説明

液体もしくは粉体を入れた車載用タンクの輸送方法

【課題】 タンク内部を洗浄する際の作業性を悪化させることなく、輸送対象の液体もしくは粉体を入れた車載用のタンクを安全に輸送する方法を提供すること。
【解決手段】 内容積の5乃至80%の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクを、このタンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋を配置して車両により輸送する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体もしくは粉体を入れた車載用のタンクを輸送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、液体もしくは粉体(以下、液体等という)を車両により輸送するために車載用のタンクが用いられている。液体等をタンクに入れて輸送する際に、例えば、高速走行時の車両の振動によって、あるいは車両が急発進、急停車、急カーブした際のタンク内における液体等の急激な偏りによって、タンクに入れた液体等に激しい揺れを生じ易い。そして、このように生じた液体等の揺れによって車両が不安定となり、安全走行が妨げられ、極端な場合には車両の転倒が発生することもある。
【0003】
特許文献1には、合成樹脂製タンクの液体充填空間に多数のパイプ材が収容された構成の車載用液体タンクが開示されている。そして、この特許文献の車載用液体タンクは、タンク内の液体の揺れを各パイプ材により小さく分散させることができるため、車両を安全に走行させることができるとされている。
【特許文献1】特開2001−248124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の車載用液体タンクにより、タンク内の液体の揺れをある程度は低減することができる。しかしながら、タンク内に多数のパイプ材が収容されてタンクの構成が複雑であるため、タンク内部の洗浄に手間がかかる。また、タンクのサイズに応じて、使用するパイプの長さ、直径、そして本数を調整する必要がある。また、タンクに収容するパイプ材の体積の分だけ液体等の積載量を減らす必要もある。
【0005】
本発明の課題は、タンク内部を洗浄する際の作業性を悪化させることなく、液体もしくは粉体を入れた車載用のタンクを安全に輸送する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内容積の5乃至80%(好ましくは20乃至80%)の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクを、このタンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋を配置して車両により輸送する方法にある。
【0007】
本発明の輸送方法の好ましい方法は、下記の通りである。
(1)タンクの内部に輸送対象の液体もしくは粉体を注入し、次いでタンク内部に未膨張の浮き袋を配置し、そして未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する。
(2)タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いで未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させ、そしてタンク内部に輸送対象の液体を注入することにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する。
(3)タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いでタンク内部に輸送対象の液体を注入し、そして未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する。
(4)タンクの上部に安全弁が付設され、上記の膨張した浮き袋が安全弁が付設された位置と対応する位置に孔を備えた浮き輪の形状にある。
(5)浮き袋が合成樹脂から形成されている。
【0008】
本発明はまた、内容積の5乃至80%(好ましくは20乃至80%)の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクであって、このタンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋が配置されていることを特徴とするタンクにもある。
【0009】
本発明のタンクの好ましい態様は、下記の通りである。
(1)タンクの上部に安全弁が付設され、上記の膨張した浮き袋が安全弁が付設された位置と対応する位置に孔を備えた浮き輪の形状にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、内容積の5乃至80%の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクを、このタンクの空間部に長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋を配置して車両により運搬輸送する方法にある。本発明により、タンクの空間部に配置された膨張した浮き袋が、タンクに入れた液体もしくは粉体の揺れの発生を抑えるため、液体もしくは粉体を入れたタンクを車両により安全に輸送することができる。本発明の輸送方法に用いる浮き袋は、その内部の気体を排出して簡単にタンクの外に取り出すことができるため、タンク内部を洗浄する際の作業性に何ら問題を生じさせることはない。また、本発明の輸送方法は、浮き袋がタンクの空間部の形状と対応した形状に膨張可能であるために、各種のサイズのタンクに適用することが容易である。そして本発明の輸送方法では、特許文献1に記載の液体タンクのように液体中に樹脂パイプを配置しないために、輸送対象の液体等の積載量が減少することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の液体もしくは粉体を入れたタンクの車両による輸送方法を、添付の図面を用いて説明する。図1は本発明の液体を入れたタンクを車両に搭載して輸送する方法を説明する図であり、図2は、図1のタンク搭載車両の上面図であり、そして図3は、図1のタンク搭載車両を右側から見た側面図である。
