説明

液体ゲル化装置及び液体ゲル化方法

【課題】ゲルの形状及びゲルの内部構造を制御することができる液体ゲル化装置及び液体ゲル化方法を提供する。
【解決手段】液体ゲル化装置は、ゲル化容器10の一方の先端部に形成された液室12と、ゲル化容器10内に配置され、内部にゲル化対象液体を収容する管状部14と、管状部14をゲル化容器10内に固定する固定手段16と、ゲル化容器10を上記液室12と反対側の端部で保持しつつ回転させる回転駆動部18とを含み、ゲル化容器10を回転駆動部18で回転させて管状部14中のゲル化対象液体に遠心力を作用させ、管状部14の液室12側先端部からゲル化対象液体をゲル化剤液に向かって放出させ、ゲル化剤液中でゲル化させる。このとき、管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lに応じて、ゲルの形状を制御できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ゲル化装置及び液体ゲル化方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫学、農薬その他の研究に、細胞や細菌等の担体としてマイクロビーズを使用することが広く知られている。このようなマイクロビーズの製造方法として、下記特許文献1及び特許文献2には、インクジェットノズルにより、第1の液体の液滴を、第1の液体と接触するとゲルを生成する第2の液体中に噴霧する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−111591号公報
【特許文献2】特開2009−207963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術においては、生成するマイクロビーズのサイズは、インクジェットノズルの径によりある程度調整可能であるが、マイクロビーズの形状を調整することはできなかった。また、複数種類の材料を境界により分離しつつ一つのビーズ中に共存させる等のマイクロビーズの内部構造を制御することもできなかった。
【0005】
本発明の目的は、ゲルの形状及びゲルの内部構造を制御することができる液体ゲル化装置及び液体ゲル化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態は、液体ゲル化装置であって、ゲル化対象液体をゲル化させるゲル化剤液と、前記ゲル化剤液の液面から所定距離に先端開口が配置され、内部に前記ゲル化対象液体を収容する管状部と、前記管状部内に収容されたゲル化対象液体に対して遠心力を作用させ、前記管状部の先端開口から前記ゲル化剤液に向かって前記ゲル化対象液体を放出させる遠心力発生手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記液体ゲル化装置において、前記管状部の先端開口と前記ゲル化剤液の液面との距離が可変であり、前記ゲル化対象液体のゲル化物の形状を前記距離により変更可能であることを特徴とする。
【0008】
また、上記液体ゲル化装置において、前記管状部の先端開口を前記ゲル化剤液の中に配置し、前記ゲル化対象液体を糸状にゲル化させることを特徴とする。
【0009】
また、上記液体ゲル化装置において、前記管状部の内部に複数の通路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
また、上記液体ゲル化装置において、前記ゲル化対象液体がアルギン酸塩水溶液であり、前記ゲル化剤液が塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の実施形態は、液体ゲル化方法であって、ゲル化対象液体を管状部に収容し、前記ゲル化対象液体をゲル化させるゲル化剤液の液面から所定距離または前記ゲル化剤液の中に、前記管状部の先端開口を配置し、前記管状部内に収容されたゲル化対象液体に対して遠心力を作用させ、前記管状部の先端開口から前記ゲル化剤液に向かって前記ゲル化対象液体を放出させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ゲルの形状を調整することができる。また、ゲルの内部構造を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態にかかる液体ゲル化装置の構成例を示す図である。
【図2】本実施形態にかかる液体ゲル化装置の構成例を示す図である。
【図3】本実施形態にかかる液体ゲル化装置の構成例を示す図である。
【図4】本実施形態にかかる管状部の断面形状の例を示す図である。
【図5】内部が壁により二つに分割され、二つの通路が形成された本実施形態にかかる管状部を使用した場合のゲルの内部構造の例を示す図である。
【図6】本実施形態にかかる管状部の断面形状の他の例を示す図である。
【図7】管状部が複数形成された本実施形態にかかる管形成部材の例を示す図である。
