説明

液体ダンパ及び液体ダンパ装置

【課題】 長い距離にわたってダンパ効果を維持することができる液体ダンパを提供する。
【解決手段】筒部31を比較的高い剛性をもって形成する。筒部31の内周面には、オリフィス33を有する隔壁部32を形成する。筒部31の先端部には、第1作動部40を設ける。筒部31の基端部には、第2作動部50を設ける。第1、第2作動部40,50は、筒部31の軸線方向へ押し潰すことができるよう、弾性変形可能に形成する。第1、第2作動液室61,62内には、作動液を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば二つの物体の相対的な高速移動を阻止して低速移動させる液体ダンパ及びその液体ダンパが採用された液体ダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の液体ダンパとしては、例えば下記特許文献1に記載のものがある。この液体ダンパは、両端が開口したシリンダ部及びこのシリンダ部の内部をその軸線方向に二分する隔壁部を有するダンパ本体と、シリンダ部の一端開口部と他端開口部とにそれぞれ配置された第1、第2ピストンと、シリンダ部の内周面と第1、第2ピストンの外周面との間にそれぞれ設けられた粘弾性材からなるシール部材とを備えている。シリンダ部の内部は、隔壁部、第1ピストン及びシール部材によって区画された第1作動液室と、隔壁部、第2ピストン及びシール部材によって区画された第2作動液室とに区分されている。第1、第2収容室は、隔壁を貫通するオリフィスによって連通させられており、それらの内部には作動液が充填されている。
【0003】
上記構成の液体ダンパにおいて、第1ピストンが隔壁部に接近するように移動すると、第1液体室内の作動液がオリフィスを通って第2液体室に流入する。作動液がオリフィスを通過するときの流通抵抗によって第1ピストンの高速移動が阻止され、第1ピストンが低速移動する。第1ピストンが隔壁部側へ移動すると、第1その移動距離の分だけ第2ピストンが隔壁部から離間するように移動する。逆に、第2ピストンが隔壁部に接近するように移動するときには、第1ピストンが隔壁部から離間するように移動する。
【0004】
【特許文献1】特開平11−63095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の液体ダンパにおいて、ダンパ効果を長い距離にわたって維持するためには、第1、第2ピストンの移動距離を長くする必要がある。ところが、第1、第2ピストンの移動は、シール部材の変形だけに依存しており、ダンパ効果を長い距離にわたって維持しようとすると、シール部材の変形量を大きくしなければならず、シール部材に無理が掛かってしまう。このため、ダンパ効果を長い距離にわたって維持することが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題を解決するために、この発明に係る液体ダンパは、隔壁部を有するダンパ本体と、上記隔壁部を間にしてその両側に配置され、上記隔壁部との間に第1、第2作動液室がそれぞれ形成された第1、第2作動部と、上記第1及び第2作動液室に収容された作動液とを備え、上記隔壁部には上記第1、第2作動液室を連通させるオリフィスが形成され、上記第1、第2作動部が上記隔壁部に対して接近、離間する方向へ変形することができるよう、上記第1作動部の全体及び上記第2作動部の全体が可撓性を有する材料によってそれぞれ一体に形成され、上記第1、第2作動部が上記隔壁部に接近、離間するようにそれぞれ変形すると、それに対応して上記第1、第2作動液室の内部容積がそれぞれ減少、増大することを特徴としている。
この場合、上記隔壁部の中央部がその周縁部に対して上記第1作動部に近接して位置するよう、上記隔壁部がテーパ状に形成され、上記隔壁部は、上記第1作動液室内の圧力が上記第2作動液室内の圧力より所定の大きさだけ高くなると、上記隔壁部が平板状になるように変形可能であり、上記隔壁部の中央部に上記オリフィスが配置されていることが望ましい。
上記ダンパ本体、上記第1作動部及び上記第2作動部がシリコンゴムからなることが望ましい。
