説明

消費脂肪酸に対して高い収率係数のリパーゼ阻害剤を得る改善された発酵プロセス

本発明は、改善された発酵プロセスによるリパーゼ阻害剤の生成プロセスを提供する。このプロセスの間に、リノール酸、またはそのエステル、またはそれらの塩と、オメガから9脂肪酸、好ましくはオレイン酸および/またはその誘導体とを組み合わせて供給することにより、改善された収率係数、生産性を与え、さらに容易に実施できることを特徴とするプロセスを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された発酵プロセスによるリパーゼ阻害剤の生成プロセスを提供する。このプロセスの間に、リノール酸、またはそのエステル、またはそれらの塩と、オメガ−9脂肪酸、好ましくはオレイン酸および/またはその誘導体とを組み合わせて供給することにより、改善された収率係数、生産性を与え、さらに容易に実施できることを特徴とするプロセスを提供する。
【背景技術】
【0002】
リプスタチンは、有効性の高い、膵リパーゼの非可逆性阻害剤であり、ストレプトミセス・トキシトリシニから初めて単離された天然物である。(Weibelら(1987)"Lipstatin, an inhibitor of pancreatic lipase, produced by Streptomyces toxytricini. I. Producing Organism, fermentation, isolation and biological activity" J. Antibiotic (Tokyo) 40(8):1081−5. PMID 3680018)リプスタチンは、肥満に関連した病気の予防および治療において有用なテトラヒドロリプスタチン(オリスタット)の調製における主要な中間体として非常に重要性が高まっている。E.Hochuliらは、リプスタチンの構造化学を記載している(Journal of Antibiotics Vol XL, No.8 pp1081−1085)。
【0003】
その生成のための発酵プロセス、微生物からの単離のためのプロセス、およびテトラヒドロリプスタチンへの水素化プロセスは既知であり、米国特許第4,598,089号明細書に記載されている。本発明は、特定のストレプトミセス・トキシトリシニ株NRRL 15443を使用し、栄養接種物の2段階の調製について記載する。
【0004】
欧州特許出願公開第0803567号明細書は、リノール酸、カプリル酸、およびN−ホルミル−L−ロイシンまたはロイシン等の前駆体を用いたリプスタチンの発酵プロセスを記載している。リプスタチンの生成は、リノール酸およびロイシンの供給を含むプロセスである、ストレプトミセス発酵により提供される。ここで、ロイシンは最終分子に包含されているのに対し、リノール酸は最終分子の骨格を形成する。このプロセスは、供給されるリノール酸の量に対して、一般的に約20%(w/w)のリプスタチン収量を与える。
【0005】
国際公開第03/048335号パンフレットは、リプスタチン生成のために、遊離脂肪酸の代わりに油(oil)を用いた別の発酵培地を記載している。
【0006】
従って、発酵微生物に対して十分な栄養因子のサポートを与えて、適切な脂肪酸前駆体または出発物質からのリプスタチンの特有な高い生産性を可能とする、コストが低く、工業化が可能な発酵プロセスへの要求は依然として残っている。
【0007】
上記の議論の他には、リノール酸を他のオメガ−9脂肪酸と組み合わせて使用し、リプスタチンの生成レベルを大きく増大させることに関する文献は見出されない。上記の参照文献にて提案されている方法とは異なり、本発明の方法は、次の3つの利点を与える。(1)リプスタチン収率係数の約100%の改善を可能とする。(2)生産性、ならびに実施の容易さを改善する。(3)スケールアップが可能であり、工業化が可能なプロセスを提供する。
【0008】
従って、本発明の目的は、より高い収量、収率係数の約100%改善、および実施の容易さを提供するリプスタチン生成のための工業化可能なプロセスを提供することである。
【発明の開示】
【0009】
本発明はリプスタチンの発酵生成のための改善されたプロセスを提供する。このプロセスは、リノール酸とオメガ−9脂肪酸、好ましくはオレイン酸とを組み合わせて供給することによって発酵培養液中で起こり、さらにこれらの成分の残留濃度を適切に維持して、リプスタチンの生産性を増大させることができる。
【0010】
本発明の1つの側面に従うと、以下の工程を備えるリプスタチンの生成プロセスが提供される。すなわち、
a)微生物、炭素源、制限栄養因子源を有する培地の発酵を行い、微生物の成長および維持に十分な条件を提供する工程と、
b)次にリノール酸と少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で組み合わせて供給する工程と、
c)発酵を実施する間中、リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の残留濃度を維持する工程とを備え、
d)20% w/wよりも大きな収量変換率を得るリプスタチンの生成プロセスが提供される。
【0011】
本発明の1つの側面に従うと、リノール酸とオレイン酸とを組み合わせて供給することにより、生成されるリプスタチンの収率係数において約100%の改善をもたらす。その供給は、断続的でよく、あるいは同時であってよい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、リプスタチンまたはその誘導体を生成するための発酵プロセスに関するものであり、このプロセスは、リノール酸またはそのエステル、またはそれらの塩と、少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを組み合わせた供給を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の別の実施形態においては、得られるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数は少なくとも約20%である。