液体クロマトグラフ及び分析法
【課題】上記従来技術では、酸性物質をポストカラム法により誘導体化せずに高速液体クロマトグラフィーによって検出する際にBTB指示薬法よりも高感度に検出するという課題が知られていなかった。本発明は物質をポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する際に誘導体化せずにBTB指示薬法の検出感度よりも高感度に検出することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を利用し、蛍光検出器を有する液体クロマトグラフを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明は蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を利用し、蛍光検出器を有する液体クロマトグラフを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーは、分離部から溶出された試料に1種類以上の反応試薬を混合し、試料を検出する方法であり、高い選択性を必要とする場合やUV吸収を持たない物質の測定などに利用されている。
【0003】
ポストカラム法は測定目的物質を誘導体化する方法と誘導体化をしない方法に大別される。目的物質を誘導体化する方法は目的物質と反応試薬として使用する誘導体化試薬を化学反応させ、測定目的物質を別の物質に変換したのち検出する方法である(例えば、非特許文献1参照)。目的物質を誘導体化しない方法は目的物質による環境変化(水素イオン濃度など)を反応試薬により検出する方法である(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従来、酸性物質をポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する場合にはブロモチモールブルー(BTB)水溶液を反応液に使用したBTB指示薬法が知られていた(例えば、非特許文献2参照)。この方法は測定目的物質を誘導体化しない方法である。
【0005】
図13は従来のBTB法によるポストカラム法を用いた高速液体クロマトグラフの構造図である。高速液体クロマトグラフは、移動相送液ポンプ1、試料を注入するためのインジェクタ2、分離カラム3、分離部を恒温に保つカラムオーブン4、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬を合流させるジョイント5、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬が混合されながら流れる配管6、UV検出器18、及び反応試薬送液部11を備えている。試料はインジェクタ2から注入され、移動相送液ポンプ1から送液される移動相によって分離部を通過し、分離する。分離した試料はジョイント5で反応試薬送液ポンプ8から送液される反応液と混合され、配管6を通過してUV検出器18で検出され、信号がデータ処理部9に送られデータ処理が行われる。
【0006】
一方で、蛍光検出法の蛍光強度Fは式1で示させるように物質濃度C、モル吸光係数ε、量子収率φおよび励起光強度Iexに比例し増加するため、高感度な測定が可能な検出法として知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
F=2.303IexεCφ (式1)
また、蛍光物質の蛍光強度に影響を与える要因として、溶液の水素イオン濃度(pH)がある。蛍光pH指示薬は自身の官能基がプロトン化もしくは脱プロトン化した状態において蛍光を発する。図2は蛍光pH指示薬のpH曲線である。蛍光pH指示薬は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21(ここでは6、9ジクロロメトキシアクリジンを表示)と塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬(ここではフルオレセインを表示)22に大別される(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2112759号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hannelore Kaspar et al. “Advance in amino acid analysis” Analytical and Bioanalytical Chemistry.393 445−452 (2009)
【非特許文献2】江頭 暁.“指示薬発色法によるカルボン酸のイオン交換クロマトグラフィー”分析化学.15.1356−1360 (1966)
【非特許文献3】御橋廣眞編 「蛍光分光とイメージングの手法」学会出版センター、2006年6月15日 P.13−15
【非特許文献4】Seiichi Uchiyama et al.“Digital fluorescent pH sensorsw” Chemical communications. 2646−2548 (2009)
【非特許文献5】Yasuteru Urano et al.“Selective molecular imaging of viable cancer cells with pH activatable fluorescence probes” Nature Medicine 15. 104−109 (2009)
【非特許文献6】Daniel Aigner et al. “New fluorescent perylene bisimide indicators−a platform for broadband pH optodes” Analytical Bioanallytical Chemmistry 400. 2475-2485 (2011)
【非特許文献7】GEバイオサイエンス株式会社 蛍光アプリケーション No. 712137−91
【非特許文献8】平木 敬三、西川 泰治「けい光指示薬を用いる酸―塩基滴定(示差滴定)」.分析化学.30.45−50(1981)
