説明

液体クロマトグラフ質量分析装置

【課題】従来のガス圧方式と同等の機能を有しながら更に少ない部品点数で構成可能な標準試料導入部を備えたLC/MSを提供する。
【解決手段】ガス圧方式の標準試料導入部において、加圧ガス流路を、ネブライザガス/ドライイングガスの供給流路からその流量制御弁21の下流側で分岐し、2方電磁弁6を介して標準試料容器5の加圧管51に通じるように構成する。標準試料53を送液するときは、流量制御弁21を送液のための所定値に設定して2方電磁弁6を開き、加圧ガスを標準試料容器5に導入してすぐに2方電磁弁6を閉じ、以後は蓄圧により標準試料53を送液しつつ併行してネブライザガス/ドライイングガスを所定圧でイオン化部に供給する。送液を停止するには、流量制御弁21を閉じ2方電磁弁6を開くことにより残圧を抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧イオン化インターフェイスを備えた液体クロマトグラフ質量分析装置に関し、特に、チューニングのために標準試料を導入する標準試料導入部の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析装置(以下、LC/MSと略記する)では、質量分析部のチューニングのために所定流量の標準試料を導入する必要がある。チューニングとは、質量分析部の分解能調整、感度調整、質量数校正、イオン化プローブの最適温度設定などを行うことである。
【0003】
従来、標準試料を導入する方式として、シリンジポンプ方式とガス圧方式とがある。
シリンジポンプ方式は、例えば特許文献1において提案されているように、シリンジポンプと3方、4方または6方バルブを組み合わせて、シリンジポンプで所定流量の標準試料を加圧して送液するものである。
一方、ガス圧方式は、標準試料容器に収めた標準試料の液面より上の容器内空間に連通する加圧管を通して加圧ガスを導入することにより容器内の液面下に連通する送液管から標準試料を送り出すものである。
【0004】
図3にガス圧方式による従来の標準試料導入部の構成例を示す。
大気圧イオン化インターフェイスを備えたLC/MSでは、イオン化プローブにおいて試料を噴霧するためのネブライザガス、或いは、噴霧された液滴中の溶剤の揮発を促進させるためのドライイングガスとして窒素ガスを供給する必要がある。
同図において、1はネブライザガス/ドライイングガスの供給源となるボンベ等のガス源、2はこれらのガスの流量を制御するガスコントロール部であって、流量制御弁21、圧力ゲージ22、流路抵抗23等で構成される。3は調圧弁であって、ネブライザガス/ドライイングガスとガス源1を共有する加圧ガスの圧力を所定圧に調整するものである。4は、3つのポートa、b、cを有する3方電磁弁であって、非励磁状態ではポートb−c間が連通し、励磁されるとポートa−c間が連通するように動作する。なお、ポートbは大気に通じている。5は、標準試料53を収容する標準試料容器であって、その内部は液面上空間Aに連通する加圧管51と液面下に連通する送液管52とを介してのみ外部と連通している。7は、過剰な圧力から標準試料容器5を保護する安全弁である。
【0005】
このような構成において、標準試料導入は以下のように行われる。
通常分析時はガス源1から供給された窒素ガスが、ネブライザガスまたはドライイングガスとしてガスコントロール部2で例えば圧力300kPa程度に調節されてイオン化部へ流れている。流量は、ネブライザガスの場合は1.5L/min程度、ドライイングガスの場合は20L/min程度である。一方、同じガス源1から分岐された加圧ガスは非励磁状態にある3方電磁弁4の入口(ポートa)で止められている。
【0006】
標準試料53を送液するときは、3方電磁弁4に通電する。これによりポートa−c間が連通し、調圧弁3で100kPa程度に調圧された加圧ガスが加圧管51を経て標準試料容器5内の液面上空間Aに導入され、これに押されて標準試料53が送液管52を通って図示しないイオン化プローブに向けて送液され、そこでイオン化されて図示しない質量分析部に導入される。
送液を止めるには、3方電磁弁4の通電を停止する。これによりポートb−c間が連通するので標準試料容器5内の圧力が大気圧となることで送液が止まる。送液流量は調圧弁3の圧力設定により調節され、通常は50μL/min程度であり、チューニングにはおよそ30分を要するから、送液量は1回のチューニング当たり約1.5mLとなる。
【0007】
【特許文献1】特開平9−159661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、大気圧イオン化インターフェイスを備えたLC/MSでは、ネブライザガス/ドライイングガスの供給のためにガスの供給源が既に備えられているから、ガス圧方式の場合は加圧ガスのガス源を新たに準備する必要がないこともあって、一般にシリンジポンプ方式よりも低コストで標準試料導入部を構成できる利点がある。
本発明は、さらなるコスト低減のために、従来のガス圧方式と同等の機能を有しながら更に少ない部品点数で構成可能な標準試料導入部を備えたLC/MSを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、ガス圧方式の標準試料導入部において、加圧ガス流路を、ネブライザガス/ドライイングガスの供給流路からその流量制御弁の下流側で分岐し、開閉弁を介して標準試料容器の加圧管に通じるように構成する。
このように構成することにより、少ない部品数で従来と変わらない標準試料導入機能を実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成されているので、従来構成に比べてコスト削減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明が提供するLC/MS装置は次のような特徴を有する。即ち、第1の特徴は標準試料導入のための加圧ガス流路をネブライザガス/ドライイングガスの供給流路からその流量制御弁の下流側で分岐するように構成した点にあり、第2の特徴はこの加圧ガス流路を開閉弁を介して標準試料容器の加圧管に通じるように構成した点である。
