説明

液体吐出ヘッド装置、およびそれを用いた記録装置、ならびに印刷方法

【課題】メインパルスとキャンセルパルスとを含む駆動信号を使用する記録装置で、駆動信号を遅延させる際に、液体吐出特性ばらつきが小さい記録装置を提供する。
【解決手段】複数の吐出孔8と複数の加圧室10と複数のしぼり12と共通流路5aと複数の加圧部50と加圧部50に、加圧室10の体積を大きくする第1駆動信号を送った後、体積を小さくする第2駆動信号を送ることにより液滴を吐出させるとともに、一部の加圧部50には遅延時間を加えて前記第2駆動信号を送る制御部100とを備えている液体吐出ヘッド装置であって、共通流路5aの複数のしぼり12にそれぞれ繋がる複数の開口のうち、隣接している2つの開口に対応した2つの加圧室10の一方から他方へ液体を通して圧力が伝わる伝搬時間と前記遅延時間との差がAL/4以下である液体吐出ヘッド装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を吐出させる液体吐出ヘッド装置、およびそれを用いた記録装置、ならびに印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリンタやインクジェットプロッタなどの、インクジェット記録方式を利用した印刷装置が、一般消費者向けのプリンタだけでなく、例えば電子回路の形成や液晶ディスプレイ用のカラーフィルタの製造、有機ELディスプレイの製造といった工業用途にも広く利用されている。
【0003】
このようなインクジェット方式の印刷装置には、液体を吐出させるための液体吐出ヘッドが印刷ヘッドとして搭載されている。この種の印刷ヘッドには、インクが充填されたインク流路内に加圧手段としてのヒータを備え、ヒータによりインクを加熱、沸騰させ、インク流路内に発生する気泡によってインクを加圧し、インク吐出孔より、液滴として吐出させるサーマルヘッド方式と、インクが充填されるインク流路の一部の壁を変位素子によって屈曲変位させ、機械的にインク流路内のインクを加圧し、インク吐出孔より液滴として吐出させる圧電方式が一般的に知られている。
【0004】
また、このような液体吐出ヘッドには、記録媒体の搬送方向(副走査方向)と直交する方向(主走査方向)に液体吐出ヘッドを移動させつつ記録を行なうシリアル式、および記録媒体より主走査方向に長い液体吐出ヘッドを固定した状態で、副走査方向に搬送されてくる記録媒体に記録を行なうライン式がある。ライン式は、シリアル式のように液体吐出ヘッドを移動させる必要がないので、高速記録が可能であるという利点を有する。
【0005】
シリアル式、ライン式のいずれの方式の液体吐出ヘッドであっても、液滴を高い密度で印刷するには、液体吐出ヘッドに形成されている、液滴を吐出する吐出孔の密度を高くする必要がある。
【0006】
そこで液体吐出ヘッドを、マニホールドおよびマニホールドから複数の加圧室をそれぞれ介して繋がる吐出孔を有した流路部材と、前記複数の加圧室を覆うように設けられた、複数の個別電極と複数の個別電極に対向している共通電極とそれらに挟まれている圧電セラミック層とを含む複数の変位素子を有する圧電アクチュエータユニットとを積層して構成したものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。この液体吐出ヘッドでは、複数の吐出孔にそれぞれ繋がった加圧室がマトリックス状に配置され、それを覆うように設けられたアクチュエータユニットの変位素子を圧電体の変形により変位させることで、各吐出孔からインクを吐出させ、主走査方向に600dpiの解像度で印刷が可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−305852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の液体吐出ヘッドでは、加圧室が密集して設けられており、しかも複数の加圧室を覆うように圧電アクチュエータユニットが積層されているため、液体吐出素子間でクロストークが生じ、記録精度が十分でなくなる場合があった。
【0009】
クロストークを抑制する方法としては、加圧室の中の液体を加圧する加圧部を駆動する駆動信号を遅延させて送ることで、隣接する加圧室の駆動部を同時に駆動させないことが考えられる。これにより、直接的なクロストーク(構造クロストーク)はある程度低減できるが、遅らされて駆動される駆動部の加圧室には、遅らされずに駆動された他の駆動部から伝わってくる液体の圧力変動が伝わってくるので、その影響で流体クロストークが生じる。構造クロストークと液体クロストークとの関係を考慮しないと、クロストークがより大きくなることがある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、クロストークの影響が少なくなる液体吐出ヘッド装置、およびそれを用いた記録装置、ならびに印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の液体吐出ヘッド装置は、複数の吐出孔と、該複数の吐出孔とそれぞれ繋がっている複数の加圧室と、該複数の加圧室とそれぞれ繋がっている複数のしぼりと、該複数のしぼりに共通して繋がっている共通流路とを有する流路部材、および該流路部材に接合されており、前記複数の加圧室の体積をそれぞれ変化させる複数の加圧部を備えている液体吐出ヘッド、ならびに各々の前記加圧部に、対応する前記加圧室の体積を大きくする第1駆動信号を送った後、当該加圧室の体積を小さくする第2駆動信号を送ることにより液滴を吐出させるとともに、前記共通流路の前記複数のしぼりにそれぞれ繋がる複数の開口のうち、隣接している2つの開口に対応した2つの前記加圧部のうちどちらか一方に、他方より遅延時間を加えて前記第2駆動信号を送るように、前記複数の加圧部の駆動を制御する制御部を備えている液体吐出ヘッド装置であって、前記吐出孔から前記しぼりまでの液体の固有振動周期の半分をALとするとき、前記遅延時間と、当該2つの開口に対応した2つの前記加圧室の一方から他方へ、前記しぼりおよび前記共通流路の中の液体を通して圧力が伝わる伝搬時間との差が、AL/4以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の記録装置は、前記液体吐出ヘッド装置と、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の印刷方法は、複数の吐出孔と、該複数の吐出孔とそれぞれ繋がっている複数の加圧室と、該複数の加圧室とそれぞれ繋がっている複数のしぼりと、該複数のしぼりに共通