説明

液体吐出ヘッドの駆動方法、液体吐出ヘッド、及び液体吐出装置

【課題】 エネルギー発生素子の耐キャビテーション層として金属材料からなる金属層を備えた液体吐出ヘッドにおいて、キャビテーション等の影響により絶縁層にピンホールが生じると、金属層がインクに対して陽電位となり溶出してしまう可能性があった。
【解決手段】 キャビテーション等の影響により絶縁層にピンホールが生じたとしても、金属層にかかる電位がインクの電位より陰電位となるようにエネルギー発生素子を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッドの駆動方法、液体吐出ヘッド、及び液体吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サーマル式のインクジェット記録装置に代表される液体吐出装置に搭載される代表的な液体吐出ヘッドは、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生する複数のエネルギー発生素子を有している。
【0003】
特許文献1に開示されるように、エネルギー発生素子は、通電することで発熱する発熱抵抗材料からなる層と、該層に通電するための一対の電極とをシリコンからなる基体の上側に設けることで構成されており、さらに絶縁性材料からなる絶縁層で被覆されている。絶縁層の表面には、液他を吐出する際に生じるキャビテーション衝撃から絶縁層を保護するために、金属材料からなる金属層を設けることで耐久性を向上させている。また、絶縁層に穴(ピンホール)があると、金属層と液体との間で電気化学反応を起こし金属層が変質することによる耐久性の低下や、金属層の溶出が懸念されるため、製造段階においてエネルギー発生素子と金属層との間の絶縁性の検査を行っている。そのため複数のエネルギー発生素子を共通して保護するように金属層が帯状に設け、この金属層に接続される検査用端子と、複数のエネルギー発生素子に共通に接続されている検査用端子と、を使用して絶縁性の検査を行っている。この方法によれば、複数のエネルギー発生素子について、一括して絶縁層による絶縁性を検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−50646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら製造工程において絶縁層の検査を行ったとしても、気泡が消泡する際のキャビテーション等の影響により記録動作の際に絶縁層にピンホール等が生じ、エネルギー発生素子と金属層とが短絡してしまう可能性がある。なお、このような液体吐出ヘッドは、一般的に一対の電極に実質的に0Vの接地電位(GND電位)と、接地電位より高い電源電位(VH電位)とからなる電圧を印加することで駆動されている。このとき液体を供給するために用いられる供給口は、GND電位に接続された基体を貫通して設けられているため、液体もGND電位となっている。
【0006】
インクなどの液体は一般的に電解質を多く含み導電性を有しているためGND電位の液体より高電位であるVH電位をエネルギー発生素子に印加していると、金属層が液体に対して陽電位となる。例えば金属層としてイリジウムやルテニウムが使用され、図6にこれらの電位とpHの関係図を示す。
【0007】
ここから金属層の材料によっては、陽電位、かつ、pH7〜10の液体が接すると、溶出する可能性があるといえる。つまり複数のエネルギー発生素子を帯状の金属層で共通に被覆している特許文献1に開示される構成では、1つのエネルギー発生素子で短絡が生じた場合に、複数のエネルギー発生素子を被覆している金属層が溶出する可能性がある。さらに、膜厚が減少して金属層としての耐久性が低下する可能性がある。さらに溶解時に発生する気泡がエネルギー発生素子の上側を覆い、正常に記録動作を行うことができなくなる可能性がある。
【0008】
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものである。本発明はエネルギー発生素子と金属層とが記録動作時に短絡したとしても他のエネルギー発生素子を被覆する金属層が陽電位とならず、信頼性の高い記録動作を行うことができるエネルギー発生素子の駆動方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
