説明

液体の局所的速度を測定する装置及び方法

本発明は、作用領域における血管内の磁性粒子を有する液体の局所的速度を測定する装置及び対応する方法であって、冠状動脈内の血液の局所的速度の測定に特に適している、装置及び対応する方法に関する。これは、ボーラスにおける(磁性粒子を有する)液体の変動を追跡することにより得られる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用領域内に磁性材料を有する液体の局所的速度を測定するための装置及び対応する方法に関する。更に、本発明はコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子イメージングのための装置については、独国特許第10151778A1号明細書に記載されている。その文献に記載されている装置においては先ず、比較的低い磁場強度を有する第1サブゾーン及び比較的高い磁場強度を有する第2サブゾーンが検査ゾーンにおいて形成されるように、磁場強度の空間分布を有する選択磁場の全てが生成される。検査ゾーンのサブゾーンの空間における位置はその場合、移動され、故に、検査ゾーンにおける粒子の磁化は局所的に変化する。検査ゾーンにおける磁化に依存する信号が記録され、その時間は、サブゾーンの空間における位置の移動により影響され、検査ゾーンにおける磁性粒子の空間分布に関する情報がそれらの信号から抽出され、故に、検査ゾーンの画像が生成されることが可能である。そのような装置は、検査対象の表面に近接する場合とその表面から遠隔の場合の両方において、非破壊様式で、何れかの損傷をもたらすことなく、高空間分解能で、任意の検査対象、例えば、人間の身体を検査するように用いられることが可能であるという有利点を有する。
【0003】
類似する装置及び方法については、Gleich,B及びWeizenecker,Jによる“Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles”in nature,2005,vol.435,pp.124−1217に記載されている。その文献に記載されている磁性粒子イメージングについての装置及び方法は、小さい磁性粒子の非線形磁化曲線をうまく利用している。
【0004】
心臓イメージングの市場はかなり魅力的である。特に、冠状動脈のイメージングは重要である。MPIは十分な時間分解能を有する一方、現在有効なトレーサ物質空間分解能は狭窄を直接診断するには十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許第10151778A1号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Gleich,B and Weizenecker,Jによる“Tomographic imaging using the nonlinear response of magnetic particles”in nature,2005,vol.435,pp.124−1217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、冠状動脈における血液の局所的速度を測定するのに特に適切である、作用領域内で血管において磁性材料を含む液体の局所的速度を測定する装置及び対応する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴においては、装置は、
− 低い磁場強度を有する第1サブゾーン及び高い磁場強度を有する第2サブゾーンが作用領域において生成されるような、磁場強度の空間におけるパターンを有する選択磁場を生成する選択手段と、
− 磁性材料の磁化が局所的に変わるように、駆動磁場により作用領域の2つのサブゾーンの空間において位置を変える駆動手段と、
− 検出信号を取得する受信手段であって、その検出信号は作用領域における磁化に依存し、その磁化は、第1サブゾーン及び第2サブゾーンの空間における位置の変化により影響される、受信手段と、
− 第1サブゾーンの空間における位置が血管に従うように第1サブゾーンの空間における位置を変えるように駆動手段を制御し、血管に従って第1サブゾーンの異なる位置で少なくとも2つの検出信号を取得するように受信手段を制御する制御手段と、
− 少なくとも2つの検出信号の2つの検出信号を相互に関連付け、前記検出信号が取得された第1サブゾーンの粒子間の既知の距離及び相互に関連付けられた検出信号から、液体の局所的速度を決定する相関手段と、
を有する。
【0009】
本発明の更なる特徴においては、前記コンピュータプログラムがコンピュータで実行されるときに、請求項9に記載された方法の複数のステップを実行するように、コンピュータが請求項1に記載の装置を制御するようにするためのプログラムコード手段を対応する方法及びコンピュータプログラムは有する。
【0010】
