
【請求項2】
前記枯草菌が、バチルス・アシドカルダリウス、バチルス・アルベイ、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・ブレビス、バチルス・フィルコロニカス、バチルス・メガテリウム、バチルス・プミルス、バチルス・スパリカス、バチルス・サブティリスおよびバチルス・サブティリス亜種サブティリスから成る群より選択される少なくとも1種の枯草菌である、請求項1に記載の消臭液。
【請求項3】
前記枯草菌が、活性状態にある、請求項1または2に記載の消臭液。
【請求項4】
非活性状態にある前記枯草菌を4.0×10個/ml以上、1.0×10個/ml以下の菌体濃度で含む原液を用いて、請求項1〜3のいずれか1項に記載の消臭液を調製する方法。
【請求項5】
前記原液を希釈して、7.6×10個/ml以上、1.9×10個/ml以下の菌体濃度に希釈する希釈工程と、希釈した前記原液を40℃〜60℃で加熱することにより前記枯草菌を活性化させる活性化工程とを包含する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項4〜5のいずれか1項に記載の方法を使用者に知らせる手段と、請求項4〜5のいずれか1項に記載の原液とを含む消臭液調製用キット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−228203(P2012−228203A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−98529(P2011−98529)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(501099529)株式会社日本環境開発 (1)
【Fターム(参考)】