液体を吐出するための吐出口と、該吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために用いられるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に接続され、該エネルギー発生素子を駆動するための一対の電極と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられ、絶縁性材料からなる絶縁層と、該絶縁層を被覆するように前記エネルギー発生素子に対応して設けられ、金属材料からなる金属層と、が設けられた基体と、を有する液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極の第一の電位を液体と実質的に等しい電位とし、前記一対の電極のうちの他方の電極の第二の電位を前記第一の電位より低い電位として、前記エネルギー発生素子を駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のように駆動することにより、絶縁層にピンホール等が生じエネルギー発生素子と金属層とが短絡した場合であっても、他のエネルギー発生素子を被覆する金属層が液体に対して陽電位とならず、信頼性の高い記録動作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】液体吐出装置及びヘッドユニットの模式的斜視図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの模式的斜視図及び模式的上面図である。
【図3】第一の実施形態に係る液体吐出ヘッドの切断面図及び回路図である。
【図4】第二の実施形態に係る液体吐出ヘッドの切断面図及び回路図である。
【図5】金属層の溶出と電位との関係を説明する図である。
【図6】イリジウム及びルテニウムのpH−電位図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
液体吐出ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この液体吐出ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の被記録媒体に記録を行うことができる。
【0013】
本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を被記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【0014】
さらに「液体」とは広く解釈されるべきものであり、被記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成、被記録媒体の加工、或いはインクまたは被記録媒体の処理に供される液体を言うものとする。ここで、インクまたは被記録媒体の処理とは、例えば、被記録媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化による定着性の向上や、記録品位ないし発色性の向上、画像耐久性の向上するための処理のことを言う。さらに、本発明の液体吐出装置に用いられるような「液体」は、一般的に電解質を多く含み導電性を有している。
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中同一の番号を付与する。
【0016】
(液体吐出装置)
図1(a)は、本発明に係る液体吐出ヘッドを搭載可能な液体吐出装置を示す概略図である。図1(a)に示すように、リードスクリュー5004は、駆動モータ5013の正逆回転に連動して駆動力伝達ギア5011,5009を介して回転する。キャリッジHCはヘッドユニットを載置可能であり、リードスクリュー5004の螺旋溝5005に係合するピン(不図示)を有しており、リードスクリュー5004が回転することによって矢印a,b方向に往復移動される。このキャリッジHCには、ヘッドユニット40が搭載されている。
【0017】
(ヘッドユニット)
図1(b)は、図1(a)のような液体吐出装置に搭載可能なヘッドユニット40の斜視図である。液体吐出ヘッド41(以下、ヘッドとも称する)はフレキシブルフィルム配線基板43により、液体吐出装置と接続するコンタクトパッド44に導通している。また、ヘッド41は、インクタンク42と接合されることで一体化されヘッドユニット40を構成している。ここで例として示しているヘッドユニット40は、インクタンク42とヘッド41とが一体化したものであるが、インクタンクを分離できる分離型とすることも出来る。
【0018】
図2(a)に本実施形態に係る液体吐出ヘッド41の斜視図を示す。液体吐出ヘッド41は、液体を吐出するために利用される熱エネルギーを発生するエネルギー発生素子23を備えた液体吐出ヘッド用基板50と、液体吐出ヘッド用基板50の上に設けられた流路壁部材15と、を有している。流路壁部材15は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂の硬化物で設けることができ、液体を吐出するための吐出口3と、吐出口3に連通する流路17の壁17aとを有している。この壁17aを内側にして、流路壁部材15が液体吐出ヘッド用基板50に接することで流路17が設けられている。流路壁部材15に設けられた吐出口3は、液体吐出ヘッド用基板50を貫通して設けられた供給口4に沿って所定のピッチで列をなすように設けられている。供給口4から供給された液体は流路17に運ばれ、さらにエネルギー発生素子23の発生する熱エネルギーによって液体が膜沸騰することで気泡が生じる。