して繋がっている共通流路とを有する流路部材、および該流路部材に接合されており、前記複数の加圧室の体積をそれぞれ変化させる複数の加圧部を備えている液体吐出ヘッドを用いた印刷方法であって、前記複数の加圧部に、前記加圧室の体積を大きくする第1駆動信号を送った後、前記加圧室の体積を小さくする第2駆動信号を送ることにより液滴を吐出させる際に、前記共通流路の前記複数のしぼりにそれぞれ繋がる複数の開口のうち、隣接している2つの開口に対応した2つの前記加圧部に、前記第2駆動信号を同時に送らないように、当該2つの前記加圧室に対応した前記加圧部のどちらか一方に、前記第2駆動信号に遅延時間を加えて送り、前記吐出孔から前記しぼりまでの液体の固有振動周期の半分をALとするとき、前記遅延時間と、当該2つの開口に対応した2つの前記加圧室の一方から他方へ、前記しぼりおよび前記共通流路の中の液体を通して圧力が伝わる伝搬時間との差を、AL/4以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の液体吐出ヘッド装置によれば、構造クロストークと流体クロストークの影響がある程度相殺し合うことにより、クロストークの影響を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態に係る記録装置であるプリンタの概略構成図である。
【図2】図1の液体吐出ヘッドを構成する液体吐出ヘッド本体を示す平面図である。
【図3】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図である、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図4】図2の一点鎖線に囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
【図5】(a)は、図3のV−V線に沿った縦断面図であり、(b)は、図3の別の縦断面図である。
【図6】(a)(c)は、本発明の一時実施形態の駆動信号であり、(b)(d)は(a)(c)の駆動信号が加えられた際の加圧室の圧力である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である記録装置であるカラーインクジェットプリンタの概略構成図である。このカラーインクジェットプリンタ1(以下、プリンタ1とする)は、4つの液体吐出ヘッド2を有している。これらの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って並べられ、プリンタ1に固定されている。液体吐出ヘッド2は、図1の手前から奥へ向かう方向に細長い形状を有している。
【0017】
プリンタ1には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、給紙ユニット114、搬送ユニット120および紙受け部116が順に設けられている。また、プリンタ1には、液体吐出ヘッド2や給紙ユニット114などのプリンタ1の各部における動作を制御するための制御部100が設けられている。
【0018】
給紙ユニット114は、複数枚の印刷用紙Pを収容することができる用紙収容ケース115と、給紙ローラ145とを有している。給紙ローラ145は、用紙収容ケース115に積層して収容された印刷用紙Pのうち、最も上にある印刷用紙Pを1枚ずつ送り出すことができる。
【0019】
給紙ユニット114と搬送ユニット120との間には、印刷用紙Pの搬送経路に沿って、二対の送りローラ118aおよび118b、ならびに、119aおよび119bが配置されている。給紙ユニット114から送り出された印刷用紙Pは、これらの送りローラによってガイドされて、さらに搬送ユニット120へと送り出される。
【0020】
搬送ユニット120は、エンドレスの搬送ベルト111と2つのベルトローラ106および107を有している。搬送ベルト111は、ベルトローラ106および107に巻き掛けられている。搬送ベルト111は、2つのベルトローラに巻き掛けられたとき所定の張力で張られるような長さに調整されている。これによって、搬送ベルト111は、2つのベルトローラの共通接線をそれぞれ含む互いに平行な2つの平面に沿って、弛むことなく張られている。これら2つの平面のうち、液体吐出ヘッド2に近い方の平面が、印刷用紙Pを搬送する搬送面127である。
【0021】
ベルトローラ106には、図1に示されるように、搬送モータ174が接続されている。搬送モータ174は、ベルトローラ106を矢印Aの方向に回転させることができる。また、ベルトローラ107は、搬送ベルト111に連動して回転することができる。したがって、搬送モータ174を駆動してベルトローラ106を回転させることにより、搬送ベルト111は、矢印Aの方向に沿って移動する。
【0022】
ベルトローラ107の近傍には、ニップローラ138とニップ受けローラ139とが、搬送ベルト111を挟むように配置されている。ニップローラ138は、図示しないバネによって下方に付勢されている。ニップローラ138の下方のニップ受けローラ139は、下方に付勢されたニップローラ138を、搬送ベルト111を介して受け止めている。
2つのニップローラは回転可能に設置されており、搬送ベルト111に連動して回転する。
【0023】
給紙ユニット114から搬送ユニット120へと送り出された印刷用紙Pは、ニップローラ138と搬送ベルト111との間に挟み込まれる。これによって、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の搬送面127に押し付けられ、搬送面127上に固着する。そして、印刷用紙Pは、搬送ベルト111の回転に従って、液体吐出ヘッド2が設置されている方向へと搬送される。なお、搬送ベルト111の外周面113に粘着性のシリコンゴムによる処理を施してもよい。これにより、印刷用紙Pを搬送面127に確実に固着させることができる。
【0024】
4つの液体吐出ヘッド2は、搬送ベルト111による搬送方向に沿って互いに近接して配置されている。各液体吐出ヘッド2は、下端に液体吐出ヘッド本体13を有している。液体吐出ヘッド本体13の下面には、液体を吐出する多数の吐出孔8が設けられている(図3参照)。
【0025】
1つの液体吐出ヘッド2に設けられた吐出孔8からは、同じ色の液滴(インク)が吐出されるようになっている。各液体吐出ヘッド2の吐出孔8は一方方向(印刷用紙Pと平行で印刷用紙P搬送方向に直交する方向であり、液体吐出ヘッド2の長手方向)に等間隔で配置されているため、一方方向に隙間なく印刷することができる。各液体吐出ヘッド2から吐出される液体の色は、それぞれ、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。各液体吐出ヘッド2は、液体吐出ヘッド本体13の下面と搬送ベルト111の搬送面127との間にわずかな隙間をおいて配置されている。