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態においては、得られるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数は少なくとも約20%から約70%である。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態においては、このプロセスにおいて使用されるオメガ−9脂肪酸は、オレイン酸、エイコセン酸、ミード酸、エルカ酸、およびネルボン酸を含むグループから選択される。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態においては、使用するオメガ−9脂肪酸はオレイン酸である。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態においては、リノール酸と少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸との組み合わせは、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で供給される。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態においては、リノール酸の残留濃度は0.01から5g/Lの範囲に維持される。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態においては、リノール酸の残留濃度は0.02から0.1g/Lの範囲に維持される。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態においては、リノール酸の残留濃度は0.10から0.30g/Lの範囲に維持される。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態においては、オメガ−9脂肪酸の残留濃度は0.1から10.0g/Lの範囲に維持される。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態においては、オレイン酸の残留濃度は0.5から1.0g/Lの範囲に維持される。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態においては、オレイン酸の残留濃度は1.0から2.0g/Lの範囲に維持される。
【0024】
本発明は、リプスタチンまたはその誘導体を生成するための発酵プロセスに関するものであり、以下の工程を備える。すなわち、
a.微生物、炭素源、制限栄養因子源を有する培地の発酵を行い、微生物の成長および維持に十分な条件を提供する工程と、
b.次にリノール酸、またはそのエステル、またはそれらの塩と、少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で組み合わせて供給する工程と、
c.発酵を実施する間中、リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の残留濃度を維持する工程とを備える。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態においては、微生物はストレプトミセス種に属する。
【0026】
本発明のさらに別の実施形態においては、微生物は、ストレプトミセス・トキシトリシニ、ストレプトミセス・チュイラス、ストレプトミセス・ビナセウス、ストレプトミセス・ビルギニエ、ストレプトミセス・ラテリタス、ストレプトミセス・フラボバリアビリス、ストレプトミセス・ジャンシナス、ストレプトミセス・プルプラセンス、ストレプトミセス・ロゼオスピナス、ストレプトミセス・ロゼオヴィオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種コンフィナス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種ビシナス、ストレプトミセス・ビオララス、ストレプトミセス・ビオラタス、ストレプトミセス・ヨコスカネンシス、ストレプトミセス・アルボスポレウス、ストレプトミセス・オーランチアカス、ストレプトミセス・オーレオバーチシラタス、ストレプトミセス・オーリニ、ストレプトミセス・クレメウス、ストレプトミセス・ダヘスタニカス、ストレプトミセス・フラジエ、ストレプトミセス・フラジリス、ストレプトミセス・フマナス、ストレプトミセス・グロメロオーランチアカス、ストレプトミセス・グリセオビリジス、ストレプトミセス・ニベオルバー、ストレプトミセス・ピューセチアス、ストレプトミセス・フェオビリジス、ストレプトミセス・ロゼイスクレロチカス、ストレプトミセス・ロゼオフラバスを含むグループから選択される。本発明のさらに別の実施形態においては、微生物はストレプトミセス・トキシトリシニである。
【0027】
本発明のさらに別の実施形態においては、発酵プロセスは、種培養段階および主発酵段階を有し、その方法は以下の工程を備える。すなわち、
a.種培養段階において、接種物を生成するために微生物バイオマスを培養する工程と、
b.主発酵段階において、接種物を発酵培地に転移させる工程と、
c.主発酵段階において、定常状態条件を維持し、それによってリプスタチンを含んだ発酵培養液を生成する工程とを備える。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態においては、炭素源、窒素源、pH制御、気泡制御、および溶存酸素の制御のうち1つ以上を提供することにより、定常状態の条件を維持する。
【0029】
本発明のさらに別の実施形態においては、溶存酸素の濃度は、得られるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数に影響を与えない。
【0030】
