説明

液中測定装置及び液中測定方法

【課題】配線に何ら影響を与えず、感度の低下を防止しながら自己検知型プローブを利用して長期的に安定した状態で試料を液中測定すること。
【解決手段】カンチレバー11の変位量に応じて抵抗値が変化する歪抵抗素子と、カンチレバーの表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子に電気接続された配線部と、を有する自己検知型プローブ2と、探針及びカンチレバーが液体Wに浸された液中環境を作り出す液中設定手段3と、液体内に少なくとも一部が浸かった状態で配置された挿入電極4と、配線部の電位よりも挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように両者に電圧を印加する電圧印加手段5と、カンチレバーの変位量を検出する検出手段6と、カンチレバーの変位量が一定となるように探針と試料表面S1との距離を制御しながら自己検知型プローブを走査させて試料の表面形状又は物性を測定する測定手段7と、を備えている液中測定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の表面形状や粘弾性等の各種の物性を液中で測定する液中測定装置及び液中測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの進歩により、バイオや半導体等の試料の表面を高分解能で観察する技術が要求されている。この要求を実現するための装置の1つとして、走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が知られている。この走査型プローブ顕微鏡は、金属、半導体、セラミック、樹脂、高分子、生体材料、絶縁物等の各種の試料の表面を微小領域で観察し、試料の表面形状や粘弾性等の各種の物性を原子レベルの高分解能で測定することができる装置である。しかもこの走査型プローブ顕微鏡は、真空中、ガス中、大気中、液中等の様々な環境下で使用できることから、幅広い分野で好適に利用されている。
【0003】
特に最近では、液中で試料の観察を行いたいというニーズが非常に高い。これは、電解液との界面で進行する試料の電気化学反応過程を観察したり、バイオ試料を培養液中で生きたまま観察したりすることが、今後の実験や研究で重要なテーマとなっているためである。また、液中でのエンジニアリング等においても重要視されている。
通常、液中観察を行う場合には、走査型プローブ顕微鏡の1つである原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)が使用される。この原子間力顕微鏡は、カンチレバーの先端に設けられた探針を試料の表面に接触或いは近接させ、カンチレバーの撓み量が一定となるように探針と試料との間の距離を制御しながら走査を行うことで、試料の表面形状や各種の物性を測定するものである。
【0004】
また、カンチレバーの撓み量を測定するには、一般的に光てこ方式と呼ばれる方式で行っている。この方式は、カンチレバーの背面にレーザ光を照射すると共に、背面で反射したレーザ光を検出器で受光する。そして、受光した際のレーザ光の位置変化(光路の変化)に基づいてカンチレバーの撓み量を測定する方式である。そのため、カンチレバーの背面に正確にレーザ光を照射すると共に、反射したレーザ光が確実に検出器に入射するように、予め観察を行う前の前準備としてレーザ光の光路を位置決めしておく必要がある。
【0005】
しかしながら、この位置決めは微調整が必要であり、経験を要するものである。特に、液中観察を行う場合には、カンチレバーが液中にあるので、レーザ光の光路を正確に定めることができない。そのため、光学的に透明な液中セルを利用しながらレーザ光の光路の位置決めを行っているが、大気中の場合に比べて位置決めが非常に困難で時間と手間がかかってしまい、操作性に劣るものであった。
【0006】
ところで、近年になってカンチレバー自身にピエゾ素子等の歪抵抗素子を組み込んだ自己検知型のプローブが開発されている。この歪抵抗素子は、カンチレバーの撓み量に応じて抵抗値が変化する素子である。そのため、歪抵抗素子の抵抗値をモニタするだけで、カンチレバーの撓み量を正確に把握することができる。つまり、この自己検知型プローブによれば、上述した光てこ方式を採用する必要がない。
従って、この自己検知型プローブが開発されたことで、従来困難であったレーザ光の光路の位置決め作業をなくすことができ、原子間力顕微鏡の操作性が飛躍的に向上した。
【0007】
このように自己検知型プローブは、扱い易く今後の主流になるものと考えられているが、液中観察に使用する場合にはまだ以下の不都合が残されている。
即ち、カンチレバーの表面には、通常抵抗値をモニタするために歪抵抗素子に電気接続された配線が露出した状態で設けられている。そのため、自己検知型プローブを液中内で動作させようとすると、配線が電気化学反応により溶解してしまい、配線の欠損や断線が発生し易いものであった。そのため、自己検知型プローブを利用した液中観察は、困難なものであった。
【0008】
そこで、このような不都合をできるだけなくすために、配線をコーティングにより保護する方法が考えられている(例えば、特許文献1参照)。例えば、ポリマー溶液等のコーティング材にカンチレバーの先端を所定時間浸す(ディップ)ことで、配線をコーティングすることが考えられている。なお膜厚は、ディップの回数とコーティング材の濃度とで調整している。
【特許文献1】特開平9−246697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の方法では以下の課題が残されている。
即ち、コーティングにムラが出る可能性があり、全ての配線を確実に保護できず、欠損や断線を招く恐れが依然残されていた。また、仮に全ての配線を保護できたとしても、膜厚が薄い場合には、長期間使用している最中にリークする可能性があった。そのため、やはり配線の欠損や断線を招く恐れがあり、長期的に安定して使用することが難しかった。