【非特許文献9】杉田 創他「フルオレセインの蛍光強度に及ぼすpHおよび溶存イオンの影響」日本地学会誌 25.211225(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術では、酸性物質をポストカラム法により誘導体化せずに高速液体クロマトグラフィーによって検出する際にBTB指示薬法よりも高感度に検出するという課題が知られていなかった。本発明は物質をポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する際に誘導体化せずにBTB指示薬法の検出感度よりも高感度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を利用し、蛍光検出器を有する液体クロマトグラフを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸性物質を誘導体化しないポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する際に蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を使用し、蛍光検出器により検出することでBTB指示薬法よりも高感度に検出という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のポストカラム法を用いた液体クロマトグラフシステムの構成図。
【図2】蛍光pH指示薬のpH曲線。
【図3】従来のBTB指示薬法にてポストカラム法を行い、酸性物質を検出したクロマトグラム。
【図4】本発明で酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、酸性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図5】本発明で塩基性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、塩基性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図6】本発明で塩基側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、酸性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図7】本発明で酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、塩基性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図8】本発明において、塩基性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬と酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を同時に使用し、酸性物質および塩基性物質を両方検出したクロマトグラム。
【図9】多方ジョイントを使用し、蛍光pH指示薬を含む反応溶液を2種類以上使用した場合の構成図。
【図10】図1の構成に加圧コイル16を追加した構成図。
【図11】図1と同様の構成、同様の蛍光pH指示薬を使用し、キセノンランプとキセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源の両者で酸性物質を検出し比較したクロマトグラム。
【図12】図1の構成に分取部を追加した構成図。
【図13】従来のポストカラム法を用いた高速液体クロマトグラフの構造図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1を用いて本実施例の液体クロマトグラフについて説明する。
高速液体クロマトグラフは、移動相送液ポンプ1、試料を注入するためのインジェクタ2、分離カラム3、分離部を恒温に保つカラムオーブン4、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬を合流させるジョイント5、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬が混合されながら流れる配管6、蛍光検出器7、及び反応試薬送液部11を備えている。
【0016】
試料はインジェクタ2から注入され、移動相送液ポンプ1から送液される移動相によって分離部を通過し、分離する。分離した試料はジョイント5で反応試薬送液ポンプ8から送液される反応液と混合され、配管6を通過して蛍光検出器7で検出され、信号がデータ処理部9に送られデータ処理が行われる。
【0017】
本発明を実施する液体クロマトグラフは、システム、分離カラム3の耐圧が20MPaより大きく、モジュールを接続する配管は試料の拡散を最小限とするために内径0.13mm以下の配管を用い、最短に構成された装置であることが望ましい。溶液混合部の容積は最小に設計されたものであることが望ましい。用いる蛍光検出器7はフローセルが低容量のものであり、負のピークも検出できることが望ましい。
【0018】
図3は比較例として従来技術を説明するための図であり、BTB指示薬法を利用した場合のクロマトグラムである。BTB指示薬法はpH変化によりBTB指示薬の吸収スペクトルが変化することを利用したものであり、一般的には440nmの吸光度を測定する。
BTB指示薬法は吸光度の変化を測定するUV検出器を使用するため、数10mg/L以下の酸性物質を検出することができなかった。
【0019】
一方、図4は本実施例を説明するものであり、図2と同濃度の酸性物質を検出したクロマトグラムである。反応試薬として酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21を含む反応溶液を中性に調製し、反応試薬送液ポンプ8により送液後、ジョイント5において試料と混合、配管6を通り、キセノンランプを光源とする蛍光検出器7により検出した。
