説明

消臭繊維

【課題】消臭速度が速く、脱臭力及び消臭力が高く、さらに審美性に優れ、テキスタイル製品に好適で、まったく新規な構造を持つ消臭繊維とその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】獣毛繊維よりなる消臭繊維であって、前記消臭繊維の窒素吸着によるBET比表面積は1.0m2/g以上10m2/g以下である。また、前記消臭繊維は軸方向の一部が複数の分岐状構造及び/または断面が多孔質構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛繊維より成る脱臭、消臭機能を有する消臭繊維に関する。詳しくは、タバコ臭、加齢臭などの複合ガス臭気に対して消臭能力の大きい消臭繊維に関し、衣料などのテキスタイル製品、寝具、建築用材料、消臭材などの用途に好適な消臭繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭や職場、商業、飲食、医療施設あるいは旅客車輌、自動車等の生活空間に対する環境改善や衛生管理などの面から加齢臭、タバコ臭などの生活臭あるいはその他の不快な臭いを取り除きたいとの要望が強く、消臭、脱臭性能の高い製品が嘱望されている。一般的な生活臭は複数の混合臭気であり、例えば加齢臭はノネナールなどのアルデヒド類、タバコ臭はアセトアルデヒド、アンモニア、酢酸などから構成されている。したがって酸性ガス、アルカリ性ガス、アルデヒド類などの複合的な臭気を同時に脱臭、除去できる消臭製品の開発が待ち望まれている。
【0003】
羊毛などの一般的な獣毛繊維は天然繊維でありながら消臭機能を備えており、従来からこれらの獣毛繊維の消臭効果をより高め、さらに抗菌性などを付与した多くの技術や製品が開発されている。特許文献1では、獣毛繊維に金属ポルフィラジン類を担持させた消臭繊維に,抗菌剤を付与してなる消臭抗菌性獣毛繊維が提案されている。また特許文献2では、主として羊毛又は廃羊毛からなる消臭材であって、羊毛繊維の細胞膜複合体内にチオール銅錯体を有するとともに、約10〜400重量%の水を含有する際に悪臭気体を吸着し、羊毛繊維におけるシスティン残基とシスティン残基が還元・酸化を繰り返す湿式消臭材が開示されている。さらに、特許文献3には塩素化加工された羊毛繊維が、親水性に優れ2個以上のアミノ基を有するイオン結合力のある抗菌防臭剤によって抗菌防臭加工されてなる抗菌防臭性羊毛繊維が開示されている。
【0004】
しかしながら上記した従来の技術は獣毛繊維に所定の処理を行った後、消臭剤、あるいは抗菌剤などを付与する方法であり、付与剤の脱落により消臭効果が減退する問題があった。上記金属ポルフィリン類、金属ポルフィラジン類、金属フタロシアニン類は、悪臭分子を酸化あるいは還元して、分解する触媒としての性質を有している。しかしながら、これらの消臭特性は酸化還元及び分解の速度が遅く、衣類に付着した悪臭を分解する効果は有するものの人体から発する加齢臭、タバコ臭などの臭気を積極的に吸着して除去する効果について満足できるものではなかった。
【特許文献1】特開平6−184937号公報
【特許文献2】特開平07−204257号公報
【特許文献3】特開平06−081272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は従来の問題を改善し、まったく新規な特性や構造を有する消臭繊維を提供しようとするものであり、消臭速度が速く、脱臭力及び消臭力が高く、さらに審美性に優れ、テキスタイル製品に好適で新規な構造を持つ消臭繊維とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を達成するため鋭意研究の結果、獣毛繊維のタンパク質層を部分的に分解させ洗浄及び抽出することにより、その繊維の軸方向に引き裂かれ分枝状構造や微細な多孔質構造を有する繊維に加工することができ、獣毛繊維が本来持っている消臭能力にくわえ、分枝状構造や多孔質構造にすることによって比表面積を著しく向上させ、このような構造が優れた消臭効果を発揮することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は獣毛繊維よりなる消臭繊維であって、前記消臭繊維は、軸方向の一部が複数の分岐状構造及び/または断面が多孔質構造を有することを特徴とする。