従って、最良の形態の基本的な構成は、上記2点の特徴的構成を具備するLC/MS装置である。
【実施例1】
【0012】
図1に本発明の一実施例を示す。同図において図3と同一物については図3と同符号を付してあるので再度の説明は省く。
本実施例が図3の従来例と相違する点は、加圧ガスの流路が、ネブライザガス/ドライイングガスの供給流路からその流量制御弁21の下流側で分岐され、2方電磁弁6を介して標準試料容器5の加圧管51に通じるように構成されている点である。
【0013】
このように構成された本実施例において、標準試料導入は以下のように行われる。
通常分析時は、従来と同様に、ガス源1から供給された窒素ガスが、ネブライザガスまたはドライイングガスとしてガスコントロール部2で調節されてイオン化部へ流れており、流量制御弁21の下流側で分岐された加圧ガスは非励磁状態にある2方電磁弁6の入口で止められている。
標準試料53を送液するときは、まず流量制御弁21の設定圧を送液のための所定圧力(例えば100kPa程度)に変更し、続いて2方電磁弁6に短時間(例えば10秒間)だけ通電して開き、すぐに閉じる。この間に調圧された加圧ガスが加圧管51を経て標準試料容器5内の液面上空間Aに導入され、その圧力は2方電磁弁6が閉じた後も蓄えられ、この蓄えられた圧力(蓄圧)により継続的に標準試料53が送液される。
【0014】
一方、2方電磁弁6が閉じると共に流量制御弁21の設定をガス供給のための所定圧に戻すことによりネブライザガス/ドライイングガスを正規の流量で供給し、この状態でチューニングを行う。前述したように、チューニングには約30分を要するが、この間、標準試料容器5内の液面上空間Aに蓄えられた加圧ガスの圧力低下は、例えば送液流量が50μL/minで液面上空間Aの容積が300mLの場合、0.5%程度に過ぎない。
チューニングが終わると、流量制御弁21を閉止し、次に2方電磁弁6を開く。ネブライザガス/ドライイングガスの流路の末端は大気圧であるから、これにより液面上空間Aに蓄えられた加圧ガスの残圧が抜け、標準試料53の送液が止まる。
【実施例2】
【0015】
図2に本発明の他の実施例を示す。同図において図1と同一物については図1と同符号を付してあるので再度の説明は省く。
本実施例が実施例1と相違する点は、2方電磁弁6と加圧管51との間の加圧ガスの流路中に調圧弁3を設けたことである。この調圧弁3により、加圧ガスの圧力が一定に保たれるのでチューニング期間中の標準試料53の送液流量が安定化する。本実施例は、特に送液流量を高精度に保つ必要がある場合に好適であるが、一方、調圧弁3を必要とするので部品点数が増し、コストダウン効果は限定的である。
【0016】
本実施例における標準試料導入の手順は実施例1の場合とほぼ同様であるが、ただ流量制御弁21で加圧ガスの圧力を設定する際に、調圧弁3の制御幅を見込んで送液最適圧よりも少し高い圧力に設定すべき点が実施例1の場合と異なる。
また、チューニング終了後、蓄えられた加圧ガスの残圧を抜く際には、調圧弁3をガスが逆流する必要があるが、一般的に調圧弁3はその構造上、入口圧が出口圧よりも低いときは弁が全開状態となるので、ガスの逆流が可能である。
【0017】
なお、上記の実施例1および2における2方電磁弁6は、電磁弁に限らず流路をオン−オフ的に開閉する他のタイプの弁で置き換えることができる。
また、2方電磁弁6以降の加圧ガス流路の内容積(液面上空間Aの容積を含む)を大きくすれば送液精度が向上し、送液可能な時間を延ばすこともできるから、この部分の流路中に適当な容積を持つ蓄圧タンクを設けるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明はLC/MSに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【図3】従来の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 ガス源
2 ガスコントロール部
3 調圧弁
4 3方電磁弁
5 標準試料容器
6 2方電磁弁
7 安全弁
21 流量制御弁
22 圧力ゲージ
23 流路抵抗
51 加圧管
52 送液管
53 標準試料
A 液面上空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ部と質量分析部が大気圧イオン化インターフェイス部を介して連結されて構成され、ガス源から流量制御弁を通して前記大気圧イオン化インターフェイス部にガスを供給するガス供給流路を有すると共に、チューニング時には液体を収めた標準試料容器内の液面上空間に連通する加圧管を通して加圧ガスを前記液面上空間に導入することにより前記標準試料の液面下に連通する送液管から前記標準試料を前記大気圧イオン化インターフェイス部に向けて送給するように構成された液体クロマトグラフ質量分析装置において、前記加圧ガスの流路が、前記流量制御弁の下流側で前記ガス供給流路から分岐され、開閉弁を介して前記加圧管に通じるように構成されていることを特徴とする液体クロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
入口側の圧力が出口側の圧力よりも高いときは出口側の圧力を所定圧に調圧し入口側の圧力が出口側の圧力よりも低いときは弁が全開状態となる調圧弁を、前記開閉弁と前記加圧管との間の前記加圧ガスの流路中に設けることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−14788(P2008−14788A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186050(P2006−186050)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】