本実施例では反応試薬として蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、検出器として蛍光検出器7を使用することにより、BTB指示薬法の検出感度よりも高感度に酸性物質を正のピークとして検出することがわかる。図3、図4のノイズレベルが同等であるので、S/Nを比較すると図4の蛍光検出の方が図3のUV検出より5倍程度良くなることが分かる。これはキニーネのキノリン環の窒素原子(pK4.9)が酸性側でプロトン付加しπ電子系が安定することにより、340−380nmの吸収が増大することによる。吸収したエネルギーにより電子が励起状態となり、それが基底状態に戻るときに400−550nmの蛍光がでるが、吸収エネルギーの増加に伴い、蛍光も強くなる。また、より高感度に酸性物質を検出したい場合には、pH7前後から酸性側へのpHの変化によって蛍光を発するようになる蛍光pH指示薬の使用が望ましい。このような蛍光pH指示薬にはEtMeNBDPやDiEtNBDP(非特許文献5)、Perylene bisimide (PBI) dyes(非特許文献6)、CypHper5(非特許文献7)が挙げられる。EtNBDPやDiEtNBDPではジアルキル化したアニリル基の窒素原子が酸性側でプロトン付加することにより蛍光強度が強くなる。
【0020】
本実施例における酸性物質はカルボン酸およびスルホン酸を含む。
【実施例2】
【0021】
図5は本実施例を説明するものであり、図2と同濃度の塩基性物質を検出したクロマトグラムである。実施例1と同様の装置構成を用いて、反応試薬として塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを含む反応溶液を中性に調製し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出した。本実施例では従来のBTB指示薬法で検出することのできなかった塩基性物質を正のピークとして検出することがわかる。
フルオレセイン(pKa=6.4)はベンゼン環のオルト位にあるカルボキシル基が塩基性側でキサンテン骨格の炭素原子と、ケトン基を持つ環状構造を生成することにより蛍光が強くなる(非特許文献9)。高感度に塩基性物質を検出したい場合には、pH7前後から塩基性側へのpHの変化によって蛍光を発するようになる蛍光pH指示薬の使用が望ましい。このような蛍光pH指示薬にはフルオレセイン、HPTS (非特許文献4)が挙げられる。本実施例における塩基性物質はポリアミン、アンモニアを含む。
【実施例3】
【0022】
図6は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、実施例2で使用した塩基性物質を測定した例である。実施例1と同様の装置構成を用いて、実施例2で使用した蛍光pH指示薬を含む反応液を酸性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで塩基性物質を負のピークとして検出することがわかる。
【実施例4】
【0023】
図7は塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを使用して、実施例1で測定した酸性物質を測定した例である。実施例1と同様の装置構成を用いて、実施例2で使用した蛍光pH指示薬を含む反応液を塩基性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで実施例1で測定した酸性物質を負のピークとして検出することがわかる。
【実施例5】
【0024】
図8は酸性物質と塩基性物質を同時に測定した例である。酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを両方含む反応液を中性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで酸性物質と塩基性物質を同時に検出することがわかる。本実施例は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21と塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22をもつ蛍光pH指示薬を異なる励起、蛍光波長をタイムプログラムによって切り替えて検出した例であるが、複数の波長を検出できる蛍光検出器を用いることでも、両者を同士に同時に使用することが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例6】
【0025】
図9は蛍光pH指示薬を含む反応溶液を2種類以上使用した場合の構成図である。実施例5では実施例1と実施例2の蛍光pH指示薬を同一の反応溶液に調製することを前提とした。ただし、ジョイント5を4方ジョイント等の多方ジョイントへ適宜設定することで2種類以上の蛍光pH指示薬を反応液混合部で混合することにより、実施例5と同様の効果を奏することは可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例7】
【0026】
図10は実施例1の構成に加圧コイル16を追加した構成図である。反応試薬送液ポンプ8とジョイント5の間に加圧コイル16を加えることで、反応試薬送液ポンプ8に由来の圧力変動によるノイズを軽減させることが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例8】
【0027】
実施例1〜7では蛍光検出器7の光源としてキセノンランプを使用することを前提に記載した。図11は実施例1と同様の構成、同様の蛍光pH指示薬を使用し、キセノンランプとキセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源の両者で酸性物質を検出した場合のクロマトグラムである。キセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源を使用することで更に高感度な検出が可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。光源としてはレーザ、LEDやランプを集積させたものを含む。
【実施例9】
【0028】
実施例1〜8では目的物質を検出した後に廃液として廃棄することを前提に記載した。