【0008】
次に発明2に係る消臭繊維は発明1において、前記消臭繊維の窒素吸着によるBET比表面積が1.0m2/g以上10m2/g以下であることを特徴とする。
【0009】
発明3に係る綿状体は、発明1及び2に係る消臭繊維から構成される綿状体であり、
前記綿状体は発明1及び2に記載の消臭繊維のみから構成されるものである。また、発明4に係る綿状体は発明1及び2に係る消臭繊維を主成分とする綿状体であり、発明1及び2に記載の消臭繊維と一般的な獣毛繊維を混合して得られる綿状体である。
【0010】
発明5に係る混紡繊維は、発明1及び2に係る消臭繊維を主成分とする混紡繊維である。また、発明6に係る混紡繊維は発明1及び2の消臭繊維と前記消臭繊維以外の繊維を含有する混紡繊維である。前記消臭繊維以外の繊維では綿、麻、絹などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、及びアセテートなどの半合成繊維から選択される繊維であって特に限定されるものではない。
【0011】
発明7に係る複合繊維は、発明1及び2に係る消臭繊維を主成分とする複合繊維である。これらの複合繊維は、前記消臭繊維と合成繊維の芯鞘構造の複合繊維、あるいは綿、麻、絹などの天然繊維、再生繊維などとの合燃による複合繊維などの形態が好ましい。
【0012】
次に発明8に係る布帛は、発明1及び2のいずれかに記載の消臭繊維、発明5または6に記載の混紡繊維、及び発明7に記載の複合繊維よりなる群れから選択される少なくとも1つの繊維から成る布帛である。
【0013】
発明9に係る衣料、寝具、消臭材、建築用材料は、発明1及び2のいずれかに記載の消臭繊維を含む消臭製品である。
【0014】
発明10に係る製造方法は本発明の消臭繊維の製造方法であり、獣毛繊維のタンパク質を分解するタンパク質分解工程と、前記工程で得られたタンパク質分解獣毛繊維を洗浄および抽出する洗浄抽出工程と、前記洗浄抽出処理獣毛繊維を乾燥する乾燥工程を備える消臭繊維の製造方法である。
【0015】
発明11に係る製造方法は、発明10に係る製造方法において、前記タンパク質分解工程がタンパク質分解液に浸漬する方法であって前記タンパク質分解液が水、アルカリ溶液、酸溶液のいずれか一つであることを特徴とする。次に発明12に係る製造方法は発明10に係る製造方法において前記洗浄抽出工程で使用する洗浄抽出液が極性有機溶液であることを特徴とする。
【0016】
発明13に係る製造方法は、発明10に係る製造方法において、前記極性有機溶液がメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールの群れから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の消臭繊維は消臭作用において、化学吸着効果の大きいカルボン酸基、アミノ基を豊富に有するため、酢酸などの酸性ガス、アンモニアなどの塩基性ガス、アルデヒド類等、タバコ臭、加齢臭などを構成する多成分の臭気に対して優れた脱臭消臭効果を有する。また本発明の消臭繊維は、軸方向の一部が複数の分岐状構造及び/又は断面が微細な多孔質構造を有するため、比表面積が大きく細毛部あるいは細孔部を有することで化学吸着効果と同時に物理的脱臭効果も有し、脱臭及び消臭能力が高い。また、本発明の消臭繊維は綿、麻、絹などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、及びアセテートなどの半合成繊維から選択される繊維と混合されて用いることによって、風合い、色相、防シワ性、保温、吸湿、吸湿発熱、撥水性など多くの優れた特性を生み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明の消臭繊維は、新規な製造方法に基づく消臭、脱臭性に優れた繊維であり、本発明の消臭繊維の電子顕微鏡写真を図1及び図2に示す。図1の写真は羊毛繊維を分枝状に加工した分枝状構造を有する羊毛消臭繊維であり、10〜90μmの繊維径を有する原毛の単繊維が、さらに、数μm程度の細かな分枝状に引き裂かれたような細毛構造を有する。また、図2は本発明の消臭繊維の軸方向の断面の電子顕微鏡写真であり軸方向と直行する断面において微細な多孔質構造を有する。図3は羊毛原毛の断面の電子顕微鏡写真である。
