説明

液体吐出装置、検査方法およびプログラム

【課題】残留振動に基づいて吐出部を検査する際の誤判定を抑制する。
【解決手段】プリンター10は、インクを吐出可能な状態にある合成対象の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWgと、検査対象の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWとを合成した合成信号PWを検出する検出部290と、検出部290によって検出された合成信号PWに基づいて検査対象の吐出部270を検査する検査部102とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置における複数の吐出部を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出装置の一つであるインクジェットプリンターは、インクを吐出する複数の吐出部を備え、各吐出部では、ノズルに連通するキャビティーにインクが貯留され、キャビティーに設けられた駆動素子の駆動によりノズルからインクが吐出される。このような液体吐出装置の吐出部では、キャビティー内のインクに気泡が混入した場合や、キャビティー内のインクが増粘した場合には、ノズルが目詰まりし、ノズルからのインクの吐出を良好に行うことができなくなるおそれがある。
【0003】
従来、駆動素子の駆動によりキャビティー内のインクに残留する残留振動に基づいて、吐出部におけるノズルの目詰まりを検査する技術が提案されていた(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−289048号公報
【特許文献2】特開2005−305992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、残留振動に応じた検出信号の信号対雑音比(SN比)を十分に得られない状況では、検査の誤判定を招くおそれがあるという問題があった。例えば、吐出部のインクが比較的に粘性の高いものである場合や、インクを吐出させないように比較的に弱い駆動素子の駆動レベルで検査を実施する場合には、SN比を十分に得られないことがあった。
【0006】
本発明は、上記した課題を踏まえ、残留振動に基づいて吐出部を検査する際の誤判定を抑制することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1] 適用例1の液体吐出装置は、キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部と、前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出部と、前記電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査部とを備え、前記検査部は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査することを特徴とする。適用例1の液体吐出装置によれば、検査に用いられる合成信号は、液体を吐出可能な状態を示す残留振動の電気信号との合成によって、検査対象における残留振動の電気信号よりも信号レベルを増幅させた信号であるため、検査の誤判定を抑制することができる。
【0009】
[適用例2] 適用例1の液体吐出装置において、前記検査部は、前記第2の吐出部の検査に先立って、前記検出部によって検出された電気信号に基づいて前記第1の吐出部を特定し、前記第1の吐出部を特定する際に前記第1の吐出部における前記駆動素子を駆動させる駆動信号の印加レベルは、前記第2の吐出部を検査する際に前記第1および第2の吐出部の各々における前記駆動素子を駆動させる駆動信号の印加レベルよりも大きいとしても良い。適用例2の液体吐出装置によれば、第1の吐出部を特定する際の誤判定を抑制することができる。
【0010】
[適用例3] 適用例1または適用例2の液体吐出装置において、前記検査部は、前記第2の吐出部が液体を吐出可能な状態にあると特定した場合、前記第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる第3の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第3の吐出部を検査するとしても良い。適用例3の液体吐出装置によれば、複数の吐出部における駆動負荷の均一化を図ることができる。
【0011】
[適用例4] 適用例1または適用例2の液体吐出装置において、前記検査部は、前記第2の吐出部を検査した後、前記第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる第3の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第3の吐出部を検査するとしても良い。適用例4の液体吐出装置によれば、第2および第3の吐出部を同一条件で検査することができる。
【0012】
[適用例5] 適用例1ないし適用例4のいずれかの液体吐出装置において、前記第1の吐出部と前記第2の吐出部との間には、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる他の吐出部が配置されても良い。適用例5の液体吐出装置によれば、第1および第2の吐出部における各残留振動が相互に影響し合うことを抑制することができる。
【0013】
[適用例6] 適用例1ないし適用例5のいずれかの液体吐出装置において、前記第1および第2の吐出部は同じ種類の液体を吐出しても良い。適用例6の液体吐出装置によれば、異なる種類の液体では残留振動の特性がそれぞれ異なることから、第1および第2の吐出部がそれぞれ異なる種類の液体を吐出する場合と比較して、合成信号を解析するアルゴリズムの複雑化を回避することができる。
【0014】
[適用例7] 適用例7の検査方法は、キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部を検査する検査方法であって、前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出工程と、前記電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査工程とを備え、前記検査工程は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査することを特徴とする。適用例7の検査方法によれば、検査に用いられる合成信号は、液体を吐出可能な状態を示す残留振動の電気信号との合成によって、検査対象における残留振動の電気信号よりも信号レベルを増幅させた信号であるため、検査の誤判定を抑制することができる。
