説明

液体クロマトグラフ分析装置および液体クロマトグラフ分析方法

【課題】 電解装置により成分の検出を行なう液体クロマトグラフ装置において、従来より広い範囲の電解電圧の適用を可能にすることにより多種類の物質を感度良く検出する。
【解決手段】 液体クロマトグラフ分析装置に設けた電解装置は、導電体の薄板の少なくとも片面に導電性のダイヤモンド皮膜が形成された作用電極と、厚さが0.05ないし0.5mmであって面に穴が開いた電気絶縁体のスペーサと、これを挟んで作用電極のダイヤモンド皮膜が形成された面と対向する面を有する導電体からなる対極とからなり、さらにスペーサの穴によって形成される空間に開口して溶出液の導入口および排出口ならびに参照電極が設けられ、前記溶出液は電解装置内において1.0kg/cm2 以上15.0kg/cm2 以下の圧力に加圧される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶出液中の成分の検出手段として電解装置を使用する液体クロマトグラフ装置に関するもので、さらにこの装置を使用して各種有機化合物等を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の有機化合物などを含有する溶液中の成分を分析する方法の一つとして液体クロマトグラフによる方法があり、分離カラムに粒度分布が改良された充填剤を使用する高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が現在普及している。この方法は分離用カラムを通過した溶出液中の成分の検出手段として種々のものが実用されている。たとえば一般的なものとして示差屈折計検出器がある。しかしこれは万能的である一方、物質の種類による選択性がないことや感度が良くないという問題がある。一方、選択検出器としては紫外線吸収検出器が最も一般的であるが、たとえばアルコール類のように有効な紫外線吸収を示さないものには適用できない。このため紫外線吸収性の官能基を結合させた誘導体により分析する方法も行なわれるが煩雑である。また選択検出器として蛍光検出器、化学発光による検出器などがあり特定の化合物に対しては高い感度で検出できるが、適用対象となる化合物はさらに限定される。
【0003】
またさらに、HPLCに使用される検出器として特開平5−296964号に示されているような電気化学的検出器もある。この方法はカテコールアミン類の分析などに使用されており、上記公報においてもこのような生理活性物質や生物の代謝物の分析について説明されている。特開平5−296964号に示されている方法は活性電極として表面に1〜100μm径の細孔を有するグラッシーカーボンを使用することにより、クーロメーター型検出器として従来の多孔性黒鉛を使用したものよりはるかに高感度の電気化学的変換特性を得ることができるとしている。
【特許文献1】特開平5−296964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特開平5−296964号公報に示されているHPLCに電気化学的検出器を組み合わせた装置は、適用例としてカテコールアミン類やセロトニンおよびそれらの代謝物質の分析が記載されているが、他の有機化合物等の分析については記載されていない。これは上記の装置が例えば有機酸といった広範囲の物質の分析に適用できるものではないからである。すなわち電気化学的検出器による被検出物の酸化反応は水の電気分解が発生する電圧以下、すなわち電位窓の範囲内で行なわなければならないが、多くの有機化合物では上記の装置において水の電解が起きる電圧以下では酸化反応が生じない。本発明は上記のような問題からHPLCを使用して電気化学的検出器により分析する方法において、従来より広い範囲の電解電圧の適用を可能にすることにより多種類の物質を感度良く検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は前記課題を解決するものであって、液体クロマトグラフの分離カラムからの溶出液の流路に電解装置が設けられている液体クロマトグラフ分析装置において、前記電解装置は導電体の電極板の少なくとも片面に導電性のダイヤモンド皮膜が形成された作用電極と、厚さが0.05ないし0.5mmであって面に穴が開いた電気絶縁体のスペーサと、これを挟んで作用電極のダイヤモンド皮膜が形成された面と対向する面を有する導電体からなる対極とからなり、さらに前記スペーサの穴によって形成される一つの空間にそれぞれ開口して溶出液の導入口および排出口ならびに参照電極が設けられ、前記溶出液は電解装置内において1.0kg/cm2 以上15.0kg/cm2 以下の圧力が加圧されており、また電解装置には前記作用電極に一定の電圧を印加した状態で電解を行ない電解電流を測定する測定装置が接続されていることを特徴とする液体クロマトグラフ分析装置である。