本発明の好適な実施形態が従属請求項において記載されている。特許請求の範囲の方法及びコンピュータプログラムは、従属請求項に記載され、特許請求の範囲の装置と類似する及び/又は同じ好適な実施形態を有することが理解できる。
【0011】
本発明は、ボーラス(bolus)における液体(磁性粒子を含む)の変動を追跡することにより、血管内の液体の、例えば、冠状動脈内の血液の局所的速度を測定する考え方に基づいている。
【0012】
基本的には、実施形態においては、濃淡変動の動向がMPIを用いて追跡される。このために、第1ボーラスが適用され、冠状動脈の位置が、第1ボーラスの心臓画像を用いて異なる心位相について決定される。所定の冠状動脈のセグメント化の後、高速(例えば、10m/s)で冠状動脈を追跡して、焦点磁場シーケンスが生成される。焦点磁場経路に沿って、冠状動脈に沿って主成分を伴う駆動磁場を理想的に用いて、MPI画像が記録される。画像がリアルタイムに再構成され、焦点磁場経路が、視野の略中央において最高の強度を維持するように修正される。
【0013】
更なる実施形態においては、局所的な血液速度が、2つのボクセルを選び、第1ボクセルの信号と第2ボクセルの時間シフトされた信号との間の相関性を最大化することにより決定される。決定された時間シフトは、それらのボクセルの距離と共に、速度を与える。これは好適には、十分に短い距離を有するボクセルの対の全てについて行われる。結果として得られる速度は、濃淡画像の上部に色分けされて表示されることが可能である。
【0014】
好適には、前記制御手段は、血管に沿った第1サブゾーンの異なる位置で複数の検出信号を取得するように、受信手段を制御するために適合され、前記相関手段は、複数の検出信号のうちの異なる2つの検出信号を多様に相互に関係付け、第1サブゾーンの複数の位置の間の既知の距離及び補正された検出信号から多様に決定するために適合され、その相関手段において、前記検出信号が取得され、血管に沿った異なる位置で液体の局所的速度が決定される。これは、測定の精度を改善する。
【0015】
更に、前記制御手段が、血管に沿って少なくとも2つの検出信号が取得される血管のロードマップを用いるために、及び、駆動手段を制御するように前記ロードマップを用いるために適合されることは好適である。このロードマップは、異なるイメージングモダリティであって、例えば、MR又はCTにより、予め取得されることが可能であり、若しくは、血管内の液体の速度の測定が実行される前に、MPI装置により取得されることが可能である。
【0016】
前記制御手段は、特に造影剤において前記磁性材料を有する媒体のボーラスが異なる位置を通過している間に、前記作用領域の第1サブゾーンの前記異なる位置において検出信号を取得するように受信手段及び駆動手段を制御するように適合され、前記ロードマップを得るように前記取得された検出信号により血管をセグメント化するセグメント化手段を更に有する。
【0017】
更に、焦点手段は、焦点磁場により作用領域の空間における位置を変えるために備えられることが可能であり、制御手段は、前記ロードマップの取得のために作用領域を移動させるように焦点手段を制御するために適合されることが可能である。そのような焦点磁場は、駆動磁場と同じ(又は、類似する)空間分布を有する。別個の(好適には)又は同じ手段(例えば、コイル)が、焦点手段及び駆動手段として用いられることが可能である。基本的な違いは、焦点磁場に対しては周波数はかなり低い(例えば、1kHz未満であり、典型的には、100Hz未満である)が、駆動磁場に対しては、焦点磁場の大きさはかなり高い(例えば、駆動磁場についての20mTに対して、200mTである)ことである。それらの磁場は、所望の位置の方にFFPを移動させるように用いられる。所定のオブジェクトにおいて生成される周波数はかなり低過ぎる(典型的には、10kHz未満)ので、焦点磁場のみにより得られる検出信号が所望の目的のために有効でないために、駆動磁場は、焦点磁場に加えて必要とされる。好適には、再構成手段が、前記作用領域の第1サブゾーンの異なる位置において取得された前記検出信号から前記作用領域の濃淡画像を再構成するために更に備えられる。測定された速度情報はその場合、例えば、そのような濃淡画像において示されることが可能である。
【0018】
他の実施形態に従って、前記制御手段は、第1サブゾーンの空間における位置が血管中の液体の予測される移動に従ってある方向に移動するように、第1サブゾーンの空間における位置を変えるように駆動手段及び/又は焦点手段を制御するように適合される。これは、移動方向に対して横断する感応性領域が相対的に広いために、かなり低い精度で追跡されてもよいという有利点を有する。
【0019】