一方、膜厚が厚くなるようにコーティングを行った場合には、リークの恐れがないが、その反面、カンチレバーの剛性が増してしまい撓み難くなってしまう。そのため、感度の低下を招いてしまうものであった。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、配線に何ら影響を与えず、しかも感度の低下を防止しながら自己検知型プローブを利用して長期的に安定した状態で試料を液中測定することができる液中測定装置、及び、液中測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明に係る液中測定装置は、液体内で試料の表面形状又は物性を測定する液中測定装置であって、前記試料に対して対向配置された探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化する歪抵抗素子と、カンチレバーの表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子に電気接続された配線部と、を有する自己検知型プローブと、少なくとも前記探針及び前記カンチレバーが前記液体に浸された液中環境を前記試料上に作り出す液中設定手段と、前記液体内に少なくとも一部が浸かった状態で配置された挿入電極と、前記配線部の電位よりも前記挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように両者に電圧を印加する電圧印加手段と、前記配線部に流れる電流値を検出して、前記カンチレバーの変位量を検出する検出手段と、検出された前記カンチレバーの変位量が一定となるように前記探針と前記試料表面との距離を制御しながら前記自己検知型プローブを走査させて、前記試料の表面形状又は物性を測定する測定手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この発明に係る液中測定装置においては、まず、試料に対してカンチレバーの先端に設けられた探針が対向するように自己検知型プローブを配置する。そして、液中設定手段により、少なくとも探針及びカンチレバーが液体に浸された液中環境を試料上に作り出す。なお、試料全体が液体に浸かるようにしても構わないし、試料上に液滴状の液体を吐出して測定を行う範囲だけを液中環境にしても構わない。また、この液中環境を作り出すと同時に、液体内に少なくとも一部が浸かるように挿入電極を配置すると共に、電圧印加手段により、配線部の電位よりも挿入電極の電位の方が正側の電位(陽極側の電位)となるように電圧を印加する。例えば、配線部側に2V、挿入電極側に3Vの電圧を印加する(この場合には、挿入電極側の方が配線部側よりも1V電位が高くなる)。或いは、マイナス電圧を印加する場合には、配線部側に−3V、挿入電極側に−2Vの電圧を印加する(この場合でも、挿入電極側の方が配線部側よりも1V電位が高くなる)。
【0013】
この状態で自己検知型プローブを測定手段により走査させる。この際、検出手段により歪抵抗素子に電圧が印加されていると共に配線部を流れる電流値が検出されている。そして走査を行っている際、探針と試料との間に原子間力による相互作用が働くので、試料表面の凹凸に応じてカンチレバーが変位する(撓む)。カンチレバーが変位すると、これに応じて歪抵抗素子も変位するので、抵抗値が変化する。よって、検出手段は検出していた電流値に基づいてカンチレバーの変位量を検出することができる。そして測定手段は、自己検知型プローブを走査させる際に、検出手段で検出されたカンチレバーの変位量が一定となるように探針と試料表面との距離を制御しながら走査させる。これにより、測定手段は、液中で試料表面の観察データを取得することができ、試料の表面形状や各種の物性等を測定することができる。
【0014】
ところで、液中環境が作り出されてから、歪抵抗素子に電気接続されている配線部は液体に触れた状態となっているが、上述したように挿入電極は、電圧印加手段によって配線部に対して正側の電位、即ち陽極となっている。そのため、配線部を電気化学的に還元電位とすることができる。従って、電気化学反応により配線部が溶解されてしまうことを防止でき、従来のものとは異なり欠損や断線をなくすことができる。その結果、自己検知型プローブを利用して、試料を液中で長期的に安定して測定することができる。
また、配線部に何ら影響を与えないので、従来のように配線部をコーティングして保護する必要がなく、カンチレバーの表面に露出させたままの状態にすることができる。そのため、カンチレバーの剛性が増して撓み難くなってしまうことを防ぐことができる。従って、感度の低下を防止でき、高分解能で測定を行うことができると共に測定精度の信頼性を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る液中測定装置は、上記本発明の液中測定装置において、前記挿入電極が、前記液体に対して非溶解性の材料から形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る液中測定装置においては、陽極となる挿入電極が非溶解性の材料、例えば、金(Au)、白金(Pt)や炭素棒等から形成されているので、配線部と同様に挿入電極自体も溶け難くなる。従って、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。
【0017】
また、本発明に係る液中測定装置は、上記本発明の液中測定装置において、前記電圧印加手段が、前記液体が電気分解する電位差よりも低い電位差となるように、前記配線部及び前記挿入電極に電圧を印加することを特徴とするものである。
【0018】
この発明に係る液中測定装置においては、電圧印加手段が挿入電極を配線部よりも単に陽極側の電位にするのではなく、液体が電気分解してしまう電位差よりも両者の電位差が低い値となるように印加する。これにより、液体が電気分解してしまうこと防止することができる。ここで、液体が電気分解してしまうと、液中にガスが発生して気泡が生じてしまう。ところがこの気泡は、液中で容易に潰れて弾けてしまうので液中に衝撃が発生してしまう。すると配線部は、この衝撃による圧力を受けて疲労してしまう。特に、無数に気泡が発生するので、繰り返し圧力を受けてしまう。その結果、配線部が欠損や断線する恐れがあった。
【0019】
しかしながら、上述したように液体が電気分解してしまうことを防止することができるので、気泡が生じることはない。従って、気泡に起因する配線部の欠損や断線をなくすことができる。そのため、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。
【0020】
また、本発明に係る液中測定装置は、上記本発明のいずれかの液中測定装置において、前記挿入電極が、前記カンチレバーに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る液中測定装置においては、挿入電極がカンチレバーに取り付けられているので、自己検知型プローブとは別個に挿入電極を固定する必要がない。従って、構成の簡略化を図ることができる。また、挿入電極を配線部に極力近づけることができるうえ、挿入電極と配線部とを同じタイミングで液体に接触させることができる。従って、配線部の溶解をより確実に防止することができる。