上記作動液がシリコングリスであることが望ましい。
上記第1作動液室内には、上記隔壁部に接近するように変形させられた上記第1作動部を元の状態に復帰させるための第1復帰ばねが配置されていることが望ましい。
上記第2作動部の外部には、上記隔壁部から離間するように変形させられた第2作動部を元の状態に復帰させるための第2復帰ばねが配置されていることが望ましい。
上記第1作動部が外側に向かって膨出した断面形状に形成され、上記第2作動部が上記第2作動液室内に向かって凹む断面形状に形成されていることが望ましい。
上記第2作動部の外部には、上記第2作動部が上記隔壁部から離間するように変形することを許容する外側空間が形成され、この外側空間の大きさが、上記第1作動部の内部に形成される内側空間の大きさと同等以上に設定されていることが望ましい。
上記ダンパ本体の外面には、上記外側空間に連通する連通溝が形成されていることが望ましい。
この発明に係るダンパ装置は、液体ダンパと、この液体ダンパを保持する基部とを備え、上記液体ダンパとして請求項1〜9のいずれかに記載の液体ダンパが用いられ、上記ダンパ本体が上記基部によって保持されていることを特徴としている。
この場合、上記基部には、底部を有する取付孔が形成され、この取付孔には、上記第1作動部の少なくとも一部が外部に突出し、かつ上記液体ダンパが上記取付孔の内周面に接触した状態で上記液体ダンパの上記第2作動部側の端部が挿入され、上記取付孔の底部と上記液体ダンパの上記第2作動部側の端部との間には、上記第2作動部が上記隔壁部から離間するように変形することを許容する変形吸収室が形成され、上記取付孔の内面と上記液体ダンパの外面との間には、一端が上記外側空間に連通し、他端が外部に開放された空気放出通路が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
上記特徴構成を有するこの発明によれば、第1作動部の全体及び第2作動部の全体が可撓性を有する材料によって構成されているので、第1、第2作動部全体が変形可能である。したがって、第1、第2作動部は、それぞれの各部の変形量が小さくても全体としての変形量が大きくなる。よって、第1、第2作動部の隔壁部に接近、離間する方向への変形量を、第1及び第2作動部の一部に無理な変形が生じることなく、大きくすることができる。よって、ダンパ効果を長い距離にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、この発明に係る液体ダンパが採用された収容ボックスを示す。収容ボックスは、前面が開口したボックス本体(基部)1と、このボックス本体1に水平方向へ出し入れ可能に収容された引き出し2とを有している。ボックス本体1の前面1aには、後方に向かって延びる取付孔1bが形成されている。この取付孔1bには、液体ダンパ10が装着されている。液体ダンパ10の一端部(図1において左端部;以下、先端部と称し、逆側の端部を基端部と称する。)は、取付孔1aから左方に突出している。
【0009】
引き出し2が開位置から閉位置に向かって移動し、閉位置に対して所定距離だけ手前の当接位置に達すると、引き出し2の前板2aの背面2bが液体ダンパ10の先端部に突き当たる。その後、引き出し2は、閉位置に達して背面2bが前面1aに突き当たると停止する。液体ダンパ10は、引き出し2が当接位置から閉位置に達するまでの間に引き出し2の移動速度を低速にし、背面2bが前面1aに高速で衝突することを阻止する。なお、この実施の形態では、背面2bに凹部が形成され、この凹部に液体ダンパ10の先端部(後述する第1作動部40)が入り込むようになっているので、液体ダンパ10の先端部は、引き出し2が閉位置に達したときも取付孔1bから若干突出しているが、引き出し2が閉位置に達したときには、液体ダンパ10全体が取付孔1b内に入り込むようにしてもよい。
【0010】
図2〜図6に示すように、液体ダンパ10は、内部に密閉空間が形成された殻体20を有している。殻体20は、その全体が同一の材質によって構成されている。殻体20を構成する材質としては、シリコンゴム等の弾性材が用いられる。これらの弾性材によれば、殻体2のうちの、厚い部分(後述するダンパ本体30の筒部31)をほとんど弾性変形することがないような大きな剛性を有するように構成する一方、厚さが比較的薄い部分(後述する第1、第2作動部40,50)を大きく弾性変形することができるように構成することができる。
【0011】
殻体20は、必ずしもその全体を同一の材質で構成する必要がなく、各部の材質を変えてもよい。例えば、ダンパ本体30の筒部31を剛体で形成し、ダンパ本体30の隔壁部32及び第1、第2作動部40,50だけを弾性材で構成してもよい。また、殻体20のうちの第1、第2作動部40,50は、弾性材以外の変形可能な材料、すなわち可撓性を有する材料によって構成してもよい。そのような可撓性を有する材料としては、例えば単層ないしは積層の樹脂フィルム又は樹脂フィルムの間にアルミニウム等の金属箔を介装した積層フィルムがある。
【0012】
殻体20は、三つの部分によって構成されている。殻体20の中央部に配置されたダンパ本体30、先端部に配置された第1作動部40及び基端部に配置された第2作動部50の三つの部分である。
【0013】
ダンパ本体30は、両端が開口した筒部31を有している。筒部31は、断面円形に形成されているが、円形以外の断面形状、例えば正方形状にしてもよい。筒部31は、その軸線方向に押圧力が作用した場合において、その押圧力の大きさが所定の大きさ以下であるときには、軸線方向にほとんど弾性変形しない程度の剛性を有している。換言すれば、筒部31がほとんど弾性変形しないような剛性を有するように、筒部31の壁部の厚さが決定されている。
【0014】
筒部31は、取付孔1bに挿入されている。筒部31の外径及び長さは、取付孔1bの内径及び深さとほぼ同一になっている。したがって、筒部31の外周面は、取付孔1bの内周面にほとんど隙間なく接している。筒部31の基端面(図2及び図3において右端面)は、取付孔1bの底面に突き当たっている。
【0015】
筒部31の内周面には、隔壁部32が形成されている。この隔壁部32は、筒部31の基端側から先端側へ向かって先細りのテーパ状に形成されている。隔壁部32の厚さは、筒部31の周壁部の厚さより薄くなっている。この結果、隔壁部32は、厚さが薄い分だけ筒部31より弾性変形し易くなっており、隔壁部32に所定の大きさの押圧力が筒部31の先端側から基端側に向かって作用すると、図3に示すように、筒部31の軸線とほぼ直交する平板状になるように弾性変形可能である。
【0016】
隔壁部32の中央部には、所定の内径を有するオリフィス33が形成されている。このオリフィス33の内径は、隔壁部32の変形に伴って変化する。すなわち、隔壁部32に外力が作用せず、隔壁部32が図2に示す自然状態になっているときには、オリフィス33の内径が大きく、隔壁部32が図3に示す状態まで変形するにしたがってオリフィス33の内径が小さくなる。自然状態でのオリフィス33の内径は、オリフィス33内を後述する作動液が通過するときに発生する流通抵抗の大きさに対応して決定される。
【0017】
図2に示すように、第1作動部40は、有底円筒状をなしており、軸線を筒部31の軸線と一致させた胴部41と、この胴部41の先端部に形成された底部42とを有している。胴部41の開口側の端部には、先端側から基端側へ向かうにしたがって大径になるテーパ部43が形成されている。底部42の中央部には、外側に向かって膨出する半球状の膨出部44が形成されている。第1作動部40は、必ずしもこのような形状に形成する必要がなく、例えば胴部41と平板状の底部42とによって単なる有底円筒状に形成してもよい。テーパ部43の大径側の端部は、筒部31の先端部に形成された薄肉部31aに一体的に結合されている。この結果、第1作動部40が、外側に向かって膨出した断面形状を有しており、第1作動部40の内部、つまりテーパ部43の大径側端部より先端側に位置する内部には、内側空間S1が形成されている。また、隔壁部32、筒部31の隔壁部32より先端側に位置する部分及び第1作動部40によって第1作動液室61が区画されている。

【0018】
第1作動部40の厚さは、いずれの箇所においても筒部31及び隔壁部32の厚さより薄くなっている。したがって、第1作動部40は、筒部31及び隔壁部32より弾性変形し易くなっており、膨出部44の先端部(図2において左端部)が基端側に押されると、図3に示すように、膨出部44、短筒部41及びテーパ部43が押し潰され、その分だけ第1作動液室61の内部容積が小さくなる。特に、この実施の形態では、膨出部44が底部42と同一平面上に位置するとともに、短筒部41がほぼ同一の断面形状を維持した状態で押し潰されるように、第1作動部40が構成されている。ただし、第1作動部40は、基端側に向かって押し潰された結果、第1作動液室61内の容積を小さくすることができるのであれば、その形状は任意である。
【0019】
第2作動部50は、第1作動部40と同一の形状に形成されており、第1作動部40の胴部41、底部42、テーパ部43及び膨出部44に対応した胴部51、底部52、テーパ部53及び膨出部54を有している。第2作動部50は、その全体が筒部31の内部に収容され、かつ底部42が先端側に位置するように配置されている。そして、テーパ部53の大径側の端部が筒部31の内周面の基端部に一体的に結合されている。この結果、第2作動部50は、第2作動液室に向かって凹んだ断面形状を有しており、第2作動部50の外部、つまりテーパ部53の大径側端部より先端側に位置する外部には、外側空間S2が形成されている。この外側空間S2は、内側空間S1と同一の内部容積を有しているが、内側空間S1より大きく設定してもよい。また、隔壁部32、筒部31の隔壁部32より基端側に位置する部分及び第2作動部50によって第2作動液室62が形成されている。この第2作動液室62は、第1作動液室61とオリフィス33を介して連通している。
【0020】
殻体20の内部、つまり第1、第2作動液室61,62及びオリフィス33内には、作動液が充填されている。したがって、図3に示すように、第1作動部40が押し潰されると、第1作動液室61内の作動液がオリフィス33を通って第2作動液室62に流入する。作動液が第1作動液室61から第2作動液室62内に流入すると、その流入量に対応した分だけ、第2作動部50が押し潰される。ここで、第1作動部40の内部に形成される内側空間S1と、第2作動部50の外部に形成される外側空間S2とが互いに等しいので、第1作動部40が内側空間S1内から突出しないように押し潰されている限り、第2作動部50も外側空間S2から突出することがない。よって、仮に、筒部31の第2作動部50より基端側の部分に空間が無くても、第2作動部50は問題なく押し潰すことができる。
【0021】
筒部31の外面には、連通溝(空気放出通路)63が形成されている。この連通溝63は、横溝63a及び縦溝63bを有している。横溝63aは、筒部31の基端面に形成されており、筒部31をその内周面から外周面まで横断している。したがって、横溝63bの内側の端部は、外側空間S2に連通している。縦溝63bは、筒部31の外周面に形成されており、筒部31の基端面から先端面まで縦断している。しかも、縦溝63bの基端部は、横溝63bの外側の端部と交差して連通しており、縦溝63cの先端部は、ボックス本体1の前面1aから外部に開放されている。
【0022】
上記構成の液体ダンパ10は、図2に示すように、第2作動部50側の端部が取付孔1bに挿入されている。より詳しく述べると、薄肉部31aを除く筒部31が取付孔1bに挿入され、筒部31の基端面が取付孔1bの底面に押し付けられている。その結果、第1作動部40が取付孔1bから前方に突出させられている。また、取付孔1bの底部と液体ダンパ10との間には、取付孔1bの底部、筒部31の下端部及び第2作動部によって囲まれた変形吸収室81が形成されている。この変形吸収室81は、外側空間S2を含んでいる。
【0023】
引き出し2が開位置から当接位置まで移動すると、引き出し2の背面2bが第1作動部40の膨出部44に突き当たる。その結果、第1作動部40が筒部31の軸線方向に押し潰され、第1作動液室61内の作動液がオリフィス33を通って第2作動液室62内に流入する。オリフィス33内を作動液が通るときの流通抵抗により、引き出し2の閉方向への移動速度が低速に抑えられる。引き出し2の閉方向への速度が所定の速度以上であるときには、流通抵抗が所定の大きさ以上になり、隔壁部32の中央部が第2作動液室62側に移動するように隔壁部32が弾性変形する。その結果、オリフィス33が縮径され、流通抵抗がさらに増大する。したがって、引き出し2の減速割合が大きくなる。
【0024】
第1作動液室61内の作動液が第2作動液室62内に流入すると、第2作動部50が押し潰される。このとき、変形吸収室81(外側空間S2)内の空気が連通溝63を通って外部に放出されるので、第2作動部50は無理なく押し潰される。しかも、変形吸収室81が外側空間S2を含んでおり、第2作動部50は外側空間S2から外部に突出することなく押し潰される。したがって、押し潰された第2作動部50が取付孔1bの底面に突き当たることがない。
【0025】
引き出し2は、閉位置まで移動して、その背面2bがボックス本体1の前面1aに突き当たって停止する。引き出し2が停止した後、第1、第2作動部40,50は変形状態を維持するが、隔壁部33はそれ自体の弾性によって図2に示す元の状態に戻る。引き出し2が当接位置を越えて引き出されると、第1作動部40及び第2作動部50がそれらの弾性によって図2に示す元の位置に戻り、液体ダンパ10全体が元の状態に復帰する。
【0026】
上記液体ダンパ10においては、第1、第2作動部40,50の一部だけが弾性変形するのではなく、それらの全体が弾性変形する。したがって、筒部31の軸線方向における第1、第2作動部40,50の変形量を大きくすることができる。よって、ダンパ効果を長い距離にわたって維持することができる。しかも、第1、第2作動部40,50全体が弾性変形するので、それらの一部に無理な変形が生じるようなことがない。
【0027】
次に、上記液体ダンパ10の製造方法を説明する。図7は、液体ダンパ10の製造方法の一例を示す。この製造方法では、殻体20が、三つの部分によって構成されている。第1、第2及び第3構成体71,72,73の三つの部分である。第1構成体71は、下端部を除く筒部31と、第1作動部40とを一体に成形してなるものである。第2構成体72は、隔壁部33と、その外周部に位置する筒部31の極く一部とを一体に成形してなるものである。第3構成体73は、筒部31の下端部と、第2作動部50とを一体に成形さしてなるものである。各構成体71〜73は、いずれも周知の成形法によって成形されている。第1構成体71の内周面には、環状溝71aが予め形成されている。そして、殻体20を製造する場合には、まず、環状溝71aに第2構成体72の外周部を嵌合し、接着等の手段によって固着する。第2構成体72は、それ自体及び第1構成体71を弾性変形させることにより、第1構成体71の開口部から内部に挿入し、さらに環状溝71aに挿入することができる。その後、第1構成体71の基端面に第3構成体73を接着等の手段によって固着する。これによって、殻体20を製造することができる。その後、殻体20の内部に、作動液が充填される。作動液は、第3構成体73の第1構成体71への固着前に第1構成体71内に充填しておくことにより、殻体20の完成と同時に殻体20内に充填することも可能であり、殻体20の完成後、注射器によって充填することも可能である。注射器によって作動液を充填する場合には、殻体20から空気を抜きつつ充填が行われる。
【0028】
図8は、液体ダンパ10の製造方法の他の例を示す。この製造方法では、殻体20が二つの半体74A,74Bによって構成されている。二つの半体74A,74Bは、筒部31の軸線を含む平面によって殻体20を二つに縦断した形状を有しており、周知の成形法によってそれぞれ成形されている。そして、この半体74A,74Bを接着等の手段によって互いに固着することにより、殻体20が構成されている。殻体20の内部には、注射器等によって作動液が充填される。
【0029】
図9は、この発明に係る液体ダンパの第2実施の形態を示す。この実施の形態の液体ダンパ10Aにおいては、筒部31に代えて筒部31Aが用いられている。筒部31Aの外径は、筒部31と同一であるが、内径が筒部31の内径より大径になっている。その分だけ筒部31Aの厚さが筒部31の厚さより薄くなっている。特に、この実施の形態では、筒部31Aの厚さが隔壁部32の厚さより薄くなっており、第1、第2作動部40,50の厚さとほぼ同一か、若干厚いだけである。このため、第1作動部40が押し潰されると、筒部31Aの隔壁32より基端側の中央部が外側に膨らむように弾性変形しようとする。しかし、筒部31Aは、取付孔1bに嵌合されているため、実際には膨らむことがない。したがって、この液体ダンパ10Aは、液体ダンパ10とほぼ同様に挙動する。
【0030】
また、この実施の形態の液体ダンパ10Aを用いる場合には、筒部31Aの厚さが薄いため、連通溝63、特に縦溝63bを筒部31Aに形成することが困難である。そこで、取付孔11bの内面に連通溝(空気放出通路)63Aが形成されている。連通溝63Aは、取付孔11bの底面に形成された横溝63cと、取付孔11bの内周面に形成された縦溝63dとによって構成されている。横溝63cは、底面を取付孔11bの直径線に沿って横断している。縦溝63dは、取付孔11bの内周面を底面から開口端まで延びており、底面側の端部が横溝63cと交差して連通している。したがって、第2作動部50が押し潰されると、変形吸収室81内の空気が連通溝63Aを通って外部に放出される。取付孔11bの内面に連通溝63Aを形成する点は、液体ダンパ10を採用する場合にも適用可能である。
【0031】
図10は、液体ダンパ10Aの製造方法の一例を示す。この製造方法では、殻体20が、第1、第2及び第3の三つ構成体75,76,77によって構成されている。第1構成体75は、筒部31Aの薄肉部31aと第1作動部40とが一体に成形されてなるものである。第2構成体76は、隔壁部32と筒部31aの隔壁部32近傍部分とが一体に成形されてなるものである。第3構成体77は、筒部31Aのうちの第2構成体76より基端側に位置する部分と第2作動部50とが一体に成形されてなるものである。そして、第1構成体75の基端面に第2構成体76の先端面が固着され、第2構成体76の基端面に第3構成体77の先端面が固着されることにより、殻体20が構成されている。殻体20の完成後、その内部に作動液が充填される。
【0032】
図11は、液体ダンパ10Aの他の使用例を示す。この使用例では、液体ダンパ10Aが基台(基部)3の上面3aに載置されている。この状態で、第1作動部40の上端部(膨出部44の先端部)を下方に向かって押すと、上記二つの実施の形態と同様に、第1作動部40が押し潰されて第1作動液室61内の作動液がオリフィス33を通って第2作動液室62内に流入する。すると、第2作動部50が押し潰されるのみならず、筒部31のうちの隔壁部32より下側の部分が、上からの押圧力及び第2作動液室62内に流入する作動液の圧力によって外側に膨出するように弾性変形する。したがって、この使用の形態での液体ダンパ10Aにおいては、筒部31のうちの隔壁部32より下側の部分及び第2作動部50によって実際の第2作動部が構成されている。なお、基台3の上面3aには、空間S2内と外部とを連通させるための連通溝(空気放出通路)63Bが形成されている。
【0033】
図12及び図13は、この発明に係る液体ダンパの第3実施の形態を示す。この実施の形態の液体ダンパ10Bにおいては、筒部31の外周面にフランジ部34が形成されている。このフランジ部34は、筒部31の軸線方向において隔壁部32より先端側に配置されているが、隔壁部32と同一位置に配置してもよく、隔壁部32より基端側に配置してもよい。また、この液体ダンパ10Bにおいては、第2作動部50に代えて第2作動部50Aが用いられている。第2作動部50Aは、筒部31の軸線と直交する薄板状に形成されている。なお、第1作動部40も薄板状に形成してもよい。
【0034】
液体ダンパ10Bの使用に際しては、基板(基部)4が用いられる。基板4には、その上面4aから下面4bまで貫通する貫通孔4cが形成される。筒部31の外径と同一の内径を有しており、筒部31が隙間なく嵌合される。また、上面4aにはフランジ部34が載置される。その状態で第1作動部40が下方に押し潰されると、第1作動液室61内の作動液が第2作動室62内に流入する。その結果、第2作動部50Aが下方へ向かって膨出するように弾性変形する。
