液体収納容器および液体収納容器パッケージ
【課題】顔料インクを収納するインクタンクを記録装置に装着するに先立って推奨される手振り(撹拌操作)を実施する際のユーザの負担を軽減する。
【解決手段】タンクが梱包されるパッケージを開封する際、インク供給部10が設けられた端面と、これに対向する端面とを天地逆にする動作が生じる。この動作に伴って、タンク1に存在するエアが上昇し、エア分割部で分割され、タンク内色材成分を撹拌する。
【解決手段】タンクが梱包されるパッケージを開封する際、インク供給部10が設けられた端面と、これに対向する端面とを天地逆にする動作が生じる。この動作に伴って、タンク1に存在するエアが上昇し、エア分割部で分割され、タンク内色材成分を撹拌する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体収納容器およびそのパッケージに関し、詳しくは、インクジェット記録で用いられる記録用のインクなどの液体を収納するのに好適な液体収納容器およびそのパッケージに関する。本発明の液体収納容器は、一般的な記録装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置にも適用可能である。さらには、各種処理装置と複合的に組み合わされた産業用記録装置の液体供給源に適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、一般に、記録ヘッドと、これに接続されて記録用のインクなどの液体を供給するための液体収納容器(以下、インクタンクともいう)が用いられる。記録に際しては、記録ヘッドに設けられた微細な吐出口より、画像データに従ってインクを吐出させ、このインクが記録媒体に付着することにより所望の画像が形成される。
【0003】
記録ヘッドに対しては、インク供給源であるインクタンクからインクが供給される。記録ヘッドにインクを供給する方式としては、キャリッジにインクを保持するインクタンクを搭載し、直接記録ヘッドにインクを供給するものがある。また、装置の固定部位に配置されたインクタンクと、記録ヘッドとの間を供給チューブを用いてインク連通させるものである。そしていずれの方式においても、インクタンクが収納するインク残量が実質的になくなったときに、新たなものに交換されるよう、インクタンクが記録装置に着脱可能となっているものが一般的である。
【0004】
近年では、広範な分野にインクジェット記録技術が適用されるようになってきており、個人ないしは家庭用途、あるいはオフィス用途だけでなく、印刷など産業用途への拡大も図られ、用途に合わせたインクジェット記録装置が開発されている。また、用いられるインクも用途に応じた好ましい特性を示すものが採用されている。
【0005】
インクは、色材として主に染料成分を含有するインク(以下、染料インクという)と、顔料成分を含有するインク(以下、顔料インクという)とに大別される。そして特に、記録物の耐光性や耐ガス性が要求される用途、例えば屋外掲示物を作成する用途においては、顔料インクを用いることで十分な画像堅牢性が確保されるようにされることが多い。
【0006】
しかしながら顔料インクは、染料インクに比べて取り扱いの点で様々な課題を有している。例えば、インク中における色材である顔料成分の分散性もその一つである。
【0007】
顔料成分は染料成分のようにインク溶液中に溶解せず、分散した状態で浮遊している。よって、インクタンクが暫く静置されたままであると、インクタンク内の顔料粒子は重力の作用に従って徐々に沈降し、インクタンクの鉛直方向に顔料粒子の濃度分布差を引き起こす。すなわち、低い部分には色材濃度の高い層が、高い部分には色材濃度の低い層が形成されてしまう。このままの状態で記録を開始・継続した場合、インクタンクの使用初期と使用後期との間で、出力された画像に濃度差が発生する。
【0008】
例えば、インクタンクの装着時の姿勢において底部となる部分にインク供給口が配置されて、記録ヘッドにインクが供給される構成を考える。この場合、上記の様な濃度分布差を有したままインクタンクを装着して記録を開始すると、最初は、色材濃度の高い下層からインクが供給されるので、必要とする濃度以上に高濃度な画像が出力される。その後、記録を重ね、インクタンク内のインクが消費されていくと、徐々に画像の濃度は低くなって行く。インクが少量になった頃には、当初の色材濃度よりも低い色材濃度のインクしか残存しておらず、当初と同じ画像データに従って記録した記録物であっても、濃度が十分に表現されなくなることもあり得る。特に、顔料粒子の径や比重が大きい場合には沈降傾向が著しく、非使用状態が数日間続くだけで画像に影響が現れるほどの濃度分布差が発生してしまう。
【0009】
また染料インクにおいても、寒冷地などでインクが凍結する場合には、凍結過程において内容成分が分離することがある。この場合、染料そのものもインクタンク内で偏在することになり、顔料インクほどではないが、染料インクにおいても濃度傾斜が発生する場合がある。
【0010】
上述のように、吐出されるインクの色材濃度が変動することは、インクタンクの使用初期と使用後期とで出力画像に濃度差を発生させる問題を生じさせるだけではない。複数のカラーインクを用い、所定のカラーバランスのもとに所望の色相を表現しているカラーインクジェット記録システムにおいては、カラーバランスが崩れることに繋がる。従って、ムラのある画像劣化が認識されるという問題を生じさせる。
【0011】
特許文献1や、特許文献2に開示されているインクタンクは、タンクのインク供給口からタンク内方に延在する管状部材を設けている。インクタンクの内部にはインク吸収体が内包され、管状部材は、この吸収体に囲まれている。この管状部材の側面にインク流入用の複数の孔が設けられている。インクは管に設けられた複数の孔を経由して管内部に流入する。つまり、供給口位置に近い孔以外に、供給口から遠い位置にある孔からもインクが管内部に流入し、インクは供給口からタンク外部に導出される。そしてこれにより、インク色材の濃度傾斜の影響を緩和し、導出されるインクの色材濃度が所望の範囲内に維持されていた。
【0012】
【特許文献1】特開2001−270131号公報
【特許文献2】特開2001−293880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来例では、インクタンク内部に吸収体が設けられ、その吸収体にインクが含有されている。インク収納量を増やすために内部にインク吸収体を設けず、タンク内に直接インクを収納するインクタンクでは、色材成分の沈降を妨げるものがない。よって、タンク内の色材濃度分布差が、より大きくなっていた。
【0014】
インクタンクが静置されるために色材成分が沈降するのは、記録装置に装着された後の、インクが使用されない期間(以下、非使用期間という)だけではない。製造されたタンクをユーザが入手して記録装置に装着するまでの期間、すなわち流通期間や、販売のために展示される期間、さらにはユーザ等において保存される期間(以下、未使用期間)にもタンクの静置状態が生じる。そして実際には、非使用期間よりも未使用期間の方が長く、未使用期間での色材の濃度分布差が大きくなっていることが考えられる。
【0015】
記録装置に装着された後には、装置側で適切な撹拌動作を行うことも可能である。例えば、タンクに接続されたチューブ等のインク供給経路を加減圧して、タンク内のインクに流れもしくは運動を生ぜしめ、これによって撹拌動作が行われるようにすることなどである。これによれば、タンク内に収納するインク全体にわたって撹拌効果が作用し、タンク内部で濃度分布差の少ない状態(色材の一様な分散状態)が得られる。
【0016】
しかし未使用期間ではそのような積極的な撹拌動作を行うことはできない。色材や顔料成分の沈降が進み、タンク鉛直方向の濃度分布差が非常に大きくなっていることもある。このような大きな濃度分布差が生じている状態、すなわちインク供給口付近に色材成分が集中している状態では、濃度分布差を改善することが、より厳しくなる。タンクの装着初期にタンクに接続されたチューブ等のインク供給経路に加減圧を加え、タンク内部のインク撹拌動作を行っても、撹拌効果が不十分な場合がある。特にタンク使用開始の初期は、タンクのインク供給口付近に色材成分が沈降した高濃度のインクを使用することになり、非常に高濃度の画像が形成されてしまう恐れがある。
【0017】
そこで一般には、記録装置へのタンクの装着に先立ち、手振りと称される撹拌操作をユーザが行うことが推奨されている。具体的には、インクタンクをユーザーが自分で振って、タンク全体を動かすような動作である。このような撹拌操作を失念もしくは怠ったまま装置にタンクを装着して使用を開始すると、印字初期では高濃度の画像が形成されてしまうことがある。タンクの撹拌操作を行ない、タンク内の色材濃度分布を改善後に印字することが望ましい。しかし、このような操作はユーザが自らの手を用いて行うものである一方、その手間は少ないことが望ましい。これらは相反する課題である。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑み、ユーザが特に意識しなくても、装置への取り付けに至る一連の手順の中で自然にタンク内の色材成分の撹拌操作が行われ、濃度分布差の少ない液体収納容器を提供することにある。
【0019】