【0012】
図1から図3に示すように、本発明の輸送方法は、内容積の5乃至80%(好ましくは20乃至80%)の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体11を入れたタンク12を、タンク12の空間部に、長さがタンク12の前後方向の内寸の長さの70%以上であり、且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋13を配置して車両14により輸送する方法である。
【0013】
輸送対象の液体11の例としては、ガソリン、潤滑油、界面活性剤、牛乳、アルコール、および水(例、ミネラルウオータ及び温泉水など)などが挙げられる。また、輸送対象物は粉体であっても良く、その例としては樹脂材料製のペレットなどが挙げられる。
【0014】
車載用のタンク12には、常に若干の空間部を残して輸送対象の液体11が入れられる。これは、タンクの内部に空間部を残さずに液体を満タンに入れると、温度上昇による液体の体積の膨張によってタンクに亀裂が入るなどの問題を生じるからである。また、必要によりタンクの内容積よりも少ない量の液体もしくは粉体(液体等)を輸送する場合にも、タンクの内部には空間部が生ずる。
【0015】
タンク内部に空間部が存在すると、上記のように液体等を入れたタンクを車両に積載して輸送する際に液体等に揺れを生じて車両が不安定になり、安全走行の妨げとなる。さらに、例えば、車両の急停車によって液体等が激しく揺れた場合には、液体等がタンク前方の内壁にぶつかり衝撃を与える現象(ウオーターハンマー現象と呼ばれている)を生じて、車両が極めて不安定になる。
【0016】
本発明では、内容積の5乃至80%の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体等を入れたタンクの上記空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋を配置することによって液体等の揺れの発生を抑制する。
【0017】
本発明の輸送方法は、このようにタンクに入れた液体等に揺れを生じ易い場合、すなわち空間部の容積がタンクの内容積の5〜80%である場合に有効なものである。本発明の輸送方法は、空間部の容積がタンクの内容積の20乃至80%(ウオーターハンマー現象を生じ易い空間部の容積)である場合、さらには50〜80%(ウオーターハンマー現象によりタンクに大きな衝撃が付与され易い空間部の容積)である場合に特に有効である。
【0018】
タンク12の上部には通常、タンク12に液体等を出し入れするためのインレット/アウトレットバルブ18、タンク12の空間部にある気体をタンクの外部に放出させるためのベントバルブ20、タンク12に液体等を出し入れするため、もしくはタンク内部を洗浄する際に人が出入りするためのマンホール17、あるいはタンクの空間部の圧力が所定の値を超えた場合に空間部にある気体をタンクの外に放出させる安全弁15が備えられている。膨張した浮き袋12は、これらのバルブ、マンホールあるいは安全弁が付設された位置と対応する位置、特に安全弁15が付設された位置と対応する位置に孔16を備えた浮き輪の形状にあることが好ましい。また、タンク12には、その下側から液体等を取り出すためのアウトレットバルブ19を付設することもできる。
【0019】
膨張した浮き袋12の長さは、液体等の揺れの発生を防止するために、タンクの前後方向の内寸の長さの80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、膨張した浮き袋12の容積は、タンク内の空間部の容積の80%以上であることが好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、膨張した浮き袋の容積とは、上記のように浮き袋が浮き輪の形状にある場合には浮き輪の孔の容積を含む容積をいう。このような孔を備えていても、この孔の内側で生じる液体等の揺れは小さく、車両を安全走行させる上で問題となることはない。
【0020】
また、本発明の輸送方法に用いる浮き袋は、その内部の気体を排出してタンクの外に簡単に取り出すことができるため、タンクの内部を洗浄する際の作業性に何ら問題を生じさせることはない。浮き袋は、浮き袋をタンクの外に取り出す際の作業性に優れ、そして車両走行時の振動によって加わる力に耐える強い強度を有している必要がある。このことから、浮き袋は合成樹脂、例えば、ポリオレフィン(例、ポリエチレン)や合成ゴムなどの可撓性のある樹脂フィルムから形成されていることが好ましい。また、浮き袋の強度を高くするために、浮き袋の外側をさらに樹脂材料(例、ポリプロピレン)製の袋やネットなどで覆うこともできる。タンクから取り出した浮き袋は、洗浄して再利用することもできるし、廃棄することもできる。
【0021】
また、図1から図3に示すタンク12は、支持具22に支えられた状態にてフレーム21に固定されている。そしてフレーム21には、タンク12の上部で人が作業をする際に足場として用いる板材23が備えられている。タンク12に入れる液体の粘度上昇や凍結を防止するためにタンクを保温材(例、ロックウール)で覆ったり、タンクの外側面にヒータを付設することもできる。
【0022】
本発明の輸送方法において、膨張した浮き袋13は、例えば、以下に説明する方法によりタンク内の空間部に配置することができる。
【0023】