本発明のさらに別の実施形態においては、溶存酸素の濃度は0から100%の間で変化してよい。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態においては、使用される発酵培地は、少なくとも1つの炭素源、1つの窒素源、および発酵微生物の成長と維持に十分なプロセス条件を有する。
【0032】
本発明のさらに別の実施形態においては、発酵培地は、大豆粉末、グリセロール、および酵母エキスを有する。
【0033】
本発明のさらに別の実施形態においては、発酵培地は油または脂肪源を含んでもよい。
【0034】
本発明のさらに別の実施形態においては、発酵培地は油または脂肪源を含まない。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態においては、生成されるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数は、油または脂肪源の残留濃度の有無によって影響を受けることや変化することがない点を特徴とする。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態においては、リプスタチンまたはその誘導体の生成は、発酵培地にロイシンを加える発酵の段階によって影響を受けることや変化することがない点を特徴とする。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態においては、主発酵段階の最初にロイシンを加えることを特徴とする。
【0038】
本発明のさらに別の実施形態においては、発酵培地に加えられるロイシンの濃度は少なくとも0.1g/Lであることを特徴とする。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態においては、リプスタチンまたはその誘導体の生成は、発酵培地に加えられるロイシンの濃度によって影響を受けることや変化することがない点を特徴とする。
【0040】
本発明のさらに別の実施形態においては、リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の添加は、種発酵培地または生成培地のどちらかに組み込まれてよいことを特徴とする。
【0041】
本発明のさらに別の実施形態においては、大豆粉末の断続的または連続的供給が、リプスタチンまたはその誘導体の生成期を少なくとも50%伸ばす。
【0042】
本発明のさらに別の実施形態においては、得られるリプスタチンまたはその誘導体の収量は少なくとも5.0±1g/Lである。
【0043】
本発明のさらに別の実施形態においては、リプスタチンまたはその誘導体へのリノール酸の変換率は、少なくとも約20%である。
【0044】
本発明のさらに別の実施形態においては、リプスタチンまたはその誘導体へのリノール酸の変換率は、少なくとも約10%である。
【0045】
請求項および実施例、あるいは別に指示されている場合の他は、含有物の量や反応条件を表すためにここで使用されている全ての数字は、"約"という用語により、全ての場合において修正され得るものであると理解される。
【0046】
この記載および特許請求の範囲において、「備える」、「有する」、「含む」、およびそれらの活用形は、この用語に続く項目が含まれることを意味するために非制限的意義で使用されるものであるが、明示的に言及されていない項目を排除するものではない。さらに、「1つの」という不定冠詞を持つ要素は、文脈において明確に唯一の要素であることが必要とされない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「1つの」は、通常「少なくとも1つの」を意味する。
【0047】
リプスタチン(LST)、およびその類似物であるテトラヒドロリプスタチン(THL)、およびN−ホルミル−L−ロイシン(S)−1−[[(2S,3S)−3−エチル−4−オキソ−2−オキセタニル]メチル]オクタデシルエステル(LOC)等のリパーゼ阻害剤が、発明の範囲内において使用される。ここで使用されているように、「リプスタチン」という語は、オリスタットの前駆体をさす。E.Houchuliらは、リプスタチンの構造化学を記載している(Journal of Antibiotics Vol XL, No.8 pp1081−1085)。
【0048】
本発明のプロセスは、リプスタチンおよびその誘導体の生成に関する。本発明のプロセスはまた、オリプスタチン(Olipstatin)の生成に関する。特に、本発明は、化学式、化1、化2、および化3の化合物を調製するプロセスに関する。
【化1】

【化2】

【化3】

【0049】
ここで使用されている"オメガ−9脂肪酸"とは、オメガ−9位にC=C二重結合を持つ不飽和脂肪酸類である。本発明は、オレイン酸18:1(n−9)9−オクタデカン酸、エイコセン酸20:1(n−9)11−エイコセン酸、ミード酸20:3(n−9)5,8,11−エイコサトリエン酸、エルカ酸22:1(n−9)、13−ドコセン酸、ネルボン酸24:1(n−9)、15−テトラコセン酸等のオメガ−9脂肪酸の使用を包含および意図する
【0050】
ここで使用されている"リノール酸"とは、オメガ−6脂肪酸をさす。リノール酸は、炭素数18の主鎖および2つのシス二重結合を有する多価不飽和脂肪酸であり、1つめの二重結合はオメガ端から6番目の炭素に位置している。本発明は、リプスタチンの生産性を増大させる目的を達成するため、リノール酸、またはそのエステル、またはそれらの誘導体を使用することを意図している。
【0051】
ここで使用されている"制限栄養因子源"とは、微生物の成長に必須であり、制限栄養因子が増殖培地から枯渇した場合に、無くなることによって、微生物が成長することまたはそれ以上複製することを実質的に制限する栄養因子源(栄養因子自体を含む)をさしている。しかしながら、その他の栄養因子が依然として豊富にあるので、微生物は細胞内および/または細胞外の生成物を生成および蓄積し続けることができる。特定の制限栄養因子を選択することにより、蓄積される生成物のタイプを制御することができる。従って、特定の速度で制限栄養因子源を供給することにより、微生物の成長速度および所望の生成物の生成または蓄積の両者を制御することができる。