【0026】
搬送ベルト111によって搬送された印刷用紙Pは、液体吐出ヘッド2と搬送ベルト111との間の隙間を通過する。その際に、液体吐出ヘッド2を構成する液体吐出ヘッド本体13から印刷用紙Pの上面に向けて液滴が吐出される。これによって、印刷用紙Pの上面には、制御部100によって記憶された画像データに基づくカラー画像が形成される。
【0027】
搬送ユニット120と紙受け部116との間には、剥離プレート140と二対の送りローラ121aおよび121bならびに122aおよび122bとが配置されている。カラー画像が印刷された印刷用紙Pは、搬送ベルト111によって剥離プレート140へと搬送される。このとき、印刷用紙Pは、剥離プレート140の右端によって、搬送面127から剥離される。そして、印刷用紙Pは、送りローラ121a〜122bによって、紙受け部116に送り出される。このように、印刷済みの印刷用紙Pが順次紙受け部116に送られ、紙受け部116に重ねられる。
【0028】
なお、印刷用紙Pの搬送方向について最も上流側にある液体吐出ヘッド2とニップローラ138との間には、紙面センサ133が設置されている。紙面センサ133は、発光素子および受光素子によって構成され、搬送経路上の印刷用紙Pの先端位置を検出することができる。紙面センサ133による検出結果は制御部100に送られる。制御部100は、紙面センサ133から送られた検出結果により、印刷用紙Pの搬送と画像の印刷とが同期するように、液体吐出ヘッド2や搬送モータ174等を制御することができる。
【0029】
次に本発明の液体吐出ヘッドを構成する液体吐出ヘッド本体13について説明する。図2は、図1に示された液体吐出ヘッド本体13を示す上面図である。図3は、図2の一点鎖線で囲まれた領域の拡大上面図であり、液体吐出ヘッド本体13の一部である。図4は、図3と同じ位置の拡大透視図で、吐出孔8の位置が分かりやすいように、一部の流路を省略して描いている。なお、図3および図4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき加圧室10(加圧室群9
)、しぼり12および吐出孔8を実線で描いている。図5(a)は図3のV−V線に沿った縦断面図であり、図5(b)は、図3の別の部分の縦断面図である。
【0030】
液体吐出ヘッド本体13は、平板状の流路部材4と、流路部材4上に、アクチュエータユニットである圧電アクチュエータユニット21とを有している。圧電アクチュエータユニット21は台形形状を有しており、その台形の1対の平行対向辺が流路部材4の長手方向に平行になるように流路部材4の上面に配置されている。また、流路部材4の長手方向に平行な2本の仮想直線のそれぞれに沿って2つずつ、つまり合計4つの圧電アクチュエータユニット21が、全体として千鳥状に流路部材4上に配列されている。流路部材4上で隣接し合う圧電アクチュエータユニット21の斜辺同士は、流路部材4の短手方向について部分的にオーバーラップしている。このオーバーラップしている部分の圧電アクチェータユニット21を駆動することにより印刷される領域では、2つの圧電アクチュエータユニット21により吐出された液滴が混在して着弾することになる。
【0031】
流路部材4の内部には液体流路の一部であるマニホールド5が形成されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延び細長い形状を有しており、流路部材4の上面にはマニホールド5の開口5bが形成されている。開口5bは、流路部材4の長手方向に平行な2本の直線(仮想線)のそれぞれに沿って5個ずつ、合計10個形成されている。開口5bは、4つの圧電アクチュエータユニット21が配置された領域を避ける位置に形成されている。マニホールド5には開口5bを通じて図示されていない液体タンクから液体が供給されるようになっている。
【0032】
流路部材4内に形成された共通流路であるマニホールド5は、複数本に分岐している(分岐した部分のマニホールド5を副マニホールド5aということがある)。開口5bに繋がるマニホールド5は、圧電アクチュエータユニット21の斜辺に沿うように延在しており、流路部材4の長手方向と交差して配置されている。2つの圧電アクチュエータユニット21に挟まれた領域では、1つのマニホールド5が、隣接する圧電アクチュエータユニット21に共有されており、副マニホールド5aがマニホールド5の両側から分岐している。これらの副マニホールド5aは、流路部材4の内部の各圧電アクチュエータユニット21に対向する領域に互いに隣接して液体吐出ヘッド本体13の長手方向に延在している。
【0033】
流路部材4は、複数の加圧室10がマトリクス状(すなわち、2次元的かつ規則的)に形成されている4つの加圧室群9を有している。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面に開口するように形成されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータユニット21に対向する領域のほぼ全面にわたって配列されている。したがって、これらの加圧室10によって形成された各加圧室群9は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータユニット21が接着されることで閉塞されている。
【0034】
本実施形態では、図3に示されているように、マニホールド5は、流路部材4の短手方向に互いに平行に並んだ4列のE1〜E4の副マニホールド5aに分岐し、各副マニホールド5aに繋がった加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に4列配列されている。副マニホールド5aに繋がった加圧室10の並ぶ列は副マニホールド5aの両側に2列ずつ配列されている。
【0035】
全体では、マニホールド5から繋がる加圧室10は、等間隔に流路部材4の長手方向に並ぶ加圧室10の列を構成し、その列は、短手方向に互いに平行に16列配列されている
