説明

液体吐出ヘッド

【課題】 液体吐出ヘッドに用いられる配線基板の端部において導線と絶縁性部材との接着強度を高め、絶縁性部材から導線が剥がれる恐れを低減し、配線基板の電気的信頼性を向上する。
【解決手段】 液体吐出ヘッドに用いられる配線基板は、少なくとも表面が絶縁性である絶縁性部材と、絶縁性部材の上に設けられ、絶縁性部材の端部まで互いに沿う様にして延びる複数の導線と、複数の導線のそれぞれの途中に設けられた、液体吐出装置に対して電気的に接続される複数の電気的接続部と、を有している。絶縁体部材の端部において複数の導線が配設される配設方向に関して隣接する電気的接続部同士は、端部からの距離が互いに異なり、端部から配設方向に垂直な方向に見ると少なくとも一部が互いに重なるように設けられている。複数の導線のそれぞれの、端部における部分の幅は、複数の導線のそれぞれの、複数の電気的接続部に挟まれた部分の幅よりも広い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吐出する液体吐出ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の液体吐出装置は、小型化が求められており、これに伴って、液体吐出装置に適用される液体吐出ヘッドの小型化のため、液体吐出装置と液体吐出ヘッドとを電気的に接続する配線基板の小型化が求められている。配線基板の小型化のためには、導線の幅や導線間の間隔を小さくする必要がある。しかし、外部と電気的に接続するための接続部に配される導線の幅が小さいと外部との確実な電気接続が行えない恐れがある。また、接続部に配される導線の間隔が小さいと、液体吐出装置に設けられた端子が接続部において隣接する導線と接触し、隣接する導線同士が導通してしまう恐れがある。
【0003】
そこで、特許文献1の図7に記載のカードエッジタイプのフレキシブルプリント配線基板は、外部のコネクタと電気接続される部分である電気的接続部を導線よりも太くし、基板の先端側とその根元側の2列に千鳥状に電気的接続部を配置する構成となっている。このように、接続部において導線よりも電気的接続部の幅を広くし、隣接する電気的接続部同士をずらし、導線が配設される配設方向に関して複数列に配置することで、電気的信頼性を低下することなく配線基板を小型化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−347699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の図7に記載のカードエッジタイプのフレキシブルプリント配線基板においては、千鳥状に配置された電気的接続部(端子2a、2b、3a、3b)から基板の縁まで、細い導線(メッキ用リード2c、3c)が延びている。これは、外部に露出した接続部(接続端子部2、3)をメッキ処理するために使用される導線である。導線は絶縁性部材の上に設けられ、絶縁性部材に対して接着されている。
【0006】
このような構成の配線基板では、配線基板の端部に設けられた導線が細いために、配線基板の端部においては、導線と絶縁性部材(フレキシブルプリント配線板1)との接着強度が小さくなってしまう。そのため、カードエッジタイプの配線基板では、開口部を有するコネクタに対して配線基板の接続部を抜き挿しする際に、コネクタ側の電気的接続部との接触などにより、配線基板の端部に設けられた導線が、絶縁性部材から剥がれてしまう恐れがある。さらに、剥がれた導線が折れ曲がってしまうことで隣接する導線に接触して、隣接する導線同士が導通してしまう恐れがある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、液体吐出ヘッドに用いられる配線基板の端部において導線と絶縁性部材との接着強度を高め、絶縁性部材から導線が剥がれる恐れを低減し、隣接する導線同士が導通する可能性を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の液体吐出ヘッドは、液体吐出装置に対して着脱可能な液体吐出ヘッドであって、
