説明

液体吐出ヘッド

【課題】液体を効率よく温める。
【解決手段】インクジェットヘッド1が、インクを貯溜するインクプール82が形成された上流リザーバユニット81と、インクプール82に連通していると共に共通インク室の出口から圧力室を介してノズルに至る複数の個別インク流路が形成された流路ユニット9と、圧力室内のインクにノズルからインク滴を吐出させる吐出エネルギーを付与するアクチュエータユニット21とアクチュエータユニット21を駆動するドライバIC52とを有している。上流インクリザーバユニット81が、高熱伝導性樹脂(2.0〜5.0W/(m・K))で形成されている。ドライバIC52が、上流リザーバユニット81の下面と熱的に結合されるように固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用紙等の記録媒体にインク滴を吐出するインクジェットヘッドとしては、インクを貯留するリザーバが形成されたリザーバユニットと、リザーバからのインクが流入する共通インク室及び共通インク室の出口から圧力室を介してノズルに至る多数の個別インク流路が形成された流路ユニットと、流路ユニットに固定されつつ各圧力室の容積を変化させることにより圧力室のインクに吐出エネルギーを付加するアクチュエータとを有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したインクジェットヘッドにおいては、環境温度が低くなるに伴って内部に貯溜されたインクの粘度が高くなる。インクの粘度が高くなると、ノズルから所望の体積のインク滴を吐出させるためにアクチュエータの駆動力を高くする必要があり、消費電力が大きくなってしまう。
【0004】
本発明の目的は、液体を効率よく温めることができる液体吐出ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体を貯溜すると共に、貯溜した液体を流出口から流出させるリザーバが形成された第1流路構造体と、前記第1流路構造体の前記流出口に連通された流入口、前記流入口から流入した液体が供給される共通液体室、及び、前記共通液体室の出口から圧力室を経てノズルに至る複数の個別液体流路が形成された第2流路構造体と、複数の前記圧力室内の液体に吐出エネルギーを付与するアクチュエータユニットと、前記アクチュエータユニットを駆動するドライバICとを備えている。前記ドライバICが前記第1流路構造体の外壁面と熱的に結合されており、前記第1流路構造体が、2.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する樹脂で形成されている。
【0006】
本発明によると、第1流路構造体が高い熱伝導率を有する樹脂で形成されているため、ドライバICから発生した熱が、リザーバ内の液体に効率よく伝達される。これにより、液体を効率よく温めることができる。
【0007】
本発明においては、前記第1流路構造体と前記第2流路構造体との間に空隙が形成されており、前記ドライバICが、前記空隙内に位置していることが好ましい。これによると、空隙内の空気が入れ替わりにくいため、ドライバICが外気によって冷却されるのを抑制することができる。これにより、ドライバICから発生した熱をリザーバ内のインクにさらに効率よく伝達することができる。
【0008】
また、本発明においては、前記第1流路構造体の外壁面に固定された前記ドライバICが、断熱材で覆われていることが好ましい。これによると、ドライバICが外気によって冷却されるのを確実に抑制することができる。このため、ドライバICから発生した熱をリザーバ内のインクにより一層効率よく伝達することができる。
【0009】
さらに、本発明においては、前記ドライバICが、前記第1流路構造体の鉛直方向に関する下面と熱的に結合されていることが好ましい。これによると、リザーバ内のインクが、リザーバの底面から温められて対流し、リザーバ内のインク全体を効率よく温めることができる。
【0010】
加えて、本発明においては、前記ドライバICが熱伝導性接着剤によって前記第1流路構造体と熱的に結合されていることがより好ましい。これによると、第1流路構造体とドライバICとの結合部における熱抵抗を小さくすることができる。そのため、ドライバICと第1流路構造体とを効率よく熱的に結合することができる。
【0011】