【0052】
本発明のさらに別の側面においては、微生物は、(酵母を含めた)菌類、原生生物、バクテリア、あるいはそれらの混合物を含むグループから選択され、選択された所望の発酵微生物は、適切な発酵条件下、発酵基質を変換して、所望の最終生成物を生成することができる。最も好ましい微生物は、ストレプトミセス種を含むが、ストレプトミセス・トキシトリシニ、ストレプトミセス・チュイラス、ストレプトミセス・ビナセウス、ストレプトミセス・ビルギニエ、ストレプトミセス・ラテリタス、ストレプトミセス・フラボバリアビリス、ストレプトミセス・ジャンシナス、ストレプトミセス・プルプラセンス、ストレプトミセス・ロゼオスピナス、ストレプトミセス・ロゼオヴィオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種コンフィナス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種ビシナス、ストレプトミセス・ビオララス、ストレプトミセス・ビオラタス、ストレプトミセス・ヨコスカネンシス、ストレプトミセス・アルボスポレウス、ストレプトミセス・オーランチアカス、ストレプトミセス・オーレオバーチシラタス、ストレプトミセス・オーリニ、ストレプトミセス・クレメウス、ストレプトミセス・ダヘスタニカス、ストレプトミセス・フラジエ、ストレプトミセス・フラジリス、ストレプトミセス・フマナス、ストレプトミセス・グロメロオーランチアカス、ストレプトミセス・グリセオビリジス、ストレプトミセス・ニベオルバー、ストレプトミセス・ピューセチアス、ストレプトミセス・フェオビリジス、ストレプトミセス・ロゼイスクレロチカス、ストレプトミセス・ロゼオフラバスに限定されない。本発明の特に有用な微生物は、供給された発酵基質をリプスタチンに変換することのできる微生物である。リプスタチンを生成する最も好ましい微生物は、米国特許第4,598,089号明細書に記載されており、ストレプトミセス・トキシトリシニ PreobrazhenskayaおよびSveshnikova(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology, 8th edition, 811ページ参照)である。
【0053】
本発明はリプスタチンの発酵生成のための改善されたプロセスを提供する。このプロセスは、リノール酸とオメガ−9脂肪酸、好ましくはオレイン酸とを組み合わせて供給することによって発酵培養液中で起こり、さらにこれらの成分の残留濃度を適切に維持して、リプスタチンの生産性を増大させることができる。このプロセスの第1の工程に従うと、リプスタチン生成微生物の細胞が、基礎培地/種培地中で成長する。このプロセスの第2の工程においては、いくつかの成分の組み合わせが基礎培地に加えられ、直接的に生化学的前駆体として働くか、あるいは生化学的変換を受け、次いで生合成経路の前駆体として働く。リノール酸に比べてオレイン酸によって加えられる毒性は低いので、残留濃度の適切なバランスによって、微生物の成長と維持のためのエネルギーに必要な条件が確実に満たされる。これにより、微生物は、所望の最終生成物であるリプスタチンを、はるかに高い濃度で合成できる。
【0054】
使用される基質上に生成されるバイオマスの収率係数は、ここでは、使用される基質の量(単位はグラム)に対する、生成されるバイオマスの乾燥重量(単位はグラム)を意味する。基質上に生成される発酵生成物の収率係数は、使用される基質1Kg当りに生成される生成物のグラム単位で表されてもよい。特に、本発明の文脈においては、収率係数とは、消費されるリノール酸の量当りに生成されるリプスタチンの量をさしている。
【0055】
基礎発酵培地は、発酵微生物の成長と維持に必要な以下の成分を含む。適切な代謝可能な炭素およびエネルギー源は、以下に限定されるものではないが、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、グリセロール、でんぷん、でんぷんの加水分解物、メタノール、短鎖アルコール、およびそれらの混合物等を含む。ならびに、1つ以上の窒素源は、大豆粉末、綿実の粉末、糖蜜、コーンスティープ粉、またはコーンスティープリカー、動物由来酵母エキス成分、および無機アンモニウム塩等を含む。さらに、マクロ元素および微量元素を培地に加えてもよい。1つの側面においては、発酵培養液に含まれる酸素が散布されることによって発生する発泡体の形成および蓄積を防ぐために、消泡剤を発酵培地に加える。
【0056】
炭素源およびその他の必須な細胞栄養因子のそれぞれを、徐々にあるいは連続的に発酵培地に加える。炭素源をバイオマスに変換する細胞の代謝機能または呼吸機能に基づいた所定の細胞成長曲線に従って、必要な栄養因子のそれぞれは、成長する細胞によって効率的に吸収されるために本質的に必要な最小レベルに維持される。このプロセスは、与えられた発酵システムにおいて、細胞生成の加速および増大における著しい改善を成す。
【0057】
本発明の1つの側面に従うと、ここで使用される培養培地は、実質的に脂肪および油を含まない。本発明の別の側面に従うと、ここで使用される培養培地は、上記のように油および同化炭素源を有し、微生物による脂質生合成を調節するために、油と同化炭素源とのw/w比が調節される。好ましくは、油は、天然油、合成油、またはそれらの混合物を含むグループから選択される。天然油は、ひまわり油、大豆油、ヤシ油、亜麻油、菜種油、およびトウモロコシ胚芽油を含むグループから選択される。本発明の発酵培地は、微生物の成長に必要な基礎栄養因子を満足する。
【0058】
当業者には認識されるであろうが、実施される本発明の重要な側面は、発酵培地内の脂肪の残留物含有量によって影響されないことである。発酵培地内の脂肪の残留物含有量は、0から40g/Lの範囲で変化してよい。
【0059】
発酵プロセスをさらに良くするために、様々なタイプの補助成分を本発明の発酵培地内に使用してもよい。その例としては、以下に限定されるものではないが、様々なタイプの微量金属、キレート剤、消泡剤等が含まれる。