【0022】
また、本発明に係る液中測定装置は、上記本発明のいずれかの液中測定装置において、前記液中設定手段が、前記試料に対向配置されて、前記試料との間に前記液体を液滴状に保持する液中セルを有し、前記挿入電極が、前記液中セルに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0023】
この発明に係る液中測定装置においては、液中セルにより、測定を行う範囲だけを液中環境にすることができる。つまり、液中セルを利用して表面張力により液滴状の液体を試料との間に保持することができる。これにより、探針、カンチレバー及び挿入電極の周囲だけを最少限の範囲で液中環境にできるので、液体を無駄にすることなく効率良く使用でき、低コスト化を図ることができる。また、挿入電極が液中セルに取り付けられているので、自己検知型プローブや液中セルとは別個に固定する必要がない。従って、構成の簡略化を図ることができる。
【0024】
また、本発明に係る液中測定装置は、上記本発明のいずれかの液中測定装置において、前記試料に電気接続された参照電極を備え、前記電圧印加手段が、前記参照電極と前記配線部と前記挿入電極とにそれぞれ電気接続されたポテンショスタットを有し、前記試料表面を参照電極電位としながら前記電圧を印加することを特徴とするものである。
【0025】
この発明に係る液中測定装置においては、配線部の電位よりも挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように電圧を印加する際に、ポテンショスタットによって試料表面の電位を参照電極電位としているので、試料に電流が流れることがない。従って、試料として、金属サンプルや半導体サンプルを用いたとしても、試料表面に電気化学的な影響(腐食等)を何ら与えずに測定を行うことができる。そのため、測定できる試料の種類を増やすことができ、使い易さを向上することができる。
【0026】
また、本発明に係る液中測定方法は、液体内で試料の表面形状又は物性を測定する液中測定方法であって、前記探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化する歪抵抗素子と、カンチレバーの表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子に電気接続された配線部と、を有する自己検知型プローブを前記試料に対向配置すると共に、少なくとも探針及びカンチレバーが液体に浸された液中環境を試料上に作り出す液中設定工程と、前記液体内に少なくとも一部が浸かるように挿入電極を配置する電極配置工程と、前記配線部の電位よりも前記挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように両者に電圧を印加する電圧印加工程と、前記配線部に流れる電流値を検出して前記カンチレバーの変位量を検出すると共に、検出したカンチレバーの変位量が一定となるように前記探針と前記試料表面との距離を制御しながら前記自己検知型プローブを走査させて、前記試料の表面形状又は物性を測定する測定工程と、を行うことを特徴とするものである。
【0027】
この発明に係る液中測定方法においては、まず、試料に対してカンチレバーの先端に設けられた探針が対向するように自己検知型プローブを配置する。そして、少なくとも探針及びカンチレバーが液体に浸された液中環境を試料上に作り出す。なお、試料全体が液体に浸かるようにしても構わないし、試料上に液滴状の液体を吐出して測定を行う範囲だけを液中環境にしても構わない。この液中設定工程と同時に、液体内に少なくとも一部が浸かるように挿入電極を配置する電極配置工程を行うと共に、配線部の電位よりも挿入電極の電位の方が正側の電位(陽極側電位)となるように電圧を印加する。例えば、配線部側に2V、挿入電極側に3Vの電圧を印加する(この場合には、挿入電極側の方が配線部側よりも1V電位が高くなる)。或いは、マイナス電圧を印加する場合には、配線部側に−3V、挿入電極側に−2Vの電圧を印加する(この場合でも、挿入電極側の方が配線部側よりも1V電位が高くなる)。
【0028】
これら各工程が終了した後、自己検知型プローブを走査させて測定工程を開始する。具体的には、歪抵抗素子に電圧を印加して配線部を流れる電流値を検出しておく。そして走査を行っている際、探針と試料との間に原子間力による相互作用が働くので、試料表面の凹凸に応じてカンチレバーが変位する(撓む)。カンチレバーが変位すると、これに応じて歪抵抗素子も変位するので、抵抗値が変化する。よって、検出していた電流値に基づいてカンチレバーの変位量を検出することができる。これにより自己検知型プローブを走査させる際に、検出されたカンチレバーの変位量が一定となるように探針と試料表面との距離を制御しながら走査させることができる。その結果、液中で試料表面の観察データを取得することができ、試料の表面形状や各種の物性等を測定することができる。
【0029】
ところで、液中環境が作り出されてから、歪抵抗素子に電気接続されている配線部は液体に触れた状態となっているが、上述したように挿入電極は、配線部に対して正側の電位、即ち陽極となっている。そのため、配線部を電気化学的に還元電位とすることができる。従って、電気化学反応により配線部が溶解されてしまうことを防止でき、従来のものとは異なり欠損や断線をなくすことができる。その結果、自己検知型プローブを利用して、試料を液中で長期的に安定して測定することができる。
また、配線部に何ら影響を与えないので、従来のように配線部をコーティングして保護する必要がなく、カンチレバーの表面に露出させたままの状態にすることができる。そのため、カンチレバーの剛性が増して撓み難くなってしまうことを防ぐことができる。従って、感度の低下を防止でき、高分解能で測定を行うことができると共に測定精度の信頼性を高めることができる。
【0030】
また、本発明に係る液中測定方法は、上記本発明の液中測定方法において、前記挿入電極が、前記液体に対して非溶解性の材料から形成されていることを特徴とするものである。
【0031】
この発明に係る液中測定方法においては、陽極となる挿入電極が非溶解性の材料、例えば、金(Au)、白金(Pt)や炭素棒等から形成されているので、配線部と同様に挿入電極自体も溶け難くなる。従って、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。
【0032】
また、本発明に係る液中測定方法は、上記本発明の液中測定方法において、前記電圧印加工程の際、前記液体が電気分解する電位差よりも低い電位差となるように、前記配線部及び前記挿入電極に電圧を印加することを特徴とするものである。