【0019】
このような分枝状構造や繊維の断面において微細な多孔質構造を有する本発明の消臭繊維はその比表面積を著しく拡大することができる。本発明において好ましい比表面積は1.0m2/g以上10m2/g以下の範囲であることが好ましい。より好ましい比表面積は2.0m2/g以上8.0m2/g以下である。比表面積が1.0m2/g以下であると消臭の効果が原毛と比較して余り改善され難く、また比表面積が10m2/g以上であると獣毛繊維の機械的特性が低下するため好ましくない。
【0020】
本発明の消臭繊維に用いることができる獣毛繊維は、例えば、羊毛、カシミヤ、モヘヤ、キャメル、アンゴラなどの獣毛繊維が好ましい。さらに絹などのタンパク質繊維も使用することができる。なかでも羊毛は、原毛自体も消臭能力を有し、衣料、寝具などへ適用も長い歴史があり、さらに染色性が高く、低コストであるなどの優れた特性を持っているため、最も好ましい獣毛繊維である。
【0021】
本発明の消臭繊維は、原毛の単繊維を分岐させた構造及び多孔質化させた構造であるため、分枝化された細毛による嵩高性と多孔質構造により、空気との接触面積が格段に大きく、優れた消臭特性を有する。
【0022】
本発明においては、原毛の状態、糸の状態あるいは布帛の状態など、いずれの形状であっても分枝状構造、多孔質構造を有する消臭繊維に加工することができる。本発明の消臭繊維は比表面積が大きくなるほど消臭性能は高くなるが反面、機械的特性は低下することになる。したがって、消臭繊維の比表面積と機械的特性のバランスを取りながら所望の消臭繊維から構成される綿状体、糸、布帛を製造することが好ましい。
【0023】
また、本発明においては本発明の消臭繊維と原毛を混紡して用いることが好ましい。例えば、羊毛の原毛と、羊毛を用いた消臭繊維を混紡にすることで羊毛が本来有する消臭能力と、本発明により消臭特性が著しく改良された消臭繊維を混紡することによって、消臭効果と機械的特性を両立した製品の提供が可能になるからである。
【0024】
さらに、本発明の消臭繊維は他の原料からなる繊維と混紡して用いることが好ましい。具体的には、綿、麻などのセルロース系繊維、羊毛などのタンパク質繊維、疎水性合成繊維、親水性合成繊維などと混紡することができ、複数の異なる原料からなる繊維を組み合わせても良い。このような混紡製品にすることによって個々にもつ材料の特性と本発明の消臭繊維の特性を相乗させた製品を提供できるからである。
【0025】
本発明の消臭繊維は、紡績糸中に含ませることが好ましく、紡績糸であれば、糸の内部に空気を含み繊維の比表面積を大きくすることができるため好ましい。また前記消臭繊維は他の原料からなる繊維と混紡することができ、複数の異なる原料からなる繊維と組み合わせても良い。本発明の消臭繊維は10mm以上の長さの繊維と混紡することが糸や織物などの機械的特性を維持するために好ましい。消臭繊維と他の原料からなる繊維との混合量は、完成される繊維製品の特性に基づき、最適な混合量を選定することができる。また、芯糸に合成繊維を用い鞘材として本発明の消臭繊維を用いた芯鞘構造の複合糸は機械特性と消臭効果を兼ね備える構造であるため好ましい。
【0026】
本発明の消臭繊維を用いた繊維製品の形態としては綿状体、トップ、単糸、双糸、ニット糸、紐、織物、編み物、フェルト、不織布などを挙げることができる。また、消臭繊維を用いた織物の織り組織は、平織、綾織、朱子織などの基本組織と、それから誘導された変化組織、重ね組織などに適用でき限定されるものではない。
【0027】
さらに本発明の消臭繊維は布団、毛布などの寝具、カーペット、壁紙、カーテンなどの建築用材料、インテリア材料に好適に用いることができる。生活環境の中で発生する臭いを脱臭あるいは消臭できるからである。
【0028】
また、本発明の消臭繊維は臭気を吸収したのち、中性洗剤等で洗濯することによって、繰り返して消臭効果を発揮できる。
【0029】