このときに生じる圧力により液体が、吐出口3から吐出されることで、記録動作が行われる。さらに、液体吐出ヘッド41は、電気的接続を行う端子22を複数備えており、この端子22に液体吐出装置からエネルギー発生素子23を駆動するためのVH電位・接地電位(GND電位)や駆動素子20を制御するためのロジック信号等が送られる。なお、エネルギー発生素子23を駆動するためには、エネルギー発生素子23の両端の電位が電位差10V以上40V以下になるように電圧を印加する必要がある。図2(b)に金属層11が複数のエネルギー発生素子23を共通に被覆する液体吐出ヘッド41の模式的な上面図を示す。金属層11には、製造時の検査を行うための検査用端子40が接続されている。検査用端子40を用いて、複数のエネルギー発生素子23と金属層との間の導通確認を行うことで絶縁層に絶縁不良がないことを一度に確認することができる。
【0019】
また図3(a)は、図2(a)のA−A’に沿って基板50に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した場合の切断面の状態を模式的に示す断面図の一例である。トランジスタ等の駆動素子20が設けられたシリコンからなる基体1の上には、基体1の一部を熱酸化して設けた熱酸化層14と、CVD法などを用いてシリコン化合物からなる第一蓄熱層13と第二蓄熱層12とが設けられている。具体的に第一蓄熱層13及び第二蓄熱層12としては、SiO、SiN、SiON、SiOC、SiCN等の絶縁性材料を用いることができる。第一蓄熱層13と第二蓄熱層12とは、電極を絶縁する絶縁層としても機能する。第二蓄熱層12の上に、通電することで発熱する材料からなる発熱抵抗層10が設けられ、発熱抵抗層10に接するように、発熱抵抗層10より抵抗の低いアルミニウムなどを主成分とする材料からなる一対の電極9が設けられている。具体的に発熱抵抗層の材料としては、TaSiNやWSiNなどを用いることができる。一対の電極9に第一の電圧と第二の電圧とを印加し、発熱抵抗層10の一対の電極9の間に位置する部分を通電により発熱させることで、発熱抵抗層10の部分をエネルギー発生素子23として用いる。これらの発熱抵抗層10と一対の電極9は、吐出に用いられる液体との絶縁を図るために、SiN等のシリコン化合物などの絶縁性材料からなる絶縁層8で被覆されている。さらに吐出のための液体の発泡、収縮に伴うキャビテーション衝撃などからエネルギー発生素子23を保護するために、エネルギー発生素子23の部分の上側に対応する絶縁層8の上に耐キャビテーション層として用いられる金属層11が設けられている。すなわちエネルギー発生素子23に対向する位置に金属層11が設けられている。
【0020】
具体的には、金属層11としてイリジウムまたはルテニウム等の金属材料を用いることができる。さらに絶縁層8の上に流路壁部材15が設けられている。なお、絶縁層8と流路壁部材15との密着性を向上させるために、絶縁層8と流路壁部材15との間にポリエーテルアミド樹脂などからなる密着層を設けることもできる。
【0021】
検査用端子40を用いて検査することで、出荷検査では不良がないことが確認されたとしても、記録動作時のキャビテーションの影響等で1つのエネルギー発生素子に対応する絶縁層に穴が生じ金属層とエネルギー発生素子とが短絡してしまう可能性がある。この時、エネルギー発生素子が流路内の液体に対して、高い電位で駆動している場合、短絡時にイリジウムまたはルテニウム等の金属材料は、エネルギー発生素子と同電位になる。そのため図6の電位とpHの関係図からわかるように流路内の液体に対して陽極として作用すると溶出してしまう可能性が高い。つまり複数のエネルギー発生素子を帯状の金属層で共通に被覆している構成では、1つのエネルギー発生素子で短絡が生じた場合に、他のエネルギー発生素子を被覆している金属層全体で溶出が生じてしまう。
【0022】
一方、エネルギー発生素子が流内の液体に対して、低い電位になるように駆動している場合、イリジウムまたはルテニウム等の金属材料がエネルギー発生素子と同電位になっていても図6から液体のpH値に拘らず溶出する可能性が低いことが分かる。そのため液体の電位(第一の電位)を基準としたときに、絶縁層に8にピンホールが生じた際に金属層11が低い電位(第二の電位)となることで金属層11の溶出を防止できる。このように液体吐出ヘッドを駆動することにより金属層11の耐久性を低下させることなく正常な記録動作を行うことができる。以下、具体的に金属層11が溶出することのない液体吐出ヘッドと、この液体吐出ヘッドの駆動方法について説明する。
【0023】
(第一の実施形態)
本実施形態における液体吐出ヘッドにおいて、駆動素子20としては、P型のMOSトランジスタ(以下、PMOSTとも称する)を使用し、基体1としてはN型のシリコン基体を用いている。図2(a)のA−A’に沿って基板50に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した本実施形態の切断面図を図3(a)に示し、図3(b)に模式的な回路図を示す。
