説明

消防自動車のエンジン冷却装置

【課題】
放水される消火用水を加圧して吐出させるポンプが装備された消防自動車のエンジンを冷却する装置について、小型の消防自動車に適用できるようにし、ポンプを駆動する際にエンジンを充分に冷却できるようにする。
【解決手段】
エンジンの冷却水が流通されて放熱冷却される放熱部1と、放熱部1の両側に取付けられ放熱部1に対して冷却水を分散,集合させるタンク部2,3とを備えている。放熱部1のフロント側とリア側の双方に放熱部1に冷却風を通風させる冷却ファン4,5が対面されて設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放水される消火用水を加圧して吐出させるポンプが装備された消防自動車のエンジンを冷却する装置に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
消防自動車のエンジン冷却装置は、通常、エンジンの冷却水が流通されて放熱冷却されるチューブ,フィン等の放熱部(コア)と放熱部の両側に取付けられ放熱部に対して冷却水を分散,集合させるタンク部とのラジエータ構造からなるものが採用されている。そして、このエンジン冷却装置は、走行風が放熱部に効率的に通風されるように消防自動車の車体の前部に装備される。
【0003】
また、消防自動車としては、ポンプを駆動する専用の原動機を搭載せずに、ポンプをPTO等を介して走行用のエンジンで駆動するようにしたものがある。従って、このタイプの消防自動車では、ポンプを駆動する際(消火作業中)に、エンジン冷却装置の放熱部に走行風が通風されない状態でエンジンを運転させなければならないため、エンジンを充分に冷却することができなくなってしまうという不具合が生ずる。このため、ポンプを駆動する際にエンジンを充分に冷却することのできる技術の開発が要望されている。
【0004】
従来、消防自動車においてポンプを駆動する際にエンジンを充分に冷却することを指向した技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1には、前述のエンジンを冷却するラジエータ構造に加えて、サブラジエータを備え、サブラジエータに消火用水の一部を冷却媒体として流通させるようにした消防自動車のエンジン冷却装置が記載されている。
【0006】
特許文献1に係る消防自動車のエンジン冷却装置は、冷却媒体として走行風を消火用水に代替したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−250341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係る消防自動車のエンジン冷却装置では、サブラジエータを備えてポンプとの間に消火用水を流通させる配管を配設しなければならず、装置規模が大型化してしまうため、小型の消防自動車には適用することができないという問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、小型の消防自動車に適用することができてポンプを駆動する際にエンジンを充分に冷却することのできる消防自動車のエンジン冷却装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するため、本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0011】
即ち、請求項1では、エンジンの冷却水が流通されて放熱冷却される放熱部と、放熱部の両側に取付けられ放熱部に対して冷却水を分散,集合させるタンク部とを備えた消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部のフロント側とリア側の双方に放熱部に冷却風を通風させる冷却ファンが対面されて設置されていることを特徴とする。
【0012】
この手段では、放熱部のフロント側とリア側の双方に冷却ファンが対面されることで、放熱部に対してフロント側とリア側の双方からの大量の冷却風の通風が確保され、装置規模を大型化させるサブラジエータ,配管が不要になる。
【0013】
また、請求項2では、請求項1の消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部のフロント側に設置されるフロント側冷却ファンは短い軸長のファンシャフトに多数の細幅翼形のファンブレートが放射状に設けられた薄型多翼タイプからなることを特徴とする。
【0014】
この手段では、フロント側冷却ファンが薄型多翼タイプとされることで、フロント側冷却ファンの放熱部のフロント側における占有スペースが低減される。
【0015】
また、請求項3では、請求項2の消防自動車のエンジン冷却装置において、フロント側冷却ファンは放熱部または放熱部の周囲部材に取付けられて設置されていることを特徴とする。
【0016】
この手段では、フロント側冷却ファンが放熱部に直接的に取付けられることで、取付ブラケット等が不要になる。
【0017】
また、請求項4では、請求項1〜3のいずれかの消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部はフロント側,リア側方向の厚さが厚く形成されていることを特徴とする。
【0018】
この手段では、大量の冷却風の通風が確保されることになる放熱部のフロント側,リア側方向の厚さが厚く形成されることで、放熱部の熱交換容積が拡張される。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置は、放熱部のフロント側とリア側の双方に冷却ファンが対面されることで、放熱部のフロント側とリア側の双方からの大量の冷却風の通風が確保され、装置規模を大型化させるサブラジエータ,配管が不要になるため、小型の消防自動車に適用することができてポンプを駆動する際にエンジンを充分に冷却することができる効果がある。