【0033】
この発明に係る液中測定方法においては、電圧印加工程の際に挿入電極を配線部よりも単に陽極側の電位にするのではなく、液体が電気分解してしまう電位差よりも両者の電位差が低い値となるように印加する。これにより、液体が電気分解してしまうこと防止することができる。ここで、液体が電気分解してしまうと、液中にガスが発生して気泡が生じてしまう。ところがこの気泡は、液中で容易に潰れて弾けてしまうので液中に衝撃が発生してしまう。すると配線部は、この衝撃による圧力を受けて疲労してしまう。特に、無数に気泡が発生するので、繰り返し圧力を受けてしまう。その結果、配線部が欠損や断線する恐れがあった。
【0034】
しかしながら、上述したように液体が電気分解してしまうことを防止することができるので、気泡が生じることはない。従って、気泡に起因する配線部の欠損や断線をなくすことができる。そのため、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。
【0035】
また、本発明に係る液中測定方法は、上記本発明のいずれかの液中測定方法において、前記液中設定工程の際に、前記試料に電気接続された参照電極を用意し、前記電圧印加工程の際に、前記試料表面を参照電極電位としながら前記電圧を印加することを特徴とするものである。
【0036】
この発明に係る液中測定方法においては、配線部の電位よりも挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように電圧を印加する際に、試料表面を参照電極電位としているので、試料に電流が流れることがない。従って、試料として、金属サンプルや半導体サンプルを用いたとしても、試料表面に電気化学的な影響(腐食等)を何ら与えずに測定を行うことができる。そのため、測定できる試料の種類を増やすことができ、使い易さを向上することができる。
【0037】
また、本発明に係る液中測定方法は、上記本発明のいずれかの液中測定方法において、前記液中設定工程の際、前記試料に対向配置された液中セルを利用して、前記試料との間に前記液体を液滴状に保持することを特徴とするものである。
【0038】
この発明に係る液中測定方法においては、液中設定工程の際に、測定を行う範囲だけを液中環境にすることができる。つまり、液中セルを利用して表面張力により液滴状の液体を試料との間に安定して保持することができる。これにより、探針、カンチレバー及び挿入電極の周囲だけを最少限の範囲で液中環境にできるので、液体を無駄にすることなく効率良く使用でき、低コスト化を図ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法によれば、配線部に何ら影響を与えずに、しかも感度の低下を防止しながら自己検知型プローブを利用して長期的に安定した状態で試料を液中測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法の第1実施形態を、図1から図4を参照して説明する。なお、本実施形態では、液体Wが貯留された液槽3内に試料Sを入れた状態で測定を行う場合を例に挙げて説明する。
本実施形態の液中測定装置1は、液体W内で試料Sの表面形状又は粘弾性等の各種の物性を測定する装置であって、図1に示すように、自己検知型プローブ2と、液槽(液中設定手段)3と、挿入電極4と、電圧印加部(電圧印加手段)5と、検出手段6と、測定手段7と、を備えている。
【0041】
自己検知型プローブ2は、図2に示すように、探針10が先端に設けられたカンチレバー11と、該カンチレバー11の基端側を片持ち状態に支持する支持部12と、カンチレバー11の変位量に応じて抵抗値が変化するピエゾ抵抗素子等の歪抵抗素子13と、カンチレバー11の表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子13に電気接続された配線部14とを有している。
このように構成された自己検知型プローブ2は、例えば、シリコン支持層15上に酸化層(シリコン酸化膜)16を形成し、さらに該酸化層16上にシリコン活性層17を熱的に貼り合わせたSOI基板18を利用して製造されている。なお、SOI基板18に限られず、その他の材料や手法で自己検知型プローブ2を製造しても構わない。
【0042】
そして、カンチレバー11及び探針10は、シリコン活性層17から形成されており、支持部12は、シリコン支持層15、酸化層16及びシリコン活性層17の3層から形成されている。また、カンチレバー11と支持部12との接合部であるカンチレバー11の基端側には、開口11aが形成されており、カンチレバー11が基端側でより屈曲して撓み易くなっている。なお、この開口11aの数は、1つに限定されるものではなく、自由に形成して構わないし、形成しなくても構わない。
【0043】
上記歪抵抗素子13は、カンチレバー11の基端側において開口11aを両側から挟むように形成されている。なお、この歪抵抗素子13は、シリコン活性層17上にイオン注入法や拡散法等により不純物が注入されて形成されたものである。また、配線部14は、アルミ等の金属配線であり、支持部12及びカンチレバー11の基端側に亘ってU字状になるように歪抵抗素子13に電気接続されている。また、支持部12の端部に位置する配線部14の端末には、外部と電気接続可能な外部接続端子14aが設けられている。
【0044】
また、本実施形態の自己検知型プローブ2は、カンチレバー11に隣接して参照用のレファレンスレバー19が支持部12に片持ち状態に支持されている。このレファレンスレバー19は、カンチレバー11よりも長さが短く形成され、カンチレバー11と同様に基端側に開口11aが形成されていると共に、歪抵抗素子13及び配線部14がそれぞれ形成されている。このレファレンスレバー19は、歪抵抗素子13の温度補償の為に使用される。なお、このレファレンスレバー19は、自己検知型プローブ2に必ず設けなくても構わない。
【0045】
上記液槽3は、図1に示すように、示す上部が開口した断面コ形状に形成されており、XYZステージ20上に固定された試料ステージ21上に固定されている。そして試料Sは、この液槽3の底面に容易に動かないように保持されている。
また、上述した自己検知型プローブ2は、支持部12を介してホルダ本体22の下面に固定された斜面ブロック23にワイヤ等により着脱自在に固定されている。これにより、自己検知型プローブ2は、試料Sに対向した状態で固定されている。しかも、自己検知型プローブ2は、斜面ブロック23によって試料表面S1に対してカンチレバー11が所定角度傾くように固定されている。