【0024】
駆動素子20は、一般的に用いられているIC製造工程を用いて形成されており、熱酸化層14を介してN型のシリコン基体1の上に設けられたゲート電極5と、基体1表面に設けられたP型ウェル領域のドレイン電極6及びソース電極7と、から形成されている。ゲート電極5は、基体1表面にポリシリコンを設けることで形成され、ドレイン電極6及びソース電極7は、シリコン基体1の表面にボロン等をイオン注入することで設けられている。ドレイン電極6及びソース電極7は、第一蓄熱層13を貫通して設けられたアルミニウム等からなる電極18を介して一対の電極9に接続されている。
【0025】
エネルギー発生素子23に電圧を印加するために一対の電極9のうち一方は、GND電位に接続され、電極18を介して基体1にリン等をイオン注入して設けられたN型ウェル領域の接続部19にも接続されている。これにより基体1はGND電位となり、さらに流路17の液体も基体1の供給口4接しているためGND電位となる。また一対の電極9のもう一方はGND電位より低い−40V以上‐10V以下を電源電位(VH電位)に接続することでGND電位とVH電位との電位差を10〜40Vでなおかつ、GND電位よりも低い電位を用いてエネルギー発生素子23を駆動することができる。これによりエネルギー発生素子23と金属層11との間に短絡が生じたとしても他のエネルギー発生素子を被覆する金属層11の溶出を防止し、金属層11の溶出に伴う気泡の発生を防止することができ、信頼性の高い記録動作を継続して行うことができる。
【0026】
図3(b)に示すようにドレイン電極6は、端子22を介して液体吐出装置からVH電位として−40V以上‐10V以下になるように電源と接続され、ソース電極7はエネルギー発生素子23を介してGND電位に接続されている。またエネルギー発生素子23を駆動するかを決定する駆動信号は、端子22から入力されたロジック信号に基づいてロジック回路(不図示)で生成される。この駆動信号に伴う電圧がPMOSTのゲート電極に印加されることによりPMOST20はON状態となり、エネルギー発生素子23に電流が流れて記録動作が行われる。
【0027】
図5(a)は図3(b)の回路図の点Bにおける電位を示す図である。ここではVH電位とGND電位間で電圧を‐25Vを印加した場合の例を用いて示す。駆動素子20がOFF状態のとき、点Bの電位は実質的に0VのGND電位となり、駆動素子がON状態のとき、点Bの電位はVH電位の‐25Vとなる。イリジウムやルテニウムは、流路17の液体に対して陰電位であれば溶出しないため、このように駆動することにより絶縁層8にピンホール等が生じ短絡しても、駆動素子20のON/OFF状態に拘らず、金属層11に用いられる金属の溶出を防止することができる。
【0028】
(第二の実施形態)
第一の実施形態には、VH電位とGND電位との間に駆動素子20とエネルギー発生素子23との順に直列に設けられていたのに対し、本実施形態はVH電位とGND電位との間にエネルギー発生素子23と駆動素子20との順に直列に設けられている点が異なる。
【0029】
駆動素子20としては、P型のMOSトランジスタ(以下、PMOSTとも称する)を使用し、基体1としてはN型のシリコン基体を用いている。図2(a)のA−A’に沿って基板50に垂直に液体吐出ヘッド41を切断した本実施形態の切断面図を図4(a)に示し、図4(b)に模式的な回路図を示す。駆動素子20の構成は、第一の実施形態とほぼ同様である。
【0030】
駆動素子20のドレイン電極6及びソース電極7は、第一蓄熱層13を貫通して設けられたアルミニウム等からなる電極18を介してVH電位やGND電位を供給するための一対の電極9に接続されている。
【0031】
エネルギー発生素子23にVH電位とGND電位とを印加するための一対の電極9のうち、GND電位に接続されている一方は、電極18と駆動素子20とを介して基体1にリン等をイオン注入して設けられたN型ウェル領域の接続部19にも接続されている。これにより基体1はGND電位となり、さらに流路17の液体も基体1の供給口4接しているためGND電位となるため、GND電位よりも低い電位を用いてエネルギー発生素子23を駆動することで、金属層11の溶出を防止することができる。つまりGND電位を基準電位としたときに、GND電位より低い−40V以上‐10V以下を電源電位(VH電位)として印加し、GND電位とVH電位との電位差を10〜40Vとする。これによりエネルギー発生素子23と金属層11との間に短絡が生じたとしても他のエネルギー発生素子を被覆する金属層11の溶出を防止し、金属層11の溶出に伴う気泡の発生も防止することができ、信頼性の高い記録動作を継続して行うことができる。
【0032】