図12は蛍光検出器7の後に分取部17を追加した構成図である。分取部17を組み合わせることにより、目的物質をインタクトな状態で分取することが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。分取部としてはフラクションコレクタ、ビーカー、エッペンチューブ、マイクロプレート、試験管を含む。
【符号の説明】
【0029】
1 移動相送液ポンプ
2 インジェクタ
3 分離カラム
4 カラムオーブン
5 ジョイント
6 配管
7 蛍光検出器
8 反応試薬送液ポンプ
9 データ処理部
10 移動相容器
11、14、15 反応液容器
1213 反応液送液ポンプ
16 加圧コイル
17 分取部
18 UV検出器
21 酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬
22 塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフ及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーは、分離部から溶出された試料に1種類以上の反応試薬を混合し、試料を検出する方法であり、高い選択性を必要とする場合やUV吸収を持たない物質の測定などに利用されている。
【0003】
ポストカラム法は測定目的物質を誘導体化する方法と誘導体化をしない方法に大別される。目的物質を誘導体化する方法は目的物質と反応試薬として使用する誘導体化試薬を化学反応させ、測定目的物質を別の物質に変換したのち検出する方法である(例えば、非特許文献1参照)。目的物質を誘導体化しない方法は目的物質による環境変化(水素イオン濃度など)を反応試薬により検出する方法である(例えば特許文献1参照)。
【0004】
従来、酸性物質をポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する場合にはブロモチモールブルー(BTB)水溶液を反応液に使用したBTB指示薬法が知られていた(例えば、非特許文献2参照)。この方法は測定目的物質を誘導体化しない方法である。
【0005】
図13は従来のBTB法によるポストカラム法を用いた高速液体クロマトグラフの構造図である。高速液体クロマトグラフは、移動相送液ポンプ1、試料を注入するためのインジェクタ2、分離カラム3、分離部を恒温に保つカラムオーブン4、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬を合流させるジョイント5、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬が混合されながら流れる配管6、UV検出器18、及び反応試薬送液部11を備えている。試料はインジェクタ2から注入され、移動相送液ポンプ1から送液される移動相によって分離部を通過し、分離する。分離した試料はジョイント5で反応試薬送液ポンプ8から送液される反応液と混合され、配管6を通過してUV検出器18で検出され、信号がデータ処理部9に送られデータ処理が行われる。
【0006】
一方で、蛍光検出法の蛍光強度Fは式1で示させるように物質濃度C、モル吸光係数ε、量子収率φおよび励起光強度Iexに比例し増加するため、高感度な測定が可能な検出法として知られている(例えば、非特許文献3参照)。
【0007】
F=2.303IexεCφ (式1)
また、蛍光物質の蛍光強度に影響を与える要因として、溶液の水素イオン濃度(pH)がある。蛍光pH指示薬は自身の官能基がプロトン化もしくは脱プロトン化した状態において蛍光を発する。図2は蛍光pH指示薬のpH曲線である。蛍光pH指示薬は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21(ここでは6、9ジクロロメトキシアクリジンを表示)と塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬(ここではフルオレセインを表示)22に大別される(例えば非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2112759号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hannelore Kaspar et al. “Advance in amino acid analysis” Analytical and Bioanalytical Chemistry.393 445−452 (2009)
【非特許文献2】江頭 暁.“指示薬発色法によるカルボン酸のイオン交換クロマトグラフィー”分析化学.15.1356−1360 (1966)
【非特許文献3】御橋廣眞編 「蛍光分光とイメージングの手法」学会出版センター、2006年6月15日 P.13−15
【非特許文献4】Seiichi Uchiyama et al.“Digital fluorescent pH sensorsw” Chemical communications. 2646−2548 (2009)
【非特許文献5】Yasuteru Urano et al.“Selective molecular imaging of viable cancer cells with pH activatable fluorescence probes” Nature Medicine 15. 104−109 (2009)
【非特許文献6】Daniel Aigner et al. “New fluorescent perylene bisimide indicators−a platform for broadband pH optodes” Analytical Bioanallytical Chemmistry 400. 2475-2485 (2011)
【非特許文献7】GEバイオサイエンス株式会社 蛍光アプリケーション No. 712137−91
【非特許文献8】平木 敬三、西川 泰治「けい光指示薬を用いる酸―塩基滴定(示差滴定)」.分析化学.30.45−50(1981)