【0035】
図14は、この発明に係る液体ダンパの第4実施の形態を示す。この実施の形態の液体ダンパ10Cにおいては、第1作動液室61内に第1復帰ばね5が設けられ、隔壁部32上に載置されている。この第1復帰ばね5は、第1作動部40が押し潰されると、第1作動部40の先端部内面に接触し、第1作動部40によって圧縮される。第1作動部40に対する押圧力が作用しなくなると、第1復帰ばね5が第1作動部40をそれ自体の弾性と協働して押し戻す。よって、第1作動部40を素早く元の状態に復帰させることができる。なお、第1復帰ばね5を用いる場合には、第1作動部40の厚さを薄くしたり、あるいは弾性を有さない可撓性材料によって第1作動部40を構成し、押し潰された第1作動部40がそれ自体では復帰変形することができないようにしてもよい。この場合には、押し潰された第1作動部40が、第1復帰ばね5の付勢力だけで元の状態に復帰変形する。
【0036】
図15は、この発明に係る液体ダンパの第5実施の形態を示す。この実施の形態の液体ダンパ10Dにおいては、第2作動部50の外側に第2復帰ばね6が配置されている。この第2復帰ばね6は、図示しない基部に載置される。この第2復帰ばね6は、第2作動部50が押し潰されると、第2作動部50の先端部外面に接触し、第2作動部50によって圧縮される。第2作動部50に対する押圧力(作動液の圧力)が作用しなくなると、第2復帰ばね6が第2作動部50をそれ自体の弾性と協働して押し戻す。よって、第2作動部50を素早く元の状態に復帰させることができる。勿論、第1作動部40と同様に、第2作動部50の厚さを薄くしたり、弾性を有さない可撓性材料によって第2作動部50を構成し、第2復帰ばね50だけで第2作動部50を元の状態に復帰させるようにしてもよい。なお、この実施の形態においては、第1作動液室61内に第1復帰ばね5を設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明に係る液体ダンパが用いられた収容ボックスの要部を示す斜視図である。
【図2】図1のX−X線に沿う拡大断面図である。
【図3】第1作動部が押し潰された状態で示す図2と同様の断面図である。
【図4】この発明に係る液体ダンパの第1実施の形態を示す側面図である。
【図5】同実施の形態の正面図である。
【図6】同実施の形態の背面図である。
【図7】同実施の形態の製造方法の一例を示す断面図である。
【図8】同実施の形態の製造方法の他の例を示す斜視図である。
【図9】この発明に係る液体ダンパの第2実施の形態を第1の使用状態で示す断面図である。
【図10】同実施の形態の製造方法の一例を示す断面図である。
【図11】同実施の形態を第2の使用状態で示す断面図である。
【図12】この発明に係る液体ダンパの第3実施の形態を使用状態で示す断面図である。
【図13】同実施の形態を第1作動部が押し潰された状態で示す図12と同様の断面図である。
【図14】この発明に係る液体ダンパの第4実施の形態を示す断面図である。
【図15】この発明に係る液体ダンパの第5実施の形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
S1 内側空間
S2 外側空間
1 ボックス本体(基部)
1b 取付孔
3 基台(基部)
4 基板(基部)
5 第1復帰ばね
6 第2復帰ばね
10 液体ダンパ
10A 液体ダンパ
10B 液体ダンパ
10C 液体ダンパ
10D 液体ダンパ
20 殻体
30 ダンパ本体
31 筒部
32 隔壁部
33 オリフィス
40 第1作動部
50 第2作動部
50A 第2作動部
63 連通溝(空気放出通路)
63A 連通溝(空気放出通路)
63B 連通溝(空気放出通路)