また、自己検知型プローブ2は、少なくとも探針10及びカンチレバー11の部分が液体Wに浸かるようにホルダ本体22によって設置位置が調整されている。これにより、試料S、探針10及びカンチレバー11の周囲に液中環境を作り出すことができる。つまり、本実施形態では、液槽3を利用することで、少なくとも探針10及びカンチレバー11が液体Wに浸された液中環境を試料S上に作り出している。
【0046】
上記XYZステージ20は、例えば、PZT等からなる圧電素子であり、ドライブ回路25から電圧が印加されると、その電圧印加量及び極性に応じて、試料表面S1に平行なXY方向及び試料表面S1に垂直なZ方向の3方向に対して微小移動するようになっている。これにより、自己検知型プローブ2と試料ステージ21とを、XY方向及びZ方向の3方向に相対的に移動させることができるようになっている。
【0047】
また、自己検知型プローブ2の外部接続端子14aには、図1及び図3に示すように、ブリッジ回路26が接続されている。このブリッジ回路26は、歪抵抗素子13に電気接続された配線部14に流れる電流値の検出を行っている。そして、ブリッジ回路26は、検出した電流値に応じた出力信号を増幅した後、差分測定部27に出力するようになっている。
ここで、歪抵抗素子13は、カンチレバー11の撓みに応じて抵抗値が変化するが、これ以外にも温度変化によって抵抗値が変化してしまう。しかしながら、本実施形態のブリッジ回路26は、レファレンスレバー19側の歪抵抗素子13を参照しているので、温度変化による不要な抵抗値変化分をキャンセルすることができ、温度影響をなくすことができる。よって、本実施形態のブリッジ回路26は、カンチレバー11の撓みに起因する電流値変化だけに応じた出力信号を出力するようになっている。
【0048】
差分測定部27には、図1に示すように、ブリッジ回路26から出力信号が入力されてくるだけでなく、基準発生部28から基準信号が入力されている。この基準信号は、例えば、カンチレバー11の撓み量(変位量)が“0”のときに、差分測定部27の出力を“0”とする信号である。そして、差分測定部27は、この基準信号とブリッジ回路26から送られてくる出力信号とを比較して、その差である誤差信号をZ電圧フィードバック回路29に出力するようになっている。即ち、この誤差信号は、カンチレバー11の変位量に対応する信号である。よって、この誤差信号をモニタすることで、カンチレバー11の変位量を検出することができる。即ち、ブリッジ回路26、差分測定部27及び基準発生部28は、配線部14に流れる電流値を検出してカンチレバー11の変位量を検出する上記検出手段6として機能する。
【0049】
また、Z電圧フィードバック回路29は、送られてきた誤差信号が一定となるようにドライブ回路25をフィードバック制御する。これにより、カンチレバー11の変位量が一定となるように、探針10と試料表面S1との距離を高さ制御しながら自己検知型プローブ2の走査を行うことができるようになっている。また、Z電圧フィードバック回路29には、パーソナルコンピュータ等の制御部30が接続されている。この制御部30は、Zフィードバック回路による変化させる信号に基づいて試料Sの表面形状や各種の物性を測定している。
即ち、XYZステージ20、ドライブ回路25、Z電圧フィードバック回路29及び制御部30は、検出されたカンチレバー11の変位量が一定となるように探針10と試料表面S1との距離を制御しながら自己検知型プローブ2を走査させて、試料Sの表面形状又は物性を測定する上記測定手段7として機能する。
【0050】
上記挿入電極4は、例えばロッド状の電極棒であり、先端側が液体Wに浸かった状態で液槽3に固定されている。この挿入電極4は、制御部30から指示を受けて作動する電圧印加部5に電気接続され、電圧が印加されるようになっている。また、電圧印加部5は、ブリッジ回路26を介して配線部14にも電気接続されており、配線部14にも電圧を印加できるようになっている。そして、電圧印加部5は、配線部14の電位よりも挿入電極4の電位の方が正側の電位(陽極側電位)となるように両者に電圧を印加するようになっている。
【0051】
次に、このように構成された液中測定装置1により、液体W内で試料Sの表面形状又は物性を測定する液中測定方法について説明する。
本実施形態の液中測定方法は、液中設定工程と、電極配置工程と、電圧印加工程と、測定工程と、を行う方法である。これら各工程について以下に詳細に説明する。
【0052】
まず、液体Wが貯留された液槽3の底面に試料Sを収容した後、該液槽3を試料ステージ21上に載置する。そして、試料Sに対して探針10が対向した状態で液体W内に探針10及びカンチレバー11が浸かるようにホルダ本体22の位置を調整する。これにより、試料S、探針10及びカンチレバー11は、共に完全に液体Wに浸された状態となり、液中環境下に置かれる。また、この液中設定工程と同時に、先端側が液体Wに浸かるように挿入電極4を液槽3に固定する電極配置工程を行う。これにより、図4に示すように、挿入電極4の先端側も液中環境下に置かれる。
【0053】
また、挿入電極4をセットしたと同時に制御部30は電圧印加部5を作動させて、配線部14の電位よりも挿入電極4の電位の方が正側の電位(陽極側電位)になるように両者に電圧を印加する電圧印加工程を行う。例えば、図1及び図3に示すように、ブリッジ回路26を介して配線部14に電圧V1(2V)を印加すると共に、挿入電極4にV2(2.5V)の電圧を印加する。
【0054】
これら各工程が終了した後、自己検知型プローブ2を測定手段7により走査させて測定工程を開始する。
始めに、探針10と試料表面S1とを接触或いは近接させる初期設定を行う。即ち、XYZステージ20をゆっくりZ方向に上昇させる。すると、探針10と試料表面S1とが徐々に接近し始めて、両者の間に働く原子間力によりカンチレバー11が撓んで変位する。これに応じて、歪抵抗素子13も同様に変位するので、抵抗値が変化して電流値が変化する。そして制御部30は、検出手段6による検出結果に基づいて、カンチレバー11の撓み量が予め決められた撓み量に達した時点でXYZステージ20の作動を一旦停止させる。これにより、探針10と試料表面S1とを接触或いは近接させた状態にすることができる。なお、この状態が、カンチレバー11が撓んでいない初期状態であり、この状態を基準として基準発生部28は基準信号を発生させる。
【0055】
この初期設定が終了した後、XYZステージ20により試料ステージ21をXY方向に移動させて走査を行い、測定を開始する。この際、ブリッジ回路26によって歪抵抗素子13及び配線部14に流れる電流が検出されている。そして、探針10は試料Sとの間に働く原子間力によって引っ張られているので、走査を行っている際に試料表面S1の凹凸に応じてカンチレバー11が撓んで変位する。カンチレバー11が変位すると、これに応じて歪抵抗素子13も変位して抵抗値が変化するので、ブリッジ回路26で検出していた電流値が変化する。そして、ブリッジ回路26は、この電流変化に応じた出力信号を差分測定部27に出力する。