【非特許文献9】杉田 創他「フルオレセインの蛍光強度に及ぼすpHおよび溶存イオンの影響」日本地学会誌 25.211225(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術では、酸性物質をポストカラム法により誘導体化せずに高速液体クロマトグラフィーによって検出する際にBTB指示薬法よりも高感度に検出するという課題が知られていなかった。本発明は物質をポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する際に誘導体化せずにBTB指示薬法の検出感度よりも高感度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を利用し、蛍光検出器を有する液体クロマトグラフを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸性物質を誘導体化しないポストカラム法による高速液体クロマトグラフィーによって検出する際に蛍光検出可能な蛍光pH指示薬を使用し、蛍光検出器により検出することでBTB指示薬法よりも高感度に検出という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のポストカラム法を用いた液体クロマトグラフシステムの構成図。
【図2】蛍光pH指示薬のpH曲線。
【図3】従来のBTB指示薬法にてポストカラム法を行い、酸性物質を検出したクロマトグラム。
【図4】本発明で酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、酸性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図5】本発明で塩基性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、塩基性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図6】本発明で塩基側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、酸性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図7】本発明で酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用し、塩基性物質をポストカラム法で検出したクロマトグラム。
【図8】本発明において、塩基性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬と酸性側において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を同時に使用し、酸性物質および塩基性物質を両方検出したクロマトグラム。
【図9】多方ジョイントを使用し、蛍光pH指示薬を含む反応溶液を2種類以上使用した場合の構成図。
【図10】図1の構成に加圧コイル16を追加した構成図。
【図11】図1と同様の構成、同様の蛍光pH指示薬を使用し、キセノンランプとキセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源の両者で酸性物質を検出し比較したクロマトグラム。
【図12】図1の構成に分取部を追加した構成図。
【図13】従来のポストカラム法を用いた高速液体クロマトグラフの構造図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1を用いて本実施例の液体クロマトグラフについて説明する。
高速液体クロマトグラフは、移動相送液ポンプ1、試料を注入するためのインジェクタ2、分離カラム3、分離部を恒温に保つカラムオーブン4、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬を合流させるジョイント5、分離カラム3から溶出した試料と反応試薬が混合されながら流れる配管6、蛍光検出器7、及び反応試薬送液部11を備えている。
【0016】
試料はインジェクタ2から注入され、移動相送液ポンプ1から送液される移動相によって分離部を通過し、分離する。分離した試料はジョイント5で反応試薬送液ポンプ8から送液される反応液と混合され、配管6を通過して蛍光検出器7で検出され、信号がデータ処理部9に送られデータ処理が行われる。
【0017】
本発明を実施する液体クロマトグラフは、システム、分離カラム3の耐圧が20MPaより大きく、モジュールを接続する配管は試料の拡散を最小限とするために内径0.13mm以下の配管を用い、最短に構成された装置であることが望ましい。溶液混合部の容積は最小に設計されたものであることが望ましい。用いる蛍光検出器7はフローセルが低容量のものであり、負のピークも検出できることが望ましい。
【0018】
図3は比較例として従来技術を説明するための図であり、BTB指示薬法を利用した場合のクロマトグラムである。BTB指示薬法はpH変化によりBTB指示薬の吸収スペクトルが変化することを利用したものであり、一般的には440nmの吸光度を測定する。
BTB指示薬法は吸光度の変化を測定するUV検出器を使用するため、数10mg/L以下の酸性物質を検出することができなかった。
【0019】
一方、図4は本実施例を説明するものであり、図2と同濃度の酸性物質を検出したクロマトグラムである。反応試薬として酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21を含む反応溶液を中性に調製し、反応試薬送液ポンプ8により送液後、ジョイント5において試料と混合、配管6を通り、キセノンランプを光源とする蛍光検出器7により検出した。
本実施例では反応試薬として蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、検出器として蛍光検出器7を使用することにより、BTB指示薬法の検出感度よりも高感度に酸性物質を正のピークとして検出することがわかる。図3、図4のノイズレベルが同等であるので、S/Nを比較すると図4の蛍光検出の方が図3のUV検出より5倍程度良くなることが分かる。これはキニーネのキノリン環の窒素原子(pK4.9)が酸性側でプロトン付加しπ電子系が安定することにより、340−380nmの吸収が増大することによる。吸収したエネルギーにより電子が励起状態となり、それが基底状態に戻るときに400−550nmの蛍光がでるが、吸収エネルギーの増加に伴い、蛍光も強くなる。また、より高感度に酸性物質を検出したい場合には、pH7前後から酸性側へのpHの変化によって蛍光を発するようになる蛍光pH指示薬の使用が望ましい。このような蛍光pH指示薬にはEtMeNBDPやDiEtNBDP(非特許文献5)、Perylene bisimide (PBI) dyes(非特許文献6)、CypHper5(非特許文献7)が挙げられる。EtNBDPやDiEtNBDPではジアルキル化したアニリル基の窒素原子が酸性側でプロトン付加することにより蛍光強度が強くなる。
【0020】
本実施例における酸性物質はカルボン酸およびスルホン酸を含む。
【実施例2】
【0021】
図5は本実施例を説明するものであり、図2と同濃度の塩基性物質を検出したクロマトグラムである。実施例1と同様の装置構成を用いて、反応試薬として塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを含む反応溶液を中性に調製し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出した。本実施例では従来のBTB指示薬法で検出することのできなかった塩基性物質を正のピークとして検出することがわかる。
フルオレセイン(pKa=6.4)はベンゼン環のオルト位にあるカルボキシル基が塩基性側でキサンテン骨格の炭素原子と、ケトン基を持つ環状構造を生成することにより蛍光が強くなる(非特許文献9)。高感度に塩基性物質を検出したい場合には、pH7前後から塩基性側へのpHの変化によって蛍光を発するようになる蛍光pH指示薬の使用が望ましい。このような蛍光pH指示薬にはフルオレセイン、HPTS (非特許文献4)が挙げられる。本実施例における塩基性物質はポリアミン、アンモニアを含む。
【実施例3】
【0022】
図6は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、実施例2で使用した塩基性物質を測定した例である。実施例1と同様の装置構成を用いて、実施例2で使用した蛍光pH指示薬を含む反応液を酸性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで塩基性物質を負のピークとして検出することがわかる。
【実施例4】
【0023】
図7は塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを使用して、実施例1で測定した酸性物質を測定した例である。実施例1と同様の装置構成を用いて、実施例2で使用した蛍光pH指示薬を含む反応液を塩基性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで実施例1で測定した酸性物質を負のピークとして検出することがわかる。
【実施例5】
【0024】
図8は酸性物質と塩基性物質を同時に測定した例である。酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21の例としてキニーネを使用し、塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22の例としてフルオレセインを両方含む反応液を中性に調製後使用し、ジョイント5において試料と混合後、蛍光検出することで酸性物質と塩基性物質を同時に検出することがわかる。本実施例は酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬21と塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬22をもつ蛍光pH指示薬を異なる励起、蛍光波長をタイムプログラムによって切り替えて検出した例であるが、複数の波長を検出できる蛍光検出器を用いることでも、両者を同士に同時に使用することが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例6】
【0025】
図9は蛍光pH指示薬を含む反応溶液を2種類以上使用した場合の構成図である。実施例5では実施例1と実施例2の蛍光pH指示薬を同一の反応溶液に調製することを前提とした。ただし、ジョイント5を4方ジョイント等の多方ジョイントへ適宜設定することで2種類以上の蛍光pH指示薬を反応液混合部で混合することにより、実施例5と同様の効果を奏することは可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例7】
【0026】
図10は実施例1の構成に加圧コイル16を追加した構成図である。反応試薬送液ポンプ8とジョイント5の間に加圧コイル16を加えることで、反応試薬送液ポンプ8に由来の圧力変動によるノイズを軽減させることが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。
【実施例8】
【0027】
実施例1〜7では蛍光検出器7の光源としてキセノンランプを使用することを前提に記載した。図11は実施例1と同様の構成、同様の蛍光pH指示薬を使用し、キセノンランプとキセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源の両者で酸性物質を検出した場合のクロマトグラムである。キセノンランプよりも高強度の光を照射できる光源を使用することで更に高感度な検出が可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。光源としてはレーザ、LEDやランプを集積させたものを含む。
【実施例9】
【0028】
実施例1〜8では目的物質を検出した後に廃液として廃棄することを前提に記載した。
図12は蛍光検出器7の後に分取部17を追加した構成図である。分取部17を組み合わせることにより、目的物質をインタクトな状態で分取することが可能であり、このような構成も本発明の範疇に含まれる。分取部としてはフラクションコレクタ、ビーカー、エッペンチューブ、マイクロプレート、試験管を含む。
【符号の説明】
【0029】
1 移動相送液ポンプ
2 インジェクタ
3 分離カラム
4 カラムオーブン
5 ジョイント
6 配管
7 蛍光検出器
8 反応試薬送液ポンプ
9 データ処理部
10 移動相容器
11、14、15 反応液容器
1213 反応液送液ポンプ
16 加圧コイル
17 分取部
18 UV検出器
21 酸性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬
22 塩基性側で蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動相を送液する移動相送液部と、分離部と、前記分離部通過後の液体に対して測定目的物質を誘導体化しない反応試薬を送液する反応試薬送液部と、前記分離部から溶出された液体と前記反応試薬が混ざるジョイントと、検出部とを備えた液体クロマトグラフであって、検出部を蛍光検出部とすることを特徴とした液体クロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として酸性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項3】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として塩基性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項4】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として酸性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬と塩基性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を同時に使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項5】
請求項2の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
請求項3の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
請求項4の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項8】
請求項4において、2種類以上の蛍光pH指示薬を混合させることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかにおいて、抵抗コイルを有することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかにおいて、蛍光検出部の光源をキセノンランプ以上の高強度の光を照射できる光源とすることを特徴とした液体クロマトグラフ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、分取装置を有することを特徴とした液体クロマトグラフ。
【請求項1】
移動相を送液する移動相送液部と、分離部と、前記分離部通過後の液体に対して測定目的物質を誘導体化しない反応試薬を送液する反応試薬送液部と、前記分離部から溶出された液体と前記反応試薬が混ざるジョイントと、検出部とを備えた液体クロマトグラフであって、検出部を蛍光検出部とすることを特徴とした液体クロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として酸性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項3】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として塩基性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項4】
請求項1の液体クロマトグラフにおいて、測定目的物質を誘導体化しない反応試薬として酸性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬と塩基性において蛍光強度が上昇する蛍光pH指示薬を同時に使用することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項5】
請求項2の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項6】
請求項3の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項7】
請求項4の液体クロマトグラフにおいて、目的物質を負のピークとして検出することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項8】
請求項4において、2種類以上の蛍光pH指示薬を混合させることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項9】
請求項1〜8いずれかにおいて、抵抗コイルを有することを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかにおいて、蛍光検出部の光源をキセノンランプ以上の高強度の光を照射できる光源とすることを特徴とした液体クロマトグラフ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかにおいて、分取装置を有することを特徴とした液体クロマトグラフ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−101110(P2013−101110A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−229410(P2012−229410)
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月17日(2012.10.17)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
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