。各加圧室列に含まれる加圧室10の数は、アクチュエータである変位素子50の外形形状に対応して、その長辺側から短辺側に向かって次第に少なくなるように配置されている。吐出孔8もこれと同様に配置されている。これによって、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像形成が可能となっている。すなわち、各副マニホールド5aには平均すれば150dpiに相当する間隔で個別流路37が接続されている。これは、600dpi分の吐出孔8を4つ列の副マニホールド5aに分けて繋ぐ設計をする際に、各副マニホールド5aに繋がる個別流路37が等しい間隔で繋がるとは限らないため、マニホールド5aの延在方向、すなわち主走査方向に平均170μm(150dpiならば25.4mm/150=169μm間隔である)以下の間隔で個別流路37が形成されているということである。
【0036】
圧電アクチュエータユニット21の上面における各加圧室10に対向する位置には後述する個別電極35がそれぞれ形成されている。個別電極35は加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有しており、圧電アクチュエータユニット21の上面における加圧室10と対向する領域内に収まるように配置されている。
【0037】
流路部材4の下面には多数の吐出孔8が形成されている。これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置された副マニホールド5aと対向する領域を避けた位置に配置されている。また、これらの吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータユニット21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔群7は圧電アクチュエータユニット21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータユニット21の変位素子50を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。吐出孔8の配置については後で詳述する。そして、それぞれの領域内の吐出孔8は、流路部材4の長手方向に平行な複数の直線に沿って等間隔に配列されている。
【0038】
液体吐出ヘッド本体13に含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート22、ベースプレート23、アパーチャ(しぼり)プレート24、サプライプレート25、26、マニホールドプレート27、28、29、カバープレート30、カバースペースプレート31およびノズルプレート32である。これらのプレートには多数の孔が形成されている。各プレートは、これらの孔が互いに連通して個別流路37および副マニホールド5aを構成するように、位置合わせして積層されている。液体吐出ヘッド本体13は、図5に示されているように、加圧室10は流路部材4の上面に、副マニホールド5aは内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路37を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介して副マニホールド5aと吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0039】
各プレートに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート22に形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端から副マニホールド5aへと繋がる流路を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート23(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート25(詳細には副マニホールド5aの出口)までの各プレートに形成されている。なお、この連通孔には、アパーチャプレート24に形成されたしぼり12と、サプライプレート25、26に形成された個別供給流路6とが含まれている。
【0040】
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路を構成する連通孔であり、この連通孔は、以下の記載においてディセンダ(部分流路)と呼称される。ディセンダは、ベースプレート23(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート32(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、副マニホールド5aを構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート27〜30に形成されている。
【0041】
第5に、カバースペースプレート31に形成され、マニホールド5の下に形成されるダンパ室18となる孔である。ダンパ室18は、上述の第1〜4の孔とは繋がっておらず、液体は入るようにはなっていない。ダンパ室18とマニホールド5との間カバープレート30は、ダンパ19となり、マニホールド5の体積が変わるようにすることで、マニホールド5の液体の供給の過不足が吐出に影響を与えにくくしたり、マニホールド5を通じて加圧室10間の間で圧力が伝わって吐出特性に影響を与えるクロストークを小さくしたりする。ダンパ室18は密閉された空間であっても、空気が体積変化することでダンパが働くようになるが、上述した孔と別な孔によって、流路部材4の外部と繋がるようにしておけば、ダンパとしてより良く働く。
【0042】
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、副マニホールド5aからの液体の流入口(副マニホールド5aの出口)から吐出孔8に至る個別流路37を構成している。副マニホールド5aに供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、副マニホールド5aから上方向に向かって、個別供給流路6を通り、しぼり12の一端部に至る。次に、しぼり12の延在方向に沿って水平に進み、しぼり12の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
【0043】
圧電アクチュエータユニット21は、図5に示されるように、2枚の圧電セラミック層21a、21bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層21a、21bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。圧電アクチュエータユニット21全体の厚さは40μm程度であり、100μm以下であることにより、変位量を大きくすることができる。圧電セラミック層21a、21bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している(図3参照)。これらの圧電セラミック層21a、21bは、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる。
【0044】
圧電アクチュエータユニット21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極34、Au系などの金属材料からなる個別電極35を有している。個別電極35は上述のように圧電アクチュエータユニット21の上面における加圧室10と対向する位置に配置されている。個別電極35の一端は、加圧室10と対向する領域外に引き出されて引出電極35bになっており、引出電極35bの上には接続電極36が形成されている。接続電極36は例えばガラスフリットを含む金からなり、厚さが15μm程度で凸状に形成されている。また、接続電極36は、図示されていないFPC(Flexible Printed Circuit)に設けられた電極と電気的に接合されている。
【0045】
詳細は後述するが、個別電極35には、制御部100から外部配線であるFPC(Flexible Printed Circuit)を通じて駆動信号(駆動電圧)が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。共通電極34は、圧電セラミック層21aと圧電セラミック層21bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極34は、圧電アクチュエータユニット21に対向する領域内の全ての加圧室10を覆うように延在している。共通電極34の厚さは2μm程度である。共通電極34は図示しない領域において接地され、グランド電位に保持されている。本実施形態では、圧電セラミック層21b上において、個別電極35からなる電極群を避ける位置に個別電極35とは異なる表面電極(不図示)が形成されている。表面電極は、圧電セラミック層21bの内部に形成されたスルーホールを介して共通電極34と電気的に接続されているとともに、多数の個別電極35と同様に外部配線と接続されている。
【0046】
なお、後述のように、個別電極35に選択的に所定の駆動信号が供給されることにより
、この個別電極35に対応する加圧室10内の液体に圧力が加えられる。これによって、個別流路37を通じて、対応する液体吐出口8から液滴が吐出される。すなわち、圧電アクチュエータユニット21における各加圧室10に対向する部分は、各加圧室10および液体吐出口8に対応する個別の変位素子50(アクチュエータ)に相当する。つまり、2枚の圧電セラミック層からなる積層体中には、図5に示されているような構造を単位構造とする変位素子50が加圧室10毎に、加圧室10の直上に位置する振動板21a、共通電極34、圧電セラミック層21b、個別電極35により作り込まれており、圧電アクチュエータユニット21には変位素子50が複数含まれている。なお、本実施形態において1回の吐出動作によって液体吐出口8から吐出される液体の量は5〜7pL(ピコリットル)程度である。
【0047】
平面視したとき、個別電極35は加圧室10と重なるように配置されており、加圧室10の中央に位置している部位の、個別電極35と共通電極34とに挟まれている圧電セラミック層21bは、圧電アクチュエータユニット21の積層方向に分極されている。分極の向きは上下どちらに向かっていてもよく、その方向に対応し駆動信号を与えることで駆動できる。
【0048】
本実施形態では、遅延を加えない駆動信号と遅延を加えた駆動信号を使用するが、まず遅延を加えない駆動信号について、図6(a)および(b)を用いて説明する。図6(a)は遅延を加えない駆動信号であり、図6(b)は、その駆動信号を加えた際に生じる加圧室10内の圧力変化である。なお、実際の駆動信号には、信号の立ち上がり、立ち下がりなどの信号のなまりが生じることがあるが、図ではそのようなものが含まれない模式的なものを示している。また、実際の圧力は、前記信号のなまりに対応したなまりが含まれるが、図ではそのようなものが含まれない模式的なものを示している。なまりが生じた駆動信号を用いても以下の内容は、基本的に同じになる。
【0049】
本実施形態における駆動信号は、引き打ちと呼ばれる駆動を行なうものである。まず、予め個別電極35を共通電極34より高い電圧V1(V(ボルト)、以下で単位は省略することがある)にしておくことで、変位素子50が加圧室10側に変位して、加圧室の体積が減少した状態で待機する。この際の加圧室10内の圧力は、待機状態になってからある程度時間が経過して、定常状態になっているので、実質的に0(Pa(パスカル)以下で単位は省略することがある)となっている。なお、実際の使用状態では、前の吐出を行なった後の振動が残留し、微小な圧力変動が残っている場合もある。
【0050】
吐出要求があった場合、時刻ta1で個別電極35の電圧を低く(図6(a)では0)する第1駆動信号を送り、共通電極34との電位差を少なく(図6(a)では同電位)することで加圧室10の体積を増加させ、その後、時刻ta2で再び高電位V1とする第2駆動信号を送ることで、加圧室10の体積を減少させる。時刻ta1で加圧室10の体積が増加することで、加圧室10は負圧となり、その後、圧力は吐出孔8からしぼり12までの液体の固有振動(周期は後述する2AL)で振動し始める。圧力の振動が正圧の極大となった時刻ta2に、変位素子50を加圧室10の体積を小さくするよう変位させることで、圧力室10内の正圧がより高くなる。この圧力より液体が吐出孔8に向かって進み、液滴として吐出される。そして、圧力室10内の圧力について言えば、この後、減衰しつつ前述の固有振動を続ける。
【0051】
なお、以上の説明は、時刻ta2と正圧が極大になる時刻とが完全に一致している場合について説明しているが、実際には、これらの時刻はある程度ずれてもよい。個別流路37内において圧力波がしぼり12の加圧室10側の端から吐出孔8まで伝播する時間長さをAL(Acoustic Length)といい、これはしぼり12から吐出孔8までの液体の体積固
有振動周期の半分でもある。原理的にはta2−ta1をALと一致させることで、液体
