説明

液中投入型吸光度センサ素子を用いた吸光光度計

【課題】 吸光度測定用のセル等を使用することなく、測定対象液中に直接投入して使用することができる吸光度センサ素子及びそれを用いた吸光光度計を提供する。
【解決手段】
吸光度センサ素子11、12と吸光度センサ素子からの出力の信号処理を行う本体部20とを備え、吸光度センサ素子は、ハウジングと、測定対象液の吸収波長の光を含む計測光を発する発光面を有し該発光面がハウジングに固定された少なくとも一つの光源部11と、該光源部の発光面から所定距離を置いてハウジングに固定された受光面を有し該受光面により測定対象液を透過した後の計測光を受光してその強度を表す信号を出力する少なくとも一つの光検出器12と、を備え、本体部は、所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を光源部に供給する駆動回路と、光検出器の出力信号から所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路とを更に備え、該位相検波回路の出力に基づいて測定対象液の吸光度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中投入型吸光度センサ素子及びそれを用いた吸光光度計に関し、より詳細には、吸光度測定用のセルを使用することなく測定対象液中に投入して使用することができ、しかも外乱光の影響を受け難い液中投入型吸光度センサ素子及びそれを用いた吸光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の吸光光度計では、その光源として例えばハロゲンランプが使用されている。このハロゲンランプは可視光の全域に亘る波長の光を発するため、光学フィルタや回折格子、光学スリットなどを用いて必要な波長域の光を取り出す必要がある。また、取り出した波長の光を試料に照射するための絞りやシャッターなどの光学系も必要となる。更に、ハロゲンランプを駆動するための電源等も必要となるため、全体として大がかりな装置となってしまい、簡便に吸光度の測定を行うことができない。
【0003】
この問題点を解消するために、光源として発光ダイオード(LED)を使用した各種の吸光光度計が提案されている(特許文献1〜6、非特許文献1)。LEDを光源として用いると、光学フィルタ、回折格子、絞り、シャッターなどが不要となるため、従来の吸光光度計に比較して吸光光度計の大きさを小さくすることができる。
【0004】
しかし、このようにLEDの使用により吸光光度計を小型化したとしても、測定対象の試料の光路長を一定にするための測定用セルやチューブを使用しなければならず、簡便性という点からは従来の吸光光度計と大差はなくなってしまう。従って、より簡便に吸光度の測定を行うことができる吸光光度計が待ち望まれている。また、LEDを光源として使用すると、一つの波長についての吸光度しか求めることができないという不便さがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−264845号公報
【特許文献2】特開平9−264846号公報
【特許文献3】特開平9−264847号公報
【特許文献4】特開平11−37929号公報
【特許文献5】特開平11−37930号公報
【特許文献6】特開平11−37931号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】BUNSEKI KAGAKU 第54巻,No.4,pp291〜295(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、吸光度測定用のセル等を使用することなく、測定対象液中に直接投入して使用することができる吸光度センサ素子及びそれを用いた吸光光度計を提供することである。また、外乱光の影響を受け難い吸光度センサ素子及びそれを用いた吸光光度計を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の吸光度センサ素子は、測定対象液中に投入して使用される吸光度センサ素子であって、前記吸光度センサ素子は、ハウジングと、前記測定対象液の吸収波長の光を含む計測光を発する発光面を有し該発光面が前記ハウジングに固定された少なくとも一つの光源部と、該光源部の前記発光面から所定距離を置いて前記ハウジングに固定された受光面を有し該受光面により前記測定対象液を透過した後の計測光を受光してその強度を表す信号を出力する少なくとも一つの光検出器とを備えたことを特徴とする。
【0009】
この吸光度センサ素子では、ハウジングに固定された光源部の発光面と光検出器の受光面とを所定の距離を保ったまま測定対象液中に投入して使用することができるため、吸光度測定用のセルを使用することなく簡便に測定対象液の吸光度を測定することが可能となる。また、光源部と光検出器とをそれぞれ複数設けた構成では、異なる波長の光を発する光源部を使用することにより、異なる波長の計測光による吸光度の測定を同時に行うことが可能となる。