次に本発明の消臭毛繊維の製造方法について説明する。本発明の消臭繊維の製造方法は、獣毛繊維のタンパク質を分解するタンパク質分解工程と、前記工程で得られたタンパク質分解獣毛繊維を極性有機溶液で洗浄および抽出する洗浄抽出工程と、前記洗浄抽出工程で得られた洗浄抽出処理獣毛繊維を乾燥する乾燥工程とを備える。前記タンパク質分解工程では、タンパク質の一部が除去される。この工程は、タンパク質分解液に浸漬することによって行われる。タンパク質分解液は、水、アルカリ溶液、酸溶液のいずれか1つを用いることが好ましい。タンパク質分解工程では前記した分解液に浸漬させ静置しておいてもよく、また、攪拌しても良い、さらに前記タンパク質分解液を30〜90度Cに加熱してタンパク質を除去できる程度の緩やかさでタンパク質を分解させる手段を用いることができる。
【0030】
より好ましいタンパク質分解液の性状は、PH7から13の水及びアルカリ性溶液、を用いことができる。タンパク質の一部に適度な加水分解を促すからである。PH7から13の水及びアルカリ溶液の場合、PH13以上であれば加水分解速度が大きいため獣毛繊維自体が溶解し、PHが7以下であれば加水分解を起こしにくく長い処理時間が必要である。また、加熱温度は60度C以下の低温であることがより好ましく、このような処理温度であれば獣毛繊維に柔らかな風合を与えることができる。
【0031】
また、酸溶液を用いる場合、具体的には硫酸、ギ酸などの加水分解を促進する無機酸、有機酸を用い、50度Cから90度Cの温度で加熱することがより好ましい。50度C以下であれば、加水分解速度が小さいため処理に長い時間が必要であり、90度C以上であれば、獣毛繊維が硬化して風合を悪くする。
【0032】
また、タンパク質の分解の状態は、前記消臭繊維の乾燥重量が原毛の10%以上50%以下の範囲で減少していることが好ましい。より好ましくは重量減少率が15%以上45%以下の状態である。さらに好ましくは20%以上40%以下の状態である。前記重量減少率が10%以下であると消臭繊維の構造の変化量や消臭特性の効果が小さく、また重量減少率が50%を越えると繊維の機械的特性が低下することになり好ましくない。なお、重量減少率はタンパク質を分解処理する前後の重量比率である。前記したタンパク質の最適な分解状態を得るためには、タンパク質分解液の濃度、温度及び処理時間等を製品の仕様に応じて任意に決定することができる。
【0033】
次に、本発明の消臭繊維の製造方法は、上記タンパク質を分解したタンパク質分解獣毛繊維を、極性有機溶液を用いて洗浄および抽出する工程を備える。前記極性有機溶液は炭素数が3〜4を有するアルコールが好ましくメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールの群れから選ばれる少なくとも1つであることが最も好ましい。
【0034】
次に、本発明の消臭繊維の製造方法では、タンパク質分解工程で得られたタンパク質分解繊維を極性溶液で洗浄および抽出する工程に移行する場合に、タンパク質分解繊維が水分を含んだ状態で有機極性溶液中に投入して抽出洗浄することが必須条件である。製造工程中のタンパク質分解繊維を乾燥させると分解されたタンパク質が固化し、再度タンパク質を分解させる処理を繰り返さなければならないからである。前記タンパク質分解繊維中の水分(微アルカリ溶液、微酸溶液であってもかまわない)は手で強く絞り水分を除く程度の水分率でよい。
【0035】
本発明の製造方法で製造される消臭繊維は、その比表面積を測定することによって分枝化の状態あるいは多孔質状態を定量化することができる。本発明の消臭繊維の比表面積は窒素吸着によるBET比表面積が1.0m2/g以上10m2/g以下の範囲であることが好ましい。好ましい比表面積を有する消臭繊維を製造するためにはタンパク質分解工程の分解液や処理時間によって経験的に条件を決定することができる。
【0036】
本発明の消臭繊維は、有機物を分解及び/又は分解を補助する触媒物質を担持することが好ましい。消臭繊維の表面や多孔質部に吸着した悪臭分子を分解し、消臭効果を長期に持続できるからである。有機物を分解及び/又は分解を補助する触媒物質としては、酸化チタン、金属フタロシアニン化合物類、金属ポルフィリン化合物類の郡から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。前記有機物を分解及び/又は分解を補助する触媒物質を担持せしめる手段としては、公知の方法を使用することができる。例えば、酸化チタンは、チタンフルオロ錯体とホウ酸を溶解した水溶液中に前記消臭繊維を浸漬すると、表面に酸化チタンを析出させることができる。金属フタロシアニン類及び金属ポルフィリン類であれば、消臭繊維をカチオン化剤によりカチオン性基を導入し、次に金属フタロシアニン類及び金属ポルフィラジン類の水溶液を処理することで、金属フタロシアニン及び金属ポルフィラジン類を本発明の消臭繊維に担持させることができる。