【0020】
さらに、請求項2として、フロント側冷却ファンが薄型多翼タイプとされることで、フロント側冷却ファンの放熱部のフロント側における占有スペースが低減されるため、取付スペースに制約のある消防自動車の車体の前部へのフロント側冷却ファンの設置が容易になるとともに、消防自動車の走行の際にフロント側冷却ファンが放熱部への走行風の通風の障害とならなくなる効果がある。
【0021】
さらに、請求項3として、フロント側冷却ファンが放熱部に直接的に取付けられることで、取付ブラケット等が不要になるため、取付スペースに制約のある消防自動車の車体の前部へのフロント側冷却ファンの設置がより容易になる効果がある。
【0022】
さらに、請求項4として、大量の冷却風の通風が確保されることになる放熱部のフロント側,リア側方向の厚さが厚く形成されることで、放熱部の熱交換容積が拡張されるため、ポンプを駆動する際にエンジンをより充分に冷却することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第1例の斜視図であり、(A)に分解状態が示され、(B)に組付状態が示されている。
【図2】図1(B)の平面図である。
【図3】図1(B)の消防自動車への装備例を示す側面図である。
【図4】本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第2例の平面図である。
【図5】本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第3例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1〜図3は、本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第1例を示すものである。
【0026】
第1例では、図3に示すように、放水される消火用水を加圧して吐出させるポンプPがPTO等の伝達機構Cを介してエンジンEに連結された消防自動車に実施されるものが示されている。
【0027】
第1例は、図1に示すように、放熱部1,タンク部(アッパタンク2,ロアタンク3)),冷却ファン(フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5)の各部で縦型のラジエータ構造に構成され、温度センサ6,コントローラ7が接続されている。
【0028】
放熱部1は、アッパタンク2,ロアタンク3に連通されてエンジンEの冷却水が流通される多数本のチューブ11の周囲に波板からなるフィン12が固定され方体形に形成されてタイバー13で補強されている。この放熱部1は、熱伝導性,耐腐食性の良好な金属材で形成されて冷却水を放熱冷却するもので、フロント側,リア側方向に通風が可能な構造になっていて、通常よりもフロント側,リア側方向の厚さaが厚く形成されている(図2参照)。
【0029】
アッパタンク2は、放熱部1のチューブ11が固定された座板21にエンジンEの冷却水を一定量貯溜する容積を確保するカバー22が固定されている。このアッパタンク2は、エンジンEから送られた高温の冷却水を放熱部1のチューブ11に分散させるもので、カバー22にエンジンEの冷却水ジャケットに連通されるインレットパイプ23が接続されている。
【0030】
ロアタンク3は、放熱部1のチューブ11が固定された座板31にエンジンEの冷却水を一定量貯溜する容積を確保するカバー32が固定されている。このアッパタンク3は、放熱部1のチューブ11を通過したエンジンEの冷却水を集合させエンジンEに戻すもので、カバー32にエンジンEの冷却水ジャケットに連通されるアウトレットパイプ33が接続されている。
【0031】
フロント側冷却ファン4は、軸長の短いファンシャフト41に放射状に設けられた多数の細幅翼形のファンブレード42の周囲がリング形のファンシュラウド43で囲まれた薄型多翼タイプからなるもので、放熱部1のフロント側に対面されるように設置されている。このフロント側冷却ファン4は、電動モータの駆動によって放熱部1に対してフロント側から冷却風を押込むように通風させる押込型に構成され、板形の取付ステイ44によって放熱部1のタイバー13やアッパタンク2,ロアタンク3の座板21,31に取付け固定されている。
【0032】
リア側冷却ファン5は、比較的軸長の長いファンシャフト51に放射状に設けられた数枚の扇翼形のファンブレード52の周囲がカップ形のファンシュラウド53で囲まれた厚型少翼タイプからなるもので、放熱部1のリア側に対面されるように設置されている。このリア側冷却ファン5は、電動モータの駆動によって放熱部1に対してリア側から冷却風を押込むように通風させる押込型に構成され、ファンシュラウド53自体によって放熱部1のタイバー13やアッパタンク2,ロアタンク3の座板21,31に取付け固定されている。
【0033】
温度センサ6は、ロアタンク3におけるエンジンEの冷却水の温度を検出するものである。
【0034】
コントローラ7は、温度センサ6に接続され、温度センサ6が一定温度以上を検出した際にフロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5に駆動を指示するように設定されている。
【0035】
第1例によると、消防自動車が停車して消火作業を行うと、放水のために伝達機構Cを介してエンジンEでポンプPが駆動される。このとき、放熱部1に走行風が通風されない状態であることから、厳冬期を除いてエンジンEの冷却水が急激に高温になる。このエンジンEの冷却水の温度上昇は、温度センサ6によって検出される。そして、コントローラ7によって、フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5が駆動されることになる。