【0056】
差分測定部27は、送られてきた出力信号と基準発生部28から送られてきた基準信号とを比較して、カンチレバー11の変位量に応じた誤差信号を算出すると共に、該誤差信号をZ電圧フィードバック回路29に出力する。これにより、Z電圧フィードバック回路29は、カンチレバー11の変位量を検出することができる。そして、Z電圧フィードバック回路29は、誤差信号に基づいて試料ステージ21をZ方向に移動させるようにドライブ回路25を制御し、探針10と試料表面S1との距離を一定にさせる。つまり、誤差信号を“0”に近づけるように試料ステージ21を制御する。
【0057】
その結果、自己検知型プローブ2を走査させる際に、検出されたカンチレバー11の変位量が一定となるようにXYZステージ20を適宜Z方向に高さ制御しながら走査させることができる。そして制御部30は、Z電圧フィードバック回路29による変化させる信号に基づいて、試料表面S1の観察データを取得することができ、試料Sの表面形状や各種の物性を測定することができる。
【0058】
ところで、液中設定工程により液中環境が作り出されてから、歪抵抗素子13に電気接続されている配線部14は液体Wに触れた状態になっているが、上述したように挿入電極4は、電圧印加工程によって配線部14に対して正側の電位、即ち陽極となっている。そのため、配線部14を電気化学的に還元電位とすることができる。従って、電気化学反応により配線部14が溶解されてしまうことを防止でき、従来のものとは異なり欠損や断線をなくすことができる。
【0059】
その結果、自己検知型プローブ2を利用して、試料Sを液中で長期的に安定して測定することができる。また、配線部14に何ら影響を与えないので、従来のように配線部14をコーティングして保護する必要がなく、カンチレバー11の表面に露出させたままの状態にすることができる。そのため、カンチレバー11の剛性が増して撓み難くなってしまうことを防ぐことができる。従って、感度の低下を防止でき、高分解能で試料Sを測定することができると共に測定精度の信頼性を高めることができる。
【0060】
なお、上記実施形態において、液体Wに対して非溶解性の材料で挿入電極4を形成することがより好ましい。例えば、液体Wとして純水を用いた場合には、純水に溶け難い金(Au)、白金(Pt)や炭素棒で挿入電極4を形成すると良い。こうすることで、配線部14と同様に挿入電極4自体も溶け難くなる。従って、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。なお、挿入電極4の材料の種類は、上述したものに限られず使用する液体Wに応じて適宜選択すれば良い。
【0061】
また、上記実施形態において、電圧印加工程の際に液体Wが電気分解する電位差よりも低い電位差となるように、配線部14及び挿入電極4に電圧を印加することがより好ましい。つまり、電圧印加工程の際に、電圧印加部5が挿入電極4を配線部14よりも単に正側の電位にするのではなく、液体Wが電気分解してしまう電位差よりも両者の電位差が低い値となるように電圧を印加する。例えば、液体Wとして純水を用いた場合には、1.23Vの電位差があると純水が電気分解してしまう。そのためこの場合には、挿入電極4と配線部14との電位差が1.23Vよりも低い値で、且つ、挿入電極4の方が正側の電位となるように電圧を印加する。
【0062】
こうすることで、液体Wが電気分解してしまうことを防止することができる。ここで、液体Wが電気分解してしまうと、液中にガスが発生して気泡が生じてしまう(キャビテーション)。ところがこの気泡は、液中で容易に潰れて弾けてしまうので、液中に衝撃が発生してしまう。すると配線部14は、この衝撃による圧力を受けて疲労してしまう。特に、無数に気泡が発生するので、繰り返し圧力を受けてしまう。その結果、配線部14が欠損や断線する恐れがあった。
しかしながら、上述したように液体Wが電気分解してしまうことを防止することができるので、気泡が生じることはない。従って、気泡に起因する配線部14の欠損や断線をなくすことができる。そのため、より安定して長期的に液中測定を行うことができる。
【0063】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法の第2実施形態を、図5を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、液槽3を利用して液中環境を作り出したが、第2実施形態では、測定を行う最少限の範囲だけを液中環境にする点である。
【0064】
即ち、本実施形態の液中測定装置40は、図5に示すように、液槽3を使用せずに、基端側に図示しないシリンジポンプが接続されたピペット等の液体吐出装置(液中設定手段)41を利用して液中環境を作り出している。
この液中測定装置40の場合には、液中設定工程の際、試料Sの上方に自己検知型プローブ2及び挿入電極4を配置した後に、これら自己検知型プローブ2及び挿入電極4に向けて液体吐出装置41により適量の液体Wを吐出する。すると、吐出された液体Wは、少なくとも探針10、カンチレバー11及び挿入電極4の先端側を内部に含んだ状態で表面張力により試料表面S1に液滴状に保持された状態となる。これにより少なくとも探針10、カンチレバー11及び挿入電極4の周囲は液体Wに包まれた状態となり、測定を行う領域だけを液中環境にすることができる。なお、挿入電極4は、図示しない架台によって固定されている。
【0065】
特に、本実施形態の液中測定装置40によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができるうえ、測定を行う最小限の範囲だけを液中環境にできるので、液体Wを無駄にすることなく効率良く使用でき、低コスト化を図ることができる。
【0066】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法の第3実施形態を、図6及び図7を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第3実施形態と第2実施形態との異なる点は、第2実施形態では、液滴状の液体Wが、探針10、カンチレバー11、挿入電極4及び試料Sに表面張力でくっついた状態で保持されていただけであったが、第3実施形態では、液滴状の液体Wをより安定して保持できる点である。
【0067】