他の実施形態に従って、前記制御手段は、第1サブゾーンの空間における位置が既知のオブジェクトの表面上を、例えば、心臓の表面上を実質的に移動するように、第1サブゾーンの空間における位置を変えるように駆動手段及び/又は焦点手段を制御するように適合される。その移動方向はその場合、一般に、(心臓の)表面に対する接線方向にある。この実施形態は、例えば、既知でない冠状動脈のロードマップの場合に、特に有効であるが、オブジェクト、例えば、心臓の表面は既知である。二次元(径方向)MPIシーケンスは好適には、この目的で用いられる。
【0020】
本発明の上記の及び他の特徴については、以下に詳述する実施形態を参照することにより明らかになり、理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】磁性流体イメージング(MPI)装置の原理的なレイアウトの模式図である。
【図2】本発明に従った装置により生成される磁力線パターンの例示としての図である。
【図3】作用領域に存在する磁性粒子の拡大図である。
【図4a】磁性粒子の磁化特性を示す図である。
【図4b】磁性粒子の磁化特性を示す図である。
【図5】本発明に従った装置のブロック図である。
【図6】本発明の例示としての血管樹の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、MPI装置10により検査されるようになっている任意の対象を示している。図1の参照番号350は対象であって、この場合は、人間又は動物の患者を示し、その患者は患者用テーブル351に載せられ、その患者用テーブルの一部のみが示されている。本発明に従った方法の適用に先だって、複数の磁性粒子100(図1には示していない)が、本発明の装置10の作用領域300に備えられる。特に、例えば、主要の治療及び/又は診断処理に先だって、磁性粒子100は、例えば、患者350の身体に注入される磁性粒子100を有する液体(図示せず)により、作用領域内に位置付けられる。
【0023】
本発明の実施形態の実施例として、選択手段210を構成する複数のコイルを有する装置10が図2に示されていて、その選択手段の領域は、処置領域とも呼ばれる作用領域300を規定する。例えば、選択手段210は、患者350の上又は下若しくはテーブルトップの上又は下に備えられる。例えば、選択手段210は、コイル210′、210′′の第1の対を有し、それらの各々は、患者350の上又は下に同軸上に備えられる、及び、特に反対方向に、等しい電流により横断される2つの同じ構成のウィンドウ210′、210′′を有する。第1のコイルの対210′、210′′は共に、以下では選択手段210と呼ばれる。好適には、この場合には、直流電流が用いられる。選択手段210は、一般に、磁力線により図2に示されている勾配磁場である選択磁場211を生成する。それは、選択手段210のコイルの対の(例えば、鉛直方向の)軸の方向に実質的に一定の勾配を有し、この軸上の点では値が0に達する。この磁場無印加点(図2には個別には示していない)から開始して、選択磁場211の磁場強度は、その磁場無印加点から距離が大きくなるにつれて、3つの空間的方向全てにおいて増加する。その磁場無印加点の周囲の破線で表されている第1サブゾーン301又は領域301においては、磁場強度はかなり小さいために、第1サブゾーン301が飽和されていない点で、粒子100の磁化が存在する一方、第2サブゾーン302(領域301の外側)に存在する粒子の磁化は飽和状態にある。作用領域300の磁場無印加点又は第1サブゾーン301は、好適には、空間的にコヒーレントな範囲であり、それはまた、点状の範囲である、又は線状の範囲又は平坦な範囲である。第2サブゾーン302(即ち、第1サブゾーン301の外側の作用領域300の残りの部分)においては、磁場強度は、飽和状態に粒子100を保つには十分に強い。作用領域300内の2つのサブゾーン301、302の位置を変えることにより、作用領域300における(全体的な)磁化が変わる。作用領域300における磁化、又はその磁化により影響される物理パラメータを測定することにより、作用領域の磁性粒子の空間分布についての情報が得られる。作用領域300における2つのサブゾーン301、302の相対的な空間位置を変えるように、更なる磁場、即ち、所謂、駆動磁場221は、作用領域300において、又は作用領域300の少なくとも一部において、選択磁場211に重ね合わされる。
【0024】
図3は、本発明の装置10と共に用いられる種類の磁性粒子100の例を示している。その磁性粒子は、例えば、5nmの厚さを有し、例えば、鉄−ニッケル合金(例えば、パーマロイ)を有する軟磁性層102を備えたガラスの球状基板101を有する。この層は、例えば、化学的に及び/又は物理的にアグレッシブな環境、例えば、酸に対して粒子100を保護することができるコーティング層103により覆われることが可能である。そのような粒子100の磁化の飽和に必要な選択磁場211の磁場強度は、種々のパラメータであって、例えば、粒子100の直径、磁性層102のために用いられる磁性材料、及び他のパラメータに依存する。
【0025】