前記液体吐出装置からの信号に基づいて液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数の記録素子を備える記録素子基板と、少なくとも表面が絶縁性である絶縁性部材と、前記絶縁性部材の上に設けられ、前記絶縁性部材の端部まで互いに沿う様にして延びる複数の導線と、前記複数の導線のそれぞれの途中に設けられた、前記信号を前記複数の記録素子に伝達するために前記液体吐出装置に対して電気的に接続される複数の電気的接続部と、を有する配線基板と、を有し、前記端部において前記複数の導線が配設される配設方向に関して隣接する前記電気的接続部同士は、前記端部からの距離が互いに異なり、前記端部から前記配設方向に垂直な方向に見ると少なくとも一部が互いに重なるように設けられており、前記複数の導線のそれぞれの、前記端部における部分の幅は、前記複数の導線のそれぞれの、前記複数の電気的接続部に挟まれた部分の幅よりも広いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体吐出ヘッドにおいては、該液体吐出ヘッドに用いられる配線基板が、電気的接続部の間に配置される導線の幅よりも、配線基板の端部における導線の幅が広い構成である。これにより、導線が絶縁性部材の端部から剥がれてしまう恐れを低減し、隣接する導線同士が導通する可能性を抑制することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用可能であるインクジェット記録ヘッドに用いられる配線基板であり、配線基板の一端の構成と、この配線基板が接続可能であるコネクタを示す平面図である。
【図2】図1をA−A´線で切断した断面図である。
【図3】本発明を適用可能であるインクジェット記録ヘッドに用いられる配線基板の、その他の実施形態を示す模式図である。
【図4】本発明の比較例を説明するための図であり、(a)は比較例の配線基板を示す図であり、(b)は(a)において、絶縁性部材の端部から導線が剥がれた場合を説明するための図である。
【図5】本発明を適用可能であるインクジェット記録ヘッドを示す図であり、(a)は側面図、(b)は上面図、(c)は記録素子基板を配したフレキシブルプリント配線基板を示す図である。
【図6】本発明を適用したインクジェット記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一部を取り外した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
本発明の液体吐出ヘッドを適用可能なインクジェット記録ヘッドについて、図を用いて説明する。また、本実施形態の液体吐出ヘッドに用いられる配線基板として、フレキシブルプリント配線基板(以下、配線基板と記す)を例に説明する。本発明による液体吐出ヘッドは、特に、A6サイズ用紙プリンタやカメラ内蔵型プリンタ等、より小型化が求められるインクジェット記録装置25では特に有効な構成となる。
【0012】
図5(a)、(b)は、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド18を液体吐出装置としてのインクジェット記録装置25に装着した際の、インクジェット記録ヘッド18の側面図と上面図である。図5(c)は、インクジェット記録ヘッドに用いられる配線基板15と、インクジェット記録素子基板12とをともに示す平面図である。また、図6は、このインクジェット記録ヘッド18を搭載した小型インクジェット記録装置25の一部を取り外した斜視図である。
【0013】
インクジェット記録ヘッド18には、図5(a)のように、インクジェット記録装置25に設けられたガイド軸19及びリードスクリュー20(図6参照)にそれぞれ勘合する軸受け21及び22が設けられている。リードスクリュー用の軸受け22には内側に突出するスクリューピン23が取り付けられている。そして、リードスクリュー20の外周部に形成された螺旋溝に対してスクリューピン23の先端がはまり合い、リードスクリュー20が回転した際に、インクジェット記録ヘッド18が主走査方向(矢印A)に移動する。
【0014】
また、インクジェット記録ヘッド18には、インク(液体)を吐出可能なインクジェット記録素子基板12と、この記録素子基板12に供給されるインクを収容するインク貯留部24が搭載されている。インクジェット記録素子基板12には、矢印Aの主走査方向と直交する方向に沿って並ぶ複数のインク吐出口31が形成されている。インクを吐出させるためのエネルギーの発生源である記録素子としては、発熱抵抗素子やピエゾ素子などを用いることができる。発熱抵抗素子を用いる場合、インクジェット記録装置25から電気信号が発熱抵抗素子に伝達され、インク吐出口31ごとに設けられた発熱抵抗素子が駆動することによってインク中に気泡を発生させ、インク吐出口31からインク滴を吐出させる。そして、インクジェット記録ヘッド18が矢印Aの主走査方向に移動しながら吐出を行い、主走査方向に対して直交する副走査方向に搬送される記録紙上(不図示)の所定の位置に記録を行う。
【0015】
配線基板15はインクジェット記録ヘッド18の底部に接着等により固定されている。また、配線基板15はヘッド開口部26を通り、配線基板15の接続部10がキャリッジフレキシブルプリント配線基板27上に実装されたコネクタ11に着脱可能に挿入される。なお、インクジェット記録ヘッド18に搭載される配線基板15は、耐インク性や機械的強度の性能に優れた材料で構成されたTABテープ等が用いられる。
キャリッジフレキシブルプリント配線基板27のコネクタ11が実装されていない他端は、インクジェット記録装置のメイン基板(不図示)に電気的に接続され、メイン基板で生成された印字信号や吐出するための電力等をインクジェット記録素子基板12に供給する。キャリッジフレキシブルプリント配線基板27は、インクジェット記録ヘッドの往復移動に追従して屈曲するため、図1の配線基板15と求められる性能が異なり、より柔軟な絶縁性部材1及びカバーフィルム3で構成されている。
【0016】
次に、インジェット記録ヘッドに適用されるフレキシブルプリント配線基板15の、キャリッジフレキシブルプリント配線基板27上に実装されたコネクタ11に挿入される部分の構成について具体的に説明する。図1(a)は、配線基板15の一端を、コネクタ11と共に示す平面図であり、図2は、図1(a)をA−A´線で切断した断面図である。なお、図1では、説明の便宜のため、コネクタ11の内部を透過させて示している。
【0017】
図1、図2に示すように、配線基板15は、少なくとも表面が絶縁性部材1の上に導線6が配置されており、絶縁性部材1の端部まで導線6は延びている。配線基板15は、その端に、図1(a)の矢印で示すようにコネクタ11に挿入されるための接続部10を有している。接続部10以外の部分は、カバーフィルム3で被覆されており、導線6及びカバーフィルム3は接着層9によって保持されている。絶縁性部材1及びカバーフィルム3は、折り曲げ可能であり、樹脂フィルムからなる。また、接続部10の裏側には補強のための補強板8が接着されている。補強板8は、樹脂から形成されており、配線基板15の先端部がコネクタ11に嵌合されることが可能な厚さとなるように、その先端側の厚さが調整されている。
【0018】
接続部10には、コネクタ11の開口部16に挿入された状態でコネクタ11に設けられた端子13の電気的接続部14と電気的接続が行われる部分である電気的接続部5(5a、5b)が、複数設けられている。電気的接続部5は、絶縁性部材1の端部まで延びる導線6の途中の、端部の近傍に設けられている。配線基板15は、配線基板15の小型化のため、導線6が細く、導線6同士の間隔は狭くなっている。そのため、コネクタの電気的接続部14との接触不良を防ぐために、電気的接続部5の幅は、電気的接続部5の間に配される導線6の幅よりも広くなっている。なお、導線6が絶縁性部材1の端部まで延びている理由は、接続部10をメッキ処理するメッキリードとして利用するためである。メッキリードを構成する材料は、その他の導線6や電気的接続部5と同じであってもよいし、他の導電性の金属であってもよい。
【0019】
複数の電気的接続部5には、絶縁性部材1の端部から電気的接続部5までの距離が、所定の距離よりも長い位置にある電気的接続部5a(第一の電気的接続部)と、所定の距離よりも短い位置にある電気的接続部5b(第二の電気的接続部)とがある。ここで、端部からの距離とは、各導線6の絶縁性部材1の端部に配された部分から、各導線6の途中に設けられた電気的接続部5までの距離を示す。なお、端部から電気的接続部5までの距離は、電気的接続部5の導線6と接続される部分のうち、端部に近い側または遠い側までの距離や、電気的接続部5の中心までの距離であってもよい。すなわち、複数の電気的接続部5について同じ基準で比較すれば、電気的接続部5のどの部分を基準としてもよい。
【0020】
そして、第一の電気的接続部5aと、第二の電気的接続部5bとが、絶縁性部材1の端部において導線6が配設される配設方向(以下、配設方向と記す)に関して、交互に配置されている。また、図1に示した構成では、端部から第一の電気的接続部5aまでの距離は互いに等しく、端部から第二の電気的接続部5bまでの距離も互いに等しくなっており、電気的接続部5が配設方向に関して二列に並んで配置されている。更に、複数の電気的接続部5のうち、配設方向に関して隣接する導線6の途中に設けられた電気的接続部5は、配設方向に垂直な方向に見ると、少なくとも一部が互いに重なるように設けられている。
【0021】
一方、コネクタ11が有する端子13の電気的接続部14も、複数の電気的接続部5の配設に対応するように配設されている。コネクタの筐体17に設けられた開口部16に、配線基板15の接続部10が直線的に挿入される。そして、コネクタ11に設けられたコネクタの電気的接続部14が、配線基板15の電気的接続部5に当接されることで、コネクタ11と配線基板15とが電気的に接続される。
【0022】
このように複数の電気的接続部5を配置することで、コネクタの電気的接続部14との接触不良や、隣接する導線6同士の導通の恐れを低減しつつ、電気的接続部5を高密度に配置できるので、配線基板15の小型化を実現できる。
【0023】
このように高密度に電気的接続部5を配置すると、配設方向に関して同じ列に配設された電気的接続部5の間に導線6を配するために、この電気的接続部5の間に配される導線6の幅を、電気的接続部5の幅と比べて狭くする必要がある。そこで、本実施形態のインクジェット記録ヘッドでは、その配線基板15の構成を、導線6のそれぞれの、絶縁性部材1の端部における部分の幅が、複数の電気的接続部5に挟まれた部分の幅よりも広い構成としている。そのため、導線6が絶縁性部材1の端部から剥がれてしまう恐れを低減し、隣接する導線同士の導通する可能性を抑制することができる。
【0024】
絶縁性部材1の端部からの導線6の剥がれを防ぐために、カバーフィルムで電気的接続部5以外の部分を覆う構成も思料されるが、このような構成をとると、製造時の歩留まりの低下やコストアップを招く恐れがある。しかし、接続部10の導線6を本実施形態の構成とすることで、上記の課題を抱えることなく、導線6が剥がれる恐れを低減することが可能である。
【0025】
また、図5(c)に示すように、インクジェット記録ヘッド18に適用される配線基板15は、開口部28を有しており、この開口部28の内部にインクジェット記録素子基板12が組み込まれる。そのため、配線基板15の開口部28にはインナーリード29が配設されており、インナーリードボンディングによって、配線基板15とインクジェット記録素子基板12とが電気的に接続される。このように、インクジェット記録装置と接続される接続部10とは別の接続部30は開口部28に設けられており、インナーリードボンディングを行うため、メッキ処理を行うためのメッキリードを別の接続部30に設けることは困難である。そのため、インクジェット記録ヘッド18に適用される配線基板は、接続部10をメッキ処理するためのメッキリードを、接続部10の電気的接続部5の各々に設ける必要があり、電気的接続部5の各々から細い導線6が絶縁性部材1の端部まで延びる構成となる。すなわち、絶縁性部材1の端部では、導線6が高密度に配設される構成となるため、導線6の絶縁性部材1の端部からの剥がれが生じ易いと考えられる。そのため、インクジェット記録ヘッド18に、上記のような配線基板15の構成を適用することは、より効果的といえる。
【0026】
次に、本実施形態のその他の実施形態について、配線基板15の接続部10を模式的に示した図3を用いて説明する。これらの実施形態は、図1で示した実施形態とは、電気的接続部5の配置の仕方が異なる構成である。
【0027】
図3(a)に示す実施形態の接続部10では、図1のように電気的接続部5(5a、5b)の中央部で導線6と電気的接続部5とが繋がる構成ではなく、導線6の配設方向に関する電気的接続部5の端部で導線6電気的接続部5とが繋がる構成となっている。また、絶縁性部材1の端部から電気的接続部5までの距離が、所定の距離より長い位置にある第一の電気的接続部5aと、所定の距離より短い位置にある第二の電気的接続部5bとが、配設方向に関して二つごとに交互に配置されている。図のように、電気的接続部5の図の右側端部で電気的接続部5に繋がる導線6と、電気的接続部5の図の左側端部で電気的接続部5に繋がる導線6とを交互に配置することで、高密度に電気的接続部5を配置することが可能である。
【0028】
図3(b)に示す実施形態の接続部10では、電気的接続部5を導線6の配設方向に関して三列に並べて配置させており、配設方向に並ぶ電気的接続部5の間を通るように導線6を引き回して配置することで、高密度に電気的接続部5を配置することが可能である。
【0029】
したがって、本発明の実施形態は、図1のような電気的接続部5の配置に限定されず、次のような構成であればよい。インクジェット記録ヘッドに用いられる配線基板15は、絶縁性部材1の端部からの距離が異なる電気的接続部5同士が、絶縁性部材1の端部において導線6が配設される配設方向に関して隣接している部分を有している。更に、この端部からの距離が互いに異なる電気的接続部5同士が、配設方向に垂直な方向に見ると、少なくとも一部が互いに重なるように配置されている。すなわち、このように高密度に電気的接続部5を配置する構成において、本発明は効果を奏するものである。
【0030】
なお、図1に示した電気的接続部5の配置の仕方は、コネクタ11に配線基板15を挿入する際に、電気的接続部5が当接されるべきコネクタ11の電気的接続部14とは異なる電気的接続部14と接触する恐れも他の形態と比べて少ない。すなわち、この図1の配置は、高密度に電気的接続部5を配置できる点に加え、このような効果を有しており、より好適な配置といえる。
【0031】
本実施形態のインクジェット記録ヘッドに適用されるフレキシブルプリント配線基板は、低廉化の観点からいわゆるTAB(Tape Automated Bonding)テープを用いて形成されている。このTABテープは、導線が形成されたTABテープの長尺の母材を打ち抜くことによって、所望の形状および寸法をもつフレキシブルプリント配線基板に加工されたものである。
【0032】
また、本実施形態ではフレキシブルプリント配線基板の例に挙げたが、フレキシブルプリント配線基板でなくても例えばガラスエポキシ基板等のリジッド基板であっても良く、カードエッジ式の配線基板であれば同様の効果が得られる。なお、フレキシブルプリント配線基板の端部にリジッド配線基板を設け、このリジット配線基板上に外部との電気接続のための電気的接続部5を設けた構成であってもよい。しかし、一般的に、フレキシブルプリント配線基板と比較してリジット配線基板は厚みがあるため、インクジェット記録ヘッドをより小型化するためには、フレキシブルプリント配線基板の端部に接続部を設けた配線基板を用いるとよい。
【0033】
(実施形態の評価)
以下に、実施形態の効果を確認するために行った試験結果を記述する。
【0034】
本試験では、図1(a)に示す配線基板について、実施例1〜5として、コネクタに挿入される接続部10の、絶縁性部材1の端部における導線6の幅Wが、夫々W=0.14、0.15、0.20、0.25、0.26mmであるサンプルを用いた。また、実施例と比較するための比較例として、図4(a)に示す配線基板でW=0.10mmであるサンプルを用いた。なお、実施例及び比較例の電気的接続部5の間を通る導線の幅Cは0.10mmである。
【0035】
また、本試験では、隣接するコネクタの電気的接続部14の中心線間の距離が0.30mmであるFPCコネクタ(モレックス社製)を用いた。そのため、配線基板15の隣接する電気的接続部5同士の中心線の距離Lも0.30mmである。また、絶縁性部材1の端部における導線6と、これに続く導線6及び電気的接続部5の中心線は一致している。そのため、接続部10における隣接する導線6同士の間隔をgとすると、各サンプルにおいて、W+g=0.30mmとなっている。
【0036】
なお、電気的接続部5及び導線6の厚さtは0.035mm、電気的接続部の幅Pは0.30mmである。また、電気的接続部5及び導線6は銅箔、導線6と絶縁性部材1間の接着層9はポリアミド系接着剤を使用している。
【0037】
各実施例及び比較例の配線基板を5つ用意して、コネクタに対して30回抜き挿しを繰り返し行った後の、接続部10における導線6の剥離及び電気的不良の発生状況を確認した。
【0038】
この試験結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
比較例であるW=0.10mmのサンプルでは全てのサンプルにおいて絶縁性部材1の端部から導線6が剥離し、図4(b)のaの部分のように、剥離した導線6が折れ曲がり、隣接する導線6に接触した状態となった(表中記号:×)。W=0.14mmのサンプルでは極僅かに端部から導線6が剥離するサンプルが1つあったが、剥離した導線が折れ曲がる程ではなく、隣接する導線6に接触した状態とはならなかった(表中記号:○)。W=0.15mm以上では導線6の剥離は生じなかった(表中記号:◎)。
【0041】
しかし、W=0.26mm以上では、端部における導線6の幅Wが広いために、必然的に隣接する導線同士の間隔gが非常に狭くなる(0.040mm以下)。そのため、コネクタの電気的接続部14と配線基板の導線6との接触時に生じるコネクタの電気的接続部14または導線6の金属粉によって、隣接する導線6同士が導通する電気的不良が生じるサンプルがあった(表中記号:△)。一方で、隣接する導線6同士の間隔gが0.050mm以上であれば、金属粉による電気的不良は発生しなかった(表中記号:◎)。
【0042】
以上の結果より、絶縁性部材1の端部から導線6が剥がれる恐れを低減するためには、絶縁性部材1の端部における導線6の幅W(mm)は、電気的接続部5同士の中心線の距離をL(mm)とすると、L>W≧0.14であることが望ましいことが分かった。
【0043】
