説明

液体吐出ヘッド製造装置、液体吐出ヘッドの製造方法、液体吐出ヘッド及びインクジェット記録装置

【課題】液体吐出ヘッド間における吐出特性のばらつきを抑制することのできる液体吐出ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】成膜手段により導電層の形成されたシリコンウェハ上に強誘電体前駆体膜を成膜する成膜工程(S203)と、加熱手段により前記強誘電体前駆体膜を加熱して強誘電体層を形成する加熱工程(S204,S205,S207)と、冷却手段により前記加熱されたシリコンウェハを冷却する冷却工程(S208)と、を、一連の処理工程として1枚の前記シリコンウェハごとに所定回数繰り返すように有し、前記加熱工程は、加熱焼成手段により前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程(S207)を含み、前記焼成工程の前に、位置調整手段により前記加熱焼成手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整する位置調整工程(S206)をさらに有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出するノズル開口と連通する液室基板の一部を振動板で構成し、該振動板の表面に圧電素子を形成して、該圧電素子に電圧を印加することにより液体を吐出させるインクジェット式記録ヘッドである液体吐出ヘッドの製造装置及びその製造方法、並びに液体吐出ヘッド及びインクジェット記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として使用されるインクジェット記録装置等の液体吐出装置の液体吐出ヘッドは、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する加圧室(インク流路、加圧液室、圧力室、吐出室、液室等とも称される)と、加圧室内のインクを加圧する圧電素子と、を備え、圧電素子に電圧を印加することによって発生したエネルギーを用いて振動板を変位させ、加圧室内のインクを加圧することによってノズルからインク滴を吐出させている。
【0003】
この液体吐出ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長収縮するもの(縦振動型)とたわみ力を利用したもの(横振動型)の2種類の圧電アクチェーターが実用化されている。その中で、たわみ力を利用した圧電体層ではチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などの複合金属酸化物からなる強誘電体膜が用いられる。
【0004】
このような強誘電体膜はCSD法(Chemical Solution Deposition: 化学溶液堆積法、またはゾル-ゲル法などとも呼ばれる)によって強誘電体前駆体膜が形成された後、加熱焼成処理で結晶化することにより形成される(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また特許文献1には、加熱焼成処理方法として、拡散炉内に強誘電体前駆体膜を成膜したシリコンウェハを複数枚連続挿入し結晶化させるが、先に挿入されたシリコンウェハと後から挿入されたシリコンウェハの熱履歴が均一にならない為、所定回数の加熱焼成工程の中で加熱焼成工程毎にシリコンウェハの順序を入れ替えて熱履歴を均一にする方法が記述されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1による加熱焼成方法によっても、液体吐出ヘッドの吐出特性にばらつきが生じた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の従来技術における課題に鑑みてなされたものであり、液体吐出ヘッド間における吐出特性のばらつきを抑制することのできる液体吐出ヘッド製造装置、液体吐出ヘッドの製造方法を提供し、また該液体吐出ヘッド製造装置により製造される液体吐出ヘッド、インクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために提供する本発明は、下部電極、複数の強誘電体層からなる圧電体及び上部電極がこの順番に積層された圧電素子を有する液体吐出ヘッド製造装置であって、導電層の形成されたシリコンウェハ上に強誘電体前駆体膜を成膜する成膜処理を行う成膜手段と、前記強誘電体前駆体膜を加熱して前記強誘電体層を形成する加熱手段と、前記加熱されたシリコンウェハを冷却する冷却処理を行う冷却手段と、前記加熱手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を調整する位置調整手段と、前記シリコンウェハを搬送する搬送手段と、前記成膜手段による成膜処理、前記加熱手段による加熱処理及び前記冷却手段による冷却処理、の一連の処理を1枚の前記シリコンウェハごとに所定回数繰り返すように、前記成膜手段、前記加熱手段、前記冷却手段、前記位置調整手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と、を備え、前記加熱手段は、前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する加熱焼成手段を有し、前記位置調整手段は、1枚の前記シリコンウェハごとに、前記加熱焼成手段による焼成処理の前に、該加熱焼成手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整することを特徴とする液体吐出ヘッド製造装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッド製造装置によれば、1枚のシリコンウェハごとに、所定回数繰り返し行われる焼成処理のたびごとに、該焼成処理前に位置調整手段が加熱焼成手段に対するシリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整するので、シリコンウェハ面内の焼成温度の均一化を図ることができ、その結果、液体吐出ヘッドの吐出特性のばらつきをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る液体吐出ヘッド製造装置の構成例を示す平面図である。
【図2】本発明に係る液体吐出ヘッドの幅方向の構成を示す断面概略図である。
【図3】図2の液体吐出ヘッドにおける圧電体の構成を示す断面図である。
【図4】本発明に係る液体吐出ヘッド製造装置の構成を示す平面図である。
【図5】図4の液体吐出ヘッド製造装置における第3加熱部の構成を示す断面図である。
【図6】図4の液体吐出ヘッド製造装置における冷却部の構成を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法における処理パターンの工程図である。
【図8】第3加熱部にシリコンウェハが挿入された状態を示す概略図である。
【図9】第3の加熱工程の前に位置調整工程を設けない場合のシリコンウェハ面内の温度分布状態を示す概略図である。
【図10】第3の加熱工程の前に位置調整工程を設けた場合のシリコンウェハ面内の温度分布状態を示す概略図である。
【図11】本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法における圧電体形成に関する工程図である。
【図12】本発明の液体吐出ヘッドを用いた液体カートリッジの外観図である。
【図13】本発明に係るインクジェットプリンタの外観図である。
【図14】図13のインクジェットプリンタの機構部の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ところで、CSD法による複合酸化物材料、特に強誘電体材料の成膜を行う場合、複数枚のシリコンウェハ上の強誘電体前駆体膜を同時に焼成しようとすると次のような問題が発生する。例えば、複数のシリコンウェハを拡散炉に入れた状態で拡散炉を加熱して強誘電体前駆体膜を焼成しようとすると、拡散炉の温度上昇に時間がかかってしまい、強誘電体前駆体膜が良好に結晶化しないという問題がある。又、例えばあらかじめ加熱した拡散炉に複数枚のシリコンウェハを順次挿入して焼成しようとすると、全てのシリコンウェハを挿入するまでに時間がかかってしまうため、各シリコンウェハへの熱のかかり方にバラツキが生じ、シリコンウェハ上に形成されている圧電素子の電極となる金属層にかかる熱履歴にもバラツキが生じてしまう。そして、この熱履歴のバラツキによって金属層の硬度にバラツキが生じ、圧電素子の駆動による振動板の変位にバラツキが生じてしまい均一なインク吐出特性が得られないという問題が生じる。
【0012】