【0037】
以下に実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。本発明の諸特性は下記に記載の測定器と測定条件で行った。
(1)BET比表面積の測定方法
ガス吸着測定装置(カンタクロム社製、AUTOSORB AS1)を使用し、温度100度Cで2時間加熱した試料を用いた。乾燥試料0.2gを用い比表面積は、液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線からBETプロット解析により求めた。
(2)消臭特性の測定方法
試料2gを入れた5リットルのテドラーバック容器に3リットルの臭気ガスを封入し、封入直後の初期ガス濃度の測定及び一定時間毎にガス検知管で残留ガス濃度を測定した。臭気ガスはアンモニア、酢酸及びアセトアルデヒドガス用いた。
【実施例1】
【0038】
水2リットル中に羊毛繊維100%(平均繊維径19.9μm)の糸100gを浸漬し、次にテキスポートSN10(日華化学社製)10gと酢酸6gを水1リットルに溶解した液を加えて10分間浸漬した。次にバソランD.C(ビーエーエスエフジャパン(株)製)8gを水2リットルに溶解した液を加え、常温で50分間反応させた後水洗して、羊毛繊維糸のスケールオフ加工を行った。次に前記スケールオフ加工済みの羊毛繊維糸を、0.4重量%の水酸化ナトリウム水溶液(pH12.7)3リットルに浸漬し、40度Cで120時間タンパク質分解処理を行った。次に前記タンパク質分解処理を行った羊毛繊維糸を水洗いの後、乾燥させることなく濡れたまま、イソプロピルアルコール溶液に浸し、タンパク質の洗浄及び抽出を行った。その後、100度Cの温度で20分間乾燥し本発明の消臭繊維を作製した。この消臭繊維の比表面積は8.26m2/gであった。次に前記消臭繊維のアンモニアガスによる消臭特性を測定したところ、初期のガス濃度は100ppmであり、30分後のアンモニア濃度は8ppmであった。次に、臭気ガスに酢酸ガスを用いたところ、初期のガス濃度30ppmであり、30分後の酢酸ガス濃度は7ppmであった。さらに臭気ガスにアセトアルデヒドガスを用いたところ、初期のガス濃度60ppmであり、30分後のアセトアルデヒドガス濃度は30ppmであった。
【実施例2】
【0039】
水酸化ナトリウム水溶液の浸漬時間を70時間でタンパク分解処理を行った以外は、実施例1と同様の手順で消臭繊維糸を作成した。得られた消臭繊維糸の比表面積を測定したところ2.64m2/gであり、消臭特性を測定したところ初期のアンモニアガス濃度100ppmに対して、30分後の濃度は12ppmであった。
【実施例3】
【0040】
水酸化ナトリウム水溶液の濃度を0.6%とした以外は、実施例1と同様の手順で消臭繊維糸を作成した。得られた消臭繊維の比表面積を測定したところ6.13m2/gであり、消臭性能を測定したところ初期のアンモニアガス濃度100ppmに対して、30分後の濃度は10ppmであった。
【実施例4】
【0041】
実施例1と同様の手順で羊毛繊維糸のスケールオフ加工を行い、次に前記スケールオフ加工済みの羊毛繊維糸を、76重量%のギ酸溶液3リットルに浸漬し、60度Cで12時間タンパク質分解処理を行った。実施例1と同様の手順で、前記タンパク質分解処理を行った羊毛繊維糸を水洗いの後、乾燥させることなく濡れたまま、イソプロピルアルコール溶液に浸し、タンパク質の洗浄及び抽出を行った。その後、100度Cの温度で20分間乾燥し消臭繊維を作成した。得られた消臭繊維の比表面積を測定したところ3.53m2/gであり、消臭性能を測定したところ、初期のアンモニアガス濃度100ppmに対して、30分後の濃度は15ppmであった。
【実施例5】
【0042】