【0060】
本発明の特に好ましい実施形態においては、種培地は、大豆粉末10.0グラム、グリセロール5.0グラム、および酵母エキス5.0グラムを水中(1リットル)に含む。培地のpHは7.0±0.1に調節される。
【0061】
本発明の別の好ましい実施形態においては、生成培地は、大豆粉末360.0グラム、グリセロール180.0グラム、水6リットル中に消泡剤SAGを6グラム、および水(10リットル)を含む。培地のpHは7.0±0.1に調節される。
【0062】
主発酵段階の間に定常状態条件を得るために、ブドウ糖および/または還元糖の総含有率を制御すること、炭素源を適切な最小レベルに維持すること、有機および/または無機窒素源を供給すること、pHを制御すること、発泡レベルを制御すること、供給と回収により培養液の質量を制御すること、撹拌速度および/または通気速度を変化させることによって溶存酸素レベルを制御すること等を含むプロセスパラメータ、工程、および/または変数を発明者達は見出した。
【0063】
発酵微生物が成長可能であり、また所望の変換反応に触媒作用を及ぼすような任意のpHまたは温度範囲にわたってプロセスを実行してよい。好ましく、また特に有利なpH範囲は酸性領域、すなわちpHが約7以下であり、好ましい温度範囲は約27±1℃である。本発明のプロセスは、約27℃から約37℃、好ましくは約27℃の温度で実行されてよい。NaOH等の塩基、あるいはHSOまたはHCl等の酸を加えることにより、pHの変化を防ぐことができる。調整剤は、典型的には水酸化物、または有機酸、あるいは無機酸である。適切なpH調整剤の例は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、および塩酸である。本発明の重要な側面は、所望の反応生成物に有利になるように、いくつかのプロセスパラメータを制御することである。従って、プロセスまたはプロセスの一部は、連続的に実施されてもよいし、あるいは様々な個別の単位として実施されてもよい。発酵プロセスが続くことのできる時間の長さは、発酵培地の組成、温度、接種物の量、所望の生成物の量等に依存する。典型的には、発酵プロセスは約8日から約10日間行われる。
【0064】
本発明のプロセスは、細胞の生育力および代謝を確実にするため、十分な滅菌条件下で実行される。
【0065】
発酵の主要な部分の間、生成培地中の溶存酸素レベルを、大気飽和状態の約20%から約80%に維持することが好ましい。適切な溶存酸素レベルを達成する能力は、通気速度および/または撹拌速度を適切に調節することにより高められる。
【0066】
本発明の1つの側面に従うと、以下の工程を備えるリプスタチンの生成プロセスが提供される。すなわち、
a)微生物、炭素源、制限栄養因子源を有する培地の発酵を行い、微生物の成長および維持に十分な条件を提供する工程と、
b)次にリノール酸と少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で組み合わせて供給する工程と、
c)発酵を実施する間中、リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の残留濃度を維持する工程とを備える。
【0067】
本発明のさらに別の側面に従うと、発酵プロセスは、種培養段階および主発酵段階を有し、その方法は以下の工程を備える。すなわち、
a.種培養段階において、接種物を生成するために微生物バイオマスを培養する工程と、
b.主発酵段階において、接種物を発酵培地に転移させる工程と、
c.主発酵段階において、定常状態条件を維持し、それによってリプスタチンを含んだ発酵培養液を生成する工程とを備える。
【0068】
本発明の重要な点は、リノール酸とオメガ−9脂肪酸、好ましくはオレイン酸とを組み合わせて供給することがリプスタチンの生成を非常に増大させることである。
【0069】
本発明の1つの側面に従うと、リノール酸およびオレイン酸の添加は、同時に行われてもよいし、あるいは断続的に行われてもよい。
【0070】
本発明の1つの好ましい側面に従うと、リノール酸の残留濃度は、好ましくは0.10から0.30g/Lの間、より好ましくは0.01から0.05g/Lの間、最も好ましくは0.02から0.05g/Lの間に維持される。リノール酸は0.01から5g/Lの範囲内で培地に供給されてよい。
【0071】
本発明の1つの好ましい側面に従うと、オレイン酸の残留濃度は、好ましくは0.25から0.30g/Lの間、より好ましくは0.50から1.0g/Lの間、より好ましくは1.0から1.5g/Lの間、最も好ましくは1.0から2.0g/Lの間に維持される。オレイン酸は、0.01から10.0g/Lの範囲内で培地に供給されてよい。
【0072】
従って本発明の目的の1つは、条件を変化させることによって微生物の生成能力を引き出して、リプスタチン生成発酵処理効率、および発酵プロセスを実行する効率を改善することである。本発明の他の目的は、種発酵段階と主発酵段階のどちらか一方、あるいは両方において、微生物による代謝に対して最も都合のよい化学的条件および生理学的条件を提供することである。本発明のさらなる目的は、種発酵段階と主発酵段階のどちらか一方、あるいは両方において、定常状態条件下で成長速度を維持し、さらに長時間にわたって最大の生成物形成速度を維持することにより、微生物の代謝に対して最も都合のよい化学的および生理学的条件を提供することである。
【0073】
最も重要な側面に従うと、本発明はリプスタチン生成の収率係数における約100%の改善を与える。本発明のプロセスによって得られるリプスタチンの量は、少なくとも2.0±1g/L、好ましくは少なくとも6.0±1g/L、より好ましくは少なくとも8.0±1g/L、より好ましくは少なくとも13±1g/L、さらに好ましくは少なくとも16±1g/L、最も好ましくは少なくとも20±1g/Lである。
【0074】
本発明のプロセスによって得られるオリプスタチンの量は、少なくとも1.0±1g/L、好ましくは少なくとも6.0±1g/L、より好ましくは少なくとも8.0±1g/L、より好ましくは少なくとも13±1g/L、さらに好ましくは少なくとも16±1g/L、最も好ましくは少なくとも20±1g/Lである。