これらの問題を解決するために、特許文献1では、一列に配置された複数のステージを有する保持部材の各ステージにシリコンウェハをそれぞれに固定し予め加熱された拡散炉に前記保持部材をその一端のステージ側から挿入すると共に他端のステージ側から排出する一連の動作により前記シリコンウェハを介して強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程とを所定回数実行することにより前記圧電体層を構成する所定厚さの強誘電体膜を形成し、且つ前記所定回数の焼成工程を終了後に前記金属層にかかった熱履歴が均一になるように、各焼成工程毎に前記ステージの入れ替えを行っている。しかしながら、これでは各焼成工程毎における熱履歴は均一にはならない。さらに、複数枚のシリコンウェハを複数の保持部材のステージに固定し先入れ後出ししているために、たとえ挿入の順番を1回ごとに変えても最初挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハと2番目に挿入された保持部材のステージに固定されたシリコンウェハには挿入時間だけの差が出てしまう。また例えば拡散炉に挿入する保持部材の数が増えれば増えるだけ時間差が大きくなってしまい、各層間の焼成状態が変わってしまうといった問題が解決されなかった。
【0013】
発明者らは、前述した課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、強誘電体層を形成する際の加熱焼成処理を1枚のシリコンウェハごとに行う枚葉処理を行えばシリコンウェハにかかる熱履歴の均一化を図ることができることを見出した。しかしながら、この場合の加熱焼成処理が全処理工程における律速となり、製造時間がかかり過ぎた。
そこで、加熱焼成処理の詳細について調査したところ、加熱焼成処理では、強誘電体前駆体膜の溶媒を除去する乾燥処理、強誘電体前駆体膜に含まれる有機物を熱分解する処理、強誘電体前駆体膜を結晶化させる焼成処理を段階的に行っていることを把握した。また、前述した液体吐出ヘッドの吐出特性のばらつき問題に関し、これらの加熱焼成処理のうち、焼成処理においてシリコンウェハ内で加熱温度の分布が影響を与えることも把握した。
そこで発明者らは、これらの知見を基に前述した課題を解決すべく鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。
【0014】
以下に、本発明に係る液体吐出ヘッド製造装置、液体吐出ヘッドの製造方法、液体吐出ヘッド及びインクジェット記録装置の一実施の形態における構成について図面を参照して説明する。なお、本明細書において、強誘電体と記す範囲は複数の金属元素の酸化物からなる複合酸化物で有り特に電気的入力を機械的な変位に変換する材料が該当する。
【0015】
(液体吐出ヘッド)
まず、圧電素子を備えた液体吐出ヘッド1の構成例を説明する。
図1に、本発明に係る液体吐出ヘッドの一部を断面にて示した分解斜視図を示す。また図2に、本発明に係る液体吐出ヘッドの幅方向の断面概略構成を示す。なお、図2では単一の圧力室(個別液室、加圧液室ともいう)506を示しているが、液体吐出ヘッドは図1に示すとおり圧力室基板503の隔壁部503aで区画されることにより、図2中では左右方向に圧力室506が配列する構造をとる。
【0016】
液体吐出ヘッド1は、インクを吐出する液滴吐出孔であるノズル505を有するノズル板504と、複数の圧力室506、振動板540、圧電素子501が形成され、複数の強誘電体層が積層されてなる圧電体52の駆動のための駆動回路が搭載されたフレキシブルプリント基板(FPC)573を有する圧力室基板503と、圧電素子保護空間574を配した保持基板572との3枚の基板を重ねた積層構造となっている。なお、圧力室基板503と保持基板572との積層体が、後述するシリコンウェハを複数に分割することにより得られるシリコンチップである。
【0017】
圧力室基板503は、Si基板上に積層膜により振動板540が形成されている。本実施形態における振動板540はSOI基板を用いてSi基板の片側面にシリコン酸化膜、シリコン活性膜、シリコン酸化膜を堆積させたものである。また、その上に複数の圧電素子501を設けており、更に該複数の圧電素子501それぞれに対応する圧力室506、該圧力室506に液体を供給する為の流体抵抗部(供給路)532、共通液室533を形成している。
【0018】
ノズル板504は、例えばニッケル高速電鋳法を用いて厚さ20μmに形成したニッケル基板であり、圧力室基板503の面部に圧力室506それぞれに対応して連通するように設けられたノズル505を有する。
【0019】
保持基板572は、圧電素子501の保護及び変位を妨げないための圧電素子保護空間574と液滴であるインクが外部から共通液室533へ供給するためのインク供給部533aを形成した基板である。
【0020】
なお、圧力室506は、振動板540と、液室基板503の壁面(隔壁部503a)と、ノズル505が設けられるノズル板504と、で囲まれた空間である。
【0021】
また、振動板540の圧力室506とは反対面側に、下部電極51,圧電体52,上部電極53が積層されてなる圧電素子501が形成されている。また、圧力室506の振動板540に対向する板面がノズル板504となっている。
【0022】
このように構成された液体吐出ヘッド1において、各圧力室506内に液体、例えば記録液(インク)が満たされた状態で、図示しない制御部から画像データに基づいて、発振回路により、記録液の吐出を行いたいノズル505に対応する上部電極53に対して、所定(例えば20V)のパルス電圧を印加する。この電圧パルスを印加することにより、圧電体52は、電歪効果により圧電体52そのものが振動板540と平行方向に縮むことにより、振動板540が圧力室506側に凸となるように撓むことになる。これにより、圧力室506内の圧力が急激に上昇して、圧力室506に連通するノズル505から記録液が吐出されるようになる。次に、パルス電圧印加後は、縮んだ圧電体52が元に戻ることから撓んだ振動板540は、元の位置に戻るため、圧力室506内が共通液室533内に比べて負圧となり、共通液室533から流体抵抗部532を通って記録液が圧力室506に供給される。
以上の動作制御を繰り返すことにより、液体吐出ヘッド1は液滴を連続的に吐出でき、液体吐出ヘッド1に対向して配置された被記録媒体(用紙)に画像を形成することが可能となる。
【0023】
図2に示すように、液体吐出ヘッド1は、Si基板上に形成された振動板540と、該振動板540上に、下部電極51,圧電体52,上部電極53がこの順番で積層されてなる圧電素子501と、を備え、圧電素子501及び振動板540からなる圧電アクチュエータを用いてノズル板504の基板面部に設けた液滴吐出孔であるノズル505から液滴を吐出させるものである。
【0024】
ここで、ノズル板504は、SUS、Ni、Siなどの金属または無機材料、PI(ポリイミド)などの樹脂材料にノズル505を形成して構成され、図示していない接着剤または陽極接合等の他の接合手段によって圧力室基板503に接合されるものである。
【0025】
圧力室基板503は、必要とされる機械的強度および化学的耐性を備えた加工しやすい材料であるSi基板(シリコンウェハ)から作られる。Si基板を用いる場合、フォトリソグラフィとエッチング法による加工に、いわゆる半導体プロセスを用いることができるため、圧力室配列の高集積化が可能となる。
【0026】
振動板540は、圧電素子501による変位の範囲内で弾性変形する材質とすることが必要である。材質としては、無機材料、有機材料の薄膜が用いられるが、電極との密着性を考慮すると無機材料を用いることが好ましい。無機材料としては、金属、合金、半導体、誘電体等の任意の材料を用いることができる。材料は加工方法から最適のものを選定することができ、圧力室基板503にSiを用いた場合は、SiO,Si,他結晶Siを用いることが好ましい。一般にはSiの熱酸化膜とするケースが多い。また、これらの積層膜とすることで、残留応力を相殺する構造をとることができる。また、SiO,Si等の誘電体材料は化学的に安定であり、吐出するインクに接触しても、インクによる腐食による振動板540の破壊を防止することができる。さらに、これらの薄膜の成膜技術は半導体プロセスで確立された技術であるため、安定した振動板540を得ることができる。
【0027】
振動板540の厚さは、材料の剛性や形成方法から最適化することが好ましいが、前述の無機材料(SiO,Si)を用いた場合、1〜5μmの範囲とすることが好ましい。例えばまず、Si基板上に振動板540となる絶縁物を形成し、その後圧力室506などの液室となる空洞をエッチングにより形成後、必要な厚みに研磨される。エッチングの際は絶縁物層がストップ層となる。
【0028】
下部電極51は、複数の圧電素子501における共通電極であり、共通電極配線(不図示)と接続している。
【0029】