吐出速度は最大になると考えられるが、実際にはta2−ta1を0.7AL〜1.3AL程度の範囲にして使用される。ALは、流路の形状や液体の物性などから算出することもできるし、ta2−ta1の値を変えて吐出試験を行ない、液滴の速度がもっとも速くなる時間として、実験的に求めることもできる。なお、図1〜5に示した液体吐出ヘッド2の個別流路37のALは約6.7μsである。
【0052】
このような駆動信号により記録を行なうとクロストークが生じることがある。主なクロストークとしては、圧変位素子50が変位する際に、変位素子50が収縮するので、その応力が隣接する変位素子に影響するもの、加圧室10の中の液体の振動が流路部材4を通じて隣接する加圧室10に伝わるもの、加圧室10の中の液体の振動がしぼり12を介して副マニホールド5aに伝わり、さらに副マニホールド5aに繋がっている加圧室10に伝わるものがある。このようなクロストークを抑制するために、駆動信号に遅延を与えて変位素子50に送ることが考えられる。これは、ある時刻tに駆動信号を送るところを時刻(t+遅延時間)に駆動信号を送るものであり、マトリックス状に配置された加圧室10のうち隣接した加圧室10に繋がっている変位素子50に同時に駆動信号を送らないようにすることで、前述の主なクロストークのうち最初の2つのクロストークを抑制することに効果がある。
【0053】
なお、ここで言う隣接する加圧室10とは、間の距離が最も近い加圧室10のことであり、より具体的には、略菱形(より一般的には略平行四辺形の)の辺が対向して隣り合う加圧室10のことである。そして、このような駆動は、例えば、図3のF1、F3、F5、F7、F9、F11、F13、F15の加圧室列に対応する変位素子50に遅延させない駆動信号を送り、F2、F4、F6、F8、F10、F12、F14、F16の加圧室列に対応する変位素子50に遅延させた駆動信号を送ればよい。遅延時間は1つの値とは限らず、例えば、3種類の遅延時間を加えられるようにして、1つの副マニホールド5aに繋がっている4つ加圧室列11a〜dに対して、それぞれ異なるタイミングで駆動信号を送るようにしてもよい。
【0054】
このように遅延無しの駆動信号と遅延有りの駆動信号を送ることで、前述したクロストークのうち最初の2つについては、ある程度低減できるものの、遅延有りの駆動信号による吐出は、遅延無しの駆動信号により生じた液体の振動の影響を受けた状態で行われるため、一般的に吐出速度が遅くなったり、吐出量が少なくなったり、あるいはその両方が生じる。これは、吐出条件は、例えば、所定の吐出量を得るための電圧を低くできるように、吐出量をできるだけ多くしたり、あるいは吐出速度のばらつきを小さくするために吐出速度をできるだけ速くするように設定されているため、基本的に、設定された状態からの変動があると、その設定からのずれが吐出速度の低下や、吐出量の減少につながるからである。
【0055】
副マニホールド5aには、それぞれ4列の加圧室列11a〜dが、しぼり12を介して繋がっている。遅延の有無、あるいはその量が一致する駆動信号が送られる加圧室10のみが繋がるように副マニホールド5aを設けることも可能であるが、そのようにすると、副マニホールド5aの本数が増えて空間の利用効率が落ち、各副マニホールド5aの断面積が小さくなって、流路抵抗も増えるのであまり好ましくない。そして、しぼり12に繋がる副マニホールド5aの開口と、加圧室10との配置の関係は、例えば、図3に示されているように複雑になるので、各副マニホールド5aにおいて、遅延の有無、あるいはその量が一致しない駆動信号が送られる加圧室10から繋がっている開口をある程度近くに配置せざるを得ない。そうすると、遅延無しの駆動信号で駆動された変位素子50が加圧室10に与えた圧力は、その加圧室10に繋がるしぼり12、副マニホールド5a、他の加圧室10に繋がるしぼり12、他の加圧室10と伝わっていくことになる。
【0056】
図6(c)は、図6(a)に示された駆動信号に対して、遅延時間を与えて遅らされた駆動信号であり、図6(d)は、その駆動信号によって加圧される加圧室10の圧力を示している。図6(d)には、加圧室10が面している、遅延されて駆動される変位素子50により生じる圧力を実線で示している。基本的な動作は、遅延がない場合と同じであり、高電位であるV1で待機し、時刻tb1で第1駆動信号を送り電圧を0とし、時刻tb2で第2駆動信号を送り電圧をV1に戻している。これにより、加圧室10は、時刻tb1で負圧が加わり、時刻tb2では、先ほどの負圧から振動して生じている正圧と変位素子50から加わる正圧とが合わさって、より大きな正圧となり、吐出が生じる。なお、ここで遅延時間はtb2−ta2である。
【0057】
以上は、その加圧室10が面している変位素子50により生じる圧力の説明である。実際は、これにさらに、前述した遅延無しの駆動信号で生じた圧力が加わる。図6(d)には、他の加圧室10からtc1−ta1の伝搬時間がかかって到達した、しぼり12から加わる圧力(以下で伝搬圧力と言うことがある)を点線で示している。図6(d)では、遅延時間は、伝搬時間より僅か(AL/4以内)に短くなっている。なお、実際の伝搬圧力は、副マニホールド5aの中を伝わってくる経路が様々あるので、元の圧力の波形に対して少し崩れた形状になると考えられるが、図6(d)では、単に減衰した波形を示した。
【0058】
時刻tb1から時刻tb3の間、面する変位素子50からの与えられる圧力は、加圧室10で負圧になっており、吐出孔8側および副マニホールド5a側から液体を引き込むことにより、圧力0となり、さらに正圧へと転じようとしている。この際に、しぼり12から負圧の圧力波が伝搬してくると、副マニホールド5aから加圧室10へ液体が入り込み難くなる。別の言い方をすれば、副マニホールド5aに対する加圧室10の負圧の圧力差が小さくなるので圧力の復元力が弱くなる。いずれにしても、伝搬してきた圧力は、引き打ちにおける引きの効果が少なくなることにより、吐出速度低下、あるいは吐出量低下となる影響を与える。
【0059】
面する変位素子からの与えられる圧力は、時刻tb3から時刻tb4の間、加圧室10で正圧になっており、吐出孔8側および副マニホールド5a側へ液体を押し出そうとしている。この際、しぼり12から加わる正圧は、加圧室10を介して吐出孔8に液体を送り出す力となるので、伝搬してきた圧力は、吐出速度の増加、あるいは吐出量の増加となる影響を与える。
【0060】