【0075】
本発明の側面を導入して達成されるオレイン酸からリプスタチンへの変換率は、少なくとも10%、少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、最も好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも65%、および最も好ましくは少なくとも70%である。本発明のさらに別の側面に従うと、得られる変換率は約100%である。
【0076】
本発明の側面を導入して達成されるリノール酸からリプスタチンへの変換率は、少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも45%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、最も好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも65%、および最も好ましくは少なくとも70%である。本発明のさらに別の側面に従うと、得られる変換率は約100%である。
【0077】
本発明の1つの利点に従うと、ロイシンが発酵培地に加えられる時の発酵段階、および加えられるロイシンの濃度は、所望の最終生成物の生成レベルに影響をおよぼさない、あるいは生成レベルを変えない。これにより、ロイシンは初期の種培地自体に加えられるのでよく、流加期(fed−batch phase)中には加えられなくてよい。あるいはロイシンは、通常行われているように発酵の流加期中に加えられてもよい。発酵培地に加えられるロイシンの濃度は0.1g/Lから40g/Lの範囲内である。本発明の1つの側面に従うと、発酵培地に加えられるロイシンの好ましい濃度は、少なくとも5g/L、好ましくは少なくとも10g/L、好ましくは少なくとも15g/L、最も好ましくは少なくとも20g/Lである。さらに別の有利な側面に従うと、ロイシンの濃度は16g/Lより大きくてよい。
【0078】
本発明のさらに別の有利な側面に従うと、リノール酸、オレイン酸、およびロイシンは、種培地または生成のバッチ期用の初期培地自体に組み込まれてよく、あるいは発酵の流加期中に組み込まれてもよい。
【0079】
生合成プロセスの種培養段階および主発酵段階のどちらか、あるいは両者において、いくつかのプロセスパラメータ、工程、および/または変数の1つ以上を調節することにより、リプスタチンの最適な生合成が実行されることを発明者達は見出した。
【0080】
本発明のプロセスのさらに特に好ましい実施形態においては、高濃度の大豆粉末懸濁液を断続的または連続的に供給することにより、リプスタチンならびにオリプスタチンの生成期が、ほぼ50%延長する。大豆粉末懸濁液の断続的または連続的添加により、バッチサイクルを延ばすことが可能であり、これにより初期培地に高濃度の大豆粉末を加える必要がなくなり、プロセスのバッチ期における高い酸素要求量を避けることができる。
【0081】
本発明のこれら、およびその他の非制限的実施形態は、ここに提供される開示および特許請求の範囲を読むことにより、当業者には容易に理解される。この発明は、記載された特定の方法およびプロセスに限定されるものではなく、所望の最終生成物および方法自体も多様なことが理解される。ここで使用されている用語は、特定の実施形態を記述することを目的としているだけであって、制限的であることを意図したものではないことも理解されるべきである。
【0082】
本発明は、説明目的であり、いかなる点でも発明の範囲を制限することを意図していない以下の実施例を参照することで、より完全に記述され、また理解されるであろう。
【0083】
実施例1
a)種培養の調合
大豆粉末10.0グラム、グリセロール10.0グラム、酵母エキス5.0グラムを水(1リットル)中に含む種培地を調製した。種培地のpHをNaOH溶液により7.0±0.1に調節した。接種物培地(500mL)を2000mLの三角フラスコに注ぎ、綿栓で閉じ、滅菌した。滅菌は、121±2℃、100±10kPaで45分間行った。滅菌された接種物培地を、ストレプトミセス・トキシトリシニ懸濁液の芽胞薬瓶で接種し、好気条件下27±1℃で24から36時間培養した。
【0084】
b)主発酵プロセス
約1から2容量%の上記種培養物を、実験室スケールで接種するために使用した。容器サイズ10リットルの撹拌型発酵槽には、6.0リットルの生成培地が含まれる。生成培地には、大豆粉末360.0グラム、グリセロール180.0グラム、および6.0リットルの水中に消泡剤SAGが6.0グラム含まれる。発酵培地のpHを、滅菌前にNaOHにより7.0±0.1に調節した。滅菌を121±2℃、100±10kPaで120分間行った。発酵を、好気条件下(800rpm、1vvm)、27±1℃で8から10日間実行した。
【0085】
発酵は10日間続けられた。リノール酸からリプスタチンへの最大変換率19.48%が得られた。別のバッチ(実験#2)において、同一組成の培地を使用し、リノール酸およびロイシンと共にオレイン酸を追加供給した。発酵は10日間続けられた。残留オレイン酸を、バッチの間中、0.25から0.30g/Lの間に維持し、残留リノール酸レベルを0.10から0.30g/Lの間に維持した。得られた最大変換率は20.12%であり、変換効率に大きな差異は見られなかった。240時間発酵した後、リプスタチンの濃度は8.0±1g/Lであった。
【0086】
実施例2
この実験においては、種培養培地および生成培地は、実施例1において使用したものと同一であった。バッチの間中、オレイン酸の残留レベルを0.50から1.0g/Lの間に維持し、残留リノール酸レベルを0.10から0.30g/Lの間に維持した。
【0087】
リノール酸からリプスタチンへの生成に対して得られた最大変換率は39.56%であった。240時間発酵した後、リプスタチンの濃度は8.0±1g/Lであった。
【0088】
実施例3
この実験においては、種培養培地および生成培地は、実施例1において使用したものと同一であった。バッチの間中、オレイン酸の残留レベルを1.0から2.0g/Lの間に維持し、残留リノール酸レベルを0.10から0.30g/Lの間に維持した。
【0089】
リノール酸からリプスタチンへの生成に対して得られた最大変換率は45.46%であった。240時間発酵した後、リプスタチンの濃度は8.0±1g/Lであった。
【0090】
実施例4
この実験においては、種培養培地および生成培地は、実施例1において使用したものと同一であった。バッチの間中、オレイン酸の残留レベルを1.0から2.0g/Lの間に維持し、残留リノール酸レベルを0.02から0.05g/Lの間に維持した。
【0091】
リノール酸からリプスタチンへの変換率は大きく改善され、49.31%であった。その上、リプスタチンの生成量がより高かった。発酵の最後には、オリプスタチンの滴定量は6.05g/Lであった。
【0092】
実施例5
この実験においては、種培養培地は実施例1において使用したものと同一であった。生成培地には、大豆粉末360.0グラム、グリセロール180.0グラム、L−ロイシン120グラム、および6.0リットルの水中に消泡剤SAGが6.0グラムが含まれる。発酵培地のpHを、滅菌前にNaOHにより7.0±0.1に調節した。滅菌を121±2℃、100±10kPaで120分間行った。発酵を、好気条件下(800rpm、1vvm)、27±1℃で8から10日間実行した。
【0093】
バッチ期が完了した後、バッチの間中、リノール酸を供給した。残留リノール酸レベルを、バッチの間中、0.10から0.30g/Lの間に維持した。発酵の最後(163時間)において、リプスタチンの滴定量は2.67g/Lであった。
【0094】
別のバッチ(実験#2)において、同一組成の培地を使用し、バッチの間中オレイン酸を供給した。残留オレイン酸レベルを、バッチの間中、1.0から1.5g/Lの間に維持した。発酵の最後(170時間)において、オリプスタチンの滴定量は1.38g/Lであった。
【0095】
実施例6
この実験においては、種培養培地および生成培地は、実施例1において使用したものと同一であった。バッチの間中、リノール酸を供給した。残留リノール酸レベルを、バッチの間中、0.10から0.30g/Lの間に維持した。バッチを延ばすために、焙った脱脂大豆粉末の高濃度懸濁液(15%)を、窒素補助剤として発酵の間供給した。発酵の最後において、リプスタチンの滴定量は13.5g/Lであった。
【0096】
別のバッチ(実験#2)において同一組成の培地を使用し、バッチの間中オレイン酸のみを供給した。残留オレイン酸レベルを、バッチの間中、1.0から1.5g/Lの間に維持した。バッチを延ばすために、焙られた脱脂大豆粉末の高濃度懸濁液(15%)を、窒素補助剤として発酵の間供給した。発酵の最後において、リプスタチンの滴定量は5.86g/Lであった。
【0097】
本発明は、特定の方法論、手順、細胞株、種、あるいは属に限定されるものではなく、記載された培地の成分自体も多様であってよいことが理解されるべきである。ここで使用されている用語は、特定の実施形態を記述することを目的としているだけであって、本発明の範囲を制限することを意図したものではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。上記の記載は、本発明をどのように実施するかを当業者に教示することを目的としており、記載を読むことにより当業者にとって明らかとなるであろう、全ての明白な修正や変更を列挙することを意図しているのではない。
【0098】
ここに報告されている手段は、他の既知の手段に比べて生成に関連したコストがより低く、また容易に実行できるシステムを提供することにより、前述の略記した問題を克服し、技術を進歩させる。このシステムは、あらゆる既知のプロセスに比べて変換効率の増大を達成するここに記載された方法論を使用し、この技術分野において知られている主な不都合を克服することにより、コストを低減する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リプスタチンまたはその誘導体を生成する発酵プロセスであって、
前記プロセスは、リノール酸、またはそのエステル、またはそれらの塩と、少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを組み合わせて供給することを備える発酵プロセス。
【請求項2】
得られるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数が、少なくとも約20%から約70%、好ましくは約20%である請求項1に記載の発酵プロセス。
【請求項3】
前記プロセスにおいて使用される前記オメガ−9脂肪酸は、オレイン酸、エイコセン酸、ミード酸、エルカ酸、およびネルボン酸を含むグループから選択され、好ましくはオレイン酸である請求項1に記載の発酵プロセス。
【請求項4】
リノール酸と少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸との組み合わせは、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で供給される請求項1に記載の発酵プロセス。
【請求項5】
リノール酸の残留濃度は、0.01から5g/Lの範囲内、好ましくは0.02から0.1g/Lの範囲内または0.10から0.30g/Lの範囲内に維持される請求項1に記載の発酵プロセス。
【請求項6】
オメガ−9脂肪酸の残留濃度は、0.1から10.0g/Lの範囲内、好ましくは0.5から1.0g/Lの範囲内または1.0から2.0g/Lの範囲内に維持される請求項1に記載の発酵プロセス。
【請求項7】
微生物、炭素源、制限栄養因子源を有する培地の発酵を行い、前記微生物の成長および維持に十分な条件を提供する工程と、
リノール酸、またはそのエステル、またはそれらの塩と、少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸とを、それぞれ0.01から5g/Lおよび0.01から10.0g/Lの濃度比で組み合わせて供給する工程と、