また、下部電極51は、例えば圧電体52を構成する強誘電体層の配向性を制御するために(111)結晶配向した薄膜であり、下部電極51を構成する材料としては、任意の導電性材料を用いることができる。導電材料としては、金属、合金、導電性化合物等を用いることができるが、強誘電体層の成膜方法により耐熱性の高い電極材料を用いることが好ましい。通常強誘電体層は成膜後に結晶化させるプロセスが必要であり、一般的な圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合、結晶化プロセス温度は500℃〜800℃となることが一般的である。そのため、圧電素子に用いられる材料は高融点であると同時に高温で隣接する振動板540や圧電材料と化合物を形成しない安定性の高い材料であることが必要である。これらの材料としてはPt,Ir,Pd,Au等の反応性が低く高融点である金属やその合金を用いることが好ましい。このうち、一般的に強誘電体層を構成する代表的材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)と格子定数が近く酸化しにくい貴金属であるPtが最も多く使用されている。また、高温安定性の高い化合物導電材料を用いても良い。これらの化合物導電材料としては、任意の複合酸化物を用いることができる。例えば、IrO、RuO、SrO、SrRuO、CaRuO、BaRuO、(SrCa1−x)RuO等の白金族金属含有導電性酸化物やLaNiOなどが挙げられる。
【0030】
下部電極51の膜厚は電極に必要とされる電気抵抗により任意に設定することができるが、100nmから1μmの範囲が好ましい。
【0031】
強誘電体層を構成する材料としては、ペロブスカイト型結晶構造を有し化学式ABOで示すことのできる複合酸化物を用いることができる。ここで、Aサイトの元素としてはPb、Ba、Nb、La、Li、Sr、Bi、NaおよびKなどである。また、Bサイトの元素としてはCd、Fe、Ti、Ta、Mg、Mo、Ni、Nb、Zr、Zn、WおよびYbなどである。この中でも、Aには鉛(Pb)、Bにジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の混合を適用したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が多く用いられている。この材料は、温度特性,圧電特性に優れているため、高信頼性、高安定性の圧電素子501を得ることができる。PZTの他には、鉛を使用しないという環境的な利点があり変位量が大きく原料が安価であり使用実績が多いものとしては、チタン酸バリウム(BaTiO)を用いることができる。
【0032】
圧電体52の膜厚は所望の特性により最適値を設定することができるが、0.1μmから5μmの範囲とすることが好ましい。
【0033】
さらに圧電体52は圧力室506ごとに個別に形成される必要があり、個別液室幅よりも圧電体幅を狭くする必要がある。それにより、剛性の高い圧電体52の膜が形成されない部分が圧力室506上に形成され、振動変位する領域を確保することができる。そのため、圧電体52のパターニング(圧力室506ごとの分離)が重要である。
【0034】
上部電極53は、圧力室506ごとに形成される圧電体52の上方に形成される。また上部電極53は、複数の圧電素子501ごとに設けられる個別電極であり、個別電極配線(不図示)と接続している。該個別電極配線は複数の圧電素子501それぞれの上部電極53と個別に導通しており、駆動信号入力部(不図示)から個別電極配線を通じてそれぞれの圧電素子501に駆動信号が入力される。
【0035】
上部電極53を構成する材料としては、下部電極51の場合と同じ材料群のいずれかを用いることができる。すなわち、上部電極53の材料は任意の導電性材料を用いることが可能である。導電材料としては、金属、合金、導電性化合物等が挙げられるが、金属または合金を用いることが好ましい。その際、圧電体52との密着性を考慮した材料を選定する必要がある。また、圧電材料に含まれるPb等の材料と反応・相互拡散し合金を形成する材料は好ましくない。さらに、圧電材料に含まれる酸素等と反応する材料も好ましくない。従って、反応性の低い安定した材料を用いるのが好ましい。これらの材料としては、Au,Pt,Ir,Pdまたはこれらの合金,固溶体を例として挙げられる。
【0036】
また、上部電極53の幅は圧電体52の幅より狭くすることが好ましい。圧電体52端部まで上部電極53を形成した場合、圧電体52端部の電界集中により、下部電極51−上部電極53間の放電現象に繋がる可能性があり、圧電素子501の信頼性を著しく損なう可能性がある。
【0037】
このような構成の液体吐出ヘッド1は、つぎの工程により製造する。
すなわちまず、図3に示すように、圧力室基板503となるシリコンウェハ39上に、圧電素子501の下部電極51となる導電層を形成した後に、複数の強誘電体層(強誘電体層52a,52b,52c,・・・52n)を積層させて所望の膜厚となる圧電体52を形成する。そして更に、上部電極53となる導電層(図3では省略)を形成する。ついで、それらの層をパターニングする。これにより、図1及び図2に示す圧電素子501をシリコンウェハ39上に形成することができる。つぎに、図1に示す保持基板572の設置を行う。
【0038】
そして、圧電素子501の設けられた圧力室基板503と保持基板572の積層体であるシリコンウェハ39を、ダイシングソー等により切断し、複数のシリコンチップに分割する。ついで、各シリコンチップに図1に示すノズル板504の接合や駆動部等の各種部材の搭載や加工等を行い、複数の液体吐出ヘッド1を製造する。
【0039】
本発明の液体吐出ヘッド1は、後述する液体吐出ヘッド製造装置により製造されることによりシリコンウェハ面内あるいはシリコンウェハ間の熱履歴の均一化を図ることができるので、ロット間のばらつきなく安定した吐出特性を有する。
【0040】
(液体吐出ヘッド製造装置及び製造方法)
図4は、本発明に係る液体吐出ヘッド製造装置(以下、単に「製造装置」と称する。)の構成例を示す平面図である。本発明の製造装置100は、液体吐出ヘッド1に設けられる圧電素子501の圧電体52を形成する装置である。具体的には、複数のシリコンチップに分割されるシリコンウェハ39を1枚ずつ搬送し、シリコンウェハ39に圧電体52となる強誘電体層の積層体を形成する枚葉式自動成膜装置である。
【0041】
図4に示すように、本発明の製造装置100は、供給排出ステージ10、収納部材11、搬送部12、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18、温湿度制御部19、主制御部20を含んで構成されている。
【0042】
収納部材11は、下部電極51となる導電層が形成されたシリコンウェハ39を収納し、さらに製造装置100により複数の強誘電体層が積層された後のシリコンウェハ39を収納する部材である。また、収納部材11には、導電層の形成されたシリコンウェハ39について所定時間で処理可能な枚数分(例えば、24枚)を1ロット分として収納することで、個別のシリコンウェハ39や生産状況の管理をやりやすくしている。例えばシリコンウェハ39の管理とは、製造装置100内に流動しているシリコンウェハ39に管理番号をつけ製造履歴をシーケンス制御により管理しモニター表示することである。
供給排出ステージ10は、これらの収納部材11を支持する。
【0043】
搬送部12は、製造装置100の中心部に配置され、保持部12aとレール12bを備えている。
【0044】
保持部12aは、シリコンウェハ39を1枚ずつ保持し、レール12bに沿ってレール長手方向に移動して、供給排出ステージ10、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18の間でシリコンウェハ39を搬送するものである。
【0045】
レール12bは、供給排出ステージ10、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17の配列方向に長い長尺状のレール部材である。図4では、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16が一列に配列され、供給排出ステージ10、第3加熱部17が配列され、冷却部18がレール12bの一方の端部側に配置されている。これにより、搬送部12は、供給排出ステージ10、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18の間で、短時間にシリコンウェハ39を搬送することができる。
【0046】
したがって、搬送部12によるシリコンウェハ39の搬送としては、例えば保持部12aがレール12bに沿って供給排出ステージ10の収納部材11まで移動して、収納部材11からシリコンウェハ39を1枚取り出し、続いて保持部12aが該シリコンウェハ39を保持した状態で位置調整部13まで移動しそのシリコンウェハ39を搬入することを行う。また、主制御部20の制御による搬送部12の駆動により、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18の間をシリコンウェハ39が1枚ずつ搬送される。
【0047】
