説明

液体サイクロンを用いた固液分離装置

【課題】液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差が少ない懸濁粒子を流入速度に影響されずに効率良く分離する装置を提供する。
【解決手段】円筒部2と円筒部下端に連設された逆円錐台部3と逆円錐台部下端に連設された懸濁粒子を堆積するための沈殿部4からなる本体と、前記円筒部の側面接線方向に設けた液流入口5と、前記円筒部上端または液流入口よりも上方の側面から、前記本体内部に開口する上部排液管8と、前記沈殿部下方に設けた懸濁粒子排出口9からなる液体サイクロンにおいて、前記本体中心軸上に中心軸と直交する底面を有する柱状部材と前記部材上端に連設した上方に向かって先細りになる部材からなる障害物15を前記本体内部に設置して、前記逆円錐台部内壁に沿って旋回する下降流が前記逆円錐台部の下部で上方に向きを変え前記本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれる懸濁粒子の流れを、前記逆円錐台部内壁方向に変える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類飼育水、沿岸海水、河川水などに含まれる液体本体(懸濁粒子が分散している懸濁液の液体部分)よりも比重が大きく、かつ液体本体との比重差が小さい懸濁粒子を除去するために、これら液体を旋回させることで生じる遠心力を利用し、液中から懸濁粒子を分離するための液体サイクロン装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液中から懸濁粒子を分離するのに、液体サイクロンが用いられているが、液体本体との比重差の大きい懸濁粒子は簡単に分離することができるが、液体本体との比重差の小さい懸濁粒子の分離は難しく、分離効率が低いのが現状である。
【0003】
一般的な液体サイクロンは図7に示すように、円筒部2と円筒部下端に連設された逆円錐台部3で構成され、円筒部側面の液流入口5からポンプにより送液された懸濁液は、円筒部内壁及び逆円錐台部内壁に沿って旋回しながら下降し、懸濁粒子は遠心力により逆円錐台部内壁近くに押し付けられ、壁面に沿って下降する。下降旋回流の一部は、下部排液管13より重い懸濁粒子と一緒に排液され、軽い懸濁粒子を含む大部分の懸濁液は、逆円錐台部下部で上方に向きを変え、中心軸に沿って旋回しながら上昇し、円筒部上端より本体内部に突出する上部排液管8より排液される。この液体サイクロンは分級型サイクロンと呼ばれ、液中から懸濁粒子を分離するのではなく、液中の粒子径や比重の違う懸濁粒子の分別に用いられ、上部より軽い懸濁粒子、下部より重い懸濁粒子を排出する。
【0004】
また、特許文献1には、液体サイクロン本体逆円錐台部に円盤形状の障害部材を設置し、水と同程度の比重の中重質物を上方抜出管から排出することで、中重質物と重質物の分別精度を向上させる廃プラスチックの分別方法及び装置が提案されている。この液体サイクロンでは、重質物は逆円錐台部内壁に沿って旋回下降し、中重質物は重質物より中心部に近い場所を旋回下降するので、重質物は下部抜出管より排出されるが、中重質物は本体内部に設置した障害部材に流れを妨げられために下部抜出管に行くことなく上部抜出管より排出され、分別精度が向上する。
【0005】
粒子径や比重の違う懸濁粒子を分別するのではなく、液体本体よりも重い懸濁粒子を液中から効率よく分離するには、分級型サイクロンの逆円錐台部下端に、懸濁粒子を堆積させるための沈殿部4が連設された図8に示す分離型サイクロンが用いられる。沈殿部下端には、沈降し、堆積した懸濁粒子を取り除くための懸濁粒子排出管10とバルブ11が連結される。分級型サイクロンと違い、懸濁粒子を分離した後の液体は上部排液管8からのみ排液される。懸濁粒子排出管10からは、多量に懸濁粒子が堆積した時にバルブ11を開き、濃縮懸濁液が間欠的に排出される。分離型サイクロンは下部からの排液がないので、中心軸に沿って旋回する上昇流は強くなり、液体本体との比重差の小さい懸濁粒子の一部は上昇流に巻き込まれ、上部排液管8より排出されるため、分離効率は低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2977799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