【0006】
また上記装置において、作用電極の電極板の端面には、ダイヤモンド皮膜が形成されていないこと、また作用電極の電極板における対極と対向する面と反対側の面の一部分の他は、全面が溶出液との接触を許容する構造に電解装置がなっていることも特徴とする。またさらに電解装置は溶出液流路に2台以上直列に接続されており、測定装置は下流側の電解装置になるに従って高い電圧を作用電極に印加した状態で電解を行ない、それぞれ電解電流を測定するものであることも特徴とする。
【0007】
また本発明は、上記の液体クロマトグラフ分析装置を使用して、有機化合物中のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、ペルオキシ基およびメルカプト基の少なくとも1つを分析することを特徴とする液体クロマトグラフ分析方法である。また上記の液体クロマトグラフ分析装置を使用して、有機化合物中のエーテル結合、エステル結合およびジスルフィド結合の少なくとも1つを分析すること、またさらに非イオン界面活性剤を分析することを特徴とする液体クロマトグラフ分析方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の液体クロマトグラフ装置は、分離カラムからの溶出液中の成分を検出する電解装置において作用電極としてダイヤモンド電極を使用することにより従来より高い電圧を印加して電解することが可能である。これにより炭素電極による従来の装置で使用可能な低い電圧では電解しなかった化合物まで分析対象範囲を拡大できる。また作用電極と対極の電極面とを狭い間隙をもって対向させた構造にすることにより微量成分が分析可能になった。さらにまた本発明の装置は作用電極として基板である薄板の全部の面にはダイヤモンドが形成されておらず端面などに素材が露出している面があっても使用でき、コスト低下が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す概念図である。溶離液1は減圧により溶存ガスを除去するデガッサー2を経てポンプ3により分離カラム5に一定速度で供給される。4はインジェクタであって、分離カラム5に被検試料を一定量注入する。分離カラム5から出た溶出液は電解装置7に送り込まれるが、電解装置においては電極間に一定電圧が印加され、電気化学的に活性な各成分が分離カラムから溶出されるごとに溶液成分による電解電流が流れる。電解電流の信号は測定装置8に伝えられるが、測定値としては電流値そのものの他に電解電流の時間的積算値である電気量も測定でき、これにより定量分析が可能になる。本発明でいうところの電解電流の測定にはこのような電気量の測定も含まれる。
【0010】
分離カラム6としては分析すべき各成分に対して吸着力の差が大きいものが好ましいが、一般的なものとしてはODSシリカにより逆相クロマトグラフィーが行なえる。また分析対象に応じてポリマー系イオン交換型カラムや順相アミノ基結合型カラムなどが使用できる。また溶離液としてはアセトニトリルやメタノールに燐酸緩衝液などの緩衝液を混合したものなどが使用できる。またイオン交換型カラムに対しては各種の緩衝液などが使用できる。
【0011】
図2および図3は本発明の液体クロマトグラフ装置における電解装置を示す図であって、図2は軸方向に平行な断面図、図3は図2におけるA−A´矢視断面図である。これらの図において11は作用電極であって(図3では位置関係を2点鎖線で示している)、薄い板状の電導性の基板の少なくとも表側の面、すなわち図2において少なくとも左側の面に導電性のダイヤモンド皮膜が形成されている。また12は弗素樹脂(たとえば商品名テフロン)など耐薬品性の電気絶縁体からなるスペーサであって、図3に見るように一つの細長い穴121が開いている。また13はチタンなどの耐蝕性を有する導電体のブロックからなる対極であって、スペーサ12を挟んで作用電極11のダイヤモンドが形成された面と対向している。なお上記の導電体のブロックのうち対極として機能するのは作用電極と対向する電極面の部分であるから、少なくともこの部分が導電性であれば全体を導電性のブロックにせず、導電体と絶縁物とを組み合わせて同様な形状にしても差し支えない。