位置調整部13は、シリコンウェハ39の中心位置やオリフラ(オリエーションフラット)を、予め定めた方向及び予め定めた位置に位置合わせして位置調整する。この位置調整されたシリコンウェハ39の予め定められた領域を、搬送部12で保持して搬送し、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18等の各部へ搬送する。これによって、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18等の各部には、位置調整されたシリコンウェハ39が搬送される。なお、位置調整部13は、第3加熱部17の加熱部32a,32b(後述)に対するシリコンウェハ39の板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハ39の位置とは異なるように調整する機能を有する。
【0048】
また、位置調整部13において、同時に位置調整可能なシリコンウェハ39の数は、1枚である。位置調整部13には、位置制御部(不図示)が設けられている。該位置制御部は、主制御部20に電気的に接続されている。位置制御部は、位置調整部13の装置各部を駆動する駆動部(不図示)に電気的に接続されており、該駆動部を制御することによって、シリコンウェハ39の位置合わせを行う。
【0049】
搬送部12は、位置調整部13で中心位置及びオリフラ位置の調整がされたシリコンウェハ39を次工程の成膜部14に搬送し、この搬送が完了すると2枚目のシリコンウェハ39を収納部材11から位置調整部13に搬送する。このような動作を連続で繰り返すことで休止時間を最小にすることができる。
【0050】
成膜部14は、シリコンウェハ39の導電層または前回形成された強誘電体前駆体膜、あるいは前回形成された強誘電体層上に、強誘電体前駆体膜を成膜する。この強誘電体前駆体膜は、強誘電体前駆体溶液(ゾル)による塗膜である。強誘電体前駆体溶液(ゾル)とは、圧電体52の構成材料として挙げた前記圧電材料を溶媒に溶解した溶液である。一度の塗布で形成する強誘電体前駆体膜の膜厚は100nm程度が好ましい。
【0051】
この強誘電体前駆体溶液としては、ゾルゲル法により成膜される圧電体材料、具体的には酢酸鉛、イソプロポキシドジルコニウム、イソプロポキシドチタンを出発材料にし、これらの出発材料を、共通溶媒としてのメトキシエタノールに溶解させたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料が挙げられる。
【0052】
成膜部14による強誘電体前駆体膜の成膜方法は、限定されないが、例えば、スピンコード法が用いられる。
【0053】
成膜部14には、この成膜条件を調整するための成膜制御部(不図示)が設けられている。成膜制御部は、主制御部20に電気的に接続されており、主制御部20の制御によって、シリコンウェハ39上に強誘電体前駆体膜を成膜する。なお、成膜部14では、同時に成膜可能なシリコンウェハ39の数は1枚とされている。
【0054】
また、成膜部14には、成膜前にシリコンウェハ39の表面、裏面及びエッジを洗浄する洗浄部を有している。この洗浄により、強誘電体前駆体膜の膜間にゴミ等の付着物が混入することを抑制することができ、膜欠陥を防止することができる。
成膜部14で成膜が完了したシリコンウェハ39は搬送部12により第1加熱部15に搬送される。
【0055】
第1加熱部15は、加熱乾燥手段であって、成膜部14によって成膜された強誘電体前駆体膜を第1の温度に加熱することによって、該強誘電体前駆体膜に含まれる溶媒を蒸発させて強誘電体前駆体膜を乾燥する。第1加熱部15には、主制御部20に電気的に接続された第1加熱制御部(不図示)が設けられている。主制御部20は、第1加熱制御部を制御することによって、第1加熱部15内を所定の乾燥温度に保持する。第1加熱部15の構成は、第1加熱部15内に搬送されてきたシリコンウェハ39の強誘電体前駆体膜に熱を加えることが出来る構成であればよく、限定されない。例えば、第1加熱部15としては、ホットプレート等の加熱部材を直接シリコンウェハ39に接触させる接触加熱方式の装置が挙げられる。
乾燥処理が完了したシリコンウェハ39は搬送部12により第2加熱部16に搬送される。
【0056】
第2加熱部16は、加熱脱脂手段であって、第1加熱部15より高い第2の温度で強誘電体前駆体膜を加熱する装置である。具体的には、第2加熱部16は、強誘電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する脱脂処理を行う。なお、脱脂とは、強誘電体前駆体膜に含まれる有機物(有機成分)を熱分解させて、例えば、NO、CO、HO等として離脱させる(除去する)ことである。
【0057】
第2加熱部16には、第2加熱制御部(不図示)が設けられており、第2加熱部16内の温度条件を調整する。具体的には、第2加熱制御部は、第2加熱部16内の温度を、前記脱脂処理可能な温度に一定時間保持する等の、第2加熱部16内の温度条件を調整する。第2加熱部16は、主制御部20に電気的に接続されており、主制御部20の制御によって、第2加熱部16内の温度制御を行う。
【0058】
第2加熱部16としては、第2加熱部16内に搬送されてきたシリコンウェハ39の強誘電体前駆体膜に、前記脱脂処理可能な温度(第2の温度)の熱を加えることが出来る構成であればよく、その構成は限定されない。第2加熱部16としては、例えば、ホットプレートを加熱装置として用い、脱脂条件により加熱面(ホットプレート面)にシリコンウェハ39を直接接触させて加熱する接触式加熱方法や、ホットプレート面とシリコンウェハ39との間に微小な隙間を保った状態で加熱する非接触式加熱方法のいずれかの方法で行う。
【0059】
このときシリコンウェハ39の基板種によっては成膜工程を経ることで、片面のみにPZT膜等の強誘電体前駆体膜が堆積するので、シリコンウェハ39とPZT膜の熱膨張率差に起因したウェハの反りが発生してくる場合があり、ホットプレート面との接触加熱ではシリコンウェハ39の均一過熱が阻害されるようになる。従って、ホットプレート面とシリコンウェハ39に0.1mm〜1mm、好ましくは0.3mm〜0.5mmの隙間を設けて、非接触式加熱方法で脱脂処理を行うとよい。
【0060】
また、第2加熱部16は、図4に示すように、2台の加熱(脱脂)処理装置を配置している。これにより、脱脂処理は乾燥処理よりも2倍の処理時間を要するところ、脱脂工程としては乾燥工程とタクトを略等しくすることができる。
脱脂処理が完了したシリコンウェハ39は搬送部12により冷却部18又は第3加熱部17に搬送される。
【0061】
第3加熱部17は、加熱焼成手段であって、第2加熱部16より高い第3の温度で強誘電体前駆体膜を加熱する装置である。具体的には、第3加熱部17は、強誘電体前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって強誘電体前駆体膜を結晶化させる焼成処理を行う。
【0062】
第3加熱部17には、第3加熱制御部(不図示)が設けられており、第3加熱部17内の温度条件を調整する。具体的には、第3加熱制御部は、第3加熱部17内の温度を、前記焼成処理可能な温度に一定時間保持する等の、第3加熱部17内の温度条件を調整する。第3加熱部17は、主制御部20に電気的に接続されており、主制御部20の制御によって、第3加熱部17内の温度制御を行う。
【0063】
第3加熱部17としては、第3加熱部17内に搬送されてきたシリコンウェハ39の強誘電体前駆体膜に、焼成処理可能な温度(第3の温度)の熱を加えることが出来る構成であればよく、その構成は限定されない。第3加熱部17としては、例えば赤外線ランプの照射により加熱するRTP(Rapid Thermal Processing)装置等の非接触加熱方式の装置を用いることができる。図5に、第3加熱部17の具体的な構成例を示す。
【0064】
第3加熱部17は、一対のフレーム30及びフレーム31を備えている。フレーム30及びフレーム31は、一面が開口した箱状となっており、この開口面が互いに対向するように配置されている。また、これらのフレーム30,31は、図示を省略する支持部材によって支持されており、図5(A)に示すように、フレーム30とフレーム31とが離間した状態(以下、離間状態と称する)、または図5(B)に示すようにフレーム30とフレーム31とが互いの開口面を覆うように接触した状態(以下、接触状態と称する)、の何れかの状態となるように駆動可能に支持されている。なお、これらのフレーム30,31を駆動する駆動部(不図示)は、第3加熱制御部に電気的に接続されており、第3加熱制御部の制御によって、上記離間状態または上記接触状態の何れかの状態となるように制御される。
【0065】
フレーム30及びフレーム31の内部の空間35A内には、図示を省略する支持部材によって支持されたホルダー34が設けられている。ホルダー34は、空間35A内に搬送されてきたシリコンウェハ39を空間35A内で支持する。このホルダー34は、第3加熱制御部に電気的に接続されており、主制御部20の制御によってシリコンウェハ39を保持した保持状態、またはシリコンウェハ39の保持を解除した解放状態の何れかの状態に制御される。
【0066】
また、フレーム30及びフレーム31内の空間35Aには、加熱部32a,32bが設けられている。これらの加熱部32a及び加熱部32bとしては、加熱機構を有するものであれば限定されないが、例えば、赤外線ランプが挙げられる。これらの加熱部32a及び加熱部32bは、第3加熱制御部に電気的に接続されており、第3加熱制御部の制御によって加熱条件が制御される。