加えて、本発明の他の目的は、インクタンク内の色材成分が撹拌され、色材が一様に分布した状態が得られる液体収納容器パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そのために、本発明は、インクジェット記録装置が使用する液体とともにエアを収容する液体収納容器であって、
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置している液体収納容器をパック部材に収容してなる液体収納容器パッケージであって、
前記パック部材は、収容された前記液体収納容器の前記第1端部が位置するパック部材外側縁部にノッチを有し、該縁部とは反対側の前記第2端部が位置するパック部材外側縁部に吊下用の穴を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液体収納容器(インクタンク)のインク供給口が設けられている側面と、その対向面を逆にする操作に伴って、容器内に存在しているエアが移動する。このエア移動過程で、タンク内の構造によりエアが分割される。その結果、分割されたエアのタンク内部での移動によって、液体(主に顔料インク)の撹拌が促進される。これにより、最小限の撹拌操作を要するのみで、液体収納容器(インクタンク)内の成分(主に顔料)の分布が、改善された状態が得られる効果がある。
【0023】
本発明の液体収納容器パッケージは、液体収納容器がパッケージに包装された状態から記録装置へ取り付けるに至る一連の手順の実施過程で、容器内の色材成分の撹拌を行なうことができる効果がある。すなわちパッケージから液体収納容器を取り出すために、包装部材を破る手順と、さらに取り出した液体収納容器を記録装置に取り付けるための手順の実施過程で、自然に撹拌操作が行われる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態によるインクタンクを示す側面図である。
【0026】
液体収納容器であるインクタンク1は、液体として、記録装置側の構成に合わせた色の顔料インク(例えばブラック,シアン,マゼンタ,イエローなど)のインクを収納する。インクタンク1は、例えばPP,PE等の樹脂のインジェクション・ブロー等により成型され、各構成要素は超音波溶着,熱溶着,接着,嵌合などの技術を用いて組み立てられる。インクタンク1は、タンク外装3がそのままインク収容部として機能する。タンク外装3は略直方体形状を有し、図1に示される側面(以下、これを正面と定義する)およびこれに対向する側面(以下、これを背面と定義する)が直方体形状の最大面積をなす面となっている。
【0027】
本実施形態のインクタンク1は記録装置の固定部位に着脱可能であり、図1および図2に示す姿勢が記録装置への装着時の姿勢でもある。インク供給部10が、記録装置側にあるインク供給針や大気連通針に対向する姿勢である。また、後述するが、インクタンクが梱包されたパッケージの状態で、パッケージに設けられた孔により吊り下げられている状態である。この姿勢において重力方向最低部位となる底面(第1端部)側に液体供給部であるインク供給部10が設けられている。インク供給部10は、インクタンクの一底面であるγ位置に対して、図2中矢印で示す方向に突出した位置δに設けられた構成となっている。これにより、インク残量の減少時に、インク供給部10近傍にインクを集め、効率的にインクを使い切ることができるようになっている。またインク供給部10は、インクタンク1の長手方向(図2の上下方向)に延在する中心軸Vよりも一つの容器側部側(図2に示す状態において右側面)に偏倚して配置されている。
【0028】
インク供給部10の端面には、ゴム製の2つのジョイント12Aおよび12Bが配置されている。記録装置に設けられた中空針212Bは、一方のジョイント12Bを貫通してインクタンク1内に突入可能である。タンク装着後、記録時は、中空針212Bを介してインクタンク内のインクがタンクから記録ヘッドへと供給される。他方のジョイント12Aに対しては、大気開放部を有する大気連通管の端部に設けた中空針212Aが突入可能である。この突入領域の周囲は、管状部材14によって囲まれている。これらにより、記録ヘッドのインク吐出動作に伴ってインクがインクタンク1からヘッドへ供給される。これと同時に、供給されたインク量に対応した分の空気がインクタンク1内に大気開放部から導入され、インクタンク1の内圧がほぼ一定に保たれるようになる。また、大気連通管の途中にバッファ室を設けた構成をとっている。環境変化等によってインクタンク内に圧力変化が生じたときに、この圧力変化を吸収して、供給チューブひいては記録ヘッド側に圧力変動の影響を及ぼさないようにすることができる。バッファ室は、インクタンク内の空気が膨張することによってタンク内から溢れ出るインクを一時的に保持するなどの機能を果たすことができる。さらにこの構成は、装置側の構成を利用して行われる攪拌動作(インク供給経路の加減圧)時のインクタンク内の圧力変化を吸収する上でも有効である。記録ヘッドとインクタンクを結ぶインク供給経路は、図示していないがチューブなどで構成されている。
【0029】
インクタンク1の外装3には、対向する正面および背面間、すなわち第1端部およびこれに対向する面である第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在する柱状構造を有する2つのエア分割部16および18が設けられている。これらは、後述のように、エア分割を行ない、各分割エアを個別に導くことでインクの攪拌を促進するように機能する。エア分割部16および18はいずれも、図2で示す輪郭内に示される斜線部分が、空間ではない構造(タンク外装部材で充填されている構造)のものであっても良い。あるいは輪郭内の斜線部分が、正面側および背面側のタンク外装壁に対して凹部をなす構造でも良く、正面および背面間を貫通している構造でもよい。要は、エア分割部16および18の全体またはその輪郭を画成する周囲壁部分が、正面側のタンク外装壁と背面側のタンク外装壁との間で連続して延在するものであればよい。また、エア分割部16および18をこのような構成とすることで、インクタンク内外の圧力差によるインクタンクの変形を阻止する補強部としても機能させることができる。
【0030】
エア分割部16は、図2で示す中心軸V上、インク供給部10が設けられた面(第1端部)と対向する面(第2端部)の方向に偏倚して設けられ、ほぼ円形の断面を有している。エア分割部18は、中心軸V上、インク供給部10が設けられた側面側に偏倚して設けられ、中心軸V上に位置するほぼ円形断面の部分18Aと、ここから延在する傾斜部分18Bとを有している。傾斜部分18Bを説明する。図2に示すタンクの水平方向(タンクの左右方向)に関して、容器の中央領域からインク供給部10が偏倚する方向(図で右側)と同方向に、インク供給部の上方領域を覆うように、容器の側部に向かって延在した構成になっている。かつ、傾斜部分18Bは、図2に示す鉛直方向(タンクの上下方向)にはインク供給部10とは反対側すなわちインク供給部10から離れる方向に傾斜して延在している。このため、傾斜部18Bの先端と、先端部が対向するインクタンクの一側面の外装内壁との間隔αは、円形断面の部分18Aと他側面の内壁との間隔βよりも狭く(α<β)なっている。なお、以下では前者の間隔をなすαの部分を狭隘部分と称する。
【0031】
以下、本実施形態のインクタンクの攪拌現象とユーザーの動作について説明する。
【0032】
インクタンク1は、タンク内部がインクで完全に充満されている状態ではなく、所定量のエアも充填した状態で製造される。図2に示す姿勢においてエア分割部16より高い位置に気液界面(インク液面)が形成されており、インク中の顔料成分はインク供給部付近に沈降している。
【0033】
本実施形態に係るインクタンク1は、記録装置への装着に先立ち、ユーザの手による攪拌操作が行なわれる。本例で言う撹拌操作とは、インクタンク1を回転もしくは回動させることで、インク供給部10が設けられた端面(第1端部)と、これに対向する端面(第2端部)とを天地逆にする操作(以下、ターンオーバ操作)を行うことである。本実施形態では、インクタンクのターンオーバ操作に伴って、予め存在しているエアとインクとの、位置が入れ替わる。このエアとインクの位置交換の過程で、エア分割部16および18により適切なエアの分割が行われ、各分割エアを個別に導くことによってインクの攪拌が促進される。
【0034】
なお、実施形態のインクタンクでは、インクタンクの正面側と背面側とを連絡するようエア分割部を設けている。従って、ターンオーバ操作に際しては、これら面の法線方向にインクタンク1を回転または回動させることが好ましい。具体的には、図2の水平方向回転軸Hを中心として回転または回動させることが好ましい。エア分割部は、インクタンクの形状に合わせ、効果的なエア分割等を行い得る適宜の部位に適宜の個数、適宜の形状として設けることができる。ターンオーバ操作時の回転または回動方向も本例のものに限られないことは勿論である。第1の実施例で説明したような、図2で示すインクタンクの構造では、エア分割部の形状を16、18で示す構造にすることが効率的な撹拌を行なう上で効果がある。
【0035】