また、本発明においては、液体を貯溜するタンクをさらに備えており、前記リザーバの長手方向に関する一方端部近傍に、前記タンクからの液体が供給される供給口が形成されており、前記リザーバの他方端部近傍に、前記流出口が形成されていることがより一層好ましい。これによると、インクをリザーバの延在方向に沿って効率よく流動させることができる。これにより、リザーバ内のインクを均一に温めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、第1流路構造体が高い熱伝導率を有する樹脂で形成されているため、ドライバICから発生した熱が、リザーバ内の液体に効率よく伝達される。これにより、液体を効率よく温めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態によるインクジェットプリンタの断面図である。
【図2】図1に示すインクジェットヘッドの幅方向に沿った断面図である。
【図3】図2に示すIII-III線に関する断面図である。
【図4】図3に示すIV-IV線に関する断面図である。
【図5】図2に示すV-V線に関する断面図である。
【図6】図5に示す一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。
【図7】図6に示すVII−VII線断面図である。
【図8】図6に示すアクチュエータユニットを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
図1は、本発明の好適な実施形態のインクジェットプリンタの内部構成を示す断面図である。インクジェットプリンタ101は、図1に示すように、直方体形状の筐体1aを有している。また、筐体1aの上部には、排紙部31が設けられている。さらに、筐体1a内は、上から順に3つの空間A、B、Cに区分されている。空間Aには、マゼンタ、シアン、イエロー、ブラックのインクをそれぞれ吐出する4つのインクジェットヘッド1、及び、搬送ユニット20が配置されている。空間B、Cはそれぞれ、筐体1aに対して着脱可能な給紙ユニット1b及びインクタンクユニット1cが配置される空間である。なお、本実施形態において、副走査方向とは搬送ユニット20で用紙Pを搬送するときの搬送方向と平行な方向であり、主走査方向とは副走査方向に直交する方向であって水平面に沿った方向である。
【0016】
インクジェットプリンタ101の内部には、給紙ユニット1bから排紙部31に向けて、用紙Pが搬送される用紙搬送経路が形成されている(図1中太矢印)。給紙ユニット1bは、複数枚の用紙Pを収納することが可能な給紙トレイ23と、給紙トレイ23に取り付けられた給紙ローラ25とを有している。給紙ローラ25は、給紙トレイ23に積層して収納された複数の用紙Pのうち、最も上方にある用紙Pを送り出す。給紙ローラ25によって送り出された用紙Pは、ガイド27a,27bによりガイドされ且つ送りローラ対26によって挟持されつつ搬送ユニット20へと送られる。
【0017】
搬送ユニット20は、図1に示すように、2つのベルトローラ6,7と、両ローラ6,7間に架け渡されるように巻回されたエンドレスの搬送ベルト8と、テンションローラ10とを有している。テンションローラ10は、搬送ベルト8の下側ループにおいて、その内周面に接触しつつ下方に付勢されることで搬送ベルト8にテンションを付加している。ベルトローラ7は、駆動ローラであって、搬送モータMから2つのギアを介して駆動力が与えられることで、図1中時計回りに回転する。ベルトローラ6は、従動ローラであって、ベルトローラ7の回転により搬送ベルト8が走行するのに伴って、図1中時計回りに回転する。
【0018】
搬送ベルト8の外周面8aにはシリコーン処理が施されており、粘着性を有している。用紙搬送経路上において搬送ベルト8を挟んでベルトローラ6と対向する位置には、ニップローラ4が配置されている。ニップローラ4は、給紙ユニット1bから送り出された用紙Pを搬送ベルト8の外周面8aに押さえ付ける。外周面8aに押さえ付けられた用紙Pは、その粘着力によって外周面8a上に保持されつつ、図1右方へと搬送される。
【0019】
また、用紙搬送経路上において搬送ベルト8を挟んでベルトローラ7と対向する位置には、剥離プレート5が設けられている。剥離プレート5は、搬送ベルト8の外周面8aに保持されている用紙Pを外周面8aから剥離する。剥離プレート5によって外周面8aから剥離された用紙Pは、ガイド29a,29bによりガイドされ且つ二組の送りローラ対28によって挟持されつつ搬送され、筐体1a上部に形成された開口30から排紙部31へと排出される。