即ち、本実施形態の液中測定装置50は、図6及び図7に示すように、試料Sに対向配置されて試料Sとの間に液滴状の液体Wを保持する液中セル51を有している。この液中セル51は、断面L字型に形成されており、試料Sと対向する面が平坦面51aとされている。そして、この平坦面51aに液滴状の液体Wを表面張力により付着させることでより安定的に保持することができるようになっている。なお、この液中セル51は、液中設定手段を構成する一部である。
また、この液中セル51には、挿入電極4が取り付けられている。この際、挿入電極4は、平坦面51a上に露出した状態で取り付けられている。
【0068】
本実施形態の液中測定装置50により測定を行う場合には、液中設定工程の際、試料Sの上方に自己検知型プローブ2、液中セル51を配置した後、これら自己検知型プローブ2及び液中セル51に向けて液体吐出装置41により適量の液体Wを吐出する。すると、吐出された液体Wは、図6及び図7に示すように、少なくとも探針10、カンチレバー11及び挿入電極4を内部に含んだ状態で液中セル51の平坦面51aと試料Sとの間に表面張力によって液滴状に保持された状態となる。
【0069】
しかも、第2実施形態に比べて液滴状の液体Wを液中セル51により、より安定して保持することができ、液中環境をより安定且つ確実に作り出すことができる。従って、測定をより正確に行うことができる。また、挿入電極4が液中セル51に取り付けられているので、液体Wに浸かった状態を安定して維持することができる。また、挿入電極4だけを別個に固定する必要がないので、構成の簡略化を図ることができる。
【0070】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法の第4実施形態を、図8を参照して説明する。なお、この第4実施形態においては、第3実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第4実施形態と第3実施形態との異なる点は、第3実施形態では、単に配線部14と挿入電極4との間に電圧を印加したが、第4実施形態では、試料表面S1の電位を基準として電圧を印加する点である。
【0071】
即ち、本実施形態の液中測定装置60は、図8に示すように、試料Sに電気接続された参照電極61を備えている。この参照電極61は、導電性材料で板状に形成された電極であり、試料Sと試料ステージ21との間に配置されている。なお、参照電極61は、液体Wに直接触れないようになっている。この参照電極61、配線部14及び挿入電極4は、電圧印加部5に接続されたポテンショスタット62にそれぞれ電気接続されている。そして、本実施形態の電圧印加部5は、試料表面S1の電位を基準として配線部14と挿入電極4との間に電圧を印加するようになっている。
【0072】
本実施形態の液中測定装置60により測定を行う場合には、液中設定工程の際に参照電極61に電気接続させるように試料Sをセットする。そして、電圧印加工程の際に、試料表面S1の電位(参照電極電位)を基準にするので、試料Sに電流が流れることがない。
従って、試料Sとして金属サンプルや半導体サンプルを用いたとしても、試料表面S1に電気化学的な影響(腐食等)を何ら与えずに正確に測定を行うことができる。そのため、測定できる試料Sの種類を増やすことができ、より使い易くなる。
【0073】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る液中測定装置及び液中測定方法の第5実施形態を、図9を参照して説明する。なお、この第5実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第5実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、自己検知型プローブ2とは別個に挿入電極4が配置されていたが、第5実施形態では、自己検知型プローブ2と挿入電極4とが一体的に構成されている点である。
【0074】
即ち、本実施形態の自己検知型プローブ2は、図9に示すように、支持部12の部分に挿入電極4が露出した状態で取り付けられている。この場合であっても、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
特に、自己検知型プローブ2とは別個に挿入電極4を固定する必要がないので、構成の簡略化を図ることができる。また、挿入電極4を配線部14に極力近づけることができるうえ、挿入電極4と配線部14とを同じタイミングで液体Wに接触させることができる。従って、配線部14の溶解をより確実に防止することができる。
【0075】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0076】
例えば、上記各実施形態では、試料S側を三次元方向に移動させる試料スキャン方式を例にして説明したが、この方式に限られず、自己検知型プローブ2側を三次元方向に移動させるプローブスキャン方式にしても構わない。この場合においても、スキャン方式が異なるだけで、試料スキャン方式と同様の作用効果を奏することができる。なお、試料S側及び自己検知型プローブ2側を共に三次元方向に移動できるように構成しても構わない。
【0077】
(実施例)
次に、上記第2実施形態に基づいて、実際に液中で試料Sの測定を行った場合の実施例について、以下に説明する。なお、以下の条件で測定を行った。
まず、表面にクロムを蒸着してマスクパターンを形成した試料Sを測定対象物とした。また、液体Wとして純水を使用した。また、挿入電極4に2.5Vの電圧を印加すると共に、配線部14に2Vの電圧を印加した。つまり、純水の電気分解を防止しながら、挿入電極4を配線部14よりも正側の電位に設定した。
【0078】
初めに、液中環境ではなく大気中にてマスクパターンの境界部分を観察して、試料Sの表面画像を取得した。次いで、上記条件のもと、液中測定を行って同じ位置の表面画像を取得した。その結果、大気中で取得した表面画像とほぼ変わらない高分解能の表面画像を取得することが確認できた。また、純水中であっても、数日以上経過しても配線部14が溶解しないことを確認することができた。
これらの結果から、本実施形態の液中測定装置40及び液中測定方法の効果が確認でき、配線部14に何ら影響を与えずに、しかも感度の低下を防止しながら長期的に安定して試料Sを高分解能で液中測定することができるという従来にはない有利な効果を確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る液中測定装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す自己検知型プローブの斜視図である。