【0067】
各フレーム30及びフレーム31内には、冷却回路33a及び冷却回路33bが設けられている。これらの冷却回路33a及び冷却回路33bは、第3加熱制御部に電気的に接続されており、第3加熱制御部の制御によってフレーム30及びフレーム31内を冷却する。
【0068】
図5に示す第3加熱部17では、以下の焼成処理を行う。
(S11) 第2加熱部16で脱脂処理が行われた強誘電体前駆体膜を有する1枚のシリコンウェハ39が位置調整部13により位置調整された後に搬送部12により搬送されてくると、第3加熱制御部の制御によりフレーム30及びフレーム31が離間した状態となり、シリコンウェハ39を空間35A内に挿入する(図5(A))。
(S12) そして、シリコンウェハ39が空間35A内に位置すると、第3加熱制御部の制御によって、該シリコンウェハ39をホルダー34によって保持し、フレーム30及びフレーム31を接触状態とする(図5(B))。ついで、第3加熱制御部の制御によって、加熱部32a及び加熱部32bを、強誘電体前駆体膜に焼成処理可能な温度(第3の温度)の熱を加えることができる条件に応じた温度にまで昇温させる。なお、このとき加熱部32a及び加熱部32bの何れか一方のみで加熱してもよいし、双方で加熱してもよい。
(S13) そして、第3加熱制御部は、予め定めた焼成時間が経過した後に、加熱部32a及び加熱部32bによる加熱を停止し、冷却回路33a及び冷却回路33bに冷却媒体を供給するように制御する(図5(C))。これによって、フレーム30及びフレーム31を冷却し、空間35A内のシリコンウェハ39を冷却する。
(S14) そして、第3加熱制御部は、該冷却媒体を供給するように制御してから予め定めた温度までの冷却に要する時間を経過したときに、フレーム30及びフレーム31を離間状態に制御する。そして、第3加熱制御部は、焼成処理終了を示す信号を、主制御部20に出力すると共に、ホルダー34を解放状態とし、シリコンウェハ39を排出する(図5(D))。
【0069】
従来のように、脱脂処理と焼成処理を1つの工程として連続して行うと、かなりの時間を要していたが、本発明では、脱脂処理を行う第2加熱部16と焼成処理を行う第3加熱部17に工程を分離することにより、各工程のタクトを合わせることが容易となり、生産性を向上させることができる。
焼成処理が完了したシリコンウェハ39は搬送部12により冷却部18に搬送される。
【0070】
このように第3加熱部17は枚葉処理を行う装置であるため、常に予め設定されている焼成条件で制御されて各強誘電体前駆体膜の焼成条件にバラツキが生じないことから安定した結晶化が行われ、変位性能の安定した圧電素子の製造が可能となる。なお、図5では、シリコンウェハ39の供給部35Cと排出部35Bがそれぞれ別個に設けられているが、供給部、排出部を同じ箇所に設けてもかまわない。
【0071】
冷却部18は、第2加熱部16または第3加熱部17によって加熱されたシリコンウェハ39を冷却する装置である。また冷却部18は、複数のシリコンウェハ39を保持可能な構成となっており、保持したシリコンウェハ39を製造装置100内の温度(例えば室温)にまで自然冷却する。なお、製造装置100内の温度は、冷却部18に隣接して配置された温湿度制御部19により最適な状態に制御されている。このとき、温湿度制御部19は、主制御部20に電気的に接続されており、製造装置100内の温湿度条件を制御している。
【0072】
図6に、冷却部18の構成例を示す。
冷却部18は、図6に示すように、円盤状のインデックステーブル40が該円盤盤面の垂直方向に複数段(図6では3段)配置されている。これらの複数のインデックステーブル40は、間隔を空けて複数配列されており、円盤の周方向(図6中、矢印C方向)に回転可能に設けられている。なお、冷却部18には、回転制御部(不図示)が設けられており、この回転制御部の駆動によって、各インデックステーブル40が周方向に回転可能に設けられている。なお、この回転制御部は、温湿度制御部19に電気的に接続されている。
【0073】
各インデックステーブル40には、シリコンウェハ39を1枚ずつ保持するステージ41が設けられている。一段のインデックステーブル40に所定枚数(例えば8枚)のシリコンウェハ39を保持するステージ41を設けており、インデックステーブル40全体で、所定時間で処理可能な枚数分(例えば24枚)のシリコンウェハ39が1ロットとして保持される。これにより、製造装置100の休止時間を最小とすることができる。
【0074】
主制御部20は、製造装置100に設けられた装置各部に電気的に接続されており、所定の製造処理を実行するプログラムにしたがって装置各部を制御するものである。具体的には、主制御部20は、供給排出ステージ10、搬送部12、位置調整部13、成膜部14、第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17、冷却部18、温湿度制御部19等に電気的に接続されており、後述する液体吐出ヘッドの製造方法に従って制御を行う。
【0075】
以上の構成により、本発明の製造装置100によれば、複数の強誘電体層を積層して圧電体52を形成する場合に、1枚のシリコンウェハごとに加熱焼成処理を行うのでシリコンウェハ間の熱履歴の均一化を図ることができ、かつ強誘電体前駆体膜について行う加熱焼成処理を3つの加熱処理に分割し、分割した3つの加熱処理を3つの加熱部(第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17)それぞれで独立して実行するので製造のタクトタイムの向上を図ることができる。
さらに、本発明の製造装置100によれば、1枚のシリコンウェハごとに、所定回数繰り返し行われる焼成処理のたびごとに、該焼成処理前に位置調整手段(位置調整部13)が加熱焼成手段(第3加熱部17)に対するシリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整するので、シリコンウェハ面内の焼成温度の均一化を図ることができ、その結果、液体吐出ヘッドの吐出特性のばらつきをなくすことができる。
【0076】
つぎに、本発明に係る液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、前述した製造装置100を用いて液体吐出ヘッド1に設けられる圧電素子501の圧電体52を形成する方法であり、導電層の形成されたシリコンウェハ39上に強誘電体前駆体膜を成膜する成膜工程と、前記強誘電体前駆体膜を加熱して乾燥する第1の加熱工程と、前記乾燥した強誘電体前駆体膜を加熱して該強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を除去する第2の加熱工程と、前記有機成分が除去された強誘電体前駆体膜を加熱して焼成し前記強誘電体層を形成する第3の加熱工程と、前記有機成分が除去された強誘電体前駆体膜または前記強誘電体層を冷却する冷却工程と、を有し、1枚の前記シリコンウェハごとに、前記成膜工程、前記第1の加熱工程、前記第2の加熱工程、前記第3の加熱工程及び前記冷却工程を適宜組み合わせて処理を実行することを特徴とするものである。
【0077】
ここで、成膜工程は、成膜部14により導電層の形成されたシリコンウェハ39上に強誘電体前駆体膜を成膜する工程である。
また、第1の加熱工程は、第1加熱部15により前記強誘電体前駆体膜を加熱して溶媒を蒸発させて乾燥処理を行う工程である。
また、第2の加熱工程は、第2加熱部16により前記乾燥した強誘電体前駆体膜を加熱して該強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を除去する脱脂処理を行う工程である。
また、第3の加熱工程は、第3加熱部17により前記有機成分が除去された強誘電体前駆体膜を加熱して焼成し前記強誘電体層を形成する焼成処理(結晶化処理)を行う工程である。
また、冷却工程は、冷却部18により第2の加熱工程後のシリコンウェハ39または第3の加熱工程後のシリコンウェハ39を冷却する工程である。
【0078】
図7,図8を用いて、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の詳細を説明する。
まず本発明の液体吐出ヘッドの製造方法では、前記成膜工程、前記第1の加熱工程、前記第2の加熱工程及び前記冷却工程をこの順番で1枚の前記シリコンウェハごとに行う処理パターンAを所定回数繰り返して実行し、ついで前記成膜工程、前記第1の加熱工程、前記第2の加熱工程、前記第3の加熱工程及び前記冷却工程をこの順番で1枚の前記シリコンウェハごとに行う処理パターンBを実行する。
【0079】
詳しくは、処理パターンAは、図7(a)に示すように行う。なおここでは、従来技術として知られている(非特許情報:K.D.Budd et al.,Sol−gel processing of PbTiO3,PbZrO3,PZT and PLZT thin films,Brit.Cer.Soc.Proc.,vol.36,1985,pp.107−121)に記されている方法で、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)の強誘電体層を形成する例を合わせて示す。