【0020】
4つのインクジェットヘッド1は、それぞれ主走査方向に沿って延在し、副走査方向に並設されており、フレーム3を介して筐体1aに支持されている。すなわち、インクジェットプリンタ101は、主走査方向に延びた吐出領域が形成されたライン式のカラーインクジェットプリンタである。各インクジェットヘッド1の下面は、インク滴が吐出される吐出面2aとなっている。
【0021】
搬送ベルト8のループ内には、4つのインクジェットヘッド1と対向するように、プラテン19が配置されている。プラテン19の上面は、搬送ベルト8の上側ループの内周面と接触しており、搬送ベルト8の内周側からこれを支持している。これにより、搬送ベルト8の上側ループの外周面8aとインクジェットヘッド1の下面、即ち吐出面2aとが対向しつつ平行になり、且つ、吐出面2aと搬送ベルト8の外周面8aとの間に僅かな隙間が形成されている。当該隙間は、用紙搬送経路の一部を構成している。搬送ベルト8の外周面8a上に保持されつつ搬送されてきた用紙Pが4つのヘッド1のすぐ下方を通過する際に、各ヘッド1から用紙Pの上面に向けて各色のインクが順に吐出され、用紙P上に所望のカラー画像が形成される。
【0022】
インクジェットヘッド1はそれぞれ、空間Cに装着されたインクタンクユニット1c内のインクタンク49と接続されている。すなわち、4つのインクタンク49にはそれぞれ対応するインクジェットヘッド1が吐出するインクが貯留されている。そして、各インクタンク49からチューブ(図3参照)等を介してインクジェットヘッド1にインクが供給される。
【0023】
次に、図2〜図5を参照しつつインクジェットヘッド1について詳細に説明する。図2は、インクジェットヘッド1の幅方向である副走査方向に沿った断面図である。図3は、図2に示すIII−III線に関するインクジェットヘッド1の断面図である。図4は、図3に示すIV−IV線に関する上流リザーバユニット81の断面図である。図5は、図2に示すV−V線に関するインクジェットヘッド1の断面図である。
【0024】
図2に示すように、インクジェットヘッド1は、上流リザーバユニット(第1流路構造体)81と、下流リザーバユニット71(第2流路構造体の一部)と、流路ユニット9(第2流路構造体の一部)及びアクチュエータユニット21を含むヘッド本体2と、一端がアクチュエータユニット21に接続されていると共にドライバIC52が実装されたCOF(Chip On Film:平型柔軟基板)50と、COF50の他端に接続された制御基板54とを有している。
【0025】
上流リザーバユニット81は、高熱伝導性樹脂によって成形された部材であり、内部にリザーバとしてのインクプール82が形成されている。高熱伝導性樹脂は、有機材料と無機材料とからなる一種のハイブリッド材料であって、両者間の分子間相互作用を高めて、ベースポリマーにフィラーを緻密に充填した構造を有する。ベースポリマーとしては、ポリフェニレンサルファイド、ポリプロピレン等が用いられ、フィラーとしては、炭素繊維、アルミ粉、銅粉、黒鉛粉、窒化硼素、窒化アルミ、アルミナ等が用いられる。具体的な高熱伝導性樹脂としては、DM6030(ダイマット社)、ハイポーカ(ヤマトマテリアル社)、ヘルメタイトTX−873B(日本ヘルメチック社)等がある。なお、ここで、高熱伝導性樹脂は、ポリプロピレンなど一般的な樹脂(0.12〜0.38W/(m・K))と比較して10倍以上の熱伝導率を有する樹脂である。本実施形態において、高熱伝導性樹脂は2.0W/(m・K)以上(好ましくは、3.0W/(m・K)以上、より好ましくは4.0W/(m・K)以上)の熱伝導率を有している。これにより、上流リザーバユニットを金属で形成する場合と比較して、低コスト化及び軽量化を図ることができる。なお、後述するように、微細な内部流路を有する下流リザーバユニット71及び流路ユニット9は、ステンレス綱で形成されており、16.0W/(m・K)の熱伝導率を有している。ステンレス綱で形成することによって、下流リザーバユニット71及び流路ユニット9の内部流路の製作精度を高くすることができる。このとき、上流リザーバユニット81の熱伝導率λに対する、下流リザーバユニット71及び流路ユニット9の熱伝導率λsusの比率A(A=λ/λsus)が大きくなることが好ましい。
【0026】
図3及び図4に示すように、インクプール82は、上流リザーバユニット81の長手方向に沿って延在しており、幅方向に関する断面が楕円形状を有している。また、インクプール82は、上流リザーバユニット81の上面の当該長手方向に関する一方端部(図3中左方端部)近傍に形成されたインク流入口81aと、上流リザーバユニット81の下面の当該長手方向に関する他方端部(図3中右方端部)近傍に形成されたインク流出口81bとを有している。インク流入口81aは、チューブを介してインクタンク49と連通しており、インクタンク49からのインクをインクプール81内に流入させる。インク流入口81aから流入したインクは、インクプール82において一時的に貯溜される。インク流出口81bは、下流リザーバユニット81と連通しており、インクプール82に貯溜されたインクを下流リザーバユニット81に流出させる。
【0027】
インク流入口81a及びインク流出口81bは、上流リザーバユニット81の幅方向に関する中央に配置されており、平面視においてインク流入口81aとインク流出口81bとを結ぶ直線がインクプール82の延在方向と平行になっている。また、平面視において、インクプール82がインク流出口81bに向かって先細りになっている。これにより、インク流入口81aから流入したインクが、効率よくインク流出口81bに到達する。
【0028】
図2及び図3に示すように、下流リザーバユニット71は、上流リザーバユニット81からのインクをヘッド本体2に供給するものであり、上流リザーバユニット81の下方において上流リザーバユニット81に接続されていると共に、ヘッド本体2の上面に固定されている。また、下流リザーバユニット71は、プレート91〜94の4枚のステンレス鋼からなる金属製のプレートが互いに位置合わせされて積層されたものであり、インク導入口71a、インクリザーバ72、及び、10個のインク流出流路73が互いに連通するように形成されている。なお、図2においては、1つのインク流出流路73のみが現れている。インク流出流路73は、流路ユニット9の上面に形成されたインク供給口105b(図5参照)を介して流路ユニット9に連通している。上流リザーバユニット81からのインクは、インク導入口71aを介してインクリザーバ72に流入し、インク流出流路73を通過して、インク供給口105bから流路ユニット9に供給される。下流リザーバユニット71が金属製のプレートで形成されているため、内部流路の製作精度を高くすることができる。
【0029】
プレート94の下面には、凹部94aが形成されている。凹部94aは、流路ユニット9の上面との間で空隙90を形成している。空隙90には、流路ユニット9の上面に固定された4つの台形状アクチュエータユニット21が、プレート94に関する長手方向に延びた中心線に沿って千鳥状に且つ等間隔で配列されている。4つのアクチュエータユニット21は、中心線に対して、互いに平行な相反する外側方向に交互に等距離偏倚して配置されている。このとき、台形の下底に相当する底辺が、ヘッド本体2の副走査方向端縁部に位置している。空隙90は、プレート94の長手方向に沿って且つ中心線を挟んで交互に配置されるように、インクジェットヘッド1の側面に形成された4つの開口90aを有している。
【0030】
また、プレート94の下面は、凸部(凹部94a以外の部分)が流路ユニット9と接着されている。凸部内に形成されたインク流出流路73を介して、インクリザーバ72とインク供給口105bとが連通している。
【0031】
COF50は、その一方端部近傍がアクチュエータユニット21の上面に接続されている。さらに、COF50は、アクチュエータユニット21の上面から水平方向に延在して開口90aを通過した後に、反転して上流リザーバユニット81と下流リザーバユニット71との間に形成された空隙85を通過し、さらに、上方に向かって上流リザーバユニット81の上方まで延在している。そして、上流リザーバユニット81の上方において、COF50の他方端部がコネクタ54aを介して制御基板54に接続されている。制御基板54は、上流リザーバユニット81の上方に配置されており、COF50のドライバIC52を介してアクチュエータユニット21の駆動を制御する。ドライバIC52は、アクチュエータユニット21を駆動する駆動信号を生成するものである。