【0010】
また、前記光源部はLEDからなる光源であり、前記発光面は該LEDの先端部である構成、又は前記光源部はLEDからなる光源及び光ファイバであり、前記発光面は該光ファイバの先端である構成とすることができる。前記光源部をLEDとすれば、前記発光面はLEDの先端部となる。LEDを使用すれば、吸光度センサ素子の軽量化を図ることができる。また、前記光源部をLEDからなる光源及び光ファイバで構成すれば、前記発光面は該光ファイバの先端となり、光ファイバの長さ等を変更することにより、LEDを自由な位置に配することができる。
【0011】
また、上記において、複数の前記光源部と一つの前記光検出器とを備え、前記各光源部は、それぞれ異なる波長の計測光を発する複数の光源と、該複数の光源からの計測光を前記ハウジング上の一の発光面に収束させる光ファイバとを有し、前記光検出器は、前記発光面から所定距離を置いて前記ハウジングに固定された受光面を有し該受光面により前記測定対象液を透過した後の計測光を受光してその強度を表す信号を出力する構成とすることができる。
【0012】
この構成により、計測光を発光させる光源部を測定対象液の吸収波長に応じて選択すれば、一の吸光度センサ素子を用い、測定対象液毎に吸収波長を変えてその吸光度の測定を行うことが可能となる。
【0013】
ここで、前記光検出器としては、前記測定対象液の吸収波長の光を検出するフォトダイオード又はフォトトランジスタを使用することができる。前記光検出器としてフォトダイオード又はフォトトランジスタを使用する場合、前記受光面はフォトダイオード又はフォトトランジスタの先端部となる。フォトダイオード又はフォトトランジスタを使用すれば、吸光度センサ素子の軽量化を図ることができる。特に、フォトトランジスタを使用する場合には、フォトダイオードを使用する場合に必要なオペアンプが不要となり、吸光度センサ素子の更なる小型化、軽量化を図ることができる。
【0014】
また、前記光検出器をフォトダイオード又はフォトトランジスタ及び光ファイバで構成すれば、前記受光面は該光ファイバの先端となり、光ファイバの長さ等を変更することにより、フォトダイオード又はフォトトランジスタを自由な位置に配することができる。
【0015】
前記発光面と前記受光面との間の距離は、前記測定対象液の吸光度に応じて変更可能とすることが好ましい。即ち、測定対象液の吸光度が大きい場合には発光面と受光面との間の距離を小さくし、測定対象液の吸光度が小さい場合には発光面と受光面との間の距離を大きくすることにより、検出感度の調節を容易に行うことができる。
【0016】
前記光源部は、前記測定対象液の吸収波長に応じて交換可能とすることが好ましい。同様に、前記フォトダイオード又はフォトトランジスタは、前記測定対象液の吸収波長に応じて交換可能とすることが好ましい。これにより、吸収波長の異なる種々の測定対象液についての吸光度の測定を行うことが可能となる。
【0017】
更に、前記ハウジングは、前記光源部と前記光検出器とを覆う遮光部を更に備えていてもよい。遮光部を設けることにより、外乱光の影響を小さくし、吸光度の測定精度を上げることが可能となる。特に、後述するロックインアンプ等及びフーリエ変換機能を備えていない吸光光度計では外乱光の影響を受け易いので、暗所で使用する場合以外は遮光部を設けることが重要となる。
【0018】
本発明の吸光光度計は、上記何れかの吸光度センサ素子と、前記吸光度センサ素子からの出力の信号処理を行う本体部とを備えたことを特徴とする。
【0019】
上記吸光光度計は、外乱光のない暗所で使用することが必要であるが、本発明の吸光光度計は、照明などの外乱光のある明るい場所においても使用し得る構成とすることができる。即ち、本発明の吸光光度計において、前記本体部は、所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を前記光源部に供給する駆動回路と、前記光検出器の出力信号から前記所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路とを更に備え、該位相検波回路の出力に基づいて前記測定対象液の吸光度を求めるように構成することを特徴とする。
【0020】
このように、所謂ロックインアンプ等と称される駆動回路と位相検波回路とを備えた構成とすることにより、外乱光の影響を排除することができるので、明るい場所でも吸光度の測定が可能となる。
【0021】