直径が10μmである場合には、約800A/mの磁場(1mTの磁束密度に略対応する)がその場合には必要である一方、直径が100μmの場合には、80A/mの磁場で十分である。より低い飽和磁場を有する材料のコーティング102が選択されるときには、又は層102の厚さが減少されるときには、更に小さい値が得られる。
【0026】
好適な磁性粒子100の更なる詳細については、独国特許第10151778号明細書の対応する部分、特に、段落16乃至20と、独国特許第10151778号明細書の優先主張する欧州特許第1304542A2号明細書の段落57乃至61に記載されている。
【0027】
本発明に従って、特に、冠状動脈をイメージングするために、他の磁性粒子、例えば、Resovistという名称で市場に出回っている造影剤も用いることができる。
【0028】
第1サブゾーン301の大きさは、一方では、選択磁場211の勾配の強度に依存し、他方では、飽和に必要な磁場の磁場強度に依存する。160x10A/mに達する選択磁場211の磁場強度勾配(所定の空間方向における)及び80A/mの磁場強度における磁性粒子100の十分な飽和のために、粒子100の磁化が飽和されていない第1サブゾーン301の寸法は約1mmである(所定の空間方向において)。
【0029】
以下で駆動磁場と呼ばれる更なる磁場が、作用領域300において選択磁場210(又は勾配磁場210)と重ね合わされるとき、第1サブゾーン301は、この駆動磁場221の方向に第2サブゾーン302を基準として移動され、この移動の範囲は、駆動磁場221の強度が高くなるにつれて、大きくなる。重ね合わされた駆動磁場221が時間経過につれて可変であるとき、第1サブゾーン301の位置は、それに相応して時間経過につれて及び空間において変化する。駆動磁場221の周波数帯域と異なる他の周波数帯域(より高い周波数の方に移動された)における第1サブゾーン301に位置している磁性粒子100からの信号を受信する又は検出することは有利である。これは、駆動磁場221の周波数のより高い高調波の周波数成分が、磁化特性の非線形性の結果としての作用領域300における磁性粒子100の磁化の変化のために生じるために、可能である。
【0030】
空間における何れかの所定の方向について駆動磁場221を生成するように、以下で駆動手段220とも呼ばれる3つの更なるコイルの対、即ち、第2コイル対220′、第3コイル対220′′及び第4コイル対220′′′が備えられている。例えば、第2コイル対220′は、第1コイル対210′、210′′のコイル軸又は選択手段210の方向に、即ち、例えば、鉛直方向に延びている駆動磁場221の成分を生成する。このために、第2コイル対220′のウィンドウは、同じ方向に等しい電流により横断される。第2コイル対220′により得られる効果は原理的には、第1コイル210′、210′′における反対の等しい電流に関して同じ方向に電流を重ね合わせることによっても得られ、故に、電流は一のコイルにおいて減少し、他のコイルにおいて増加する。しかしながら、高い信号対ノイズ比の信号の解釈を特に目的として、時間的に一定の(又は準定の)選択磁場211(又は、勾配磁場とも呼ばれる)及び時間的に可変な鉛直方向の駆動磁場が、選択手段210及び駆動手段220の別個のコイルの対により生成されることは有利である。
【0031】
2つの更なるコイル対220′′、220′′′は、空間における異なる方向に、例えば、作用領域300(又は、患者350)の長手方向の水平方向に、及びそれに対して直交する方向に延びている駆動磁場221の成分を生成するように備えられている。ヘルムホルツタイプ(選択手段210及び駆動手段220についてのコイル対のような)の第3及び第4コイル対220′′、220′′′が、この目的で用いられる場合には、それらのコイル対は、処理領域の左及び右に又はこの領域の前及び後のそれぞれに備えられる必要がある。これは、作用領域300又は処理領域300の接近性に影響を及ぼす。従って、第3及び/又は第4磁性コイル対、即ちコイル220′′、220′′′は、作用領域300の上下にも備えられ、従って、それらの巻き構成は、第2コイル対220′の巻き構成と異なる必要がある。しかしながら、この種のコイルは、高周波(RF)コイル対が処理領域の上下に位置付けられる開放型の磁石(開放型のMRI)を有する磁気共鳴装置の磁場により知られていて、前記RFコイル対は、水平方向の時間的に可変の磁場を生成することが可能である。従って、そのようなコイルの構成については、ここでは更に詳述する必要はない。
【0032】
本発明に従った装置10は、図1に単に模式的に示している受信手段230を更に有する。受信手段230は通常、作用領域300における磁性粒子100の磁化パターンにより誘導される信号を検出することができるコイルを有する。しかしながら、この種のコイルは、例えば、できるだけ高い信号対ノイズ比を得るように、高周波(RF)コイル対が作用領域300の周囲に位置付けられている磁気共鳴装置の磁場により知られている。従って、そのようなコイルの構成については、ここでは更に詳述する必要はない。