魚介類飼育水、沿岸海水、河川水などには様々な比重の懸濁粒子が混在しており、その中には有機物などの液体本体との比重差の小さい懸濁粒子も多く含まれている。有機物は水質悪化の原因となるため、なるべく迅速にほぼ全量取り除かれることが必要となる。また、ポンプを用いることができず、落差を利用した自然流下でしか送液できない場合もあり、流入速度が遅い場合でも効率良く除去できることが要求される。液体サイクロンは、比重差のある懸濁粒子が混在する懸濁液から、比重差の小さい懸濁粒子と比重差の大きい懸濁粒子に分別することは容易であるが、比重差に関係なく懸濁粒子を効率よく液中から分離することは難しい。特に、流入速度が遅く、液体本体との比重差の小さい懸濁粒子は、効率良く分離できない。
【0008】
分級型サイクロンは、上部排液口より軽い懸濁粒子を含んだ液体、下部排液口より重い懸濁粒子を含んだ液体が排液される。懸濁粒子を液体本体から分離するには、上部排出液を、条件、構造の違う液体サイクロンやフィルターで再度処理する必要があるので、装置の大型化とコスト増につながる。また、懸濁粒子と一緒に下部排液口より排液される液量は多いので、廃棄する懸濁液量を少なくするために、後段に沈殿やろ過などの固液分離装置を設置することを考えると、さらに装置が大型化する。
【0009】
分離型サイクロンは、沈殿部に懸濁粒子を堆積させ、間欠的に排出するので、後処理にかかる費用は低減する。しかし、分級型サイクロンと違い、下部より排液しないため、逆円錐台部下部で上方に向きを変え中心軸に沿って旋回する上昇流は強くなり、この上昇流の流れに懸濁粒子が巻き込まれやすくなる。このため、液体本体より重く、かつ液体本体との比重差の小さい懸濁粒子の分離効率は悪くなる。さらに、流入速度が遅い場合は、軽い懸濁粒子はより中心軸に近い位置を旋回するため、中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれやすくなり、一層分離効率は悪くなる。
【0010】
分離効率を向上させるためには、液体サイクロン内壁に沿って旋回する下降流が、逆円錐台部下部で上方に向きを変え中心軸に沿って旋回する上昇流に、懸濁粒子が巻き込まれても、上部排液口から排出されることなく、沈殿部で沈降、堆積させなければならない。また、分離効率を向上させるために、上部排液管よりの排液を液流入管に返送し、流入懸濁液と一緒に再度処理する場合もあるが、懸濁液流入量が少なくなるため、同量の処理を行なうには大きな装置が必要となる。
【0011】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決するために、流入速度が遅い場合でも、液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差の小さい懸濁粒子を効率よく分離でき、後処理が容易になることで装置の小型化とイニシャルコストおよびランニングコストの低減化を図ることを目的とする固液分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記した目的を達成するために次の構成を備える。すなわち、本発明の装置は、円筒部と円筒部下端に連設された逆円錐台部と逆円錐台部下端に連設された懸濁粒子を堆積するための沈殿部からなる本体を備える。円筒部の側面接線方向に液流入口、円筒部上端または液流入口よりも上方の側面に本体内部に開口する上部排液管、沈殿部下方に懸濁粒子排出口を設ける。この逆円錐台部内部には、本体中心軸上に中心軸と直交する底面を有する柱状部材と前記部材上端に連設した上方に向かって先細りになる部材からなる障害物を取り付ける。
