説明

液体分離方法及び液体分離システム

【課題】膜間差圧を大きくし、透過速度が(処理速度が速い)良好である液体分離方法を提供する。
【解決手段】分離膜の一の面側に、レジストを含有する混合液体を、前記混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、前記分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、前記分離膜を透過しない前記レジストを回収する液体分離方法であって、前記混合液体を前記分離膜の一の面側が加圧されるように供給し、前記分離膜の他の面側を減圧する液体分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体分離方法及び液体分離システムに関する。更に詳しくは、浸透気化分離法を用いた透過速度が良好である液体分離方法及び液体分離システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶剤と溶解成分(特定成分)との混合液体から溶解成分を分離する場合には、溶剤と溶解成分との沸点差を応用して分離する浸透気化分離法(パーベーパレーション法)が用いられている。この浸透気化分離法は、例えば、所定の細孔径を有する分離膜を用い、この分離膜の一の面側(1次側)に所定温度に加熱した混合液体を供し、他の面側(2次側)を真空ポンプなどで減圧することにより特定成分を分離する方法である。この浸透気化分離法は、蒸留法では分離することが困難な混合液体、例えば、共沸混合物や沸点の近接した混合液体等を容易に分離することができる。
【0003】
例えば、所定の細孔径を有するチタニア膜により構成された分離膜を用い、この分離膜の一の面側(1次側)に所定温度に加熱した混合液体を供し、他の面側(2次側)を真空ポンプで減圧することにより特定成分を分離する浸透気化分離法が知られている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開昭62−7405号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の浸透気化分離方法では、分離膜の一次側が大気圧であり、二次側(他の面側(透過側))が減圧された状態で分離する方法であるため、透過に寄与する膜間差圧(一次側と二次側の差圧)は最大でも0.1MPaであった。即ち、膜間差圧が十分に得られていない(膜間差圧が小さい)ため、透過速度が遅い(混合液体の処理速度が遅い)という問題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、上記膜間差圧を大きくし、透過速度が(速い)良好である液体分離方法及び液体分離システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、二次側を減圧することに加え、一次側を加圧することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下に示す、液体分離方法及び液体分離システムが提供される。
【0009】
[1] 分離膜の一の面側に、レジストを含有する混合液体を、前記混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、前記分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、前記分離膜を透過しない前記レジストを回収する液体分離方法であって、前記混合液体を前記分離膜の一の面側が加圧されるように供給し、前記分離膜の他の面側を減圧する液体分離方法。
【0010】
[2] 前記混合液体を0.01〜0.5MPaの圧力に加圧して供給する前記[1]に記載の液体分離方法。
【0011】
[3] 前記レジストの重量平均分子量が、500〜5000である前記[1]または[2]に記載の液体分離方法。
【0012】
[4] 前記分離膜の材質が、チタニア、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び炭素からなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の液体分離方法。
【0013】
[5] 分離膜と供給手段とを備え、前記分離膜の一の面に、レジストを含有する混合液体を、前記混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、前記分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、前記分離膜を透過しない前記レジストを回収する液体分離システムであって、前記供給手段が、前記混合液体を前記分離膜の一の面側が加圧されるように供給する供給手段であり、更に、前記分離膜の他の面側を減圧する減圧手段を備える液体分離システム。
【0014】
[6] 前記供給手段が、前記混合液体を0.01〜0.5MPaの圧力に加圧して供給する前記[5]に記載の液体分離システム。
【0015】
[7] 前記分離膜が、多孔質体により構成され、その平均細孔径が、0.1〜5nmである前記[5]または[6]に記載の液体分離システム。
【0016】