これらの影響は、伝搬圧力が、tc1以降で高くなること、後者の作用時間が、前者の作用時間の約倍であること、から後者の影響が強くなり、吐出速度が増加するか、吐出量が増加するか、あるいは両者の効果が生じる。そして、前述したように直接的なクロストークの影響が吐出速度低下、あるいは吐出量低下となるので、これらと伝搬圧力の影響を相殺させることで、遅延有りの駆動と遅延無しの駆動との吐出特性の差を少なくすることができる。なお、基本的に吐出速度低下、あるいは吐出量低下の方が、影響が大きいため、遅延有りの駆動の方の吐出速度の増加、吐出量の増加が大きくなって、もとよりも差が大きくなってしまうことはない。また、そのため、吐出速度の増加、あるいは吐出量の増加の効果がより大きくなるように、伝搬時間と遅延時間との差はAL/4以内するのが良い。
【0061】
また、引き打ちの後半の動作である押す際の高くなった圧力同士を重ねるために、伝搬時間は、遅延時間以上、遅延時間+AL/4以内の時間にするのが好ましい。
【0062】
なお、加圧室10を押す第2駆動信号の時間差が圧力の重なり方に大きな影響を与えるため、遅延有りの駆動信号の第2駆動信号に遅延時間を加えるようにしている。各駆動信
号の第1駆動信号と第1駆動信号との間の時間はあらかじめ定められているため、遅延有りの駆動信号の第1駆動信号も遅延させて送られることになる。
【0063】
以上のような動作により、吐出特性の差が少なくなる効果が高いのは、ベタ印刷、あるいはそれに近い、一定の濃度に近いで印刷を行なう際である。その様な場合、遅延して加圧される加圧室10には、遅延されない加圧室10も加圧されていることが多いので、そこから伝搬圧力が伝わってきており、上述の効果が得られる。その結果、吐出特性の差が目立ち易い印刷条件において、吐出特性の差が比較的少なくなるので、良好な印刷ができる。一方、まばらな印刷をする際には、遅延して駆動される加圧室10には、遅延されない加圧室10が加圧されるとは限らないため、伝搬圧力が伝わってくるとは限らず、上述の効果が得られない場合もある。しかし、そのような場合、まばらな印刷ではそもそも吐出特性の差は目立ちにくいため、印刷結果が特に悪くなることはない。
【0064】
ここで遅延時間について詳細に説明する。遅延時間は、対象とする2つの加圧室10の間を、液体を通じて圧力が伝搬する時間であり、一方の加圧室10のしぼり12、副マニホールド5a、他方の加圧室10のしぼり12と伝わる時間である。本実施形態においては、各しぼり12からの開口はマニホールド5aの同じ面に開口しているため、図5(b)に示す経路38のように副マニホールド5aの底面で反射する経路の圧力波が、強く伝搬される。しぼり12からの開口同士が向かい合うような流路の場合、直接伝わる経路を考えればよい。
【0065】
1つの副マニホールド5aに繋がっている加圧室10に加えられる変位素子50の圧力は、副マニホールド5aを介して影響を及ぼすが、間の距離が長くなるほど減衰するため、基本的に、副マニホールド5aに開口しているしぼり12からの開口のうち、距離が近いものを考慮すればよい。また、ある加圧室10に面している変位素子50を駆動する際には、その時間付近で、その加圧室10に到達している伝搬圧力と重なるように遅延時間を変えればよい。その加圧室10に到達する伝搬圧力としては、一部の変位素子50を遅延駆動していることにより、その加圧室10よりも早いタイミングで駆動されたことにより加圧された加圧室10からの圧力波が使用できる。なお、遅延時間が複数ある場合、遅延時間が大きい圧力室10には、遅延時間が短い加圧室10からの圧力波も伝わってくるので、その圧力波を使用してもよい。なお、1つ前の駆動周期で加圧された加圧室10からの圧力波を使用することも考えられるが、そのようにすると駆動タイミングが同じになり、直接的なクロストークの低減をし難くなる。したがって、吐出速度の増加、吐出量の増加が大きくなるように副マニホールド5aに開口しているしぼり12からの開口が最も近い加圧室10から伝わってくる圧力波を使用できるよう、その加圧室10と遅延時間を異ならせれば良い。
【0066】
本実施形態では、異なる遅延時間で加圧される加圧室10、すなわち遅延無しの駆動の加圧室10から遅延無しの駆動の加圧室10までの伝搬経路の長さは、例えば、1〜2mm程度になり、液体として音速が1500m/sのものを使用すると、単純に距離を速度で割った値としては、遅延時間は約0.66〜1.33μ秒となる。これに対して、遅延時間を前述範囲で設定すれば、上述の効果が得られる。
【0067】
一方、遅延時間は、直接的なクロストークを効果的に減じるためには、AL/2以上とするのが好ましい。このような遅延時間に対して、伝搬時間を前述の範囲内にするには、例えば、副マニホールド5aの幅や深さを変えることで伝搬経路を長くすることで対応できる。他方、そのように伝搬経路を長くすると、液体吐出ヘッド2が大きくなってしまうという問題も生じる。
【0068】
そのような場合、副マニホールド5aにダンパ19を設けることにより、伝搬時間を長
くすることができる。その場合の伝搬時間は、流路の形状、ダンパの物性や形状、液体の物性などを用いてシミュレーションで計算することができる。基本的にダンパ19単体の固有振動周期を長くすれば、伝搬時間が長くなるので、ダンパ19の形状・寸法を変えることにより伝搬時間を調整できる。例えば、副マニホールド5aの底面全体(幅および長さ方向の両方)を、厚さ30μmのダンパ19とすることで、伝搬経路を1mm程度のままで、伝搬時間を4.5μ秒とすることができる。このようにすれば、液体吐出ヘッド2をコンパクトにしたまま、伝搬時間を長くでき、伝搬時間と遅延時間との差もAL/4以下とすることができる。特に液体吐出ヘッド2をコンパクトにするには、伝搬経路を音速で伝わった際の遅延時間がAL/2より短い副マニホールド5aに対して、ダンパ19を設けることにより、実際の伝搬時間をAL/2とするのが良い。
【0069】
本実施形態では、副マニホールド5aの底面で反射する伝搬経路38が主だった経路であるが、ダンパ19を設ける位置は、反射する部分には限らない。反射する部分以外でもダンパ19を設けることにより、副マニホールド5aの中の液体の固有振動周期が長く変わるので、伝搬時間を長くできる。しかし、より効果的に伝搬時間を長くするには、伝搬経路38を途中で反射が生じるものにし、反射する部分にダンパ19を設けるのが良い。
【0070】
なお、上述の説明の通り、引き打ちの吐出動作のうちの圧力が高くなる押しの際に発生する圧力波の関係が重要であるので、遅延時間については、加圧室10の体積を小さくする信号を同士の時間差を比較する。これは引き打ちの際に加える波形が、電圧が0になっているパルス幅が異なる波形であっても同様であり、遅延時間は、波形の始める加圧室10の体積を大きくする信号同士ではなく、加圧室10の体積を小さくする信号同士の時間差を比較する。
【0071】