【0080】
(S101) 位置調整部13により、搬送されてきたシリコンウェハ39の中心位置やオリフラを、予め定めた方向及び予め定めた位置に位置合わせする(ウェハ位置調整工程)。
(S102) ついで、中心位置及びオリフラの位置調整されたシリコンウェハ39を成膜部14に搬送し、まずシリコンウェハ39の表面、裏面及びエッジを洗浄する(ウェハ洗浄工程)。
(S103) 成膜部14により、洗浄後のシリコンウェハ39の導電層または前回形成された強誘電体前駆体膜、あるいは前回形成された強誘電体層上に、ゾルゲル前駆体溶液を塗布して強誘電体前駆体膜を成膜する(塗布工程)。
【0081】
このとき使用するゾルゲル前駆体溶液は、例えばPZT前駆体溶液を用いる。このPZT駆体溶液の調製には、例えば出発材料として酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを、共通溶媒としてメトキシエタノールを用い、まず酢酸鉛三水和物をメトキシエタノールに溶解、溶液温度130℃で蒸留することで脱水し、酢酸鉛のメトキシエタノール溶液を作製した。ついで、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、130℃で還流、蒸留させて金属アルコキシド化合物のアルコール交換反応を進めた。これを先の酢酸鉛メトキシエタノール溶液に混合させ、130℃にてエステル化反応をさせ、均一でスピン成膜に適した溶液濃度(0.5mol/l)のPZT前駆体溶液を得た。なお、溶液の大気下での安定性を向上させるために、アセチルアセトンなどβ―ジケトン類や酢酸などを加えても良い。また、形成された強誘電体前駆体膜のジルコニアとチタンの組成比は例えば52/48である。
【0082】
(S104) ついで、強誘電体前駆体膜が成膜されたシリコンウェハ39を第1加熱部15に搬送し、第1加熱部15により前記強誘電体前駆体膜を加熱して溶媒を蒸発させて乾燥処理を行う(第1の加熱工程(乾燥))。ここでは、例えば第1の熱処理として120℃に加熱したホットプレートの加熱面にシリコンウェハ39を載置し、1分間の加熱を行う。
【0083】
(S105) ついで、乾燥処理後のシリコンウェハ39を第2加熱部16に搬送し、第2加熱部16により前記乾燥した強誘電体前駆体膜を加熱して該強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を除去する脱脂処理を行う(第2の加熱工程(脱脂))。この加熱は、350℃から550℃の温度範囲で行われる。具体的には、ホットプレートにより、500℃、2分の脱脂処理を行う。
【0084】
(S106) ついで、脱脂処理後のシリコンウェハ39を冷却部18に搬送し、冷却部18により第2の加熱工程後のシリコンウェハ39を冷却する(冷却工程)。
【0085】
本発明では、以上の処理パターンAを所定回数繰り返して実行するが、その繰り返し回数は例えば1〜5回である。
【0086】
また、処理パターンBは、図7(b)に示すように行う。
ここで、ステップS201〜S205までは、処理パターンAにおけるステップS101〜S105と同じであり説明を省略する。
【0087】
(S206) 脱脂処理後のシリコンウェハ39を位置調整部13に搬送し、位置調整部13により、第3加熱部17の加熱部32a,32bに対する該シリコンウェハ39の板面回転方向の位置が前回までの焼成処理のときの同じシリコンウェハ39の第3加熱部17に対する位置とは異なるように調整する。すなわち、本発明では後述するように同じシリコンウェハ39について処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを所定回数実行するが、その際、第3加熱部17による焼成処理のつど、加熱部32a,32bと該シリコンウェハ39との板面回転方向の位置関係を変更することを行う。なお、処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせの1回目の実行の場合、例えばステップS201のウェハ位置調整工程と同じ処理を行う。
【0088】
本工程はつぎの理由により必要である。すなわち、第3加熱部17において加熱部32a,32bの加熱に関して温度分布が発生する場合、例えば図8に示すように、加熱部32a,32bの間の所定位置に配置されたシリコンウェハ39において領域39aが他の領域と異なる温度条件(例えば他の領域よりも温度が高い条件)となる。ここで、後述するように同じシリコンウェハ39について処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを所定回数実行する場合、ステップS201のウェハ位置調整工程では、成膜工程におけるシリコンウェハ39の中心位置合わせを行い、オリフラ位置は常に同じであることから、ステップS206のウェハ位置調整工程を行うことなしそのままの状態で処理を続けると、繰り返して行われる第3の加熱工程(焼成)の処理では加熱部32a,32bとシリコンウェハ39の板面回転方向における位置関係は常に同じとなる。そのため、その状態で第3の加熱工程(焼成)の処理を繰り返し行うと、シリコンウェハ39の同じ領域39aで異なる温度条件の焼成処理が積算的に行われることとなり、図9に示すように、シリコンウェハ39の領域39aがそのほかの領域と異なる強誘電体層の特性を示すようになり、同じシリコンウェハ39からでも吐出特性が異なる液体吐出ヘッドができてしまうことになる。
【0089】
そこで、本発明では第3の加熱工程(第3加熱部17による焼成処理)の都度、その工程前に、ステップS206のウェハ位置調整工程で加熱部32a,32bと該シリコンウェハ39との板面回転方向の位置関係を変更することを行い、異なる温度条件となる焼成処理で行われる領域がシリコンウェハ39の面内の同じ領域に集中することを防止し、面内で分散させることを行う。これにより、該シリコンウェハ39の面内における強誘電体層の特性の偏りを極力抑制することができ、同じシリコンウェハ39から吐出特性が揃った液体吐出ヘッドを製造することが可能となる。
【0090】
なお、本工程では、位置調整部13がシリコンウェハ39を前回の焼成処理のときの該シリコンウェハ39の位置からシリコンウェハ39ごとに行われる前記一連の処理の繰り返し回数に応じた回転角度で回転させることにより、第3加熱部17(加熱部32a,32b)に対する該シリコンウェハ39の板面回転方向の位置を調整することが好ましい。すなわち、同じシリコンウェハ39について処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを4回実行する場合、ステップS206では位置調整部13が前回の焼成処理のときの前記シリコンウェハ39の位置から該シリコンウェハ39を90°回転させる位置調整を行う。これにより、処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを4回実行すると、図10に示すように、シリコンウェハ39の面内で、異なる温度条件で焼成処理される領域が領域39a1,39a2,39a3,39a4の4つに分散され、強誘電体層の特性の均一化を図ることができる。なお、同じシリコンウェハ39について処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを10回実行する場合には、ステップS206では位置調整部13が前回の焼成処理のときの前記シリコンウェハ39の位置から該シリコンウェハ39を36°回転させる位置調整を行うようにする。
【0091】
ここでは、ステップS206のウェハ位置調整工程を位置調整部13が行う態様を示したが、これに限定されるものではなく、例えば第3加熱部17にそのようなウェハ位置調整を行う位置調整手段を設けてもよい。
【0092】
(S207) 位置調整後のシリコンウェハ39を第3加熱部17に搬送し、第3加熱部17により前記有機成分が除去された強誘電体前駆体膜を加熱して焼成し強誘電体層を形成する焼成処理(結晶化処理)を行う(第3の加熱工程(焼成))。この加熱は、前述したRTP装置による処理(図5)であり、例えば昇温速度80℃/秒、加熱温度700℃、保持時間5分、雰囲気N/O=80/20とする。
【0093】
(S208) ついで、焼成処理後のシリコンウェハ39を冷却部18に搬送し、冷却部18により第3の加熱工程後のシリコンウェハ39を冷却する(冷却工程)。
【0094】
また本発明の液体吐出ヘッドの製造方法では、図11に示すように、前記強誘電体層が所定の膜厚となるように、前記処理パターンAの1回または複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを所定回数実行するとよい。