懸濁液は、円筒部内壁に沿って旋回流を成すように放出され、逆円錐台部内壁に沿って旋回しながら下降する。この下降旋回流は、逆円錐台部下部で上方に向きを変え、本体中心軸に沿って旋回しながら上昇する。懸濁粒子は逆円錐台部下端開口部から沈殿部に流入し、沈殿部で沈降、堆積する。逆円錐台部で沈殿部に流入せずに、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれた懸濁粒子は、この障害物に衝突し、逆円錐台部内壁方向に流れを変える。流れを変えた懸濁粒子は、内壁に沿って流れる下降旋回流に巻き込まれ、逆円錐台部下端開口部に向けて旋回下降する。一方、懸濁粒子が分離された液体は、障害物外表面を上方に流れ、上部排液口より排液される。このように、沈殿部に流れず、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれた懸濁粒子は、再度逆円錐台部開口部に向けて下降することになる。この一連の流れを繰り返すうちに、懸濁粒子は沈殿部に流れ込み、沈殿部で沈降、分離される。また、障害物上部が先細りになっているため、障害物上方では、乱流は起こらず、本体中心軸に沿って旋回する上昇流は弱くなり、この上昇流に巻き込まれる懸濁粒子が減少するため、分離効率が向上する。さらに、上部排液管を本体内部に突出しないようにすると、分離効率は一層向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係わる固液分離装置によれば次の効果を奏する。本体内部に障害物を設置したので、簡単な構造でありながら、液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差の小さい懸濁粒子の分離効率を100%近くまで向上させることができる。液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差が小さい有機物や水垢などを分離することができるので、水質の悪化と装置の汚れを低減することができる。また、沈殿部に流れ込まずに、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれた懸濁粒子は、本体内部で自動的に繰り返し分離することができるようになったので、装置全体を大型化することなく、ランニングコストやイニシャルコストを上昇させることなしに、分離効率を向上させることができる。さらに、流入速度が遅くても分離効率が高いため、ポンプが使えず、落差による自然流下で送液しなければならない(流速が確保できない)状況においても用いることができる。また、上記構成においては、全く予想外なことに、逆円錐台部の高さを短くしても、流速によらず安定して高い分離効率が実現できるため、さらなる小型が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係わる固液分離装置を一部断面図で示した概略構成図
【図2】本発明の他の実施形態に係わる固液分離装置を一部断面図で示した概略構成図
【図3】本発明の固液分離装置内部の流れを示した概念図
【図4】従来型装置と本発明の装置との懸濁粒子の分離効率の比較を示すグラフ
【図5】上部排液管の突出の有無における懸濁粒子の分離効率の比較を示すグラフ
【図6】流入速度と懸濁粒子の分離効率の関係を示すグラフ
【図7】一般的な分級型液体サイクロンの概略構成図
【図8】一般的な分離型液体サイクロンの概略構成図
【図9】逆円錐部長が150mmでの流入速度(駆動水流速)と懸濁粒子と分離効率の関係を示すグラフ(図6と同じだが表示領域を広げて示してある)
【図10】逆円錐部長が120mmでの流入速度(駆動水流速)と懸濁粒子と分離効率の関係を示すグラフ
【図11】逆円錐部長が80mmでの流入速度(駆動水流速)と懸濁粒子と分離効率の関係を示すグラフ
【図12】逆円錐部長が40mmでの流入速度(駆動水流速)と懸濁粒子と分離効率の関係を示すグラフ
【図13】障害物寸法と懸濁粒子の分離効率の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図示した例とともに詳説するが、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施できるものである。
図1は本発明の一実施形態に係わる装置の概略構成図、図3は本発明の固液分離装置内部の流れを示した概念図である。図中符号1aは固液分離装置本体で、円筒部2と円筒部下端に連設された逆円錐台部3と逆円錐台部下端に連設された沈殿部4からなる。
【0016】