タンパク質の抽出及び洗浄をブタノールで行った以外は、実施例1と同様の手順で消臭繊維糸を作成した。得られた消臭繊維の比表面積を測定したところ5.64m2/gであり、消臭性能を測定したところ初期のアンモニアガス濃度は100ppmであり、30分後の濃度は10ppmであった。
【0043】
(比較例1)
未処理の羊毛繊維(平均繊維径19.9μm)の比表面積を測定したところ、窒素吸着量が少ないため比表面積を計測することができなかった。また消臭性能を測定したところ、初期のアンモニアガス濃度は100ppmであり、30分後の濃度は65ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の消臭繊維は、衣料品、スポーツウエアなどのアパレル製品に好適に用いることができる。また、カーペット、カーテン、壁紙などのインテリア製品及び消臭フィルターなどの産業資材にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の分枝状構造を有する消臭繊維の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の多孔質構造を有する消臭繊維断面の電子顕微鏡写真である。
【図3】羊毛繊維の原毛断面の電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維よりなる消臭繊維であって、前記消臭繊維は、軸方向の一部が複数の分岐状構造及び/または断面が多孔質構造を有することを特徴とする消臭繊維。
【請求項2】
前記消臭繊維の窒素吸着によるBET比表面積は1.0m2/g以上10m2/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の消臭繊維。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維から構成される綿状体。
【請求項4】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維を主成分とする綿状体。
【請求項5】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維を主成分とする混紡繊維。
【請求項6】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維と前記消臭繊維以外の繊維とを含有する混紡繊維。
【請求項7】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維を主成分とする複合繊維。
【請求項8】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維、請求項5または6に記載の混紡繊維、及び請求項7に記載の複合繊維よりなる群れから選択される少なくとも1つの繊維から成る布帛
【請求項9】
請求項1及び2のいずれかに記載の消臭繊維を含む衣料、寝具、消臭材、建築用材料。
【請求項10】
獣毛繊維のタンパク質を分解するタンパク質分解工程と、前記工程で得られたタンパク質分解獣毛繊維を洗浄および抽出する洗浄抽出工程と、前記洗浄抽出処理獣毛繊維を乾燥する乾燥工程を備える消臭繊維の製造方法。
【請求項11】
前記タンパク質分解工程がタンパク質分解液に浸漬する方法であって前記タンパク質分解液が水、アルカリ溶液、酸溶液のいずれか一つである請求項10に記載の消臭繊維の製造方法。
【請求項12】
前記洗浄抽出工程で使用する洗浄抽出液が極性有機溶液である請求項10に記載の消臭繊維の製造方法。
【請求項13】
前記極性有機溶液がメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、プロピルアルコール、ブタノールの群れから選ばれる少なくとも1つである請求項12に記載の消臭繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−280931(P2009−280931A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134043(P2008−134043)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】