図11では、処理パターンAの2回繰り返しの実行と処理パターンBの実行の組み合わせをn回実行する手順を示している。この処理終了後、シリコンウェハ39を供給排出ステージ10の収納部材11に搬送し、収納部材11に1ロットのシリコンウェハ39が収納されると製造装置100から排出される。
本発明では、以上の手順が全自動で行われる。
【0095】
ここで、従来の液体吐出ヘッド製造装置による液体吐出ヘッドの製造方法と本発明の液体吐出ヘッドの製造方法とを比較する。
例えば、従来の製造装置として、製造装置100において第2加熱部16がなく、第1加熱部15で乾燥処理を行い、第3加熱部17で脱脂処理及び焼成処理を行う構成を考えると、従来の製造装置で液体吐出ヘッドの圧電体52を形成する場合、前記処理パターンBにおけるステップS205;第2の加熱工程(脱脂)及びステップS207;第3の加熱工程(焼成)を第3加熱部17で連続して行うようになる。このとき、シリコンウェハ39の第3加熱部17への挿入から取り出しまでの時間は、焼成後の冷却時間を含めると約12分の時間を要する。すなわち、一つの機構部(第3加熱部17)が長時間占有されることになる。これに対して、成膜工程(スピン成膜)や乾燥工程は1分ないし2分で終了することから、脱脂−焼成工程が従来の製造装置におけるスループットを低下させることになっていた。
一方、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法では、前述の通り、加熱機構部として3つの加熱部(第1加熱部15、第2加熱部16、第3加熱部17)に分割して、必要な加熱工程をそれぞれで独立して実行するので、各工程のタクトを合わせることが容易となり、生産性を向上させることができる。また、図4に示すように、第2加熱部16に2台の処理機を配置することにより、各工程のタクトが略等しくなり、従来の製造方法に比べて生産性を5倍に向上させることができた。
【0096】
またさらに、従来の製造方法では、焼成処理前にステップS206;ウェハ位置調整工程を設けることができないため、前述のように同じシリコンウェハから製造される液体吐出ヘッドで吐出特性にばらつきが生じうる。
これに対して、本発明の液体吐出ヘッドの製造方法によれば、1枚のシリコンウェハ39ごとに、所定回数繰り返し行われる焼成処理のたびごとに、該焼成処理前に位置調整手段(位置調整部13)が第3加熱部17(加熱部32a,32b)に対するシリコンウェハ39の板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハ39の位置とは異なるように調整するので、加熱部32a,32bの温度分布の影響をできるだけ排除しシリコンウェハ39面内の焼成温度の均一化を図ることができ、その結果、液体吐出ヘッド1の吐出特性のばらつきをなくすことができる。
【0097】
〔インクジェット記録装置等〕
ところで、前述した本発明の液体吐出ヘッドに対してインクなどの液体を供給する液体タンクを一体化して液体カートリッジとしてもよい。
図12に、その液体カートリッジであるインクカートリッジの外観図を示す。このインクカートリッジ80は、ノズル505等を有する前述した本発明に係る液体吐出ヘッド1と、この液体吐出ヘッド1に対してインクを供給する液体タンクであるインクタンク82とを一体化したものである。このようにインクタンク82が一体型の液体吐出ヘッド1の場合、アクチュエータ部を高精度化、高密度化、および高信頼化することで、インクカートリッジ80の歩留まりや信頼性を向上することができ、インクカートリッジ80の低コスト化を図ることができる。
【0098】
つぎに、本発明に係るインクジェット記録装置について説明する。
本発明に係るインクジェット記録装置は、液滴を吐出させて画像を形成する画像形成装置であって、前述した本発明の液体吐出ヘッド又は図12の一体型液体吐出ヘッドユニットである液体カートリッジを備えていることを特徴とする。
ここでは、図13及び図14を用いて、本発明の液体吐出ヘッド1を搭載した画像形成装置であるインクジェット記録装置を実施例として説明する。なお、図13は同記録装置の斜視説明図、図14は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0099】
このインクジェット記録装置は、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ98、キャリッジ98に搭載した本発明の液体吐出ヘッド(記録ヘッド)1、液体吐出ヘッド1へインクを供給するインクカートリッジ99等で構成される印字機構部91等を収納し、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙92を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)93を抜き差し自在に装着することができる。また、用紙92を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ94を有し、給紙カセット93あるいは手差しトレイ94から給送される用紙92を取り込み、印字機構部91によって所要の画像を記録した後、後面側の装着された排紙トレイ95に排紙する。
【0100】
印字機構部91は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド96と従ガイドロッド97とキャリッジ98を主走査方向に摺動自在に保持し、このキャリッジ98には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンダ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する液体吐出ヘッド1を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ98には液体吐出ヘッド1に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ99を交換可能に装着している。
【0101】
インクカートリッジ99は、上方に大気と連通する大気口、下方には液体吐出ヘッド1へインクを供給する供給口が設けられ、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液体吐出ヘッド1へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液体吐出ヘッド1としては各色の液体吐出ヘッド1を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液出ヘッドでもよい。
【0102】
ここで、キャリッジ98は後方側(用紙搬送下流側)を主ガイドロッド96に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送上流側)を従ガイドロッド97に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ98を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ101で回転駆動される駆動プーリ102と従動プーリ103との間にタイミングベルト104を張装し、このタイミングベルト104をキャリッジ98に固定しており、主走査モータ101の正逆回転によりキャリッジ98が往復駆動される。
【0103】
一方、給紙カセット93にセットした用紙92を液体吐出ヘッド1に下方側に搬送するために、給紙カセット93から用紙92を分離給装する給紙ローラ105及びフリクションパッド106と、用紙92を案内するガイド部材107と、給紙された用紙92を反転させて搬送する搬送ローラ108と、この搬送ローラ108の周面に押し付けられる搬送コロ109及び搬送ローラ108からの用紙92の送り出し角度を規定する先端コロ110とを有する。搬送ローラ108は副走査モータによってギア列を介して回転駆動される。
【0104】
そして、キャリッジ98の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ108から送り出された用紙92を液体吐出ヘッド1の下方側で案内するため用紙ガイド部材である印写受け部材111を設けている。この印写受け部材111の用紙搬送方向下流側には、用紙92を排紙方向へ送り出すための回転駆動される搬送コロ112と拍車113を設け、さらに用紙92を排紙トレイ95に送り出す排紙ローラ114と拍車115と排紙経路を形成するガイド部材116,117とを配設している。
【0105】
このインクジェット記録装置90による記録時には、キャリッジ98を移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙92にインクを吐出して1行分を記録し、その後、用紙92を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号または用紙92の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙92を排紙する。
【0106】