【0012】
前記スペーサ12の穴121によって形成される一つの空間14にそれぞれ開口して、溶出液の導入口15および排出口16ならびに参照電極30があるが、これらはいずれも対極13のブロックに設けられている。すなわち溶出液の導入口15および排出口16は対極13のブロックに穴をあけることによって形成され、溶出液の導入、排出のための流体継手17、18が対極のブロックにねじ込まれている。また参照電極30も先端の面が対極の電極面と同一面になるように対極のブロックにねじ込んで取り付けられている。なお19は対極13への通電端子である。
【0013】
また作用電極11の電極板の裏面、すなわち対極13と対向する面の反対側には作用電極への通電板20が設けられ、作用電極11に接触している。後に説明するようにこの通電板は溶出液と接触するので、耐蝕性の金属からなっている。21は作用電極11への通電端子であって通電板20と結合されている。また22は耐薬品性の電気絶縁体からなる与圧カバーであって、図示しない複数の止めねじによって前記の対極13のブロックと結合されている。与圧カバー22は電解装置の電極部分を収納すると共に電解装置の内部を与圧状態に保持する機能を有し、このためOリング23、24がはめ込まれて溶出液が通る電極部分をシールする。このように電解装置の内部を与圧状態にするため参照電極20の取付け部にもシールのためのOリング25が設けられており、さらに通電板20や参照電極30自体にもOリング26、306が設けられいるが、これについては後に説明する。また27は対極13の金属ブロック全体を覆うプラスチック製の絶縁カバーであって、図2の左方から差し込んで図示しない複数の止めねじによって対極の金属ブロックと結合している。
【0014】
参照電極30はAg−AgCl系の例を示しているが、弗素樹脂のような耐薬品性の容器301の中に飽和KCl溶液をゼラチンによりゲル状にしたものが電解液302として充填されている。さらにこの中に表面をAgClにしたAg線が電極材303として挿入されている。また304は参照電極の電解液302と被測定液体である溶出液とを隔てる多孔質セラミックスなどのフィルターである。また電解装置の内部が与圧状態にされるに伴って参照電極内部も加圧されるので、参照電極の容器301と蓋305との間にOリング306を設けて内部の電解液302をシールしている。なお本発明において参照電極はAg−AgCl系に限定するものではなく、他の組成のものも使用可能である。上記の参照電極は標準水素電極(NHE)に対して25℃で0.199Vであるが、他の種類のものではそれの起電力に応じて換算すればよい。
【0015】
前記のように本発明における電解装置には作用電極11として導電性のダイヤモンド電極が使用されるが、これは導電性の薄板を基板としてダイヤモンド皮膜を形成することによって作成される。導電性の薄板としては通常は導電性のシリコンの単結晶板で、表面が研磨されたものを使用するが、チタンなども使用可能である。寸法としては厚さが0.7mm程度であって、面の寸法はたとえば図3に示したようにスペーサ12の穴121より一回り大きな長方形で良いが、スペーサの穴より大きく装置内の所定位置に入るものであれば特に限定しない。これをプラズマCVD装置の反応容器に収容し、100Torr程度の減圧状態にして炭素源を含有する水素ガス雰囲気中でマイクロ波放電を発生させる。炭素源としてはたとえばアセトンとメタノールの混合物を使用し、さらに硼素をドープするために微量(たとえば硼素/炭素の比で1%)の酸化硼素を溶解する。プラズマ放電により基板の温度は900℃程度に達し、数μmの大きさの微細なダイヤモンドの結晶からなる膜が徐々に生成する。ダイヤモンド皮膜の厚さは通常30μm程度にする。このようにすれば薄板の表面と端面、さらに状況によってはある程度裏面にもダイヤモンド皮膜が形成されたものが得られるが、後に述べるように大きな寸法の板に表面にダイヤモンド皮膜を形成させた後に、作用電極の寸法に切り分ける方法もある。
【0016】