【0032】
上流リザーバユニット81と下流リザーバユニット71との間に形成された空隙85内において、COF50の途中部に実装されたドライバIC52が、上流リザーバユニット81の(鉛直方向に関する)下面に、熱伝導性接着剤によって固定されている。熱伝導性接着剤は、エポキシ系接着剤やポリイミド系接着剤に熱伝導性フィラーを添加した接着剤である。フィラー材としては、パラジウム銀、金、パラジウム、ニッケル、カーボン、窒化アルミ等が用いられる。具体的な熱伝導性接着剤としては、ハードロックOR(山富商事社)、TK200(住友ベークライト社)等がある。熱伝導性接着剤の熱伝導率は、2.4〜5.0W/(m・K)であり、通常のシリコン接着剤(0.17〜0.83W/(m・K))と比較して10倍以上高くなっている。これにより、ドライバIC52と上流リザーバユニット81とが、熱的に結合されている。なお、ドライバIC52は、熱伝導性接着剤以外の接着剤によって上流リザーバユニット81の下面に固定されてもよい。そして、ドライバIC52の表面が、ウレタンフォーム(0.04W/(m・K))などの断熱材52aで被覆されている。このとき、ドライバIC52は、上流リザーバユニット81の下面と共に断熱材52aによって密閉されるので、発生する熱のほとんどが上流リザーバユニット81側に伝わることになる。
【0033】
図3及び図4に示すように、上流リザーバユニット81の下面に、アクチュエータユニット21にそれぞれ対応した4つのドライバIC52が固定されている。これら4つのドライバIC52は、インクプール82と対向しつつインクプール82の延在方向に関して等間隔に配列されている。また、各ドライバIC52は、自身の長手方向がインクプール82の延在方向と一致するように配置されている。
【0034】
ドライバIC52から発生した熱が、上流リザーバユニット81の壁部を介してインクプール82内のインクに伝達されて、インクプール82の底面からインクが温められる。このとき、図2に示すように、インクプール82の幅方向に関する断面が長円形状を有しているため、インクプール82の底面から温められたインクがインクプール82内をスムーズに対流し、インクプール82内のインク全体が効率よく温められる。
【0035】
次に、図5〜図8を参照しつつ、ヘッド本体2について説明する。図5は、図2に示すV-Vに沿った断面図である。図6は、ヘッド本体2における図5の一点鎖線で囲まれた領域の拡大図である。なお、図6では説明の都合上、アクチュエータユニット21の下方にあって破線で描くべき圧力室110、アパーチャ112及びノズル108を実線で描いている。また、プレート94の断面部分は省略している。図7は、図6に示すVII−VII線に沿った部分断面図である。図8(a)はアクチュエータユニット21の拡大断面図であり、図8(b)は、図8(a)においてアクチュエータユニット21の表面に配置された個別電極を示す平面図である。
【0036】
ヘッド本体2は、図5に示すように、流路ユニット9、及び、流路ユニット9の上面9aに固定された4つのアクチュエータユニット21を含んでいる。図6に示すように、流路ユニット9は、圧力室110等を含むインク流路が内部に形成されている。アクチュエータユニット21は、各圧力室110に対応した複数のアクチュエータを含んでおり、圧力室110内のインクに選択的に吐出エネルギーを付与する機能を有する。
【0037】
流路ユニット9は、下流リザーバユニット71のプレート94とほぼ同じ平面形状を有する直方体形状となっている。流路ユニット9の上面9aには、下流リザーバユニット71のインク流出流路73(図2参照)に対応して、計10個のインク供給口105bが開口している。流路ユニット9の内部には、図5及び図6に示すように、インク供給口105bに連通するマニホールド流路105及びマニホールド流路105から分岐した副マニホールド流路105aが形成されている。流路ユニット9の下面には、図6及び図7に示すように、多数のノズル108がマトリクス状に配置された吐出面2aが形成されている。圧力室110も流路ユニット9におけるアクチュエータユニット21の固定面においてノズル108と同様マトリクス状に多数配列されている。
【0038】
流路ユニット9は、図7に示すように、9枚のステンレス鋼からなる金属製のプレート122〜130から構成されている。これらプレート122〜130を互いに位置合わせしつつ積層することによって、流路ユニット9内に、マニホールド流路105から副マニホールド流路105a、そして副マニホールド流路105aの出口から圧力室110を経てノズル108に至る多数の個別インク流路132が形成される。
【0039】
流路ユニット9におけるインクの流れについて説明する。図5〜図7に示すように、上流リザーバユニット81及び下流リザーバユニット71からインク供給口105bを介して流路ユニット9内に供給されたインクは、マニホールド流路105から副マニホールド流路105aに分岐される。副マニホールド流路105a内のインクは、各個別インク流路132に流れ込み、絞りとして機能するアパーチャ112及び圧力室110を介してノズル108に至る。
【0040】
次に、アクチュエータユニット21について説明する。図5に示すように、4つのアクチュエータユニット21は、それぞれ台形の平面形状を有しており、インク供給口105bを避けるよう千鳥状に配置されている。さらに、各アクチュエータユニット21の平行対向辺は流路ユニット9の長手方向に沿っており、隣接するアクチュエータユニット21の斜辺同士は流路ユニット9の幅方向(副走査方向)に沿って互いにオーバーラップしている。これによって、長手方向両端の2つの斜辺部によって挟まれた範囲で、全てのノズル108が長手方向に沿って所定の等間隔で配列することになる。
【0041】
図8(a)に示すように、アクチュエータユニット21は、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミックス材料からなる3枚の圧電シート141〜143から構成されている。また、最上層の圧電シート141の上面における圧力室110に対向する位置には、個別電極135が形成されている。最上層の圧電シート141とその下側の圧電シート142との間にはシート全面に形成された共通電極134が介在している。個別電極135は、図8(b)に示すように、圧力室110と相似な略菱形の平面形状を有する。平面視で、個別電極135の大部分は、圧力室110の領域内にある。略菱形の個別電極135における鋭角部の一方は圧力室110の外に延出され、その先端には個別電極135と電気的に接続された個別バンプ136が設けられている。
【0042】
共通電極134は、すべての圧力室110に対応する領域において等しくグランド電位が付与されている。一方、個別電極135は、COF50を介してドライバIC52の各出力端子と電気的に接続されており、ドライバIC52からの駆動信号が選択的に供給されるようになっている。なお、共通電極134は、スルーホールを介して圧電シート141の上面に形成された共通電極用バンプと接続されている。さらに、共通電極用バンプは、COF50を介して制御基板54と接続されている。
【0043】
ここで、アクチュエータユニット21の駆動方法について述べる。圧電シート141はその厚み方向に分極されている。個別電極135を共通電極134と異なる電位にして圧電シート141に対してその分極方向に電界を印加すると、圧電シート141における電界印加部分が圧電効果により歪む活性部として働く。つまり、アクチュエータユニット21には、個別電極135と圧力室110とで挟まれた部分が、個別のアクチュエータとして働き、圧力室110の数に対応した複数のアクチュエータが作り込まれている。例えば、分極方向と電界の印加方向とが同じであれば、活性部は分極方向に直交する方向(平面方向)に縮む。つまり、アクチュエータユニット21は、圧力室110から離れた上側1枚の圧電シート141を活性部が含まれる層とし、且つ圧力室110に近い下側2枚の圧電シート142、143を非活性層とした、いわゆるユニモルフタイプのアクチュエータである。図8(a)に示すように、圧電シート141〜143は圧力室110を区画するプレート122の上面に固定されているため、圧電シート141における電界印加部分とその下方の圧電シート142、143との間で平面方向への歪みに差が生じると、圧電シート141〜143全体が圧力室110側へ凸になるように変形(ユニモルフ変形)する。これにより圧力室110内のインクに圧力(吐出エネルギー)が付与され、ノズル108からインク滴が吐出される。流路内のインク粘度が高くなるに伴って、アクチュエータユニット21を変位させるために、個別電極135と共通電極134との間に印加する電圧を高くする必要がある。
【0044】
なお、本実施形態においては、予め個別電極135に所定の電位を付与しておき、吐出要求があるごとに一旦個別電極135をグランド電位にした後、所定のタイミングで再び個別電極135に所定の電位を付与するような駆動信号をドライバIC52から出力させる。この場合、個別電極135がグランド電位となるタイミングで圧電シート141〜143が元の状態に戻り、圧力室110の容積は初期状態(予め電圧が印加された状態)と比較して増加し、副マニホールド流路105aから個別インク流路132へとインクが吸い込まれる。その後、再び個別電極135に所定の電位が付与されたタイミングで圧電シート141〜143において活性領域と対向する部分が圧力室110側に凸となるように変形し、圧力室110の容積低下によりインクの圧力が上昇し、ノズル108からインクが吐出される。
【0045】
以上のように、本実施形態によるインクジェットヘッド1によると、上流リザーバユニット81が高い熱伝導率を有する高熱伝導性樹脂で形成されているため、ドライバIC52から発生した熱が、インクプール82内のインクに効率よく伝達される。これにより、インクプール82内のインクを効率よく温めることができる。このため、インクが冷えて粘度が高くなるのが抑制され、アクチュエータユニット21を駆動するときの消費電力を低減させることができる。
【0046】
また、ドライバIC52が、上流リザーバユニット81と下流リザーバユニット71との間に形成された空気が入れ替わりにくい空隙85内に配置されているため、ドライバIC52が外気によって冷却されるのを抑制することができる。これにより、ドライバIC52から発生した熱を、さらに効率よくインクプール82内のインクに伝達することができる。
【0047】
加えて、ドライバIC52の表面が、ウレタンフォームなどの断熱材52aで被覆されているため、ドライバIC52が外気によって冷却されるのを確実に抑制することができる。
【0048】
また、ドライバIC52が、上流リザーバユニット81の下面と熱的に結合されているため、インクプール82の底面からインクが温められる。このため、インクプール82の底面から温められたインクがインクプール82内をスムーズに対流し、インクプール82内のインク全体が効率よく温めることができる。
【0049】
このとき、ドライバIC52が熱伝導性接着剤によって上流リザーバユニット81の下面に固定されているため、上流リザーバユニット81とドライバIC52との結合部における熱抵抗を小さくすることができる。これにより、ドライバIC52と上流リザーバユニット81とを効率よく熱的に結合することができる。
【0050】
また、インクプール82が、上流リザーバユニット81の上面の当該長手方向に関する一方端部近傍に形成されたインク流入口81aと、上流リザーバユニット81の下面の当該長手方向に関する他方端部近傍に形成されたインク流出口81bとを有しているため、インクを、インクプール82の延在方向に沿って効率よく流動させることができる。これにより、インクプール82のインクを均一に温めることができる。
【0051】
なお、インクを流路ユニット9に分配するインク流出流路73は、インクリザーバ72の中央に関して点対称に配置されている。本実施形態では、下流リザーバユニット71の長手方向端部において、インクリザーバ72とインク導入口71aとが連結されている。このとき、反対側端部近傍のインク流出流路73では、連結部から離れていることによって、暖められたインクが再び冷えてしまい、両端間の温度差によるインク吐出特性に差が生じる虞がある。インクの分配位置に対応したインク吐出特性の差を抑えるという観点から、インク導入口71aに供給されたインクは、長手方向に関して、インクリザーバ72の中央からインクリザーバ72内に落とし込まれるような形態の流路が下流リザーバユニット71に形成されているとよい。
【0052】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。上述の実施形態では、ドライバIC52が、上流リザーバユニット81と下流リザーバユニット71との間に形成された空隙85内において、上流リザーバユニット81の下面に固定されている構成であるが、ドライバIC52は、上流リザーバユニット81の他の外壁面に固定されていてもよい。このとき、上流リザーバユニット81と下流リザーバユニット71との間に空隙85が形成されていなくてもよい。
【0053】
また、上述の実施形態においては、ドライバIC52の表面がウレタンフォームなどの断熱材52aで被覆されている構成であるが、ドライバIC52の表面が断熱材52aで被覆されていなくてもよい。
【0054】
さらに、上述の実施形態においては、インクプール82が、インク流入口81aと、インク流出口81bとが、平面視において直線上に配置される構成であるが、インク流入口81a及びインク流出口81bは上流リザーバユニットの任意の位置に形成されていてよい。
【0055】
また、上述した実施形態においては、アクチュエータユニット21がユニモルフタイプのアクチュエータであるが、アクチュエータの構成は任意のものであってよい。例えば、アクチュエータユニットが縦振動を利用する積層型のアクチュエータであってもよい。
【0056】
本発明による記録ヘッドは、ライン式に限定されず、ヘッドが往復移動するシリアル式の記録ヘッドや、インク以外の液体を吐出する記録ヘッドにも適用可能である。さらに、プリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 インクジェットヘッド
2 ヘッド本体
2a 吐出面
9 流路ユニット
21 アクチュエータユニット
50 COF
52 ドライバIC
52a 断熱材
54 制御基板
71a インク導入口
71 下流リザーバユニット
72 インクリザーバ
73 インク流出流路
81 インクプール
81a インク流入口
81b インク流出口
81 上流リザーバユニット
81 下流リザーバユニット
82 インクプール
85 空隙
94a 凹部
101 インクジェットプリンタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0058】
【特許文献1】特開2005−104147号公報(図4)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯溜すると共に、貯溜した液体を流出口から流出させるリザーバが形成された第1流路構造体と、
前記第1流路構造体の前記流出口に連通された流入口、前記流入口から流入した液体が供給される共通液体室、及び、前記共通液体室の出口から圧力室を経てノズルに至る複数の個別液体流路が形成された第2流路構造体と、
複数の前記圧力室内の液体に吐出エネルギーを付与するアクチュエータユニットと、
前記アクチュエータユニットを駆動するドライバICとを備えており、
前記ドライバICが前記第1流路構造体の外壁面と熱的に結合されており、
前記第1流路構造体が、2.0W/(m・K)以上の熱伝導率を有する樹脂で形成されていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記第1流路構造体と前記第2流路構造体との間に空隙が形成されており、
前記ドライバICが、前記空隙内に位置していることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1流路構造体の外壁面に固定された前記ドライバICが、断熱材で覆われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記ドライバICが、前記第1流路構造体の鉛直方向に関する下面と熱的に結合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記ドライバICが熱伝導性接着剤によって前記第1流路構造体と熱的に結合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
液体を貯溜するタンクをさらに備えており、
前記リザーバの長手方向に関する一方端部近傍に、前記タンクからの液体が供給される供給口が形成されており、
前記リザーバの他方端部近傍に、前記流出口が形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−201765(P2010−201765A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49213(P2009−49213)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】