液流入管6は、懸濁液を貯留する水槽と装置本体1aの液流入口5とを、円筒部2の側面接線方向より連通する。液流入口5は円筒部内壁の内面に開口され、懸濁液が円筒部内壁に沿って旋回流を成すように放出される。円筒部内部に放出された懸濁液は、逆円錐台部内壁に沿って下方に旋回しながら流れる。この下降旋回流18は、逆円錐台部下部で上方に向きを変え、本体中心軸に沿って旋回しながら上昇する(中心部上昇旋回流(下部)19b)。懸濁粒子は、逆円錐台部下端開口部14から沈殿部4に流れ込み(懸濁粒子沈降流22)、底部に沈殿するが、一部は中心部上昇旋回流(下部)19bに巻き込まれ、本体中心軸に沿って旋回しながら上昇する。
【0017】
本体内部には、本体中心軸上に中心軸と直交する底面を有する柱状部材と前記部材上端に連設した上方に向かって先細りになる部材からなる障害物15が設置されている。逆円錐台部下部で上方に向きを変えた中心部上昇旋回流(下部)19bは、障害物15に衝突し、逆円錐台部内壁方向に流れる中心部分流20と障害物外表面流21に分かれる。懸濁粒子は、中心部分流20と一緒に逆円錐台部内壁方向に流れを変え、内壁に沿って流れる下降旋回流18に巻き込まれ、上部排液口7に向かうことなく、再び逆円錐台部下端開口部14に向かって下降する。一方、懸濁粒子が分離された液体は、障害物外表面を流れ(障害物外表面流21)、障害物上方で中心軸に沿って旋回しながら上昇し(中心部上昇旋回流(上部)19a)、円筒部上端の内面に開口する上部排液口7より排液される。図示しないが、液流入口5よりも上方であれば、上部排液口7は円筒部側面の内面に開口することもできる。
【0018】
沈殿部下端の懸濁粒子排出口9は、沈降し、堆積した懸濁粒子を排出するための懸濁粒子排出管10が連通している。懸濁粒子排出管10には、多量の懸濁粒子が堆積したしたときに、沈殿部より排出するためのバルブ11が設置されている。沈殿部は効率良く懸濁粒子を排出するために下部に傾斜が付いているが、平らな底板にすることもできる。また、沈殿部4の径は、逆円錐台部下端開口部14より大きければ、なんら制限されない。
【0019】
障害物15は、下方に向かって径の小さくなる逆円錐台状の柱状部材と前記柱状部材上端に円錐状部材を連設した形状が好ましいが、中心部上昇旋回流(下部)19bに巻き込まれた懸濁粒子の流れを、逆円錐台部内壁方向の流れ(中心部分流20)に変えることができ、前記内壁に沿って旋回する下降旋回流18を妨げず、障害物上方の中心部上昇旋回流(上部)19aに乱流や大きな旋回流が生じないものであれば、形状、数など、別段、制限されるものではない。
【0020】
障害物15の設置位置は、障害物上端が逆円錐台部3の上端となる位置を上限とし、障害物15の底面が逆円錐台部3の下端となる位置を下限とすることが好ましい。本発明によれば、好ましくは0.5m/s以上において分離効率が80%以上、より好ましくは0.6m/s以上において分離効率が90%以上である固液分離装置が得られる。また、これらの領域において、本発明の装置は、分離効率の変動率が好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満である。なお、本発明において、分離効率とは、(投入粒子総数−循環側戻り粒子数)を投入粒子総数で割った値(%)である。
好ましくは逆円錐台部の全長のうち下から3分の1より上に障害物の最膨大部(断面の径が最大の部位)を位置させる。障害物の大きさは、装置に要求される諸条件によって変え得るが、例えば、障害物の底面を通る断面において障害物断面積/逆円錐台断面積比を好ましくは0.05〜0.45とすることができる。また、障害物の最膨大部を通る断面において障害物断面積/逆円錐台断面積比を好ましくは0.1〜0.33とすることができる。さらにまた、障害物底面積/障害物断面積(最膨大部)比を0.4〜0.8、より好ましくは0.55〜0.7とすることができる。最も、これは目安であり、これ以外の範囲であっても上記の構成を有し、本発明の効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれる。
【0021】
障害物15を複数個設置する場合は、逆円錐台部3に複数個設置することが好ましいが、逆円錐台部3に1個以上設置していれば、沈殿部4にも設置することができる。
【0022】
図2は、上部排液管8が本体内部に突出している、他の実施形態に係わる装置の概略構成図である。上部排液管8は、液流入口5よりも上方であれば、円筒部側面より連通することもできる。