上記の複数の光源部を備えた吸光光度計では、複数の波長について同時に吸光度を測定し得る構成とすることも可能である。即ち、本発明の吸光光度計において、前記複数の光源部には、それぞれ周波数の異なる交流成分を含んだ駆動電流が供給され、前記光検出器の出力信号のフーリエ変換を行うことにより、前記複数の光源部からの計測光の異なる波長のそれぞれについて同時に吸光度を求めることを特徴とする。
【0022】
このように、出力信号のフーリエ変換を行う構成とすることにより、複数の波長について同時に吸光度を測定することが可能となる。
【0023】
更に、光源部が光源と光ファイバとにより構成される吸光光度計では、光源を本体部に設け、光ファイバにより計測光を発光面に導くことが可能となる。これにより、吸光度センサ素子を小型化、軽量化を図ることができる。
【0024】
また、光検出器がフォトダイオード又はフォトトランジスタ及び光ファイバにより構成される場合には、フォトダイオード又はフォトトランジスタを本体部に設け、光ファイバにより受光面からの計測光をフォトダイオード又はフォトトランジスタに導くことが可能となる。これにより、吸光度センサ素子を小型化、軽量化を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から明らかなように、本発明の吸光度センサ素子は、光源部と光検出器とを直接測定対象液中に投げ込むことができるため、セルなどを使用する必要がない。そのため、例えば反応容器内の反応液に直接投げ込む等、吸光度の測定を簡便かつ迅速に行うことが可能となり、生産ラインに組み込むことが可能となる。更に、連続して吸光度の測定を行うことも可能なので、例えば反応の追跡などを行うことも可能となる。
【0026】
また、光源部には所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流が供給され、光検出器における検出光度から上記の所定周波数に同期する周波数成分が出力される、所謂ロックインアンプ等を設けた構成を有する吸光光度計では、外乱光が光検出器に入射してもその影響は殆ど受けなくなるため、光源部からの計測光だけに基づいて吸光度を求めることが可能となる。従って、明るい場所でも簡便に安定かつ高精度の吸光度測定を連続して行い得るという有利な効果が発揮されることとなる。
【0027】
更に、複数の光源部と一つの光検出器とを備えた吸光光度計では、フーリエ変換機能を持たせることにより、複数の波長について同時に吸光度の測定を行うこと可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る吸光光度計の概略構成を示す図である。
【図2】図1の吸光光度計の回路を表した詳細図である。
【図3】図1の吸光光度計を用い、硫酸銅の試料液について求めた検量線を表す図である。
【図4】従来から市販されている吸光光度計を使用して、図3と同様に作成した検量線を表す図である。
【図5】図1の吸光光度計を用い、フォーリン・チオカルト法を用いて処理したクロロゲン酸試料液について求めたポリフェノールの検量線を表す図である。
【図6】従来から市販されている吸光光度計を使用して、図5と同様に作成した検量線を表す図である。
【図7】図1の吸光光度計に於けるハウジング14に遮光部を設けた他の実施形態に係る吸光度センサ素子の概略構成を示す図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る、複数の周波数の計測光について吸光度を測定し得る吸光光度計の概略構成を示す図である。
【図9】図8の吸光光度計により得られるデータの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の吸光光度計の実施形態の具体的な構成について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸光光度計の概略構成を表すブロック図である。本実施形態の吸光光度計は、同図に示すように、吸光度センサ素子10と、本体部20と、これらの間を接続するフレキシブルコードからなる配線31,32とを備えている。吸光度センサ素子10は、試料容器40内の測定対象液41に浸漬して使用される。
【0031】
図2は図1の吸光光度計の回路を表した詳細図である。図1及び図2に示すように、吸光度センサ素子10はハウジング14を有し、このハウジング14には、光源としてのLED(発光ダイオード)11及び光検出器としてのフォトダイオード12が取り付けられ、フォトダイオード12には電源Vccが接続されている。また、フォトダイオード12と電源Vccとの間には、フォトダイオード12の出力を増幅するためのアンプ13が接続されている。アンプ13からの出力は、配線32を介して後述するバンドパスフィルタ23に入力されている。
【0032】
