説明

液体レンズを用いた太陽光集光器

【課題】ソーラー調理器やソーラー発電機において集光要素であるレンズの大口径化を容易に行うことができ、また、不使用時の可搬性にも優れ、しかも、製造コスト面でも有利な液体レンズを用いた太陽光集光器を提供する。
【解決手段】下側に開放部Aを有する架台フレームFと、この架台フレームFの開放部Aの上部に設置された集光レンズ部Lとを備えた太陽光集光器において、前記集光レンズ部Lを、フィルム保持枠1の上枠11と下枠との間に周縁を挟み込んで固定され、架台フレームFの開放部Aの上部に水平状態に張設された可撓性の透光フィルムと;この透光フィルム上に収容された透明液とにより構成する一方、前記架台フレームFの開放部Aには、集光レンズ部Lの下方に光路を形成する少なくとも一つのミラー部材Mを配置して集光器を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光集光器の改良、詳しくは、ソーラー調理器やソーラー発電機においてレンズの大口径化を容易に行うことができ、また、大口径化した際に機能性や使い勝手の面で不都合が生じず、不使用時の可搬性にも優れ、しかも、製造コストも低廉な液体レンズを用いた太陽光集光器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ソーラー発電機やソーラー調理器など、自然エネルギーである太陽光をエネルギー源に利用した機器類が数多く開発されている。また、それらの機器類においては、太陽光を効率良く利用するための集光機構が必須であり、中には大きなエネルギーを得るために大口径のフレネルレンズを使用したものも存在する。
【0003】
ところで、上記ソーラー調理器に関しては、キャンプ等で使用されることが想定されるため屋外に固定して設置されることは少なく、一般的にキャンプ等を行う場所に自由に持ち運べるように可搬型の形態で作製されることが多い。
【0004】
そのため、上記ソーラー調理器の集光機構に大口径のレンズを用いると、器具のサイズが大きくなって乗用車に積めなくなったり、登山キャンプに携帯できなくなる等、器具の使い勝手が損なわれてしまう。しかも、大口径のフレネルレンズは高価であるため器具のコストも高く付き易い。
【0005】
そこで、従来、凸型又は凹型レンズ状に膨らむ透明な袋体を使用して、この袋に水を充填したものを集光レンズに用いる技術も提案されているが(特許文献1参照)、この従来技術では、不使用時に水を抜いて袋のみを持ち運ぶだけでよいため、携帯性は向上するものの、袋体が軟質材料で作製されていることから形態安定性に乏しく大型化には向かない。
【0006】
一方、従来においては、円筒型の枠体の両方(又は一方)の開口部に可撓性フィルムを張り、枠内に充填した水の内部圧力で可撓性フィルムを変形させてレンズ凸面を形成する技術も公知となっている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0007】
しかしながら、上記従来の液体レンズは、枠内への水の供給及び排出をポンプで行う必要があるため、レンズを大型化すると水の給排出が面倒になる。また、大型化した液体レンズを縦向きで使用するとフィルムの凸面が水の重みによって変形してしまい焦点位置が安定しない等、機能面でも問題を生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭57−190901号公報(第1−2頁、第1−2図)
【特許文献2】特開昭49−75158号公報(第1−2頁、第1−2図)
【特許文献3】特開昭50−103346号公報(第1−3頁、第1−3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、ソーラー調理器やソーラー発電機において集光要素であるレンズの大口径化を容易に行うことができ、また、レンズを大口径化しても機能性や使い勝手の面で不都合が生じることがなく、不使用時の可搬性にも優れ、しかも、製造コスト面でも有利な液体レンズを用いた太陽光集光器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0011】
即ち、本発明は、下側に開放部Aを有する架台フレームFと、この架台フレームFの開放部Aの上部に設置された集光レンズ部Lとを備えた太陽光集光器において、
前記集光レンズ部Lを、フィルム保持枠1の上枠11と下枠12との間に周縁を挟み込んで固定され、架台フレームFの開放部Aの上部に水平状態に張設された可撓性の透光フィルム2と;この透光フィルム2上に収容された透明液3とにより構成する一方、
前記架台フレームFの開放部Aには、集光レンズ部Lの下方に光路を形成する少なくとも一つのミラー部材Mを配置して集光器を構成したことにより、
当該ミラー部材Mを反射した太陽光が集光レンズ部Lに入射したとき、透明液3の自重によって透光フィルム2の下面が撓んで形成された凸レンズにより太陽光を上方に向けて集光可能とした点に特徴がある。
【0012】
また本発明においては、必要に応じて上記手段に加えて、フィルム保持枠1内に収容した透明液3上に保護フィルム4が浮した状態で載置して透明液3の波立ちを防止するという技術的手段を採用することもできる。
【0013】
また本発明は、上記太陽光集光器において、フランジ部11aを備えた上枠11と、同じくフランジ部12aを備えた下枠12と、前記上枠11と下枠12のフランジ部11a・12aを挿入するための溝部が内周面に形成され、かつ、枠を拡開するためのヒンジ部13aおよび枠の両端を締付け固定するためのネジ部13bを備えたクランプ外枠13とから成るフィルム保持枠1を使用することもできる。
【0014】
そしてまた、本発明では、上記架台フレームFの集光レンズ部L上に加熱調理部Hを設けてソーラー調理器を構成することもでき、また一方で、上記架台フレームFの集光レンズ部L上に発電素子部Eを設けてソーラー発電機を構成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、水平に固定した集光レンズとそのレンズ下方に配置したミラー部材を含んで太陽光集光器を構成すると共に、前記集光レンズを、透光フィルムを張ったフィルム保持枠内に所定量の透明液を充填して構成したことにより、透明液の重みで撓ませたフィルムと透明液とで凸レンズを形成できるため、ミラー部材によってレンズ下方から入射させた太陽光をレンズ上方に向けて集光することが可能となる。
【0016】
しかも、上記集光レンズは、フィルム保持枠を拡大することで簡単に大型化することができるため、レンズの大口径化にも容易に対応できる。また大型化した場合でも、不使用時には透明液を捨ててフィルム保持枠と可撓性フィルムを分解すれば軽量・コンパクトな形態に変形できるため、可搬性が損なわれる心配もない。
【0017】
また、本発明に係る太陽光集光器では、液体レンズをフレームに水平に固定しているため、レンズが縦向きや斜め向きで使用されることはなく、透明液の荷重に偏りが生じてフィルム凸面が変形し焦点位置が不安定になることもない。
【0018】
そしてまた、上記集光レンズでは、透明液を直接、フィルム保持枠内に投入することができるため、レンズを大型化した場合でも透明液の給排出を素早く簡単に行うことができる。またコスト面でも、フレネルレンズのようなコストが嵩む部材が必要ないため安価に作製できる。
【0019】
したがって、本発明により、太陽光を効率的に集光できる大型レンズを安価に作製することができ、しかも、使い勝手や可搬性の面でも優れた液体集光レンズを提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例1における太陽光集光器を表わす全体正面図である。
【図2】本発明の実施例1における集光レンズ部を表わす拡大斜視図である。
【図3】本発明の実施例1における集光レンズ部の構造を表わす分解斜視図である。
【図4】本発明の実施例1における集光レンズ部の作製工程を表わす工程説明図である。
【図5】本発明の実施例1における太陽光集光器の使用状態を表わす状態説明図である。
【図6】本発明の実施例2における太陽光集光器を表わす全体正面図である。
【図7】本発明の実施例2における集光レンズ部の構造を表わす説明断面図である。
【図8】本発明の変形例における集光レンズ部の構造を表わす分解斜視図である。
【図9】本発明の変形例における集光レンズ部の構造を表わす説明断面図である。
【図10】本発明の変形例における太陽光集光器の使用状態を表わす状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
『実施例1』
本発明の実施例1について、図1から図5に基いて説明する。同図において、符号1で指示するものはフィルム保持枠であり、符号2で指示するものは透光フィルムである。また、符号3で指示するものは透明液であり、符号4で支持するものは、保護フィルムである。