図4(b)に示すようにエネルギー発生素子に接続される一対の電極9の一方は、端子22を介して液体吐出装置からVH電位として−40V以上‐10V以下になるように電源と接続され、一対の電極9の他方は駆動素子20のドレイン電極6に接続されている。また駆動素子20のソース電極7は、GND電位に接続されている。エネルギー発生素子23を駆動するかを決定する駆動信号は、端子22から入力されたロジック信号に基づいてロジック回路(不図示)で生成される。この駆動信号に伴う電圧がPMOSTのゲート電極に印加されることによりPMOST20はON状態となり、エネルギー発生素子23に電源電圧が印加されて電流が流れて記録動作が行われる。
【0033】
図5(a)は図4(b)の回路図の点Bにおける電位を示す図である。ここではGND電位とVH電位の間に電圧‐25Vを印加した場合の例を用いて示す。駆動素子20がOFF状態のとき、電流が流れていないため点Bの電位は‐25Vである。また、駆動素子がON状態のときにはエネルギー発生素子23に電流が流れることにより電圧降下が生じ点Bにおける電位は実質的に0VのGND電位となる。イリジウムやルテニウムは、流路17の液体に対して陰電位であれば溶出しないため、このように駆動することにより絶縁層8にピンホール等が生じ短絡しても、駆動素子20のON/OFF状態に拘らず、金属層11に用いられる金属の溶出を防止することができる。
【0034】
(比較例1)
比較例1として、P型シリコン基体にN型のMOSトランジスタ(以下、NMOSTとも称する)を設けVH電位として+10〜+40Vになるように電圧を印加した例を示す。図5(b)の回路図に示すように、エネルギー発生素子23に接続される電極の一方からは+10〜+40VをVH電位となり、電極の他方はNMOSTのドレイン電極と接続されて設けられている。さらにNMOSTのソース電極がGND電位と接続されている。比較例1においても流路17内の液体は供給口と接して設けられており、GND電位となっている。NMOSTにおいてもゲート電極に電圧が印加されたときにON状態となりエネルギー発生素子23に電流が流れる。
【0035】
図5(a)に図5(b)の回路図の点Bにおける電位を示す図である。ここではVH電位として25Vになるように電圧を印加した場合の例を用いて示す。駆動素子20がOFF状態のとき、電流は流れていないため、点Bにおける電位は25Vとなる。駆動素子20がON状態のとき、エネルギー発生素子23を電流が流れることにより電圧降下が生じ点Bにおける電位は実質的に0VのGND電位となる。従ってエネルギー発生素子を被覆する絶縁層8に1カ所でもピンホールが生じるとイリジウムやルテニウムからなる金属層11は、駆動素子20がOFF状態のときにpH7〜10程度の液体に接すると金属層11全体が陽極として働く。これにより他のエネルギー発生素子を被覆する金属層の部分も液体中に溶出してしまう。さらに金属層が溶解することで発生する気泡が、他のエネルギー発生素子23の表面を覆ってしまい液体を膜沸騰させることができず、正常な記録動作を行うことができない。
【0036】
(比較例2)
比較例2として、比較例1と同様にNMOSTを設けた例を示す。図5(c)の回路図に示すように、エネルギー発生素子に接続される一対の電極の一方は、NMOSTを介してVH電位として+10〜+40Vを印加するための端子22に接続され、他方は、GND電位に接続されて設けられている。比較例2においても流路17内の液体は、供給口と接して設けられており、GND電位となっている。
【0037】
図5(a)に図5(c)の回路図の点Bにおける電位を示す図である。ここではVH電位として+25Vを印加した場合の例を用いて示す。駆動素子20がOFF状態のとき、点Bにおける電位は0Vとなる。駆動素子20がON状態のとき、VH電位の+25Vとなる。
【0038】
従って、エネルギー発生素子を被覆する絶縁層8に1カ所でもピンホールが生じるとイリジウムやルテニウムからなる金属層11全体は、駆動素子20がON状態のときにPH7〜10程度の液体に接すると陽極として働く。これにより他のエネルギー発生素子を被覆する金属層の部分も液体中に溶出してしまう。さらに金属層が溶解することで発生する気泡が、他のエネルギー発生素子23の表面を覆ってしまい液体を膜沸騰させることができず、正常な記録動作を行うことができない。
【符号の説明】
【0039】
1 基体
3 吐出口
4 供給口
8 絶縁層
11 金属層
15 流路壁部材
17 流路
20 駆動素子
23 エネルギー発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するための吐出口と、
該吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために用いられるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に接続され、該エネルギー発生素子を駆動するための一対の電極と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられ、絶縁性材料からなる絶縁層と、該絶縁層を被覆するように前記エネルギー発生素子に対応して設けられ、金属材料からなる金属層と、が設けられた基体と、