LED11及びフォトダイオード12はハウジング14上に対向するように配置され、LED11の光軸とフォトダイオード12の光軸が一致するように固定されている。本実施形態では、LED11の先端部が発光面11aであり、フォトダイオード12の先端部が受光面12aである。発光面11aと受光面12aとの間の距離が所定の長さLとなるように固定されている。この距離Lは、従来の吸光光度計に於けるセルの厚さに相当している。本実施形態ではL=1cmに設定してある。
【0033】
このようにLED11及びフォトダイオード12をハウジング14上に固定することにより、吸光度センサ素子10を試料容器40の中の測定対象液中に直接投げ込んだ場合にも、発光面11aと受光面12aとの間の距離Lが常に一定に保たれ、従来の吸光光度計に於ける一定長さLのセルを用いた場合と同様の吸光度の測定を行うことが可能となる。
【0034】
LED11としては、測定対象液の吸収波長の光を発するものが選択される。例えば測定対象液が後述する硫酸銅溶液やフォーリン・チオカルト法による呈色溶液の場合、発光波長のピークが700nmに近いGaP/GaP製のものが用いられる。図2に示すように、LED11のカソードは接地され(GND)、LED11のアノードには、後述するようにバッファアンプ22から配線31を介して1kHzの矩形波が入力される。
【0035】
フォトダイオード12は、LED11の発光波長、換言すれば、測定対象液の吸収波長を含む波長域の光を検出可能なものである。上記硫酸銅溶液やフォーリン・チオカルトの呈色溶液の場合、フォトダイオード12は700nmの光を検出し得るものを使用する必要がある。図2に示すように、フォトダイオード12のカソードは接地され(GND)、フォトダイオード12のアノードには、電源Vccが接続されている。また、フォトダイオード12のアノードは、フォトダイオード12の出力を増幅するアンプ13に接続されている。なお、アンプ13は本体部20に設けてもよい。
【0036】
本実施形態では、吸光度センサ素子10は直接測定対象液41中に投げ込んで使用されるため、吸光度センサ素子10のLED11、フォトダイオード12、アンプ13及びそれらの間の配線には、測定対象液に含まれる水や有機溶媒に耐え得るように防水・防液加工が施されている。
【0037】
本体部20には、所定周波数の交流成分を発生する発振回路21が設けられている。この発振回路21は、発振周波数が1kHzの矩形波を出力し、そのピーク電圧が0V〜5Vの交流成分を発生する。発振回路21からの電圧発振信号は、次にバッファアンプ22に入力されて電流信号に変換され、電流制限抵抗(図示せず)を経た後、周波数1kHzの交流成分を含んだ駆動電流として、配線31を介してLED11に供給される。本実施形態では、発振回路21及びバッファアンプ22が駆動回路として機能している。これにより、LED11は周波数1kHzで点滅することとなる。また、発振回路21の出力は、後述する移相器24にも入力される。
【0038】
バッファアンプ22からの駆動電流により、周波数1kHzで点滅するLED11からの計測光は、LED11の発光面11aとフォトダイオード12の受光面12aとの間の距離Lの部分に存在する測定対象液によって一部分吸収された後、フォトダイオード12に達する。ここで、フォトダイオード12は、LED11からの計測光以外に、室内照明光や太陽光に由来する外乱光が存在する場合には、これをも検出することとなる。従って、フォトダイオード12からの出力信号は、外乱光に起因するノイズをも含んでいる場合がある。フォトダイオード12からの出力信号はアンプ13で増幅された後、配線32を介して本体部20のバンドパスフィルタ23に入力される。
【0039】
バンドパスフィルタ23は、中心周波数を1kHzとし、比較的広帯域(Q=3)の成分のみを通過させるフィルタである。このバンドパスフィルタ23を透過した信号は、ほぼ周波数1kHzの成分のみとなり、さらに検波回路25によって、発振回路21から移相器24を介して入力される基準信号と乗算され、最後にローパスフィルタ回路26によって同期検波される。本実施形態では、バンドパスフィルタ23、検波回路25及びローパスフィルタ回路26が位相検波回路として機能している。移相器24は基準信号の位相と検出信号の位相とを等しくする機能を果たしている。以上により、本実施形態の吸光光度計は、計測された信号から周波数1kHzの成分を抽出して出力するとともに、外乱光に起因する信号を除去することが可能となる。
【0040】
また、本実施形態の吸光光度計は、ローパスフィルタ回路26内に増幅回路をも内蔵しており、増幅された信号が表示器27に表示されるように構成されている。更に、図示していないが、本実施形態の吸光光度計では、ローパフフィルタ回路26の前又は後に、呈色、退色、比色、沈降、懸濁、比濁などの分析の種類に応じて吸光度やその二次情報などを算出する演算手段が設けられている。これにより、目的とする分析データを簡便に得ることができる。
【0041】