【実施例】
【0023】
実施例1
図4から図6に実施例を示す。図1に示すような本体逆円錐台部に、障害物を設置しない場合、従来型の円盤状障害物を設置した場合、本発明の障害物を設置した場合について、分離効率の比較試験を行った結果を図4に示す。試験は円筒部内径150mm、円筒部高さ215mm、逆円錐台部高さ310mm、逆円錐台部下端開口部径50mm、沈殿部上部内径250mm、上部排液管突出長0mmの図1に示す装置に障害物(本発明の障害物は底部径34mm、高さ50mm、円錐部頂角70度、円盤状障害物は径34mm、高さ5mm)を設置し、比重1.04、直径2.3mm、高さ2.3mmのシリコン粒子を水道水に分散させた懸濁液を用い、流入流速0.2m/sで行った。縦軸はシリコン粒子の分離効率(投入した粒子量に対する沈殿部に堆積した粒子の割合、%)を、横軸には障害物の設置高さ(逆円錐台部下端から障害物上端までの距離、mm)を示す。シリコン粒子の分離効率は、障害物を設置しない液体サイクロン装置では70%程度、円盤状障害物を設置した場合では85%程度、本発明の障害物を設置した場合では90〜100%程度となった。円盤状障害物を円錐状障害物に変えた場合も、同様に分離効率が劣る結果が得られた。
【0024】
図4を現象面から説明すると、障害物を設置しない場合、中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれた懸濁粒子は、全て上部排液管より排出され、分離効率が極端に低下する。障害物を設置すると、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれた懸濁粒子は、障害物に衝突し、逆円錐台部内壁方向に流れを変える。この粒子は、内壁に沿って流れる下降旋回流に巻き込まれ、上部排液管に向かうことなく、再び逆円錐台部下端開口部に向かって下降する。この一連の流れが装置内部で繰り返されることにより、沈殿部にほとんどの粒子が沈殿し、分離効率が向上する。円盤状障害物と本発明の障害物で分離効率に差が出るのは、円盤状障害物は、障害物上方に乱流と本体中心軸に沿って旋回する径の大きな上昇流が発生するため、逆円錐台部上部の下降旋回流に含まれる懸濁粒子の一部が、この径の大きな本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれるため分離効率が低下する。一方、本発明の障害物は、障害物上部が先細りになっているため、乱流は起こらず、障害物上方で本体中心軸に沿って旋回する上昇流の径は小さくなる。そのため、障害物上方で、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれる懸濁粒子が減少し、分離効率が向上する。
【0025】
実施例2
図5は、上部排液管が本体内部に突出していない図1に示す装置と、上部排液管が突出している図2に示す装置を用いて、上部排液管の突出の有無による分離効率の比較試験を行った。上部排液管の突出長は円筒部上端より55mm、障害物の設置高さは76mmとした。装置形状は、円筒部内径80mm、円筒部高さ120mm、逆円錐台部高さ150mm、逆円錐台部下端開口部径25mm、沈殿部上部内径80mm、障害物底部径20mm、障害物高さ35mm、障害物円錐部頂角70度であり、実施例1と同じ懸濁液を用いた。突出していない場合は突出している場合に比べ、最大10%程度効率が良くなった。
【0026】
図5を現象面から説明すると、図2に示す上部排液管が突出している場合は、図1に示す上部排液管が突出していない場合と比べて、円筒部上部空間が狭くなるので、流入速度は速くなる。しかし、円筒部下部では上部排液管がなくなるため円筒部下部空間が広がり、旋回流は減速され、懸濁粒子がより中心軸に近い位置を旋回するようなる。そのため、懸濁粒子が本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれて、分離効率が低下する。一方、上部排液管が突出していない場合は、旋回流の速度に変化が生じないので、懸濁粒子は円筒部内壁近傍を旋回する。そのため、懸濁粒子は本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれず、分離効率が向上する。
【0027】
実施例3
図6は、装置本体に流入する懸濁液の速度を変化させ、流入速度が分離効率に及ぼす影響を調べた。装置、懸濁液は実施例2の試験と若干の寸法を変更したほかは同じものを用いた。障害物を設置しない場合は、流入速度が遅くなると分離効率は低下し、0.8m/sにおいては60%程度になる。本発明の障害物を設置すると、流入流速が遅くなっても分離効率は低下せず、0.8m/sにおいて90%以上の分離効率が得られる。
【0028】
図6を現象面から説明すると、液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差が小さい懸濁粒子は、流入速度が遅くなると、より中心軸に近い場所を旋回するため、本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれやすくなる。本発明の障害物を設置することで、障害物上方の本体中心軸に沿って旋回する上昇流は弱くなり、懸濁粒子が巻き込まれる割合が低下するため、分離効率が向上すると考えられる。
【0029】
実施例4〜6
この例においては、さらに、逆円錐台部の長さを切り縮めた場合における、本発明の障害物設置の効果を示す。
実施例3の装置において、下表に示すように、逆円錐台部の長さをそれぞれ120mm、80mm、40mmと切り縮め、障害物を設置した。
〔実施例3〕(前記と同じ)
・逆円錐台部−−高さ:150mm;最大開口部径(上部径):φ80mm;最小開口部径(底部径):φ29.6mm
・障害物−−設置位置(逆円錐台部底面から障害物底面までの距離):50〜145 mm;最膨大部径:φ25mm;高さ(底面から上部尖端までの距離):H38mm;底部径φ19mm
〔実施例4〕
・逆円錐台部−−高さ:120mm;最大開口部径(上部径):φ60mm;最小開口部径(底部径):φ20mm
・障害物−−設置位置(逆円錐台部底面から障害物底面までの距離):30〜100 mm;最膨大部径:φ25mm;高さ(底面から上部尖端までの距離):H38mm;底部径φ19mm
〔実施例5〕
・逆円錐台部−−高さ:80mm;最大開口部径(上部径):φ60mm;最小開口部径(底部径):φ34mm
・障害物−−設置位置(逆円錐台部底面から障害物底面までの距離):15〜50mm;最膨大部径:φ30mm;高さ(底面から上部尖端までの距離):H41mm;底部径 φ25mm
〔実施例6〕
・逆円錐台部−−高さ:40mm;最大開口部径(上部径):φ60mm;最小開口部径(底部径):φ47mm
・障害物−−設置位置(逆円錐台部底面から障害物底面までの距離):15〜35mm;最膨大部径:φ40mm;高さ(底面から上部尖端までの距離):H48mm;底部径 φ33mm
【0030】
これらの装置について、実施例3と同様な実験を行った。結果を図9〜12に示す。なお、図9は図6と同様の実験結果であるが、対比の便宜上、流速範囲を広げて示してある。また、各図において、白抜きの符号は障害物を設けない比較例であり、黒塗りの符号が障害物を設けた場合の結果である。
【0031】
これらの結果から明らかなように、本発明により障害物を設けた場合は、いずれの場合においても流入速度(駆動水速流)0.5m/sで分離効率の顕著な改善が見られる。すなわち、この領域では、いずれの図においても障害物を設けた場合(図中、黒塗りの符号で示す)は、障害物がない場合(図中、白抜きの符号)よりも安定して高い分離効率を示している。
【0032】
また、障害物がない場合(図中、白抜きの符号)、流入速度(駆動水速流)に対する分離挙動は著しく安定性に欠いている。例えば、逆円錐台部長=120mmの場合(図9)、流入流速が1.0m/s以上で(障害物を設けなくても)90%以上の分離効率が得られるが、逆円錐台部長=120mmの場合(図10)、分離効率の安定が見られるのは流入流速が1.2m/s以上であり、流入速度が低下すると、急激な低下を示す。さらに、逆円錐台部長=80mmの場合(図11)、図10と比べて安定しているようにも見えるが、実際には流速に応じて分離効率の安定性はむしろ大きい(グラフでは特に0.7m/s近傍の変動はそれ程大きく現れていないが、データの取り方によってはより大きな変動を示す)。さらに、逆円錐台部長=40mmの場合(図12)、中流速以上での分離効率は著しく低下する。
