説明

液体クロマトグラフ用測定カートリッジ及び液体クロマトグラフ装置

【課題】測定系全体を小型化することができ、液体中の微量成分を高精度にかつ簡便に検出することを可能とする液体クロマトグラフ用測定カートリッジを提供する。
【解決手段】内部に、分離媒体を有する分離部4と、試料を注入するための試料注入部2aと、移動相を貯留している移動相貯留部5と、分離媒体により分離された成分を検出するための検出部6と、分離部4、試料注入部2a、移動相貯留部5及び検出部6を連結する流路8とを有し、試料の注入から検出部に至るまでの流路がカートリッジ内で完結されている、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、タンパク質などの生体中の微量物質や血液、血漿もしくは血清中に含まれるヘモグロビン類などの液体中の微量成分を液体クロマトグラフ法により測定することを可能とする液体クロマトグラフ用測定カートリッジに関し、特に、試料の注入からクロマトグラフによる分離及びその測定準備までを小型のカートリッジで行うことを可能とする液体クロマトグラフ用測定カートリッジ及び該液体クロマトグラフ用測定カートリッジを有する液体クロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体中に含まれている試料を分離し、分析する方法として、液体クロマトグラフィーが広く用いられている。また、生化学分析等においては、少量の試料をより迅速にかつ高精度に測定することが求められている。さらに、医療現場では、より簡便かつ小型の装置を用いて、液体中の微量成分を迅速にかつ高精度に測定することが望まれている。
【0003】
下記の特許文献1には、小型化された液体クロマトグラフ装置が開示されている。この液体クロマトグラフ装置では、試料を高精度に分離することができるとされている。しかしながら、特許文献1に記載の液体クロマトグラフ装置は、通常の液体クロマトグラフ装置を単に小型化したものにすぎなかった。そのため、装置が複雑化しており、小規模の医院等の現場において簡便に用い得ることはできなかった。
【0004】
他方、下記の特許文献2には、多孔体モノリスを分離媒体として用いたクロマトグラフ用チップが開示されている。多孔体モノリスを分離媒体として用いることにより、測定部をより小さくすることが可能とされている。しかしながら、分離媒体を含むクロマトグラフ用チップは小型化されているものの、該クロマトグラフ用チップへ移動相や試料を供給するための配管や配線が必要であった。そのため、クロマトグラフ装置全体としての構造は簡略化されておらず、かつ病院や臨床検査室などにおいて簡便に用いることはできなかった。
【0005】
他方、従来、糖尿病診断の指標として、血液中の糖化ヘモグロビン、特にヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略す)が広く用いられている。そのため、医院や臨床検査室において、液体クロマトグラフィーにより糖化ヘモグロビンの測定が広く行われている。
【0006】
糖化ヘモグロビンとは血液中の糖がヘモグロビンと結合して生成したものである。溶血液試料中の糖化ヘモグロビンは、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映するので溶血液中の糖化ヘモグロビン、近年、特に、安定型A1cが、糖尿病を診断する上で一番重要な指標(マーカー)であることが広く知られており、この安定型A1cを短時間により正確に測定することが求められている。その理由は、例えば、病院での診療前に患者の安定型A1c測定を行い、医者がその安定型A1c測定結果を基に、患者の治療方針を決定して、治療を行う「診療前検査」のニーズが高まっているためである。
【0007】
このHbA1cの液体クロマトグラフィー法による測定は、主にカチオン交換液体クロマト グラフィー法により行われている。溶血液試料をカチオン交換液体クロマトグラフィーにより分離すると、通常、ヘモグロビンA1a(以下、HbA1aという)及びヘモグロビンA1b(以下、HbA1bという)、ヘモグロビンF(以下、HbFという)、不安定型HbA1c、安定型HbA1c並びにヘモグロビンA0(以下、HbA0という)などのピークに分画できる。なお、糖尿病の診断の指標として使用されているHbA1cは、上記のうちの安定型HbA1cであり、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)として求められている。
【0008】
このHbA1cの液体クロマトグラフィー法による測定は、カラムとしてカチオン交換液体クロマトグラフィー用充填剤(例えば、カルボキシル基やスルホン酸基を官能基として有する充填剤)が充填されたものを用い、pH5.0〜9.0の溶離液を用いて行われている。
【0009】
上記のように、従来のHPLC法による安定型A1c測定方法では、精度良く安定型A1cを測定できるが、少し大きめのHPLC測定装置が必要である。これらのHPLCによる安定型A1c測定では、測定検体が比較的大きめのカラム(内径4.6mm×長さ35mm)及び検出器のセルで拡散したり、また、検体注入からカラム、検出セルで検出されるまでの配管の長さが長いために、更に、測定検体が拡散するため、各ヘモグロビン類のピークがブロード化し、更なる測定時間の短縮を行っても、各ヘモグロビン類のピーク分離が不十分となり、安定型A1cを精度良く測定することはできない。
【0010】
また、これらの安定型A1c測定用のHPLC測定装置も非常に小型化が進んでいるが、医療現場、特に、開業医などの小規模病院に置くには、まだ、装置が大きすぎて、以下の問題点がある。(1)設置するためにスぺースを確保する必要がある。(2)持ち運ぶには重すぎる。(3)測定検体の拡散などの問題点がある。
【特許文献1】特許第2585390号公報
【特許文献2】特開2002−311008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、従来の液体クロマトグラフ装置では、小型化が進められているといえども、構造が複雑であり、小規模の医院や臨床検査室において簡便に用いることは困難であった。
【0012】
よって、本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、測定系全体を小型化することができ、大きな設置スペースを必要とせず、液体中の微量成分を高精度にかつ簡便に検出することを可能とする液体クロマトグラフ用測定カートリッジ、並びに該液体クロマトグラフ用測定カートリッジを有する液体クロマトグラフ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジは、検出装置に対して取り外し可能に装着される液体クロマトグラフ用測定カートリッジであって、内部に、分離媒体を有する分離部と、試料を注入するための試料注入部と、移動相を貯留している移動相貯留部と、分離媒体により分離された成分を検出するための検出部と、前記分離部、前記試料注入部、前記移動相貯留部及び前記検出部を連結する流路とを有し、前記試料の注入から検出部に至るまでの流路がカートリッジ内で完結されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのある特定の局面では、前記流路に接続されており、かつ検出後の廃液を貯留するための廃液貯留部をさらに備える。
【0015】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジの他の特定の局面では、前記移動相貯留部を加圧するための加圧手段及び/または前記廃液貯留部を減圧するための減圧手段をさらに備える。
【0016】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに別の特定の局面では、前記分離部よりも上流において、前記流路内の気泡を捕捉もしくは除去するための気泡捕捉・除去部をさらに備える。
【0017】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記検出部が、光学セルであり、前記検出装置が該光学セル中の液体における試料濃度を検出する光学的分析装置である。
【0018】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに別の特定の局面では、カード形の形状を有する。
【0019】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記分離部において液体が流れる流路の断面積が1μm〜1mmの範囲にある。
【0020】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに別の特定の局面では、前記分離媒体が多孔体モノリスである。
【0021】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の特定の局面では、前記分離部が前記分離媒体を内部に有するキャピラリーチューブであり、該キャピラリーチューブが埋設されている。
【0022】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに別の特定の局面では、前記試料を前処理するための前処理部をさらに備え、該前処理部で前処理された試料が前記試料注入部に供給されるように構成されている。
【0023】
本発明に係る液体クロマトグラフ装置は、本発明に従って構成された液体クロマトグラフ用測定カートリッジと、該液体クロマトグラフ用測定カートリッジが取り外し可能に装着される検出装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジは、内部に、分離部、試料注入部、移動相貯留部、及び検出部と、これらを連結する流路とを有し、試料の注入から上記検出部に至るまでの流路がカートリッジ内で完結されている。そして、上記液体クロマトグラフ用測定カートリッジは、検出装置に対して取り外し可能に装着されるように構成されている。