上述のLED11の発光面11aとフォトダイオード12の受光面12aの間の距離Lは、測定対象液の吸光度(溶質の濃度)に応じて適宜変更することができるように、LED11及びフォトダイオード12の一方又は両方をハウジング14上で移動可能に構成することもできる。また、LED11及びフォトダイオード12の種類及び距離Lの異なる吸光度センサ素子10を予め準備しておき、測定対象液の種類や濃度に応じて交換し得るように構成することもできる。
【0042】
以上の構成を有する本実施形態の吸光光度計について、その使用方法及びその動作を説明する。まず、入射光強度Iを求めるために、ブランク溶液を準備する。ブランク溶液は、実際に測定したい試料対象溶液から、測定対象成分を除いたものであり、水や抽出溶媒がブランク溶液となる。吸光度センサ素子10をブランク溶液に投入した状態で本体部20の電源を投入する。これにより、LED11からフォトダイオード12に向けて計測光が照射される。この状態で計測を行い、入射光強度Iが求められる。この入射光強度Iは、前述の演算手段に記憶される。次に、吸光度センサ素子10が入る大きさの容器に測定対象液を入れる。ここで、例えばプラント内の大型の反応槽内で計測する場合は、吸光度センサ素子10をその反応槽に直接に投入することも可能であり、この場合は上記容器の準備は不要となる。次に、吸光度センサ素子10を測定試料溶液中に直接投入し、本体部20の電源を投入する。これにより、LED11からフォトダイオード12に向けて計測光が照射され、吸光度の連続計測が可能となる。本実施形態の吸光光度計はロックインアンプを備えているため、照明の消灯や遮光は不要である。
【0043】
計測中、フォトダイオード12で検出された信号のうちの周波数1kHzの成分のみがバンドパスフィルタ23を通過し、検波回路25によって基準信号である周波数1kHzの信号に同期する信号のみが検出される。従って、上述のように太陽光や蛍光灯からの外光成分は、周波数が異なるので除去され、あるいはその周波数成分が存在したとしても極めて僅かなので無視することが可能である。このようにして、測定対象液を透過した計測光のみに基づいて透過光強度Iが求められる。この透過光強度Iは、前述の演算手段に記憶される。
【0044】
次に、演算部では、入射光強度Iと透過光強度Iとを用いて、吸光度Aが下記の式から求められる。
[数1]
A=log10(I/I)
一方、吸光度Aは、LED11及びフォトダイオード12の間の距離L、測定対象液中の溶質の吸光係数ε及び測定対象液の溶質の濃度Cとの間に以下の関係がある。
[数2]
A=εLC
従って、測定対象液中の溶質の吸光係数εが既知であれば、数1及び数2から測定対象液の溶質の濃度Cを求めることができる。吸光度A、濃度C等の測定結果は、数値のまま、又はグラフ化等のデータ処理を施して表示器27に表示されることとなる。また、本実施形態の吸光光度計を使用すれば、連続して測定結果を得ることができるため、例えば横軸に時間を採り、縦軸に測定結果をプロットすることにより、経時的なデータの採取や反応追跡に使用することができる。
【0045】
上記では光検出器としてフォトダイオード12を用いたが、これに代えてフォトトランジスタを使用することもできる。フォトトランジスタを使用する場合には、フォトダイオードを使用する場合に必要なアンプ13(図2)が不要となり、吸光度センサ素子の更なる小型化、軽量化を図ることができるという利点がある。
【0046】
(硫酸銅の吸光度測定)
本実施形態の吸光光度計を使用し、実際に既知濃度の硫酸銅溶液の測定を行い、その検量線を作成した結果について説明する。
【0047】
検量線の作成に使用した硫酸銅溶液は、以下のようにして調製した。約3.0gの硫酸銅 5水和物を50mLメスフラスコに入れた。このメスフラスコにイオン交換水を少量入れ、0.5mol/Lの硫酸を0.5mL滴下し、標線を超えないように50mLにした(濃度0.24mol/Lの硫酸銅水溶液)。この硫酸銅水溶液を標準溶液として、10mLビーカーに1/4、2/4、3/4、1倍となるように溶液を調製した。このようにした調製した溶液の吸光度を、本発明の投込み式吸光光度計で測定し、測定した吸光度を検量線として図3に示した。上述のように、LED11の発光波長は700nmであり、発光面11aとフォトダイオード12の受光面12aとの間の距離Lは1cmである。また、比較のために、同じ測定液を用い、従来から市販されている吸光光度計(日立製作所、U−3000)を使用して作成した検量線を図4に示した。
【0048】
吸光光度をy、クロロゲン酸の濃度をx、相関係数をrとした場合、本実施形態の吸光光度計を用いた場合、図3に示すような傾きと相関係数rとを得た。従来の吸光光度計用いた場合についても、図4に傾きと相関係数rとを示した。
【0049】
(クロロゲン酸の吸光度測定)
本実施形態の吸光光度計を使用し、実際にフォーリン・チオカルト法に従って既知濃度のクロロゲン酸溶液の測定を行い、クロロゲン酸の検量線を作成した結果について説明する。フォーリン・チオカルト法は、ポリフェノール量を測定する方法として知られている。
【0050】
検量線の作成に使用したクロロゲン酸試料液は、以下のようにして調製した。イオン交換水100mLにクロロゲン酸10mgを溶解させたものを標準試料溶液とし、その後試料溶液濃度が1、3/4、2/4、1/4倍になるように調製した。各濃度のクロロゲン酸溶液4mLをそれぞれ10mLビーカーに入れ、市販の2規定のフェノール試薬を2倍希釈したフェノール試薬4mLを加えて3分間、スターラーで撹拌した。その後、10重量%炭酸ナトリウム水溶液を4mL加えて、室温で1時間放置した。この際、初めの5分間はスターラーで撹拌した。
【0051】
以上のようにして調製した溶液について吸度計の測定を行った。本発明の吸光光度計の使用に際しては、10mLビーカーに吸光光度計の測定部分を入れて、値が安定するまで3分間静置し。数値が安定した後に測定を行った。その結果を図5に示した。上述のように、LED11の発光波長は700nmであり、発光面11aとフォトダイオード12の受光面12aとの間の距離Lは1cmである。また、比較のために、同じ測定液を用い、従来から市販されている吸光光度計(日立製作所、U−3000)を使用して作成した検量線を図6に示した。この場合の吸光度測定用のセルの長さは、上記距離Lと同じ1cmである。
【0052】
吸光光度をy、クロロゲン酸の濃度をx、相関係数をrとした場合、本実施形態の吸光光度計を用いた場合、図5に示すような傾きと相関係数rとを得た。従来の吸光光度計用いた場合についても、図6に傾きと相関係数rとを示した。
【0053】
以上から、本実施形態の吸光光度計と従来の吸光光度計とにより求めた検量線の傾きがほぼ等しいため、従来と同様の定量分析が十分に可能であることがわかる。また、相関係数rの比較より、本実施形態の吸光光度計の方が精度の高い測定が可能であることがわかる。
【0054】
図7は本発明の他の実施形態に係る吸光光度計の吸光度センサ素子10の概略構成図である。この吸光度センサ素子10は、図1の吸光度センサ素子10に於けるハウジング14に遮光部15を設けたものであり、図1に対応する図6の同じ構成要素には、同じ符号が付されている。遮光部15はLED11及びフォトダイオード12を覆い、吸光度の測定に邪魔にならない位置に設けられた支持部16,16によってハウジング14に固定されている。本実施形態に於ける遮光部15は、フォトダイオード12への外乱光の入射を防止すると共に、LED11の発光面11aとフォトダイオード12の受光面12aとの間の距離Lの部分への測定対象液の流入を可能としている。また、遮光部15による外乱光の入射防止の効果が高い場合には、発振回路21、移相器24等のロックインアンプの技術を使用することなく、従来と同様の吸光度の測定を非常に簡便に行うことができる。
【0055】
なお、図7の実施形態では、遮光部15は支持部16,16によってハウジング14に固定されているが、ハウジング14及び遮光部15を含めて全体を筒状とし、その内部にLED11、フォトダイオード12等を長手軸方向に配してもよい。この場合には、測定対象液は筒状のハウジングの上下の穴を介して流入することが可能である。
【0056】
また、上記では吸光度センサ素子10をブランク液に投入した状態で入射光強度Iを求めたが、例えば反応追跡などの場合には吸光度センサ素子10を投入した初期の光強度Iを光強度Iとしてもよい。また、予め外乱光のない暗所において空気中又は計測光を吸収しない透明溶媒中で測定した光強度Iを光強度Iとしてもよい。特に、ロックインアンプを使用しない構成では、光強度Iと光強度Iの計測条件をなるべく同じにする必要がある。
【0057】
図8は、本発明の他の実施形態に係る吸光光度計の概念図である。本実施形態の吸光光度計は、3つのLED51a,51b,51cを備え、各LED51a,51b,51cは、それぞれ700nm,565nm,465nmの計測光を発するものである。各LED51a,51b,51cに近接して、それぞれ光ファイバ52a,52b,52cが配されており、各LEDからの計測光は光ファイバ52a,52b,52cに導入されるように構成されている。そして、光ファイバ52a,52b,52cは束ねられ、それぞれの端部は発光面53として揃えられる。従って、各LED51a,51b,51cからの計測光は、発光面53に収束し、同一方向に進行する束ねられた光束として出射することとなる。なお、この発光面53は、図示しないハウジングに固定されている。
【0058】