【0033】
障害物を設けた場合、流入速度(駆動水速流)0.5m/s未満の低速域での変動は若干増大するが、現実にはこのような流入速度(駆動水速流)まで考慮する必要は稀であり、本発明により、流入速度(駆動水速流)0.5m/s以上の領域で安定した分離効率を実現できることは予想外の効果である。また、逆円錐長を短縮できるということは、装置全体の高さも短縮できるということであり、本発明によれば、装置のコンパクト化の実現効果は極めて顕著である。
【0034】
実施例7
様々な条件において、障害物の最膨大部を通る断面における障害物断面積/逆円錐台断面積比を変えて分離効率との関係を調べた。結果を図13及び表1〜9に示す(両者は同じものであるが図では一部区別がつかないため数値データも示すものである)。なお、図13及び表1〜9において、「逆円錐台部」直後の数値は逆円錐台部の長さを示し、その後の括弧内の数値は、障害物の最膨大部の径、障害物の底面の径、障害物の全高、流入速度(駆動水速流)である。

【0035】
【表1】

【0036】
【表2】



【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
【表6】

【0041】
【表7】

【0042】
【表8】

【0043】
【表9】

【符合の説明】
【0044】
1a,1b,1c,1d,1e 固液分離装置本体
2 円筒部
3 逆円錐台部
4 沈殿部
5 液流入口
6 液流入管
7 上部排液口
8 上部排液管
9 懸濁粒子排出口
10 懸濁粒子排出口管
11 バルブ
12 下部排液口
13 下部排液管
14 逆円錐台部下端開口部
15 障害物
16 円筒部上部空間
17 円筒部下部空間
18 下降旋回流
19a 中心部上昇旋回流(上部)
19b 中心部上昇旋回流(下部)
20 中心部分流
21 障害物外表面流
22 懸濁粒子沈降流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部と円筒部下端に連設された逆円錐台部と逆円錐台部下端に連設された懸濁粒子を堆積するための沈殿部からなる本体と、前記円筒部の側面接線方向に設けた液流入口と、前記円筒部上端または液流入口よりも上方の側面から、前記本体内部に開口する上部排液管と、前記沈殿部下方に設けた懸濁粒子排出口からなる液体サイクロンにおいて、前記本体中心軸上に中心軸と直交する底面を有する柱状部材と前記部材上端に連設した上方に向かって先細りになる部材からなる障害物を前記本体内部に設置して、液体本体よりも重く、かつ液体本体との比重差が小さい懸濁粒子を分離することを特徴とする固液分離装置
【請求項2】
前記障害物が、前記逆円錐台部内壁に沿って旋回する下降流が前記逆円錐台部の下部で上方に向きを変え本体中心軸に沿って旋回する上昇流に巻き込まれる懸濁粒子の流れを、前記逆円錐台部内壁方向に変えることを特徴とする請求項1に記載の固液分離装置
【請求項3】
前記障害物が、下方に向かって径の小さくなる逆円錐台状の柱状部材と前記柱状部材上端に連設した円錐状部材からなる請求項1または2に記載の固液分離装置
【請求項4】
前記上部排液管が、前記本体内部に突出しないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の固液分離装置
【請求項5】
前記液流入口における液流入速度が、1.2m/s以下である請求項1から4のいずれかに記載の固液分離装置
【請求項6】
前記液流入口における液流入速度が、0.5m/s以上において分離効率が80%以上である請求項1から5のいずれかに記載の固液分離装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−78965(P2011−78965A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191598(P2010−191598)
【出願日】平成22年8月28日(2010.8.28)
【出願人】(509253918)株式会社プレスカ (1)
【出願人】(509253907)
【出願人】(509253893)
【Fターム(参考)】