【0025】
従って、本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジの上記試料注入部に試料を注入するだけで、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ内の分離部において、移動相により試料中の成分が分離され、検出部に導かれる。従って、液体クロマトグラフ用測定カートリッジに試料を注入した後、液体クロマトグラフ用測定カートリッジを検出装置に装着することにより、あるいは検出装置に液体クロマトグラフ用測定カートリッジを装着した後に、試料を上記試料注入部に注入するだけで、容易にかつ簡便に測定対象成分を検出することができる。
【0026】
しかも、上記液体クロマトグラフ用測定カートリッジ内において流路が完結されているので、複雑な流路接続部分が設けられておらず、従って、接続部材を用いたことによる接続部分における漏洩が生じ難い。よって、測定値のばらつきも生じ難い。さらに、流路を接続するための特殊な部材を必要とせず、かつ接続する煩雑な作業も必要としない。加えて、複雑なメンテナンス作業も必要としない。
【0027】
よって、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジを用いた場合、医院のような小規模な施設においても、液体クロマトグラフ法による微量成分の検出を簡便にかつ容易に行うことが可能となる。
【0028】
本発明に係る液体クロマトグラフ装置は、本発明に従って構成された液体クロマトグラフ用測定カートリッジと、該液体クロマトグラフ用測定カートリッジが取り外し可能に装着される検出装置とを備える。従って、上記液体クロマトグラフ用測定カートリッジの試料注入部に試料を注入し、液体クロマトグラフ用測定カートリッジを上記検出装置に装着するだけで、容易にかつ簡便に液体クロマトグラフィーにより試料を検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0030】
(カートリッジ)
本明細書において、カートリッジは、検出装置に対して取り外し可能に装着されるものであって、上記分離部、注入部、移動相貯留部、及び検出部と、これらを連結する流路とを有し、試料の注入から検出部までに至るまでの流路がカートリッジ内で完結されている限り、特にその構造は限定されるものではない。
【0031】
上記カートリッジを構成する材料についても特に限定されず、ガラス、プラスチックまたは金属などの1種もしくは2種以上の材料を用いて形成することができる。好ましくは、カートリッジは、外部から内部を目視することができるように、透明性を有することが望ましい。従って、カートリッジを構成している部材は透明なガラスやプラスチックなどからなることが望ましく、少なくとも試料及び移動相が移動する部分を外部から目視し得るように、少なくとも一部が透明性を有する材料で形成されていることが望ましい。
【0032】
また、安価であり、軽量であり、加工性及び量産性に優れているので、カートリッジを構成する材料としては、プラスチックスが好ましい。透明なプラスチック材料としては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂などを挙げることができる。
【0033】
カートリッジの形状についても特に限定されないが、好ましくは、取り扱いが容易な大きさの平板状もしくは筒状の形状とされる。平板状の形状を有する場合、検査従事者が手で容易に扱い得るカード状の形状を有し、かつ手により容易に検出装置への取り外しが行い得る大きさのものが望ましい。
【0034】
カートリッジを製造する方法については特に限定されない。特に、カード状のカートリッジを構成する場合には、複数の板状部材を積層すればよい。この場合、少なくとも1つの板状部材に、レーザー加工、もしくは切削加工などの各種機械加工により、流路や試料注入部等を構成するための溝もしくは貫通孔などを形成してもよい。また、上記レーザー加工や機械加工に代えて、化学エッチングもしくは原子線エッチングなどを用いてもよい。あるいは、射出成形などの公知の成形方法を用いて、溝や貫通孔を有する板状部材を製造してもよい。
【0035】
カートリッジがカード状であって、複数の平板状の部材を積層した構造である場合、積層に際しては、適宜の接着方法や、陽極接合法などにより平板状の部材同士を接合すればよく、接合方法は特に限定されない。また、上記流路等は、試料注入部や移動相を供給するための部分を除いて密閉することが望ましい。
【0036】
また、使用可能な材料に制限はあるが、光造形技術等を用いることにより、上記流路や各種液体貯留部を形成してもよい。
【0037】
なお、カートリッジ内に形成される各部分は、残りの部分と異なる材料で構成されてもよい。例えば検出部が光学セルとされる場合には、検出部については、透明性に優れたガラスやプラスチックを用い、他の部分の材料と異なる材料で検出部を構成してもよい。その場合、他の部分と異なる材料からなる部分については、別途作製し、接着剤により他の部分に接着して一体化してもよく、あるいはカップリング剤等を用いて接合してもよい。さらに、共押出等の成形方法により、複数の材料からなる部分を有するカートリッジあるいはカートリッジの一部を形成してもよい。
【0038】
(分離媒体)
本発明において、分離媒体としては、測定対象である試料を液体クロマトグラフ法によって分離し得る適宜の材料を用いることができる。このような分離媒体としては、例えば、スチレンジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリレート、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリビニルアルコール、シリカ、アルミナ等の液体クロマトグラフィーで用いられる担体材料からなるもの;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体等のポリオレフィンからなるもの;エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体等のオレフィン−ハロゲン化オレフィン共重合体からなるもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化ポリオレフィン又はポリスルホン等からなるもの;セルロース系の多孔膜等の多孔質膜材料からなるもの;綿や麻等の植物性繊維、絹や羊毛等の動物性繊維、再生繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の合成繊維等の繊維状材料からなるもの;多孔質セラミック、多孔質ガラス等の多孔質無機材料からなるもの;ポリアクリルアミドゲル等の多孔質有機材料からなるもの;ポリメタクリレート、スチレンジビニルベンゼン共重合体等のモノリス型多孔質カラム材料からなるもの等が挙げられる。
【0039】
これらの担体は、耐薬品性の改善、圧力損失の低下、分離性能の改善等を目的にその表面が表面修飾剤で処理されていてもよい。また、これらの担体は単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0040】
上記分離媒体の形状は特に限定されないが、圧力損失が生じ難く、内部を流れる流体との接触効率を十分に高め得るため、粒状、多孔質膜状またはモノリス状の分離媒体が好ましい。
【0041】
また、分離媒体において試料を含む液体が流れる部分である分離媒体中の流路の形状についても特に限定されないが、該流路の大きさは、断面積で1μm〜1mmの範囲であることが好ましい。流路の断面積がこれよりも小さい場合には、そのような断面積の小さい部分を高精度に形成することが加工上難しく、閉塞や流れの乱れが起き易くなる。また、上記範囲よりも断面積が大きいと、試料の拡散等が生じ易くなり、分析精度の低下を招くおそれがある。また、流路の断面積が大きすぎると、移動相として用いられる液体の量が大きくなり、ひいては本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジの寸法が大きくなり、小型化を進めることができなくなる。
【0042】
分離媒体の中でも、好ましくは多孔体モノリスが用いられる。多孔体モノリスとは、個々がばらばらである粒子充填物ではなく、粒子が一体化し連続体となって多孔体を構成している材料をいうものとする。このような多孔体モノリスとしては、多孔質ガラスなどの多孔質無機材料からなるもの、あるいはポリアクリルアミドゲルなどの多孔質有機材料からなるもの、またはポリメタクリレートもしくはスチレンジビニルベンゼン共重合体などのポリマーを用いて得られた多孔質ポリマー材料などが挙げられる。
【0043】
上記多孔体モノリスからなる分離媒体を本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジの分離部に配置する方法は特に限定されない。例えば、分離部内の流路にモノリスの原料と空孔を形成するための材料との混合物を配置し、加熱もしくは活性エネルギー線の照射により硬化させ、空孔を形成する材料を除去することにより、多孔体モノリスを形成する方法を挙げることができる。
【0044】
また、好ましくは、予め、分離媒体としての多孔体モノリスを内部に有するキャピラリーチューブを用意しておき、該キャピラリーチューブをカートリッジの分離部が設けられる部分に埋設してもよい。
【0045】
(移動相貯留部)
移動相貯留部は、移動相を貯留している部分であり、カートリッジ内において移動相が貯留される空間として設けられている。この空間の形状は特に限定されないが、移動相を分離部に連結している流路に連なっていることが必要である。移動相となる液体は、予め移動相貯留部に貯留されて用意されている。
【0046】
(移動相供給手段)
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジでは、好ましくは、分離部の分離媒体に移動相を供給するために移動相供給手段が用いられる。上記移動相供給手段は、移動相を送液し得る限りその構造は特に限定されず、また移動相供給手段は、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ内に設けられることが望ましいが、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ外に配置されており、移動相を送液するに際し液体クロマトグラフ用測定カートリッジに連結されるガスボンベ等を有するものであってもよい。この移動相供給手段としては、様々な送液手段を用いることができ、例えば、電圧を印加して電気浸透流を起こす手段、上流側を加圧容器からの静圧等で加圧する手段や、下流側を減圧する手段、内部に送液のためのポンプを設ける手段があげられる。上記ポンプとしては特に限定されないが、例えば、ペリスタポンプ、ロータリーポンプ、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプ等の機構からなる、駆動部の総体積が1cm以下のマイクロポンプを用いることができる。このようなマイクロポンプとしては、ダイヤフラム構造をMEMS加工技術によりそのまま小型化したダイアフラムポンプ;微小ピストンによる断続的に送液する構造が挙げられる。また簡単な方法としてはシリンジを接続して手動で押し出す方法や、ピストンの重量などを利用して重力で送液してもよい。
【0047】
移動供給手段としては、好ましくは、移動相貯留部を加圧するための加圧手段及び/または廃液貯留部を減圧するための減圧手段が用いられる。このような構造によれば、ポンプ等の送液機構を必要としないので、液体クロマトグラフ用測定カートリッジの構造の簡略化を図ることができる。
【0048】
(試料注入部)
本発明においては、カートリッジ内に試料を注入するための試料注入部が設けられている。この試料注入部は、カートリッジの外部に開いた注入口を有し、もしくは該注入口からシリンジなどを用いて試料を注入し得るように構成される。
【0049】
試料注入部は、前述の流路に連ねられており、流路に搬送されている移動相に試料を供給するために設けられている。
【0050】
試料注入口の形状は特に限定されるものではなく、後述する図4〜図7に示すような様々な構造を用いることができる。
【0051】
(検出部)
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジでは、分離媒体により分離された成分を検出するための検出部が内蔵されている。この検出部は、分離媒体により分離された成分を検出装置により検出するための部分として設けられている。この場合、検出部は、検出手法に応じて適宜の形態とされ得る。この検出方法は特に限定されないため、検出方法に従って検出部が構成されることになる。例えば、紫外線・可視光の吸光度、蛍光検出、または示差屈折率検出などの光学的な方法を採用した光学的分析装置を検出装置として用いる場合には、検出部は光学セルとされる。この場合には、光学セルは、透明性に優れたガラスあるいはプラスチックにより構成されることが望ましい。
【0052】
さらに、上記検出方法として、電気伝導度などの電気的特性を測定する方法の場合には、検出部は、検出装置側のプローブや電極による測定が可能なような構造とされる。
【0053】
なお、好ましくは、検出部は光学セルとされ、それによって、分光光度計などの検出装置と組み合わせて、測定結果を容易に得ることができる。
【0054】
光学セルにより検出部を構成する場合には、十分な光路長を確保するためには、試料を含む液相の流れ方向に対して入射光がなす角度0°となる構造が好ましい。
【0055】
(流路)
本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジでは、上記分離部、検出部、試料注入部及び移動相貯留部を連結する流路が内部に設けられている。この流路は、カートリッジ内において、液体が移動され得る限り、その断面構造は特に限定されない。すなわち、流路の横断面は円形であってもよく、矩形であってもよい。
【0056】
(廃液貯留部)
また、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジでは、好ましくは、流路に接続されており、検出後の廃液を貯留するための廃液貯留部が設けられる。この廃液貯留部としては、液体を収納する空間であって、上記流路に接続されている流路部分を除いて密閉されている空間であることが望ましい。廃液貯留部を設けることにより、検査後の廃液がカートリッジ以外に漏れ出すことがないため、従事者の感染のおそれを軽減することができる。
【0057】
(他の部材)
また、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジには、上記各部材の他、必要に応じて、流路開閉バルブ、温度調節のためのヒーター、前処理を行うための前処理機構などが内蔵されていてもよい。
【0058】
上記前処理としては、希釈、溶血、濾過などを挙げることができる。
【0059】
前処理部は、前処理された試料が試料注入部に供給されるように構成されることが必要である。従って、試料注入部よりも上流側に前処理部が配置される。前処理部は、上記様々な前処理を行うのに適した空間として形成されればよく、前処理の内容に応じて上記空間の形状及び大きさが選ばれる。
【0060】
また、好ましくは、上記分離部よりも上流側において、流路内の気泡を捕捉もしくは除去するための気泡捕捉・除去部がさらに備えられる。この場合には、気泡の混入を防止でき、それによって、測定精度を高めることができる。このような気泡捕捉・除去部としては、後述の図12及び図13に示した構造のように、流路の上方に気泡を捕捉もしくは除去するための空間を設けた適宜の構造を採用することができる。
【0061】
(測定試料)
本発明の測定デバイスの測定検体の種類は、特に、限定されない。また、更には、生体由来の成分であれば、公知のもので良く、例えば、ウィルス、細胞、組織、器官または動植物、微生物等、生体由来の試料、例えば、細胞、組織、器官の溶解物または、ホモジネート;血液、血漿、血清、尿、涙、便、痰、胃液などの体液;ステロイド、アミノ酸、ヌクレオチド、糖、ポリぺプチド、ポリヌクレオチド、複合炭水化物、脂質などの生物起源の有機分子;RNA、DNAなどの核酸などが上げられる。
【0062】
また、現在、臨床検査などで測定されている公知の測定項目も測定できる。例えば、(1)生化学検査:アルブミンなどの蛋白質、尿酸、クレアチニン、アミノ酸などの低分子窒素化合物;γ−GTP、GOT、GPT、グルタミン酸脱水素酵素などの酵素;LDHアイソザイム、アミラーゼアイソザイムなどのアイソザイム;ヘモグロビンA1c、フルクトサミン、1.5AG、グリコアルブミンなどの糖蛋白質・有機酸;LDL、HDL、リポ蛋白質などの脂質関連;ビタミン類;電解質・微量金属;ビリルビンなどの生体色素関連;馬尿酸、農薬、有機溶剤などの毒物・産業衛生関連;抗てんかん剤、催眠剤、向精神剤、気管支拡張剤、抗生物質、免疫抑制剤、利尿剤、抗ガン剤などの薬物検査、腫瘍マーカー、カテコールアミンなどのホルモン類、IgE、IgGなどの免疫グロブリン(アレルギー検査)、リュウマチ因子などの自己免疫因子、肝炎ウィルス抗体・抗原、インフルエンザウィルス、T細部系、B細胞系、骨随球系、NK細胞系などの血液細胞・免疫細胞の分類及びリンパ球サブセット検査、サイトカイン類などが挙げられる。
【0063】
(測定対象成分)
本発明は、液体中の微量成分を測定対象とする様々な液体クロマトグラフィーに広く用いられる。もっとも、好ましくは、血液、血漿もしくは血清などに含まれている微量成分を測定する臨床検査生化学検査において、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジが好適に用いられる。すなわち、臨床検査や生化学検査は、大規模な検査センターや病院だけでなく、小規模な医院等においても行われる。そのような小規模な施設において、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジを好適に用いることができる。
【0064】
また、好ましくは、ヘモグロビン類の測定に本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジが好適に用いられる。
【0065】
測定検体がヘモグロビン類であると、本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジに接するとヘモグロビン類が吸着して、各ヘモグロビン類の正しい測定値が得られない場合がある。
【0066】
その液体クロマトグラフ用測定カートリッジへのヘモグロビン類の吸着抑制のために、少なくとも、液体クロマトグラフ用測定カートリッジに測定検体のヘモグロビン類が接する部位の表面に公知の蛋白質吸着低減処理を行うことが好ましい。
【0067】
上記蛋白質吸着低減処理とは、蛋白質によるブロッキング処理(物理吸着処理、化学架橋処理)、シリコーン処理、撥水処理、化学的な親水化処理、プラズマ処理などを行う方法などを行うことが好ましい。
【0068】
本発明で用いられる移動相すなわち溶離液は、カオトロピックイオンを含有し、かつ、pH4.0〜6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩を含む。
【0069】
上記カオトロピックイオンとは、化合物が水溶液に溶解したときに解離により生じたイオンであり、水の構造を破壊し、疎水性物質と水が接触したときに起こる水のエントロピー減少を抑制するものである。
【0070】
陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。また、陽イオンのカオトロピックイオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。
【0071】
上記カオトロピックイオンの中でも、陰イオンとして、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン等を、陽イオンとして、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、グアニジンイオン等を用いるのが好ましい。さらに、より好ましくは、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、グアニジンイオン等が用いられる。
【0072】
上記溶離液中のカオトロピックイオンの濃度が、0.1mMより低いとヘモグロビン類の測定において、分離効果が低下するおそれがあり、また、3000mMよりも高いと、ヘモグロビン類の分離効果はそれ以上向上しないので、0.1mM〜3000mMが好ましく、1mM〜1000mMがより好ましく、更に、10mM〜500mMが好ましい。
【0073】
また、カオトロピックイオンは複数種混合して用いても良い。
【0074】
上記カオトロピックイオンは、測定試料と接触する液、例えば、溶血試薬、試料希釈液等に添加しても良い。
【0075】
本発明においては、溶離液に用いる緩衝能を有する物質として、無機酸、有機酸またはこれらの塩が含まれる。上記無機酸としては、例えば、炭酸、リン酸等が挙げられる。上記有機酸としては、例えば、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、カコジル酸、ピロリン酸等が挙げられる。
【0076】
上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸等が挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等が挙げられる。上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β、β−ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、アミノ酪酸等が挙げられる。上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸等が挙げられる。上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン等が挙げられる。
【0077】
上記無機酸または有機酸の塩としては、公知のもので良く、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0078】
上記無機酸、有機酸またはこれらの塩は、複数種混合して用いても良く、無機酸と有機酸を混合して用いても良い。
【0079】
上記無機酸、有機酸及び/またはこれらの塩の溶離液中の濃度、複数種用いる場合には複数種の合計の濃度は、溶離液のpHを4.0〜6.8にする緩衝作用があれば良く、1〜1000mMが好ましく、10〜500mMが特に好ましい。
【0080】
本発明においては、上記溶離液のpHは、4.0〜6.8に限定され、好ましくは4.5〜5.8である。溶離液のpHが4未満であると、ヘモグロビン類が変性する可能性があり、pHが6.8を超えると、ヘモグロビン類のプラス荷電が減少し、カチオン交換基に保持されにくくなり、ヘモグロビン類の分離が悪くなる。
【0081】
上記溶離液には、以下の物質を添加しても良い。
【0082】
(1)無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウム等)を添加しても良い。これらの塩類の濃度は、特に限定されないが、好ましくは1〜1500mMである。
【0083】
(2)pH調節剤として、公知の酸、塩基を加えても良い。酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの酸、塩基の濃度は、特に限定されないが、好ましくは、0.001〜500mMである。
【0084】
(3)メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン等の水溶性有機溶媒を混合しても良い。これらの有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0〜80%(v/v)であり、カオトロピックイオン、無機酸、有機酸、これらの塩等が析出しない程度で用いるのが好ましい。
【0085】
(4)アジ化ナトリウム、チモール、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、2フェノキシエタノール、プロピオン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム等の防腐剤を添加しても良い。
【0086】
(5)ヘモグロビンの安定剤として、公知の安定剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、グルタチオン、アジ化ナトリウム等の還元剤・酸化防止剤等を添加しても良い。
【0087】
また、本発明の溶離液では、上記カオトロピックイオンを含有し、かつ酸解離定数(pKa)が、2.15〜6.39の範囲及び6.40〜10.50の範囲にある緩衝剤を含有する溶離液を用いるのが好ましい。
【0088】
上記緩衝剤としては、酸解離定数(pKa)が、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に存在するものが用いられる。すなわち、緩衝剤として、pKaを、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つずつもつ単一の物質を用いても良く、あるいは、2.15〜6.39の範囲に少なくとも一つのpKaをもつ物質と6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つのpKaをもつ物質とを組み合わせて緩衝剤として用いても良い。また、上記緩衝剤を複数組み合わせて用いても良い。
【0089】
上記緩衝剤のpKaの範囲は、測定目的のピークを分離するのに適切な溶離液のpH付近において、より優れた緩衝能を発揮できるように、2.61〜6.39及び6.40〜10.50の範囲が好ましく、より好ましくは、2.80〜6.35及び6.80〜10.00の範囲である。さらに好ましくは、3.50〜6.25及び7.00〜9.50の範囲である。
【0090】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機物のほか、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アニリンまたはアニリン誘導体、アミノ酸、アミン類、イミダゾール類、アルコール類等の有機物が挙げられる。また、エチレンジアミン四酢酸、ピロリン酸、ピリジン、カコジル酸、グリセロールリン酸、2,4,6−コリジン、N−エチルモルホリン、モルホリン、4−アミノピリジン、アンモニア、エフェドリン、ヒドロキシプロリン、ペリジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシルグリシン等の有機物でも良い。
【0091】
上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0092】
上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸、フマル酸等が挙げられる。
【0093】
上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β,β’−ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、5,5−ジエチルバルビツール酸、γ−アミノ酪酸、ピルビン酸、フランカルボン酸、ε−アミノカプロン酸等が挙げられる。
【0094】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0095】
上記アニリンまたはアニリン誘導体としては、例えば、アニリン、ジメチルアニリン等が挙げられる。
【0096】
上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、ヒスチジン、セリン、ロイシン等が挙げられる。
【0097】
上記アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。上記イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、5(4)−ヒドロキシイミダゾール、5(4)−メチルイミダゾール、2,5(4)−ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0098】
上記アルコール類としては、例えば、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
【0099】
また、上記緩衝剤としては、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、N−(2−アセトアミド)イミドジ酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、1,3−ビス(トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ)プロパン(Bistrispropane)、N−(アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルフォリン)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(Tricine)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(Tris)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、グリシルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、グリシン、シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸(CAPS)等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものを組成する物質も使用できる。これらの物質のpKaを表1・2に示す(引用文献:堀尾武一・山下仁平 蛋白質・酵素の基礎実験法 南江堂 1985年)。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
溶離液中の上記緩衝剤濃度は、緩衝作用がある範囲であれば良く、好ましくは1〜1000mM、より好ましくは10〜500mMである。また、上記緩衝剤は、単独でも複数混合して用いても良く、例えば、有機物と無機物を混合して用いても良い。
【0103】
さらに、ベースライン変動をより小さくするために、上記測定目的のピークを分離するにあたって用いる溶離液は、緩衝剤の濃度も同一であるものを用いるのがより好ましい。
【0104】
本発明で用いる複数の溶離液を、勾配溶出法、あるいは段階溶出法によって送液しても良い。
【0105】
本発明におけるヘモグロビン類とは、HbA1a、HbA1b、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c、AHb、CHb、HbA0、HbA2 、HbS、HbC等が挙げられる。
【0106】
HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を分離するための溶離液のpHは、4.0未満であると、ヘモグロビン類が変性する可能性があり、6.8を超えるとヘモグロビンのプラス電荷が減少し、カチオン交換基に保持されにくくなり、分離能が低下するので4.0〜6.8が好ましく、4.5〜5.8がより好ましい。
【0107】
本発明においては、HbA0を溶出するためは、以下の方法がある。
【0108】
(1)HbA0を溶出するための溶離液としては、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いる。上記溶離液は、 カオトロピックイオンを含有することがより好ましい。 このカオトロピックイオンとその濃度等については、前述の通りである。
【0109】
(2)HbA0を溶出するための溶離液としては、塩濃度を200mM〜3000mMと高くして、溶離液のpHは、5.0〜9.0が好ましい。
【0110】
(3)上記(1)と(2)を組み合わせた溶離液:塩濃度を200mM〜3000mMと高く、かつ、溶離液のpHは、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いる。
【0111】
ヘモグロビンはpHが等電点より酸性側からアルカリ側になると、総荷電がプラスからマイナスに変わるため、充填剤の陽イオン交換基との「電気的反発力によってHbA0成分を溶出」させることができる。
【0112】
なお、理化学辞典(第4版、1987年9月、岩波書店、久保亮五ら編集)、1178頁に記載されているように、ヘモグロビンの等電点はpH6.8〜7.0である。そのため、HbA0成分を溶出するために、カラムに流入する際の溶離液のpHを6.8以上にすることがより好ましい。
【0113】
この条件を満たすため、測定に用いる溶離液の内、少なくともひとつの溶離液のpHが6.8以上であることが必要である。本溶離液のpHは望ましくは7.0〜12.0であり、7.5〜11.0がより好ましく、更には8.0〜9.5が好ましい。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となるため、上記塩濃度を高くしてHbA0成分の溶出を十分行うことができる。また、溶離液のpHは、用いる充填剤の分解が起こらない範囲に設定すれば良い。
【0114】
HbA0成分の溶出に好適に用いられる、pHが6.8以上で緩衝能をもつ溶離液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸または、その塩;クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、β、β−ジメチルグルタル酸等のカルボン酸誘導体、マレイン酸等のジカルボン酸、カコジル酸、等の有機酸または、その塩からなる緩衝液が挙げられる。その他、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、Tris、ADA、PIPES、Bistrispropane、ACES、MOPS、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Bicine、グリシルグリシン、TAPS、CAPS等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものも使用できる。また、BrittonとRobinsonの緩衝液;GTA緩衝液も使用できる。また、イミダゾール等のイミダゾール類;エチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;グリシン、β−アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン等のアミノ酸類;等の有機物も使用できる。
【0115】
また、無機酸;有機酸;無機酸または有機酸の塩;有機物は、複数混合して用いても良く、また、有機酸、無機酸及び有機物を混合しても良い。
【0116】
より効果的にHbA0成分を溶出するためには、上記溶離液にカオトロピックイオンを添加するのが好ましい。添加するカオトロピックイオンは前述の通りである。
【0117】
添加するカオトロピックイオン濃度は、1〜3000mMで、好ましくは、10〜1000mM、更には、50〜500mMが好ましい。
【0118】
HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、pH4.0〜6.8の溶離液を1種類または、2種類以上用いることができる。安定型HbA1c等の測定対象ピークをシャープに溶出させるためには、溶離液を2種類以上用い、塩濃度勾配法やpH勾配法またはこの2つの組み合わせにより目的ピークをシャープに溶出することができる。
【0119】
本発明においては、HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類(HbA1a及びb、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c)の溶出には、少なくとも2種類以上の溶離液を用い、かつ、溶出力の最も弱い溶離液を先に流すこともできる。
【0120】
上記ヘモグロビン類の測定方法では、好ましくは、溶離液を勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、目的とするヘモグロビンピークを分離測定する場合、その途中において溶離液の溶出力を低下させることが望ましい場合がある。
【0121】
勾配溶出法は「グラジエント溶出」と呼ばれている。すなわち、複数台の送液ポンプを用い、溶出力が異なる複数の溶離液の送液比率を連続的に変化させて送液する。
【0122】
また、段階溶出法は「ステップワイズ溶出」と称されている。この方法では、1台の送液ポンプを、電磁弁等を介して複数の溶離液に連結する。そして、電磁弁を切り換えることにより、溶出力の低い溶離液から、溶出力の高い溶離液に切り換えて送液する。
【0123】
しかしながら、溶出される各成分の性質が類似していたり、短時間で溶出することが要求されている場合、従来の勾配溶出法や段階溶出法では、類似した性質の成分間でピークが重なり、分離度が低下するおそれがあった。
【0124】
これに対して、本発明では、勾配溶出法または段階溶出法によって溶離液を送液するに際し、その途中、すなわち勾配溶出法または段階溶出法により複数の溶離液を順に切り替えて送液していく途中において、分離対象のピークまたはピーク間の溶離タイミングを考慮して分離対象のピークまたはピーク間の分離状態が良くなるように、溶離液の溶出力を一旦低下させることもできる。具体的には、段階溶出法の場合、溶出力の弱い溶離液から溶出力の強い溶離液に切り替えて送液した後、溶出力の弱い溶離液に切り替え、しばらくしてから溶出力の強い溶離液に切り替えて送液する。
【0125】
カチオン交換LCにおいて、溶離液の溶出力を低下させるには、溶離液の塩濃度を下げる方法やpHを下げる方法、またはこの2つを組み合わせる方法が挙げられる。
【0126】
上記のように勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、その途中において溶離液の溶出力を低下させる方法により、ヘモグロビン類を分離する場合をより具体的に説明する。
【0127】
ヘモグロビン類の分離には、カチオン交換充填剤が充填されたカラムを用い、溶離液を塩濃度20〜1000mM、pH4〜9の範囲で勾配溶出法または段階溶出法によって送液させ、その途中において溶離液の塩濃度を5〜500mM、pHを0.1〜3の範囲で下げることによって溶離液の溶出力を低下させて分離を行う。
【0128】
本発明の方法を段階溶出法によって行う場合の、装置の構成例を図1に示した。溶離液A,B,C,Dは、各々溶出力の異なる(例えば、塩濃度、pH、極性等において異なる)ものであり、電磁弁1によって設定時間に各溶離液に切り替えられるように構成されている。溶離液は、送液ポンプ2により、試料注入部3から導入された試料とともにカラム4に導かれ、各成分が検出器5により検出される。各ピークの面積、高さ等はインテグレータ6により算出される。
【0129】
安定型HbA1cの測定に悪影響を与える可能性のあるHbA2、HbS、HbC等のヘモグロビン成分を含む血液検体を測定する場合、HbA0成分(ピーク)として主にHbAを溶出させ、それより後にHbA2、HbS、HbC等を溶離させる測定方法を設定することがある。これにより、HbA0ピークからHbA以外のヘモグロビン成分を除けるため、より正確な安定型HbA1c(%)を算出できる。
【0130】
HbA2、HbS、HbC等を溶離させる測定方法を設定する場合、前述した少なくとも溶出力の異なる3種の溶離液を用いる方法における「HbA0を溶出するための溶離液」は、HbAを主成分とするHbA0ピークを溶出する溶離液を意味している。このとき、「HbA0を溶出するための溶離液」の後に、HbA2、HbS、HbC等を溶離するために、より溶出力の強い溶離液を送液することが必要となる。
【0131】
本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジは、他の実験装置と比べて系が小型な為、内部環境の制御が容易であり、実験精度の向上が図れる。また、本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ内で各種操作を実施するために、サンプルロスが少ない。このことにより生化学実験においてしばしば問題となる微小量検体の問題をクリアすることが可能であり、特にヘモグロビン類の分離測定に好適に用いることができる。
【0132】
本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジに供する検体としてはヘモグロビン類を含有する血液が挙げられるが特に限定されない。前記ヘモグロビン類とは、ヘモグロビンA1a+b、ヘモグロビンF、ヘモグロビンA1c(安定型A1c)、ヘモグロビンA、ヘモグロビンA2、異常ヘモグロビン(ヘモグロビンS、ヘモグロビンC)、修飾ヘモグロビン(アセチル化ヘモグロビン、カルバミル化ヘモグロビン、不安定型ヘモグロビン)が挙げられる。
【0133】
(液体クロマトグラフ装置)
本発明に係る液体クロマトグラフ装置は、上述した液体クロマトグラフ用測定カートリッジが取り外し可能に装着される検出装置である。このような検出装置は、前述したように、様々な検出方法に従って、分光光度計、蛍光測定装置、屈折率検出装置、電気伝導度検出装置などを用いることができる。いずれにしても、本発明に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジは検出装置に対して取り外し可能に装着され得るように構成されているので、例えば医院などの小規模な検査場所においても、試料の採取以後、試料の液体クロマトグラフによる分析結果を得るまでの工程を、簡便にかつ迅速に行うことができる。すなわち、上記液体クロマトグラフ用測定カートリッジ内では、注入部から検出部に至るまでの部分がカートリッジ内で完結されているので、複雑な構造を必要としない。また、接続作業やメンテナンスも必要とせず、検出装置にセットするだけで、容易に測定結果を得ることが可能となる。
【0134】
次に、図面を参照しつつ具体的な実施形態を説明する。
【0135】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジの概略構成を示す模式的平面図及び模式的正面断面図である。
【0136】
本実施形態の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1は、カートリッジ本体2を有する。カートリッジ本体2は、前述したように、様々な材料で構成され、かつその形状についても特に限定されないが、本実施形態では、平板状、すなわちカード状の形状とされている。
【0137】
カートリッジ本体2内に、試料注入部としての試料注入口2aが設けられている。試料注入口2aは蓋3で覆われている。蓋3は、試料注入口2aの開口部を閉成するように取り付けられている。もっとも、試料の注入に際しては、蓋3は試料注入口2aの開口部が露出するように取り外される。すなわち、蓋3は、カートリッジ本体2に対して着脱自在に取り付けられている。蓋3を構成する材料は特に限定されず、合成樹脂等を用いることができる。
【0138】
また、カートリッジ本体2内には、注入部としての試料注入口2aと、分離部4と、移動相貯留部5と、検出部6と、廃液貯留部7とが内蔵されている。また、移動相貯留部5及び廃液貯留部7は、カートリッジ内の流路につながる部分を除いた密閉空間として形成されており、それぞれ、移動相及び廃液が貯留されるように構成されている。
【0139】
また、上記移動相貯留部5、分離部4、検出部6及び廃液貯留部7は流路8により連結されている。本実施形態では、上記分離部4には、分離媒体としての、多孔体モノリスカラムが用いられている。この多孔体モノリスカラムは、キャピラリーチューブに入れられており、かつ該キャピラリーチューブがカートリッジ本体2に埋設されている。なお、検出部6は、光学セルにより構成されている。移動相貯留部5の上方には、移動相を注入するための注入口5aが設けられており、該注入口5aは、移動相を注入した後、栓5bにより閉じられている。
【0140】
移動相はカートリッジ本体2内に予め注入口5aから注入され、貯留されている。測定に際しては、移動相を送液する手段を用いて移動相が流路8に送液され、ひいては試料が注入された移動相が分離部4に送液される。この場合、試料は試料注入口2aから注入され、移動相に混合される。分離部4において、試料がクロマトグラフィーにより分離される。そして、分離された各成分が、流路8を流れ、検出部6において順次測定されることになる。測定後の廃液が廃液貯留部7において貯留される。
【0141】
上記移動相を送液する手段としては、後述するように様々な形態の構造が用いられ得るが、本実施形態では、廃液貯留部7が予め減圧されており、該移動相が流路8を流れ廃液貯留部7に導かれるように構成されている。この場合、流路8において、検出部6と廃液貯留部7との間にバルブ10が設けられている。バルブ10は、図1(c)に略図的部分拡大平面図で示すように、バルブ内流路10aを有する。バルブ10は回転可能に構成されており、図1(c)に示す状態では、バルブ内流路10aが、流路8と直交する方向に延ばされており、流路8と遮断されている。図1(c)の矢印方向にバルブ10を回転させ、バルブ内流路10aを、流路8に接続する位置に配置した場合、廃液貯留部7の減圧により、移動相が流路8を流れることになる。このようにして、本実施形態では、移動相を送液する手段、ひいては分離部4に設けられたカラムに試料を注入する機構が、上記廃液貯留部7を減圧した構成と、バルブ10と、流路8とにより構成されている。
【0142】
ところで、測定は、検出部6の光学セル内の液体の吸光度を分光光度計により検出することにより行われる。
【0143】
すなわち、図2(a)に示すように、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1は、検出装置としての分光光度計11に対して着脱自在に装着されるように構成されている。そして、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1を分光光度計11に取り付けた状態において、上記検出部6を構成している光学セルが分光光度計11で光学セル内の液体の吸光度を測定し得るように検出部6が構成されている。
【0144】
そして、上記液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1では、該試料注入からクロマトグラフによる成分の分離、検出部6への送液及び廃液貯留部7への検出後の廃液の送液までが液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1内で行われる。従って、比較的小型であって、例えば手のひらに持ち得る程度の大きさのカード状の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ1を用意し、上記のようにして、試料を注入し、分光光度計11に装着し、測定することができる。よって、例えば医院のような小規模な現場においても、例えば血液や血清中の微量成分を液体クロマトグラフ法により容易にかつ高精度に検出することが可能となる。
【0145】
また、上記廃液貯留部7を減圧し、バルブ10を設けた構成に代えて、図2(b)に示すように、バルブ12、減圧室13、バルブ14を介して減圧ポンプ15をカートリッジ1内の廃液貯留部に接続してもよい。この場合、減圧ポンプ15を駆動することにより廃液貯留部内を減圧することにより、移動相を、移動相貯留部5から分離部4及び検出部6を経て廃液貯留部7に導くことができる。すなわち、バルブ12、減圧室13及び減圧ポンプ14と、上記流路8とにより、移動相を送液する手段及び試料を分離部4の分離媒体に供給する機構が構成されている。
【0146】
図3(a)及び(b)は、本発明の第2の実施形態に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジの概略構成を示す模式的平面図及び模式的部分正面断面図である。
【0147】
図3に示すように、移動相貯留部として、第1,第2の移動相貯留部5A,5Bを設けてもよく、移動相貯留部5A,5Bを、バルブ9により連結し、第1の移動相貯留部5A及び第2の移動相貯留部5Bからそれぞれ第1,第2の移動相を送液し得るように構成してもよい。
【0148】
なお、試料注入部は、適宜の構造とされ得るが、図4(a)に示すように、流路8の上部に試料注入部の開口2aを閉成するように、シリコンゴムなどからなる気密シール性シート21を貼り付けてもよい。この場合には、図4(b)に示すように、気密シール性シート21に注射針22を貫通させて、試料Aを流路8に注入することができる。
【0149】
また、図5(a)及び(b)に示す構造を用いてもよい。ここでは、カートリッジ本体2内において、流路8は、上方高さ位置にある流路部分8aと、下方高さ位置にある流路部分8bとを有し、流路部分8aと流路部分8bとが垂直方向に延びる連結流路部分8cにより接続されている。
【0150】
他方、カートリッジ本体2の上面に開いた試料注入口2aを閉成するように気密シール性シート21が貼り付けられている。そして、シリンダー23が気密シール性シート21を破り、試料注入口2a内に挿入されるように構成されている。シリンダー23は、有底の筒状体からなり、側面に、開口23a,23bを有する。開口23bは、シリンダー23の相対的に下方の部分において側壁に形成されており、開口23aは、開口23bよりも上方に位置しており、かつ開口23bと対向するように設けられている。開口23a,23b間の上下方向距離は、流路部分8aと流路部分8bとの上下方向距離と等しくされている。
【0151】
使用に際しては、図5(a)に示すように、シリンダー23を試料注入口2aに挿入する。この場合、開口23bが、カートリッジ本体2の側壁により閉成されることになる。この状態で、試料Aが、シリンダー23内に注入され、下方に位置されることになる。
【0152】
次に、図5(b)に示すように、シリンダー23を下方に移動させる。その結果、開口23aが流路部分8aに臨み、開口23bが流路部分8bに臨み、開口23a,23bが流路8に連通されることになる。そのため、流路8を流れてきた移動相が開口23aからシリンダー23内に入り込み、試料Aとともに、開口23bから流路部分8bに流れ出ることになる。そして、注入後に、シリンダー23を上方に引き上げ、気密シール性シート21により、試料注入口2aを再度閉成する。このようにして、シリンダー23の挿入深度に応じた量の一定量の試料が流路8に供給されるように構成されてもよい。
【0153】
同様に、図6(a)及び(b)に示すように、試料注入用部材として、下端が閉じられており、側壁に、試料を注入するための貫通孔24aが設けられている試料注入棒24を用いてもよい。試料注入棒24は、中空ではなく、中実構造を有し、下端近傍に、一方の側壁から他方の側壁に向かって延びる貫通孔24aを有する。この貫通孔24aは比較的細いため、液体の表面張力により、貫通孔24a内に試料Aを保持することができる。
【0154】
試料Aは、その使用に際しては、図6(b)に示すように、試料注入棒24の上記貫通孔24aが位置されている部分を流路8内に挿入する。この場合、貫通孔24aの延びる向きを、流路8の移動相が流れる方向と平行な方向、あるいは移動相が流れる方向に斜め方向に交差する方向とすればよい。それによって、移動相により、貫通孔24a内の試料Aが押し出され、流路8に供給される。
【0155】
また、図7(a)及び(b)に示すように、流路8に対し分離された状態と、流路8に接続された状態との間で切り換えられ得るロータリーバルブ25を用いてもよい。ロータリーバルブ25は、試料保持流路25aを有し、試料保持流路25aの一端にポート26が、他端にポート27が設けられている。このポート26,27は、ロータリーバルブ25を回転することにより、流路8に接続され、それによって、流路8内に、試料保持流路25aに保持されている試料が注入される。しかる後、ロータリーバルブ25を回転させると、図7(c)に示すように、ロータリーバルブ25の試料保持流路25a内の試料がなくなっていることとなる。従って、再度、試料保持流路25aにポート25またはポート26から試料を供給しておけばよい。
【0156】
また、図8〜図11は、移動相を送液する構成の変形例を説明するための各概略構成図ある。
【0157】
図8に示すように、移動相貯留部5にバルブ28を介して圧縮ガスを供給するボンベ29を接続し、圧縮ガスを移動相貯留部5に供給し、その圧力により移動相を流路8に送液してもよい。
【0158】
あるいは図9に示すように、廃液貯留部7にバルブ30を介して減圧ポンプ31を接続し、廃液貯留部7内を減圧することにより、移動相貯留部5から分離部4及び検出部6を経て廃液貯留部7に移動相を導いてもよい。
【0159】
さらに、図10に示す移動相貯留部5内を予め加圧しておき、バルブ32を介して下流部分を接続しておいてもよい。この場合には、該加圧力により移動相が分離部4及び検出部6側に送液される。あるいは、前述した図1(c)に示した実施形態を略図的に示す図11から明らかなように、予め減圧された廃液貯留部7をバルブ10を介して検出部に接続しておいてもよい。
【0160】
このように、上流側の移動相貯留部5内を加圧する手段及び/または下流側の廃液貯留部7内を減圧する手段を採用することにより、移動相を流路8において送液することができる。
【0161】
前述したように、流路の一部に、エアーギャップとなる気泡を捕捉もしくは除去する気泡捕捉・除去手段を設けてもよい。図12(a)は、流路8の一部を上方に膨出させることにより、気泡捕捉部32が設けられている。ここでは、気泡捕捉部32が設けられているので、気泡33がその内部にトラップされる。従って、検出部側への気泡の移動を防止することができる。
【0162】
また、図13に示すように、流路8の一部に、上方に膨出した気泡除去部33を設けてもよい。ここでは、気泡除去部35の上端近傍に開口34aが設けられており、開口34aに栓35が取り付けられている。気泡が開口34a側に移動してきた場合、栓35を取り外すことにより気泡を流路8内から除去することができる。
【0163】
図14は、本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の変形例を説明するための模式的平面図である。ここでは、キャピラリーチューブ41がカートリッジ本体内に埋設されており、該キャピラリーチューブ41は、平面視した場合図示のように円弧状の形状を有し、円の4分の3の長さを有する形状とされている。キャピラリーチューブ41の一端に流路8が連ねられており、試料注入口2aが連結されている。この流路8の上流部には、平面視した際に半円状の形状を有する。移動相貯留部5が連結されている。本変形例では、分離部を構成しているキャピラリーチューブ41の他端に、検出部6を構成している光学セルが接続されており、光学セルの下流に廃液貯留部7が接続されている。そして、廃液貯留部7は、平面視した場合、半円状の形状を有し、移動相貯留部5とともに組み合わされて、上記キャピラリーチューブ41で囲まれる領域に配置されている。従って、キャピラリーチューブ41における必要な流路部分の長さを十分長くしつつ、その内側に、移動相貯留部5及び廃液貯留部7を配置することにより、カートリッジ全体の小型化を進めることが可能とされている。
【0164】
以下、実施例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0165】
<実施例1>
カートリッジの作製
図1に示したカートリッジ1を作製した。樹脂として、ポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学工業社製、グレード:LG)を用い、射出成形により部品を作製した。分離部の溝は幅500μm深さ200μmになるようにした。
【0166】
ジエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学社製、商品名:NKエステル2G)80重量部、メタクリル酸20重量部、1−プロパノール25重量部、1−ブタノール20重量部、光開始剤(チバスペシャリティケミカル社製、商品名:イルガキュア651)1重量部を添加し、溶液を作製した。
【0167】
上記溶液をディスペンサーにて溝に充填し、超高圧水銀灯で紫外線を60秒照射し、溶液を固化させ、多孔質モノリスによる分離媒体を作製した。
【0168】
接合部に接着剤を薄く塗布し蓋を接合した。溶離液注入口、減圧口にシリコンゴム栓を、装着した。図1に示すような試料注入口を設けた。
【0169】
溶離液を溶離液注入口から注入し、検体注入口に蓋を装着し、クロマトグラフ用測定カートリッジを作製した。
【0170】
測定装置
カートリッジを固定する機構を有した架台を用意し、カートリッジの検出部に分光光度計(Ocean Optics社USB2000)の光軸が位置するように設定した。廃液貯留部の減圧のための減圧ポンプを用意し、減圧室とバルブを図2(b)のように配置し、カートリッジの減圧口から廃液貯留部を減圧できるようにした。廃液貯留部内の圧力が30kPaになるように設定した。測定開始をバルブの開閉により行った。
【0171】
測定例1
実施例1の装置を用い、溶離液として25mMリン酸緩衝液を使用して蛋白質標品(ミオグロビン、キモトリプシノーゲン、チトクロムC及びリソゾームを含有)を水に溶解したものを分析した。検出は280nmの吸光度測定にて行った。クロマトグラムを図15に示す。図15における番号A1〜A4は、それぞれ、A1:ミオグロビン、A2:キモトリプシノーゲン、A3:チロクロムC、及びA4:リソゾームのピークであることを示す。
【0172】
<実施例2>
分離媒体としての多孔質モノリスを作製する溶液として以下のようにした以外は実施例1と同様にしてカートリッジを作製した。
【0173】
ジエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学社製、商品名:NKエステル2G)80重量部、アクリル酸ベンジル(三菱レイヨン社製、商品名:アクリエステルBZ)20重量部、1-プロパノール10重量部、1-ブタノール35重量部、及び光開始剤(イルガキュア651)1重量部を添加し、溶液を作製した。
【0174】
測定例2
医薬品標品(アスピリン、サリチル酸、コデイン、サリチルアミド及びカフェインを含有)を水に溶解したものを分析した。検出は254nmの吸光度測定にて行った。溶出は、20%メタノール水溶液にて溶出した。クロマトグラムを図16に示す。図16における番号B1〜B5は、それぞれ、B1:アスピリン、B2:サリチル酸、B3:コデイン、B4:サリチルアミド、及びB5:カフェインのピークであることを示す。
【0175】
<実施例3>
図3に示したカートリッジを実施例1と同様にして作製した。
【0176】
2個の溶離液貯留部5A,5Bが設けられており、バルブ19で切り替えが可能な構造とされている。
【0177】
測定例3
健常人血をフッ化ナトリウム採血した全血検体から以下の試料を調製した。なお、溶血試薬として、0.1重量%ポリエチレングリコールモノ−4−オクチルフェニルエーテル(東京化成社製、商品名:トリトンX−100)を含有させたリン酸緩衝液溶液(pH7.0)を用いた。溶離液1として50mMの過塩素酸を含有する50mMリン酸緩衝液(pH5.3)を、溶離液2として200mMの過塩素酸を含有する50mMリン酸緩衝液(pH8.0)を使用した。
【0178】
測定0〜2.5分は溶離液1を2.5分でバルブを切り替え溶離液2が流れるようにした。クロマトグラムを図17に示す。図17における番号C1〜C5は、それぞれ、C1:ヘモグロビンA1a及びb、C2:ヘモグロビンF、C3:不安定型ヘモグロビンA1c、C4:安定型ヘモグロビンA1c、及びC5:安定型ヘモグロビンA0のピークであることを示す。
【0179】
<実施例4>
図の16のようなカートリッジを作製した。カラム作製以外の部分は実施例1のように行った。
【0180】
カラム作製
ジエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学NKエステル2G)80重量部、アクリルアミドt−ブチルスルホン酸(東亞合成化学工業ATBS)20重量部、1-プロパノール25重量部、1-ブタノール20重量部、開始剤AIBN 1重量部を添加し、溶液を作製した。
【0181】
上記溶液を内径0.25mmのフューズドシリカキャピラリーに充填し、両末端に栓をして、60℃5時間加熱した。
【0182】
これを使用して測定例3のように測定を行った。同様な結果が得られた。
【0183】
<比較例>
図18示したシステムを作製した。すなわち、実施例1と同様のモノリス多孔体分離部51と吸光度検出部52のみを搭載したチップ53を作製した。
【0184】
測定架台54にチップ51を固定して、チップ背面に形成した孔53aから液を注入し、接続部はOリングで接続した。送液にはプランジャーポンプ55を用い、試料注入には市販のインジェクターを架台54に配管接続した。
【0185】
繰り返し測定すると再現性がよくなかった。原因を調べると、接続部からのリークが原因であった。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジの模式的平面図及び模式的正面断面図、(c)は廃液貯留部上流に設けられるバルブを説明するための模式的部分切欠拡大平面図。
【図2】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施形態に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジと検出装置とを組み合わせてなる液体クロマトグラフ装置を示す模式的構成図及び減圧ポンプを液体クロマトグラフ用測定カートリッジに接続して移動相を送液する変形例を説明するための概略構成図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る液体クロマトグラフ用測定カートリッジの概略構成図。
【図4】(a)及び(b)は、流路に試料を注入するための注入部の一例を説明するための各模式的正面断面図。
【図5】(a)及び(b)は、流路に試料を注入するための注入部の他の例を説明するための各模式的正面断面図。
【図6】(a)及び(b)は、流路に試料を注入するための注入部のさらに他の例を説明するための各模式的正面断面図。
【図7】(a)は注入部のさらに他の変形例を説明するための模式的平面図であり、(b)はその模式的平面断面図であり、(c)は試料を注入した後の状態を示す模式的平面図。
【図8】本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の変形例を説明するための概略構成図。
【図9】本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジの他の変形例を説明するための概略構成図。
【図10】本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の変形例を説明するための概略構成図。
【図11】本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の変形例を説明するための概略構成図。
【図12】気泡捕捉・除去手段の一例を説明するための略図的正面断面図。
【図13】気泡捕捉・除去手段の他の例を説明するための略図的正面断面図。
【図14】本発明の液体クロマトグラフ用測定カートリッジのさらに他の変形例を説明するための模式的平面図。
【図15】実施例1で測定されたクロマトグラムを示す図。
【図16】実施例2で測定されたクロマトグラムを示す図。
【図17】実施例3で測定されたクロマトグラムを示す図。
【図18】比較例として用意された液体クロマトグラフ用測定チップを用いた測定方法の概略構成図。
【符号の説明】
【0187】
1…液体クロマトグラフ用測定カートリッジ
2…カートリッジ本体
2a…試料注入口
3…蓋
4…分離部
5…移動相貯留部
5a…移動相注入口
5A…移動相貯留部
5B…移動相貯留部
6…検出部
7…廃液貯留部
8…流路
9…バルブ
10…バルブ
10a…バルブ内流路
11…分光光度計
12…バルブ
13…減圧室
14…バルブ
15…減圧ポンプ
21…気密シール性シート
22…注射針
23…シリンダー
23a,23b…開口
24…注入棒
24a…貫通孔
25…ロータリーバルブ
25a…試料保持流路
26,27…ポート
28…バルブ
29…ボンベ
30…バルブ
31…減圧ポンプ
32…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出装置に対して取り外し可能に装着される液体クロマトグラフ用測定カートリッジであって、
内部に、分離媒体を有する分離部と、試料を注入するための試料注入部と、移動相を貯留している移動相貯留部と、分離媒体により分離された成分を検出するための検出部と、前記分離部、前記試料注入部、前記移動相貯留部及び前記検出部を連結する流路とを有し、前記試料の注入から検出部に至るまでの流路がカートリッジ内で完結されていることを特徴とする、液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項2】
前記流路に接続されており、かつ検出後の廃液を貯留するための廃液貯留部をさらに備える、請求項1に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項3】
前記移動相貯留部を加圧するための加圧手段及び/または前記廃液貯留部を減圧するための減圧手段をさらに備える、請求項2に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項4】
前記分離部よりも上流において、前記流路内の気泡を捕捉もしくは除去するための気泡捕捉・除去部をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項5】
前記検出部が、光学セルであり、前記検出装置が該光学セル中の液体における試料濃度を検出する光学的分析装置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項6】
カード形の形状を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項7】
前記分離部において液体が流れる流路の断面積が1μm〜1mmの範囲にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項8】
前記分離媒体が多孔体モノリスである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項9】
前記分離部が前記分離媒体を内部に有するキャピラリーチューブであり、該キャピラリーチューブが埋設されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項10】
前記試料を前処理するための前処理部をさらに備え、該前処理部で前処理された試料が前記試料注入部に供給されるように構成されている、請求項1〜9のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の液体クロマトグラフ用測定カートリッジと、該液体クロマトグラフ用測定カートリッジが取り外し可能に装着される検出装置とを備えることを特徴とする、液体クロマトグラフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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