発光面53の延長上には、発光面53からの計測光を受光してその強度を表す信号を出力するフォトダイオード12が配置されている。フォトダイオード12の光軸は、発光面53からの計測光の進行方向に一致するように、ハウジング(図示せず)に固定されている。本実施形態においても、フォトダイオード12の先端部が受光面12aとして機能している。本実施形態では、光ファイバ52a,52b,52cの端部である発光面53と、フォトダイオード12の受光面12aとの間の距離Lの部分において、測定対象液の吸光度の計測が行われる。
【0059】
また、本実施形態では、LED51a,51b,51cには、パソコン56から周波数の異なるデジタル信号を取り出してD/A変換器54によりアナログ信号に変換した駆動電流が供給される。具体的には、LED51aには1kHz、LED51bには2kHz、LED51cには3kHzの駆動電流が供給される。これにより、LED51aからは1kHzで点滅する赤(700nm)の計測光が、LED51bからは2kHzで点滅する緑(565nm)の計測光が、LED51cからは3kHzで点滅する青(465nm)の計測光が、それぞれ同時に発せられることとなる。
【0060】
これらの3色の計測光は発光面53から出射して測定対象液による光吸収を受けた後、フォトダイオード12の受光面12aに到達する。従って、フォトダイオード12は、1kHzで点滅する赤(700nm)の計測光と、2kHzで点滅する緑(565nm)の計測光と、3kHzで点滅する青(465nm)の計測光とを同時に計測し、その強度を表す信号を出力することとなる。
【0061】
この信号は、図8に示すように、フォトダイオード12からの出力をデジタル信号に変換するA/D変換器55に入力され、このデジタル信号は、パソコン56内に取り込まれる。パソコン56内では、入力されたデジタル信号のフーリエ変換が行われる。これにより、フーリエ変換後の1kHzの成分が赤(700nm)の光強度として、2kHzの成分が緑(565nm)の光強度として、3kHzの成分が青(465nm)の光強度としてそれぞれ得られる。これらの光強度と、予めブランク液について求めておいた各周波数における光強度とを用いて、これらの3つの周波数に於ける吸光度が求められる。
【0062】
図9は、フーリエ変換により得られる各周波数の計測光の吸光度データの一例を表している。同図に示すように、1kHzの位置に赤(700nm)の吸光度、2kHzの位置に緑(565nm)の吸光度、3kHzの位置に青(465nm)の吸光度を読み取ることができる。
【0063】
なお、上記では3つのLEDを用いた場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、1つ、2つ又は4つ以上のLEDを用いることができる。
【0064】
また、上記ではフーリエ変換により3つの計測光について吸光度を同時に求めたが、各周波数の計測光について個別にロックインアンプを設けてもよく、また一つのロックインアンプを用いて時分割で測定してもよい。
【0065】
更に、暗所で測定する場合には、フーリエ変換やロックインアンプを使用せずに、時分割で吸光度の測定を行ってもよい。
【0066】
加えて、上記ではLEDの駆動及びフーリエ変換にパソコンを使用したが、専用のハードウエアを使用することもできる。
【0067】
また、上記では光検出器としてフォトダイオードを用いたが、これに代えてフォトトランジスタを使用することもできる。フォトトランジスタを使用する場合には、フォトダイオードを使用する場合に必要なアンプ13(図2)が不要となり、吸光度センサ素子の更なる小型化、軽量化を図ることができる。
【0068】
また、上記では光検出器としてフォトダイオードを用いたが、光検出器をフォトダイオードと光ファイバとによって構成し、測定対象液を透過した後の計測光を光ファイバを通してフォトダイオードに導くように構成してもよい。その場合には、光ファイバの端部を受光面12aの位置に固定することになる。
【0069】
上記において、光源部をLEDと光ファイバとによって構成した場合には、LEDを吸光度センサ素子ではなく本体部に設けることも可能である。また、光検出器をフォトダイオードと光ファイバとによって構成した場合には、フォトダイオードを吸光度センサ素子ではなく本体部に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の吸光光度計を使用すれば、吸光度測定用のセルを使用することなく、測定対象の試料中に直接投入して吸光度を測定することができるので、従来の分光機器の分野で利用し得るばかりではなく、センサの分野でも利用することできる。更に、本発明の吸光光度計は、例えばプラント制御の分野においても利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 吸光度センサ素子
11 LED
12 フォトダイオード
13 アンプ
14 ハウジング
15 遮光部
16 支持部
20 本体部
21 発振回路
22 バッファアンプ
23 バンドパスフィルタ
24 移相器
25 検波回路
26 ローパスフィルタ回路
27 表示器
31,32 配線
40 試料容器
41 測定対象液
51a,51b,51c LED
52a,52b,52c 光ファイバ
53 発光面
12 フォトダイオード
12a 受光面
56 パソコン
54 D/A変換器
55 A/D変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象液中に投入して使用される吸光度センサ素子と前記吸光度センサ素子からの出力の信号処理を行う本体部とを備え、
前記吸光度センサ素子は、ハウジングと、前記測定対象液の吸収波長の光を含む計測光を発する発光面を有し該発光面が前記ハウジングに固定された少なくとも一つの光源部と、
該光源部の前記発光面から所定距離を置いて前記ハウジングに固定された受光面を有し該受光面により前記測定対象液を透過した後の計測光を受光してその強度を表す信号を出力する少なくとも一つの光検出器と、を備え、
前記本体部は、所定周波数の交流成分を含んだ駆動電流を前記光源部に供給する駆動回路と、前記光検出器の出力信号から前記所定周波数に同期する周波数成分を抽出して出力する位相検波回路とを更に備え、該位相検波回路の出力に基づいて前記測定対象液の吸光度を求めることを特徴とする吸光光度計。
【請求項2】
前記光源部は、LEDからなる光源であり、前記発光面は該LEDの先端部である請求項1記載の吸光光度計。
【請求項3】
前記光源部は、LEDからなる光源及び光ファイバであり、前記発光面は該光ファイバの先端である請求項1記載の吸光光度計。
【請求項4】
前記吸光度センサ素子は、複数の前記光源部と一つの前記光検出器とを備え、
前記各光源部は、それぞれ異なる波長の計測光を発する複数の光源と、該複数の光源からの計測光を前記ハウジング上の一の発光面に収束させる光ファイバとを有し、
前記光検出器は、前記発光面から所定距離を置いて前記ハウジングに固定された受光面を有し該受光面により前記測定対象液を透過した後の計測光を受光してその強度を表す信号を出力することを特徴とする請求項1記載の吸光光度計。
【請求項5】
前記光源は、LEDであり、前記発光面は前記光ファイバの先端である請求項4記載の吸光光度計。
【請求項6】
前記光検出器は、前記測定対象液の吸収波長の光を検出するフォトダイオード又はフォトトランジスタであり、前記受光面は該フォトダイオードの先端部である請求項1乃至5の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項7】
前記光検出器は、前記測定対象液の吸収波長の光を検出するフォトダイオード又はフォトトランジスタ及び光ファイバを備え、前記受光面は該光ファイバの先端である請求項1乃至5の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項8】
前記発光面と前記受光面との間の距離は、前記測定対象液の吸光度に応じて変更可能である請求項1乃至7の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項9】
前記光源部は、前記測定対象液の吸収波長に応じて交換可能である請求項1乃至8の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項10】
前記フォトダイオード又はフォトトランジスタは、前記測定対象液の吸収波長に応じて交換可能である請求項6または7に記載の吸光光度計。
【請求項11】
前記ハウジングは、前記光源部と前記光検出器とを覆う遮光部を更に備えている請求項1乃至10の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項12】
前記複数の光源部には、それぞれ周波数の異なる交流成分を含んだ駆動電流が供給され、前記光検出器の出力信号のフーリエ変換を行うことにより、前記複数の光源部からの計測光の異なる波長のそれぞれについて同時に吸光度を求めることを特徴とする請求項4記載の吸光光度計。
【請求項13】
前記光源は、前記本体部に設けられている請求項1乃至12の何れかに記載の吸光光度計。
【請求項14】
前記フォトダイオード又はフォトトランジスタは、前記本体部に設けられている請求項6、7、または10に記載の吸光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−255806(P2012−255806A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−191410(P2012−191410)
【出願日】平成24年8月31日(2012.8.31)
【分割の表示】特願2009−501119(P2009−501119)の分割
【原出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】