第一の方法は、タンクの内部に輸送対象の液体もしくは粉体を注入し、次いでタンク内部に未膨張の浮き袋を配置し、そして未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する方法である。浮き袋13の内部に注入する気体の例としては空気や窒素などが挙げられる。また、浮き袋13には、その内部に気体を出し入れするために、気体の注入排出口24が備えられている。
【0024】
第二の方法は、タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いで未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させ、そしてタンク内部に輸送対象の液体を注入することにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する方法である。第二の方法においては、膨張した浮き袋は、タンクに入れた液体の液面に浮いて、液体の注入量の増加に伴いタンク内を上方に移動して上記の空間部に配置される。
【0025】
また、同一の種類の液体をタンクにより複数回輸送する場合には、タンク内に配置された膨張した浮き袋は、輸送後に液体をタンクから出したのちにタンクの外に取り出さなくともよい。膨張した浮き袋が残されたタンクに再び輸送対象の液体を入れると、この浮き袋は液体の注入量の増加に伴いタンク内を上方に移動して上記空間部に再配置される。
【0026】
第三の方法は、タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いでタンク内部に輸送対象の液体を注入し、そして未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する方法である。
【0027】
本発明はまた、内容積の5乃至80%(好ましくは20乃至80%)の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れた車載用のタンクであって、このタンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋が配置されている液体もしくは粉体を入れた車載用タンクにもある。このように液体もしくは液体を入れた車載用のタンクにより、車両の安全な走行が可能となる。
【0028】
なお、本発明でいう車両には、タンクを備えた貨車(タンク車)も含まれる。本発明によって液体もしくは粉体を入れたタンクを貨車により輸送すると、タンク内の液体等の揺れの発生が抑えられ、貨車を発車あるいは停車させる際の制動性が良好となる。このため、液体等を入れたタンクを貨車により安全に輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の内部に液体と浮き袋を入れたタンクを車両に搭載して輸送する方法を説明する図である。ただし、タンク内部の状態が理解できるように一部切り欠き図として示した。
【図2】図1のタンク搭載車両の上面図である。
【図3】図1のタンク搭載車両を右側から見た側面図である。ただし、タンク内部の状態が理解できるように一部切り欠き図として示した。
【符号の説明】
【0030】
11 輸送対象の液体
12 タンク
13 浮き袋
14 車両
15 安全弁
16 孔
17 マンホール
18 インレット/アウトレットバルブ
19 アウトレットバルブ
20 ベントバルブ
21 フレーム
22 支持具
23 足場として用いる板材
24 浮き袋の気体注入排出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内容積の5乃至80%の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクを、該タンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋を配置して車両により輸送する方法。
【請求項2】
タンクの内部に輸送対象の液体もしくは粉体を注入し、次いで該タンク内部に未膨張の浮き袋を配置し、そして該未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する請求項1に記載の輸送方法。
【請求項3】
タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いで該未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させ、そして該タンク内部に輸送対象の液体を注入することにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する請求項1に記載の輸送方法。
【請求項4】
タンクの内部に未膨張の浮き袋を配置し、次いで該タンク内部に輸送対象の液体を注入し、そして該未膨張の浮き袋をその内部に気体を注入して膨張させることにより膨張した浮き袋を上記空間部に配置する請求項1に記載の輸送方法。
【請求項5】
タンクの上部に安全弁が付設され、上記の膨張した浮き袋が該安全弁が付設された位置と対応する位置に孔を備えた浮き輪の形状にある請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の輸送方法。
【請求項6】
浮き袋が合成樹脂から形成されている請求項1乃至5のうちのいずれかの項に記載の輸送方法。
【請求項7】
内容積の5乃至80%の範囲の容積の空間部を残して輸送対象の液体もしくは粉体を入れたタンクであって、該タンクの空間部に、長さがタンクの前後方向の内寸の長さの70%以上であり且つ上記空間部の容積の70%以上の容積を有する膨張した浮き袋が配置されていることを特徴とするタンク。
【請求項8】
タンクの上部に安全弁が付設され、上記の膨張した浮き袋が該安全弁が付設された位置と対応する位置に孔を備えた浮き輪の形状にある請求項7に記載のタンク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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