また、キャリッジ98の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、液体吐出ヘッド1の吐出不良を回復するための回復装置118を配置している。回復装置118はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ98は印字待機中にはこの回復装置118側に移動されてキャップ手段で液体吐出ヘッド1をキャッピングして吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係ないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出状態を維持する。
【0107】
また、吐出不良が発生した場合等には、キャップ手段で液体吐出ヘッド1の吐出出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともの気泡等を吸出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0108】
このように、このインクジェット記録装置90においては本発明の液体吐出ヘッド1を搭載しているので、安定したインク吐出特性が得られ、画像品質が向上する。なお、ここではインクジェット記録装置90に液体吐出ヘッド1を使用した場合について説明したが、インク以外の液滴、例えば、パターニング用の液体レジストを吐出する装置に液体吐出ヘッド1を適用してもよい。
【0109】
なお、これまで本発明を図面に示した実施形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0110】
1 液体吐出ヘッド
10 供給排出ステージ
11 収納部材
12 搬送部
12a 保持部
12b レール
13 位置調整部
14 成膜部
15 第1加熱部
16 第2加熱部
17 第3加熱部
18 冷却部
19 温湿度制御部
20 主制御部
30,31 フレーム
32a,32b 加熱部
33a,33b 冷却回路
34 ホルダー
35A 空間
35B 排出部
35C 供給部
39 シリコンウェハ
39a,39a1,39a2,39a3,39a4 領域
40 インデックステーブル
41 ステージ
51 下部電極
52 圧電体
52a,52b,52c,52n 強誘電体層
53 上部電極
80,99 インクカートリッジ
82 インクタンク
90 インクジェット記録装置
91 印字機構部
92 用紙
93 給紙カセット
94 手差しトレイ
95 排紙トレイ
96 主ガイドロッド
97 従ガイドロッド
98 キャリッジ
100 液体吐出ヘッド製造装置(製造装置)
101 主走査モータ
102 駆動プーリ
103 従動プーリ
104 タイミングベルト
105 給紙ローラ
106 フリクションパッド
107,116,117 ガイド部材
108 搬送ローラ
109,112 搬送コロ
110 先端コロ
111 印写受け部材
113,115 拍車
114 排紙ローラ
118 回復装置
501 圧電素子
503 圧力室基板
503a 隔壁部
504 ノズル板
505 ノズル
506 圧力室
532 流体抵抗部
533 共通液室
533a インク供給部
540 振動板
572 保持基板
573 フレキシブルプリント基板(FPC)
574 圧電素子保護空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0111】
【特許文献1】特許第3888459号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極、複数の強誘電体層からなる圧電体及び上部電極がこの順番に積層された圧電素子を有する液体吐出ヘッド製造装置であって、
導電層の形成されたシリコンウェハ上に強誘電体前駆体膜を成膜する成膜処理を行う成膜手段と、
前記強誘電体前駆体膜を加熱して前記強誘電体層を形成する加熱手段と、
前記加熱されたシリコンウェハを冷却する冷却処理を行う冷却手段と、
前記加熱手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を調整する位置調整手段と、
前記シリコンウェハを搬送する搬送手段と、
前記成膜手段による成膜処理、前記加熱手段による加熱処理及び前記冷却手段による冷却処理、の一連の処理を1枚の前記シリコンウェハごとに所定回数繰り返すように、前記成膜手段、前記加熱手段、前記冷却手段、前記位置調整手段及び前記搬送手段を制御する制御手段と、
を備え、
前記加熱手段は、前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する加熱焼成手段を有し、
前記位置調整手段は、1枚の前記シリコンウェハごとに、前記加熱焼成手段による焼成処理の前に、該加熱焼成手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整することを特徴とする液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項2】
前記位置調整手段は、前記シリコンウェハを前回の焼成処理のときの該シリコンウェハの位置から前記シリコンウェハごとに行われる前記一連の処理の繰り返し回数に応じた回転角度で回転させることにより、前記加熱焼成手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を調整することを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項3】
前記加熱手段は、前記強誘電体前駆体膜を加熱して乾燥処理を行う加熱乾燥手段と、前記乾燥した強誘電体前駆体膜を加熱して該強誘電体前駆体膜に含まれる有機成分を除去する脱脂処理を行う加熱脱脂手段と、をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記成膜手段による成膜処理、前記加熱乾燥手段による乾燥処理、前記加熱脱脂手段による脱脂処理及び前記冷却手段による冷却処理、の一連の処理を1枚の前記シリコンウェハごとに行う処理パターンAを1回または複数回数繰り返して実行し、ついで前記成膜手段による成膜処理、前記加熱乾燥手段による乾燥処理、前記加熱脱脂手段による脱脂処理、前記加熱焼成手段による焼成処理及び前記冷却手段による冷却処理、の一連の処理を1枚の前記シリコンウェハごとに行う処理パターンBを実行する制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記強誘電体層が所定の膜厚となるように、前記処理パターンAの複数回数繰り返しの実行及び処理パターンBの実行の組み合わせを所定回数実行する制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項6】
導電層の形成されたシリコンウェハについて所定時間で処理可能な枚数分を1ロットとして収納する収納手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項7】
前記冷却手段は、1ロット分のシリコンウェハを保持する保持手段を有することを特徴とする請求項6に記載の液体吐出ヘッド製造装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の液体吐出ヘッド製造装置を用いて、下部電極、複数の強誘電体層からなる圧電体及び上部電極がこの順番に積層された圧電素子を有する液体吐出ヘッドを製造する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記成膜手段により導電層の形成されたシリコンウェハ上に強誘電体前駆体膜を成膜する成膜工程と、
前記加熱手段により前記強誘電体前駆体膜を加熱して前記強誘電体層を形成する加熱工程と、
前記冷却手段により前記加熱されたシリコンウェハを冷却する冷却工程と、
を、一連の処理工程として1枚の前記シリコンウェハごとに所定回数繰り返すように有し、
前記加熱工程は、前記加熱焼成手段により前記強誘電体前駆体膜を加熱して焼成する焼成工程を含み、
前記焼成工程の前に、前記位置調整手段により前記加熱焼成手段に対する前記シリコンウェハの板面回転方向の位置を前回までの焼成処理のときの該シリコンウェハの位置とは異なるように調整する位置調整工程をさらに有することを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載のインクジェット製造装置を用いて製造されてなることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項10】
請求項9に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−59955(P2013−59955A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200971(P2011−200971)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】