【図3】図2に示す自己検知型プローブとブリッジ回路との関係を示す図である。
【図4】図1に示す液中測定装置により試料を液中観察している際の図であって、自己検知型プローブ及び挿入電極周辺の拡大斜視図である。
【図5】本発明に係る液中測定装置の第2実施形態を示す図であって、自己検知型プローブ及び挿入電極周辺の拡大斜視図である。
【図6】本発明に係る液中測定装置の第3実施形態を示す図であって、自己検知型プローブ及び挿入電極周辺の拡大断面図である。
【図7】図6に示す矢印A方向から見た図である。
【図8】本発明に係る液中測定装置の第4実施形態を示す簡略構成図である。
【図9】本発明に係る液中測定装置の第5実施形態を示す図であって、挿入電極が一体的に形成された自己検知型プローブの斜視図である。
【符号の説明】
【0080】
S 試料
S1 試料表面
W 液体
1、40、50、60 液中測定装置
2 自己検知型プローブ
3 液槽(液中設定手段)
4 挿入電極
5 電圧印加部(電圧印加手段)
6 検出手段
7 測定手段
10 探針
11 カンチレバー
13 歪抵抗素子
14 配線部
41 液体吐出装置(液中設定手段)
51 液中セル(液中設定手段)
61 参照電極
62 ポテンショスタット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体内で試料の表面形状又は物性を測定する液中測定装置であって、
前記試料に対して対向配置された探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化する歪抵抗素子と、カンチレバーの表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子に電気接続された配線部と、を有する自己検知型プローブと、
少なくとも前記探針及び前記カンチレバーが前記液体に浸された液中環境を前記試料上に作り出す液中設定手段と、
前記液体内に少なくとも一部が浸かった状態で配置された挿入電極と、
前記配線部の電位よりも前記挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように両者に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記配線部に流れる電流値を検出して、前記カンチレバーの変位量を検出する検出手段と、
検出された前記カンチレバーの変位量が一定となるように前記探針と前記試料表面との距離を制御しながら前記自己検知型プローブを走査させて、前記試料の表面形状又は物性を測定する測定手段と、を備えていることを特徴とする液中測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液中測定装置において、
前記挿入電極は、前記液体に対して非溶解性の材料から形成されていることを特徴とする液中測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液中測定装置において、
前記電圧印加手段は、前記液体が電気分解する電位差よりも低い電位差となるように、前記配線部及び前記挿入電極に電圧を印加することを特徴とする液中測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中測定装置において、
前記挿入電極は、前記カンチレバーに取り付けられていることを特徴とする液中測定装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の液中測定装置において、
前記液中設定手段は、前記試料に対向配置されて、前記試料との間に前記液体を液滴状に保持する液中セルを有し、
前記挿入電極は、前記液中セルに取り付けられていることを特徴とする液中測定装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の液中測定装置において、
前記試料に電気接続された参照電極を備え、
前記電圧印加手段は、前記参照電極と前記配線部と前記挿入電極とにそれぞれ電気接続されたポテンショスタットを有し、前記試料表面を参照電極電位としながら前記電圧を印加することを特徴とする液中測定装置。
【請求項7】
液体内で試料の表面形状又は物性を測定する液中測定方法であって、
前記探針が先端に設けられたカンチレバーと、該カンチレバーの変位量に応じて抵抗値が変化する歪抵抗素子と、カンチレバーの表面に露出した状態で設けられて歪抵抗素子に電気接続された配線部と、を有する自己検知型プローブを前記試料に対向配置すると共に、少なくとも探針及びカンチレバーが液体に浸された液中環境を試料上に作り出す液中設定工程と、
前記液体内に少なくとも一部が浸かるように挿入電極を配置する電極配置工程と、
前記配線部の電位よりも前記挿入電極の電位の方が陽極側の電位となるように両者に電圧を印加する電圧印加工程と、
前記配線部に流れる電流値を検出して前記カンチレバーの変位量を検出すると共に、検出したカンチレバーの変位量が一定となるように前記探針と前記試料表面との距離を制御しながら前記自己検知型プローブを走査させて、前記試料の表面形状又は物性を測定する測定工程と、を行うことを特徴とする液中測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の液中測定方法において、
前記挿入電極は、前記液体に対して非溶解性の材料から形成されていることを特徴とする液中測定方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の液中測定方法において、
前記電圧印加工程の際、前記液体が電気分解する電位差よりも低い電位差となるように、前記配線部及び前記挿入電極に電圧を印加することを特徴とする液中測定方法。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか1項に記載の液中測定方法において、
前記液中設定工程の際に、前記試料に電気接続された参照電極を用意し、
前記電圧印加工程の際に、前記試料表面を参照電極電位としながら前記電圧を印加することを特徴とする液中測定方法。
【請求項11】
請求項7から10のいずれか1項に記載の液中測定方法において、
前記液中設定工程の際、前記試料に対向配置された液中セルを利用して、前記試料との間に前記液体を液滴状に保持することを特徴とする液中測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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