【0015】
[適用例8] 適用例8のプログラムは、キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部を検査する機能をコンピューターに実現させるためのプログラムであって、前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出機能と、前記検出機能によって検出された電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査機能とを実現させ、前記検査機能は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査することを特徴とする。適用例8の検査方法によれば、検査に用いられる合成信号は、液体を吐出可能な状態を示す残留振動の電気信号との合成によって、検査対象における残留振動の電気信号よりも信号レベルを増幅させた信号であるため、検査の誤判定を抑制することができる。
【0016】
本発明の形態は、液体吐出装置、検査方法およびプログラムに限るものではなく、インクジェットプリンターを始めとする液体吐出装置の具体的な形態の他、液体中や気体中に固体が分散した状態の流体を吐出する吐出装置など他の形態に適用することもできる。また、本発明は、前述の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターの構成を示す説明図である。
【図2】ヘッドユニットにおけるヘッドの構造を示す説明図である。
【図3】ヘッドユニットにおけるインク吐出機構を示す説明図である。
【図4】制御部およびヘッドユニットの電気的構成を示す説明図である。
【図5】制御部およびヘッドユニットにおける各種信号の一例を示す説明図である。
【図6】プリンターにおける制御部が実行する検査処理を示すフローチャートである。
【図7】プリンターにおける制御部が実行する検査処理を示すフローチャートである。
【図8】残留振動に応じた電気信号の変化の一例を示す説明図である。
【図9】インクを吐出可能な状態における電気信号および合成信号の一例を示す説明図である。
【図10】二つの電気信号を合成した合成信号の変化の一例を示す説明図である。
【図11】二つの電気信号を合成した合成信号の変化の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以上説明した本発明の構成および作用を一層明らかにするために、以下本発明を適用した液体吐出装置について説明する。
【0019】
A.第1実施例:
A1.プリンターの構成:
図1は、プリンター10の構成を示す説明図である。プリンター10は、液体を吐出する液体吐出装置の一つであるインクジェットプリンターであり、液体としてインクを吐出することによって、文字、図形および画像などのデータを、紙やラベルなどの印刷媒体90に印刷する。プリンター10は、制御部100と、ユーザーインターフェイス180と、通信インターフェイス190と、ヘッドユニット200とを備える。
【0020】
プリンター10のユーザーインターフェイス180は、ディスプレーや操作ボタンを備え、プリンター10のユーザーとの間で情報のやり取りを行う。通信インターフェイス190は、プリンター10と電気的に接続可能なパーソナルコンピューター、デジタルスチルカメラ、メモリーカードなどの外部機器との間で情報のやり取りを行う。プリンター10のヘッドユニット200は、インクを吐出するインク吐出機構を備える。なお、インク吐出機構の詳細については後述する。
【0021】
プリンター10の制御部100は、プリンター10の各部を制御する。例えば、制御部100は、通信インターフェイス190を介して入力されるデータに基づいて、ヘッドユニット200および印刷媒体90を相対的に移動させながら、ヘッドユニット200からインク滴を吐出させる制御を行う。これによって、印刷媒体90に対する印刷が実現される。
【0022】
本実施例では、制御部100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイスなどを備える装置であり、制御部100による各種の機能は、CPUがコンピュータープログラムに基づいて動作することによって実現される。なお、制御部100による機能の少なくとも一部は、制御部100が備える電気回路がその回路構成に基づいて動作することによって実現されても良い。
【0023】
本実施例では、ヘッドユニット200は、キャリッジ210と、インクカートリッジ220と、ヘッド280とを備える。ヘッドユニット200のキャリッジ210は、制御部100とフレキシブルケーブル170を介して接続され、インクカートリッジ220およびヘッド280を搭載した状態で移動可能に構成されている。ヘッドユニット200のインクカートリッジ220は、インクを内部に収容し、そのインクをヘッド280に供給する。本実施例では、インクの色(ブラック、シアン、マゼンタおよびイエロの4色)毎に用意された複数のインクカートリッジ220がキャリッジ210に搭載されている。ヘッドユニット200のヘッド280は、印刷媒体90に対向する部位であり、インクカートリッジ220からヘッド280に供給されたインクは、ヘッド280から印刷媒体90に向けて液滴状に吐出される。
【0024】
本実施例では、プリンター10は、ヘッドユニット200および印刷媒体90を相対的に移動させるために、主走査送り機構および副走査送り機構を備える。プリンター10の主走査送り機構は、キャリッジモーター312および駆動ベルト314を備え、駆動ベルト314を介してキャリッジモーター312の動力をヘッドユニット200に伝達することによって、ヘッドユニット200を主走査方向に往復移動させる。プリンター10の副走査送り機構は、搬送モーター322およびプラテン324を備え、搬送モーター322の動力をプラテン324に伝達することによって、主走査方向に交差する副走査方向に印刷媒体90を搬送する。主走査送り機構のキャリッジモーター312、および副走査送り機構の搬送モーター322は、制御部100からの制御信号に基づいて動作する。
【0025】
本実施例の説明では、ヘッドユニット200を往復移動させる主走査方向に沿った座標軸にX軸を設定し、印刷媒体90を搬送する副走査方向に沿った座標軸にY軸を設定し、重力方向の下方から上方に向かう座標軸にZ軸を設定した。X軸、Y軸およびZ軸は、それぞれ相互に直交する座標軸である。
【0026】
図2は、ヘッドユニット200におけるヘッド280の構造を示す説明図である。図2には、印刷媒体90側から見たヘッド280を図示した。ヘッドユニット200のヘッド280は、インクを吐出する複数のノズル48を備える。本実施例では、インクの色(ブラック、シアン、マゼンタおよびイエロの4色)毎にn個(例えば180個)のノズル48が設けられ、各色のノズル48は、主走査方向(X軸方向)に、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロの順に配置されている。各色のn個のノズル48は、相互に副走査方向(Y軸方向)にずらして配列され、本実施例では、副走査方向(Y軸方向)におけるノズル48同士の間隔を狭めるため、副走査方向(Y軸方向)に沿って二列に分けて交互に配列されている。
【0027】
本実施例の説明では、ヘッドユニット200におけるノズルを総称する場合には符号「48」を用い、ブラックのノズルを特定する場合には符号「48k」、シアンのノズルを特定する場合には符号「48c」、マゼンタのノズルを特定する場合には符号「48m」、イエロのノズルを特定する場合には符号「48y」をそれぞれ使用する。更に、個々のノズルを特定する場合には、ノズル番号を付加した符号を用いる。例えば、図2に示すように、イエロの1番目のノズルには符号「48y(1)」、イエロの2番目のノズルには符号「48y(2)」、イエロの3番目のノズルには符号「48y(3)」、・・・、イエロの(n−1)番目のノズルには符号「48y(n−1)」、イエロのn番目のノズルには符号「48y(n)」を用いる。
【0028】
図3は、ヘッドユニット200におけるインク吐出機構を示す説明図である。図3には、ヘッド280を重力方向(Z軸方向)に沿って切断した断面を図示した。ヘッドユニット200のインク吐出機構は、導入路40と、リザーバー42と、供給口44と、キャビティー46と、ノズル48と、駆動素子66と、振動板67とを備える。
【0029】
インク吐出機構の導入路40およびリザーバー42は、インクの色毎に設けられ、インクカートリッジ220からノズル48へとインクを流す流路の一部を形成する。インクカートリッジ220からヘッドユニット200に供給されたインクは、導入路40を通じてリザーバー42に貯留される。
【0030】
インク吐出機構における供給口44、キャビティー46、駆動素子66および振動板67の各部は、ヘッド280に形成された複数のノズル48の各々に対応して設けられ、ノズル48と共に吐出部270を構成する。つまり、ヘッドユニット200は、ノズル48の数に対応した複数の吐出部270を備える。吐出部270は、駆動素子66の駆動により、キャビティー46内のインクを、キャビティー46に連通するノズル48から吐出する。
【0031】
吐出部270の供給口44およびキャビティー46は、インクカートリッジ220からノズル48へとインクを流す流路の一部を形成する。供給口44は、リザーバー42とキャビティー46との間を連通する流路であり、供給口44を通じてリザーバー42からキャビティー46にインクが供給される。キャビティー46は、ノズル48に連通する流路であり、供給口44およびノズル48よりも十分に大きな流路断面を有し、吐出前のインクを貯留する。
【0032】
吐出部270の駆動素子66は、振動板67を介してキャビティー46に設けられ、吐出部270の振動板67は、キャビティー46における流路壁面の一部を形成する。本実施例では、駆動素子66は、二つの電極662,666の間に圧電体664を積層し電極666側に振動板67を設けたユニモルフ型圧電アクチュエーターであるが、他の実施形態において、積層型圧電アクチュエーターを駆動素子66に適用しても良い。駆動素子66は、駆動信号の印加に基づいて重力方向(Z軸方向)に撓み、振動板67を変位させる。これによって、キャビティー46の容積を拡張してリザーバー42からインクを引き込んだ後、キャビティー46の容積を縮小してノズル48からインク滴を吐出することが可能である。
【0033】
図1の説明に戻り、本実施例では、プリンター10は、ヘッドユニット200のヘッド280をメンテナンスする機構として、ヘッドワイパー330と、ヘッドキャップ340とを備える。プリンター10のヘッドワイパー330は、ヘッド280を拭き取ることによって、ヘッド280に付着したインクを除去する。プリンター10のヘッドキャップ340は、気泡や増粘で劣化したインクによって吐出部270のノズル48が目詰まりした場合に、ヘッド280に取り付き、劣化したインクをノズル48から吸引することによって、インクを適切に吐出可能な状態へと吐出部270を回復させる。
【0034】
図4は、制御部100およびヘッドユニット200の電気的構成を示す説明図である。制御部100は、検査部102を備え、ヘッドユニット200は、シフトレジスター52と、ラッチ回路54と、レベルシフター56と、スイッチ58と、共通電路62,68と、複数のスイッチ64と、検出部290とを備える。
【0035】
ヘッドユニット200のシフトレジスター52は、複数の吐出部270における各駆動素子66の動作を指示する指示データを保持する記憶装置である。制御部100からのシフト入力信号SIには、各駆動素子66に対応する指示データがクロック信号SCKに同期して順次出力され、シフトレジスター52には、シフト入力信号SIおよびクロック信号SCKに基づいて、各駆動素子66に対応する指示データが順次格納される。本実施例では、各駆動素子66に対応する指示データは、2ビットのデータであり、[0,0]、[0,1]、[1,0]、[1,1]のいずれかを示す。
【0036】
ヘッドユニット200のラッチ回路54は、制御部100からのラッチ信号LATに基づいて、シフトレジスター52に格納されている各駆動素子66の指示データを保持し、各指示データに応じた論理信号をレベルシフター56に出力する。ラッチ信号LATは、シフトレジスター52に各駆動素子66の指示データの全てが格納されるタイミングで制御部100から出力される。本実施例では、ラッチ回路54は、[0,0]の指示データに応じてLoレベルの論理信号を出力し、[0,1]の指示データに応じてLoレベルに続いてHiレベルの論理信号を出力し、[1,0]の指示データに応じてHiレベルに続いてLoレベルの論理信号を出力し、[1,1]の指示データに応じてHiレベルの論理信号を出力する。
【0037】
ヘッドユニット200のレベルシフター56は、ラッチ回路54から出力される論理信号に応じて、各駆動素子66に接続された複数のスイッチ64の各々に、各スイッチ64をオン・オフ可能なレベルの電圧を出力する。本実施例では、レベルシフター56は、ラッチ回路54からのLoレベルの論理信号に応じてスイッチ64をオフにするレベルの電圧を出力し、ラッチ回路54からのHiレベルの論理信号に応じてスイッチ64をオンにするレベルの電圧を出力する。
【0038】
ヘッドユニット200における複数のスイッチ64は、共通電路62と各駆動素子66との間の電気的な接続をオン・オフする。ヘッドユニット200の共通電路62には、駆動素子66を駆動する駆動信号COMが制御部100から入力される。スイッチ64によって駆動素子66が共通電路62に電気的に接続されたオン状態では、駆動信号COMが駆動素子66の電極662側に印加され、スイッチ64によって駆動素子66が共通電路62から電気的に切り離されたオフ状態では、駆動信号COMは駆動素子66に印加されない。本実施例では、スイッチ64は、トランスミッションゲートによるアナログスイッチである。
【0039】
ヘッドユニット200のスイッチ58は、各駆動素子66の電極666側に電気的に接続された共通電路68をグランドに接続(接地)する。本実施例では、共通電路68から出力される電気信号HGNDを検出部290が検出する間、スイッチ58は、制御部100から出力される検出実施信号DSELに基づいて、共通電路68をグランドから電気的に切り離す。これによって、検出部290は、共通電路68の電気信号HGNDとグランドとの間の電圧変化に基づいて、各駆動素子66から共通電路68に印加される起電力を効果的に検出することができる。
【0040】
ヘッドユニット200の検出部290は、吐出部270におけるキャビティー46内のインクの振動であって駆動素子66の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号SWを検出する。本実施例では、駆動素子66は、残留振動を感知して残留振動に応じた電気信号SWを出力する感知部として機能し、共通電路68には、残留振動に伴う起電力によって各駆動素子66から出力される電気信号SWが印加される。これによって、検出部290は、共通電路68の電気信号HGNDを検出することによって、残留振動に応じた電気信号を検出することができる。本実施例では、検出部290は、制御部100から出力される検出実施信号DSELに基づいて、共通電路68の電気信号HGNDを検出し、その検出結果を示す検出信号POUTを制御部100に出力する。
【0041】
制御部100の検査部102は、ヘッドユニット200の検出部290によって検出された電気信号に基づいて吐出部270を検査する。本実施例では、検査部102は、ヘッドユニット200の検出部290から出力される検出信号POUTに基づいて、吐出部270の状態としてノズル48の目詰まり(インクの気泡混入および増粘)を検査する。制御部100の動作の詳細については後述する。
【0042】
図5は、制御部100およびヘッドユニット200における各種信号の一例を示す説明図である。図5には、上段から順に、ラッチ信号LAT、切替信号CH、駆動信号COM、および検出実施信号DSELの各時間変化を図示し、その下段に、シフト入力信号SIの指示データに応じて駆動素子66に印加される印加電圧の時間変化を図示した。
【0043】
ラッチ信号LATは、駆動周期TDに応じて立ち上がる論理信号であり、制御部100からラッチ回路54に入力される。駆動周期TDは、各吐出部270における駆動素子66を駆動して印刷媒体90上に1画素を生成する期間に相当する。
【0044】
切替信号CHは、ラッチ信号LATに基づいてヘッドユニット200において生成される信号であり、ラッチ信号LATの立ち上がりから規定時間の経過に応じて立ち上がる論理信号である。ラッチ回路54は、ラッチ信号LATの立ち上がりから切替信号CHの立ち上がりまでの第1期間T1の間、シフトレジスター52から受け取った2ビットの指示データにおける1ビット目に応じた論理信号を出力し、切替信号CHの立ち上がりからラッチ信号LATの次の立ち上がりまでの第2期間T2の間、指示データの2ビット目に応じた論理信号を出力する。
【0045】
駆動信号COMは、駆動周期TDに同期して周期的に出力される電圧信号であり、制御部100から共通電路62およびスイッチ64を通じて駆動素子66に供給される。駆動信号COMは、第1期間T1では、中間電圧Vcを維持した状態から、中間電圧Vcよりも高い電圧V1にまで立ち上がった後、中間電圧Vcよりも低い電圧V2にまで立ち下がり、再び中間電圧Vcになる。その後の第2期間T2では、駆動信号COMは、中間電圧Vcから、中間電圧Vcよりも高い電圧V1にまで立ち上がった後、中間電圧Vcを維持した状態になる。第1期間T1における駆動信号COMは、吐出部270のノズル48からインク滴を吐出させる印加レベルの信号である。第2期間T2における駆動信号COMは、ノズル48からインク滴を吐出させることなく残留振動を発生させる印加レベルの信号である。
【0046】
検出実施信号DSELは、残留振動に基づいて吐出部270を検査する場合に、第2期間T2において駆動信号COMが電圧V1から中間電圧Vcに復帰したタイミングから、第2期間T2が終了する前のタイミングまでの間に立ち下がる論理信号である。検出実施信号DSELが立ち下がると、ヘッドユニット200のスイッチ58は、共通電路68をグランドから電気的に切り離し、ヘッドユニット200の検出部290は、共通電路68の電気信号HGNDを検出する。
【0047】
シフト入力信号SIの指示データが[0,0]の場合、駆動素子66に印加される印加電圧は、駆動周期TDの間、中間電圧Vcを維持した状態となる。これによって、その駆動素子66に対応する吐出部270においてインク滴は吐出されず、残留振動も発生しない。シフト入力信号SIの指示データ[0,0]は、印刷時に画素を形成しない吐出部270や、残留振動に基づいた検査の実施対象ではない吐出部270に対して設定される。
【0048】
シフト入力信号SIの指示データが[0,1]の場合、駆動素子66に印加される印加電圧は、第1期間T1において中間電圧Vcを維持した後、第2期間T2において電圧V1に立ち上がる。これによって、その駆動素子66に対応する吐出部270において、インク滴を吐出することなく残留振動を発生させることができる。シフト入力信号SIの指示データ[0,1]は、画素を形成することなく検査を実施する際に、残留振動に基づいた検査の実施対象となる吐出部270に対して設定される。
【0049】
シフト入力信号SIの指示データが[1,0]の場合、駆動素子66に印加される印加電圧は、第1期間T1において電圧V1および電圧V2に変化した後、第2期間T2において中間電圧Vcを維持した状態となる。これによって、その駆動素子66に対応する吐出部270においてインク滴が吐出される。シフト入力信号SIの指示データ[1,0]は、印刷時に画素を形成する吐出部270に対して設定される。
【0050】
シフト入力信号SIの指示データが[1,1]の場合、駆動素子66に印加される印加電圧は、第1期間T1において電圧V1および電圧V2に変化した後、第2期間T2において電圧V1に変化する。これによって、その駆動素子66に対応する吐出部270において、インク滴を吐出させつつ、吐出部270の検査に適した残留振動を発生させることができる。シフト入力信号SIの指示データ[1,1]は、画素を形成しつつ検査を実施する際に、残留振動に基づいた検査の実施対象となる吐出部270に対して設定される。
【0051】
A2.プリンターの動作:
図6および図7は、プリンター10における制御部100が実行する検査処理(ステップS100)を示すフローチャートである。検査処理(ステップS100)は、ヘッドユニット200における複数の吐出部270を残留振動に基づいて検査する処理である。具体的には、制御部100は、液体を吐出可能な状態(目詰まり無しの状態)にある吐出部270における残留振動の電気信号SWgと、検査対象の吐出部270における残留信号の電気信号SWとを合成した合成信号PWに基づいて、検査対象の吐出部270の状態を検査する。
【0052】
本実施例では、制御部100は、同じ色のインク(同じ種類の液体)を吐出する吐出部270毎に検査処理(ステップS100)を実行する。例えば、制御部100は、ブラックの吐出部270に対して検査処理(ステップS100)を実行した後、シアンの吐出部270、マゼンタの吐出部270、イエロの吐出部270の順に検査処理(ステップS100)をそれぞれ実行する。
【0053】
本実施例では、検査処理(ステップS100)は、制御部100のCPUがコンピュータープログラムに基づいて検査部102として動作することによって実現される。本実施例では、制御部100は、予め設定された時期や、ユーザーからの指示入力に基づいて、検査処理(ステップS100)を開始する。
【0054】
検査処理(ステップS100)を開始すると、制御部100は、第1検査処理(ステップS110)を実行する。第1検査処理(ステップS110)は、合成信号PWに基づく検査に先立って、複数の吐出部270の中から、インクを吐出可能な状態(目詰まり無しの状態)にある吐出部270の一つを特定する処理である。
【0055】
第1検査処理(ステップS110)において、制御部100は、複数の吐出部270の中から検査対象として吐出部270を一つ選定し(ステップS120)、その吐出部270における駆動素子66を駆動する(ステップS130)。
【0056】
具体的には、検査対象である一つの吐出部270に対応するシフト入力信号SIの指示データに[0,1]を設定し、その他の吐出部270に対応するシフト入力信号SIの指示データに[0,0]を設定して、シフト入力信号SIおよびクロック信号SCKと共に、図5に示すように、ラッチ信号LAT、駆動信号COMおよび検出実施信号DSELをヘッドユニット200に出力する。これによって、検査対象の吐出部270における各駆動素子66から残留振動に応じた電気信号SWが共通電路68に印加される。その際に、ヘッドユニット200の検出部290によって検出される共通電路68の電気信号HGNDは、検査対象の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWとなり、検出部290は、その検出結果として電気信号SWを示す検出信号POUTを制御部100に出力する。
【0057】
検査対象の駆動素子66を駆動した後(ステップS130)、制御部100は、ヘッドユニット200の検出部290から出力される検出信号POUTを通じて電気信号SWを取得し(ステップS140)、判定処理(ステップS150)を実行する。判定処理(ステップS150)では、制御部100は、ヘッドユニット200の検出部290によって検出された電気信号SWに基づいて、検査対象である吐出部270の状態としてノズル48の目詰まり(インクの気泡混入および増粘)の有無を判定する。
【0058】
図8は、残留振動に応じた電気信号SWの変化の一例を示す説明図である。図8には、縦軸に電圧、横軸に時間を設定して、電気信号SWg,SWb,SWvを図示した。図8の電気信号SWgは、インクを吐出可能な状態にある単独の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWを示す。
【0059】
ここで、吐出部270における振動板67を想定した単振動の計算モデルに圧力Pを与えた時のステップ応答を体積速度uについて計算すると、次式が得られる。
【0060】
【数1】

【0061】
上記の数式1において、流路抵抗rは、供給口44、キャビティー46およびノズル48などの流路形状やこれら流路におけるインクの粘度に依拠し、イナータンスmは、供給口44、キャビティー46およびノズル48などの流路内におけるインクの質量に依拠し、コンプライアンスcは、振動板67の伸縮性に依拠する。
【0062】
図8の電気信号SWbは、キャビティー46内のインクに気泡が発生したためにインクを吐出できない状態にある単独の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWを示す。キャビティー46内のインクに気泡が発生するとキャビティー46内のインクが少なくなるため、主にイナータンスmが減少する。イナータンスmが減少すると、前述の数式1に示すように、角速度ωが大きくなる。その結果、図8に示すように、電気信号SWbの振動周期は、電気信号SWgよりも短くなる。すなわち、電気信号SWbの振動周波数は、電気信号SWgよりも高くなる。
【0063】
図8の電気信号SWvは、キャビティー46内のインクが増粘したためにインクを吐出できない状態にある単独の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWを示す。キャビティー46内のインクが増粘すると流路抵抗rが増加するため、前述の数式1や図8に示すように、電気信号SWvの減衰量は、電気信号SWgよりも大きくなる。すなわち、電気信号SWvの減衰時間は、電気信号SWgよりも短くなる。
【0064】
図6の説明に戻り、判定処理(ステップS150)において、本実施例では、制御部100は、工場出荷時に設定された基準となる電気信号SWgと、検出部290によって検出された電気信号SWとを比較し、両者の振動周期および減衰量の差異が設定閾値の範囲内である場合には、検査対象の吐出部270がインクを吐出可能な状態(目詰まり無しの状態)にあると判定する。本実施例では、制御部100は、検出部290によって検出された電気信号SWが、図8の電気信号SWbに示すように振動周期の差異が設定閾値を超える場合には、インクに気泡が発生したためにインクを吐出できない状態(気泡による目詰まり状態)と判定し、図8の電気信号SWvに示すように減衰の差異が設定閾値を超える場合には、インクが増粘したためにインクを吐出できない状態(増粘による目詰まり状態)と判定する。