本発明の液体クロマトグラフ装置は、溶出液中の成分を検出する電解装置において作用電極として上記のようにダイヤモンド電極を使用することにより従来より高い電圧を印加して電解することが可能である。すなわち従来の電解装置において作用電極として一般に使用されているグラッシーカーボンなどの炭素質の電極はアノードとしての電位が対標準水素電極(以下「対NHE」と称する)1.4Vを超えると水の電気分解が発生し、成分中の物質による電解電流の測定が困難になる。一方、作用電極としてダイヤモンド電極を使用するともっと高い電圧での水の電気分解が発生せず、上記の方法で製作したダイヤモンド電極について本発明者等が測定したところでは2.7V(対NHE)まで水の電気分解が発生しなかった。したがって後に述べるように本発明の液体クロマトグラフ装置によれば、電解電圧が高かったため従来は検出できなかった物質の検出が可能となる。
【0017】
また先に述べたように作用電極11のダイヤモンドが形成された面はスペーサ12を挟んで対極13の電極面と対向している。このように作用電極であるダイヤモンド電極の面を広い範囲で有効に電解作用に寄与させることにより、電解反応の速度を充分に大きくできる。しかも本発明における電解装置においては上記のように対極13の電極面をスペーサ12により隔てられた狭い間隙をもって作用電極と対向させている。すなわち作用電極として炭素電極などを使用した従来の電解装置においては、作用電極自体は広い表面積を確保しても対極については溶出液の管路にある金属製流体継手などで兼ねさせるため、作用電極と対極とは距離が離れているのが普通である。
【0018】
上記のスペーサ12の厚さは0.05ないし0.5mmが適当であって、このように作用電極11の全面を対極13の電極面と狭い間隙をもって対向させることが微量成分を分析可能にするため重要である。これにより電解によって検出される成分が微量であっても検出可能な電解電流が得られる。これは電解反応は作用電極の表面近傍の液中で生ずるため作用電極が面する流路が狭くなることによって電解反応に寄与しないまま通過する溶出液の比率が少なくなることが理由の1つと考えられるが、対極を作用電極に近接させることの効果など従来の理論では説明がつかない点もある。上記スペーサの厚さは0.05mmより小さいと作用電極と対極が接触するおそれがあり、また溶出液の流れの抵抗が大きくなり過ぎる。一方、0.5mmより大きいと微量成分の検出感度が低下する。
【0019】
また本発明における電解装置は先にも述べたように与圧カバー22に保持されたOリング23、24により内部をシールするが、Oリングで遮断された範囲内は溶出液が流れ込むことになり、作用電極11の電極板はダイヤモンドが形成されていない裏面まで溶出液と接触することになる。ただし電極板に通電するための通電板20の一部にOリング26を設けてその内側には溶出液が入らないようにし、電極板の裏面と通電板とが溶出液を介さずに直接に電気的接触をするようにする。また先に述べたように参照電極30の取付け部にもOリング25を設けてシールすると共に、参照電極自体にもOリング306を設けて内部が加圧状態でも電解液が漏れないようにしている。
【0020】
また電解装置内において溶出液は1.0kg/cm2 以上15.0kg/cm2 以下(ゲージ圧)の圧力になるように加圧されている。このように電解装置の内部を加圧状態にするのは、作用電極11の電極板のダイヤモンドが形成されていない裏面および端面や、通電板20の表面での水の電気分解による影響を少なくするためである。すなわち作用電極11の電極板のダイヤモンドで被覆されていない面やチタンなどで作られた通電板20では、本発明における電解装置で印加が可能な高い電圧では当然に水の電気分解が生ずる。ただしこの場合は電解装置を起動した後ある程度電気分解が進行すると電流がほとんど止まり、電解装置を使用しての分析時にはその状態に維持される。これは上記のような場所では液が滞留した状態にあるので、電気分解によって生じた気体の膜で金属の表面が覆われるためと考えられる。しかしそれでも水の電気分解が停止した状態を常に安定に維持するのは困難であり、分析中に時々水の電解電流が流れて測定値に対する外乱となる現象がみられた。そこで電解装置の内部を加圧することによって水の電気分解を安定的に停止状態に維持できることが本発明者の実験で判明したのである。なおその理論的な根拠については現在のところ不明である。
【0021】
この加圧圧力が1.0kg/cm2 未満であると上記の効果が不十分になり、一方15.0kg/cm2 を超えると装置のシールが困難になる。このように電解装置の内部の圧力を高くするためには、電解装置からの溶出液の出口側に適当な長さのキャピラリなどの流れの抵抗手段を設ければ良い。なお後に述べるように複数の電解装置を流路に直列に接続することも行なわれるが、この場合には最後の電解装置の出口側だけに流れの抵抗手段を設ければ良い。このとき電解装置自体の流れの抵抗によって前段の方の電解装置の圧力がある程度高くなるが、すべての電解装置の圧力が前記の範囲になるように注意すべきである。