【0036】
この結果、放熱部1に対してフロント側,リア側の双方から大量の冷却風が押込み通風され、放熱部1においてエンジンEの冷却水が確実に充分に放熱冷却されて、冷却水がエンジンEに支障が生ずるような温度まで上昇するのを阻止される。なお、フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5によって起生された冷却風は、放熱部1を通過して放熱部1のサイド側方向へ排出される。
【0037】
また、放熱部1のフロント側,リア側方向の厚さaが厚く形成されていることから、放熱部1の熱交換容積が拡張されて、エンジンEの冷却水の放熱冷却がより確実に充分に行われる。
【0038】
即ち、第1例によると、装置規模を大型化させる特許文献1に係る消防自動車のエンジン冷却装置のサブラジエータ,配管が不要になるため、小型の消防自動車に適用することができてポンプPを駆動する際にエンジンEを充分に冷却することができる。
【0039】
さらに、第1例によると、フロント側冷却ファン4が薄型多翼タイプとされているため、フロント側冷却ファン4の放熱部1のフロント側における占有スペースが低減される。従って、取付スペースに制約のある消防自動車の車体の前部へのフロント側冷却ファン4の設置が容易になるとともに、消防自動車の走行の際にフロント側冷却ファン4が放熱部1への走行風の通風の障害とならなくなる
【0040】
また、フロント側冷却ファン4が板形の取付ステイ44を使用するものの複雑な取付ブラケット等を使用せずに放熱部1に直接的に取付けられることで、取付スペースに制約のある消防自動車の車体の前部への設置が容易になる。
【0041】
図4は、本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第2例を示すものである。
【0042】
第2例は、第1例におけるリア側冷却ファン5について、放熱部1に対してリア側から冷却風を引込むように通風させる引込型に構成してい る。
【0043】
第2例によると、放熱部1に対してフロント側から冷却風が押込み通風されリア側から引込み通風されて、第1例と同様に放熱部1に大量の冷却風の通風が確保される。
【0044】
なお、フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5によって起生された冷却風は、放熱部1を通過して放熱部1のリア側方向とサイド側方向へと排出される。従って、放熱部1のリア側方向へ排出される冷却風をエンジンEや排気系の冷却風として利用することもできる。
【0045】
図5は、本発明に係る消防自動車のエンジン冷却装置を実施するための形態の第3例を示すものである。
【0046】
第3例は、第1例におけるフロント側冷却ファン4について、放熱部1に対してフロント側から冷却風を引込むように通風させる引込型に構成している。
【0047】
第3例によると、放熱部1に対してフロント側から冷却風が引込み通風されリア側から押込み通風されて、第1例と同様に放熱部1に大量の冷却風の通風が確保される。
【0048】
なお、フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5によって起生された冷却風は、放熱部1を通過して放熱部1のフロント側方向とサイド側方向へと排出される。従って、温度の上昇した冷却風を車体のフロント側に積極的に排出して、車体の内部に温度の上昇した冷却風を籠もらせないようにすることができる。
【0049】
以上、図示した各例の外に、フロント側冷却ファン4,リア側冷却ファン5によって起生された冷却風の排出のために、冷却風を導風する各種形状のシュラウドを設けることも可能である。
【符号の説明】
【0050】

放熱部
11 チューブ
12 フィン
2 アッパタンク(タンク部)
3 ロアタンク(タンク部)
4 フロント側冷却ファン(冷却ファン)
41 ファンシャフト
42 ファンブレード
5 リア側冷却ファン(冷却ファン)
C 伝達機構(PTO)
E エンジン
P ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの冷却水が流通されて放熱冷却される放熱部と、放熱部の両側に取付けられ放熱部に対して冷却水を分散,集合させるタンク部とを備えた消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部のフロント側とリア側の双方に放熱部に冷却風を通風させる冷却ファンが対面されて設置されていることを特徴とする消防自動車のエンジン冷却装置。
【請求項2】
請求項1の消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部のフロント側に設置されるフロント側冷却ファンは短い軸長のファンシャフトに多数の細幅翼形のファンブレートが放射状に設けられた薄型多翼タイプからなることを特徴とする消防自動車のエンジン冷却装置。
【請求項3】
求項2の消防自動車のエンジン冷却装置において、フロント側冷却ファンは放熱部または放熱部の周囲部材に取付けられて設置されていることを特徴とする消防自動車のエンジン冷却装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの消防自動車のエンジン冷却装置において、放熱部はフロント側,リア側方向の厚さが厚く形成されていることを特徴とする消防自動車のエンジン冷却装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate