説明

液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置

【目的】制御用コンピュータを専有することなく、低い質量数から高い質量数まで各制御項目のパラメータを高速で制御し、安定したスペトルを検出する手段を提供する。
【構成】LC1より分離された試料は霧化部2で霧化され、脱溶媒部3を通り、針電極4にて印加された高電圧でイオン化される。該イオン化されたイオンは、第1細孔5と第2細孔6間に印加されたドリフト電圧9により解離、フォーカスレンズ11により収束され、質量分析部13にて質量分散される。質量分散されたイオンは、偏向電極14により偏向され検知器16で検知される。上記各電圧は、制御CPUからの記憶部へのアドレスおよびタイミング設定を、質量分散信号を制御するシフトレジスタの出力値と切換制御CPUとは独立して、質量分散信号に同期して、各パラメータを制御する制御部17から成る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液体クロマグラフ質量分析装置における検出スペクトルの高感度,高分解能測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の液体クロマトグラフ質量分析装置のドリフト電圧,フォーカス電圧,偏向電極電圧の制御を行う場合、図2のように制御コンピュータよりドリフト電圧値,フォーカス電圧値,偏向電極電圧値をシーケンシャルに出力することによりそれぞれの値をD/A変換器で制御信号に変換し、ドリフト電源,フォーカス電源,偏向電極電源を制御していた。しかし、質量分散信号に対し、制御項目が増えれば増えるほど時間的ずれが発生し、ピーク感度,分解能が低下する原因となっていた。また、調整時間の効率を低下する原因となっていた。なお、この種の装置として関連するものには、たとえば特願昭62−1950号が挙げられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術は、制御用コンピュータとは独立にすなわち、制御コンピュータを専有することなく、低い質量数から高い質量数まで各制御項目のパラメータを高速で制御し、安定したスペクトルを検出する点について配慮されておらず、質量数変化に影響されずに安定したスペクトル検出が得られないという問題があった。
【0004】本発明は、制御用コンピュータを専有することなく、低い質量数から高い質量数まで各制御項目のパラメータを高速で制御し、安定したスペトルを検出する手段を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、各制御項目ごとにパラメータを制御するD/A変換器へのデジタル値の入力部に記憶部を設け、該記憶部はCPUより、あらかじめ、低質量数から高質量数まで安定に高感度で高分解能で、スペクトルが得られるように調整された関数を記憶されている。
【0006】該記憶部のアドレスがシフトレジスタの出力により選択され、該シフトレジスタのシフト信号に同期して記憶部に対するチップセレクト信号が出力し、該記憶部よりリードされたデータは、それぞれの後段に位置したD/A変換器の入力デジタル値として出力される。該レジスタ出力は、制御項目のパラメータごとに保持した記憶部のアドレスバッファの切換え信号により同時に直結可能とし、該シフト信号に同期して出されるチップセレクト信号も同時に出力することにより、各パラメータごとに位置したD/A変換器は記憶部内に書き込まれた関数に従って、CPUとは独立に制御可能とし、質量分散に影響することなく、高感度,高分解能のスペクトルを得られるようにしたものである。
【0007】
【作用】あらかじめ、自動調整または手動調整により得られた各制御項目ごとの関数を、制御コンピュータ(以下制御CPUと称す)はD/A変換器の前段に位置する記憶部に記憶する。
【0008】CPUは質量分散信号を発生するシフトレジスタに対し、掃引時間および掃引範囲を設定した後、CPU−メモリ間の制御をシフトレジスターメモリ間制御に切換える。ベースクロック信号から発せられた、カウンタクロックによりシフトレジスタの出力は掃引範囲をカウントアップまたはカウントダウンする。該出力値はメモリアドレスに送出され、同時にカウントアップあるいはカウンドダウン信号に同期して記憶部の読み出し信号チップセレクトを出力する。該読み出された記憶部内の内容はラッチされ後段に位置するD/A変換器の入力値となる。
【0009】該記憶部内に書き込まれた関数はD/A変換器より、デジタルアナログ変換されて各制御項目を制御することになる。それによって、液体クロマトグラフ質量分析装置は低質量から高質量まで、質量分散に影響されることなく、安定した高感度、高分解能なスペクトルを得ることができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の一実施例を図1により設定する液体試料の分離を行う液体クロマトグラフと該LC1より、溶媒とともに流出する試料を霧化する霧化部2と該霧化された溶媒および試料から溶媒を熱によって気化させる脱溶媒部3に数kVの高電圧を印加した電極の先端部にてコロナ放電を発生させ、イオン化する針電極4と、該イオンを大気圧から高真空へ導入する第1細孔5および第2細孔6からなる中間圧力部7と、該イオンを真空中で加速する加速電圧が印加された第2細孔と、該第1細孔と第2細孔間に数百ボルトのドリフト電圧を印加するドリフト電源9と、該加速電源8により加速されたイオンを収束させるフォーカスレンズ11と、該フォーカスレンズに電圧を印加するフォーカス電源12と、該収束されたイオンを質量分散させる質量分析部13と、該質量分散されたイオンを偏向し、検出し易くするための偏向電極14および偏向電極電源15、該偏向されたイオンを検出する検知部16と、該検知部より得られたスペクトル形状からピーク感度および分解能を調整制御する制御部17から構成されている。
【0011】さらに該制御部は、質量分散信号出力部18と、ドリフト電圧制御信号出力部19と、フォーカス電圧制御信号出力部20と、偏向電極電圧制御信号出力部21と、制御CPU22から各出力部に持つ記憶部23,24,25へアドレスを設定するか、該質量分散信号をハード的にCPUとは独立して出力するシフトレジスタ26からアドレスを設定するかのアドレス切換部27と、それにともなって記憶部、あるいはD/A変換器8〜30をタイミングをコントロールするタイミングコントロール31と該タイミングのトリガー信号をCPUから出力するか、シフトレジスタから出力するかを切換えるトリガ信号切換部31から構成されている。
【0012】次に本発明の実施例の動作を図2によって説明する。LC1によって分離された試料は霧化部2で霧化され、脱溶媒部3にて溶媒を除去し、乾燥状態の試料が、第1細孔5へ向かって飛ぶ。ここで該第1細孔と高電圧を印加した針電極4との間でコロナ放電が発生し試料がイオン化される。イオン化されたイオンは、第1細孔5を通り、中間圧力部7を通り第2細孔6へ向かう。ここで第1細孔5と第2細孔6間にはドリフト電圧が印加されており、このドリフト電圧を変化させることにより空間の電界が変化し、イオン分子同志で衝突解離が起こる。第2細孔を通りぬけたイオンは、第2細孔に印加された加速電圧により加速されたフォーカスレンズ11により収束され、質量分析部13によって質量ごとに分散される。該分散されたイオンはさらに偏向電極14で偏向され、検出器16で補足される。該補足されたイオン量を縦軸に、質量対電荷比を横軸にしてプロットしたスペクトルを取得し、その比率が最も良い状態になるように各電極電圧を制御するのが制御部17である。該制御部は制御CPU22から質量分析部に印加する高電圧を制御する質量分散信号制御値を、D/A変換器33に設定することにより質量分散が制御される。また同様にドリフト電源制御値、フォーカス電源制御値、偏向電極電源制御値を各々のD/A変換器28〜30に設定することにより制御される。ここで各々の制御信号は高感度、高分解能を得るためには、それぞれ独立して質量数に依存したある関数に基づいて制御する必要がある。そこで低質量から高質量までの特定な複数のスペクトルピークを選択し、そのピークの最高感度および分解能となるように調整し、その点をテーブルとして記憶する。調整終了後、それぞれのパラメータごとに調整点間を補間計算し、関数を作成し、この関数をそれぞれの記憶部23〜25に記憶する。次にタイミングコントロール部31および、アドレス切換部27をシフトレジスタの出力信号により制御可能となるように切換え、シフトレジスタのカウント信号と同期してタイミング信号が発生される回路構成とする。したがって、該シフトレジスタ出力は質量分散制御信号の制御値であるので、該出力をカウントアップあるいはダウンすることにより記憶部のアドレスが設定され、それぞれの関数に基づいて、質量分散制御信号と同期してドリフト電圧,フォーカス電圧,偏向電圧が制御される。
【0013】本実施例によれば、自動調整または手動調整時に得られた制御項目ごとの関数をD/A変換器の前後に位置する記憶部に書き込むこと、および該記憶部のアドレスを質量分散信号に匹敵するシフトレジスタの出力から設定可能とする切換え手段を持つこと、および該シフトレジスタのカウントアップまたはカウントダウン信号に同期して、該記憶部内の関数を随時、読み出し、D/Aの入力値とすることができるので、CPUとは独立して低質量から高質量まで安定して高感度,高分解能なスペクトルを得ることが出来る。
【0014】
【発明の効果】本発明によれば、自動調整または手動調整時に得られた制御項目ごとの関数をD/A変換器の前段に位置する記憶部に書き込むこと、および該記憶部のアドレスを質量分散信号に匹敵するシフトレジスタの出力から設定可能とする切換手段を持つこと、および該シフトレジスタのカウントアップまたはカウントダウン信号に同期して該記憶部内の関数を読み出し、D/A変換器の入力値とすることができるので、CPUとは独立して低質量から高質量まで安定して高感度,高分解能なスペクトルを得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の全体構成図である。
【図2】本発明の制御部の詳細構成図である。
【符号の説明】
1…液体クロマトグラフ、2…霧化部、3…脱溶媒部、4…針電極、5…第1細孔、6…第2細孔、7…中間圧力部、8…加速電源、9…ドリフト電源、10…針電極電源、11…フォーカスレンズ、12…フォーカス電源、13…質量分析部、14…偏向電極、15…偏向電極電源、16…検知器、17…制御部、18…質量分散信号出力部、19…ドリフト電圧制御信号出力部、20…フォーカス電圧制御信号出力部、21…偏向電極電圧制御信号出力部、22…制御CPU、23,24,25…記憶部、26…シフトレジスタ、27…アドレス切換部、31…タイミングコントロール部、28,29,30,33…D/A変換器、32…トリガ信号切換部、34…デコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】大気圧あるいはそれに近い圧力で動作するイオン化部を備え、二段階の差動排気を用いて上記イオン化部で生成したイオンを中間圧力領域を経て、分析部に導入しうる液体クロマトグラフ質量分析装置において、液体試料の分離を行う液体クロマトグラフ(以下、LCと称す。)と該LCより溶媒とともに流出する試料を霧化する霧化部と、該霧化された溶媒および試料から溶媒を熱によって気化させる脱溶媒部と、該脱溶媒部において溶媒の一部と気化された試料に高電圧を印加した針電極の先端部にてコロナ放電を発生させ大気圧でイオン化する針電極と、該イオンを大気圧から高真空へ導入する第1細孔、および第2細孔から成る中間圧力部と該イオンを真空中で加速する加速電圧が印加された第2細孔と第1細孔間には、数百ボルトのドリフト電圧を印加するドリフト電源、およびドリフト電源と該加速されたイオンを収束させるフォーカスレンズと、該収束されたイオンを質量分散させる質量分析部と、該質量分散されたイオンを偏向し検出し易くするための偏向電極と、該偏向されたイオンを検出する検知部と該検知部より得られたスペクトル形状から、ピーク感度および分解能を調整、制御する制御部から成る液体クロマトグラフ質量分析装置において、質量分散を行う制御信号に同期して該ドリフト電圧、およびフォーカスレンズ電圧、および偏向電極電圧の機差や質量分散能力差を考慮したそれぞれ独立した関数を記憶する記憶部と該記憶部は、質量分散制御信号のデジタル値がCPUとは独立してアドレス設定となる切換部と該デジタル値のカウントアップまたはカウントダウン信号に同期して、記憶部の領域選択を行い該読み出されたデータを記憶部後段に位置するD/A変換器に送出し、各々の電源を制御することにより機差および質量分散能力差に影響することなく、高感度高分解能を得られる手段を設けたことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置。
【請求項2】請求項1記載の液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置において、上記霧化部に高電界を印加し静電噴霧により霧化する手段を有し、上記脱溶媒部を除去したことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置。
【請求項3】請求項1記載の液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置において、上記霧化部を持ち上記脱溶媒部のみを除去したことを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置の高感度,高分解能測定装置。

【図1】
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【図2】
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