【0022】
上記のように電解装置の内部を加圧状態に維持することにより、作用電極として大きな板から切り分けて製作したダイヤモンド電極板の使用が可能となり、装置のコスト低減が可能となった。すなわちダイヤモンド電極板は高価なものであるが面積の大小によって価格が大きくは変わらないので、大きな板を切断して使用できればコストを低下させ得る。しかしダイヤモンド電極板の寸法にした基板に後からダイヤモンド皮膜を形成させたものであると、端面には表面と同様にダイヤモンド皮膜が形成されているが、ダイヤモンド皮膜を形成させた後切り分けて製作したものでは端面は基板の材料が露出する。作用電極として上記のように端面に基板の材料が露出したものを使用した場合には、水の電解の停止状態が不安定になりやすく、電解装置の内部を加圧することによって初めて水の電解を安定的に停止状態にできた。
【0023】
なお単純に考えれば、溶出液が作用電極11と対極13とスペーサの穴121によって形成される空間から外に出ないようにすれば電気分解はダイヤモンド皮膜が形成された面内に止まり、前記の水の電気分解の問題はすべて解決するように思われる。つまりスペーサ12の面に沿って溶出液が流れ出さないようにすれば良いわけで、そのためにはスペーサの表面でのシールの効果を向上させるべく、作用電極11と対極13の間を大きな圧力で加圧することになる。しかしながらこの試みは作用電極11の電極板の破損の問題から加圧力が制限され、この制限範囲内の圧力をかけても漏れが止まらず成功しなかった。このため本発明における電解装置では水の電解に対する対応策をとる一方、作用電極11の電極板における対極13と対向する面と反対側の面の一部分、すなわち通電板20との通電個所の他は、全面が溶出液との接触を許容する構造にしたのである。
【0024】
上記の電解装置には一定の電解条件に設定した状態で分離カラムからの溶出液を連続的に送り込み、液中に含まれる成分を順次検出する。最も一般的な電解条件としては一定電圧を作用電極と対極との間に印加しておいて、その間の電解電流の変化を測定・記録することにより、分離カラムからの溶出液に成分が含まれているのを順次検出する。先にも述べたように本発明における電解装置は作用電極としてダイヤモンド電極を使用することにより、従来より高い電圧で電解することができる。このため従来は電解による検出の対象外であった化合物まで分析可能となる。
【0025】
一方、電解による酸化反応自体には化合物の種類による特異な選択性は無いので、高い電解電圧を使用することによって多種類の化合物が検出されることになり、化合物の種類の同定が困難になる場合もある。これに対する対応策として電解装置を溶出液流路に2つ以上直列に接続して、下流側の電解装置になるに従って高い電圧を作用電極に印加して電解を行ない、それぞれの電解装置の電解電流を測定装置で測定すればよい。たとえば電解装置を2台接続した場合には、ある電圧以下で電解できる化合物と、それより高い電圧でなければ電解できない化合物とを識別した状態で検出できる。さらに3台以上接続すれば電解可能な電圧の範囲により化合物をさらに区分した状態で検出できる。なお溶出液の上流側に位置する電解装置においては炭素電極を使用しても水の電気分解が生じない電圧で使用できる場合もあるが、この場合でもすべての電解装置を本発明のダイヤモンド電極による装置にすることが好ましい。なぜなら直列に接続された電解装置は下流側のものの内部を加圧しようとすればそれより上流のものも加圧状態になるが、一般の電解装置では内部の圧力をあまり上げられないことが多いからである。
【0026】
以上説明した本発明の液体クロマトグラフ分析装置により、溶液中の有機化合物にあるヒドロキシル基、カルボキシル基、ペルオキシド基、アミノ基、メルカプト基などを検出することができる。したがってこれらの基のうちの1種を1個または2個以上有する有機化合物のほか、これらの基のうちの2種以上を同時に有する有機化合物も検出できる。これらの有機化合物のうちの多くのものは電解電圧が水が電気分解する電圧より高いため従来は電解装置による検出の対象外であったものであり、他に適当な検出手段が無かったため従来は分析が困難であったものもある。
【0027】
上記の有機化合物において、ヒドロキシル基を有する有機化合物としては例えばメタノール、エタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類やフェノール類がある。またカルボキシル基を有する有機化合物としてはプロピオン酸、酢酸、酪酸、吉草酸、安息香酸などのモノカルボン酸、こはく酸、アジピン酸などのジカルボン酸、くえん酸などのトリカルボン酸、りんご酸、こはく酸などのヒドロキシカルボン酸などがあり、またこれらのナトリウム塩、カリウム塩などの塩も含まれる。またアミノ基を有する有機化合物としては、例えばメチルアミン、エチルアミンなどやアラニン、グリシンなどのアミノ酸がある。またペルオキシ基を有する有機化合物としては例えばエタンペルオキシ酸、プロパンペルオキシ酸、過安息香酸など、メルカプト基を有する有機化合物としては例えばメルカプト酢酸、メルカプトエタノールなどが挙げられる。
【0028】
また本発明の液体クロマトグラフ分析装置は溶液中の有機化合物にあるエーテル結合、エステル結合、ジスルフィド結合などを検出できる。これらエーテル結合などのうちの1種を1個または2個以上有する有機化合物のほか、これらの2種以上を同時に有する有機化合物も検出できる。これらの有機化合物のうちの多くのものは電解電圧が水が電気分解する電圧より高いため従来は電解装置による検出の対象外であったものである。エーテル結合を有する有機化合物としては例えばジエチルエーテル、エチレングリコール=モノメチルエーテル、グアイアコール、アニソールなどがあり、エステル結合を有する有機化合物としては例えば酢酸エチル、イソ酪酸メチル、マロン酸ジメチル、クエン酸トリエチルなどがあり、ジスルフィド結合を有する有機化合物としては例えばジフェニルジスルファン、ジアセチルジスルファンなどある。
【0029】
また本発明の液体クロマトグラフ分析装置は非イオン界面活性剤を分析するのに特に適している。非イオン界面活性剤はアルキルポリオキシエチレンエーテル(RO(CH2C H2O)nH)、脂肪酸ポリオキシエチレンエステル(ROO(CH2CH2O)nH)など のエーテル結合やエステル結合を有するもの、脂肪酸モノエタノールアミド(RCONHCH2CH2OH)、脂肪酸ジエタノールアミド(RCON(CH2CH2OH)2)などの ヒドロキシル基を有するものなどが代表的であり、先に本発明の分析装置による分析対象として挙げた有機化合物に属するものであるが、本発明の装置はこれら非イオン界面活性剤を従来の分析方法より特に高感度で分析できる。
【実施例】
【0030】
図1に示した装置を使用して分析を行なった。溶離液1として100mMol−KH2
PO4 +10%アセトニトリル水溶液を0.5ml/minの速度で供給した。またカラム4は内径4.6mm長さ250mmのイオン交換型カラムを用いた。電解装置7は図2および図3に示した構造になっており、硼素をドープしたダイヤモンドを作用電極として使用している。電解装置は作用電極に一定の電圧を印加した状態で測定された電流値を時間の経過とともに記録するクーロメーター方式の測定装置8に接続されている。
【0031】
電解装置の作用電極印加電圧は2.5V(Ag/AgCl基準電極に対して、以下同様)に設定したが、水の電解は発生しなかった。試料としてメタノール、エタノール、2−プロパノールが各1pmol/μlの濃度のサンプルを20μlインジェクタ4から注入したところ、その後各成分の電解電流のピークが検出された。また従来のグラッシーカーボン電極を使用した場合に水の電解が生ずることなく印加可能な1.15Vまで作用電極印加電圧を低下させた場合には、インジェクタに前記試料溶液を注入しても電解電流のピークは検出されなかった。また同様な条件で試料としてエチルアミン、アラニン、グリシンが各1pmol/μlの濃度のサンプルを20μlインジェクタ4から注入したところ、作用電極印加電圧は2.5Vではその後各成分の電解電流のピークが検出されたが、1.15Vでは検出されなかった。
【0032】
また上記の条件のうちカラム4について内径4.6mm長さ150mmのODSシリカを充填したものに変更し、溶離液1として100mMol−KH2 PO4 +10%アセトニトリル水溶液を使用し、電解装置の作用電極印加電圧は2.5Vに設定してその他は前記と同様の条件で試料として酢酸、こはく酸、くえん酸、ラウリル酸カリウムが各1pmol/μlの濃度のサンプルを20μlインジェクタ4から注入したところ、その後各成分の電解電流のピークが検出された。また1.15Vまで作用電極印加電圧を低下させた場合には、インジェクタに前記試料溶液を注入しても電解電流のピークは検出されなかった。また同様な条件で試料としてジエチルエーテル、エチレングリコール=モノメチルエーテル、酢酸エチルが各1pmol/μlの濃度のサンプルを20μlインジェクタ4から注入したところ、作用電極印加電圧は2.5Vではその後各成分の電解電流のピークが検出されたが、1.15Vでは検出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の液体クロマトグラフ分析装置の構成を示す概念図
【図2】本発明の液体クロマトグラフ装置における電解装置を示す軸方向に平行な断面図
【図3】図2におけるA−A´矢視断面図
【符号の説明】
【0034】
1 溶離液
2 デガッサー
3 ポンプ
4 インジェクタ
5 分離カラム
7 電解装置
8 測定装置
11 作用電極
12 スペーサ
121 穴
13 対極
14 空間
15、16 溶出液の導入口および排出口
17、18 流体継手
19 通電端子
20 通電板
21 通電端子
22 与圧カバー
23、24、25、26 Oリング
27 絶縁カバー
30 参照電極
301 容器
302 電解液
303 電極材
304 フィルター
305 蓋
306 Oリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフの分離カラムからの溶出液の流路に電解装置が設けられている液体クロマトグラフ分析装置において、前記電解装置は導電体の電極板の少なくとも片面に導電性のダイヤモンド皮膜が形成された作用電極と、厚さが0.05ないし0.5mmであって面に穴が開いた電気絶縁体のスペーサと、これを挟んで作用電極のダイヤモンド皮膜が形成された面と対向する面を有する導電体からなる対極とからなり、さらに前記スペーサの穴によって形成される一つの空間にそれぞれ開口して溶出液の導入口および排出口ならびに参照電極が設けられ、前記溶出液は電解装置内において1.0kg/cm2 以上15.0kg/cm2 以下の圧力が加圧されており、また電解装置には前記作用電極に一定の電圧を印加した状態で電解を行ない電解電流を測定する測定装置が接続されていることを特徴とする液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項2】
作用電極の電極板の端面には、ダイヤモンド皮膜が形成されていないことを特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項3】
作用電極の電極板における対極と対向する面と反対側の面の一部分の他は、全面が溶出液との接触を許容する構造に電解装置がなっていることを特徴とする請求項1または2記載の液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項4】
電解装置は溶出液流路に2台以上直列に接続されており、測定装置は下流側の電解装置になるに従って高い電圧を作用電極に印加した状態で電解を行ない、それぞれ電解電流を測定するものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体クロマトグラフ分析装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体クロマトグラフ分析装置を使用して、有機化合物中のヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、ペルオキシ基およびメルカプト基の少なくとも1つを分析することを特徴とする液体クロマトグラフ分析方法。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体クロマトグラフ分析装置を使用して、有機化合物中のエーテル結合、エステル結合およびジスルフィド結合の少なくとも1つを分析することを特徴とする液体クロマトグラフ分析方法。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の液体クロマトグラフ分析装置を使用して、非イオン界面活性剤を分析することを特徴とする液体クロマトグラフ分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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