【図8】本実施形態にかかる管形成部材をゲル化容器に収容した例を示す図である。
【図9】実施例にかかるゲルの粒子のアスペクト比の観察結果を示す図である。
【図10】実施例1の方法により製造したゲルの顕微鏡写真を示す図である。
【図11】実施例1の方法により製造したゲルの顕微鏡写真を示す図である。
【図12】実施例2における先端開口径100+/−5μmの管状部を使用して製造したゲルの顕微鏡写真を示す図である。
【図13】実施例3の方法により製造したゲルの顕微鏡写真を示す図である。
【図14】実施例4の方法により製造したゲルの顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0015】
図1、図2、図3には、本実施形態にかかる液体ゲル化装置の構成例が示される。図1において、液体ゲル化装置は、ゲル化容器10と、ゲル化容器10の一方の先端部に形成された液室12と、ゲル化容器10内に配置され、内部にゲル化対象液体を収容する管状部14と、管状部14をゲル化容器10内に固定する固定手段16と、ゲル化容器10を上記液室12と反対側の端部で保持しつつ回転させ、ゲル化容器10、ゲル化容器10に収容された上記各構成要素及び管状部14内のゲル化対象液体に遠心力を作用させる回転駆動部18とを含んで構成されている。なお、図1、図2及び図3の例では、液室12が形成された、ゲル化容器10の先端部にテーパ(先細り構造)が形成されているが、回転駆動部18により回転させたときに遠心力で破損されなければ、先端部を他の形状としてもよい。
【0016】
管状部14の先端部は、回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lが可変に構成されている。この構成は、例えば管状部14が固定手段16に開いた孔中をスライド可能としておき、回転駆動部18により回転させる場合に摩擦力やネジ等で管状部14を固定手段16に固定して遠心力で液室12側に移動することを防止する構造により実現できる。また、回転駆動部18としては、適宜な遠心分離装置等を使用することができる。
【0017】
次に、上記液体ゲル化装置の動作を説明する。液室12にゲル化剤液を収容し、管状部14にゲル化対象液体を収容した状態でゲル化容器10を回転駆動部18に固定する。回転駆動部18により、図2に示される矢印R方向に所定の回転速度でゲル化容器10を回転させると、ゲル化容器10の回転中に、上記管状部14中のゲル化対象液体に、図2に示される矢印G方向の遠心力が作用する。この遠心力により、上記管状部14の液室12側先端部からゲル化対象液体がゲル化剤液に向かって放出される。管状部14の上記先端部から放出されたゲル化対象液体は、液室12に収容されたゲル化剤液と接触し、ゲル状に変質する(ゲル化物となる)。なお、回転駆動部18による回転方向は、図2に示される矢印Rの方向に限定されず、矢印Rとは逆方向であってもよい。
【0018】
ここで、ゲル化対象液体として、例えばアルギン酸ナトリウム水溶液を使用した場合、ゲル化剤液としては、塩化カルシウム水溶液が好適である。アルギン酸ナトリウムが塩化カルシウムと接触してアルギン酸カルシウムのゲルが生成するからである。
【0019】
なお、管状部14の先端部から放出されるゲル化対象液体が、液室12に収容されたゲル化剤液と接触して生成するゲルの形状は、回転駆動部18の回転数(作用する遠心力の大きさ)、上記管状部14の先端部の開口径、上記管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離L、及びゲル化対象液体の密度、表面張力、粘度等により様々(液滴状、糸状等)に制御することができる。これは、上記各パラメータにより管状部14の先端部から放出されるゲル化対象液体の形状が種々変化するからである。
【0020】
例えば、図2には、上記距離Lが正の実数値である場合が示されるが、この場合には生成するゲルの形状を球状、楕円体状等に制御することができる。なお、図2は、球状のゲルを生成した例である。生成するゲルの形状が球状である場合には、球の直径Rgは以下の式により表される。
【0021】
【数1】

ここで、ρはゲル化対象液体の密度、γはゲル化対象液体の表面張力、αはゲル化対象液体の粘度、Rは管状部14の先端の開口径、gは管状部14中のゲル化対象液体に作用する遠心力。
【0022】
また、上記距離Lを長くして行くと、ゲル化対象液体の濃度に応じてゲルの形状が球状から楕円体状に変化して行く。これらの詳細は実施例において再度述べる。
【0023】
一方、図3に示されるように、上記距離Lを0、すなわち管状部14の先端部をゲル化剤液の液面Sと接触させ、または液中に配置すると、ゲルの形状が糸状となる。ここで、糸状とは、径に対して長さが十分に長い形状をいう。糸状のゲルとしては、断面が円形の糸に限らず、管状部14の先端開口の形状に応じて、断面が楕円形状または三角形、四角形若しくは五角形以上の多角形の断面を有する糸とすることも可能である。また、糸の径(断面の適宜な場所の長さ)も、管状部14の先端開口の径等により制御することができる。
【0024】
以上に述べた本実施形態にかかる液体ゲル化装置では、上記距離Lを変更可能に構成しているので、生成するゲルの形状を容易に制御することができる。
【0025】
図4(a)、(b)、(c)には、管状部14の断面形状の例が示される。図4(a)は、管状部14内部が単一の管(円筒形状)の例である。また、図4(b)は、円筒が一つの直径位置に配置された壁20で二つに分割された例である。上記図1、図2及び図3の例では、図4(b)に示された管状部14が使用されている。また、図4(c)は、円筒が二つの互いに直交する直径位置に配置された壁20で四つに分割された例である。
【0026】
図4(a)の例の場合における管状部14の先端の開口径xとは、開口部の内径である。図4(a)に示された管状部14の断面は、開口部の形状と同じ(テーパが形成されている場合には相似)であるので、図4(a)にxとして開口径xを記載している。
【0027】
また、図4(b)、(c)の例の場合の先端の開口径xは、壁20が無かった場合の開口部の内径となる。図4(b)、(c)に示された断面は、開口の形状と同じ(テーパが形成されている場合には相似)であるので、図4(b)、(c)にxとして開口径xを記載している。
【0028】
図4(a)に示されるように、管状部14の内部が単一の管(通路が一つ)の場合には、生成するゲルの内部も単一構造となる。これに対して、図4(b)、(c)のように、管状部14内部が壁20で分割され、複数の通路が形成されていると、それぞれの通路に異なるゲル化対象液体を収容することにより、生成するゲルの中を、複数種類の材料を境界により分離しつつ共存させる構造とすることができる。このように、管状部14内部の構造により、生成するゲルの内部構造を制御することができる。
【0029】
なお、管状部14の断面形状は、これらに限定されるものではなく、生成されるゲルの形状、内部構造及び何種類のゲル化対象液体を使用するかに応じて断面形状及び分割の数を適宜決定する。断面形状としては、円形に限らず、例えば楕円形状あるいは適宜な多角形とすることもできる。
【0030】
図5には、図4(b)の構造の管状部14を使用した場合のゲル22の内部構造の例が示される。すなわち、図5では、通路が二つの管状部14を使用した図2の例の液体ゲル化装置により生成される球状のゲルが示されている。本例では、ゲルの内部に、境界24により二つに分離された、2種類の材料で構成された2種類のゲルI、IIが共存している内部構造となっている。
【0031】
また、上記図3の例では、管状部14の先端部がゲル化剤液の液面Sと接触し、または液中に配置され、糸状のゲルが生成している。図3においても、図4(b)の構造の管状部14が使用されており、糸状のゲルは、2種類のゲルが糸の長手方向で境界により分離され、共存している内部構造となっている。
【0032】
上記図1、図2及び図3では、管状部14が1本の場合が示されているが、管状部14は1本に限定されない。また、管状部14の材質はガラス等が好適であるが、これには限定されず、例えば適宜な金属、樹脂等を使用することもできる。
【0033】
図6(a)、(b)、(c)、(d)には、管状部14の断面形状の他の例が示される。図6(a)が二重管の例であり、外管P1の内側に内管P2が挿入された構造となっている。また、図6(b)がマルチバレル管の例であり、複数(図6(b)では3本)の管が束ねられて構成されている。また、図6(c)が三分割管の例であり、三つの半径位置に配置された壁20で三つに分割されている。また、図6(d)が四角管の例であり、断面が四角形状の管となっている。図6(d)では、四つの四角管が束ねられているが、これには限定されず、四角管の数は1以上の任意の数とすることができる。
【0034】
図7(a)、(b)には、管状部14が複数形成された管形成部材の例が示される。図7(a)が平面図であり、図7(b)が、図7(a)のB−B断面図である。
【0035】
図7(a)において、管形成部材26は円柱形状(断面円形)に形成され、その内部には、円形の端面に略垂直方向に複数の管状部14が設けられている。図7(a)では、管状部14の開口が円の配列として示されている。なお、図7(a)の例では、管状部14が9本設けられているが、管状部14の数は限定されず、用途に応じて適宜決定することができる。また、管形成部材26は、図7(a)に示される円柱形状に限定されず、例えば角柱状であってもよい。また、管状部14の断面形状は円形に限らず、楕円形状あるいは適宜な多角形とすることもできる。
【0036】
図7(b)に示されるように、各管状部14は、管形成部材26の内部に形成された孔である。図7(b)の例では、各管状部14が図4(a)と同様の単一の管として示されているが、図4(b)、(c)のように、管状部14内部が壁20で分割され、各管状部14に複数の通路が形成されていてもよい。
【0037】
また、図7(b)の管状部14の先端部fには、テーパを形成してもよい。ゲル化対象液体は、このテーパの先端の開口Aから放出される。
【0038】
図8には、管形成部材26をゲル化容器10に収容した例が示される。図8において、管形成部材26は、ゲル化容器10の直胴部に収容される。この場合、図7(a)、(b)に示された管形成部材26は、管状部14の開口Aが形成された側が液室12に収容されたゲル化剤液の回転中における液面Sに向くように配置される。また、管形成部材26は、ゲル化容器10の直胴部を、その直胴部の長手方向に移動可能に構成する。例えば、管形成部材26の直胴表面とゲル化容器10の直胴内面とに、互いにかみ合うネジ構造(図示せず)等を形成し、管形成部材26を回転させつつゲル化容器10内を直胴部に沿って移動させ、適宜な位置に管形成部材26の位置決めをする構成としてもよい。なお、管形成部材26の位置決めを行うための構成は、上記ネジ構造に限定されるものではない。
【0039】
また、液室12は、図1、図2、図3の例とは異なり、ゲル化容器10の先端のテーパ部分のみならず、直胴部まで延長されている。従って、回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sは、この直胴部に形成される。このため、上記位置決め用のネジ構造等を使用して管形成部材26の位置をゲル化容器10中で移動させることにより、管形成部材26の先端の開口の位置とゲル化剤液の液面Sとの距離Lを0から所定の距離まで変更することが可能となる。
【0040】
以上に述べた実施形態においては、ゲル化対象液体としてアルギン酸ナトリウム水溶液を使用し、ゲル化剤液として塩化カルシウム水溶液を使用する場合について説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。例えば、アルギン酸ナトリウムを架橋させ、硬化させるための2価、3価または4価の陽イオンの例として、Ca2+、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Mg2+、Cr2+、Sr2+、Ba2+、Pd2+、Rh2+、Rh3+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Pt2+、Ir2+、Ir3+、Ru2+、Ru3+、Os2+、Os3+等が挙げられ、これらのイオンの塩類等を使用することができる。
【0041】
また、ゲル化対象液体として、アルギン酸ナトリウム以外に、Pura Matrix(合成ペプチドゲル 3DM,Inc.製)等のイオンを介して架橋するゲル、ポリアクリル酸/PVAブレンド物、ポリビニルメチルエーテル、リン酸基やカルボキシル基を有する分子性超分子ゲル、コラーゲン等のイオンではなくpH硬化性ゲルが挙げられる。
【0042】
また、ゲル化対象液体としては、イオンやpHでなく温度を制御することによりゲル化する溶液を使用することもできる。例えば、アガロースやゼラチンの溶液をゲル化対象液体として管状部14の先端部から放出し、液室12には冷却した液体(水など)をゲル化剤液として収容しておくことで、ゲル化対象液体を冷やしてゲル化させる。あるいは、コラーゲンやマトリゲルの溶液をゲル化対象液体として管状部14の先端部から放出し、液室12には加熱した液体(水など)をゲル化剤液として収容しておくことで、ゲル化対象液体の温度を上げてゲル化させる。
【0043】
さらに、ゲル化対象液体として光硬化性樹脂溶液を使用してもよい。例えば、回転駆動部18を構成する遠心分離装置の内部にUV光源を配置し、あるいはゲル化容器10の底(ゲル化剤液の中)にUV−LEDを配置しておき、管状部14の先端部から放出されたゲル化対象液体が液室12に収容されたゲル化剤液中でドロップ(所定形状の液滴)形成後にUV照射で光硬化性樹脂を瞬時に硬化させ、ゲル化させる。この場合に使用できる光硬化性樹脂としては、例えばPEG−DA(ポリエチレングリコールジアクリレート)とPEG−acrylete(ポリエチレングリコールアクリレート)とアクリルアミドと1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(光重合開始剤 イルガキュア(R)184)との混合溶液、またはアクリルアミドと上記イルガキュア(R)184との混合溶液等が挙げられる。
【0044】
なお、光硬化性樹脂としては、ポリウレタン系樹脂(例えば、エドモンド・オプティクス社製NORLAND光学接着剤)や、ポリエポキシ系樹脂(例えば、MicroChem社製SU−8フォトレジスト)等を使用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
実施例1
図1に示されたゲル化容器10の管状部14(断面楕円形状、内径長軸1.5mm、内径短軸1.35mm、先端開口径長軸100μm、短軸90μm)に、アルギン酸ナトリウム水溶液を入れ、管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lを2mmから4.5mmまで0.5mm刻みで変化させ、回転駆動部18によりゲル化容器10を回転させて生じるゲルの粒子のアスペクト比を観察した。なお、ゲル化剤液としては、500mmol/lの塩化カルシウム水溶液を使用した。また、回転駆動部18としては、和研薬株式会社製遠心機WKN−2320を使用し、その回転数は、2000−3000回転/分とした。さらに、アルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸ナトリウム濃度は、2.0質量%及び3.0質量%の2種類を準備し、それぞれゲル化を行わせた。なお、使用したアルギン酸ナトリウム水溶液の密度は、いずれも1.0であり、表面張力は、濃度2.0質量%の場合が70.5mN/m、濃度3.0質量%の場合が69.3mN/mであった。
【0047】
図9には、ゲルの粒子のアスペクト比の観察結果が表とグラフで示される。図9のグラフでは、縦軸がゲルの粒子のアスペクト比であり、横軸が管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lである。なお、アスペクト比が1に近いほど粒子は球状となり、1より小さくなると楕円体状等への変形が大きくなる。
【0048】
図9に示された結果では、アルギン酸ナトリウム濃度が2.0質量%の場合に、上記距離Lの増大とともにアスペクト比が低下し、球状からの変形が大きくなっている。一方、アルギン酸ナトリウム濃度が3.0質量%の場合では、アスペクト比がほぼ1を維持し、ゲルの粒子が球状からほとんど変形していないことがわかる。これは、濃度が3.0質量%のアルギン酸ナトリウム水溶液では、粘度が25℃で28.8×10Pa・s(288cP)であるのに対して、濃度が2.0質量%の場合の粘度が25℃で9.09×10Pa・s(90.9cP)であって、濃度が3.0質量%の場合の粘度が濃度が2.0質量%の場合の粘度より高いためである。すなわち、粘度が高い方がゲル化前の液滴の変形が小さいためである。
【0049】
図10,図11は、本実施例1の方法により製造したゲルの顕微鏡写真(オリンパス社製、IX−71を使用して撮影した)を示す図である。図10が、アルギン酸ナトリウム濃度が2.0質量%の場合であり、図11が、アルギン酸ナトリウム濃度が3.0質量%の場合である。図10の例では、上述したように、ゲル粒子の球状からの変形が大きくなっていることがわかる。一方、図11の例では、ゲル粒子がほぼ球状を維持していることがわかる。
【0050】
実施例2
図1に示されたゲル化容器10の管状部14として、図4(b)に示された、壁20で二つの通路に分割された、内径1.5mmのものを使用した。また、管状部14の先端開口径は、80+/−5μm、100+/−5μm及び120+/−5μmの3種類とした。この管状部14の二つの通路に、着色剤でそれぞれ異なる2種類の色に着色した、3.0質量%のアルギン酸ナトリウム水溶液を収容した。また、ゲル化剤液として500mmol/lの塩化カルシウム水溶液を使用し、実施例1と同様にして回転駆動部18でゲル化容器10を回転させてゲル化を行わせた。なお、管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lは4mmとした。これにより、2色のアルギン酸ナトリウムから生成した2色のゲル(アルギン酸カルシウム)が境界により分離されつつ一つのビーズ中に共存したマイクロビーズゲルを生成した。
【0051】
表1には、上記操作により作成したマイクロビーズゲルの平均粒径及びそのばらつきが示される。なお、マイクロビーズゲルの粒径は、株式会社キーエンス製、デジタルマイクロスコープVHX−900を使用して測定した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示されるように、管状部14の先端開口径80+/−5μmの場合には、マイクロビーズゲルの平均粒径及びそのばらつきは88.8+/−1.5μmであった。また、管状部14の先端開口径100+/−5μmの場合には、マイクロビーズゲルの平均粒径及びそのばらつきは100.4+/−2.9μmであった。また、管状部14の先端開口径120+/−5μmの場合には、マイクロビーズゲルの平均粒径及びそのばらつきは103.9+/−2.2μmであった。何れの場合も粒径のばらつきが小さく、粒径の制御を高精度で行うことができることがわかる。
【0054】
図12は、実施例2における先端開口径100+/−5μmの管状部14を使用して製造したゲルの顕微鏡写真(オリンパス社製、IX−71を使用して撮影した)を示す図である。図12に示されるように、本実施例2では、ほぼ球状のゲルが得られている。また、ゲルの中は、2色の部分(ゲル)が境界により分離しつつ共存している構造となっている。
【0055】
実施例3
図1に示されたゲル化容器10の管状部14(断面楕円形状、内径長軸1.5mm、内径短軸1.35mm、先端開口径長軸100μm、短軸90μm)に、アルギン酸ナトリウム水溶液を入れ、管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lを0mmとし(管状部14の先端部を液面Sと接触させる)、回転駆動部18によりゲル化容器10を回転させてゲルの製造を行った。本実施例3では、管状部14に入れるアルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸ナトリウム濃度を2.5質量%とし、ゲル化剤液として500mmol/lの塩化カルシウム水溶液を使用した。
【0056】
図13は、本実施例3の方法により製造したゲルの顕微鏡写真(オリンパス社製、IX−71を使用して撮影した)を示す図である。図13に示されるように、製造されたゲルの形状が糸状となっている。
【0057】
実施例4
図1に示されたゲル化容器10の管状部14(断面円形状、内径0.6mm、先端開口径35μm)に、アルギン酸ナトリウム水溶液を入れ、管状部14の先端部と回転中における液室12に収容されたゲル化剤液の液面Sとの距離Lを240μmとし、回転駆動部18によりゲル化容器10を回転させてゲルの製造を行った。本実施例4では、管状部14に入れるアルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸ナトリウム濃度を4.0質量%とし、ゲル化剤液として150mmol/lの塩化カルシウム水溶液を使用した。
【0058】
図14は、本実施例4の方法により製造したゲルの顕微鏡写真(オリンパス社製、IX−71を使用して撮影した)を示す図である。図14に示されるように、縦長(楕円体状)の先端部に糸状の尾部がついた形状のゲルが得られた。
【0059】
以上の各実施例で述べたように、本発明にかかる液体ゲル化装置は、管状部14の内部に形成された通路の数及び断面形状、上記距離L、アルギン酸ナトリウム水溶液のアルギン酸ナトリウム濃度等を変化させることにより、生成するゲルの形状を制御することができる。
【符号の説明】
【0060】
10 ゲル化容器、12 液室、14 管状部、16 固定手段、18 回転駆動部、20 壁、22 ゲル、24 境界、26 管形成部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化対象液体をゲル化させるゲル化剤液と、
前記ゲル化剤液の液面から所定距離に先端開口が配置され、内部に前記ゲル化対象液体を収容する管状部と、
前記管状部内に収容されたゲル化対象液体に対して遠心力を作用させ、前記管状部の先端開口から前記ゲル化剤液に向かって前記ゲル化対象液体を放出させる遠心力発生手段と、
を備えることを特徴とする液体ゲル化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体ゲル化装置において、前記管状部の先端開口と前記ゲル化剤液の液面との距離が可変であり、前記ゲル化対象液体のゲル化物の形状を前記距離により変更可能であることを特徴とする液体ゲル化装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液体ゲル化装置において、前記管状部の先端開口を前記ゲル化剤液の中に配置し、前記ゲル化対象液体を糸状にゲル化させることを特徴とする液体ゲル化装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の液体ゲル化装置において、前記管状部の内部に複数の通路が形成されていることを特徴とする液体ゲル化装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の液体ゲル化装置において、前記ゲル化対象液体がアルギン酸塩水溶液であり、前記ゲル化剤液が塩化カルシウム水溶液であることを特徴とする液体ゲル化装置。
【請求項6】
ゲル化対象液体を管状部に収容し、
前記ゲル化対象液体をゲル化させるゲル化剤液の液面から所定距離または前記ゲル化剤液の中に、前記管状部の先端開口を配置し、
前記管状部内に収容されたゲル化対象液体に対して遠心力を作用させ、前記管状部の先端開口から前記ゲル化剤液に向かって前記ゲル化対象液体を放出させる、
ことを特徴とする液体ゲル化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−176374(P2012−176374A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41487(P2011−41487)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】