図2に示すインクタンクは、記録装置への装着時の姿勢であり、インク供給部10が、記録装置側にあるインク供給針や大気連通針に対向する姿勢である。また、後述するが、インクタンクが梱包されたパッケージの状態で、パッケージに設けられた孔により吊り下げられている状態である。この姿勢において重力方向最低部位となる底面(第1端部)側にインク供給部10が設けられている。図3は、図2の状態からターンオーバ操作を行った瞬間の状態を示す。図4は、図3のようにターンオーバ操作によって一瞬インクタンクの最低位置部分に位置することになったエアがインク収納容器内(液体収納容器内)を上昇する様子を説明している。エアは、エア分割部16に到達して、ここで分割される。図5および図6は、分割されたエアが、それぞれ上昇して行く過程を示している。一方の分割エアは傾斜部18Bのない領域を通ってそのまま上昇を続け、インクタンク1内に収納されるインクの、重力方向最上位部に先に到達しようとする。他方の分割エアは、一旦傾斜部18Bに突き当たった後、そこから狭隘部αを通って上昇し、上記最上位部に到達する。
【0036】
図7は、先に上昇した分割エアがほぼ上記最上位部の付近に到達している一方、狭隘部αを通る分割エアはその後時間差をおいて到達しようとしている状態を示している。ターンオーバ操作を行っても、当初インク供給部付近に沈降していた顔料成分は直ちにインクとともに下方に移動せず、緩慢にインク供給口が設けられている面と対向する面に向かって下降してくる。従って、分割エアが時間差をおいてインクタンク1内に収納されるインクの、重力方向最上位部に上昇して行くことで、顔料成分の拡散に寄与することができる。
【0037】
図8は、ターンオーバ操作後、すべてのエアが上昇したときの状態を示す。このように、エアは最高位となったインク供給部側の面に集まっている。インク供給部10が一方の側壁に偏倚し(図8の右側に偏倚している)、かつインク供給部10の位置が、タンクの一底面であるγ位置に対して、図8の矢印方向に突出した位置δにある構成をとっている。インクタンクがこのような構成であることから、中心軸Vよりその一端部側に存在するエア量の方が他端部側に存在するエア量より多くなる。具体的には、エアは図8の右上方向に位置する。従って、この状態からさらにターンオーバを行うと、図9で示すように、一瞬インクタンクの最低部分に位置することになったエアが上昇する。図9に示すように、エアは、まずエア分割部18に衝突するが、狭隘部αを通過しようとする分割エアの量の方が多くなる。また、傾斜部18Bは、エアが存在する側から見れば、狭隘部に向かって上方に傾斜する面を形成し、インクが存在する側から見れば狭隘部から下方に向かって傾斜する傾斜面を形成している。従って、エアの大部分は狭隘部を通って上昇しようとする一方、エアの一部は、狭隘部とは反対側の広い間隙部分を通って上昇しようとする。どちらのエアも、ターンオーバー動作によってインクタンク内を下降しようとするインクに逆らいながら、エア分割部の両側を通って上昇しようとする。
【0038】
狭隘部を通る大容量の分割エアは、一度にこれを通過せず、通過時に図10に示すようにさらに分割される。そして、図11に示すように、先に狭隘部を抜けた一部の分割エア、広い間隙部分を通った分割エアおよび、後に狭隘部を抜けた一部の分割エアが順次上昇してゆく。すなわち、分割エアは時間差をおいてタンク内部を上昇して行くので、先に説明したターンオーバ操作時と同様、顔料成分の拡散に複数場所で寄与することが可能となる。
【0039】
なお、図5〜図7および図9〜図11では、エアが大きく分割されたものとして示されている。しかし実験によれば、比較的大きな分割エアに付随して比較的小さな分割エアが多数発生し、ターンオーバ操作に伴う上昇の過程で、それらの分割エアが不規則かつ複雑に運動していることが確認された。本実施形態の構成によれば、そのような分割エア(泡)の運動によってインクの攪拌動作が促進されるのである。
【0040】
以上のことは、顔料成分が好ましく拡散した状態、すなわちタンクの鉛直方向に濃度傾斜分布がない状態を得るのに、少数回のターンオーバ操作を行えば足りることを意味する。すなわち、ユーザは単なるターンオーバ操作を少数回繰り返せば足り、インクタンクを激しく振ったり、多数回の操作を行ったりする必要がないことになる。またこれは、ユーザが特に意識せずとも、インクタンク装着のために行う一連の手順の中で撹拌操作が行われるようにするものでもあり、以下この点について説明する。
【0041】
図12は、本実施形態のインクタンク1を梱包したパッケージを示す。ここで、符号30で示すものは袋状のパック部材(梱包部材)であり、未使用のインクタンク1を密閉状態で収容している。その一縁近傍には穴32が設けられ、ここにフック等を挿通することでパック部材30すなわちパッケージの吊下が可能である。インクタンク1は、穴32とは反対側の縁部にインク供給部10が位置するよう収容されている。穴32にフック等を挿通してパック部材30を吊下することで、インクタンク1は装着時ないし使用時の姿勢と同じように、供給口が鉛直方向下方に向いた姿勢で展示または保管される。この状態ではインク供給部10付近に顔料成分が沈降した状態となっている。
【0042】
パック部材外側縁部で、インク供給部10側の縁部には、使用に際してインクタンクを取り出すべくパック部材30を破る操作を容易にするためのノッチ34が形成されている。ユーザは、インクタンクを取り出すために、まずノッチ34を上に向ける操作を行う。この動作に伴って、インク供給口が重力方向上向きとなる。そしてパック部材30を破いてインクタンクを取り出した後は、これを記録装置に装着するべくインク供給口を重力方向下向きにする。これは当然に、インクタンク1のターンオーバ操作を伴うものとなる。ターンオーバ後の記録装置への装着によって、インク供給口は重力方向下向きとなる。
【0043】
以上のように、本実施形態では、保管時等の吊下用の穴32およびインクタンク取り出し用のノッチ34の位置を含めてインクタンクを収容するパック部材の構成を適切に定め、かつインクタンク1の収容姿勢を適切に定めている。これにより、装着を行うための一連の手順の中で、ターンオーバ操作が行われることになり、インク撹拌が進むことになる。これにより、ユーザの負担を軽減することが可能となる。
【0044】
吊下用の穴は必ずしもなくとも構わない。ノッチを開く際に供給口が重力方向上向きとなれば良く、装着後に下向きとなれば良い。
【0045】
(第2の実施形態)
インクタンクは、上述した実施形態に限られることなく、種々の構成とすることが可能である。
【0046】
図13および図14は、それぞれ、本発明の第2の実施形態よるインクタンクを示す側面図および断面図であり、上記第1の実施形態と同様に構成配置される部分には対応箇所に同一の符号を付してある。
【0047】
本実施形態のインクタンク100についても、タンク外装がそのままインクチャンバとして機能し、かつ所定量のエアが存在する。本実施形態のインクタンク100も概ね直方体形状を有しているが、インク供給部10が設けられている端部と対向する端部はトーラス構造となっており、取り扱いに際しユーザが把持可能である。トーラスは中空のものであって、その内部にも流体が存在可能であり、このトーラス構造が第2の実施形態における一方のエア分割部としても機能する。
【0048】
他方のエア分割部118は、第1実施形態のエア分割部16と同様に構成可能であるが、本例では図13および図14に示す装着時の姿勢において、長手方向中心軸上の高位に頂角を有する扁平な略二等辺三角形状を有している。
装着時の姿勢とは、記録装置本体に設けられたインク供給針や大気連通針と、インクタンクのインク供給部10が対向する位置にあることである。
【0049】
以下、本実施形態のインクタンクの攪拌操作およびこの操作に伴う動作について説明する。
【0050】
インクタンク100は、その内部にインクが完全に充填されているのではなく、所定量のエアが存在する状態で製造される。この状態では、図14に示す姿勢においてエア分割部116のトーラス構造の空洞部分116Aの底辺より高い位置に気液界面が形成されている一方、インク中の顔料成分はインク供給部10の付近に沈降している。
【0051】
図15は、図14の状態からターンオーバ操作を行うことで、エア分割部116からエアが分かれて上昇して行く状態を示している。エア分割部118は、タンク内部で、図15の左右方向のほぼ中央に形成されている。トーラス部分の構造が、左右対称になっているため、エアはトーラス部分の左右に別れる。分割エアは、図15、図16に示すように、エア分割部118が側壁となしている2つの間隙αとβをほぼ同時に通ってそのまま上昇を続ける。しかしインク供給部10が一方の側壁に偏倚し、内部に供給管がある構造になっていることから、図17に示すように、分割エアがインクタンク内のインクの重力方向最上位部に到達する到達時間や、エア量が異なってくる。従って本実施形態においても、分割エアが時間差をおいて最上位部に到達することで、顔料成分の拡散に寄与することができる。
【0052】
その後、エアは最高位となったインク供給部側の端部に集まる。インク供給部10が一方の側壁に偏倚していることから、中心軸よりその一端部側(図17では右上側)に存在するエア量の方が他端部側(左上側)に存在するエア量より多い。従って、さらにターンオーバ操作を行った場合、エア分割部118によってエアが分割される、エア分割部118と当該一端部側の側壁とがなす間隙αを通過する分割エアの量の方が多くなる。この分割エアは一度に間隙を通過せず、さらに分割される。この結果、分割エアは時間差をおいて上昇して行くので、さらに顔料成分の拡散に寄与することが可能となる。
【0053】
(インクタンク内のエア量)
以上の第1および第2の実施形態で説明したように、本発明は、未使用のインクタンク内に存在するエアを効果的に分割し、個別に導くことで、効率的なインク撹拌を行う構成を採用している。従って、製造された時点ないしは未装着時点でインクタンク内に存在する初期エア量すなわち初期インク充填量は、インクタンクの設計および製造上、重要なファクタとなる。図18および図19では、インク供給部の構成部材であるインク供給管あるいは同じくインク供給部構成部材である大気連通管などの少なくとも1つがエアに触れている状態を示している。メッシュを施している空間がエアが存在する空間である。図18で示す20がインク供給管、21が大気連通管である。図19では22がインク供給管、23が大気連通管を示している。
【0054】
本発明では、インクタンク内に予めエアを存在させることを前提としている。効果的な撹拌動作が実現される量のエアが存在していなければならない。エア量が少なければ、十分なエア分割および好ましい移動状態が得られず、比重の大きい顔料成分はインク中に拡散せずに、インクタンク内で高所から低所に流動するだけとなってしまう。第1および第2の実施例で示したインクタンクにおいては、初期エア量の最小値は、上述したインク供給部構成部材の少なくとも1つがエアに触れている状態になっているエア量である。
【0055】
そしてエアー量の最大値は、所期の撹拌効果が達成できるものでなければならない。
【0056】
初期エア量あるいは初期インク充填量の規定とは、例えば保管時ないしは装着時と同じ姿勢を取る時にインクタンク内に形成される初期の気液界面の高さの規定にほかならない。この時の姿勢とは、インク供給部が、記録装置側の針と対向している姿勢に対応し、供給部が重力方向下向きとなっている場合である。エア量、初期インク充填量は、ターンオーバ操作を行ったときに、エア分割部により効果的なエア分割および移動が効率的に行われるべき量である。初期気液界面の高さは、エア分割部の位置との関連において定めることができる。
【0057】
図20に示すようにターンオーバ操作によるエアの上昇時にエアが好ましく分割されるのは、ターンオーバ操作前に気液界面がエア分割部以上の位置にある場合である。エア分割部の高さ未満の位置であると、すなわちエアがエア分割部を取り囲んだ状態であると、ターンオーバ操作によってもエア分割が行われない恐れがある。すなわち、時間差をおいて複数の分割エアがインクタンク内に含まれるインクの重力方向最上位部に到達する動作、すなわち効果的なインク撹拌が行われない恐れがある。ターンオーバ操作前に気液界面がエア分割部の高さ以上の位置にあるよう、初期エア量すなわち初期インク充填量が規定されていることが重要である。
【0058】
上述した実施形態のインクタンク構成に即して、気液界面の高さ規定について説明する。
【0059】
第1の実施形態では、保管時ないしは装着時の姿勢において、鉛直方向に沿って2つのエア分割部16および18が存在する。それぞれ、インク供給部に対して相対的に高位置および低位置にある。この時、エア分割部16より高い位置に気液界面が存在していれば、ターンオーバ操作を行ったときに、2つのエア分割部16および18によって、上述したような効率的なエアの分割が実現される。しかしながら、一つのエア分割部のみでも、ターンオーバ操作を行ったときにある程度の撹拌効果が得られるのであれば、図20に示すようにエア分割部16および18の間の位置に気液界面が存在するよう、初期エア量すなわち初期インク充填量を規定してもよい。
【0060】
このことは第2の実施形態の構成についても同様である。すなわち、トーラス構造をなすエア分割部116と、エア分割部118との間に気液界面が存在するよう、初期エア量すなわち初期インク充填量を規定することができる。
【0061】
なお、第1および第2の実施形態とも、2つのエア分割部を有している構成である。しかしエア分割部が複数設けられている場合に一般化して言えば、その少なくとも1つの高さ以上の位置に気液界面があるよう、初期エア量すなわち初期インク充填量が定められていればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態によるインクタンク外形の正面図である。
【図2】第1の実施形態によるインクタンク内部の断面図である。
【図3】図2の状態からターンオーバ操作を行った直後のインクタンクの断面図である。
【図4】エアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図5】エアがα部を通過し、上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図6】図5の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図7】図6の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図8】エア上昇が終了した状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図9】図8の状態から再びターンオーバ操作を行ったときにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図10】図9の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図11】分割エアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図12】第1実施形態のインクタンクを梱包したパッケージを示す正面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態によるインクタンク外形正面図である。
【図14】第2の実施形態によるインクタンク内部の断面図である。
【図15】図14の状態からターンオーバ操作を行った直後のインクタンク断面図である。
【図16】分割エアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図17】図16の状態からエアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図18】第1の実施形態に係るインクタンクのインク供給部近傍を破断して示す斜視図である。
【図19】第2の実施形態に係るインクタンクのインク供給部近傍を破断して示す斜視図である。
【図20】インクタンク内に存在するエア量の規定を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1、100 インクタンク
3 タンク外装
10 インク供給部
12A ジョイント
12B ジョイント
16、18、116、118 エア分割部
30 パック部材
32 吊下用の穴
34 ノッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体収納容器およびそのパッケージに関し、詳しくは、インクジェット記録で用いられる記録用のインクなどの液体を収納するのに好適な液体収納容器およびそのパッケージに関する。本発明の液体収納容器は、一般的な記録装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の装置にも適用可能である。さらには、各種処理装置と複合的に組み合わされた産業用記録装置の液体供給源に適用可能なものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、一般に、記録ヘッドと、これに接続されて記録用のインクなどの液体を供給するための液体収納容器(以下、インクタンクともいう)が用いられる。記録に際しては、記録ヘッドに設けられた微細な吐出口より、画像データに従ってインクを吐出させ、このインクが記録媒体に付着することにより所望の画像が形成される。
【0003】
記録ヘッドに対しては、インク供給源であるインクタンクからインクが供給される。記録ヘッドにインクを供給する方式としては、キャリッジにインクを保持するインクタンクを搭載し、直接記録ヘッドにインクを供給するものがある。また、装置の固定部位に配置されたインクタンクと、記録ヘッドとの間を供給チューブを用いてインク連通させるものである。そしていずれの方式においても、インクタンクが収納するインク残量が実質的になくなったときに、新たなものに交換されるよう、インクタンクが記録装置に着脱可能となっているものが一般的である。
【0004】
近年では、広範な分野にインクジェット記録技術が適用されるようになってきており、個人ないしは家庭用途、あるいはオフィス用途だけでなく、印刷など産業用途への拡大も図られ、用途に合わせたインクジェット記録装置が開発されている。また、用いられるインクも用途に応じた好ましい特性を示すものが採用されている。
【0005】
インクは、色材として主に染料成分を含有するインク(以下、染料インクという)と、顔料成分を含有するインク(以下、顔料インクという)とに大別される。そして特に、記録物の耐光性や耐ガス性が要求される用途、例えば屋外掲示物を作成する用途においては、顔料インクを用いることで十分な画像堅牢性が確保されるようにされることが多い。
【0006】
しかしながら顔料インクは、染料インクに比べて取り扱いの点で様々な課題を有している。例えば、インク中における色材である顔料成分の分散性もその一つである。
【0007】
顔料成分は染料成分のようにインク溶液中に溶解せず、分散した状態で浮遊している。よって、インクタンクが暫く静置されたままであると、インクタンク内の顔料粒子は重力の作用に従って徐々に沈降し、インクタンクの鉛直方向に顔料粒子の濃度分布差を引き起こす。すなわち、低い部分には色材濃度の高い層が、高い部分には色材濃度の低い層が形成されてしまう。このままの状態で記録を開始・継続した場合、インクタンクの使用初期と使用後期との間で、出力された画像に濃度差が発生する。
【0008】
例えば、インクタンクの装着時の姿勢において底部となる部分にインク供給口が配置されて、記録ヘッドにインクが供給される構成を考える。この場合、上記の様な濃度分布差を有したままインクタンクを装着して記録を開始すると、最初は、色材濃度の高い下層からインクが供給されるので、必要とする濃度以上に高濃度な画像が出力される。その後、記録を重ね、インクタンク内のインクが消費されていくと、徐々に画像の濃度は低くなって行く。インクが少量になった頃には、当初の色材濃度よりも低い色材濃度のインクしか残存しておらず、当初と同じ画像データに従って記録した記録物であっても、濃度が十分に表現されなくなることもあり得る。特に、顔料粒子の径や比重が大きい場合には沈降傾向が著しく、非使用状態が数日間続くだけで画像に影響が現れるほどの濃度分布差が発生してしまう。
【0009】
また染料インクにおいても、寒冷地などでインクが凍結する場合には、凍結過程において内容成分が分離することがある。この場合、染料そのものもインクタンク内で偏在することになり、顔料インクほどではないが、染料インクにおいても濃度傾斜が発生する場合がある。
【0010】
上述のように、吐出されるインクの色材濃度が変動することは、インクタンクの使用初期と使用後期とで出力画像に濃度差を発生させる問題を生じさせるだけではない。複数のカラーインクを用い、所定のカラーバランスのもとに所望の色相を表現しているカラーインクジェット記録システムにおいては、カラーバランスが崩れることに繋がる。従って、ムラのある画像劣化が認識されるという問題を生じさせる。
【0011】
特許文献1や、特許文献2に開示されているインクタンクは、タンクのインク供給口からタンク内方に延在する管状部材を設けている。インクタンクの内部にはインク吸収体が内包され、管状部材は、この吸収体に囲まれている。この管状部材の側面にインク流入用の複数の孔が設けられている。インクは管に設けられた複数の孔を経由して管内部に流入する。つまり、供給口位置に近い孔以外に、供給口から遠い位置にある孔からもインクが管内部に流入し、インクは供給口からタンク外部に導出される。そしてこれにより、インク色材の濃度傾斜の影響を緩和し、導出されるインクの色材濃度が所望の範囲内に維持されていた。
【0012】
【特許文献1】特開2001−270131号公報
【特許文献2】特開2001−293880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来例では、インクタンク内部に吸収体が設けられ、その吸収体にインクが含有されている。インク収納量を増やすために内部にインク吸収体を設けず、タンク内に直接インクを収納するインクタンクでは、色材成分の沈降を妨げるものがない。よって、タンク内の色材濃度分布差が、より大きくなっていた。
【0014】
インクタンクが静置されるために色材成分が沈降するのは、記録装置に装着された後の、インクが使用されない期間(以下、非使用期間という)だけではない。製造されたタンクをユーザが入手して記録装置に装着するまでの期間、すなわち流通期間や、販売のために展示される期間、さらにはユーザ等において保存される期間(以下、未使用期間)にもタンクの静置状態が生じる。そして実際には、非使用期間よりも未使用期間の方が長く、未使用期間での色材の濃度分布差が大きくなっていることが考えられる。
【0015】
記録装置に装着された後には、装置側で適切な撹拌動作を行うことも可能である。例えば、タンクに接続されたチューブ等のインク供給経路を加減圧して、タンク内のインクに流れもしくは運動を生ぜしめ、これによって撹拌動作が行われるようにすることなどである。これによれば、タンク内に収納するインク全体にわたって撹拌効果が作用し、タンク内部で濃度分布差の少ない状態(色材の一様な分散状態)が得られる。
【0016】
しかし未使用期間ではそのような積極的な撹拌動作を行うことはできない。色材や顔料成分の沈降が進み、タンク鉛直方向の濃度分布差が非常に大きくなっていることもある。このような大きな濃度分布差が生じている状態、すなわちインク供給口付近に色材成分が集中している状態では、濃度分布差を改善することが、より厳しくなる。タンクの装着初期にタンクに接続されたチューブ等のインク供給経路に加減圧を加え、タンク内部のインク撹拌動作を行っても、撹拌効果が不十分な場合がある。特にタンク使用開始の初期は、タンクのインク供給口付近に色材成分が沈降した高濃度のインクを使用することになり、非常に高濃度の画像が形成されてしまう恐れがある。
【0017】
そこで一般には、記録装置へのタンクの装着に先立ち、手振りと称される撹拌操作をユーザが行うことが推奨されている。具体的には、インクタンクをユーザーが自分で振って、タンク全体を動かすような動作である。このような撹拌操作を失念もしくは怠ったまま装置にタンクを装着して使用を開始すると、印字初期では高濃度の画像が形成されてしまうことがある。タンクの撹拌操作を行ない、タンク内の色材濃度分布を改善後に印字することが望ましい。しかし、このような操作はユーザが自らの手を用いて行うものである一方、その手間は少ないことが望ましい。これらは相反する課題である。
【0018】
本発明は、かかる点に鑑み、ユーザが特に意識しなくても、装置への取り付けに至る一連の手順の中で自然にタンク内の色材成分の撹拌操作が行われ、濃度分布差の少ない液体収納容器を提供することにある。
【0019】
加えて、本発明の他の目的は、インクタンク内の色材成分が撹拌され、色材が一様に分布した状態が得られる液体収納容器パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そのために、本発明は、インクジェット記録装置が使用する液体とともにエアを収容する液体収納容器であって、
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置していることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置している液体収納容器をパック部材に収容してなる液体収納容器パッケージであって、
前記パック部材は、収容された前記液体収納容器の前記第1端部が位置するパック部材外側縁部にノッチを有し、該縁部とは反対側の前記第2端部が位置するパック部材外側縁部に吊下用の穴を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液体収納容器(インクタンク)のインク供給口が設けられている側面と、その対向面を逆にする操作に伴って、容器内に存在しているエアが移動する。このエア移動過程で、タンク内の構造によりエアが分割される。その結果、分割されたエアのタンク内部での移動によって、液体(主に顔料インク)の撹拌が促進される。これにより、最小限の撹拌操作を要するのみで、液体収納容器(インクタンク)内の成分(主に顔料)の分布が、改善された状態が得られる効果がある。
【0023】
本発明の液体収納容器パッケージは、液体収納容器がパッケージに包装された状態から記録装置へ取り付けるに至る一連の手順の実施過程で、容器内の色材成分の撹拌を行なうことができる効果がある。すなわちパッケージから液体収納容器を取り出すために、包装部材を破る手順と、さらに取り出した液体収納容器を記録装置に取り付けるための手順の実施過程で、自然に撹拌操作が行われる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態によるインクタンクを示す側面図である。
【0026】
液体収納容器であるインクタンク1は、液体として、記録装置側の構成に合わせた色の顔料インク(例えばブラック,シアン,マゼンタ,イエローなど)のインクを収納する。インクタンク1は、例えばPP,PE等の樹脂のインジェクション・ブロー等により成型され、各構成要素は超音波溶着,熱溶着,接着,嵌合などの技術を用いて組み立てられる。インクタンク1は、タンク外装3がそのままインク収容部として機能する。タンク外装3は略直方体形状を有し、図1に示される側面(以下、これを正面と定義する)およびこれに対向する側面(以下、これを背面と定義する)が直方体形状の最大面積をなす面となっている。
【0027】
本実施形態のインクタンク1は記録装置の固定部位に着脱可能であり、図1および図2に示す姿勢が記録装置への装着時の姿勢でもある。インク供給部10が、記録装置側にあるインク供給針や大気連通針に対向する姿勢である。また、後述するが、インクタンクが梱包されたパッケージの状態で、パッケージに設けられた孔により吊り下げられている状態である。この姿勢において重力方向最低部位となる底面(第1端部)側に液体供給部であるインク供給部10が設けられている。インク供給部10は、インクタンクの一底面であるγ位置に対して、図2中矢印で示す方向に突出した位置δに設けられた構成となっている。これにより、インク残量の減少時に、インク供給部10近傍にインクを集め、効率的にインクを使い切ることができるようになっている。またインク供給部10は、インクタンク1の長手方向(図2の上下方向)に延在する中心軸Vよりも一つの容器側部側(図2に示す状態において右側面)に偏倚して配置されている。
【0028】
インク供給部10の端面には、ゴム製の2つのジョイント12Aおよび12Bが配置されている。記録装置に設けられた中空針212Bは、一方のジョイント12Bを貫通してインクタンク1内に突入可能である。タンク装着後、記録時は、中空針212Bを介してインクタンク内のインクがタンクから記録ヘッドへと供給される。他方のジョイント12Aに対しては、大気開放部を有する大気連通管の端部に設けた中空針212Aが突入可能である。この突入領域の周囲は、管状部材14によって囲まれている。これらにより、記録ヘッドのインク吐出動作に伴ってインクがインクタンク1からヘッドへ供給される。これと同時に、供給されたインク量に対応した分の空気がインクタンク1内に大気開放部から導入され、インクタンク1の内圧がほぼ一定に保たれるようになる。また、大気連通管の途中にバッファ室を設けた構成をとっている。環境変化等によってインクタンク内に圧力変化が生じたときに、この圧力変化を吸収して、供給チューブひいては記録ヘッド側に圧力変動の影響を及ぼさないようにすることができる。バッファ室は、インクタンク内の空気が膨張することによってタンク内から溢れ出るインクを一時的に保持するなどの機能を果たすことができる。さらにこの構成は、装置側の構成を利用して行われる攪拌動作(インク供給経路の加減圧)時のインクタンク内の圧力変化を吸収する上でも有効である。記録ヘッドとインクタンクを結ぶインク供給経路は、図示していないがチューブなどで構成されている。
【0029】
インクタンク1の外装3には、対向する正面および背面間、すなわち第1端部およびこれに対向する面である第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在する柱状構造を有する2つのエア分割部16および18が設けられている。これらは、後述のように、エア分割を行ない、各分割エアを個別に導くことでインクの攪拌を促進するように機能する。エア分割部16および18はいずれも、図2で示す輪郭内に示される斜線部分が、空間ではない構造(タンク外装部材で充填されている構造)のものであっても良い。あるいは輪郭内の斜線部分が、正面側および背面側のタンク外装壁に対して凹部をなす構造でも良く、正面および背面間を貫通している構造でもよい。要は、エア分割部16および18の全体またはその輪郭を画成する周囲壁部分が、正面側のタンク外装壁と背面側のタンク外装壁との間で連続して延在するものであればよい。また、エア分割部16および18をこのような構成とすることで、インクタンク内外の圧力差によるインクタンクの変形を阻止する補強部としても機能させることができる。
【0030】
エア分割部16は、図2で示す中心軸V上、インク供給部10が設けられた面(第1端部)と対向する面(第2端部)の方向に偏倚して設けられ、ほぼ円形の断面を有している。エア分割部18は、中心軸V上、インク供給部10が設けられた側面側に偏倚して設けられ、中心軸V上に位置するほぼ円形断面の部分18Aと、ここから延在する傾斜部分18Bとを有している。傾斜部分18Bを説明する。図2に示すタンクの水平方向(タンクの左右方向)に関して、容器の中央領域からインク供給部10が偏倚する方向(図で右側)と同方向に、インク供給部の上方領域を覆うように、容器の側部に向かって延在した構成になっている。かつ、傾斜部分18Bは、図2に示す鉛直方向(タンクの上下方向)にはインク供給部10とは反対側すなわちインク供給部10から離れる方向に傾斜して延在している。このため、傾斜部18Bの先端と、先端部が対向するインクタンクの一側面の外装内壁との間隔αは、円形断面の部分18Aと他側面の内壁との間隔βよりも狭く(α<β)なっている。なお、以下では前者の間隔をなすαの部分を狭隘部分と称する。
【0031】
以下、本実施形態のインクタンクの攪拌現象とユーザーの動作について説明する。
【0032】
インクタンク1は、タンク内部がインクで完全に充満されている状態ではなく、所定量のエアも充填した状態で製造される。図2に示す姿勢においてエア分割部16より高い位置に気液界面(インク液面)が形成されており、インク中の顔料成分はインク供給部付近に沈降している。
【0033】
本実施形態に係るインクタンク1は、記録装置への装着に先立ち、ユーザの手による攪拌操作が行なわれる。本例で言う撹拌操作とは、インクタンク1を回転もしくは回動させることで、インク供給部10が設けられた端面(第1端部)と、これに対向する端面(第2端部)とを天地逆にする操作(以下、ターンオーバ操作)を行うことである。本実施形態では、インクタンクのターンオーバ操作に伴って、予め存在しているエアとインクとの、位置が入れ替わる。このエアとインクの位置交換の過程で、エア分割部16および18により適切なエアの分割が行われ、各分割エアを個別に導くことによってインクの攪拌が促進される。
【0034】
なお、実施形態のインクタンクでは、インクタンクの正面側と背面側とを連絡するようエア分割部を設けている。従って、ターンオーバ操作に際しては、これら面の法線方向にインクタンク1を回転または回動させることが好ましい。具体的には、図2の水平方向回転軸Hを中心として回転または回動させることが好ましい。エア分割部は、インクタンクの形状に合わせ、効果的なエア分割等を行い得る適宜の部位に適宜の個数、適宜の形状として設けることができる。ターンオーバ操作時の回転または回動方向も本例のものに限られないことは勿論である。第1の実施例で説明したような、図2で示すインクタンクの構造では、エア分割部の形状を16、18で示す構造にすることが効率的な撹拌を行なう上で効果がある。
【0035】
図2に示すインクタンクは、記録装置への装着時の姿勢であり、インク供給部10が、記録装置側にあるインク供給針や大気連通針に対向する姿勢である。また、後述するが、インクタンクが梱包されたパッケージの状態で、パッケージに設けられた孔により吊り下げられている状態である。この姿勢において重力方向最低部位となる底面(第1端部)側にインク供給部10が設けられている。図3は、図2の状態からターンオーバ操作を行った瞬間の状態を示す。図4は、図3のようにターンオーバ操作によって一瞬インクタンクの最低位置部分に位置することになったエアがインク収納容器内(液体収納容器内)を上昇する様子を説明している。エアは、エア分割部16に到達して、ここで分割される。図5および図6は、分割されたエアが、それぞれ上昇して行く過程を示している。一方の分割エアは傾斜部18Bのない領域を通ってそのまま上昇を続け、インクタンク1内に収納されるインクの、重力方向最上位部に先に到達しようとする。他方の分割エアは、一旦傾斜部18Bに突き当たった後、そこから狭隘部αを通って上昇し、上記最上位部に到達する。
【0036】
図7は、先に上昇した分割エアがほぼ上記最上位部の付近に到達している一方、狭隘部αを通る分割エアはその後時間差をおいて到達しようとしている状態を示している。ターンオーバ操作を行っても、当初インク供給部付近に沈降していた顔料成分は直ちにインクとともに下方に移動せず、緩慢にインク供給口が設けられている面と対向する面に向かって下降してくる。従って、分割エアが時間差をおいてインクタンク1内に収納されるインクの、重力方向最上位部に上昇して行くことで、顔料成分の拡散に寄与することができる。
【0037】
図8は、ターンオーバ操作後、すべてのエアが上昇したときの状態を示す。このように、エアは最高位となったインク供給部側の面に集まっている。インク供給部10が一方の側壁に偏倚し(図8の右側に偏倚している)、かつインク供給部10の位置が、タンクの一底面であるγ位置に対して、図8の矢印方向に突出した位置δにある構成をとっている。インクタンクがこのような構成であることから、中心軸Vよりその一端部側に存在するエア量の方が他端部側に存在するエア量より多くなる。具体的には、エアは図8の右上方向に位置する。従って、この状態からさらにターンオーバを行うと、図9で示すように、一瞬インクタンクの最低部分に位置することになったエアが上昇する。図9に示すように、エアは、まずエア分割部18に衝突するが、狭隘部αを通過しようとする分割エアの量の方が多くなる。また、傾斜部18Bは、エアが存在する側から見れば、狭隘部に向かって上方に傾斜する面を形成し、インクが存在する側から見れば狭隘部から下方に向かって傾斜する傾斜面を形成している。従って、エアの大部分は狭隘部を通って上昇しようとする一方、エアの一部は、狭隘部とは反対側の広い間隙部分を通って上昇しようとする。どちらのエアも、ターンオーバー動作によってインクタンク内を下降しようとするインクに逆らいながら、エア分割部の両側を通って上昇しようとする。
【0038】
狭隘部を通る大容量の分割エアは、一度にこれを通過せず、通過時に図10に示すようにさらに分割される。そして、図11に示すように、先に狭隘部を抜けた一部の分割エア、広い間隙部分を通った分割エアおよび、後に狭隘部を抜けた一部の分割エアが順次上昇してゆく。すなわち、分割エアは時間差をおいてタンク内部を上昇して行くので、先に説明したターンオーバ操作時と同様、顔料成分の拡散に複数場所で寄与することが可能となる。
【0039】
なお、図5〜図7および図9〜図11では、エアが大きく分割されたものとして示されている。しかし実験によれば、比較的大きな分割エアに付随して比較的小さな分割エアが多数発生し、ターンオーバ操作に伴う上昇の過程で、それらの分割エアが不規則かつ複雑に運動していることが確認された。本実施形態の構成によれば、そのような分割エア(泡)の運動によってインクの攪拌動作が促進されるのである。
【0040】
以上のことは、顔料成分が好ましく拡散した状態、すなわちタンクの鉛直方向に濃度傾斜分布がない状態を得るのに、少数回のターンオーバ操作を行えば足りることを意味する。すなわち、ユーザは単なるターンオーバ操作を少数回繰り返せば足り、インクタンクを激しく振ったり、多数回の操作を行ったりする必要がないことになる。またこれは、ユーザが特に意識せずとも、インクタンク装着のために行う一連の手順の中で撹拌操作が行われるようにするものでもあり、以下この点について説明する。
【0041】
図12は、本実施形態のインクタンク1を梱包したパッケージを示す。ここで、符号30で示すものは袋状のパック部材(梱包部材)であり、未使用のインクタンク1を密閉状態で収容している。その一縁近傍には穴32が設けられ、ここにフック等を挿通することでパック部材30すなわちパッケージの吊下が可能である。インクタンク1は、穴32とは反対側の縁部にインク供給部10が位置するよう収容されている。穴32にフック等を挿通してパック部材30を吊下することで、インクタンク1は装着時ないし使用時の姿勢と同じように、供給口が鉛直方向下方に向いた姿勢で展示または保管される。この状態ではインク供給部10付近に顔料成分が沈降した状態となっている。
【0042】
パック部材外側縁部で、インク供給部10側の縁部には、使用に際してインクタンクを取り出すべくパック部材30を破る操作を容易にするためのノッチ34が形成されている。ユーザは、インクタンクを取り出すために、まずノッチ34を上に向ける操作を行う。この動作に伴って、インク供給口が重力方向上向きとなる。そしてパック部材30を破いてインクタンクを取り出した後は、これを記録装置に装着するべくインク供給口を重力方向下向きにする。これは当然に、インクタンク1のターンオーバ操作を伴うものとなる。ターンオーバ後の記録装置への装着によって、インク供給口は重力方向下向きとなる。
【0043】
以上のように、本実施形態では、保管時等の吊下用の穴32およびインクタンク取り出し用のノッチ34の位置を含めてインクタンクを収容するパック部材の構成を適切に定め、かつインクタンク1の収容姿勢を適切に定めている。これにより、装着を行うための一連の手順の中で、ターンオーバ操作が行われることになり、インク撹拌が進むことになる。これにより、ユーザの負担を軽減することが可能となる。
【0044】
吊下用の穴は必ずしもなくとも構わない。ノッチを開く際に供給口が重力方向上向きとなれば良く、装着後に下向きとなれば良い。
【0045】
(第2の実施形態)
インクタンクは、上述した実施形態に限られることなく、種々の構成とすることが可能である。
【0046】
図13および図14は、それぞれ、本発明の第2の実施形態よるインクタンクを示す側面図および断面図であり、上記第1の実施形態と同様に構成配置される部分には対応箇所に同一の符号を付してある。
【0047】
本実施形態のインクタンク100についても、タンク外装がそのままインクチャンバとして機能し、かつ所定量のエアが存在する。本実施形態のインクタンク100も概ね直方体形状を有しているが、インク供給部10が設けられている端部と対向する端部はトーラス構造となっており、取り扱いに際しユーザが把持可能である。トーラスは中空のものであって、その内部にも流体が存在可能であり、このトーラス構造が第2の実施形態における一方のエア分割部としても機能する。
【0048】
他方のエア分割部118は、第1実施形態のエア分割部16と同様に構成可能であるが、本例では図13および図14に示す装着時の姿勢において、長手方向中心軸上の高位に頂角を有する扁平な略二等辺三角形状を有している。
装着時の姿勢とは、記録装置本体に設けられたインク供給針や大気連通針と、インクタンクのインク供給部10が対向する位置にあることである。
【0049】
以下、本実施形態のインクタンクの攪拌操作およびこの操作に伴う動作について説明する。
【0050】
インクタンク100は、その内部にインクが完全に充填されているのではなく、所定量のエアが存在する状態で製造される。この状態では、図14に示す姿勢においてエア分割部116のトーラス構造の空洞部分116Aの底辺より高い位置に気液界面が形成されている一方、インク中の顔料成分はインク供給部10の付近に沈降している。
【0051】
図15は、図14の状態からターンオーバ操作を行うことで、エア分割部116からエアが分かれて上昇して行く状態を示している。エア分割部118は、タンク内部で、図15の左右方向のほぼ中央に形成されている。トーラス部分の構造が、左右対称になっているため、エアはトーラス部分の左右に別れる。分割エアは、図15、図16に示すように、エア分割部118が側壁となしている2つの間隙αとβをほぼ同時に通ってそのまま上昇を続ける。しかしインク供給部10が一方の側壁に偏倚し、内部に供給管がある構造になっていることから、図17に示すように、分割エアがインクタンク内のインクの重力方向最上位部に到達する到達時間や、エア量が異なってくる。従って本実施形態においても、分割エアが時間差をおいて最上位部に到達することで、顔料成分の拡散に寄与することができる。
【0052】
その後、エアは最高位となったインク供給部側の端部に集まる。インク供給部10が一方の側壁に偏倚していることから、中心軸よりその一端部側(図17では右上側)に存在するエア量の方が他端部側(左上側)に存在するエア量より多い。従って、さらにターンオーバ操作を行った場合、エア分割部118によってエアが分割される、エア分割部118と当該一端部側の側壁とがなす間隙αを通過する分割エアの量の方が多くなる。この分割エアは一度に間隙を通過せず、さらに分割される。この結果、分割エアは時間差をおいて上昇して行くので、さらに顔料成分の拡散に寄与することが可能となる。
【0053】
(インクタンク内のエア量)
以上の第1および第2の実施形態で説明したように、本発明は、未使用のインクタンク内に存在するエアを効果的に分割し、個別に導くことで、効率的なインク撹拌を行う構成を採用している。従って、製造された時点ないしは未装着時点でインクタンク内に存在する初期エア量すなわち初期インク充填量は、インクタンクの設計および製造上、重要なファクタとなる。図18および図19では、インク供給部の構成部材であるインク供給管あるいは同じくインク供給部構成部材である大気連通管などの少なくとも1つがエアに触れている状態を示している。メッシュを施している空間がエアが存在する空間である。図18で示す20がインク供給管、21が大気連通管である。図19では22がインク供給管、23が大気連通管を示している。
【0054】
本発明では、インクタンク内に予めエアを存在させることを前提としている。効果的な撹拌動作が実現される量のエアが存在していなければならない。エア量が少なければ、十分なエア分割および好ましい移動状態が得られず、比重の大きい顔料成分はインク中に拡散せずに、インクタンク内で高所から低所に流動するだけとなってしまう。第1および第2の実施例で示したインクタンクにおいては、初期エア量の最小値は、上述したインク供給部構成部材の少なくとも1つがエアに触れている状態になっているエア量である。
【0055】
そしてエアー量の最大値は、所期の撹拌効果が達成できるものでなければならない。
【0056】
初期エア量あるいは初期インク充填量の規定とは、例えば保管時ないしは装着時と同じ姿勢を取る時にインクタンク内に形成される初期の気液界面の高さの規定にほかならない。この時の姿勢とは、インク供給部が、記録装置側の針と対向している姿勢に対応し、供給部が重力方向下向きとなっている場合である。エア量、初期インク充填量は、ターンオーバ操作を行ったときに、エア分割部により効果的なエア分割および移動が効率的に行われるべき量である。初期気液界面の高さは、エア分割部の位置との関連において定めることができる。
【0057】
図20に示すようにターンオーバ操作によるエアの上昇時にエアが好ましく分割されるのは、ターンオーバ操作前に気液界面がエア分割部以上の位置にある場合である。エア分割部の高さ未満の位置であると、すなわちエアがエア分割部を取り囲んだ状態であると、ターンオーバ操作によってもエア分割が行われない恐れがある。すなわち、時間差をおいて複数の分割エアがインクタンク内に含まれるインクの重力方向最上位部に到達する動作、すなわち効果的なインク撹拌が行われない恐れがある。ターンオーバ操作前に気液界面がエア分割部の高さ以上の位置にあるよう、初期エア量すなわち初期インク充填量が規定されていることが重要である。
【0058】
上述した実施形態のインクタンク構成に即して、気液界面の高さ規定について説明する。
【0059】
第1の実施形態では、保管時ないしは装着時の姿勢において、鉛直方向に沿って2つのエア分割部16および18が存在する。それぞれ、インク供給部に対して相対的に高位置および低位置にある。この時、エア分割部16より高い位置に気液界面が存在していれば、ターンオーバ操作を行ったときに、2つのエア分割部16および18によって、上述したような効率的なエアの分割が実現される。しかしながら、一つのエア分割部のみでも、ターンオーバ操作を行ったときにある程度の撹拌効果が得られるのであれば、図20に示すようにエア分割部16および18の間の位置に気液界面が存在するよう、初期エア量すなわち初期インク充填量を規定してもよい。
【0060】
このことは第2の実施形態の構成についても同様である。すなわち、トーラス構造をなすエア分割部116と、エア分割部118との間に気液界面が存在するよう、初期エア量すなわち初期インク充填量を規定することができる。
【0061】
なお、第1および第2の実施形態とも、2つのエア分割部を有している構成である。しかしエア分割部が複数設けられている場合に一般化して言えば、その少なくとも1つの高さ以上の位置に気液界面があるよう、初期エア量すなわち初期インク充填量が定められていればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態によるインクタンク外形の正面図である。
【図2】第1の実施形態によるインクタンク内部の断面図である。
【図3】図2の状態からターンオーバ操作を行った直後のインクタンクの断面図である。
【図4】エアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図5】エアがα部を通過し、上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図6】図5の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図7】図6の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図8】エア上昇が終了した状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図9】図8の状態から再びターンオーバ操作を行ったときにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図10】図9の状態からさらにエアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図11】分割エアが上昇して行く状態を説明するためのインクタンクの断面図である。
【図12】第1実施形態のインクタンクを梱包したパッケージを示す正面図である。
【図13】本発明の第2の実施形態によるインクタンク外形正面図である。
【図14】第2の実施形態によるインクタンク内部の断面図である。
【図15】図14の状態からターンオーバ操作を行った直後のインクタンク断面図である。
【図16】分割エアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図17】図16の状態からエアが上昇して行く状態を説明するインクタンクの断面図である。
【図18】第1の実施形態に係るインクタンクのインク供給部近傍を破断して示す斜視図である。
【図19】第2の実施形態に係るインクタンクのインク供給部近傍を破断して示す斜視図である。
【図20】インクタンク内に存在するエア量の規定を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1、100 インクタンク
3 タンク外装
10 インク供給部
12A ジョイント
12B ジョイント
16、18、116、118 エア分割部
30 パック部材
32 吊下用の穴
34 ノッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット記録装置が使用する液体とともにエアを収容する液体収納容器であって、
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置していることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記エアが前記エア分割部にて分割され、前記液体収納容器内を上昇し、当該分割されたエアが、それぞれ時間差をおいて前記液体収納容器内に含まれる液体の、重力方向最上位部に到達するよう構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記液体供給部は、前記第1端部の中心よりも容器側部側に偏倚した位置に、前記第1端部より突出して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記エア分割部は、容器の中央領域から前記液体供給部の上方領域を覆うように容器の側部に向かって延在し、かつ前記液体供給部から離れる方向に傾斜する傾斜部を有することを特徴とする請求項1または3に記載の液体収納容器。
【請求項5】
前記エア分割部が複数設けられ、前記気液界面はその少なくとも1つのエア分割部以上の高さの位置に存在していることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項6】
前記液体供給部を重力方向下向きにした状態で、前記液体供給部の構成部材であるインク供給管あるいは大気連通管の少なくとも1つがエアに触れている状態であることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項7】
前記液体はインクであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項8】
前記液体は、顔料成分を含有するインクであることを特徴とする請求項7に記載の液体収納容器。
【請求項9】
前記液体収納容器はインクタンクであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項10】
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置している液体収納容器をパック部材に収容してなる液体収納容器パッケージであって、
前記パック部材は、収容された前記液体収納容器の前記第1端部が位置するパック部材外側縁部にノッチを有し、該縁部とは反対側の前記第2端部が位置するパック部材外側縁部に吊下用の穴を有していることを特徴とする液体収納容器パッケージ。
【請求項1】
インクジェット記録装置が使用する液体とともにエアを収容する液体収納容器であって、
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置していることを特徴とする液体収納容器。
【請求項2】
前記エアが前記エア分割部にて分割され、前記液体収納容器内を上昇し、当該分割されたエアが、それぞれ時間差をおいて前記液体収納容器内に含まれる液体の、重力方向最上位部に到達するよう構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項3】
前記液体供給部は、前記第1端部の中心よりも容器側部側に偏倚した位置に、前記第1端部より突出して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項4】
前記エア分割部は、容器の中央領域から前記液体供給部の上方領域を覆うように容器の側部に向かって延在し、かつ前記液体供給部から離れる方向に傾斜する傾斜部を有することを特徴とする請求項1または3に記載の液体収納容器。
【請求項5】
前記エア分割部が複数設けられ、前記気液界面はその少なくとも1つのエア分割部以上の高さの位置に存在していることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項6】
前記液体供給部を重力方向下向きにした状態で、前記液体供給部の構成部材であるインク供給管あるいは大気連通管の少なくとも1つがエアに触れている状態であることを特徴とする請求項1に記載の液体収納容器。
【請求項7】
前記液体はインクであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項8】
前記液体は、顔料成分を含有するインクであることを特徴とする請求項7に記載の液体収納容器。
【請求項9】
前記液体収納容器はインクタンクであることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の液体収納容器。
【請求項10】
収納する液体を前記インクジェット記録装置に供給するための液体供給部を有する第1端部と、
該第1端部に対向する第2端部と、
前記第1および前記第2端部間をつなぐ容器側部のうち最大面積をもつ対向側部間に延在し、前記エアを分割するエア分割部と、
を具え、
前記第1端部を鉛直方向下方に向けた姿勢において、前記エアと前記液体との気液界面が前記エア分割部以上の高さに位置している液体収納容器をパック部材に収容してなる液体収納容器パッケージであって、
前記パック部材は、収容された前記液体収納容器の前記第1端部が位置するパック部材外側縁部にノッチを有し、該縁部とは反対側の前記第2端部が位置するパック部材外側縁部に吊下用の穴を有していることを特徴とする液体収納容器パッケージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2007−290381(P2007−290381A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81327(P2007−81327)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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