説明

液体吐出装置、及び、その制御方法

【課題】高粘度液体を吐出する場合にミスト等の発生を抑えて、ドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置等を提供する。
【解決手段】ノズル開口に連通する圧力発生室、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によってノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、圧力発生素子を駆動する駆動パルスを発生する駆動信号発生部と、を備え、ノズル開口が、液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積の第1部分と、第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置であって、駆動パルスには、メニスカスを引き込む複数の膨張要素と、圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、膨張要素は、第1膨張要素と、第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体吐出装置、及び、その制御方法に関するものであり、特に、ノズル開口に連通する圧力発生室に圧力変動を与えて、圧力発生室内の液体をノズル開口から吐出させる液体吐出ヘッドを備える液体吐出装置、及び、その制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置は、液体を吐出可能な液体吐出ヘッドを備え、この液体吐出ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体吐出装置の代表的なものとして、例えば、液体吐出ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(着弾対象物)に対して吐出・着弾させることで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体吐出装置が応用されている。
上記液体吐出装置には、吐出駆動パルスを圧力発生素子(例えば、圧電振動子や発熱素子等)に印加してこれを駆動することにより圧力発生室内の液体に圧力変化を与え、この圧力変化を利用して圧力発生室に連通したノズルから液体を吐出させるように構成されたものがある。このような液体吐出装置では、圧力発生室内の液体に与える圧力振動の振幅を大きくすることで、吐出される液体の量を増加させることができる。言い換えれば、吐出駆動パルスの駆動電圧を大きくすることで、吐出される液体の量を増やすことができる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−94656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、この液体吐出装置では、例えばUVインク(紫外線硬化型インク)等の従来扱われていた液体よりも粘度の高い液体(以下、高粘度液体ともいう。)を吐出する試みがなされている。すなわち、従来は水のように粘度が低い液体を対象にしていたが、近年では6ミリパスカル秒以上の高粘度液体を吐出する試みがなされている。この高粘度液体を吐出する際に十分な吐出量を得るためには、吐出量に応じた大きさの圧力変化を圧力発生室内の液体に与える必要がある。しかし、圧力変化を大きくすると液体の飛行速度も高くなり、この液体の後端部分が尾のように伸びる現象が生じ易くなる傾向にある。そして、この尾の部分が液滴本体から分離して飛翔し、着弾対象物において正規の位置(望ましい位
置)に着弾しない虞があった。例えば、インクジェットプリンターでは、尾の部分がミストになって正規の位置からずれて着弾してドットが分離し、これにより、画質の劣化が生じるという問題があった。特に、高粘度液体では、尾の部分が幾つにも分離することにより、これらの複数に分離した部分(サテライトインク滴或いはミスト)が画質を著しく低
下させる原因となっていた。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高粘度液体を吐出する場合にミスト等の発生を抑えて、ドットの分離を防止することが可能な液体吐出装置、及び、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、
を備え、
前記ノズル開口が、
液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置であって、
前記駆動信号発生部が発生する前記駆動パルスには、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、
前記膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、
前記膨張要素は、第1膨張要素と、前記第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むことを特徴とする液体吐出装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】プリンターの電気的構成を説明するブロック図である。
【図2】記録ヘッドの構成を説明する要部断面図である。
【図3】図3Aは、ノズルの形状を説明する断面図である。図3Bは、ノズルをテーパー部分側から見た図である。
【図4】テーパー角度に関する評価結果の一覧を示す図である。
【図5】吐出パルスの構成を説明する波形図である。
【図6】(a)〜(f)は、インク滴を吐出する際のメニスカスの動きを示す図である。
【図7】吐出パルスの変形例を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
===開示の概要===
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、を備え、前記ノズル開口が、液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置であって、前記駆動信号発生部が発生する前記駆動パルスには、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、前記膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、前記膨張要素は、第1膨張要素と、前記第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むことを特徴とする液体吐出装置である。
【0011】
このような液体吐出装置によれば、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有する液体吐出ヘッドと、圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、を備える液体吐出装置であって、駆動信号発生部が発生する駆動パルスには、圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、膨張要素は、第1膨張要素と、第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むので、粘度が比較的高い液体(高粘度液体)を圧力発生室側に引き込む際に、ノズル開口におけるメニスカスの周縁部(ノズル開口の内周に近い側)が中心部分に比べて動き難く、圧力変動に追従し難い場合でも、メニスカスの中心部分の液体とメニスカスの外周縁側の液体とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、その後の圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑制されるので、吐出された液体の後端部が尾のように伸びる現象を抑えることができ、可及的に球形に近い形状にすることができる。この結果、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。また、逆位相によって生じる液滴の飛翔速度の低下を抑えることができる。
【0012】
また、ノズル開口内の液体は、ノズル開口の開口面積が小さいと強くまたは早く圧力発生室側に引き込み難く、ノズル開口の開口面積が大きいと強くかつ早く圧力発生室側に引き込むことができる。このため、上記ノズル開口のように、液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有る構成とし、液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積の第1部分にメニスカスが位置する際と、第1部分の吐出側端部に連通する第2部分にメニスカスが位置する際とを、電圧変化率が互いに異なる第1膨張要素と第2膨張要素とにて圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込むことができる。すなわち、ノズル開口の開口面積に応じてメニスカスの引き込み方を変更することができる。このような構成とすることにより、メニスカスを良好な状態に保ちつつ引き込み、広がって良好な状態のメニスカス面の中央部分を吐出させることにより、より一層着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。
【0013】
上記構成において、前記第1膨張要素の電圧変化率を、前記第2膨張要素の電圧変化率
よりも小さく設定することが望ましい。
この構成によれば、第1膨張要素の電圧変化率を、第2膨張要素の電圧変化率よりも小
さく設定したので、第1膨張要素の電圧の間に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部
分に比べてメニスカスの外周縁側が遅れる現象を抑えることができる。これにより、圧力
発生室の収縮による液滴の吐出の際に、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側と
が逆位相になることを抑えて、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができ
る。
【0014】
上記構成において、前記第1膨張要素と前記第2膨張要素との間に、前記第1膨張要素
の後端で電圧を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むことが望ましい。
上記構成によれば、第1膨張要素と第2膨張要素との間に、第1膨張要素の後端で電圧
を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むので、電圧を維持している間に、ノズル開口
におけるメニスカスの中心部分に比べてメニスカスの外周縁側が遅れる現象をより抑える
ことができる。これにより、圧力発生室の収縮による液滴の吐出の際に、メニスカスの中
心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えて、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができる。
【0015】
上記構成において、前記吐出要素は、第1吐出要素と、前記第1吐出素とは異なる電圧
変化率で前記圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むことが望ましい。
上記構成によれば、吐出要素は、第1吐出要素と、第1吐出素とは異なる電圧変化率で
圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むので、ノズル開口におけるメニスカスの中
心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えられた状態で、圧力発生室の
収縮による液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの
外周縁側とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができ、着弾対象物上で液体が複数に分離し
て着弾することを防止することができる。
【0016】
上記構成において、前記第1吐出要素と前記第2吐出要素との間に、前記第1吐出要素
の後端で電圧を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むことが望ましい。
上記構成によれば、第1吐出要素と第2吐出要素との間に、第1吐出要素の後端で電圧
を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むので、ノズル開口におけるメニスカスの中心
部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑えた状態で、圧力発生室の収縮に
よる液滴の吐出の際に、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁
側とが、寄り添うようにタイミングを合わせることができる。これにより、吐出された液
体に付随する尾の成長を抑制することができ、着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾
することを防止することができる。
【0017】
上記構成において、前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上15ミリパスカル秒以下であり、前記ノズル開口の第1部分は、テーパー角度が40度以上の円錐台状の空間を区画することが望ましい。
液体が流れる流路がテーパー部分により絞られる場合には、液体に与えられる力はより大きなものとなって応力が集中する。このため、液体が少ない状態で液体を加圧することにより、テーパー部分の吐出側端部に存在する液体に加圧力を集中させることができ、液体を局所的に強く加圧できる。そして、液体の粘度が8ミリパスカル秒以上15ミリパスカル秒以下の場合には、上記構成のようにノズル開口の第1部分のテーパー角度を40度以上とすることにより、一層効果的に液体を局所的に強く加圧することができる。
【0018】
上記構成において、前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上30ミリパスカル秒以下であり、前記ノズル開口の第1部分は、テーパー角度が50度以上の円錐台状の空間を区画することが望ましい。
上記構成のように、液体の粘度が8ミリパスカル秒以上30ミリパスカル秒以下の場合には、ノズル開口の第1部分のテーパー角度を50度以上とすることにより、より一層効果的に液体を局所的に強く加圧することができる。
【0019】
上記構成において、前記ノズル開口における前記第1部分の長さは、前記第2部分以上の長さを有することが望ましい。
上記構成によれば、ノズル開口における第1部分の長さが、第2部分以上の長さを有しているので、ノズル開口の全長に対する第1部分すなわちテーパーを有する部分の長さがテーパーを有しない第2部分より長くなる。このため、第1部分の長さが第2部分の長さより短い場合より、第1部分の液体を加圧することにより第1部分の吐出側の液体圧力を局所的に高めることができ、圧力が高い部分をメニスカスの近傍に集中させることができる。このため、液体に与えられた圧力変化を、液体の吐出に、より効率良く使用することができる。その結果、高粘度の液体であっても効率的に吐出することができる。
【0020】
また、本発明の液体吐出装置の制御方法は、ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、を備え、前記ノズル開口が、液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置の制御方法であって、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張工程と、前記膨張工程で膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出工程とを含み、前記膨張工程には、第1膨張工程と、前記第1膨張工程とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張工程とを含むことを特徴とする液体吐出装置の制御方法である。
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体吐出装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0022】
図1はプリンターの電気的な構成を示すブロック図である。このプリンターは、プリンターコントローラー1とプリントエンジン2とで概略構成されている。プリンターコントローラー1は、ホストコンピューター等の外部装置との間でデータの授受を行う外部インターフェース(外部I/F)3と、各種データ等を記憶するRAM4と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM5と、各部の制御を行う制御部6と、クロック信号を発生する発振回路7と、記録ヘッド10へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路8と、ドットパターンデータや駆動信号等を記録ヘッド10に出力するための内部インターフェース(内部I/F)9とを備えている。
【0023】
制御部6は、各部の制御を行うほか、外部装置から外部I/F3を通じて受信した印刷データを、ドットパターンデータに変換し、このドットパターンデータを内部I/F9を通じて記録ヘッド10側に出力する。このドットパターンデータは、階調データをデコード(翻訳)することにより得られる印字データによって構成してある。また、制御部6は、発振回路7からのクロック信号に基づいて記録ヘッド10に対してラッチ信号やチャンネル信号等を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号に含まれるラッチパルスやチャンネルパルスは、駆動信号を構成する各パルスの供給タイミングを規定する。
【0024】
駆動信号発生回路8は、制御部6によって制御され、圧電振動子20(図2参照)を駆動するための駆動信号を発生する。本実施形態における駆動信号発生回路8は、インク滴(液滴の一種)を吐出して、吐出対象物の一種としての記録紙上にドットを形成するための吐出パルスや、ノズル開口32(図2参照)に露出したインク(液体の一種)の自由表
面、即ちメニスカスを微振動させてインクを攪拌するための微振動パルス等を一記録周期内に含む駆動信号COMを発生するように構成されている。
【0025】
次に、プリントエンジン2側の構成について説明する。プリントエンジン2は、記録ヘッド10と、キャリッジ移動機構12と、紙送り機構13と、リニアエンコーダ14とから構成されている。記録ヘッド10は、シフトレジスター(SR)15、ラッチ16、デ
コーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、及び圧電振動子20を備えている。プリンターコントローラー1からのドットパターンデータ(SI)は、発振回路7からのクロック信号(CK)に同期して、シフトレジスター15にシリアル伝送される。このドットパターンデータは、2ビットのデータであり、例えば、非記録(微振動)、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調の記録階調(吐出階調)を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録は階調情報「00」、小ドットは階調情報「01」、中ドットが階調情報「10」、大ドットが階調情報「11」と表される。
【0026】
シフトレジスター15には、ラッチ16が電気的に接続されており、プリンターコントローラー1からのラッチ信号(LAT)がラッチ16に入力されると、シフトレジスター15のドットパターンデータをラッチする。このラッチ16にラッチされたドットパターンデータは、デコーダー17に入力される。このデコーダー17は、2ビットのドットパターンデータを翻訳してパルス選択データを生成する。このパルス選択データは、駆動信号COMを構成する各パルスに各ビットを夫々対応させることで構成されている。そして、各ビットの内容、例えば、「0」,「1」に応じて圧電振動子20に対する吐出パルスの供給又は非供給が選択される。
【0027】
そして、デコーダー17は、ラッチ信号(LAT)又はチャンネル信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター18に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター18に入力される。このレベルシフター18は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ19を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター18で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ19に供給される。このスイッチ19の入力側には、駆動信号発生回路8からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ19の出力側には、圧電振動子20が接続されている。
【0028】
そして、パルス選択データは、スイッチ19の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電振動子20への供給を制御する。例えば、スイッチ19に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ19が接続状態になって、対応する吐出パルスが圧電振動子20に供給され、この吐出パルスの波形に倣って圧電振動子20の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター18からはスイッチ19を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ19は切断状態となり、圧電振動子20へは吐出パルスが供給されない。
【0029】
このような動作を行うデコーダー17、レベルシフター18、スイッチ19、制御部6、及び駆動信号発生回路8は、本発明における駆動部として機能し、ドットパターンデータに基づき、駆動信号の中から必要な吐出パルスを選択して圧電振動子20に印加(供給)する。その結果、圧電振動子20が伸張又は収縮し、この圧電振動子20の伸縮に伴って圧力発生室35(図2参照)が膨張又は収縮することにより、ドットパターンデータを成する階調情報に応じた量のインク滴がノズル開口32から吐出される。
【0030】
図2は上記の記録ヘッド10の要部断面図である。本実施形態における記録ヘッド10は、圧電振動子群22、固定板23、及び、フレキシブルケーブル24等をユニット化した振動子ユニット25と、この振動子ユニット25を収納可能なヘッドケース26と、共通インク室(共通液体室)から圧力発生室35を通りノズル開口32に至る一連のインク流路(液体流路)を形成する流路ユニット27とを備えて構成される。
【0031】
まず、振動子ユニット25について説明する。圧電振動子群22を構成する圧電振動子20(本発明における圧力発生素子の一種)は、縦方向に細長い櫛歯状に形成されており、数十μm程度の極めて細い幅に切り分けられている。そして、この圧電振動子20は縦方向に伸縮可能な縦振動型の圧電振動子として構成されている。各圧電振動子20は、固定端部を固定板23上に接合することにより、自由端部を固定板23の先端縁よりも外側に突出させて所謂片持ち梁の状態で固定されている。そして、各圧電振動子20における
自由端部の先端は、後述するように、それぞれ流路ユニット27におけるダイヤフラム部38を構成する島部40に接合される。フレキシブルケーブル24は、固定板23とは反
対側となる固定端部の側面で圧電振動子20と電気的に接続されている。また、各圧電振動子20を支持する固定板23は、圧電振動子20からの反力を受け止め得る剛性を備えた金属製の板材によって構成される。
【0032】
次に、流路ユニット27について説明する。流路ユニット27は、ノズルプレート29、流路形成基板30、及び振動板31から構成され、ノズルプレート29を流路形成基板30の一方の表面に、振動板31をノズルプレート29とは反対側となる流路形成基板30の他方の表面にそれぞれ配置して積層し、接着等により一体化することで構成されている。ノズルプレート29は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口32を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、例えば、180個のノズル開口32を列状に開設し、これらのノズル開口32によってノズル列(ノズル群)を構成している。そして、このノズル列を横並びに2列設けている。なお、本実施形態のノズル開口32は、流路形成基板30に接合されたノズルプレート29における圧力発生室35とは反対側(吐出面側)に配されるストレート部分42と、当該ストレート部分42から圧力発生室35側に向って拡径するテーパー部分43とから構成されている。
【0033】
流路形成基板30は、リザーバー33、インク供給口34、及び圧力発生室35からな一連のインク流路(液体流路の一種)を形成する板状部材である。具体的には、この流路形成基板30は、各ノズル開口32に対応させて圧力発生室35となる空部を隔壁で区画した状態で複数形成すると共に、インク供給口34およびリザーバー33となる空部を形成した板状の部材である。そして、本実施形態の流路形成基板30は、シリコンウェハーをエッチング処理することで作製されている。上記の圧力発生室35は、ノズル開口32の列設方向(ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室として形成され、インク供給口34は、圧力発生室35とリザーバー33との間を連通する流路幅の狭い狭窄部として形成されている。また、リザーバー33は、インクカートリッジ(図示せず)に貯留されたインクを各圧力発生室35に供給するための室であり、インク供給口34を通じて対応する各圧力発生室35に連通している。
【0034】
振動板31は、ステンレス鋼等の金属製の支持板36上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)等の樹脂フィルム37をラミネート加工した二重構造の複合板材であり、圧力発生室35の一方の開口面を封止してこの圧力発生室35の容積を変動させるためのダイヤフラム部38を有すると共に、リザーバー33の一方の開口面を封止するコンプライアンス部39が形成された部材である。そして、ダイヤフラム部38は、圧力発生室35に対応した部分の支持板36にエッチング加工を施し、当該部分を環状に除去して圧電振動子20の自由端部の先端を接合するための島部40を形成することで構成されている。この島部40は、圧力発生室35の平面形状と同様に、ノズル開口32の列設方向と直交する方向に細長いブロック状であり、この島部40の周りの樹脂フィルム37が弾性体膜として機能する。また、コンプライアンス部39として機能する部分、すなわちリザーバー33に対応する部分は、このリザーバー33の開口形状に倣って支持板36がエッチング加工で除去されて樹脂フィルム37のみとなっている。
【0035】
上記構成の記録ヘッド10では、圧電振動子20を変形させることで対応する圧力発生室35が収縮或いは膨張し、圧力発生室35内のインクに圧力変動が生じる。このインク圧力を制御することで、ノズル開口32からインク(インク滴)を吐出させることができる。インクを吐出するのに先だって定常容積の圧力発生室35を予備的に膨張させるとリザーバー33側からインク供給口34を通じて圧力発生室35内にインクが供給される。また、予備膨張の後に圧力発生室35を急激に収縮させるとノズル開口32からインクが吐出される。
【0036】
ノズル開口32の形状及びインク供給口34の形状について説明する。
【0037】
図3A及び図3Bに示すように、ノズル開口32は漏斗状をしており、テーパー形状のテーパー部分43と、このテーパー部分43における吐出側端部に連通するストレート部分42とを有する。テーパー部分43は、円錐台状の空間を区画する部分であり、ノズル開口32における第1部分に相当する。ストレート部分42は、ノズル開口32における第2部分に相当し、断面積をノズル方向と直交する面でほぼ変えない形状であって円柱状の空間を区画する部分である。言い換えれば、吐出方向と直交する方向の断面形状が、吐出方向における何れの場所においても一定の円形である部分である。テーパー部分43は、圧力発生室35側(図3Aにおける下側)に向かうほど開口面積が大きくなっている。言い換えれば、インク滴の吐出側における開口面積が圧力発生室35側における開口面積よりも小さく定められている。例えば、テーパー部分43における中間位置の直径φ32bは圧力発生室35側の端部の直径φ32aよりも小さい。また、吐出側端部(ストレート部分32b側の端部)の直径φ32cは中間位置の直径φ32bよりも小さい。
【0038】
この実施形態において、吐出側端部の直径φ32cはストレート部分42の直径に相当しており、24μmに定められている。ストレート部分42の長さL32b、すなわち吐出方向の長さは20μmに定められ、テーパー部分43の長さL32aは80μmに定められている。このためノズル開口32の長さL32は100μmになる。そして、テーパー角度θ32は50度に定められている。一方、インク供給口34については、幅W34が55μm、高さH34が80μm、長さL34が600μmにそれぞれ定められている。
【0039】
テーパー部分43は、以下のように作用していると考えられる。すなわち、圧力発生室35を収縮してインクを加圧すると、その力はノズル開口32内のインクにも作用する。この力(吐出方向への押圧力)を受けると、テーパー部分43に沿って移動する。テーパー部分43はインクが流れる流路を絞っているので、インクに与えられる力はより大きなものとなって応力が集中する。これにより、テーパー部分43におけるストレート部分42との境界部分に、圧力の高い部分を集中させることができる。そして、インクを加圧するタイミングを、テーパー部分43まで引き込まれたメニスカスMがストレート部分42に戻る前に定めている。言い換えれば、ストレート部分42のインクが極力少ない状態でインクを加圧している。これにより、テーパー部分43の吐出側端部に存在するインクに加圧力を集中させることができ、インクを局所的に強く加圧できる。
【0040】
このような考えに基づいて、テーパー角度θ32についての検討をした。ここでは、テーパー角度θ32を20度、25度、30度、40度、50度、60度、80度に定め、それぞれのテーパー角度のノズル開口32から粘度8mPa・s、10mPa・s、15mPa・s、20mPa・s、30mPa・s、40mPa・sのインクを吐出させて評価を行った。この評価においては、ノズル開口32のインピーダンスZ32がインク供給口34のインピーダンスZ34よりも小さくなるようにノズル開口32の形状を定めている。また、テーパー角度θ32が80度以上のノズル開口32については評価の対象から外している。これは、80度以上であれば(要するに、鋭角にならない角度範囲のテーパー面が設けられていれば)テーパー面に沿ってインクが流れるので、圧力集中の効果が得られるからである。この場合、テーパーの最大角度は圧力発生室35の幅、ノズル開口32ピッチ、ノズル開口32の長さ等によって決まる。
【0041】
図4は、評価結果の一覧を示している。この図において縦の項目はインクの粘度であり、横の項目はテーパー角度θ32である。そして、評価結果に関し、記号×は、インクが滴状にならず吐出されなかったことを意味する。また、記号△は、インク滴における飛行方向の後側に生じる尾の部分が、プリンタとして支障が生じうる長さであることを意味する。この評価では、尾の部分が500μmよりも長い場合に、△の評価としている。従って、記号○は、尾の部分がプリンタとして支障が生じない程度の長さであることを示している。
【0042】
この評価結果から次のことがいえる。すなわち、テーパー角度θ32とインクの粘度との間には相関関係があり、粘度が高いインクほどテーパー角度θ32を大きくすることが好ましいといえる。このことは、インクを吐出できない評価×に着目すると理解できる。例えば、テーパー角度が20度の場合には、粘度20mPa・s以上のインクで評価×になっており、テーパー角度が25度及び30度の場合には粘度30mPa・s以上のインクで評価×になっている。そして、テーパー角度が40度以上60度以下の場合には粘度40mPa・sのインクで評価×になっている。また、テーパー角度が80度以上の場合には粘度40mPa・sのインクで評価△になっている。
【0043】
評価○に着目すると、テーパー角度θ32にはインクの粘度に応じた適正範囲があることが判る。例えば、粘度が8mPa・s以上であって15mPa・s以下のインクを吐出させるのであれば、テーパー角度θ32は40度以上であればよいことが判る。また、粘度が8mPa・s以上であって30mPa・s以下のインクを吐出させるのであれば、テーパー角度θ32は50度以上であればよいことが判る。
【0044】
次に、テーパー部分43の長さL32aについて検討する。応力をテーパー部分43におけるストレート部分42側に集中させるという作用効果からすれば、テーパー部分43が設けられていればこの作用効果を得られる。従って、長さは問わないといえる。そして、高粘度インクをより安定的に吐出させるという観点からすれば、長さL32aはストレート部分42以上の長さ(ノズル開口32長さL32の1/2)を有することが好ましいといえる。加えて、本実施形態のノズル開口32は、長さL32が100μmであり、そのうちの80μmがテーパー部分43の長さL32aである。そうすると、テーパー部分43の長さL32aは、ノズル開口32長さL32の4/5を有することがより好ましいといえる。このように、ノズル開口32長さL32におけるテーパー部分43の比率を増やすと、圧力の高い部分を容易に得ることができる。
【0045】
上記評価に用いたヘッド10では、粘度30mPa・sのインクにおいてノズル開口32のインピーダンスZ32は1.0×1014Ωであり、インク供給口34のインピーダンスZ34は1.27×1014Ωである。すなわち、ノズル開口32のインピーダンスZ32は、インク供給口34のインピーダンスZ34よりも小さい。ここで、インピーダンスはインクの粘度に応じて値が変わる。このため、他の粘度のインクを用いると各インピーダンスの数値は変化する。しかし、ノズル開口32のインピーダンスZ32がインク供給口34のインピーダンスZ34よりも小さいという関係は、インクの粘度に関わらず成立する。
【0046】
このように、ノズル開口32のインピーダンスZ32をインク供給口34のインピーダンスZ34よりも小さくすると、圧力発生室35内のインクに圧力変化を与えた場合において、インピーダンスの大きいインク供給口34側についてはインクが流れ難くなり(音響的に重くなり)、インピーダンスの小さいノズル開口32側についてはインクが流れ易くなる(音響的に軽くなる)。これにより、インクに与えられた圧力変化によってメニスカスMを効率よく移動させることができる。また、インク滴の吐出後に生じる残留振動(圧力発生室35内のインクに与えられる圧力振動)が圧力発生室35内に残り易くなり、リザーバー33から圧力発生室35へインクを流入しやすくする。これにより、メニスカスMを早期に定常状態に戻すことができ、インク滴を高い周波で吐出させることができる。
【0047】
そして、ノズル開口32のインピーダンスZ32を小さくするためには、ストレート部分42の長さL32bを直径φ32bよりも短くすることがよい。このように構成すると、イナータンスや流路抵抗を小さくできるからである。すなわち、イナータンスは、ストレート部分42の長さL32bにインク密度を乗じ、それを開口面積で除して求められるので、開口面積が大きいほど(直径φ32bが大きいほど)、値が小さくなる。また、流路抵抗は、ストレート部分42の長さL32bが短いほど、かつ、開口面積が大きいほど小さくなる。従って、ストレート部分42の長さL32bを直径φ32bよりも短くすることは、ノズル開口32のインピーダンスZ32を小さくするために有効な手段といえる。
【0048】
図5は、上記構成の駆動信号発生回路8が発生する駆動信号COMに含まれる吐出パルスDPの構成を説明する波形図である。例示した吐出パルスDPは、本実施形態におけるプリンターにおいて吐出可能なインク滴のうち最もサイズの小さいインク滴を吐出するための吐出パルスである。この吐出パルスDPは、基準電位VHBから第1中間電位VM1まで一定勾配(電圧変化率)θ1で電位を上昇させる第1膨張要素p1(本発明における膨張要素に相当)と、第1膨張要素p1の後端電位である第1中間電位VM1を短い時間維持する第1ホールド要素p2(本発明における膨張ホールド要素に相当)と、第1中間電位VM1から最高電位VHまで比較的急峻な勾配θ2(θ2>θ1)で電位を上昇させる第2膨張要素p3(本発明における膨張要素に相当)と、最高電位VHを短い時間維持する第2ホールド要素p4と、最高電位VHから第2中間電位VM2まで比較的急峻な一定勾配θ3で電位を降下させる第1収縮要素p5(本発明における第1吐出要素に相当)と、第2中間電位VM2を一定時間維持する第3ホールド要素p6(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第2中間電位VM2から基準電位VHBまで一定勾配θ4(θ4<θ3)で電位を降下させる第2収縮要素p7(本発明における第2吐出要素に相当)とから構成されている。
【0049】
上記吐出パルスDPが圧電振動子20に供給されると次のように作用する。まず、第1膨張要素p1が圧電振動子20に供給されると、当該圧電振動子20が素子長手方向に収縮して、これにより、基準電位VHBに対応する基準容積から第1中間電位VM1に対応する容積まで圧力発生室35が膨張する(第1膨張工程)。この第1膨張工程における圧力発生室35の収縮は、穏やかに行われる。これにより、図6(a)に示すように、ノズル開口32のストレート部分42におけるメニスカスが徐々に圧力発生室35側に引き込まれ始め、そして、図6(b)に示すように、ノズル開口32のストレート部分42において特に中心部分が周縁部分よりも先に圧力発生室35側に引き込まれ、その圧力発生室35側の先端部分はテーパー部分43内に浸入する。これは、メニスカスの中心部分の方が、メニスカスの周縁部(ノズル開口32の内周に近い側)と比べて動き易く、圧力変動に追従し易いためである。すなわち、第1膨張工程では、メニスカスはノズル開口32の開口面積の小さなストレート部分42に位置しているため、圧力発生室35側に強く引き込むことは難しい。このため、圧力発生室35の収縮を穏やかに行うように設定された第1膨張要素p1にて基準電位VHBから第1中間電位VM1まで一定勾配(電圧変化率)θ1で電位を上昇させることにより圧力発生室35を膨張させて、前記追従の遅れを解消している。これにより、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張によって、ノズル開口32のストレート部分42におけるメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。
【0050】
そして、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張状態は、第1ホールド要素p2の供給期間中に亘って一定に維持される(膨張維持工程)。これにより、第1膨張工程における圧力発生室35の膨張によって、ノズル開口32のストレート部分42におけるメニスカスの中心部分のインクに比べて、メニスカスの外周縁側のインクが、遅れて到達することをさらに抑制させることができる。その間に、ノズル開口32のストレート部分42内におけるメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に続いて、テーパー部分43内に徐々に浸入する。
【0051】
第1ホールド要素p2の後に続いて第2膨張要素p3が圧電振動子20に供給せることにより、当該圧電振動子20が素子長手方向に第1膨張工程よりも急激に収縮させる。これにより、圧力発生室35が、第1中間電位VM1に対応する容積から最高電位VHで規定される容積に急激に膨張する(第2膨張工程)。このとき、図6(c)に示すように、
メニスカスは、ノズル開口32におけるストレート部分42からテーパー部分43内に位置しているため、圧力発生室35側に強く引き込むことができる。すなわち、メニスカスの中心部分及び外周縁面側を、圧力発生室35側により大きく引き込むことができる。このように第2膨張行程では、開口面積の小さなストレート部分42から開口面積が大きなテーパー部分43に移動したメニスカスが、早く且つ強く圧力発生室35側に引き込むことができる状態にて第1膨張工程よりも急激に圧力発生室35収縮させることにより、メニスカスを破壊することなく、インクの吐出に適した状態としている。そして、この第2膨張工程における圧力発生室35の膨張状態は、第2ホールド要素p4の供給期間中に亘って維持される。
【0052】
その後、第1収縮要素p5が圧電振動子20に供給されることにより当該圧電振動子20が伸長して最高電位VHに対応する容積から第2中間電位VM2に対応する容積まで圧力発生室35が急激に収縮する(第1吐出収縮工程)。この圧力発生室35の急激な収縮によって圧力発生室35内のインクが加圧され、これにより、図6(d)に示すように、ノズル開口32におけるテーパー部分43内のメニスカスの中心部分が柱状に盛り上がる。これは、メニスカスの中心部分が、圧力発生室35から離れる方向に進行しているのに対して、メニスカスの外周縁側が、圧力発生室35側に引き込まれているためである。つまり、メニスカスの中心部分と、メニスカスの外周縁側とは、逆位相の状態となっている。
【0053】
そして、第3ホールド要素p6が圧電振動子20に供給されて、第2中間電位VM2が一定時間維持される(吐出収縮維持工程)。そして、この圧力発生室35の収縮状態は、第3ホールド要素p6の供給期間に亘って一定時間維持される。この間に、図6(e)に示すように、メニスカスの中心部分と、メニスカスの外周縁側とが、圧力発生室35側から離れる方向に同位相の状態となり、前記した膨張行程と同様に、特に中心部分がテーパー部分43側からストレート部分42に向って進行し、その柱状中心部分の先端部分がその周りの部分よりも先にストレート部分42内に浸入する。
【0054】
その後、第2収縮要素p7が圧電振動子20に供給されることにより当該圧電振動子20が第1吐出収縮工程よりもさらに伸長して、第2中間電位VM2に対応する容積から基準電位VHBに対応する容積まで圧力発生室35が収縮して復帰する(第2吐出収縮工程)。ここで、第2中間電位VM2から基準電位VHBまでの勾配θ4を、最高電位VHから第2中間電位VM2までの勾配θ3よりも緩く設定している。これにより、第1収縮工程における圧力発生室35の収縮によってストレート部分42内に浸入したメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。この間に、図6(f)に示すように、メニスカスの中心部分からノズル開口32外に排出され、その後、メニスカスの中心部分の柱状部分が千切れ、これが小ドットに対応する数plのインク滴としてノズル開口32から吐出される。
【0055】
以上のように説明した構成を採用することにより、例えば、紫外線等の光エネルギーの照射によって硬化する光硬化型インクのように従来のインクよりも粘度の高いインク(高粘度液体)を吐出する際に、変化率の異なる第1膨張要素p1及び第2膨張要素p3と、第1収縮要素p5及び第2収縮要素p7とを含む吐出パルスDPを圧電振動子20に供給することで、ノズル開口におけるメニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑制されるので、吐出されたインクの後端部が尾のように伸びる現象を抑えることができ、可及的に球形に近い形状にすることができる。これにより、記録紙等の着弾対象物上でインクが複数に分離して着弾することを防止することができ、その結果、記録画像の画質の劣化を低減することができる。また、第1膨張要素p1と第2膨張要素
p2との間に第1ホールド要素p2を、第1収縮要素p5と第2収縮要素p7との間に第3ホールド要素p6を、含むので、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることを抑え、吐出された液体に付随する尾の成長を抑制することができる。さらに、逆位相によって生じるインクの飛翔速度の低下を抑えることができる。
【0056】
また、本実施形態のノズル開口32は、液体の吐出側が圧力発生室35側よりも小さい開口面積に定められるテーパー部分43と、テーパー部分43の吐出側端部に連通するストレート部分42とを有る構成とし、テーパー部分43の吐出側端部に連通するストレート部分42にメニスカスが位置する際に、緩やかに引き込み、液体の吐出側が圧力発生室35側よりも小さい開口面積のテーパー部分43にメニスカスが位置する際に、早く且つ強く引き込む構成とした。このため。開口面積が小さなストレート部分42では、緩やかに引き込み始め、開口面積が大きなテーパー部分43では急激に引き込むことにより、メニスカスを良好な状態に保ちつつ引き込み、広がって良好な状態を作りだし、その後メニスカス面の中央部分を吐出させることにより、より一層着弾対象物上で液体が複数に分離して着弾することを防止することができる。
【0057】
また、上述したように、例えば、インクの粘度が8mPa・s以上15mPa・s以下の場合にはテーパー角度θ32を40度以上、インク粘度が8mPa・s以上30mPa・s以下の場合にはテーパー角度θ32を50度以上というように、テーパー角度θ32をインクの粘度に応じて適正範囲に設定することにより、テーパー部分43の吐出側のインク圧力を局所的に、より高めることができる。そして、圧力が高い部分をメニスカスの近傍に集中させて、インクに与えられた圧力変化を、インクの吐出に、より効率良く使用することができる。その結果、高粘度のインクであっても効率的に吐出することができる。
【0058】
ここで、何らの対策も施さない従来構成では、高粘度インクで中ドットを形成する場合に、インクの尾が引き易い傾向があり、この尾の部分が中ドットインク滴本体から分離することにより、これらの分離した部分(サテライトインク滴或いはミスト)が記録紙上でそれぞれ異なる位置に着弾する等して画質を著しく低下させる原因となっていた。このような不具合を防止するべく、基準電位VHBから第1中間電位VM1までの勾配θ1を、第1中間電位VM1から最高電位VHまでの勾配θ2よりも緩く設定するとともに、第2中間電位VM2から基準電位VHBまでの勾配θ4を、最高電位VHから第2中間電位VM2までの勾配θ3よりも緩く設定したので、ストレート部分42内に浸入したメニスカスの外周縁側が、メニスカスの中心部分に比べて、遅れて到達することを抑制させることができる。
【0059】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0060】
図7は、吐出パルスの変形例を示す波形図である。上記実施形態では、本発明における吐出パルスの一例として、第1収縮要素p5及び第2収縮要素p7の2つの収縮要素を含んでいたが、吐出パルスの形状はこれには限られない。例えば、図7に示す吐出パルスDP´は、収縮要素として、最高電位VHから第3中間電位VM3まで一定勾配で電位を降下させる第3収縮要素p8(本発明における吐出要素に相当)と、第3中間電位VM3を一定時間維持する第4ホールド要素p9(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第3中間電位VM2から第4中間電位VM4まで一定勾配で電位を降下させる第4収縮要素p10(本発明における吐出要素に相当)と、第4中間電位VM4を一定時間維持する第5ホールド要素p11(本発明における吐出ホールド要素に相当)と、第4中間電位VM4から基準電位VHBまで一定勾配で電位を降下させる第2収縮要素p12(本発明における吐出要素に相当)との3つの収縮要素を含んでいても良い。
【0061】
これにより、圧力発生室35の収縮による高粘度インクの吐出の際に、メニスカスの中心部分とメニスカスの外周縁側とが逆位相になることをさらに抑えて、吐出されたインクに付随する尾の成長を抑制することができる。さらに、逆位相によって生じる液滴の飛翔速度の低下を抑えることができる。即ち、吐出パルスDPは、少なくとも、第1膨張要素p1と、第1膨張要素p1とは変化率の異なる第2膨張要素p3とを含む構成の吐出パルスであれば、任意の波形のものを用いることができる。
【0062】
また、上記実施形態では、圧力発生部として、所謂縦振動モードの圧電振動子20を例示したが、これには限られない。例えば、所謂撓み振動モードの圧電振動子を用いる場合にも本発明を適用することが可能である。なお、この撓み振動モードの圧電振動子を採用する場合は、図5に示した吐出パルスDPの波形が上下反転する。
【0063】
そして、本発明は、複数の駆動信号を用いて吐出制御が可能な液体吐出装置であれば、プリンターに限らず、プロッタ、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体吐出装置、例えば、ディスプレー製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 プリンターコントローラー、2 プリントエンジン、6 制御部、7 発振回路、
8 駆動信号発生回路、10 ヘッド、12 キャリッジ移動機構、
13 紙送り機構、14 リニアエンコーダ、15 シフトレジスター、16 ラッチ、17 デコーダー、18 レベルシフター、19 スイッチ、20 圧電振動子、
22 圧電振動子群、23 固定板、24 フレキシブルケーブル、
25 振動子ユニット、26 ヘッドケース、27 流路ユニット、
29 ノズルプレート、30 流路形成基板、31 振動板、32 ノズル開口、
33 リザーバー、34 インク供給口、35 圧力発生室、36 支持板、
37 樹脂フィルム、38 ダイヤフラム部、39 コンプライアンス部、40 島部、42 ストレート部分、43 テーパー部分、COM 駆動信号、DP パルス、
p1 第1膨張要素、p2 第1ホールド要素、p3 第2膨張要素、
p4 第2ホールド要素、p5 第1収縮要素、p6 第3ホールド要素、
p7 第2収縮要素、p8 第3収縮要素、p9 第4ホールド要素、
p10 第4収縮要素、p11 第5ホールド要素、p12 第5収縮要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、
を備え、
前記ノズル開口が、
液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置であって、
前記駆動信号発生部が発生する前記駆動パルスには、前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張要素と、
前記膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出要素とを含み、
前記膨張要素は、第1膨張要素と、前記第1膨張要素とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張要素とを含むことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1膨張要素の電圧変化率を、前記第2膨張要素の電圧変化率よりも小さく設定したことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記第1膨張要素と前記第2膨張要素との間に、前記第1膨張要素の後端で電圧を一定時間維持する膨張ホールド要素を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記吐出要素は、第1吐出要素と、前記第1吐出素とは異なる電圧変化率で前記圧力発生室を収縮させる第2吐出要素とを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1吐出要素と前記第2吐出要素との間に、前記第1吐出要素の後端で電圧を一定時間維持する吐出ホールド要素を含むことを特徴とする請求項4に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上15ミリパスカル秒以下であり、
前記ノズル開口の第1部分は、テーパー角度が40度以上の円錐台状の空間を区画することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記液体の粘度は、8ミリパスカル秒以上30ミリパスカル秒以下であり、
前記ノズル開口の第1部分は、テーパー角度が50度以上の円錐台状の空間を区画することを特徴とする請求項1から5の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記ノズル開口における前記第1部分の長さは、前記第2部分以上の長さを有することを特徴とする請求項1から7の何れか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
ノズル開口に連通する圧力発生室、及び、この圧力発生室の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子を有し、当該圧力発生素子の動作によって前記ノズル開口から液体を吐出可能な液体吐出ヘッドと、
前記圧力発生素子を駆動する駆動パルスを含む一連の駆動信号を発生する駆動信号発生部と、
を備え、
前記ノズル開口が、
液体の吐出側が圧力発生室側よりも小さい開口面積に定められる第1部分と、
前記第1部分の吐出側端部に連通する第2部分とを有する液体吐出装置の制御方法であって、
前記圧力発生室を膨張させてメニスカスを引き込む複数の膨張工程と、
前記膨張工程で膨張した圧力発生室を収縮させるように電圧を変化させて液滴を吐出させる吐出工程とを含み、
前記膨張工程には、第1膨張工程と、前記第1膨張工程とは異なる電圧変化率でメニスカスを引き込む第2膨張工程とを含むことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−20280(P2011−20280A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164901(P2009−164901)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】