更に、コネクタの電気的接続部14と配線基板の導線6とが干渉する時に発生する金属粉によって隣接する導線6同士が導通する恐れを低減するためには、隣接する導線6同士の間隔g(mm)をg≧0.050の範囲とすることが望ましいことが分かった。また、電気的接続部5同士の中心線の距離をL(mm)と、隣接する導線6同士の間隔g(mm)と、絶縁性部材1の端部における導線の幅W(mm)との関係式は、g=L−Wで決定される。そのため、更に望ましい絶縁性部材1の端部における導線の幅W(mm)の条件は0.14≦W≦L−0.050と変換できる。
【0044】
ただし、端部における導線6の幅Wの条件は、配線基板の接着剤の種類、導線6の材料や厚み、コネクタの材料などに依存すると考えられる。しかし、導線6の各々の、複数の電気的接続部5に挟まれた部分の幅Cより、絶縁性部材1の端部における部分の幅Wを広くすることで、導線6が絶縁性部材1から剥がれにくくなり、隣接する導線6同士が導通する可能性を低下することが試験結果から立証された。
【符号の説明】
【0045】
1 絶縁性部材
5 電気的接続部
6 導線
12 記録素子基板
15 フレキシブルプリント配線基板(配線基板)
18 インクジェット記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
25 インクジェット記録装置(液体吐出装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体吐出装置に対して着脱可能な液体吐出ヘッドであって、
前記液体吐出装置からの信号に基づいて液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する複数の記録素子を備える記録素子基板と、
少なくとも表面が絶縁性である絶縁性部材と、前記絶縁性部材の上に設けられ、前記絶縁性部材の端部まで互いに沿う様にして延びる複数の導線と、前記複数の導線のそれぞれの途中に設けられた、前記信号を前記複数の記録素子に伝達するために前記液体吐出装置に対して電気的に接続される複数の電気的接続部と、を有する配線基板と、
を有し、
前記端部において前記複数の導線が配設される配設方向に関して隣接する前記電気的接続部同士は、前記端部からの距離が互いに異なり、前記端部から前記配設方向に垂直な方向に見ると少なくとも一部が互いに重なるように設けられており、
前記複数の導線のそれぞれの、前記端部における部分の幅は、前記複数の導線のそれぞれの、前記複数の電気的接続部に挟まれた部分の幅よりも広いことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記複数の電気的接続部には、前記端部からの距離が所定の距離よりも長い複数の第一の電気的接続部と、前記所定の距離よりも短い複数の第二の電気的接続部と、があり、前記第一の電気的接続部と、前記第二の電気的接続部とが、前記配設方向に関して交互に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記端部から前記複数の第一の電気的接続部まで距離は互いに等しく、前記端部から前記複数の第二の電気的接続部までの距離は互いに等しいことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記複数の導線のそれぞれの、前記端部における部分の幅をW(mm)とし、前記配設方向に関する前記導線の中心線から該導線に隣接する前記導線の中心線までの距離をL(mm)とすると、0.14≦W<Lなる関係を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記複数の導線のそれぞれの、前記端部における前記導線の幅をW(mm)とし、前記配設方向に関する前記導線の中心線から該導線に隣接する前記導線の中心線までの距離をL(mm)とすると、W≦L−0.050mmなる関係を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
複数の前記電気的接続部は、前記端部の近傍に設けられており、
前記配線基板は、開口部を有するコネクタに対して挿入されることで、複数の前記電気的接続部が前記コネクタに設けられた電気的接続部と電気的に接続されることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記配線基板は、内部に前記記録素子基板を設けるための開口部と、前記電気的接続部とは別の複数の電気的接続部とを有し、
前記開口部において前記記録素子基板と前記別の複数の電気的接続部とが電気的に接続される特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate