説明

液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 SOG膜は、スパッタ法や化学蒸着法などで設ける絶縁層と異なり、インクに対して溶解しやすい性質を有している。そのため一箇所でもSOG膜がインクの流路に露出すると、その部分から溶出してしまい絶縁層等の剥離が生じることが懸念される。
【解決手段】 第2の絶縁層15の平坦部が露出するまでSOG層16をエッチングし、第2の絶縁層15の凹凸形状の凸部の角部にのみSOG材料からなる傾斜を緩和する部分16aが位置するように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドは、インク等の液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために利用されるエネルギー発生素子を有する液体吐出ヘッド用基板と、液体を吐出するための吐出口を有する吐出口部材とで設けられている。
【0003】
エネルギー発生素子は、電流を流すことで熱を発生する発熱抵抗層と、発熱抵抗層に電力を供給する一対の電極と、で設けられており、インク等の液体からエネルギー発生素子を保護するために絶縁材料で被覆されている。このような発熱抵抗層、電極、絶縁層が、エネルギー発生素子の駆動制御を行うための駆動制御回路が形成された半導体基板上に積層されることで、液体吐出ヘッド用基板が設けられている。この発熱抵抗層が発生した熱によって、エネルギー発生素子の上の絶縁層の表面部分の液体が膜沸騰し、これにより発生する気泡の圧力により吐出口から吐出されることで、被記録媒体への記録動作が行われる。
【0004】
さらに液体吐出ヘッドにおいては、ヘッドチップの面積を削減することが求められており発熱抵抗層の直下に、液体吐出ヘッド用基板の駆動回路の一部を配置するため、発熱抵抗層上の絶縁層の表面に段差が生じる場合がある。液体が膜沸騰を起こす絶縁層の表面に段差があると、この段差を起点として気泡が成長するため均一な発泡が得られず安定した記録動作を行えなくなる。そのためSOG(Spin−on−glass)材料等の塗布型の絶縁材料を用いて段差部を平坦化することが知られている。
【0005】
特許文献1には、SOG材料で絶縁層を設けることで段差の発生を緩和し、かつ、SOG層の表面を無機化することで、エネルギー発生素子の発生する熱による酸化及び炭化という劣化を抑えることができる構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−116840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年用いられるインク等の吐出するための液体は、記録画像の画質や耐久性の向上等の目的で、溶解能の高い溶剤を用いているものもある。SOG層は、スパッタ法や化学蒸着法などで設ける絶縁層と異なり、インクに対して溶解しやすい性質を有している。そのため特許文献1に開示の絶縁層のように、SOG層の表面を無機化したとしても、一箇所でもSOG層がインクの流路に露出すると、その部分から溶出してしまい絶縁層等の剥離が生じることが懸念される。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みたものであり、エネルギー発生素子の表面の段差が平坦化され、かつ、SOG層が液体によって溶解されることのない信頼性の高い液体吐出ヘッドの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために利用されるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に液体を供給するための供給口と、を有し、凹凸形状を有する部分と、平坦な部分と、を備えた基体を用意する工程と、前記凹凸形状を有する部分と前記平坦な部分との上に流動性を有する絶縁材料を塗布する工程と、前記流動性を有する絶縁材料を硬化させた後に、前記平坦な部分が露出するとともに、前記凹凸形状の部分の凸部の角に前記絶縁材料の硬化物の一部が残るように、前記絶縁材料をエッチングするエッチング工程と、前記エッチング工程の後に、前記基体の前記凹凸形状を有する部分の一部の上側に前記エネルギー発生素子を設ける工程と、前記エネルギー発生素子および前記平坦な部分の上に、化学蒸着法又はスパッタ法で絶縁材料からなる絶縁層を設ける工程と、前記基体の前記平坦な部分の一部の上に位置する前記絶縁層の表面と、該表面とは反対側の前記基体の裏面とを貫通させて前記供給口を設ける工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように設けることで、エネルギー発生素子の表面が平坦化され、かつ、SOG層が液体によって溶解されることのない信頼性の高い液体吐出ヘッドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る液体吐出装置及びヘッドユニットの斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの斜視図及び切断面図である。
【図3】SOG膜をこれまでの液体吐出ヘッドに適用した場合の切断面図である。
【図4】第1の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する切断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る液体吐出ヘッドの製造方法を説明する切断面図である。
【図6】温度検知素子とエネルギー発生素子の上面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0013】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0014】
さらに「インク」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理としては、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上などのことを言う。
【0015】
(液体吐出装置)
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置を示す概略図である。
【0016】
図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピン(不図示)を有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向に往復移動される。このキャリッジHCには、ヘッドユニット40が搭載されている。
【0017】
(ヘッドユニット)
図1(b)は、図1(a)のような液体吐出装置に搭載可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)はフレキシブルフィルム配線基板43により、液体吐出装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、支インクタンク42と接合されることで一体化されヘッドユニット40を構成している。ここで例として示しているヘッドユニット40は、インクタンク42とヘッド41とが一体化したものであるが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0018】
(液体吐出ヘッド)
図2(a)は、本発明を用いることができる液体吐出ヘッド41の斜視図である。図2(b)は、図2(a)のA−A’に沿って垂直に、支持基板2に支持された液体吐出ヘッド41を切断した場合の切断面の状態を示した断面模式図である。
【0019】
液体吐出ヘッド41は、液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために利用されるエネルギー発生素子45を備えた液体吐出ヘッド用基板50と、液体吐出ヘッド用基板50に接して設けられた流路部材46とを有している。液体吐出ヘッド用基板50には、エネルギー発生素子45が設けられた表面と、表面とは反対側の裏面とを貫通し、液体を供給するための供給口49が設けられている。供給口49に沿って、供給口49の両側に複数のエネルギー発生素子45が配列されている。さらに液体吐出ヘッド用基板50の端部には、エネルギー発生素子45を駆動するために用いられる電気的信号や電力を供給するため複数の端子101が設けられている。エネルギー発生素子45は、電流を流すことで熱を発生する発熱抵抗層と、この発熱抵抗層に電力を供給するために用いられる一対の電極と、で設けられている。
【0020】
流路部材46は、エネルギー発生素子45により発生するエネルギーを用いて液体を吐出することができる吐出口47を、其々のエネルギー発生素子45に対向する位置に有している。流路部材46はさらに、吐出口47と供給口49とを連通する流路48となる壁48aを有しており、液体吐出ヘッド用基板50と接することで流路48が設けられている。このような液体吐出ヘッド41が支持基板2に支持されることでヘッドユニット40に固定されている。支持基板2には、インクタンク42からインクを液体吐出ヘッドに供給するインク供給流路7が設けられている。このインクは、インク供給流路7から供給口49を介して流路48に運ばれ、一対の電極の間に電圧を引火することでエネルギー発生素子45の発生する熱により膜沸騰を起こす。これにより生じる気泡の圧力で吐出口47からインクの一部が液滴として被記録媒体に向けて吐出されることで、記録動作が行われる。
【0021】
(比較例)
次に、特許文献1に開示されるようなSOG材料を用いて形成されるSOG膜を用いて液体吐出ヘッド41を設けた場合の例を比較として説明する。
【0022】
SOG材料とは、ケイ素化合物等の材料を有機溶剤に溶解した流動性を有する溶液であり、これをスピンコート法等を用いて塗布し、熱処理することによって膜を形成することができる材料である。このように流動性を有する材料であるため、凹凸形状を有する基板上に塗布した場合、凹部に溶液が入り込むため段差部の凹凸形状を低減させることができる。
【0023】
図2(b)の領域Xに該当する部分を拡大した従来の液体吐出ヘッド41を図3に示す。トランジスタ等の駆動素子が設けられたシリコンからなる基体11の上に、基体11の一部を熱酸化して設けた熱酸化層12と、化学蒸着法やスパッタ法等を用いて設けた、例えばBPSGからなるシリコン化合物の第1の絶縁層13とが設けられている。第1の絶縁層13の上には、基体11に設けられた駆動素子とエネルギー発生素子を接続する第1の電極層14が設けられている。第1の電極層14は、シリコン基体11上に形成されたエネルギー発生素子45の駆動を制御するための制御回路(不図示)に、熱酸化層12及び第1の絶縁層13のスルーホール(不図示)により電気的に接続される。
【0024】
第1の電極層14の上には、化学蒸着法やスパッタ法を用いて設けた、例えばSiOからなるシリコン化合物の第2の絶縁層15が設けられている。化学蒸着法やスパッタ法では段差を解消することはできないため、第2の絶縁層15の表面には、Al等の導電材料からなる第1の電極層14の影響による段差が生じている。
【0025】
第1の絶縁層15の上には、SOG材料をスピンコート法により塗布し、その後200〜450℃の熱処理を加えて収縮・硬化させて設けたSOG層16が設けられている。SOG層16は、溶液の形で用いられるため第1の電極層14による段差を緩やかにしている。さらに、SOG層16の上に化学蒸着法やスパッタ法等を用いて設けた、例えばP−SiO等からなる第3の絶縁層17が設けられている。第3の絶縁層17の上には、TaSiN等からなる電流を流すことで熱を発生する発熱抵抗層18と、発熱抵抗層18に接して設けられたAl等の導電材料からなる一対の電極19と、が設けられている。一対の電極19の間の部分が、エネルギー発生素子45として用いられる。ここで第1の電極層14は一対の電極19の一方と、第3の絶縁層17及び第4の絶縁層20に設けられたスルーホール(不図示)により電気的に接続されている。
【0026】
エネルギー発生素子45の表面は、下層に設けられた第1の電極層14による凹凸状の段差が生じているが、SOG層16により緩和されている。そのため発熱抵抗層18の段差部で電流集中が起きることを防止でき、発熱抵抗層18の段差部が過度に発熱して液体が不均一な沸騰を起こし、発泡効率が低下して液滴の吐出速度と吐出量が低下してしまうことを防止することができる。
【0027】
さらに、発熱抵抗層18と一対の電極とは、CVD法等の化学蒸着法やスパッタ法で設けたSiN等のシリコン化合物からなる第4の絶縁層20で被覆されており、インクなどから保護されている。さらに第4の絶縁層20の上には、液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃からエネルギー発生素子45を保護するために、エネルギー発生素子45に対応する第4の絶縁層20の上に耐キャビテーション層として用いられる保護層21が設けられている。具体的には、保護層21としてタンタルやイリジウムやルテニウムなどの金属材料を用いることができる。このようにして液体吐出ヘッド用基板50が完成されている。この液体吐出ヘッド用基板50の上に流路部材46が設けられている。なお、液体吐出ヘッド用基板と流路部材46との密着性を向上させるために、保護層21と流路部材46との間にポリエーテルアミド樹脂などからなる密着層を設けることもできる。
【0028】
しかしながら、SOG層16はSiO2以外に不純物が含まれ、200〜450℃での焼結時に溶媒が気化してポーラス状の構造となる。そのため、インクに曝されると化学蒸着法やスパッタ技術を用いて設けた膜に比べてインクの浸食作用を受け易く、インク中に次第に溶け出して、その構造を保てなくなる。そのためSOG層16が流路48に露出している部分48aから溶出してしまい、長期間使用していると液体を吐出できなくなってしまう。
【0029】
これに対して、流路48にSOG層16が露出しないように設けることで、SOG層16で凹凸形状を緩和した構造であっても、液体によって溶解されることのない信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる。
【0030】
以下、このような液体吐出ヘッドを設ける製造方法について説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
図2(b)の領域Xに該当する部分を拡大した液体吐出ヘッド41の部分の製造方法を説明する図を図4に示す。以下、比較例と異なる部分を中心に説明する。それ以外の構成は比較例と同様であるため省略する。
【0032】
トランジスタ等の駆動素子が設けられたシリコンからなる基体11の上に、基体11の一部を熱酸化して設けた熱酸化層12と、化学蒸着法やスパッタ法等を用いて設けた、例えばBPSGからなるシリコン化合物の第1の絶縁層13とが設けられている。第1の絶縁層13の上には、基体11に設けられた駆動素子とエネルギー発生素子を接続する第1の電極層14が設けられている。また、インクの供給口49が設けられる位置に、第1の電極層14を形成するために用いた金属材料層から、供給口49の開口幅を決定するために用いる犠牲層24を形成することもできる。第1の電極層14及び犠牲層24の上には、化学蒸着法やスパッタ法を用いて設けた、例えばSiOからなるシリコン化合物の第2の絶縁層15が設けられている。化学蒸着法やスパッタ法では段差を解消することはできないため、第2の絶縁層15の表面には、Al等の導電材料からなる第1の電極層14の影響による段差部(凹凸形状を有する部分)と、これらの影響がない平坦部(平坦な部分)とが生じている。基体を貫通して設けられているインクを供給するための供給口は、この平坦部の領域に位置するように設けられる。このような基体をまず用意する。第1の電極層14は、膜厚約200nm以上、500nm以下の厚さで設けられているため、第2の絶縁層15の表面に設けられた段差部の凸部も約膜厚200nm以上、500nm以下の凹凸となっている。
【0033】
次に、第2の絶縁層15の上に、SOG材料をスピンコート法を用いて塗布する(図4(a))。本実施形態においては、SOG材料は、アルコールを成分とする溶媒にシラノール[Si(OH)4]を溶かした溶剤を用いる。SOG材料は、流動性を有する材料であるため凹凸部を平坦化するように働き、特に段差部の傾斜角度がなだらかになるように、角部に厚く塗布される。この状態で200〜450℃の熱処理を行うことで、溶媒が揮発するとともに化学反応を起こして硬化してSOG材料の硬化物である、SiO2からなるSOG層16が形成される。
【0034】
次に図4(b)に示すように、犠牲層24の上部の第2の絶縁層15の平坦部が露出し、かつ、段差部には一部残るように、エッチング法を用いてSOG層16の硬化物をエッチングする。具体的には、段差の凸部の角部から、基板の面に平行な方向に関して、凸部の厚み以上の幅を有するように部分16aが残るようにエッチングを行うことが好ましい。また、平坦部にSOG層16が残らないように十分にエッチングを行うことが必要であるため、部分16aの幅が少なくとも凸部の厚みの2倍以下となるまではエッチングを行うことが好ましい。すなわち、基板の面に平行な方向に関して、部材16aの幅は、凸部の厚みの1倍以上、2倍以下となるように設けることが好ましい。
【0035】
特にドライエッチング法を用いると、比較的均一に膜厚が減少するようにエッチングされやすいため、第2の絶縁層15の段差部の角にのみSOG層16の硬化物の一部が残り傾斜を緩和する部分16aが信頼性高く形成される。部分16aにより第2の絶縁層15表面の段差が緩和されるため、これより上に積層される膜は、緩やかになった段差部に沿って積層される。
【0036】
次に、第3の絶縁層17(P−SiO)を設け、その上にTaSiNからなる発熱抵抗層18及び一対の電極19となるAl−Cu合金等の導電材料からなる電極材料層を設け、エッチング技術を用いてエネルギー発生素子45に加工する。次に、エネルギー発生素子45の上にインクからエネルギー発生素子45を保護するためにも用いられるSiN等のシリコン化合物を用いて第4の絶縁層20を設ける。さらに、第4の絶縁層20のエネルギー発生素子45の上側に対応する部分に、Ta等の耐久性に優れた材料を用いてエネルギー発生素子45をキャビテーション衝撃から保護するための保護層21を設ける。
【0037】
さらに、吐出口47と流路48となる壁48aとを有している流路部材46を設け、流路部材の表面に撥水膜23を形成する。その後、液体吐出ヘッド用基板のエネルギー発生素子45が設けられた面とは反対側の面からTMAH溶液やKOH溶液などのアルカリ溶液を用いてシリコン基体11の異方性エッチングを行う。さらに犠牲層24を溶解させて除去する。その後に、バッファードフッ酸(BHF)を用いてウェットエッチングを行うことで、第2の絶縁層15及び第3の絶縁層17を除去する。最後にドライエッチング法を用いて第4の絶縁層20を除去することで、エネルギー発生素子45が設けられた側の表面と、反対側の裏面とを貫通させて、液体を供給するための供給口49を形成し、液体吐出ヘッド41を完成させる。このとき供給口49は、平坦部の領域に形成されるため、供給口49が開口したエネルギー発生素子45が設けられた側の表面の、供給口49の開口領域の周囲にはSOG層16は残っておらず、流路48に露出していない。
【0038】
以上のようにSOG材料の硬化物を用いて部分16aを設けることにより、エネルギー発生素子45が設けられる第3の絶縁層17に見られる表面の段差を緩和することができ、発熱抵抗層18の段差部で電流集中が起きることを防止できる。これにより発熱抵抗層18の段差部が過度に発熱して液体が不均一な沸騰を起こし、発泡効率が低下して液滴の吐出速度と吐出量が低下してしまうことを防止することができる。
【0039】
さらに比較例のようにSOG層16の硬化物が流路48に露出することもないため、SOG層16の硬化物がインクに溶出することがない信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる(図4(c))。
【0040】
(第2の実施形態)
第1の実施形態とは別の、図2(b)の領域Xに該当する部分を拡大した液体吐出ヘッド41の部分の製造方法を説明する図を図5に示す。以下、比較例及び第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。第1の絶縁層13までは比較例及び第1の実施形態と同様である。
【0041】
本実施形態は、エネルギー発生素子45の下にエネルギー発生素子45の温度情報を検出するための配線形状の温度検知素子8が設けられている。温度検知素子8は、温度によって、抵抗値が変化する材料で設けられており、一定の電圧を印加したときに出力される電流値を測定することで、エネルギー発生素子45の温度を見積もることができる。このような配線形状の温度検知素子8を用いてインクの昇温及び液体吐出ヘッドの昇温を検知することで、インク吐出量の変動の可能性を検知し、エネルギー発生素子45を駆動するパルス幅を調整して、吐出される液滴を一定量とするために用いられる。
【0042】
温度検知素子としては、温度抵抗係数(TCR)の高い材料、例えば、AlCu、Al、Pt、Ti、TiN等の薄膜抵抗材料を用いることができる。図6(a)に温度検知素子8を模式的に表した上面図、図6(b)に温度検知素子8の上にエネルギー発生素子45を設けた上面図を示す。
【0043】
まず、蓄熱層の上に一対の第1の電極14となるAlなどの材料層を約200nm以上、500nm以下の厚さ設ける。次に、第1の電極14のエネルギー発生素子45に対応する部分のみを除去する。次に、薄膜抵抗材料をスパッタ法等を用いて約30nmの厚さ成膜する。さらに、薄膜抵抗材料と、第1の電極14となる材料層を同時にドライエッチングを行ってパターニングする。そのため第1の電極14となる材料をあらかじめ除去した部分、すなわちエネルギー発生素子45の下側は、オーバーエッチングされている状態となるため、第1の絶縁層13の表面に凹凸形状が生じてしまう。本実施形態においてはこのようにして生じる凹凸形状の段差を緩和するために、SOG材料を用いて平坦化を行う。
【0044】
なお、温度検知素子としての感度を極力向上させるため、一対の第2電極19の間の抵抗変動量が大きくなるようにエネルギー発生素子45の下側に長い距離設けることが好ましい。蛇行した折返し部を有する配線形状をとることにより、距離を確保することができる。
【0045】
さらに温度検知素子8の上に、化学蒸着法やスパッタ法を用いてSiO等のシリコン化合物からなる第2の絶縁層15が設けられている。化学蒸着法やスパッタ法では段差を解消することはできないため、第2の絶縁層15の表面には、約100nm程度の凹凸が生じている。
【0046】
第2の絶縁層15の上に、第1の実施形態と同様にSOG材料をスピンコート法を用いて塗布・熱処理して硬化させる(図5(a))。
【0047】
次に第1の実施形態と同様に、図5(b)に示すように、犠牲層24の上部の第2の絶縁層15が露出するまで、ドライエッチング法を用いてSOG層16の硬化物をエッチングする。このとき段差を緩和するために、凸部の角部から、基板の面に平行な方向に関して、凸部の厚み以上の幅を有するように部分16aが残るようにエッチングを行うことが好ましい。また、平坦部にSOG層16が残らないように十分にエッチングを行うことが必要であるため、部分16aの幅が少なくとも凸部の厚みの2倍以下の幅となるまではエッチングを行うことが好ましい。
【0048】
このとき、温度検知素子8の上に設けられた第2の絶縁層15の凸部15bには、SOG層16が残らないようにエッチングを行うことが望ましい。これにより、エネルギー発生素子45と温度検知素子8の間の蓄熱性も有する絶縁材料の厚さを薄くすることができ、温度検知素子8の熱応答性を良くすることができる。
【0049】
またエッチングした後にSOG材料の硬化物が残りやすくするために、温度検知素子8による配線形状の隣接する段差部による第2の絶縁層15の溝部15aの幅を狭くすることが好ましい。溝部15aの幅を狭くすることで、凹部にSOG材料が流れこみやすくなり、犠牲層24が設けられた部分のSOG層16の厚さよりも凹部とにおけるSOG層16の厚さが厚くなる。具体的には、温度検知素子8の溝部8aの幅すなわち段差部の間隔が3.0μm以下であることが好ましく、パターニングの信頼性を確保するために溝部8aの幅は0.3μm以上とすることが好ましい。
【0050】
次に、SOG材料を第1の実施形態と同様にエッチング処理を行い、段差部の角部には部分16aが残っているようにエッチング処理を行う。また、段差部の間隔が3μm以下の部分では、SOG層16の厚さが厚くなっていたことから部分16bのように凹部がSOG材料で充填された状態で残り、第2の絶縁層15の溝部15aにはSOG層16が最大限残った状態となる。すなわち、SOG材料により第2の絶縁層15の段差の傾斜角が緩和されるだけでなく、段差そのものを小さくすることができ、さらに傾斜角を緩やかになすることができる。
【0051】
さらに第1の実施形態と同様に、第3の絶縁層17、発熱抵抗層18、一対の第2電極19、第4の絶縁層20、保護層21、及び流路部材46、供給口49を設け、液体吐出ヘッド41を完成させる。このとき温度検知素子は、図6(b)に示すように一対の第2電極19の間に位置するように設けられている。このとき本実施形態においても供給口49は、平坦部の領域に形成されるため、供給口49が開口したエネルギー発生素子45が設けられた側の表面の、供給口49の開口領域の周囲にはSOG層16は残っておらず、流路48に露出していない。
【0052】
以上のようにSOG材料を用いて部分16bを設けることにより、エネルギー発生素子45が設けられる第3の絶縁層17に見られる表面の段差を緩和することができ、発熱抵抗層18の段差部で電流集中が起きることを防止できる。従って発熱抵抗層18の段差部が過度に発熱して液体が不均一な沸騰を起こし、発泡効率が低下して液滴の吐出速度と吐出量が低下してしまうことを防止することができる。
【0053】
さらに比較例のようにSOG層16が流路48に露出することもないため、SOG層16がインクに溶出することがない信頼性の高い液体吐出ヘッドとすることができる(図5(c))。
【符号の説明】
【0054】
11 基体
20 絶縁層
41 液体吐出ヘッド
45 エネルギー発生素子
47 吐出口
49 供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために利用されるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に液体を供給するための供給口と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
凹凸形状を有する部分と、平坦な部分と、を備えた基体を用意する工程と、
前記凹凸形状を有する部分と前記平坦な部分との上に流動性を有する絶縁材料を塗布する工程と、
前記流動性を有する絶縁材料を硬化させた後に、前記平坦な部分が露出するとともに、前記凹凸形状の部分の凸部の角に前記絶縁材料の硬化物の一部が残るように、前記絶縁材料をエッチングするエッチング工程と、
前記エッチング工程の後に、前記基体の前記凹凸形状を有する部分の一部の上側に前記エネルギー発生素子を設ける工程と、
前記エネルギー発生素子および前記平坦な部分の上に、化学蒸着法又はスパッタ法で絶縁材料からなる絶縁層を設ける工程と、
前記基体の前記平坦な部分の一部の上に位置する前記絶縁層の表面と、該表面とは反対側の前記基体の裏面とを貫通させて前記供給口を設ける工程と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記流動性を有する絶縁材料は、SOG材料であることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記硬化物の一部は、前記凹凸形状を有する部分の凸部の端部から前記基体の面に沿った方向に関して、凸部の厚みの1倍以上、2倍以下となる幅が残るようにエッチングされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記凹凸形状は、前記エネルギー発生素子に電力を供給する一対の電極層の一方に接続されている他の電極層の形状によって設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記凹凸形状は、前記エネルギー発生素子の温度検知素子として用いられる、温度抵抗係数の高い材料からなる薄膜抵抗材料からなる配線形状によって設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記温度検知素子は、前記エネルギー発生素子の下側に折返し部を有しており、隣接する前記配線形状による前記凹凸形状の隣接する凸部の間隔が、0.3μm以上、3.0μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111155(P2012−111155A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262875(P2010−262875)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】