発酵を実施する間中、リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の残留濃度を維持する工程とを備えるリプスタチンまたはその誘導体を生成する発酵プロセス。
【請求項8】
前記微生物は、ストレプトミセス種に属し、ストレプトミセス・トキシトリシニ、ストレプトミセス・チュイラス、ストレプトミセス・ビナセウス、ストレプトミセス・ビルギニエ、ストレプトミセス・ラテリタス、ストレプトミセス・フラボバリアビリス、ストレプトミセス・ジャンシナス、ストレプトミセス・プルプラセンス、ストレプトミセス・ロゼオスピナス、ストレプトミセス・ロゼオヴィオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種コンフィナス、ストレプトミセス・ビオラセウス亜種ビシナス、ストレプトミセス・ビオララス、ストレプトミセス・ビオラタス、ストレプトミセス・ヨコスカネンシス、ストレプトミセス・アルボスポレウス、ストレプトミセス・オーランチアカス、ストレプトミセス・オーレオバーチシラタス、ストレプトミセス・オーリニ、ストレプトミセス・クレメウス、ストレプトミセス・ダヘスタニカス、ストレプトミセス・フラジエ、ストレプトミセス・フラジリス、ストレプトミセス・フマナス、ストレプトミセス・グロメロオーランチアカス、ストレプトミセス・グリセオビリジス、ストレプトミセス・ニベオルバー、ストレプトミセス・ピューセチアス、ストレプトミセス・フェオビリジス、ストレプトミセス・ロゼイスクレロチカス、ストレプトミセス・ロゼオフラバスを含むグループから選択され、好ましくはストレプトミセス・トキシトリシニである請求項7に記載の発酵プロセス。
【請求項9】
前記発酵プロセスは、種培養段階および主発酵段階を有し、
前記プロセスは、
前記種培養段階において接種物を生成するために微生物バイオマスを培養する工程と、
前記主発酵段階において前記接種物を発酵培地に移す工程と、
前記主発酵段階において定常状態条件を維持することによりリプスタチンを含む発酵培養液を生成する工程とを備える請求項7に記載の発酵プロセス。
【請求項10】
前記定常状態条件は、炭素源、窒素源、pH制御、気泡制御、および溶存酸素制御を1つ以上供給することにより維持される請求項9に記載の発酵プロセス。
【請求項11】
溶存酸素の濃度は、得られるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数に影響を与えず、
前記溶存酸素の濃度は、0から100%の間で変化する請求項9に記載の発酵プロセス。
【請求項12】
使用される前記発酵培地は、少なくとも1つの炭素源、1つの窒素源、発酵微生物の成長および維持に十分なプロセス条件を有する請求項9に記載の発酵プロセス。
【請求項13】
前記発酵培地は、大豆粉末、グリセロール、および酵母エキスを有し、油または脂肪源を任意に有する請求項11に記載の発酵プロセス。
【請求項14】
前記発酵培地は、油または脂肪源を含まない請求項11に記載の発酵プロセス。
【請求項15】
生成されるリプスタチンまたはその誘導体の収率係数は、油または脂肪源の残留濃度の有無によって影響を受けない、あるいは変化しないことを特徴とする請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項16】
リプスタチンまたはその誘導体の生成は、ロイシンを発酵培地に加える発酵の段階によって影響を受けない、あるいは変化しないことを特徴とし、
前記発酵培地に加えられるロイシンの濃度は少なくとも0.1g/Lである請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項17】
ロイシンは、主発酵段階の初めに加えられることを特徴とする請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項18】
リプスタチンまたはその誘導体の生成は、発酵培地に加えられるロイシンの濃度によって影響を受けない、あるいは変化しないことを特徴とする請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項19】
リノール酸および少なくとも1つのオメガ−9脂肪酸の添加は、種発酵培地または生成培地のどちらかに組み込まれてよいことを特徴とする請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項20】
大豆粉末の断続的または連続的供給が、リプスタチンまたはその誘導体の生成期を少なくとも50%延ばすことを特徴とする請求項1または11に記載の発酵プロセス。
【請求項21】
得られるリプスタチンまたはその誘導体の収量が少なくとも5.0±1g/Lである請求項1から20のいずれか1項に記載の発酵プロセス。
【請求項22】
リプスタチンまたはその誘導体へのリノール酸の変換率が少なくとも約10%、または約20%である請求項1から21のいずれか1項に記載の発酵プロセス。

【公表番号】特表2011−515100(P2011−515100A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−501341(P2011−501341)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/IN2008/000326
【国際公開番号】WO2009/118743
【国際公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(509129222)バイオコン リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】BIOCON LIMITED
【住所又は居所原語表記】20th KM,Hosur Road, Electronics City, Bangalore, Karnataka 560 100 India
【Fターム(参考)】