81 変形吸収室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁部を有するダンパ本体と、上記隔壁部を間にしてその両側に配置され、上記隔壁部との間に第1、第2作動液室がそれぞれ形成された第1、第2作動部と、上記第1及び第2作動液室に収容された作動液とを備え、上記隔壁部には上記第1、第2作動液室を連通させるオリフィスが形成され、上記第1、第2作動部が上記隔壁部に対して接近、離間する方向へ変形することができるよう、上記第1作動部の全体及び上記第2作動部の全体が可撓性を有する材料によってそれぞれ一体に形成され、上記第1、第2作動部が上記隔壁部に接近、離間するようにそれぞれ変形すると、それに対応して上記第1、第2作動液室の内部容積がそれぞれ減少、増大することを特徴とする液体ダンパ。
【請求項2】
上記隔壁部の中央部がその周縁部に対して上記第1作動部に近接して位置するよう、上記隔壁部がテーパ状に形成され、上記隔壁部は、上記第1作動液室内の圧力が上記第2作動液室内の圧力より所定の大きさだけ高くなると、上記隔壁部が平板状になるように変形可能であり、上記隔壁部の中央部に上記オリフィスが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体ダンパ。
【請求項3】
上記ダンパ本体、上記第1作動部及び上記第2作動部がシリコンゴムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体ダンパ。
【請求項4】
上記作動液がシリコングリスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液体ダンパ。
【請求項5】
上記第1作動液室内には、上記隔壁部に接近するように変形させられた上記第1作動部を元の状態に復帰させるための第1復帰ばねが配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液体ダンパ。
【請求項6】
上記第2作動部の外部には、上記隔壁部から離間するように変形させられた第2作動部を元の状態に復帰させるための第2復帰ばねが配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体ダンパ。
【請求項7】
上記第1作動部が外側に向かって膨出した断面形状に形成され、上記第2作動部が上記第2作動液室内に向かって凹む断面形状に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の液体ダンパ。
【請求項8】
上記第2作動部の外部には、上記第2作動部が上記隔壁部から離間するように変形することを許容する外側空間が形成され、この外側空間の大きさが、上記第1作動部の内部に形成される内側空間の大きさと同等以上に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の液体ダンパ。
【請求項9】
上記ダンパ本体の外面には、上記外側空間に連通する連通溝が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の液体ダンパ。
【請求項10】
液体ダンパと、この液体ダンパを保持する基部とを備え、上記液体ダンパとして請求項1〜9のいずれかに記載の液体ダンパが用いられ、上記ダンパ本体が上記基部によって保持されていることを特徴とする液体ダンパ装置。
【請求項11】
上記基部には、底部を有する取付孔が形成され、この取付孔には、上記第1作動部の少なくとも一部が外部に突出し、かつ上記液体ダンパが上記取付孔の内周面に接触した状態で上記液体ダンパの上記第2作動部側の端部が挿入され、上記取付孔の底部と上記液体ダンパの上記第2作動部側の端部との間には、上記第2作動部が上記隔壁部から離間するように変形することを許容する変形吸収室が形成され、上記取付孔の内面と上記液体ダンパの外面との間には、一端が上記外側空間に連通し、他端が外部に開放された空気放出通路が形成されていることを特徴とする請求項10に記載の液体ダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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