【0022】
まずこの実施例1では、架台フレームFの開放部Aの上方に集光レンズ部Lを水平に設け、更に開放部Aにおける集光レンズ部Lの下方には、ミラー部材Mを配置して太陽光集光器を構成している(図1、図2参照)。また実施例1では、集光レンズLの上方に加熱調理部Hを設け上記太陽光集光器をソーラー調理器として使用している。
【0023】
次に、上記集光レンズ部Lの構成について説明すると、この実施例1では、上枠11、下枠12及びクランプ外枠13から成るリング型のフィルム保持枠1(材質:ステンレス製)と、可撓性を有する透光フィルム2(材質:ポリウレタン製)と、透明液3(材質:水)と、保護フィルム4とから集光レンズ部Lを作製している(図3参照)。
【0024】
なお、上記集光レンズ部Lの作製は以下の手順で行う。まず、図4(a)に示すように、リング型のフィルム保持枠1の上枠11と下枠12の間に透光フィルム2を挟み込む。その後、図4(b)に示すように、上枠11と下枠12の外側にクランプ外枠13を装着して、上枠11と下枠12のフランジ部11a・12aを締め付けてフィルムを固定する。
【0025】
なお実施例1では、上記フィルム保持枠1のクランプ外枠13に、上枠11と下枠12のフランジ部11a・12aを挿入するための溝部が内周面に形成され、かつ、枠を拡開するためのヒンジ部13a・13aおよび枠の両端を締付け固定するためのネジ部13bを備えた構造を採用している。
【0026】
そして、上記フィルム保持枠1を架台フレームFの取付け孔に固定した後、図4(c)に示すように、透光フィルム2を張ったフィルム保持枠1の上枠11内に透明液3を投入する。なお、この際投入する透明液3の量は、液の重みで透光フィルム2が所定の円弧下面Bを描くように調節する。
【0027】
その後、図4(d)に示すように、フィルム保持枠1の上枠11内に収容された透明液3の水平上面Tに対し円形状の保護フィルム4を浮かせた状態で載置して集光レンズ部Lを作製する。
【0028】
そして上記の集光レンズ部Lを太陽光集光器に備えることにより、図5に示すように、ミラー部材Mで反射させた太陽光を集光レンズ部Lの下側から入射させれば、透明液3の重みで撓んだ透光フィルム2の円弧下面Bと透明液3の水平上面Tとが起こす凸レンズの作用によって通過光を上方に向けて集光することが可能となる。
【0029】
ちなみに、実施例1では、加熱調理部Hで作業がし易いように架台フレームFの脚部を低く形成しており、そのままの状態では太陽光がフレームで遮られて開放部Aに配置したミラー部材Mに充分な太陽光が入射しないことから、離れた場所にサブミラー部材M’を配置して間接的に太陽光が入射するようにしている。
【0030】
また、上記透光フィルム2の円弧下面Bに関しては所謂大撓み状態にあり、また気温等の影響も受けて正確な調整は困難であるが、本発明ではカメラや眼鏡等の結像を目的とする用途でなく、一定の集光効果を得る目的で使用しているため特に問題はない。
【0031】
そしてまた、上記透明液3上に浮かせた保護フィルム4に関しては、太陽光集光器を屋外で使用したとき、風等で透明液3の上面に波立ちが生じて集光効果が低下する現象を防止するために使用している。
【0032】
『実施例2』
次に実施例2について図6に基いて以下に説明する。この実施例2では、加熱調理部Hの代わりに集光レンズ部Lの上方に発電素子Eを配置して太陽光集光器をソーラー発電機として使用している(図6参照)。
【0033】
また実施例2では、フィルム保持枠1にクランプ外枠を使用せず、図7(a)及び(b)に示すように上枠11と下枠12のフランジ部11a・12aを、連結部材14であるボルト部材14aとナット部材14bで直接連結して透光フィルム2を固定している。
【0034】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は図示の実施形態に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、透光フィルム2を固定するフィルム保持枠1の構造に関しては、図8及び図9に示すような下枠12に弾性部材12bを取着して上枠11の内側に嵌め込む構造であってもよい。
【0035】
また、透光フィルム2の材質については、透明で可撓性および強度を有するものであればポリウレタン以外の他の合成樹脂材料を用いることも勿論可能であり、保護フィルム4についても同様である。
【0036】
そしてまた、透明液3に関しても、調達が容易な水を用いるのが実用的に好ましいが透明な液体であれば他の液体を使用することもできる。なお、アルコール類など揮発性の高いものは使用している最中に液量が変わってしまうため注意が必要である。
【0037】
他方また、架台フレームFの構造に関しても、図10に示すように、脚部を伸縮可能として集光レンズ部Lを高い位置に配置できるようすることによりサブミラー部材M’を省略することもでき、何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0038】
近年、太陽光エネルギーがクリーンエネルギーの一つとして大きな注目を集めており、多くの分野で太陽光をエネルギー源に利用した機器の開発が行われている。その中でも、ソーラー調理器等の可搬型の機器は、実用化するために機能性と運搬性を両立させる必要がある。
【0039】
そのような中で、本発明の液体レンズを用いた太陽光集光器は、レンズの大口径化して機能性の向上を図れるだけなく、持ち運びも容易で製造コストも低廉な有用な技術であるため、市場における需要は大きく、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0040】
1 フィルム保持枠
11 上枠
11a フランジ部
12 下枠
12a フランジ部
12b 弾性部材
13 クランプ外枠
13a ヒンジ部
13b ネジ部
14 連結部材
14a ボルト部材
14b ナット部材
2 透光フィルム
3 透明液
4 保護フィルム
F 架台フレーム
A 開放部
L 集光レンズ部
B 円弧下面
T 水平上面
M ミラー部材
H 加熱調理部
E 発電素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下側に開放部Aを有する架台フレームFと、この架台フレームFの開放部Aの上部に設置された集光レンズ部Lとを備えた集光器であって、
前記集光レンズ部Lが、フィルム保持枠1の上枠11と下枠12との間に周縁を挟み込んで固定され、架台フレームFの開放部Aの上部に水平状態に張設された可撓性の透光フィルム2と;この透光フィルム2上に収容された透明液3とにより構成される一方、
前記架台フレームFの開放部Aには、集光レンズ部Lの下方に光路を形成する少なくとも一つのミラー部材Mが配置され、
当該ミラー部材Mを反射した太陽光が集光レンズ部Lに入射したとき、透明液3の自重によって透光フィルム2の下面が撓んで形成された凸レンズにより太陽光を上方に向けて集光可能としたことを特徴とする液体レンズを用いた太陽光集光器。
【請求項2】
フィルム保持枠1内に収容した透明液3上に保護フィルム4を浮した状態で載置して構成したことを特徴とする請求項1記載の液体レンズを用いた太陽光集光器。
【請求項3】
フィルム保持枠1が、フランジ部11aを備えた上枠11と、同じくフランジ部12aを備えた下枠12と、前記上枠11と下枠12のフランジ部11a・12aを挿入するための溝部が内周面に形成され、かつ、枠を拡開するためのヒンジ部13aおよび枠の両端を締付け固定するためのネジ部13bを備えたクランプ外枠13とから構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体レンズを用いた太陽光集光器。
【請求項4】
架台フレームFの集光レンズ部Lの上方に加熱調理部Hが設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の液体レンズを用いた太陽光集光器。
【請求項5】
架台フレームFの集光レンズ部Lの上方に発電素子部Eが設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の液体レンズを用いた太陽光集光器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−242041(P2011−242041A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113703(P2010−113703)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(397022885)財団法人若狭湾エネルギー研究センター (36)