[8] 前記分離膜の材質が、チタニア、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び炭素からなる群より選択される少なくとも一種である前記[5]〜[7]のいずれかに記載の液体分離システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明の液体分離方法は、膜間差圧が大きいため、透過速度が良好であるという効果を奏するものである。
【0018】
本発明の液体分離システムは、膜間差圧が大きいため、透過速度が良好であるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
[1]液体分離方法:
本発明の液体分離方法は、分離膜の一の面側に、レジストを含有する混合液体を、混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、分離膜を透過しないレジストを回収する液体分離方法であって、混合液体を、分離膜の一の面側が加圧されるように供給し、分離膜の他の面側を減圧するものである。
【0021】
このような方法により、分離膜間差圧、即ち、混合液体が接触する一の面にかかる圧力とレジストよりも低分子量の成分が選択的に透過する他の面にかかる圧力との差が大きくなるため、選択的に透過するレジストよりも低分子量の成分の透過速度が良好であるという効果を奏する。
【0022】
以下、本発明の液体分離方法について、図1に示す液体分離システムに基づいて具体的に説明する。
【0023】
図1に示す液体分離システム100は、廃液(レジストを含む混合液体)が投入される原液タンク11、この原液タンク11に接続されて上記廃液を原液タンク11から送液する供給手段12、供給手段12に接続され、上記廃液を加熱する加熱ヒーター13、加熱ヒーター13に接続され、分離膜15aを備えた分離装置15、分離装置15に接続され、上記分離膜15aを透過した成分を冷却する冷却手段(図示せず)、冷却手段により冷却された上記成分を回収するための回収タンク17、回収タンク17に接続された減圧手段18を備え、更に、加熱ヒーター13から分離装置15に向かう送液配管が分岐し、その分岐部分に配置された混合液体用圧力メーター14、回収タンク17から減圧手段18に向かう送液配管が分岐し、その分岐部分に配置された透過液用圧力メーター16を備えている。また、分離装置15は、分離膜15aを透過しないレジストを送液するための回収配管を更に備え、この回収配管は原液タンク11に接続している。そのため、分離膜15aを透過しないレジストを原液タンク11に回収することができる。なお、上記回収配管は、図示しないレジスト回収タンクに接続されることも可能であり、原液タンク11及びレジスト回収タンクを適宜選択して接続されるものである。
【0024】
図1に示す液体分離システム100において、まず、予め原液タンク11に供給されたレジストを含有する混合液体は、供給手段12によって加熱ヒーター13に送液される。その後、加熱ヒーターに送液された混合液体は、加熱ヒーター13によって所定の温度まで加熱される。そして、加熱された混合液体は、分離膜15の一の面に接触するように供給される。即ち、上記混合液体は、加熱ヒーター13から分離膜15に向かう送液配管を通り、この送液配管の先端部に設けられた分離膜15に到達し、この分離膜15おいて、その流れが規制される。このとき、分離膜15の他の面(混合液体が接触している面とは反対の面)側は、減圧手段18によって所定の圧力まで減圧されているため、所望の成分(レジストよりも低分子量の成分)が気化しながら分離膜15の他の面側に透過する。なお、供給手段12は、分離膜15の一の面(混合液体が接触している面)が、上記混合液体によって所定の圧力で加圧されるように、供給量を調整しつつ上記混合液体を送液する。
【0025】
また、混合液体用圧力メーター14は、分離膜15の一の面側の圧力を測定し、透過液用圧力メーター16は、分離膜15の他の面側の圧力を測定する。混合液体用圧力メーター14の測定値は、フィードバックされ、分離膜15の一の面側に設けられた圧力調節弁(図示せず)の開閉及び/または供給手段12の送液量の調整が行われる。透過液用圧力メーター16の測定値は、フィードバックされ、分離膜15の他の面側に設けられた圧力調節弁(図示せず)の開閉及び/または減圧手段18の吸引量の調整が行われる。
【0026】
続いて、分離膜15を透過した成分は、冷却手段によって冷却されて、回収タンク17に回収される。一方、分離膜15を透過しないレジストは、原液タンク11に送液される。なお、原液タンク11に送液された上記レジストは、混合液体と混合されて再び原液タンク11から送液される。その後、このレジストが所望の濃度となった時点で原液タンク11とは別のレジスト回収用タンク(図示せず)に回収することができる。なお、液体分離方法は、上述のような連続式であってもよいし、分離膜15を透過しないレジストを原液タンク11に送液せずにレジスト回収用タンクに回収するバッチ式であってもよい。
【0027】
本発明の液体分離方法に用いる、原液タンク、供給手段、加熱ヒーター、分離膜、冷却手段、回収タンク、減圧手段、混合液体用圧力メーター、及び透過液用圧力メーターは、後述する本発明の液体分離システムに用いる、原液タンク、供給手段、加熱ヒーター、分離膜、冷却手段、回収タンク、減圧手段、混合液体用圧力メーター、及び透過液用圧力メーターと同様のものを好適に用いることができる。
【0028】
[2]液体分離システム:
図1は、本発明の液体分離システムの一の実施形態を模式的に示す説明図である。図1に示すように、本実施形態の液体分離システム100は、分離膜15と供給手段12とを備え、分離膜15の一の面に、レジストを含有する混合液体を、混合液体が分離膜15の一の面に接触するように供給し、分離膜15の他の面側にレジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、分離膜15を透過しないレジストを回収するものであって、供給手段12が、混合液体を加圧して供給する供給手段であり、更に、分離膜15の他の面側を減圧する減圧手段18を備えるものである。更に、供給手段12の上流に設置される原液タンク11、供給手段12の下流に配置される加熱ヒーター13、加熱ヒーター13から分離膜15に向かう送液配管が分岐して配置される混合液体用圧力メーター14、分離膜15の下流に配置される回収タンク17、この回収タンク17と分離膜15の間に配置される冷却手段(図示せず)、及び、回収タンク17から減圧手段18に向かう送液配管が分岐して配置される透過液用圧力メーター16を備えている。
【0029】
このような構成により、分離膜間差圧、即ち、混合液体が接触する一の面にかかる圧力とレジストよりも低分子量の成分が選択的に透過する他の面にかかる圧力との差が大きくなるため、選択的に透過するレジストよりも低分子量の成分の透過速度が良好であるという効果を奏する。
【0030】
ここで、本明細書において「混合液体」とは、レジストを含有し、更に、例えば、このレジストを剥離するための剥離液(レジスト剥離液)、感光剤、これらの反応物などを含むものであり、具体的には、レジストを剥離させたときの廃液、フラットパネルディスプレイ、及び半導体生産工程におけるシンナー系洗浄廃液などを挙げることができる。なお、混合液体中のレジストの含有量は、特に制限はないが、混合液体に対して、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%であることが更に好ましく、0.01〜5質量%であることが特に好ましい。
【0031】
上記「レジスト」とは、例えば、半導体、液晶ガラス、フォトマスク等の製造工程で使用される高分子量の有機成分を意味する。このレジストの重量平均分子量は、具体的には、500〜5000であることが好ましく、1000〜5000であることが更に好ましく、2000〜5000であることが特に好ましい。上記重量平均分子量が、500未満であると、二次側へ透過するおそれがある。一方、5000超であると、分離膜によって捕捉したレジストが分離膜上でゲル化しやすくなるため、分離膜を透過する成分の透過抵抗が増大し、混合液体の処理速度が著しく低下するおそれがある。上記レジストは、その種類などに特に制限はないが、例えば、ノボラック系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
【0032】
また、上記レジスト剥離液は、レジストを剥離するための液であれば特に制限はなく、通常、レジストよりも低分子量であることが多く、具体的には、重量平均分子量が200〜400であるものが多く用いられている。また、その種類に制限はなく、例えば、DMSO(ジメチルスルフォオキシド)−アミン、MEA(モノエタノールアミン)、NMP(N−メチルピロリドン)などを挙げることができる。
【0033】
なお、従来の加圧式の液体分離システムは、レジストとレジスト剥離液との反応物、その分子量がレジスト剥離液の分子量に近い化合物などが二次側に透過してしまう(二次側に漏れ出す)ためレジストを含有する混合液体を加圧して供給することが困難であった。一方、本発明の液体分離システムは、沸点差を用いた浸透気化分離法を適用することによって、二次側に透過してしまう(二次側に漏れ出す)ことを解決したため、混合液体を加圧して供給することが可能になり、混合液体の処理速度が良好であるという利点がある。
【0034】
[2−1]分離膜:
本発明の液体分離システムに用いられる分離膜は、上記混合液体から、上記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるためのものである。このような分離膜を用いることにより、混合液体からレジストを分離して回収することができる。分離膜により分離されたレジストは、例えば、図1に示すように、原液タンク11に回収することができる。なお、このようにレジストを回収した後、混合液体中のレジストが所定の濃度になったときに上記原液タンクとは別のレジスト回収用タンクに所望の濃度のレジストとして回収することができる。
【0035】
上記分離膜は、三次元状に連続した多数の微細な細孔を有する多孔質体により構成され、その平均細孔径が、0.1〜5nmであることが好ましく、0.5〜2nmであることが更に好ましく、0.5〜1nmであることが特に好ましい。多孔質体により構成された分離膜の平均細孔径が、0.1nm未満であると、透過すべきレジスト剥離液そのものが透過しないおそれがある。一方、5nm超であると、補足すべきレジスト成分が二次側へ透過しないおそれがある。ここで、本明細書において「平均細孔径」というときは、西華産業株式会社のナノパームポロメーターを用いて測定した値である。具体的には、窒素ガス下において凝縮性ガスであるヘキサンガスの分圧を変化させたとき、分離膜を透過する窒素ガスの透過量を測定することによって求められる値である。
【0036】
なお、分離膜は、その平均細孔径を設定することによって、分離、回収するレジストの重量平均分子量を決定することができる。具体的には、分離膜の平均細孔径が5nmである場合、分離、回収可能なレジストの分画分子量は9000である。即ち、重量平均分子量9000以上のレジストは分離膜を透過することができないため、分離膜を透過せずに残った残部を回収することによって混合液体から所望のレジストを分離することができる。
【0037】
分離膜が多孔質体により構成されたものである場合には、分離膜に形成された細孔の細孔径分布が、0.1〜10nmであることが好ましく、0.5〜5nmであることが更に好ましく、0.5〜2nmであることが特に好ましい。上記細孔径分布が0.1nm未満であると、レジスト剥離液が透過しないおそれがある。一方、10nm超であると、補足すべきレジスト成分が二次側に透過するおそれがある。ここで、本明細書において「細孔径分布」というときは、西華産業株式会社製のナノパームポロメーターを用い、窒素ガス下において凝縮性ガスであるヘキサンガスの分圧を変化させ窒素ガスの透過量を測定することにより得られる値である。
【0038】
また、上記分離膜の気孔率が20〜50%であることが好ましく、20〜40%であることが更に好ましく、30〜40%であることが特に好ましい。上記気孔率が、20%未満であると、レジスト剥離液が透過する際に分離膜にかかる透過抵抗が増大し、混合液体の処理速度が著しく低下するおそれがある。一方、50%超であると、分離膜の耐圧が低下し、使用中に破損するおそれがある。ここで、本明細書において「気孔率」というときは、株式会社島津製作所製の水銀ポロシメーターを用い、水銀を圧入することにより測定した値である。
【0039】
分離膜は、その材質が、チタニア、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び炭素からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、耐食性を有する観点、及び均一な細孔径分布を得ることができるという観点から、チタニア、シリカ、ゼオライトからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0040】
従来、分離膜として「有機膜」を使用してイソプロパノール混合液を分離することが行われていた。しかし、レジストを含有する混合液体を分離する場合、有機膜は、その材質上、上記混合液体に対する耐食性がないため溶解してしまうという問題があった。一方、本発明の液体分離システムに用いられる分離膜は、上記混合液体のような高腐食性液に対する耐食性を有する、上記材質からなる無機膜とすることが好ましい。
【0041】
更に、分離膜は、その形状などに特に制限はない。例えば、分離膜の形状は、平板状、有底の円筒状、モノリス状、ハニカム状などとすることができる。なお、有底の円筒状の分離膜である場合、上記混合液体を円筒状の分離膜の内側に接触するように供給することもできるし、外側に接触するように供給することもできる。
【0042】
また、分離膜の厚さは、特に制限はないが、0.1〜5μmであることが好ましく、0.1〜3μmであることが更に好ましく、0.5〜1μmであることが特に好ましい。分離膜の厚さが、0.1μm未満であると、処理液中に含有される固形物によって分離膜が剥離するおそれがある。一方、5μm超であると、レジスト剥離液が透過する際に分離膜にかかる透過抵抗が増大し、混合液体の処理速度が著しく低下するおそれがある。
【0043】
上記分離膜は、公知の方法により製造することができ、具体的には、ディップコーティングにより製造することができる。
【0044】
[2−2]供給手段:
本発明の液体分離システムに用いられる供給手段は、上述した分離膜の一の面に、レジストを含有する混合液体を、この混合液体が分離膜の一の面に接触するように供給することに加え、分離膜の一の面側が加圧されるように混合液体を供給するものである。ここで、「分離膜の一の面側が加圧されるように」とは、供給手段、送液配管、及び分離膜によって形成される閉じられた空間を満たし、更に供給手段から上記空間内に送液される混合液体が、供給手段、送液配管、及び分離膜に内圧を加えていることを意味し、分離膜の一の面が、上記混合液体の内圧によって分離膜の一の面から他の面に向かう力を受けていることをいう。ただし、本明細書において、供給手段からの通常の送液によって生じる上記内圧は、分離膜の一の面側を加圧することを意味するものではない。
【0045】
上記供給手段としては、分離膜の一の面側が加圧されるように供給することができるものである限り特に制限はないが、例えば、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、スクリューポンプ、遠心ポンプなどの供給ポンプを挙げることができる。なお、これらを複数用いることもできる。更に、逆止弁を組み合わせて用いることもできる。
【0046】
上記供給手段は、上記混合液体を0.01〜0.5MPaの圧力に加圧して供給することが好ましく、0.05〜0.5MPaの圧力に加圧して供給することが更に好ましく、0.1〜0.3MPaの圧力に加圧して供給することが特に好ましい。上記圧力が、0.01MPa未満であると、混合液体の処理速度の向上効果が得られない場合がある。一方、0.5MPa超であると、捕捉すべきレジスト成分が二次側に透過するおそれがある。
【0047】
[2−3]減圧手段:
上記減圧手段は、分離膜の他の面側を減圧するものである。ここで、「分離膜の他の面側を減圧する」とは、分離膜の他の面側の空間を大気圧以下の圧力にすることを意味する。上記減圧手段としては、例えば、真空ポンプなどを挙げることができる。
【0048】
上記減圧手段は、上記混合液体を10〜500Paの真空度で減圧することが好ましく、10〜200Paであることが更に好ましく、10〜150Paであることが特に好ましい。上記真空度が、10Pa未満であると、高真空度にするために、装置が複雑化し、コストに対するメリットが低下するおそれがある。一方、500Pa超であると、レジスト剥離液が分離膜を透過する際、十分な気化が行われないため、レジストの回収率が低下するおそれがある。
【0049】
加熱ヒーターは、混合液体を加熱し、分離膜を透過する成分の透過を容易にするために用いることが好ましい。加熱ヒーターとしては、例えば、電気加熱によるヒーター、スチーム加熱によるヒーター、熱交換器による間接加熱ヒーターなどを挙げることができる。
【0050】
なお、加熱ヒーターによる混合液体の加熱温度は、処理する混合液体の沸点によって適宜選択することができるが、70〜100℃であることが好ましく、70〜90℃であることが更に好ましく、80〜90℃であることが特に好ましい。上記加熱温度が、70℃未満であると、レジスト剥離液が分離膜を透過したときに気化しないため、分離膜の透過量が減少し、回収率が低下するおそれがある。一方、100℃超であると、捕捉すべきレジスト成分も気化して二次側に透過してしまうおそれがある。
【0051】
圧力調節弁は、分離膜の一の面側及び他の面側に配置することができ、圧力メーターの測定値によって開閉し、圧力を調整するために用いることが好ましい。圧力調節弁としては、例えば、自動調節弁、背圧弁などを挙げることができる。
【0052】
冷却手段は、気化して分離膜を透過した成分を液体として回収するために用いることが好ましい。冷却手段としては、例えば、冷却ジャケット付タンク、間接冷却可能な熱交換器などを挙げることができる。
【0053】
図2は、本発明の液体分離システムの他の実施形態を模式的に示す説明図である。本実施形態の液体分離システムは、図1に示す液体分離システム100に、分離膜15の下流にトラップ19を更に備えたものである。即ち、図2に示す液体分離システム110は、原液タンク11の下流側に、順に、供給手段12、加熱ヒーター13、分離膜15、トラップ19、冷却手段(図示せず)、回収タンク17、減圧手段18を備えており、更に、加熱ヒーター13から分離膜15に向かう送液配管が分岐して混合液体用圧力メーター14と回収タンク17から減圧手段18に向かう送液配管が分岐して透過液用圧力メーター16とを備えている。上記トラップとしては、例えば、冷却ジャケット付タンクなどを挙げることができる。
【0054】
このような、図2に示す液体分離システム110は、混合液体がレジスト以外に複数の成分を含有している場合であっても、トラップによって、分離膜を透過した成分を更に分離することができる。具体的には、分離膜15を透過した成分(透過成分)が、気体成分及び液体成分からなるものである場合、上記トラップ19によって、上記透過成分から液体成分を分離し、回収することができる。なお、トラップ19によって回収されない気体成分は、トラップ19の下流に配置される冷却手段によって冷却されて、回収タンク17に回収される。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
図1に示す液体分離システムを用いて液体分離を行った。この液体分離システムは、20Lの原液タンクの下流に順に、供給手段として供給ポンプ、加熱ヒーター、チタニア製のモノリス状の分離膜(平均細孔径5nm、細孔径分布0.5〜10nm、気孔率35%、膜厚1μm)、冷却手段、回収タンク、減圧手段として真空ポンプを備えている。液体分離に際し、まず、20Lの原液タンクに、5質量%のノボラック系レジスト(重量平均分子量2500)とDMSO(ジメチルスルフォオキシド)−アミン系レジスト剥離液(重量平均分子量300)とからなる混合液体を投入した。
【0057】
その後、供給ポンプによって上記混合液体を加熱ヒーターに送液し、この加熱ヒーターにより上記混合液体を80℃に加熱した。加熱後、分離膜の一の面側の圧力が0.5MPaとなるように混合液体を分離膜の一の面に接触させて供給した。このとき、分離膜の他の面側を真空ポンプによって133.3Paに減圧した。この分離膜を透過した成分を冷却した後、回収タンクに回収した。
【0058】
以上のようにして液体分離を行った後、回収タンク内に回収されたレジスト剥離液の濃度を液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)によって測定したところ、90質量%であった。また、Flux(透過流速)を測定したところ、12L/mhであった。なお、Flux測定は、具体的には、評価開始から所定時間(h)が経過した後の、分離膜の他の面側に透過して回収タンクに回収された成分(レジスト剥離液)の量(L)を計量し、下記式により算出した。
式:Flux=Q/(A・t)
(上記式において、Q:回収タンクに回収された成分の量(L)、A:分離膜の面積(m)、t:評価開始からの所定時間(h))
【0059】
(実施例2,3)
図2に示す液体分離システムを用い、混合液体として、5質量%のノボラック系レジスト(重量平均分子量2500)、DMSO(ジメチルスルフォオキシド)−アミン系レジスト剥離液(重量平均分子量300)、及び感光液(重量平均分子量1000)からなる液体を用いて、表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして液体分離を行った。なお、トラップによって感光液が回収され、回収タンクにはレジスト剥離液が回収された。
【0060】
【表1】

【0061】
(比較例1)
図1に示す液体分離システムを用いて、表1に示す条件とした以外は、実施例1と同様にして液体分離を行った。
【0062】
以上のように、実施例1〜3の液体分離システムは、比較例1の液体分離システムに比べて、分離膜を透過する成分の透過速度が良好(混合液体の処理速度が速い)であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の液体分離方法は、例えば、半導体、液晶ガラス、フォトマスク等の製造工程で生じる、レジストを含有する混合液体(廃液)からレジストとレジストよりも低分子量の成分とを分離してレジストを回収する方法であって、透過速度が良好(処理速度が速い)である液体分離方法として好適に利用される。
【0064】
本発明の液体分離システムは、例えば、半導体、液晶ガラス、フォトマスク等の製造工程で生じる、レジストを含有する混合液体(廃液)からレジストとレジストよりも低分子量の成分とを分離してレジストを回収するものであって、透過速度が良好(処理速度が速い)である液体分離システムとして好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の液体分離システムの一の実施形態を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の液体分離システムの他の実施形態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
11:原液タンク、12:供給手段、13:加熱ヒーター、14:混合液体用圧力メーター、15:分離膜、16:透過液用圧力メーター、17:回収タンク、18:減圧手段、19:トラップ、100,110:液体分離システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜の一の面側に、レジストを含有する混合液体を、前記混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、
前記分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、
前記分離膜を透過しない前記レジストを回収する液体分離方法であって、
前記混合液体を前記分離膜の一の面側が加圧されるように供給し、前記分離膜の他の面側を減圧する液体分離方法。
【請求項2】
前記混合液体を0.01〜0.5MPaの圧力に加圧して供給する請求項1に記載の液体分離方法。
【請求項3】
前記レジストの重量平均分子量が、500〜5000である請求項1または2に記載の液体分離方法。
【請求項4】
前記分離膜の材質が、チタニア、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び炭素からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体分離方法。
【請求項5】
分離膜と供給手段とを備え、前記分離膜の一の面に、レジストを含有する混合液体を、前記混合液体が前記分離膜の一の面に接触するように供給し、前記分離膜の他の面側に前記レジストよりも低分子量の成分を選択的に透過させるとともに、前記分離膜を透過しない前記レジストを回収する液体分離システムであって、
前記供給手段が、前記混合液体を前記分離膜の一の面側が加圧されるように供給する供給手段であり、更に、前記分離膜の他の面側を減圧する減圧手段を備える液体分離システム。
【請求項6】
前記供給手段が、前記混合液体を0.01〜0.5MPaの圧力に加圧して供給する請求項5に記載の液体分離システム。
【請求項7】
前記分離膜が、多孔質体により構成され、その平均細孔径が、0.1〜5nmである請求項5または6に記載の液体分離システム。
【請求項8】
前記分離膜の材質が、チタニア、シリカ、アルミナ、ゼオライト、及び炭素からなる群より選択される少なくとも一種である請求項5〜7のいずれか一項に記載の液体分離システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−229408(P2008−229408A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68354(P2007−68354)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】