【0065】
判定処理(ステップS150)の後、制御部100は、判定処理(ステップS150)の判定結果を保存する(ステップS160)。その後、制御部100は、判定処理(ステップS150)において検査対象の吐出部270がインクを吐出可能な状態にあると判定されるまで判定処理(ステップS150)を繰り返し実行する(ステップS170:「NO」)。判定処理(ステップS150)において検査対象の吐出部270がインクを吐出可能な状態にあると判定されると(ステップS170:「YES」)、制御部100は、その吐出部270を、合成信号PWに基づく検査に利用可能な合成対象として特定する(ステップS180)。
【0066】
インクを吐出可能な吐出部270を合成対象として特定して(ステップS180)、第1検査処理(ステップS110)を終えた後、制御部100は、第2検査処理(ステップS210)を実行する。第2検査処理(ステップS210)は、合成信号PWに基づいて吐出部270を検査する処理である。
【0067】
第2検査処理(ステップS210)において、制御部100は、複数の吐出部270の中から、状態が未確定である吐出部270の一つを検査対象として選定する(ステップS220)。
【0068】
本実施例では、制御部100は、合成対象の吐出部270と、検査対象の吐出部270との間に他の吐出部270が配置される位置関係で検査対象を選定する。更に、本実施例では、同じ色のインク(同じ種類の液体)を吐出する吐出部270毎に検査処理(ステップS100)を実行するために、制御部100は、合成対象の吐出部270と同じ色のインクを吐出する吐出部270を検査対象として選定する。例えば、図2に示すように、イエロのノズル48y(1)は、ノズル48y(2)およびノズル48y(3)と隣り合うことから、制御部100は、ノズル48y(1)を合成対象に特定した場合、同じイエロであるn個のノズル48yのうちノズル48y(2)およびノズル48y(3)とは異なるノズル48yの一つに対応する吐出部270を検査対象に選定する。
【0069】
検査対象を選定した後(ステップS220)、制御部100は、合成対象として特定された第1の吐出部270における駆動素子66と、検査対象として特定された第2の吐出部270における駆動素子66とをそれぞれ駆動する(ステップS230)。
【0070】
具体的には、制御部100は、合成対象および検査対象の各吐出部270に対応するシフト入力信号SIの指示データに[0,1]を設定し、その他の吐出部270に対応するシフト入力信号SIの指示データに[0,0]を設定して、シフト入力信号SIおよびクロック信号SCKと共に、図5に示すように、ラッチ信号LAT、駆動信号COMおよび検出実施信号DSELをヘッドユニット200に出力する。これによって、合成対象および検査対象の各吐出部270における各駆動素子66から残留振動に応じた電気信号SWが共通電路68に共通して印加される。その際に、ヘッドユニット200の検出部290によって検出される共通電路68の電気信号HGNDは、インクを吐出可能な状態にある合成対象の吐出部270における残留振動の電気信号SWgに、検査対象の吐出部270における残留振動の電気信号SWを合成した合成信号PWとなり、検出部290は、その検出結果として合成信号PWを示す検出信号POUTを制御部100に出力する。
【0071】
合成対象および検査対象の各駆動素子66を駆動した後(ステップS230)、制御部100は、ヘッドユニット200の検出部290から出力される検出信号POUTを通じて合成信号PWを取得し(ステップS240)、判定処理(ステップS250)を実行する。判定処理(ステップS250)では、制御部100は、ヘッドユニット200の検出部290によって検出された合成信号PWに基づいて、検査対象である吐出部270の状態としてノズル48の目詰まり(インクの気泡混入および増粘)の有無を判定する。
【0072】
図9は、インクを吐出可能な状態における電気信号SWgおよび合成信号PWgの一例を示す説明図である。図9には、縦軸に電圧、横軸に時間を設定して、電気信号SWgおよび合成信号PWgを図示した。図9の電気信号SWgは、図8と同様に、インクを吐出可能な状態にある単独の吐出部270における残留振動に応じた電気信号SWを示し、図9の合成信号PWgは、インクを吐出可能な状態における二つの電気信号SWgを合成した合成信号PWを示す。図9に示すように、合成信号PWgは、電気信号SWgの振幅を二倍にした波形であり、電気信号SWgと同等の振動周期および減衰時間となる。
【0073】
図10および図11は、二つの電気信号SWを合成した合成信号PWの変化の一例を示す説明図である。図10には、縦軸に電圧、横軸に時間を設定して、合成信号PWgおよび合成信号PW(g+b)を図示した。図11には、縦軸に電圧、横軸に時間を設定して、合成信号PWgおよび合成信号PW(g+v)を図示した。図10および図11の合成信号PWgは、図9と同様に、インクを吐出可能な状態における二つの電気信号SWgを合成した合成信号PWを示す。
【0074】
図10の合成信号PW(g+b)は、インクを吐出可能な状態における電気信号SWgと、キャビティー46内のインクに気泡が発生したためにインクを吐出できない状態における電気信号SWbとを合成した合成信号PWを示す。インクに気泡が発生した状態の電気信号SWbは、図8で説明したように振動周期が短くなるため、図10に示すように、合成信号PW(g+b)は、合成信号PWgと比較して、振動周期が短くなると共に減衰量も大きくなる。
【0075】
図11の合成信号PW(g+v)は、インクを吐出可能な状態における電気信号SWgと、キャビティー46内のインクが増粘したためにインクを吐出できない状態における電気信号SWvとを合成した合成信号PWを示す。インクが増粘した状態の電気信号SWvは、図8で説明したように減衰量が大きくなるため、図11に示すように、合成信号PW(g+v)は、合成信号PWgと振動周期は同じであるが、減衰量が大きくなる。
【0076】
図7の説明に戻り、判定処理(ステップS250)において、本実施例では、制御部100は、工場出荷時に設定された基準となる合成信号PWgと、検出部290によって検出された合成信号PWとを比較し、両者の振動周期および減衰量の差異が設定閾値の範囲内である場合には、検査対象である吐出部270がインクを吐出可能な状態(目詰まり無しの状態)にあると判定する。本実施例では、制御部100は、検出部290によって検出された合成信号PWが図10の電気信号PW(g+b)に示すように振動周期の差異が設定閾値を超える場合には、インクに気泡が発生したためにインクを吐出できない状態(気泡による目詰まり状態)と判定し、図11の電気信号PW(g+v)に示すように減衰の差異が設定閾値を超える場合には、インクが増粘したためにインクを吐出できない状態(増粘による目詰まり状態)と判定する。
【0077】
判定処理(ステップS250)の後、制御部100は、判定処理(ステップS250)の判定結果を保存する(ステップS260)。その後、制御部100は、判定処理(ステップS250)において検査対象の吐出部270がインクを吐出可能な状態にあると判定した場合には(ステップS270:「YES」)、その検査対象の吐出部270を、新たな合成対象として特定し(ステップS280)、目詰まり状態と判定した場合には合成対象の吐出部270を更新しない(ステップS270:「NO」)。
【0078】
その後、制御部100は、検査対象である吐出部270の全てを検査するまで判定処理(ステップS250)を繰り返し実行する(ステップS290:「NO」)。検査対象である吐出部270の全てについて検査を終えると(ステップS290:「YES」)、制御部100は、第2検査処理(ステップS210)の終了に合わせて検査処理(ステップS100)を終了する。本実施例では、検査処理(ステップS100)の検査結果に応じて、制御部100は、ヘッドキャップ340を用いてヘッドユニット200をメンテナンスする処理を実行する。
【0079】
A3.効果:
以上説明した第1実施例のプリンター10によれば、第2検査処理(ステップS210)における判定処理(ステップS250)に用いられる合成信号PWは、インクを吐出可能な状態を示す残留振動の電気信号SWgとの合成によって、検査対象における残留振動の電気信号SWよりも信号レベルを増幅させた信号であるため、検査の誤判定を抑制することができる。
【0080】
また、合成信号PWに基づいて吐出部270を検査する第2検査処理(ステップS210)において、インクを吐出可能な状態にあると判定された吐出部270を、新たな合成対象として特定するため、複数の吐出部270における駆動負荷の均一化を図ることができる。
【0081】
また、第2検査処理(ステップS210)において、合成対象の吐出部270と、検査対象の吐出部270との間に他の吐出部270が配置される位置関係で検査対象を選定するため(ステップS220)、合成対象の吐出部270における残留振動と検査対象の吐出部270における残留振動とがリザーバー42を通じて相互に影響し合うことを抑制することができる。
【0082】
また、同じ色のインクを吐出する吐出部270毎に検査処理(ステップS100)を実行するため、異なる種類のインクでは残留振動の特性がそれぞれ異なることから、それぞれ異なる色のインクを吐出する二つの吐出部270を合成対象と検査対象とに設定する場合と比較して、合成信号PWを解析するアルゴリズムの複雑化を回避することができる。
【0083】
また、各駆動素子66から出力される残留振動に応じた電気信号SWが共通電路68に共通して印加されるため、ヘッドユニット200の検出部290によって合成信号PWを容易に検出することができる。
【0084】
B.その他の実施形態:
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において様々な形態で実施し得ることは勿論である。
【0085】
例えば、上述の実施例では、吐出部270における残留振動を感知する感知部として駆動素子66を利用したが、他の実施形態において、駆動素子66とは別に、残留振動を感知する専用のセンサーを適用しても良い。
【0086】
また、上述の実施例では、インク滴を吐出させることなく残留振動を発生させる印加レベルで駆動素子66を駆動させて検査処理(ステップS100)を実施したが、他の実施形態において、インク滴を吐出させる印加レベルで駆動素子66を駆動させて検査処理(ステップS100)を実施しても良い。
【0087】
また、上述の実施例では、印刷媒体90に対する印刷とは異なるタイミングで検査処理(ステップS100)を実施したが、他の実施形態において、印刷媒体90に対する印刷を実行中に、残留振動に応じた電気信号SWおよび合成信号PWに基づいて吐出部270を検査しても良い。
【0088】
また、上述の実施例では、合成対象の吐出部270を特定する第1検査処理(ステップS110)と、合成信号PWに基づいて吐出部270を検査する第2検査処理(ステップS210)との双方において、各吐出部70における駆動素子を駆動させる駆動信号の印加レベルは同じであったが、他の実施形態において、第1検査処理(ステップS110)における駆動信号の印加レベルを、第2検査処理(ステップS210)における駆動振動の印加レベルよりも大きくしても良い。これによって、合成対象の吐出部270を特定する際の誤判定を抑制することができる。
【0089】
また、上述の実施例では、合成信号PWに基づいて吐出部270を検査する第2検査処理(ステップS210)において、インクを吐出可能な状態にあると判定された吐出部270を、新たな合成対象として特定したが、他の実施形態において、第2検査処理(ステップS210)において合成対象を更新することなく、第1検査処理(ステップS110)で特定された吐出部270を合成対象として継続して用いても良い。これによって、第2検査処理(ステップS210)で検査対象となる複数の吐出部270を同一条件で検査することができる。
【0090】
また、上述の実施例では、第2検査処理(ステップS210)において、合成対象の吐出部270と、検査対象の吐出部270との間に他の吐出部270が配置される位置関係で検査対象を選定したが(ステップS220)、他の実施形態において、合成対象の吐出部270と検査対象の吐出部270とが隣り合うように検査対象の組を設定しても良い。また、上述の実施例では、同じ色のインクを吐出する吐出部270毎に検査処理(ステップS100)を実行したが、他の実施形態において、異なる色のインク(異なる種類の液体)を吐出する二つの吐出部270を合成対象および検査対象として設定しても良い。
【0091】
また、上述の実施例では、共通電路68の電気信号HGNDに基づいて合成信号PWを検出したが、他の実施形態において、合成対象の吐出部270と検査対象の吐出部270との各残留振動に応じた複数の電気信号SWを個別に検出した後、これら検出された各電気信号SWを示すデータに基づいて合成信号PWを事後的に計算しても良い。
【0092】
上述した実施例では、液体吐出装置の一例として、インクを吐出するインクジェットプリンターについて説明したが、本発明の液体吐出装置が吐出する液体は、インクに限るものではなく、各種の液体の他、液体中や気体中に固体が分散した状態の流体であっても良い。例えば、本発明は、インクジェット方式のプリンターに限るものではなく、他の方式のプリンターに適用することもできる。また、液晶ディスプレー、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレー、および面発光ディスプレー(Field Emission Display、FED)等の製造に用いられ、電極材や色材などの材料を分散や溶解の状態で含む液状体を吐出する吐出装置に適用することもできる。また、バイオチップの製造に用いられ、生体有機物を含有する液体を吐出する吐出装置に適用することもできる。また、精密ピペットとして用いられ、試料となる液体を吐出する吐出装置に適用することもできる。また、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を吐出する吐出装置や、光通信素子に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)を形成するために紫外線硬化性樹脂を始めとする透明樹脂液を吐出する吐出装置に適用することもできる。また、ウェハーをエッチングするためのエッチング液を吐出する吐出装置や、トナーを始めとする粉体を吐出する吐出装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0093】
10…プリンター
40…導入路
42…リザーバー
44…供給口
46…キャビティー
48,48k,48c,48m,48y…ノズル
52…シフトレジスター
54…ラッチ回路
56…レベルシフター
58,58a,58b…スイッチ
62…共通電路
64…スイッチ
66…駆動素子
67…振動板
68,68a,68b…共通電路
90…印刷媒体
100…制御部
102…検査部
170…フレキシブルケーブル
180…ユーザーインターフェイス
190…通信インターフェイス
200…ヘッドユニット
210…キャリッジ
220…インクカートリッジ
270…吐出部
280…ヘッド
290,290a,290b…検出部
312…キャリッジモーター
314…駆動ベルト
322…搬送モーター
324…プラテン
330…ヘッドワイパー
340…ヘッドキャップ
662…電極
664…圧電体
666…電極
SW…電気信号
PW…合成信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部と、
前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出部と、
前記電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査部と
を備え、
前記検査部は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査する、液体吐出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出装置であって、
前記検査部は、前記第2の吐出部の検査に先立って、前記検出部によって検出された電気信号に基づいて前記第1の吐出部を特定し、
前記第1の吐出部を特定する際に前記第1の吐出部における前記駆動素子を駆動させる駆動信号の印加レベルは、前記第2の吐出部を検査する際に前記第1および第2の吐出部の各々における前記駆動素子を駆動させる駆動信号の印加レベルよりも大きい、液体吐出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記検査部は、前記第2の吐出部が液体を吐出可能な状態にあると特定した場合、前記第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる第3の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第3の吐出部を検査する、液体吐出装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の液体吐出装置であって、
前記検査部は、前記第2の吐出部を検査した後、前記第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる第3の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第3の吐出部を検査する、液体吐出装置。
【請求項5】
前記第1の吐出部と前記第2の吐出部との間には、前記複数の吐出部のうち前記第1および第2の吐出部とは異なる他の吐出部が配置される、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記第1および第2の吐出部は同じ種類の液体を吐出する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部を検査する検査方法であって、
前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出工程と、
前記電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査工程と
を備え、
前記検査工程は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査する、検査方法。
【請求項8】
キャビティーに連通するノズルから前記キャビティー内の液体を駆動素子の駆動により吐出する複数の吐出部を検査する機能をコンピューターに実現させるためのプログラムであって、
前記キャビティー内の液体の振動であって前記駆動素子の駆動により残留する残留振動に応じた電気信号を検出する検出機能と、
前記検出機能によって検出された電気信号に基づいて前記吐出部を検査する検査機能と
を実現させ、
前記検査機能は、前記複数の吐出部のうち液体を吐出可能な状態にある第1の吐出部における残留振動に応じた電気信号と、前記複数の吐出部のうち前記第1の吐出部とは異なる第2の吐出部における残留振動に応じた電気信号とを合成した合成信号に基づいて、前記第2の吐出部を検査する、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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