【0033】
図1に示す選択手段210についての代替の実施形態においては、複数の永久磁石(図示せず)が、勾配選択磁場211を生成するように用いられることが可能である。そのような(対向する)永久磁石の2つの磁極の間の空間において、図2の磁場に類似する磁場が、即ち、対向する磁極が同じ極性を有するときの磁場が生成される。本発明に従った装置の他の代替の実施形態においては、選択手段210は、図2に示すような少なくとも1つの永久磁石及び少なくとも1つのコイル210′、210′′の両方を有する。
【0034】
選択手段210、駆動手段220及び受信手段230の異なる構成要素について又はそれらにおいて用いられる周波数範囲は概略、次のようである。即ち、選択手段により生成される磁場は、時間経過につれて全く変化しない、又は好適には、約1Hz乃至約100Hzの範囲内で比較的ゆっくり変化する。駆動手段220により生成される磁場は好適には、約25kHz乃至約100kHzの範囲内で変化する。受信手段が感応性を有する必要がある磁場変化は好適には、約50kHz乃至約10MHzの周波数範囲内にある。
【0035】
図4a及び4bは、磁化特性を、即ち、粒子100(図4a及び4bには示していない)の磁化Mの変化を、そのような粒子の分散においてその粒子100の位置における磁界強度Hの関数として示している。磁化Mは、飽和磁化に達したことを意味する磁場強度+H以上及び磁場強度−H以下ではもはや変化しない。磁化Mは、値+Hと−Hとの間では飽和していない。
【0036】
図4aは、得られる正弦磁場H(t)(即ち、粒子100により“見える”)の絶対値が粒子100を磁気的に飽和するのに必要な磁場強度より低い場合の、即ち、更なる磁場はアクティブでない場合の、粒子100の位置における正弦磁場H(t)の影響を示している。この状態にある粒子100の磁化は、磁場H(t)の周波数のリズムにあるそれらの飽和値間で往復移動する。磁化の時間経過につれての結果として起こる変化は、図4aの右側に参照M(t)として示されている。その磁化はまた、周期的に変化し、そのような粒子の磁化は周期的に反転されることが理解できる。
【0037】
曲線の中央の破線部分は、正弦磁場H(t)の磁場強度の関数としての磁化M(t)のおおよその平均変化を示している。この中央の線からのずれとして、磁場Hが−Hから+Hに増加するときには、磁化は僅かに右方向に広がり、磁場Hが+Hから−Hに減少するときには、磁化は僅かに左方向に広がる。この既知の効果は、熱の発生の機構の基礎にあるヒステリシス効果と称されるものである。その曲線の部分と部分との間に形成され、その形状及び大きさが材料に依存するヒステリシス面領域は、磁化の変化時に熱の発生についての指標になる。
【0038】
図4bは、静磁場H1が重ね合わされた正弦磁場H(t)の効果を示している。磁化は飽和状態にあるため、その磁化は実際には、正弦磁場H(t)により影響されない。磁化M(t)は、この領域においては時間経過しても一定のまま維持される。従って、正弦磁場H(t)は、磁化の状態の変化をもたらさない。
【0039】
図5は、図1に示す装置10のブロック図である。選択手段210が、図5に模式的に示されている。好適には、選択手段210は、特にどちらかのコイルにおける3つの選択磁場生成手段、永久磁石、又はコイルと永久磁石の組み合わせを備えている。前記3つの選択磁場生成手段は好適には、各々の特定の方向について1つの選択磁場生成手段が備えられるように配置される。実施形態において、複数のコイルの対が選択磁場生成手段として備えられている場合、それらの複数のコイルの対は、制御可能な電流源32からDC電流が供給され、前記電流源32は制御手段76により制御される。所望の方向に選択磁場211の勾配強度を個別に設定するように、重ね合わされる電流はコイルの対の少なくとも1つの対に対して重ね合わされ、対向するコイルの重ね合わされた電流は反対方向に方向付けられる。好適な実施形態においては、制御手段76は更に、磁場強度の和及び選択磁場211の3つの空間部分全ての勾配磁場の和が所定レベルに維持されるように制御する。
【0040】
実施形態においては、永久磁石が、コイルの対に換えて、選択磁場生成手段として備えられている場合、電流源32は、制御手段76により供給される制御信号に従って所望の方向に勾配強度を設定するように、永久磁石を機械的に移動させることができる作動手段32′、例えば、電気モータと取り交わされる必要がある。
【0041】