パルス幅の異なる波形を加える際には、次のようにするのがより好ましい。引き打ちの吐出動作の最初の引きの際に生じる圧力波と、後の押しの際に生じる圧力波の位相差をθとすると(なお、パルス幅がALの場合はθ=πである)、これらの2つの圧力差により生じる最終的な圧力波は、押しの際に加える圧力変化に対して(π−θ)/2遅くなるため、この圧力波に対して、遅延時間をAL/4位以内とすればよい。
【0072】
またこの際、複数のパルス幅の駆動波形を用いて印刷する場合であっても、複数のパルス幅の駆動波形のそれぞれについて、伝搬時間と遅延時間との関係を上述の範囲内にした上で、各加圧室列11a〜dに対して、同時に第1駆動信号を送るようにすれば、全ての駆動に対して、本発明の効果が得られるとともに、駆動の回路を簡略化できる。また、伝搬時間と遅延時間との関係から、第1駆動信号を送るタイミングを揃えられない場合、第2駆動信号を送るタイミングを揃えればよい。この場合、駆動信号を記憶しておく記憶部に駆動信号を記憶させる際に、駆動信号として、最初に駆動電圧の変化のないものを記憶させておけば良い。
【0073】
具体的には、駆動電圧が0となるパルス幅がALの駆動波形と0.7ALの駆動波形を使用する場合、記憶部に記憶する波形としては、パルス幅がALの駆動波形は、ALの間電圧を0とする波形、パルス幅が0.7ALの駆動波形は、最初の0.3ALは電圧V1とし、その後0.7ALの間電圧を0とする波形、とすれば良い。このようにすれば、パルス幅の異なる駆動信号を送る際に、各加圧室列11a〜dに対して、同時に駆動信号を送るとともに、第2駆動信号を送るタイミングを同じにできる。また、同様にして、第2駆動信号を送るタイミングを同じにするのではなく、第2駆動信号が送られた後の圧力の変動が同じタイミングになるように、各駆動信号の第1駆動信号の前の駆動信号の変化のない時間を変えるようにしても良い。
【0074】
なお、本実施形態では、加圧部として圧電変形を用いた変位素子50を示したが、これ
に限られるものでなく、液体加圧室10中の液体を加圧できるものなら他のものでよく、例えば、液体加圧室10中の液体を加熱して沸騰させて圧力を生じさせるものや、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を用いたものでも良い。
【符号の説明】
【0075】
1・・・プリンタ
2・・・液体吐出ヘッド
4・・・流路部材
5・・・マニホールド(共通流路)
5a・・・副マニホールド
5b・・・開口
6・・・個別供給流路
8・・・吐出孔
9・・・加圧室群
10・・・加圧室
11a、b、c、d・・・加圧室列
12・・・しぼり
15a、b、c、d・・・吐出孔列
18・・・ダンパ室
19・・・ダンパ
21・・・圧電アクチュエータユニット
21a・・・圧電セラミック層(振動板)
21b・・・圧電セラミック層
22〜32・・・プレート
34・・・共通電極
35・・・個別電極
35a・・・個別電極本体
35b・・・引出電極
36・・・接続電極
37・・・個別流路
38・・・圧力波の主たる伝搬経路
50・・・変位素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出孔と、該複数の吐出孔とそれぞれ繋がっている複数の加圧室と、該複数の加圧室とそれぞれ繋がっている複数のしぼりと、該複数のしぼりに共通して繋がっている共通流路とを有する流路部材、および
該流路部材に接合されており、前記複数の加圧室の体積をそれぞれ変化させる複数の加圧部を備えている液体吐出ヘッド、ならびに
各々の前記加圧部に、対応する前記加圧室の体積を大きくする第1駆動信号を送った後、当該加圧室の体積を小さくする第2駆動信号を送ることにより液滴を吐出させるとともに、前記共通流路の前記複数のしぼりにそれぞれ繋がる複数の開口のうち、隣接している2つの開口に対応した2つの前記加圧部のうちどちらか一方に、他方より遅延時間を加えて前記第2駆動信号を送る、前記複数の加圧部の駆動を制御する制御部を備えている液体吐出ヘッド装置であって、
前記吐出孔から前記しぼりまでの液体の固有振動周期の半分をALとするとき、前記遅延時間と、前記2つの開口に対応した2つの前記加圧室の一方から他方へ、前記しぼりおよび前記共通流路の中の液体を通して圧力が伝わる伝搬時間との差が、AL/4以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド装置。
【請求項2】
前記共通流路にダンパが設けられており、該ダンパにより前記伝搬時間がAL/2以上となっていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド装置と、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部とを備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項4】
複数の吐出孔と、該複数の吐出孔とそれぞれ繋がっている複数の加圧室と、該複数の加圧室とそれぞれ繋がっている複数のしぼりと、該複数のしぼりに共通して繋がっている共通流路とを有する流路部材、および
該流路部材に接合されており、前記複数の加圧室の体積をそれぞれ変化させる複数の加圧部を備えている液体吐出ヘッドを用いた印刷方法であって、
前記複数の加圧部に、前記加圧室の体積を大きくする第1駆動信号を送った後、前記加圧室の体積を小さくする第2駆動信号を送ることにより液滴を吐出させる際に、
前記共通流路の前記複数のしぼりにそれぞれ繋がる複数の開口のうち、隣接している2つの開口に対応した2つの前記加圧部に、前記第2駆動信号を同時に送らないように、当該2つの前記加圧室に対応した前記加圧部のどちらか一方に、前記第2駆動信号に遅延時間を加えて送り、
前記吐出孔から前記しぼりまでの液体の固有振動周期の半分をALとするとき、前記遅延時間と、当該2つの開口に対応した2つの前記加圧室の一方から他方へ、前記しぼりおよび前記共通流路の中の液体を通して圧力が伝わる伝搬時間との差を、AL/4以下とすることを特徴とする印刷方法。
【請求項5】
前記共通流路にダンパが設けられており、該ダンパにより前記伝搬時間がAL/2以上となっていることを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91215(P2013−91215A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234067(P2011−234067)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】