を有する液体吐出ヘッドの駆動方法であって、
前記一対の電極のうちの一方の電極の第一の電位を液体と実質的に等しい電位とし、前記一対の電極のうちの他方の電極の第二の電位を前記第一の電位より低い電位として、前記エネルギー発生素子を駆動することを特徴とする液体吐出ヘッドの駆動方法。
【請求項2】
前記金属材料は、イリジウムまたはルテニウムを主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の駆動方法。
【請求項3】
前記液体吐出ヘッドには、前記吐出口に液体を供給するために用いられ、前記基体を貫通して設けられた供給口が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の駆動方法。
【請求項4】
前記第一の電位は、接地電位であり、前記第二の電位は、前記接地電位を基準としたときに、−40V以上、−10V以下の電位であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の駆動方法。
【請求項5】
前記液体吐出ヘッドは、前記エネルギー発生素子に通電するかのON/OFFを制御するために用いられる駆動素子を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の駆動方法。
【請求項6】
前記基体は、N型のシリコン基体であり、
前記駆動素子は、P型のMOSトランジスタであることを特徴とする請求項5のいずれかに記載の駆動方法。
【請求項7】
液体を吐出するための吐出口と、
該吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために用いられるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に接続され、該エネルギー発生素子を駆動するための一対の電極であって、液体と実質的に同じ電位である第一の電位と該第一の電位より低い第二の電位とをそれぞれ前記一対の電極の一方と他方とに付与するために用いられる前記一対の電極と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられ、絶縁性材料からなる絶縁層と、該絶縁層を被覆するように前記エネルギー発生素子に対応して設けられ、金属材料からなる金属層と、が設けられた基体と、
を有することを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記金属層の金属材料は、イリジウムまたはルテニウムを主成分とすることを特徴とする請求項7に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記吐出口に液体を供給するために用いられ、前記基体を貫通して設けられた供給口がさらに設けられていることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記第一の電位は、接地電位であり、前記第二の電位は、前記接地電位を基準としたときに、−40V以上、−10V以下の電位であることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記エネルギー発生素子に通電するかのON/OFFを制御するために用いられる駆動素子をさらに有していることを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記基体は、N型のシリコン基体であり、
前記駆動素子は、P型のMOSトランジスタであることを特徴とする請求項11のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
液体を吐出するための吐出口と、該吐出口から液体を吐出するための熱エネルギーを発生するために用いられるエネルギー発生素子と、該エネルギー発生素子に接続された一対の電極と、前記エネルギー発生素子を被覆するように設けられ、絶縁性材料からなる絶縁層と、該絶縁層を被覆するように前記エネルギー発生素子に対応して設けられ、金属材料からなる金属層と、が設けられた基体と、を有する液体吐出ヘッドと、
前記エネルギー発生素子を駆動するための駆動手段と、
を具備する液体吐出装置であって、
前記駆動手段は、前記一対の電極のうちの一方の電極の第一の電位を液体と実質的に等しい電位とし、前記一対の電極のうちの他方の電極の第二の電位を前記第一の電位より低い電位として、前記エネルギー発生素子を駆動することを特徴とする液体吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−121272(P2012−121272A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275138(P2010−275138)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】