制御手段76はまた、検査領域内の磁性粒子の分布を表示するモニタ13と、入力ユニット14とに結合されているコンピュータ12に接続されている。ユーザは、従って、最高の分解能の所望の方向を設定することができ、モニタ13の作用領域のそれぞれの画像も、受信する。最高の分解能が必要である重要な方向が、最初にユーザが設定した方向からずれている場合、ユーザは、改善されたイメージング分解能を有する更なる画像を生成するように、手動でその方向を更に変えることができる。この分解能改善処理はまた、制御手段76及びコンピュータ12により自動的に操作されることが可能である。この実施形態における制御手段76は、自動的に推定された又はユーザにより開始値として設定された第1方向の勾配磁場を設定する。勾配磁場の方向はその場合、コンピュータ12により比較される受信された画像の分解能が最高になるまで、段階的に変えられる。従って、最も高い有効な分解能を受け入れるように、自動的に適合された最も重要な方向が探し出される。
【0042】
コイル対(第2磁気手段)220′、220′′、220′′′は、それらが電流を受け入れる電流増幅器41、51、61に接続されている。電流増幅器41、51、61はまた、各々の場合に、電流Ix、Iy、Izの時間的経過が増幅されるように規定するAC電流源42、52、62に接続されている。AC電流源42、52、62は制御手段76により制御される。
【0043】
受信コイル(受信手段)はまた、図5に模式的に示されている。受信コイル230において誘導された信号はフィルタユニット71に供給され、そのフィルタユニットにより信号はフィルタリングされる。このフィルタリングの目的は、測定された値を分離することであり、そのことは、検査における磁化によりもたらされ、そのことは、他の干渉する信号からの2つの部分領域(301、302)の位置における変化により影響される。このために、フィルタユニット71は、例えば、コイル対220′、220′′、220′′′が作動される時間周波数より低い、又はそれらの時間周波数の2倍より小さい時間周波数を有する信号がフィルタユニット71を通らないように、デザインされることが可能である。それらの信号はその場合、増幅ユニット72を介してアナログ/ディジタル変換器73(ADC)に送信される。それらの信号から磁性粒子の空間分布を再構成し、検査領域における第1磁場の第1部分領域がそれぞれの信号の受信中に仮定され、画像処理ユニット74が制御手段76から得る、アナログ/ディジタル変換器73により生成されたディジタル化信号が、画像処理ユニット(再構成手段とも呼ばれる)74に供給される。磁性粒子の再構成された空間分布は最終的には、制御手段76を介してコンピュータ12に送信され、そのコンピュータはモニタ13上にそれを表示する。
【0044】
本発明に従って、制御手段76は、第1サブゾーン301の空間における位置、即ちFPPを変えるように、駆動手段、即ち、コイル対220′、220′′、220′′′を制御するように適合され、故に、それは、作用領域内に位置していて、磁性材料を含む液体が流れる血管80(図6を参照されたい)を流れる。例えば、血管80は、血液が流れる冠状動脈であり得、その血液の速度が測定される。制御手段76は更に、血管80に沿ったFFP301の異なる位置S、Sで、少なくとも2つの検出信号を取得するように、受信手段、即ち、受信コイル230を制御するように適合されている(即ち、FFPは位置S、Sの方に移動され(一回又は複数回)、その度に、検出信号が取得される)。作用領域300に位置している血管部分内の流体(例えば、動脈における血液)は、MPI信号励起に対して応答する上記の磁性材料を含む造影剤81を有する。好適には、前記造影剤81のボーラス(bolus)が前記位置S、Sを通っている間に、検出信号が取得される。特に、ボーラスの変動が前記位置S、Sで検出される。
【0045】
処理ユニット74は、2つの検出信号を相互に関係付ける相関ユニット75を有する。相関ユニット75は、例えば、2つの検出信号を比較して、時間遅延Δtが演算された検出信号の特徴点を識別し、その後に、時間遅延後に第1の位置Sにおいて取得された同じ信号が第2の位置Sで取得されるように、適合されることが可能である。相互の関係付けられた検出信号、及び検出信号が取得されたFFPの位置SとSとの間の既知の距離dから、前記測定間の演算された時間遅延Δtのみならず、液体の局所的速度(v=d/Δt)がその場合に、決定される。
【0046】
特定の実施形態においては、相関ユニット75は、重畳積分∫S(t′)S(t′−t)dt′が最小化されるように、Δt=t′−tを決定するように適合される(ここで、t′はSにおける測定時間であり、tはSにおける測定時間である)。この既知の手段の解を得るように、例えば、フーリエ変換が適用されることが可能である。
【0047】
好適には、複数の検出信号が、血管80に沿った前記2つの(又はそれ以上の)位置S、Sにおいて取得され、複数の検出信号のうちの異なる2つの検出信号は相互に関係付けられる(好適には、複数の検出信号の対が相互に関係付けられる)。相互に関係付けられた信号と、前記検出信号が取得された複数の位置間の既知の距離とから、異なる位置における液体の局所的速度が、複数回、好適には、十分に短い距離を有するボクセルの対の検出信号全てについて、決定される。
【0048】
検出信号の取得中に血管を追跡するために、血管80のロードマップ(又は、作用領域における完全な血管ツリー)が実施形態において用いられる。この血管ツリーは、例えば、異なるモダリティ(例えば、CT又はMR)により、予め得られることが可能であり、若しくは、MPIにより、及び造影剤の第1ボーラスの使用により取得されることが可能である。後者の場合、前記ロードマップを得るように取得された検出信号から血管80をセグメント化するためのセグメント化77が処理ユニット74において提供される。焦点磁場により作用領域300の空間における位置を変えるために、焦点手段(図示せず)が備えられている。この焦点手段は、FFPが高い速度で血管を流れるように適合されることが可能である。典型的には、別個の複数のコイルが焦点手段として用いられるが、駆動手段のために用いられるコイルと同じコイルを用いることも可能である。
【0049】
実施形態に従って、FFPは、特に血管ツリーを用いることにより、所定の血管に沿って移動される。この目的のために、均一な磁場が、大きい振幅(即ち、焦点磁場)及び低い速度(例えば、1000m/s)で用いられる。それらの焦点磁場に対して、高速で移動する磁場(即ち、例えば、1000m/sでえある駆動磁場)が重ね合わされる。
【0050】
生理学的な理由で、駆動磁場の振幅はしばしば、所定の血管に沿ってFPを完全に移動させるのに十分に大きく選択されない。従って、血管の同じセグメントに沿って前後にFFPを移動させること、及び同じセグメントからの検出信号を複数回測定することは好適である。
【0051】
本発明に従って、画像はリアルタイムに再構成されることが可能である。例えば、演算された速度が表示される、例えば、色分けされることが可能である。
【0052】
本発明について、図に示して且つ上記で詳述している一方、そのような図示及び詳述は例示とみなされるべきものであって、限定的なものではなく、本発明は上記の実施形態により制限されない。添付図、上記の開示内容及び特許請求の範囲から、請求項に係る発明の実行において、当業者は、開示されている実施形態の他の変形が可能であり、達成できることを理解することができる。
【0053】
特許請求の範囲において、表現“を有する”は、他の要素又はステップを排除するものではなく、単数表現は複数の存在を排除するもではない。単独の要素又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されている複数のアイテムの機能を実現することが可能である。特定の手段が互いに異なる従属請求項に記載されているということのみで、それらの手段の組合せが有利に使用されないことを示すものではない。
【0054】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと共に又はその一部として光記憶媒体、固体媒体等の適切な媒体に記憶/分配されることが可能であるが、他の方式で、例えば、インターネット又は他の有線又は無線通信システムを介して、分配されることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用領域における血管内の磁性材料を有する液体の局所的速度を測定する装置であって、
低磁場強度を有する第1サブゾーン及びより高い高磁場強度を有する第2サブゾーンが作用領域において形成されるように、磁場強度の空間におけるパターンを有する選択磁場を生成する選択手段と、
前記磁性材料の磁化が局所的に変わるように、駆動磁場により前記作用領域の前記第1サブゾーン及び前記第2サブゾーンの2つのサブゾーンの空間における位置を変える駆動手段と、
検出信号を取得する受信手段であって、前記検出信号は前記作用領域における磁化に依存し、前記磁化は前記第1サブゾーン及び前記第2サブゾーンにおける位置の変化により影響される、受信手段と、
前記第1サブゾーンの空間における位置を変えるように前記駆動手段を制御する制御手段であって、前記第1サブゾーンの空間における位置が前記血管に従い、前記血管に沿った前記第1サブゾーンの異なる位置で少なくとも2つの検出信号を取得するように受信手段を制御する、制御手段と、
前記少なくとも2つの検出信号を相互に関係付け、前記第1サブゾーンの位置間の既知の距離及び前記相互に関係付けられた検出信号から前記液体の前記局所的速度を決定する相関手段であって、前記第1サブゾーンにおいて前記検出信号が取得される、相関手段と、
を有する装置。
【請求項2】
前記磁性材料を有する媒体、特に造影剤のボーラスが前記第1サブゾーンの異なる位置を通過しているときに、前記制御手段は、前記血管に沿った前記異なる位置で少なくとも2つの検出信号を取得するように、前記受信手段を制御するように適合されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記血管に沿った前記第1サブゾーンの異なる位置で複数の検出信号を取得するように、前記受信手段を制御するように適合され、前記相関手段は、前記複数の検出信号の異なる2つの検出信号を多様に相互に関係付け、前記第1サブゾーンの前記異なる位置間の既知の距離及び前記相互に関係付けられた検出信号から、前記血管に沿った異なる位置で前記液体の前記局所的速度を多様に決定するように適合され、前記第1サブゾーンにおいて前記検出信号が取得される、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記血管に沿って前記2つの検出信号が取得される、前記血管のロードマップを用いるように、及び前記駆動手段を制御するように前記ロードマップを用いるように適合されている、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記ロードマップを取得するように前記受信手段及び前記駆動手段を制御するように適合されている、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記ロードマップを得るように前記取得された検出信号により血管をセグメント化するセグメント化手段、
を更に有する装置であって、
前記磁性材料を有する媒体、特に造影剤のボーラスが前記異なる位置を通過しているときに、前記制御手段は、前記作用領域の前記第1サブゾーンの異なる位置で検出信号を取得するように前記駆動手段及び前記受信手段を制御するように適合されている、
請求項5に記載の装置。
【請求項7】
焦点磁場により前記作用領域の空間における位置を変える焦点手段、
を更に有する装置であって、
前記制御手段は、前記ロードマップの前記取得のために前記作用領域を移動させるように前記焦点手段を制御するように適合されている、
請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記作用領域の前記第1サブゾーンの異なる位置で取得された前記検出信号により前記作用領域の濃淡画像を再構成する再構成手段、
を更に有する、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記第1サブゾーンの空間における位置が前記血管内の前記液体の予測された移動に従った方向に実質的に移動するように、前記第1サブゾーンの空間における位置を変えるように前記駆動手段及び/又は前記焦点手段を制御するように適合されている、請求項1又は7に記載の装置。
【請求項10】
前記制御手段は、前記第1サブゾーンの空間における位置が既知のオブジェクトの表面上を実質的に移動するように、前記第1サブゾーンの空間における位置変えるように前記駆動手段及び/又は前記焦点手段を制御するように適合されている、請求項1又は7に記載の装置。
【請求項11】
作用領域における血管内の磁性材料を有する液体の局所的速度を測定する方法であって、
低磁場強度を有する第1サブゾーン及びより高い高磁場強度を有する第2サブゾーンが作用領域において形成されるように、磁場強度の空間におけるパターンを有する選択磁場を生成するステップと、
前記磁性材料の磁化が局所的に変わるように、駆動磁場により前記作用領域の前記第1サブゾーン及び前記第2サブゾーンの空間における位置を変えるステップと、
検出信号を取得するステップであって、前記検出信号は前記作用領域における磁化に依存し、前記磁化は前記第1サブゾーン及び前記第2サブゾーンにおける位置の変化により影響される、ステップと、
前記第1サブゾーンの空間における位置が前記血管に従うように、前記第1サブゾーンの空間における位置の変化を制御するステップと、
前記血管に沿った前記第1サブゾーンの異なる位置で少なくとも2つの検出信号を取得するステップと、
前記少なくとも2つの検出信号を相互に関係付けるステップと、
前記第1サブゾーンの位置間の既知の距離及び前記相互に関係付けられた検出信号から前記液体の前記局所的速度を決定するステップであって、前記第1サブゾーンにおいて前記検出信号が取得される、ステップと、
を有する方法。
【請求項12】
コンピュータプログラムがコンピュータにおいて実行されるときに、請求項11に記載の方法のステップを実行するように、請求項1に記載の装置を前記コンピュータが制御するようにするプログラムコード手段を有するコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−511385(P2012−511385A)
【公表日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540301(P2011−540301)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055542
【国際公開番号】WO2010/067298
【国際公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】